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関田涙(作)・間宮彩智(絵)『マジカルストーンを探せ!―月の降る島』~講談社青い鳥文庫、2006年~ 関田涙さんの、青い鳥文庫からは初の作品です。 こんなお話でした。 ある日見ていた夢の中、私こと朝丘日向は「マジカルストーン」に出会います。夢に現れたピエールさんと、いつも寝てばかりのバクのハツが、マジカルストーンについて解説してくれました。それは、人間に夢を見させてくれる力のある石。全部で七つあるのですが、日向が授かった日の石と月の石しか見つかっていないそうです。ところが、その月の石が夢の世界から盗まれてしまい、現実の世界に落ちてしまった。石がなくては、人間は夢を見ることができなくなってしまう。日の石の力を借りながら、月の石を探してほしい―というのでした。 翌朝、日向のクラスで事件が起こります。遠足の写真をクラスに掲示していたのですが、日向の判の模造紙から、写真がはがされ、その写真はばらばらにされていたのです。その事件を解決するのは、その日やってきた転校生、宵宮月乃でした。 日向はその日、三日月形のペンダントが流行っていることを知ります。三日月島というところで、空から降ってきたという「本物の」三日月石の争奪戦があるということを知り、興味を抱いていたところ、月乃が参加資格を持っていたのでした。二人で参加できることから、日向と月乃は三日月島へ向かい、三日月石争奪戦に参加します。 宝探しにクイズと、次々と勝負が進んでいきます。月の石を盗んだという怪盗ヴォックスは誰なのか。日向はそのことも気にしながら、問題に挑みます。 面白かったです。最初の写真の事件もそうですが、推理ものの要素がけっこうわくわくしました。あえて分類すれば日常の謎や、争奪戦ではクイズですが、やっぱり謎解きは面白いです。 日の石が日向さんに示すヒントも面白かったですね。バクのハツは口が悪いです。だけど日向さんを見守る姿は意外と健気…? 温かい話で良かったです。
2006.10.29
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法月綸太郎『頼子のために』~講談社文庫、1993年~ 文庫版あとがきによれば、この作品から新刊を出すのにどんどん時間がかかるようになったということです。法月さんにとって「転機」となった作品というんですね。 以下、いつものように内容紹介と感想を。 西村教授の手記―。西村悠史の手記は、8月22日からはじまる。前日、17歳の娘頼子が帰ってこなかった。朝まで待ったら警察に届けを出そうと思っていた。その矢先、警察から電話がかかってきた。頼子と思われる遺体が発見されたというのだ。 その後、警察は調査が進むと死因などを報告してきた。しかし、なにか隠しているようだ。頼子の部屋を整理していると、産婦人科の診察券を見つけた。病院に確認してみると、頼子が妊娠していたことが分かった。 妊娠の事実を隠していた警察は信用できない。頼子は名門女子高校に通っており、スキャンダルをおそれた高校理事長(その兄は代議士)から圧力がかかっているだろうから。悠史は事件を独自に調査し始めた。そこで、頼子と元担任―柊の仲が良かったことを知る。調べを進めるうちに、柊が頼子のおなかの中の子供の父親で、また頼子を殺した犯人だと確信が強まっていく。悠史は、柊を殺し、自殺を図ることを決める。 14年前に事故で不自由な体になった妻への愛情は間違いないものであったが…。 * 柊を殺し、西村悠史は自殺を図った。しかし、一命はとりとめる。 柊の事件がスキャンダルになることを恐れ、学校側は動き始めた。法月綸太郎に再調査をさせることで、一般大衆には、その事件に裏があると思わせようとしたのだった。綸太郎は気乗りしていなかったが、悠史の手記を読んで、捜査に乗り出すことを決意した。この事件が、それほど単純なものではないと感じたのである。 学校側の代議士と、対立する代議士。その男が、悠史と間接的な関連があるなど、事件の背景に見え隠れする政治的問題。手記に認められた若干の違和感。西村悠史の人間像。西村頼子の人間像。調査を進める中で、綸太郎は事件の真相に至る。 いたたまれないラストです。以下ネタばれなので、文字色を変えますね。あ、お父さんだ、とはしゃいだ子ども。子どもは道路に飛び出し、やってきた車は急ブレーキ。