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【送料無料】和解せず藤田宜永光文社 四六上製☆☆☆☆☆ クラシック中心のプロモーターが主人公というので、面白そうなので読んでみたけど……。クラシック中心に設定する必要があったのかよく分からない。割と、先日読んだ「探偵・竹花」の竹花と似てるかな。閣僚経験のある政治家の長男に生まれた主人公伊木章吾はしかし、その父親と非常に折り合いが悪く、死の床にある父親の見舞いに行っても追い返され、通夜に行っても追い返される始末だった。しかし、彼が招聘したチェリストが警察に捕まり、仕事に大打撃を受ける。更にそのチェリストの招聘にあたって多少関係のあった同業者が殺されたりする。さらに、そこに付き合っていた女にもトラブルがおきるわ、さらに彼の息子にまで……と色々降りかかる。しかもそういったトラブルの元凶は彼の身内の女達で、その展開はかなり意外だった。 やっぱりこの小説もミステリ色が強いし、暴力的な場面はほとんどないが、ちょっとハードボイルド風味。生臭い伊木の周囲と対照的に恬淡としたアラカン(還暦近い)彼がずっと年下の女達にもてるのはやっぱりちょっと疑問だけど、まあいいや。ただ、この著者の書く主人公の男って、こんな親父現実にいるか?と思いつつ、妙に現実味があるのだ。それは周囲のサブキャラにもいえると思う。 この小説も冒頭は大物政治家だった伊木の父親の葬儀から始まるが、この場面が最後になってとても効果的に蘇ってくる。そして、伊木が巻き込まれたチェリストの「二丁目」での年齢を偽っていた未成年の少年との事件も元をたどっていくともっと大きな悪事につながっていく。なんだかんだとプロットが複雑なので、読み応えはある。
June 27, 2012
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生活の世界歴史(6)堀米庸三編 木村尚三郎 渡邊昌美 堀越孝一河出書房新社 文庫版並製☆☆☆☆☆◎ かなり久しぶりに読み応えのある本だった。まあ、いつも小説ばっかり読んでいるから仕方がないんだけど……。中世の人々の生活や社会の様子を大体9世紀末からペストの流行が起こる14世紀、15世紀までが言及されている。 とにかく私にとっては、小説でなら読んだことがあるものの、中世史の専門的な本を一冊全部読んだのが始めてに近いていたらくなので、生活や文化の様子はよく分かったが、系統だった歴史の流れが少々つかみにくかった。だが初期中世の食糧事情や治安の悪さ、キリスト教の確立に伴った社会の変化、ペストの大流行……ととても興味深く読めた。特に冒頭の庶民の生活の様子は何となく現代にもどこかに残滓があるような気がする。そして、キリスト教色が強くなる前の大学の描写はカルミナ・ブラーナの世界そのものだ。カルミナ・ブラーナの内容がキリスト教的な道徳観とは合わないなあと思っていたので、このブログを書くついでにウィキ先生に訊いてみたところ、なるほど、カルミナブラーナの成立年代を考えると、キリスト教色が強くなる前の大学の話のようだ。この本の中で扱われるのは主にフランスだったが、ドイツの事情も似た様なものだろう。(ちょっと乱暴かな?) そして、やっぱり怖いのは不衛生で平均寿命が短いだけでなく、人の命が軽かったこと。ペストもすごいが、周辺そこらじゅうがいつ敵になるか分からないような封建領主の世界は日本より激しいような気がするが悪党だの地頭だの考えると変わらないかな? この本の初版は昭和50年。かなり昔に刊行された本だが、やはり勉強の基本になる本だと思う。文庫化されているのも納得だ。
June 18, 2012
