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時代の産物であると同時に、新時代へのチャレンジの証 第二次世界大戦の後、米ソの冷戦構造の中で、20世紀半ばを過ぎると宇宙開発の競争なるものが起きた。ソ連が初めて人工衛星を飛ばすのに成功したのは1957年、そしてアメリカがあのNASAを設立したのは翌1958年のことである。そして、本盤『ジャズ・イン・ザ・スペース・エイジ』(つまりは“宇宙時代のジャズ”)が吹き込まれたのは、そのわずか数年後の1960年のことだった。 何が言いたいのかというと、要するに、“これからは宇宙の時代”、宇宙空間こそこれからの人類が目指す最新トレンドだったわけである。正直、現代の私たちから見て、“宇宙の時代のジャズ”というのは、必ずしも魅力的に響かない。けれども、理論家でもあるジョージ・ラッセルにとって、“次の時代”を考えた時、新時代のジャズと新時代の宇宙空間が重なり合うのは、当時の時代背景を考えれば、ある意味で必然の選択肢だったのかもしれない。 さて、ジャケットには、惑星風の丸い球形が描かれていて、表題の他に“ジョージ・ラッセル&ヒズ・オーケストラ”と記されている。さらに“with ビル・エヴァンス”の文言も見られる。これらからわかるように、ジョージ・ラッセル楽団という大編成で、しかもピアノ奏者のビル・エヴァンスが参加しているというものである(そして、ラッセル自身は演奏をしていない)。他に目立ったメンバーとしては、アルト奏者のハル・マクーシック(ハル・マキュージック)、トロンボーン奏者のボブ・ブルックマイヤーなんかも名を連ねている。 曲名にも“ユニバース(宇宙)”とか、“アウター・スペース(宇宙空間)”とかいった表現がつけられているが、目を引くのは、収録曲6曲のうち半分を占める「クロマティック・ユニヴァース」。“PART 1”から“PART 3”までが、収録曲の1.、3.、6.となっている。彼の音楽理論(リディアン・クロマティック・コンセプト)は、水平的(ホリゾンタル)および垂直的(ヴァーティカル)に、いわば横と縦の両方向で音を捉えるというものだから、それはそれで“音の宇宙”を意識したものだったと言えるのかもしれない。だからといって、特別に宇宙をイメージさせる楽曲や演奏かというと、そんなこともないように思うのだけれど、やっぱり“宇宙”という喩えに行ってしまうのは、上で述べたような時代背景があったということなのだろう。 本番は、きっとジョージ・ラッセルがその当時やりたかった理論的・実験的試みが存分に発揮された内容となったものと思われる。そういう意味では、従来の形にとらわれないジャズの胎動が結実した成果の一つと言える。本盤を聴くときに、“次は何が出てくるのだろう”、“次はどういう方向に演奏が向かうのだろう”とついつい考えながら耳を傾けてしまう筆者というのは、見事に彼の術中にはめられてしまっているのかもしれない、などと思ってみたりもする。[収録曲]1. Chromatic Universe, Part 12. Dimensions3. Chromatic Universe, Part 24. The Lydiot 5. Waltz from Outer Space6. Chromatic Universe, Part 3[パーソネル、録音]George Russell (comp, arr), Hal McKusick (as; 2, 5), Walt Levinsky (as; 1, 3, 4, 6), Sol Schlinger (bs; 1, 3, 4, 6), David Young (ts; 1, 3, 4, 6), Bob Brookmeyer (tb; 2, 5), Dave Baker (tb; 1, 3, 4, 6), Frank Rehak (tb; 1, 3, 4, 6), Alan Kieger (tp; 1, 3, 4, 6), Ernie Royal (tp; 1, 3, 4, 6), Mark "Marky" Markowitz (tp; 2, 5), Milt Hinton (b), Charlie Persip (ds; 2, 5), Don Lamond (ds; 1, 3, 4, 6), Jimmy Buffington (French horn; 1, 3, 4, 6), Barry Galbraith (g; 1, 3, 4, 6), Howard Collins (g; 1, 3, 4, 6), Bill Evans (p), Paul Bley (p; 1, 3, 4, 6)1, 3, 4, 6: 1960年5月録音。