母親は子どもをかばい、大けがをする。そして父親は、妻を傷つけるきっかけになった子どもを憎み続ける… そして父親は、ずっと子どもが飛び出した理由に思い至らなかった(ここまで)。 数年ぶりの再読になりますが、正直あまり印象に残っていませんでした。当時(最初に読んだとき)は派手なトリックが好きだったのでしょうね。たしかにこの作品は、殺人事件自体は一件だけだし、大がかりなトリックもない。ミステリとしては、地味な方かもしれません。けれど、冒頭の手記の矛盾点を暴きながら推理を進める過程はきれいで、トリックは派手でも内容のないミステリよりははるかに面白いです。 また、本作では、前作『誰彼(たそがれ)』のように、法月さんの推理が新事実でころころ変わってそれを口にするようなこともなく、読みやすかったです(それは、新事実が分かれば考えが変わることはあるでしょうが、『誰彼』の法月さんはちょっとあんまりでした)。 本作でも、法月さんの行動のいくつかは決してほめられたものではないかもしれません。読後感も良いとはいえません。けれど、物語としてはとても面白かったです。ーーー読書感想とは関係ないですが、少し日記じみたことを。昨日、久々に風邪をひいてしまったようで、今日は一日自宅でゆっくりすることにしました。今日の最初の記事に書いた筒井康隆さん『にぎやかな未来』は、本当は昨日読了していたのですが、うっかりして、昨日の記事に書かずに今日の記事のままにしてしまいました。風邪はずいぶん落ち着いたので、明日からまた勉強をがんばろうと思います。
2006.10.21
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若竹七海『サンタクロースのせいにしよう』~集英社文庫、1999年~ 七編の短編からなる連作短編集です。いわゆる日常の謎ミステリですが、そういうジャンルには収まらないような物語も中にはありました。 失恋して、気分を変えるのに引っ越しでもしようと考えていたわたしこと岡村柊子さん。そんな彼女に、友人の彦坂夏見さんから電話がかかってきます。変わり者の友人、松江銀子が同居人を探している、という内容で、わたしは銀子さんの性格についてろくに話も聞かず、引っ越しを決めてしまうのでした。 銀子さんは、俳優で監督、さらにエッセイストとして有名な松江丈太郎の娘です。彼女の過去の不幸な事件(影が現れると家族が死ぬ、という話で、彼女のお姉さんも亡くなっていました。第一話「あなただけを見つめてる」)を聞いたり、玄関にはおばあさんの幽霊が出たりと、初日から不思議な体験の連続です。 近所のゴミ出しにうるさいおばさんが死体を見たといって大騒ぎする事件(第二話「サンタクロースのせいにしよう」)や、銀子さんが聞いたという、庭のチューリップを球根ごと抜き取られていた庭の話(第三話「死を言うなかれ」)。チューリップの事件では、銀子さんの腹違いのお兄さんにあたる曽我竜郎さんが活躍します。また、コンクリートに足跡がついている、という話から玄関の幽霊の正体を探るところまで発展したり(第四話「犬の足跡」)と不思議な事件(?)はたえないわたしですが、銀子さんの妹が自殺してしまう事件では、銀子さんの面倒やマスコミとの対応などにおわれ、会社を首になってしまいます(第五話「虚構通信」)。銀子さんと二人で台湾に行ったときは、非常識で身勝手な銀子さんに対して強い怒りを感じたり(第六話「空飛ぶマコト」)。 そして、銀子さんのお父さんが倒れてしまい、二人は同居生活を終えることにします。銀子さんは、それまでに家事を教えて欲しいというのですが、それはひどい有様でわたしは何度も激怒しそうになります。その頃、個人的にもいろいろへこんでいたわたしは、夏見さんと竜郎さんと一緒に遊びに行きますが、夏見さん・竜郎さんの大げんかにへこまされ、さらには誰かに竜郎さんのビデオが壊され、ひどく険悪なことになります(第七話「子どものけんか」)。 割と余韻を残す話が多く、面白く読みましたが、やはり胸の痛むような話も多かったです。
2006.10.21
