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事業用のビルの賃貸借契約が更新拒絶により終了した場合と転借人の地位通常の賃貸借ないし転貸借・再転貸借においては、賃貸借契約が賃借人の債務不履行による解除や期間満了により消滅すれば、有効な賃貸借の存続を基礎として成立している転貸借・再転貸借も消滅するというのが民法上の大原則である。しかし、学説、判例は、賃貸借の放棄や合意解除など当事者の意思により賃貸借が消滅する場合には、転借人の保護のため、転借人に対して賃借権の消滅をもって対抗できないと解している。本件は賃借人からの更新拒絶であり正当の事由のあることを必要としないから期間満了により賃貸借は終了することとなる。問題はこの賃貸借の終了をもって、転借人・再転借人に対抗できるかということである。学説では転借人がいるに拘らず賃借人が更新を希望するのは転借人の立場を不利にするおそれがあり合意解除と異ならないから多くの場合は信義則に反するとする見解がある。しかし学説では賃借人からの更新拒絶は賃貸人からは防止できない事態であるので合意解除とは同視することはできないとする見解があり、本件では特に賃借人の採算が取れずに撤退するというものであり賃貸人の意思の入り込む余地がないので合意解除に準ずると解することはできないという見解がある。最高裁平成14年3月28日判決は「ビルの賃貸管理を業とする会社を賃借人とする事業用ビル1棟の賃貸借契約が賃借人の更新拒絶により終了した場合において、賃貸人が、賃借人にその知識、経験等を活用してビルを第3者に転貸し収益をあげさせることによって、自ら各室を個別に賃貸すること伴う煩わしさを免れるとともに賃借人から安定的に賃料収入を得ることを目的として賃貸借契約を締結し、賃借人が第3者に転貸することを賃貸借契約締結の当初から承諾したものであること、当該ビルの貸室の転借人及び再転借人が、右のような目的の下に賃貸借契約が締結され転貸及び再転貸の承諾がなされていることを前提として、転貸借契約及び再転貸借を締結し、再転借人が現にその貸室を占有していることなど判示の事実関係があるときは、賃貸人は、信義則上、賃貸借契約の終了をもって再転借人に対抗することはできない」と判示した。 判例タイムズ1125号58頁 塩崎勤教授の解説
2007.05.31
弁済供託における供託物の取戻請求権の消滅時効の起算点弁済供託における供託金取戻請求権の消滅時効は、過失なくして債権者を確知することができないことを原因とする弁済供託の場合を含め、供託者が免責の効果を受ける必要が消滅したときから進行する。過失なくして債権者を確知することができないことを原因として賃料債権についてなされた弁済供託につき、同債務の各弁済期日の翌日から民法169条所定の5年の時効期間が経過したときから更に10年が経過する前になされた供託金取戻請求に対し、同取戻請求権の消滅時効が完成したとしてこれを却下した処分は違法である。最高裁平成13年11月27日判決民法166条1項は消滅時効の起算点を「権利を行使することを得るとき」と規定するが、債務者が弁済の目的物を供託して債務を免れる弁済供託をした場合に、債務者からの供託金取戻請求権の消滅時効の起算点を、いつの時点と捉えるべきかが問題となる。従来民法496条は何時でも供託物の取戻を請求できると規定していることから、供託時を「権利を行使することを得るとき」と捉え供託のときから消滅時効は進行すると解するのが先例であり判例であった。しかし東京地裁昭和39年5月28日判決以降、単に形式的に権利の行使が可能であるだけでなく、行使が権利の性質上期待される場合をいうとし、供託時ではなく、供託を維持する必要がなくなったときからであるとする裁判例が増加した。これを受け、最高裁昭和45年7月15日判決は、受領拒絶を原因とする弁済供託において「供託の基礎となった債務について紛争解決などによってその不存在が確定するなど、供託者が免責を受ける必要が消滅した時と解するのが相当である」と判断した。学説の多くは、上記昭和45年判決の結論に賛成するものの、同判例は、供託者と被供託者の間に紛争のある場合の供託についての判断であるとして、その射程を狭く捉え、債権者不確知の場合や、債権の帰属をめぐって債権者間に争いのある場合にはついては、供託時を消滅時効の起算点と解するのが一般的であった。供託実務もそのように扱われていた。本判決は「権利を行使することを得るとき」と言えるためには、法律上の障害がないというだけでなく、権利の性質上その行使が現実に期待されることを要することを前提としていると解されるが、権利の上に眠る者を保護しないという消滅時効制度の趣旨及び規定の文理上からも当然と解される。 判例タイムズ1125号 28頁 頭注「権利を行使することを得るとき」と言えるためには、法律上の障害がないというだけでなく、権利の性質上その行使が現実に期待されることを要することを前提としていると解されるが、権利の上に眠る者を保護しないという消滅時効制度の趣旨及び規定の文理上からも当然と解される。という点は、過払い金の返還請求権の消滅時効の起算点についても使えそうである。
2007.05.30