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【送料無料】幽女の如き怨むもの三津田信三原書房 四六上製☆☆☆☆☆◎ 今回は戦前・戦中・戦後の遊女の各三人連続での飛び降り事件を刀城言耶が遺された日記や証言をもとに推理する。第一部が遊女の日記、第二部が置屋(?)の女将の証言、第三部がそのルポルタージュを書こうとしていた作家の遺した記録だ。 第一部は貧しい農村から売られてきた少女が遊女になる過程のなかで、怪異めいたできごとと凄惨な場面が重なり、それが飛び降りを誘発したのではないかと思ってしまう。また、それが結構不気味だ。ただ、その不気味さもさることながら、遊女たちの残酷な暮らしぶりの描写も凄い。その日常が一層不気味さをましている。ただ、この日記の終わり方は結構後味がいい。そして、この日記が終わるのが日中戦争が始まる前年なのだ。 第二部は置屋の女将の証言。第二次大戦中の話。ここで、取材にきていてきわどい話題になると照れる言耶のうぶな姿が女将の口を通して描写されるが、結構笑ってしまう。この女将は第一部の日記に少女の頃の姿でも登場している。ここでも戦時中の状況が描写される。このあたりから置屋は遊ぶところではなくなって、もっと直接的な場所へとなっていく。このあたりは世情の重苦しさがたまらなく嫌だった。 第三部は置屋の持ち主が代わり、連続飛び降り事件を取材に訪れた作家の記録。この第三部がこのシリーズのほかの作品とは時系列的に並行しているのではないかと、私はふと思った。ここでも年増になった第一部の登場人物たちが顔を出す。だが、売春宿もやがて赤線が廃止されるので、なくなってしまい、商売替えになるのだが、そこにいる人たちはあまり変わってないかも。ただ、ここの最後は不気味だ。 第四部が言耶の推理。時代はシリーズのほかの作品よりも数年後ではないかと思われる。この探偵によくあるヘボ推理は出てこず、割とすっきりした結末だが、悲しい結末だ。ただ、前に出てきた細かい描写と合致していないような気がするところもあるし、最後の調査結果が出てくるところもこの小説にふさわしい余韻の残し方をしているし、その曖昧さが怖さにつながって、とても読み応えがあった。期待通りの読後感が得られたといえる。 にしても、この本の冒頭で第一部の日記の作者緋桜が身売りする前、華族のお嬢様の生んだ子守に雇われるという記述が出てくるのだが、赤ん坊の世話をしたがるのは生んだ(はず)の姉の若奥様ではなく、その妹だという記述、なんだか意味深でかなり気になっている。この著者の別の本に回答があったりしてーなどと思ってしまうのだ。こういう思わせぶりな記述・演出、この著者の得意技なのはわかっているがやっぱり気になってしまう。近々刀城言耶の短編集も出るようなので楽しみにしていよう。
June 4, 2012
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鬼の跫音 角川文庫 / 道尾秀介 ミチオシュウスケ 【文庫】道尾秀介角川文庫☆☆☆☆☆◎ 短編集。最初は、よくできた怖い話の短編だなーくらいで読んでいたのだが、先に進むにつれて、どんどん怖くなってきた。それも怪奇・オカルト色の強い怖さではなく、人の裏側に潜んでいたとんでもないモノ(鬼?)が出てきそうで出てこないと怯えているような怖さだ。特にどの作品にもアルファベットの頭文字一文字だけで出てくる登場人物Sがいるのだが、この人物が作品によって別人だと頭では分かっても、どこかパラレルワールドをのぞいているような不気味さがつきまとってくるのだ。また、このSが不気味な役回りばかりを果たすし。 ねっとりした日本的なホラーもいいが、こういった、怪奇色はないのに、ひたすら怖い話もいい。この本にも読者をミスリードする一種の叙述トリックが用いられているが、この本の場合は騙された不愉快さはない。それは文章の語り手と読者が同時にそれを知るからだろう。 この本はページ数が少ない方だが、それでよかった。これでもっと厚い本だったら、もっと怖い思いをしたことだろう。
June 1, 2012
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