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筒井康隆『にぎやかな未来』~角川文庫、1972年初版(1979年26版)~ 41編のショートショートが収録されています。中には1頁だけの作品もあり、さくさく読み進みました。以下、いくつか印象に残った作品について感想を。 解説の星新一さんによれば、「お助け」という作品が筒井さんの商業誌第一作とのこと。これは面白いと思いながら読みましたが、そんな背景があったのですね。子供の頃から道徳観に乏しかった男が、宇宙航空士となり、厳しい訓練を受けます。最初の試験でも、その過酷さに耐えることができたのは彼だけだったのですね。ところが彼は、世界に違和感を抱いてきます。自分以外の時間の進み方が遅くなっているように感じるのです。 これを読んでいて、ジョジョの世界を連想しました。とくに、第六部・プッチ神父のラストの方と、第五部・ジョルノ対ブチャラティ編などをです。そう考えると、筒井さんの作品は発表されたのはずいぶん前ですが、発想はいまでも新鮮に感じられるのだな、と思いました。 さて、この作品集の中には、マスコミ批判をうかがえる作品がいくつかあり、面白く読みました。「幸福ですか?」は、「幸福ですか?」という質問に対してゆっくり答えようとすると、質問者が回答者を相手にしようとせず、あるいは怒り出す、という話。痛烈な皮肉が快かったです。「地下鉄の笑い」も、最初はマスコミ批判とまでは言えませんが、考えなしに他人に同調することの滑稽さとでもいいましょうか。地下鉄の車内につられた抽象的な模様の描かれた広告を見て爆笑する男。その笑いが、どんどん広がっていく、という話です。「亭主調理法」も面白かったです。ラストが無茶苦茶で、笑えました。 先に挙げた「お助け」もそうですが、いわゆる(狭義の?)SFと聞いて連想するような作品がけっこうあります。私はどちらかといえば「SFは読みません」という立場でしたが、案外面白いなぁ、と思いました。
2006.10.21
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筒井康隆『笑うな』~新潮文庫、1980年~ 34編のショートショートが収録されています。先日生協で古本50円セールをしていて買ったのですが、ショートショートは眠る前にいくつか読めるのでよいですね。 印象深かった作品をいくつか紹介しましょう。 表題作「笑うな」は、タイムマシンを作ったという友人とともに、そのタイムマシンで友人がその話をおれにした場面に戻るという話。面白く読んでいたのですが、タイトルのせいもあるのか、笑いがときとして怖いものでもあるせいか、読後感がそんなによくはなかったです。それにしても、なぜこのタイトルを本の表題に選んだのでしょう。 裏表紙にも紹介がありますが、「傷ついたのは誰の心」も印象的でした。帰宅すると、妻が警官に乱暴(?)されていた、という話ですが、「傷ついたのは誰の心」なのかというタイトルがすごくしっくりくる作品です。ですます調で語られているのも印象的ですね。 それから、「ある罪悪感」。上司の課長に不満を抱いていた係長は、あるとき総務部部長にその不満をぶちまけます。そうして話が進んでいくのですが、節目節目で係長は奇妙な癖に襲われてしまうんですね。これも、「ある罪悪感」というタイトルが深みを出しているように感じました。「駝鳥」という話も印象的です。旅人が駝鳥と旅をしているのですが、旅人は食料が尽きてくると少しずつ駝鳥を食べます。しかし駝鳥は最後まで着いてくる、というお話でした。重たいラストですね。 と、割と読後感のよくない話が多いわけですが、この中で心温まったのが「座敷ぼっこ」というお話です。女子高校生の中にまぎれこんだ座敷ぼっこと先生のやりとりが中心ですが、このラストは感動的でした。 というんで、全体的に面白かったです。
2006.10.19
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筒井康隆『農協 月へ行く』~角川文庫、1979年初版(1997年53版)~ 七編の短編が収録された短編集です。以下、それぞれの内容紹介と感想を。「農協 月へ行く」 大金持ちの農協組合員たちが、月へ行くことにした。船長の浜口は度重なる月旅行、客たちとのトラブルで抑鬱状態になっていたが、観光部長の命で、農協さんたちを月へ連れて行かざるをえなかった。乗り組み時から、農協さんたちのふるまいはひどく、宇宙船内でも月面に到着してからもそのふるまいはとどまることを知らなかった。そして彼らは、異星人と遭遇する。 1節で、農協さんの何人かが描写されますが、金持ちぶりと言葉などのギャップが違和感を生みます。笑えそうなのに笑えない、ぎこちない感覚を覚えました。