生命保険契約につき、保険金受取人を変更する旨の意思表示を生命保険会社に通知しなくても変更の効力が発生されるとされた事例保険契約者がする保険金受取人を変更する旨の意思表示は、保険契約者の一方的意思表示によってその効力を生ずる単独行為であると解するのが通説判例であり(最高裁昭和62年10月29日判決 判タ652号119頁)保険会社に対する通知は、保険会社が二重弁済の危険にさらされることを防止するための対抗要件であると解すべきことも学説判例とも異論はない。保険契約者が生前に保険金受取人の変更の意思表示をしたが、会社に対する通知をしないで死亡した場合、対抗要件としての通知の要否をどのように解すべきかについては問題があるが学説では、保険契約者の地位を承継する相続人が通知することができると解されている。福岡高裁平成18年12月21日判決BとCは夫婦 AはBとCの間の子 昭和48年生まれ平成9年と平成14年に Aを被保険者とし、Bを受取人として生命保険契約を締結 平成16年9月10日 A、B、C 車に同乗 海に転落 一家心中 3人死亡Cの妹のX 平成16年8月24日付手紙によって保険金受取人は自分に変更になったとして保険金の支払 を請求 手紙の内容 A、B、Cらが、Aの命の代償に得られる保険金をもって、Aの不始末の清算 をするとともに、BC夫婦のXの夫に対する債務170万円を返済し、残余の うちから A、B、Cの永代供養料を払ってもらいたい上記判決は、上記手紙は受取人をBからCに変更する旨のAの意思表示と解するのが合理的である。保険約款においては、保険金受取人の変更は、保険契約者はその旨を会社に通知して保険証券に裏書を受けることを要する旨規定されているがAが心中を決意してからこれを敢行するまでの間に保険会社に対して通知をすることを求めるなとどいうことは、およそ期待可能性がないことを強いるものにほかならないし、通知がないことを理由に保険金の支払を拒まなければ、二重払いの危険性を生じるなどという弊害は実際にはおよそ想定しがたいのであるから、保険金受取人の変更は会社に対する通知がなくても有効であるとしてXの請求を認めた。 上告されている。 判例タイムズ1235号 296頁 頭注
2007.05.28
マンション販売におけるペット飼育の可否の説明分譲マンションの販売業者である被告会社の従業員が、ペット類飼育の可否につき販売時期によって異なる説明をして正確な情報提供を怠ったなどとして、購入者である原告らの一部に対する不法行為の成立を認め、慰謝料請求が認容された事例本件マンション 平成14年8月の完成以前から販売平成15年4月ころまでは、販売にあたってペット類飼育禁止という説明がされていた同月ころから、被告Yの従業員が、従前の購入者であるAらの了解を求めることなく、飼育可能という説明をして販売するようになったそのため飼育禁止という説明を受けていたAと飼育可能と説明されていたBを含む住民が出現して紛議が生じ、同年8月開催の管理組合設立に向けての説明会において、Yの従業員からペット類飼育に関して迷惑を掛けたことの謝罪がなされる中で、住民らの間で、同説明会当日の時点でペットを飼育している住民のみ当該ペットを一代限りで飼育を認めるという決議がなされた。そして、同年10月の管理組合総会において、上記説明会における決議を前提とした動物飼育禁止条項がもりこまれた管理規約等が承認された。尚Bは同年9月にペットの犬を死亡により失い、その連絡を受けたYの従業員の働きかけにより、同年10月、管理組合理事会から新しい犬の飼育を特例として認めてもらい、同年11月、新たに犬を購入したが、平成16年2月の管理組合総会で上記特例が問題となり、犬の飼育を断念した。A及びBがYに対し慰謝料各100万円を請求した。第1審はAに10万円 Bに90万円の慰謝料請求を認めた。控訴審ではAの慰謝料を増額した上でA及びBに対するYの使用者責任を肯定した。契約関係において本来の給付義務のほかに、これに付随する信義則上の義務が存在するものであるが、本判決は、ペット類飼育の可否がマンションの購入者にとって契約締結の動機を形成するのに重要な要素となることがありうるとした上で、マンション販売業者には、契約に当たって、少なくとも当該購入希望者が飼育の可否につきいずれを期待しているか把握できるときは、こうした期待に配慮して、将来無用なトラブルを招くことがないよう正確な情報を提供する信義則上の義務があると判断した。 判例タイムズ1233号267頁 頭注
2007.05.25

