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2012.12.29
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カテゴリ: 読書案内
【樋口一葉/にごりえ】
20121229

◆明治の娼妓のコイバナ、そして人情沙汰

読書家を気取る方々の中にも、さすがに旧仮名遣いは苦手とされる方もおられることだろう。特に樋口一葉なんて、文章に丸がついていないし改行もない。何やら伝聞口調でつらつらと書かれているので、本音を言ってしまえば読みづらい。
ありがたいことに最近では、読書離れを回避するためとか、少しでも古典に触れる機会を増やすためとかで判りやすい現代語訳が出ているので、樋口一葉の作品は本当に身近な存在となった。

平成を生きていると、昭和という時代はなんだかものすごく遠い昔のような気さえして来る。だが『にごりえ』が舞台となっているのは明治なのだ。昔どころじゃない、大昔のコイバナだ。はっきり言って人情沙汰の話だから、現代なら『金曜日の妻たちへ』と『火曜サスペンス』を足して2で割ったようなドラマ、と言ってしまったら失礼になるだろうか?
それはともかく、遊郭で働く娼妓、しかも看板娘のお話だ。
樋口一葉は24歳で亡くなっているが、このような花柳界を舞台にした小説を書くところを見ると、知り合いか誰か、この世界の水に浸かっていた人物がいたのであろうか?
明治のお話だなどと侮ってはいけない。風俗嬢に入れあげる殿方は現代にもいるはず。お店の女の子に好かれたいがため、借金までして貢ぐ方もおられるだろう。また、度重なるお店通いにシビレを切らした細君が、離婚話を持ちかける騒動だってあるに違いない。
そんな俗っぽい世界観を、樋口一葉は明治女のセンスで書き綴った。
それを優れた文学だと言ってしまうと、何やら昔の人が書いた小説はどれもすばらしいものになってしまうので、あまり大げさには言いたくはない。
逆に、最近のケータイ小説に始まるライトノベルなど、平成生まれの女子が創作した作品だって、この先もしかしたら樋口一葉みたいな存在になるかもしれないのだから、十把一からげには評価できないのだ。

この言語にこだわったリズムを持ち合わせなければ、単なる誰かの“体験談”とか“手記”みたいなもので終わってしまう。
樋口一葉の凄いところは、知ってか知らずか、このリズムを自然と生み出した点にあるかもしれない。

24歳という若さで亡くなっているのが、実に惜しい才能ではある。
『にごりえ』樋口一葉・著

☆次回(読書案内No.30)は南木佳士の『阿弥陀堂だより』を予定しています。

~読書案内~   その他

■No. 1 取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ
■No. 2 複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!
■No. 3 雁の寺/水上勉
■No. 4 完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する
■No. 5 青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ
■No. 6 しろばんば/井上靖
■No. 7 白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す
■No. 8 ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている
■No. 9 女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説
■No.10 或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル
■No.11 東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず
■No.12 お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人
■No.13 レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?
■No.14 山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く
■No.15 佐藤春夫/この三つのもの 細君譲渡事件の真相が語られる
■No.16 角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く
■No.17 室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛
■No.18 織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話
■No.19 谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。
■No.20 車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか
■No.21 松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場
■No.22 川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!
■No.23 丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの
■No.24 宮本輝/流転の海 第一部 戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!
■No.25 岩井志麻子/ぼっけぇ、きょうてぇ 女郎が寝物語に話す、身の上話
■No.26 柳美里/水辺のゆりかご 包み隠さず書くのは勇気なのか、それとも・・・?
■No.27 宮尾登美子/櫂 妻は黙って亭主に傅くのみ。殴られても蹴られても耐えるべし
■No.28 向田邦子/阿修羅のごとく いくつもの顔を持ち合わせているのが女なのだ

◆番外篇.1 新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
◆番外篇.2 菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
◆番外篇.3 芥川龍之介と菊池寛 唯ぼんやりとした不安、ハナはこちらなり。





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最終更新日  2012.12.30 06:22:34
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