2節での浜口さんの罵詈雑言は痛快ですね。旅行評論家との口論も痛快です(このあたりになると不快感も感じますが…)。チックなどの症状におそわれながらも、農協さんたちを月へ連れて行く浜口さん。農協さんたちは船内でも手鼻をかんだりと、とんでもない描写が続きます。アメリカのお偉いさんたちが、農協を月へ連れて行ったことを嘆くシーンも、なんというか壮絶です。ものすごいテンションでした。「日本以外全部沈没」 地球温暖化のため、北極と南極の氷が溶け、海面が上昇。しかし、地盤の動きのため、日本だけは沈没を免れた。外国人たちは日本に逃げてくるが、国家の元首レベルの人々も、日本人に頭があがらない状況ができていた。 小松左京さんの『日本沈没』のパロディということですが、私は原作は読んでいません。国家の元首レベルの人々のことは多少予備知識があるので面白く読めましたが、俳優さんたちのことはよく知らないので、面白さがよく分からない部分もありました。この作品も壮絶といえば壮絶ですね。笑えるところもあるのに、全体としてうまく笑えない、というか。「経理課長の放送」 無限放送の労働組合がストライキを起こしたため、重役たちがなんとか放送をしなければならなくなった。アナウンサーの役目を務めるのは経理課長の馬津だが、テープ係の不手際が多かったり、原稿がぐちゃぐちゃだったりと、放送はぐだぐだになってしまう。重役の命令で歌えば苦情が殺到、ついに吹っ切れた経理課長は悪態をつきはじめる。 馬津さんのラジオ放送の形式で書かれています。重役たちの慌てっぷりが露骨にうかがえるドタバタものですね。労組にも入れず、重役の中では下っ端の経理課長の板挟みっぷりが気の毒になります。すごい風刺ですね。「信仰性遅感症」 全てのことに欲望が強かった父親への反抗から、洗礼を受けた鮎子。学園の教師となった彼女は、味覚を感じなくなっていた。そのことをシスター・中井に話した。中井は、なんにでも興味をもつようなタイプで、鮎子とは対照的だった。彼女と話をした後、鮎子は口の中に味覚を感じた。昨夜の夕食―17時間前に食べた料理の味が、口の中に広がったのである。 そして、彼女のことをつけねらっていた男が彼女の寮の部屋に入り込み、彼女を襲い、その後は大体予想していた通りに話が続きましたが、鮎子さんを襲った人間ももちろんですが、ファーザーもとんでもない人間です。ファーザーは賭け事が大好きで、競馬に失敗すると神を罵ります。ラストもとんでもないですしね。ファーザーは馬鹿げた言葉を口走りますが、気持ち悪さが残ります。「自殺悲願」 本があまり売れていない作家、田川が編集者の桜井を訪れた。桜井が、自殺した結果本がますます売れるようになった作家の話をしたこともあり、田川は自殺を考える。自殺すれば出版部数は増えるかと桜井に迫り、重版をしてもらったものの、本が売れないと桜井から苦情がきて、田川はますます自殺を考え、何度も自殺をはかるが、ことごとく失敗した。 田川さんがとことん惨めに描かれています。最後の最後まで悲惨です。 「ホルモン」 これは、いつものような内容紹介は無理です。19世紀末から、ホルモンに関する(とりわけ、その強壮剤としての効果に関する)研究や言説を時系列に並べ、研究の発展について各国間で非難しあい、性ホルモンの利用のために事故が起こったりする様が描かれます。最初の方は、犬の睾丸が若返りに効くという報告がなされ、パリの各地で犬が殺されるという話があります。女性や馬の尿から性ホルモンを作るだの、ホルモン剤の過剰投与のせいでバセドー氏病になるだの…。各国の新聞や、医学界の会報などを引用する形で構成されています。「村井長庵」 江戸で殺人を犯した村井長庵を、弟子の東沢は故郷に近い島にかくまった。しかし、島でも長庵は好き勝手に振る舞う。一度は島の若者に非難されたことを受け、本土に戻ったが、そこでも悪行を重ねたため、あらためて島に戻る。しかし今度は、島でもさらに容赦なく悪行を重ねた。 ちょっと調べてみたのですが、村井長庵というのは講談や歌舞伎に登場する極悪医師のようですね。本作でも、それはえげつない描写があります。村井長庵の台詞で、「後の世でいうならさしずめマスコミ御用医者」とか、「医師免許規則ができるのは明治28年、今はまだ偽医者などはおらん」などと、メタな言葉もあります。妙な世界ですね。この作品も、壮絶です。ーーー 全体を通して。それなりに面白いと感じながら読んだつもりですが、感想を書こうと思うと、気持ち悪さなどが先にくる気がします。痛快な部分もあるのですが、風刺が強すぎるというか。そうとう癖のある作品でした。 解説が興味深かったです。