給付行政分野における手続教示義務介護慰労金支給に関する事前調査で非該当の結論となった場合において、受給希望者がこの結論に納得せずに不満を述べているときは、事前調査を実施する市には、受給希望者に対して受給申請手続を教示すべき条理上の義務があるのにこれを怠った違法行為があるとして、また市を履行補助者とする県にも同様の違法行為があるとして、国家賠償の一部認容された事例高齢の父の介護にあたっている原告が被告 市の支給する市介護慰労金 被告 県の支給する県介護慰労金 及び国の支給する臨時介護福祉金に関し、被告市及び被告市に事務委託していた被告県に対し受給申請をしたのに受給を受けられなかったとして訴えを提起したものである。名古屋高裁金沢支部平成17年7月13日判決は原告が受給申請をしたとは認められないとしたが、受給申請の手続教示につき、次のとおり判断して慰謝料の請求を認容して金10万円の支払を命じた。事前調査方式においては、事前調査で非該当の結論となった場合には、被告市の事前担当者が両介護慰労金の受給の可否を事実上決していることになるため、受給希望者の有する手続的権利、具体的には、両介護慰労金について受給申請し、認定権者あるいは決定権者の各判断を受ける権利を行使する機会を失わせる危険がある。したがって、事前調査で非該当の結論となった場合において、受給希望者がこれに納得せずに不満を述べているときは、事前調査方式を採用して上記危険を作り出した被告市には、当該危険を解消して、受給を希望する者に対して手続的権利を行使する機会を実質的に保障するために、受給希望者に対して受給申請手続を教示する条理上の義務がある。上告されている。 判例タイムズ1233号188頁 頭注 b>ブログランキング参加してます。↓ クリック、よろしく!
2007.05.24
スイミングスクールでの生徒の死亡事故につき学校側に不法行為責任及び債務不履行責任がないとされた事例Aは中学2年の男子200メートル個人メドレーをバタフライ、背泳、平泳ぎ及びクロールで泳ぎ切る能力を有し、Y1の設置するスイミングスクールに通っていた平成13年11月23日 ジュニアコースの進級テスト実施Aは長さ25メートルのプールでバタフライ、背泳、平泳ぎの順で合計150メートルを泳ぎ、クロールで残り50メートルを泳ぐ途中、水泳を中断して歩き出し、折り返して反対側の壁から3メートル付近に至り水没した。Y1のコーチとしてAの水泳を指導していたY2がAを引き上げ、心肺蘇生術を施したが、Aの意識は戻らず、病院で死亡した。Aの両親であるXらがY2に対しては不法行為に基づき、Y1に対しては使用者責任及び債務不履行に基づき損害賠償を求めた。Aの死因、Y2の過失、損害との因果関係が争われた。第1審は、Aの死因は突然死であり、Y2がAの動静から目を離した点で注意義務、安全配慮義務に違反したと認定したが、仮にY2が同義務を果たしていたとしてもAを救命し得たものと認めることは困難であるとしてXらの請求を棄却した。その控訴審である名古屋高裁平成18年6月27日判決は、Aの死因は溺死であると認めたが、相当の水泳能力がある者でも水泳を中断することはさほどめずらしいことではなく、Aに大丈夫かと声をかけてAの応答から異常のないことを確認し、無理に泳ぎを勧めたものではないことなどの理由によりY2の過失を否定した。Y1の債務不履行の点についてはコーチであるY2に対する安全教育に欠けるところところがあったが、本件事故との間には因果関係がないとして、結局Xらの控訴を棄却したプールでの事故について被害者が管理者に対して損害賠償責任を問う場合、不法行為、債務不履行(安全配慮義務)、工作物責任などがあるところ、本件においては前2者の成否が問われた。 判例タイムズ1234号144頁 頭注
2007.05.22

大型商業施設の固定資産税の課税標準価格について、収益還元法によるべき特段の事情がないとされた事例本件は、原告所有の本件建物につき半田市長が平成15年度固定資産税の課税標準となる価格を42億4795万1657円と決定し、同価格を固定資産課税台帳に登録したことから、同価格が過大に過ぎると主張する原告が被告に対し審査の申出をしたところ、被告が同申出を棄却する決定をしたため、原告が地方税法434条1項に基づき、同決定のうち原告が自認する金額を超える部分の取消を求めた抗告訴訟である。原告は商業施設の特殊性から、固定資産の評価においては収益力をこそ考慮すべきとして争ったものである。5本件においては、最高裁平成15年7月18日判決 判例タイムズ1139号62頁が最建築費を適切に産出することができない特段の事情の存しない限り、これによる評価額が適切な時価であると推認するのが相当であると判示していることを前提として、本件建物の適正な時価を算出するに当たり、収益還元法を適用すべき特段の事情はないとして原告の請求を棄却した。本判決は、建物の評価についてはа再建築価格法b取得価格を基準として評価する方法C賃料等の収益を基準として評価する方法d売買実例価格を基準として評価する方法などが考えられるが、固定資産税が資産の価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する財産税であって、個々の固定資産の収益性の有無にかかわらず課せられるものであること(最高裁昭和47年1月25日判決 昭和59年12月7日判決)、これらの評価方法の出発点となる現実の取得原価、実際の賃料、売買実例などは、当事者の思惑やその時点における経済力などの主観的事情、個別事情による影響を受けやすく、偏差の発生を免れ難いという難点が存在するのに対し、再建築価格法は、その具体的算定方法が比較的簡明であり、偏差を生ずることはないなどとして収益還元法を適用すべき特段の事情はないとした。名古屋地裁平成17年1月27日判決 控訴され控訴棄却 確定 判例タイムズ1234号 99頁ブログランキング参加してます。↓ クリック、よろしく!