2006.10.14
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ときどき、無性に古本屋に行きたくなる(そしてなにかしら買いたくなる)ことがありますが、今日もそうでした。今月は新刊をあと数冊買うつもりなのですが…。とまれ、筒井康隆さんの『農協 月へ行く』と、若竹七海さんの『サンタクロースのせいにしよう』の二冊を買いました。前者はともかく、後者も105円で手に入って嬉しかったです。最近、やたらと若竹さんの本が読みたいと思っているのでした。著作がけっこうあるので、なかなかすぐにはいきませんが。筒井さんのは、『エディプスの恋人』の感想を書いたときに、Rokoさんに紹介していただいていたのでした。ずいぶん時間が経ちましたが、ようやく入手です。また読みたいと思います。あ、「日本以外全部沈没」も収録されていますね。映画化されて話題になっているらしい小松左京さんの『日本沈没』よりもむしろ気になっていたのでした。楽しみです。
2006.10.09
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高田崇史『QED~ventus~御霊将門』~講談社ノベルス、2006年~ 話の流れで、棚旗奈々・佐織姉妹は、桑原崇とともにお花見に出かけることになった。靖国神社から見えた筑土神社が、平将門と関わる場所だったこともあり、そこから三人のお出かけは(崇に導かれて)将門ゆかりの史跡めぐりとなった。初日に東京にある将門関連の神社などは回ったが、翌日はさらに茨城県に―さらには千葉県にまで足をのばすことになる。 怨霊として認識されている将門のイメージを、崇は覆していく。 * 一方、同じ頃、千葉で就職していた神山禮子は、珍しく外出した。人混みが嫌いではあるが、成田山をぶらぶらしてみようと思ったのである。 彼女をつけ狙う男が、一人。 『熊野の残照』の記事を読み返したのですが、その作品でも殺人事件は起きてなかったみたいです。今回も殺人事件は起こりません。次作でなにか起こりそうな予感ですが…。 QEDシリーズの感想の記事を書くときはしばしば書いているみたいですが(書いた本人覚えていません)、私は日本史に詳しくありません。平将門のことも、中学高校で習った知識しかないですし、というかそれすら覚えていないのでそれ以下ですね。残念です。 とはいえ、面白く読めたのですが、途中からもう分からなくなりました。厳密には分かろうとする努力を怠った、というべきでしょうけれど、やっぱりある程度予備知識がないとしんどいですね。 個人的には、最近新書で靖国問題を扱った本を読み始めたこともあり、靖国神社に関する言及があったのが面白かったです。 神山さんと男が出てくるシーンは、おまけみたいなものですね。ですが、そのおかげで、読みやすかった気もします。QEDシリーズの殺人事件はとってつけたようなもの、という思いもありましたが、桑原さん他数名だけの旅行・歴史の謎解き話というのもしんどいな、と感じました(勝手なものです…)。
2006.10.09
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法月綸太郎『誰彼(たそがれ)』~講談社文庫、1992年~ 初めて本書を読んだのは、7、8年くらい前のことだと思います。まったく覚えていませんでした。今日は坂木さんの本を読んだあともどうも具合が悪く、結局本書を再読してみようと思いました。いつものように内容紹介と感想を。 法月綸太郎に一本の電話がかかってきた。新興宗教団体「汎エーテル教団」の教祖(メンター)の秘書である山岸裕美からだった。綸太郎は、彼女とは妙な縁で顔見知りだった。 彼女の相談は、こういうことだった。メンターである甲斐辰朗に、脅迫状が届いたという。メンター自身が綸太郎を探偵として指名し、脅迫状を送りつけてきた犯人を指摘してほしいと言うのだ。 脅迫状は、五通。そこからは、メンターの養子問題を知っていること、また綸太郎が探偵として雇われたことを制作者が知っていることがうかがえた。そして、メンターの首を切って殺害するということもほのめかされていた。 * 同じ頃。