2007.05.22

過払い金の当然充当と消滅時効について平成19年2月13日最高裁判例以降の地裁判決昭和62年4月1日からの取引 取引期間中 127日の取引のない期間あり被告は過払い金は、発生の都度個別に発生し、その後の貸付には充当されないから、個別に発生した過払い金は、発生後10年で消滅時効が完成する と主張大坂地裁平成19年3月28日判決は同一の貸主と借主との間で継続的に貸付が行われている場合には、ある時点の弁済により生じた過払金(同過払い金について悪意の受益者に対する利息が生じている場合は、過払い金及び利息)は、その後に行われた貸付に係る債務に充当されると解するのが相当である。(最高裁平成19年2月13日第3小法廷判決参照)消滅時効について 同一の貸主と借主との間で継続的に貸付が行われている場合には、上記のとおり、一旦過払い金が生じてもその後の貸付にかかる債務に充当される可能性があり、また、取引継続中に過払い金の不当利得返還請求を行うことは事実上困難であるというべきであるから、継続的な消費貸借関係が完済等により終了しない限り、過払い金の不当利得返還請求権について消滅時効は進行しないと解するのが相当である。 大坂地裁民事第11部 山下郁夫 裁判官仙台高裁 第2民事部判決 大橋裁判長基本契約があったとしても、完済後3年4月後に再度取引があった場合は、事実上取引が終了したと考えるのが当事者の合理的意思であるから第1取引と第2取引は別個の取引である。 ブログランキング参加してます。↓ クリック、よろしく!
2007.05.21
名村造船所募集新株発行差止却下決定事件差止仮処分の相手方 船舶及び海洋構造物の設計、製造を目的とし大阪証券取引所1部上 場会社 発行済株式総数 4480万7917株差止を求めた株主 発行済株式の22.21パーセントを保有する同社の筆頭株主 (以下Xという)同社の取締役会は平成18年11月30日、設備投資の資金を調達するためとして募集株式数357万8500株取引先12社に対し割り当てるとの第3者割当ての方法による募集新株の発行決議をした。Xは、これによりその持ち株比率が約1.65%低下し、かつ割り当てを受けた者のうち、主要な株主の持ち株比率の合計がXを上回ることとなるためXが筆頭株主から転落すること、会社の主張する資金調達の必要性は虚構の可能性があることなどを指摘し、本件の募集株式の発行は資金調達の必要性がないにもかかわらず、Xの持ち株比率を低下させ、現経営者の支配を維持する目的でされたもので著しく不公正な方法によるものであると主張して、その発行の差止めを求めた。大阪地裁平成18年12月13日決定は、会社法210条2号の「著しく不公正な方法」に該当するか否かをいわゆる「主要目的ルール」によって判断することを示した上で、疎明資料から本件の募集新株発行に至る経緯、特に設備投資計画の検討・進行状況を具体的に認定して資金の調達の必要性を認め、他方Xが主張する現経営者の支配権維持目的については、会社の現経営陣とXとの間に一応の対立関係があることを認めつつも、その対立の具体的な状況や本件の募集新株の発行によってもXが筆頭株主であることに変わりないことなどに照らして、本件の募集新株の発行において支配権維持目的はあるとしても相当弱いものであるとして結論として著しく不公正な方法によるものでないと判示した。主要目的ルールとは、資金調達目的があっても他方に会社支配権を維持・強化する目的がある場合に、いずれが主要な目的であるかを基準として判断するというものである。 判例タイムズ1234号 171頁 頭注
2007.05.18
申立人 医療機関に一般職として勤務 給与収入 月額23万円 退職金見込み額 1800万円 自宅マンション持分 (ただし、オーバーローン) 預金 (残高40万円) 生命保険の解約返戻金見込み額 193万円 負債は 自宅マンションのローン 2319万円 貸金業者に対する債務(本件一般債)一般債権の残額は、貸金業者が主張するところによれば合計388万円余であり、申立人も、申立にあたりこれによっていたが、利息制限法所定の利率に引きなおして再計算した場合には合計171万余になることが判明した。原審は「一件記録によれば、申立人には、破産手続き開始の原因となる事実の生じるおそれがあるとは認められない」との理由で給与所得者等再生手続開始の申立を却下した。申立人が抗告したが、福岡高裁平成18年11月8日決定は、抗告を棄却した。本決定は、本件一般債権の残額につき、引きなおし額が換金容易な生命保険の解約返戻金見込み額をも下回ることを指摘し困窮要件を満たさないとした。 判例タイムズ1234号351頁 頭注
2007.05.17

「相続させる」趣旨の遺言による不動産の取得と登記被相続人 A 妻 Xと子BがいるA 遺言 本件各不動産の権利一切をAに相続させる(第1遺言) 追加遺言 第1遺言に追加して、その他一切の財産をXに相続させる。 遺言執行者をXに指定する。(第2遺言)A死亡Bの債権者がBに代位して相続登記 Bの持分に対し仮差押及び強制競売の申し立てをなし、仮差押、差押の登記が経由された。妻X 第3者異議の訴え 理由 本件第1遺言及び第2遺言は、本件各不動産をXに単独で相続させようというAの意 思が表示された遺産分割方法の指定と解すべきであり遺贈と解すべきでない。 本件不動産はAの死亡の時に、Aから直接Xに承継されたというべきである。 民法177条につき、相続させる遺言により相続人が遺産分割協議を経ないで 遺産に属する不動産を取得した場合には適用されない。 相続させる遺言による遺産の承継は、当該相続人に相続開始と同時に直ちに生じ、 一時的にせよ他の相続人がその権利を取得することはないから、相続開始後におけ る相続人間の権利の得喪変更を観念する余地はない最高裁平成14年6月10日判決は 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分 又は指定相続分の相続の場合と本質的において異なるところはなく、不動産の権利の取得 については、登記なくしてその権利を第3者に対抗できる として、Xの請求を認めた原審の判決を是認した。 判例タイムズ1125号 120頁 島田充子判事の解説ブログランキング参加してます。↓ クリック、よろしく!
2007.05.16
離婚届不受理届出制度不受理申出制度は、昭和27年7月9日付民事甲第1012号法務府民事局長回答により、協議離婚届出に署名押印後、その届出前に離婚意思を翻して離婚届を受理しないようにとの申出書が提出された場合には、離婚届を受理しないのが相当であるとされたのを発端として始まり、昭和37年9月27日付け民事甲第2716号法務省民事局長回答では、前記のような翻意の場合だけでなく、夫婦の一方に離婚届出の意思が当初からないのに、他方から虚偽の離婚届出がされるおそれがあるとして不受理申出書が提出された場合も同様に扱うものとされたこと、こうして不受理申出制度は、離婚届への署名、押印を強要されて、意に沿わないままこれに応じてしまったり、相手方に一方的に虚偽の離婚届出を提出されるおそれのある配偶者にとっては、その意思に反する離婚届が提出され、受理されるのを防ぐための有効な方法として利用されるようになり、同時に、戸籍記載の正確性の確保にも役立つものとして戸籍実務上次第に定着していき、そのような状況を踏まえて、従来の不受理申出の取り扱いに関する先例を総括し改善するものとして昭和51年1月23日付け民2第900号法務省民事局長通達(いわゆる基本通達)及び同日付け民2民2第901号法務省民事局第2課長依命通知(いわゆる依命通知)が発せられ、これにより確立した制度として位置づけられたものである。基本通達及び依命通知によれば不受理期間は6ヶ月以内の一定期間とされ、その期間を経過して改めて不受理申出が提出されなかったり、期間中に不受理申出の取り下げがなされた場合には、申出の意思をなくしたものとして取り扱うこととされているが、この取り下げが不受理申出をした本人の意思に基づくものであることが担保されないまま容易に受理されてしまったのでは、折角の不受理申出制度の意義が損なわれてしまう。東京高裁平成14年10月30日判決は「市町村長に対し、不受理申出の取り下げ書が提出された場合には、その記載内容に誤りがなく、記載要件が満たされているかどうかを審査するだけでなく、取り下げ書が本人から提出されたものかどうかを確かめる必要がある」として過失を認定し慰謝料20万円の支払を命じた。事案は XとAが婚姻 3人の子供がいるXとA 不仲となって別居XはY市長に離婚届不受理申出をした 子の親権者の関係か?XはAを相手に離婚訴訟提起Aは裁判に出頭せず 裁判所Xの主張認め、離婚と子供3名の親権者をXと定め、この裁判が確定 Xが確定判決によりY市に離婚届をしようとしたら、Aが既に離婚届を出しており、子の親権者はAとされていた。Xが先に出していた不受理届につきAが勝手に取り下げ書を作成提出し、その後、協議離婚届でを提出して受理されていたものであり、Y市の職員に過失があるとして国家賠償法により慰謝料の請求がなされた事件である。 判例タイムズ1125号66頁 村重慶一弁護士の解説
2007.05.15