安部兼等と名乗る人物のアパートの一室で、首なし死体が見つかった。兼等と名乗る男が六日おきに三日間をともに過ごしていた、フィリピンからの不法滞在者セレニータが第一発見者であった。 事件の捜査に法月警視も加わっていた。後に綸太郎がこの事件を聞くと、被害者とメンターの身体的特徴が酷似していることが分かった。 * 法月は、メンターの殺害を阻止するよう雇われていたにもかかわらず、事件の知らせを受け、失敗したことに気付いた。しかし、メンターは教団のシンボルであった<塔>の最上階にこもり、抜け出せなかったはず―。ただ、メンターの失踪については間もなく解決する。 その後事件の様相は、被害者の身元についてなど、二転三転する。 たとえば、京極堂さんはデータが足りないうちは何も語ろうとしません。御手洗潔さんもそうですね。金田一先生もなかなか話そうとしない方だったと思います(久しく横溝さんの作品を読んでないです…)。とまれ、法月さんは見事に対極にいる気がしました。ちょっと事実が分かればそれに基づいて事件を再構成し、その事実(と思われたこと)にほころびが生じるとまた事件を再構成し…。 同様のニュアンスのことを法月警視も指摘しています。「おまえがしゃべっていることは、何ひとつ裏付けがないぞ。おまえは可能性という名のおもちゃを弄んでいるだけだ」「おまえは犯人の撒いた餌に飛びついて、向こうの思い通りに鼻づらを引き回されているらしい」(307頁)。まったくですね。 とつぜん耳が聞こえなくなった男。人工内耳埋め込み手術が奇跡的に成功し、彼はやがて神の声を聞くようになります。被害者は、そのメンターのようです。しかし、その人工内耳を隠すために遺体は首を切られたのか、ないことを隠すために首を切られたのか、とにかく議論はあっちいったりこっちいったりです。むー…。 この頃は、まだ法月さんがあまり悩んでいないんだな、と思いました。彼がすごく悩むようになるのは、また後の事件だったでしょうか。いずれ他の作品も読み返すつもりです。
2006.10.07
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坂木司『シンデレラ・ティース』~光文社、2006年~ 坂木司さんの、五番目の著作です。新シリーズ(?)です。 主人公は、幼児体験が原因で歯医者が大嫌いな大学二年生、叶咲子さん。夏休みのバイトを探していた咲子さんは、母親から割と好条件のバイト先を紹介されます。メモをもとにバイト先を訪れると、そこは歯医者でした。はめられた、帰ろうと思った彼女を呼ぶ声がします。彼女の叔父さんが、そこに勤めていたのでした。 結局、咲子さんはその歯医者―品川デンタルクリニックで受付嬢のアルバイトをすることになります。クリニックのスタッフの目から見れば、不思議な患者さんたち(あるいはその周辺の人々)の行動を明かす。そしてそのこととともに、患者さんたちの心を晴らしていく。さらには、いままで「受け身」で生きてきた咲子さんが少しずつ積極的になっていき、恋も進展していく。そんなお話でした。 五つの短編が収録されています。それぞれのお話がつながっている、連作短編集ですね。 大体の流れを書いてしまいましたが、あとはいつものように、個々の短編についてミステリ的な要素を中心に紹介を。なお、咲子さんの恋の相手のことにもふれるので、お断りしておきます。「シンデレラ・ティース」ひょんなことから歯医者の受付になった咲子。最初の不思議な「客」は、穏やかなOLさんだった。ところが、彼女が訪れた数日後、彼女の彼氏がクレームをつけにきた。治療が長すぎる、薬が強すぎるのではないか―。心当たりがないスタッフたちだが、歯科技工士の四谷がOLとその彼氏の行動の理由を解き明かす。「ファントム vs. ファントム」電話では感じが良い方だったのに、クリニックを訪れた「客」はとても突っ慳貪な態度をする人物だった。受付の咲子も、歯科医たちも彼に不快な印章を感じてしまう。彼の突っ慳貪な行動の理由を見抜いた四谷が、一計を案じて、彼の心を軽くするきっかけを作る。「オランダ人のお買い物」おつかいに出かけていた咲子が帰りがけ、土砂降りに襲われてしまう。同じ場所で雨宿りしていた若い男が、彼女に話しかけてきた。雨宿りの間、彼女が歯医者の受付だと知った男は、後日クリニックを訪れた。そして、しつこく咲子につきまとうようになる。 同じ頃、咲子にとって少し気がかりな「客」がいた。