遺産分割における代償分割遺産分割の方法には、現物分割、代償分割、換価分割、共有とする分割などがあるが、そのうち、現物分割が原則的な分割方法であると解されている。家事審判規則109条は、代償分割について、「家庭裁判所は、特別の事由があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の一人または数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて現物をもってする分割に代えることができる」としているで、代償分割するためには、特別な事由があることが要件となっている。そして、その特別な事由がある場合として共同相続人の一人または数人に金銭債務を負担させるためには、当該相続人にその支払能力があることを要すると解すべきかどうかが問題となる。最高裁平成12年9月7日決定は「家庭裁判所は、特別の事由あると認めるときは、遺産分割の方法として、共同相続人の1人または数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて、現物をもって分割に代えることができるが(家事審判規則109条)右の特別な事由がある場合であるとして共同相続人の1人または数人に金銭債務を負担させるためには、当該相続人にその支払能力があることを要すると解すべきであると判示した 判例タイムズ1125号118頁 雨宮則夫判事の解説ブログランキング参加してます。↓ クリック、よろしく!
2007.05.14

盗難預金通帳による払い戻し 預金者に対する過失相殺を否定した例盗難預金通帳による払い戻しにつき銀行担当者に過失があるとして銀行の免責を否定するとともに、過失相殺の規定の類推適用を否定した事例預金通帳と届出印をAに盗まれ預金の払い戻しをされてしまった場合、無権限者による払い戻しであるから払い戻しが無効であり、預金は払い戻されなかったことになるので、真正な預金者は、預金があるものとして銀行に対し払い戻しを請求することができる。この場合、銀行としては普通預金規定の免責条項により、又は、債権の準占有者に対する弁済に該当する(民法478条)との抗弁を出すことになる。しかし、受領権限を疑うべき相当の理由(不審事由)があった場合、印影の照合のほかに身分証明書の提示を求めたり、個人的情報を尋ねるなどして受領権限につき確認すべきであるにもかかわらずこれを怠った場合は、上記抗弁は認められない。しかし、預金者においても、通帳や印鑑の管理に過失があった場合、実質的な損害の公平な分担として過失相殺の適用をすることが考えられる。しかし福岡高裁平成18年8月9日判決は、1審で2割の過失相殺した事案で、過失相殺を認めなかった。理由は、契約上の履行請求(真正な預金者からの預金契約に基づく払い戻し請求)と債務不履行に基づく損害賠償請求とは、その領域を異にし、類推適用する基盤があるということはできないなどとしてこれを排斥した。しかし肯定する見解があり、肯定する東京地裁判決などもある。上記福岡高裁判決は上告されずに確定している。 判例タイムズ1226号165頁 頭注ブログランキング参加してます。↓ クリック、よろしく!
2007.05.10
談合により入札金額がつりあげられたことで地方公共団体が被った損害を契約金額の8パーセント相当額とした事例本判決は、地方公共団体が実施した指名競争入札において談合した指名業者らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠る事実に係る住民監査請求には、法242条2項は適用されないとした最高裁平成14年7月2日判決に基づき、京都市が損害をこうむったとして、京都市に損害賠償するよう求めた住民訴訟は適法な監査請求を経た適法なものであるとした上で、本件ストーカ炉建設工事の入札における入札業者の談合の存在を認定した。談合は組織的に秘密裏に行われるので直接証拠が存在することは稀で、間接事実を積み上げて推認していくという複雑かつ困難な作業が必要とすることになる。本判決は、公正取引委員会による立ち入り検査直後入札業者のうちの1社の担当者から得られていた談合の実態に関する比較的詳細な供述や、立ち入り検査の際に押収された落札予定業者を記載したメモの存在などに基づいて談合の存在を認定したものである。市の損害額については、自由競争によって落札業者決定されていた場合に形成されたであろう落札価格に基づく契約金額と、実際の契約金額との差額であるとした上で、平成17年の独占禁止法改正による課徴金の引き上げに関して公正取引委員会が示した、過去の違反事例について実証的に不当利得を推計したところ、平均して売上額の16.5パーセント程度、約9割の事件で売り上げ額の8パーセント以上の不当利得が存在するという結果が得られたとの見解を参考にして、本件でも契約金額の8パーセント相当額を下回らない損害を市が被ったと認定し、落札業者に対し、京都市に18億円あまりの支払を命じた。1審は5パーセント相当額としたが、住民の付帯控訴に基づき、8パーセントと認定したものである。 上告されている。 大阪高裁平成18年9月14日判決 判例タイムズ1226号107頁 頭注