会社の重役であるようだが、診療にも秘書を連れて行き、診療の際に大声を出したりする年配の男性だった。「遊園地のお姫様」クリニックに、尊大な感じの若い女の子が訪れた。彼女は、問診票を書かずに診察室に入っていき、咲子は少し不快に思ったが、女の子は品川院長の孫娘だった。スタッフたちと楽しそうに話す彼女を見ていて、咲子は少し気分が沈んでしまった。 四谷とお茶を一緒にする約束をしていたのに、女の子が院長たちといたいというので、四谷とのデート(?)は中止になった。その夜、咲子は四谷と女の子が二人で歩いているのを見てしまった。翌日、また女の子が訪れ、四谷に聞いたのだ。「あたし、可愛い?」と。「フレッチャーさんからの伝言」咲子のバイト期間も終わりに近づいていた。その頃、また気がかりな「客」が訪れた。ばりばりの営業マンという風の男で、初診のときから遅刻してきた。その後も遅刻しては、お詫びにとお菓子を持ってくる。しかし、寝る暇もないほど忙しいという割には服装もにおいもしっかりしており、話を聞く限り寝る時間も作れるようだった。どこか、ちぐはぐなのだ。 そしてまた、咲子自身が決意をしていた。歯医者を毛嫌いしていたが、このクリニックで診てもらおう、と。 クリニックの方々が、私の感性でいえば院長はちょっと不快な要素も持っておられますが、素敵な方々でした。紹介の中で、「客」と書きましたが、患者さんをお客様と考えるのがクリニックの方針なのだそうです。患者さんに、歯医者に行くというよりも、エステなどを利用しているような感覚できてほしいということで、診察券も「メンバーズカード」と呼ばれます。ああ、素敵な心遣いだな、と感じました。 最初のスタッフ紹介の描写では想像していませんでしたが、四谷さんがいわゆる探偵役でした。かっこいいですね。咲子さんと四谷さんの恋も良かったですね。涙でした。 医学関係の専門書にある症例写真など、正直目を背けたくなるような写真があります。そんなことについても、考えさせられました。看護系の友人たちもいるので、少し話をしたことがあります。そんなことを考えたり思い出したりしました。 今日はなんだか疲れてしまって、久々に小説を読もうと思ったのですが、本書を読んで良かったです。考えさせられた部分も含めて、素敵な読書体験でした。面白かったです。
2006.10.07
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西尾維新『栄光の仕様』~講談社、2006年~「戯言シリーズ限定コンプリートボックス」の付録の一つ、豆本です。京極さんの豆本もいくつかありますが、それらより少し大きいです。 こんな話でした。 高校生になったばかりのわたしは、自分の趣味―読書を仕事にしようと考えた。いまの自分でもできそうなこと…ということで、わたしは書店でバイトをはじめた。 仕事にもなれてきて、レジ担当になったとき、わたしはある客に興味をもつようになった。部活帰りらしい女子中学生、富山たあとちゃんである。 初めて私がレジでたあとちゃんに接したとき、彼女は有名ミステリ作家のシリーズ最新作を買った。翌日、たあとちゃんはその前作を買いに来た。さらに翌日、さらにその前作を買いに来た。ついに、下巻から先に買う、という行動をされ、わたしは我慢できなくなった。本は順番に読むべきだ―そういう考えの自分には、たあとちゃんの行動は理解できなかったからである。わたしは言い訳をして先輩にレジを任せ、たあとちゃんを追った。 たあとちゃんの最初の発言を読んで、ぞくぞくしてしまいました。たあとちゃんの謎の行動が(本は順番に読むべきという考えがなければ謎でもなんでもないのでしょうが)描かれた後なのもあるのでしょう。発言を逆から読んでみましたが無意味でした。ランプライト語だそうです。あぁびっくりしました。 私も、シリーズものは順番に読むべき―とまではいわないまでも、やはり順番に読んだ方が良いよ、と思って本を読みますが、「シリーズものを順番に読んだ方が良い」ということさえ、異なる価値観に照らせば根拠薄弱なのかもしれないな、と感じました。登場人物など、順番に読まないとわかりにくいのは間違いないと思いますが、たあとちゃんのような考え方もあるな、と。 唐突な無意味な文章など、笑える要素もありました。面白かったです。
2006.10.01
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