2007.05.10

賃貸人 B会社 賃借人 A会社 賃料 月額688万7680円 敷金6050万円敷金につきC銀行ほか4行が質権設定A会社 破産 破産管財人 選任される管財人 破産宣告後も、賃借物件を解除せず使用 しかし賃料、共益費用払わずその後、賃貸借契約を解除したが、敷金のほぼ全額を未払賃料、共益費、原状回復費用等に充当する処理をした。当時、破産財団にはこれらの賃料や原状回復費用などを払うのに十分な銀行預金が存在し、これを現実に支払うことに支障はなかった。管財人は、破産財団の維持を図るために、あえてこのような処理をしたものであった。なお、管財人はこのような処理をするにつき破産裁判所の許可を得ている。敷金を質に取っている質権者が、このような管財人の行為により敷金返還請求権が消滅し、質権者の優先弁済権が害されたとして、管財人に対し、破産管財人の善良な管理者としての注意義務違反による損害賠償又は不当利得の返還を求めた。(管財人個人に対する請求ではなく破産財団に対する請求である)最高裁平成18年12月21日判決は、管財人が破産宣告後の未払い賃料等に敷金を充当して敷金返還請求権の発生を阻害したことは、本件の事実関係の下では、敷金返還請求権に質権を設定を受けていた質権者に対する目的債権の担保価値を維持すべき義務に違反するとした。しかし、本件のような問題がこれまで全く論じられたことがなく、管財人が破産裁判所の許可も得た上で上記の充当処理を行っていることからすると、管財人の行為が善管注意義務違反にはなるとはいえないとして損害賠償請求を棄却した原審の判断を正当と是認した。他方、管財人の質権者に対する義務違反行為により、質権者の損害において破産財団が減少を免れたと評価すべきであるから、破産財団に不当利得が成立すると判断し、原告の不当利得返還請求を全て棄却した原判決を破棄し、原告の同請求を一部認容する自判をした。また、管財人は悪意の受益者ではないとした。 金融法務事情1802号 132頁の解説この判例が公刊された以後は損害賠償が認められるということでしょうか。それとも破産裁判所の許可があれば、未だ、認められないということでしょうか。破産財団に資金がないときは話は別ということになると思われます。 (破産財団に金はないが、残務処理で賃借物件をすぐ明けることができないときは しょうがないことになると思います)ブログランキング参加してます。↓ クリック、よろしく!
2007.05.09

購入した電気ストーブの使用により有害物質が発生し、使用者が化学物質過敏症を発症したとし、販売会社の不法行為責任が認められた事例東京高裁平成18年8月31日判決化学物質過敏症とは、身体に摂取、蓄積された化学物質が一定量を超えると身体が過敏になり、殺虫剤、芳香剤、塗料などにふくまれるごく微量の化学物質に激しく反応し、頭痛、筋肉痛、微熱、皮膚炎などを発症する症状である。本件は平成13年に被告の経営する店舗で原告の親が中国製の電気ストーブを購入し、その子が自宅において使用していたところ、身体に異常が発生し、中枢神経機能障害と診断されたため、電気ストーブで化学物質過敏症に罹患したと主張して、被告に対し損害賠償を請求したものである。本件の最大の争点は、原告(子供)の化学物質過敏症と本件ストーブの使用との因果関係である。本件では化学物質過敏症の研究で知られる北里研究所病院臨床環境医学センターの医師は、原告の症状は本件ストーブの使用を原因とする中枢神経機能障害・自律神経機能障害と診断しているが、社団法人県央研究所に対して依頼した臭気についての試験では、本件同型ストーブを稼動させ、ストーブ周辺から直接採取した空気を分析した結果、顕著な臭気成分は認められなかったなどと報告されているので、因果関係の判断は微妙かつ困難であるところ1審は、同センターの医師の診断を排斥したのに対し、本判決は同センターの医師の診断を採用し因果関係を認めたものである。本件と類似の先例としては、噴霧式のカビキラーの使用と急性疾患との因果関係を認めた東京地裁平成3年3月28日判決 判例時報1381号21頁がある。本判決は、電気ストーブなどの家電の大手販売会社の損害賠償責任を肯認した事例であり注目すべきものである。 認容額は554万3771円(治療費・逸失利益・慰謝料・弁護士費用)上告されたが上告棄却 判例時報1959号3頁 頭注ブログランキング参加してます。↓ クリック、よろしく!
2007.05.08

下請業者が民事再生を申立てた後、元請が孫請に払った立替金を下請代金から控除できる場合東京高裁平成17年10月5日判決元請業者と下請業者との間の契約において 下請業者又はその下請業者が労賃・下請負代金・材料代金等の支払を怠り、若しくはその 恐れがあるときには、元請業者は、これらを立て替えて払うことができる。 という約定(立替払約款)と元請業者は、立替金・前払金・賠償金・求償債権・瑕疵修補費用その他一切の下請業者に対する債権と、その弁済期が到来していると否とを問わず、下請業者に対する債務と対当額で相殺した上で、これを控除して支払う。 という約定(相殺約款)とがある場合その後、下請け業者が民事再生法を申し立てその後、元請業者が孫受け業者に孫請代金1282万円を払い、残額494万円あまりは下請け業者へ払った。上記判決は、「再生債権者が支払の停止等があったことを知った時より前に生じた原因に基づく場合」であるとして上記約款に基づく処理を認めた。特定建設業者の場合、建設業法41条により孫請の賃金相当額について立替払を勧告される(国土交通大臣又は都道府県知事より)ことがあり、勧告を受けた場合、これに従う例が多いところ、上記特約を下請け業者と締結しておけば、損害を防げるということとなる。上記特約がない場合は、相殺は困難であろうと評されている。本判決は元請業者による相殺が認められる理由を検討し、それとともに濫用になる場合を具体的に明示した点で、実務の参考となろうと評されている。 判例タイムズ1226号342頁 頭注ブログランキング参加してます。↓ クリック、よろしく!
2007.05.07
過払い金が充当される借入金債務については貸主の期限の利益は保護されない札幌高裁平成17年6月29日判決においては変更判決が出された判例は、利息制限上の利息の計算において、利息制限法1条1項及び2項の規定は、金銭消費貸借上の貸主には、借主が実際に利用することが可能な貸付額とその利用期間とを基礎とする同法所定の制限内の利息の取得のみを認め、各規定が適用される限りにおいては、民法136条2項ただし書の規定の適用を排除する趣旨と解すべきであるから、過充当される借入金債務については貸主の期限の利益は保護されるものではなく、充当されるべき元本に対する期限までの利息の発生を認めることはできないとういうべきであると判示している(最高裁平成15年7月18日判決 判例タイムズ1133号89頁)従って利息の計算においては、現実の支払日ではなく、約定の支払日で計算するときは、法令違反になる。本判決は、この点を看過していたもので、言い渡し後に法令違反に気づき、変更判決を言い渡したものと思われる。 判例タイムズ1226号333頁 頭注
2007.05.02
過払金返還訴訟において、提訴後に破産宣告・同時廃止・免責決定を受けていながら、なお、訴訟を維持することが信義則に違反しないとされた事例経緯原告が連帯保証人として貸金業者に返済を続けた利息制限法を適用すると過払い金が290万円余生じるとして不当利得返還請求第1審・第2審(札幌地裁・高裁)後も貸金業法43条によるみなし弁済の主張を入れて、原告の請求を棄却最高裁平成16年2月20日判決(判例タイムズ1147号107頁)原判決を破棄して札幌高裁に差し戻し貸金業者は、みなし弁済の主張を撤回して信義則違反を主張した。本件の主な争点は、原告が本件訴訟を提起した後に、破産裁判所に本件訴訟を申告しないで、破産宣告・同時廃止・免責決定を受けたにもかかわらず、その後も本件訴訟を維持することは禁反言と評価され、ひいては信義則に反するかである。この争点について、札幌高等裁判所は次のとおり判断した。Т弁護士が、本件訴訟が継続していながら、破産裁判所に対し、本件訴訟の存在を告知することなく、かつ、原告の陳述書においても本件訴訟の存在を記載しなかったところ、本件訴訟で勝訴すれば約300万円の不当利得返還請求権という財産が原告に存在する可能性があったのであり、原告が破産の申し立てをし、破産審尋を受けた際には、破産裁判所に対し、本件訴訟の存在を告知する必要があったとはいえ、原告が本件訴訟の存在を破産裁判所に告知しないで、破産宣告・同時廃止・免責決定を受けたことは、財産のある場合には管財人を選任して換価・配当手続を行うという破産法の立法趣旨に反するものであり、Т弁護士がこの点を故意に秘匿して申し立てをしたものでないとしても、問題があるといわざるを得ない。しかし、原告のこのような行為は、破産手続きにおける破産裁判所にたいする問題行為であるから、被告は免責取消事由に該当すると解する場合には、破産債権者として免責決定取消の申し立てをすれば足り、本件受訴裁判所である当裁判所の民事手続に何ら影響を与えるものではない。 札幌高裁平成17年6月29日判決 上告されたが上告不受理となっている 判例タイムズ1226号333頁 頭注
2007.05.01
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