2, 5: 1960年8月1日録音。 【中古】 ジャズ・イン・ザ・スペース・エイジ /ジョージ・ラッセル 【中古】afb JAZZ IN THE SPACE AGE +5 [ ジョージ・ラッセル ]↓こちらはLP盤↓ 【輸入盤LPレコード】George Russell & Orchestra / Jazz In The Space Age【LP2017/2/10発売】(ジョージ・ラッセル) 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2020年12月12日
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“羊頭狗肉”の秀逸演奏盤 『マイルス&モンク・アット・ニューポート(Miles & Monk at Newport)』という表題を初めて目にした人にしてみれば、まさか共演していないと思う方が珍しいのではないか。しかし、実際には、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)の演奏は1958年のニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでのもの、セロニアス・モンク(Thelonious Monk)の方は1963年の同じくニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでのライヴ演奏がこの盤には収められている。つまるところ、違う年(しかも5年も間が空いている)の同じジャズ・フェスティヴァルでの演奏をカップリングしたわけであって、共演でもなんでもない。要するに、“羊頭狗肉”と呼んでいい(まあ、当時の売り込み方がそうだったと言ってしまえばそれまでなのかもしれないけれど)。 だからといって、この“羊頭狗肉”盤が駄盤だったのかというと、そんなことはまったくもってない。LP盤の区分によるA面(マイルス・デイヴィスによる1.~4.)も、B面(セロニアス・モンクの5.~6.)も、どちらも極上のライヴ演奏なのである。結論から言ってしまえば、A面とB面が連続していると思って聴くと疑問符がつくかもしれない。しかし、最初から両者が別物であると思って聴けば、どちらも素晴らしい演奏というわけである。そんなわけで、これは“1枚”の盤ではなく、“0.5枚×2”の盤と認識したほうがいいように思う。 マイルスの演奏については、キャノンボール・アダレイ、ジョン・コルトレーンとの三管で、何と言ってもマイルスのグループの初ライヴである。個人的好みはテンポのいい2.「ストレート・ノー・チェイサー」。他には、1.「アー・リュー・チャ」も、4.「トゥー・ベース・ヒット」もアップテンポに迫力のある演奏だが、マイルスのオリジナルである3.「フラン・ダンス」が、ことマイルスの演奏に関してはいちばん彼らしい演奏になっていると言ってもいいように思う。 一方、モンクの方は、尺の長い演奏で2曲が収められているが、どちらも彼らしさそのまんまといった演奏である。特に6.「ブルー・モンク」は数あるこの曲の演奏音源の中でも1、2の出来を争うと言えそうな気がする。 最後に、しつこいようだけれども、本盤は“羊頭狗肉”である。けれども、決して“詐欺”ではない。適切な喩えかどうかわからないけれど、高額な“幸運を呼ぶ壺”が安物だったら、それは詐欺である。けれども、その壺が値段相応に実は価値のあるものだったらどうだろうか。壺の美術性なり品質なりは値段相応やそれ以上というわけである。“売り方”に問題はあるという印象は、筆者的にはいまだに拭えないのだけれど、その中身は品質保証済みといったわけである。まあ、マイルス・デイヴィスにセロニアス・モンクという、ジャズ界の巨匠なわけだから、怪しげな“幸運を呼ぶ壺”のままであってもいいのかもしれないけれど(笑)。 [収録曲]1. Ah-Leu-Cha2. Straight, No Chaser3. Fran-Dance4. Two Bass Hit5. Nutty6. Blue Monk[パーソネル、録音]1.~4.: Miles Davis (tp), Cannonball Adderley (as), John Coltrane (ts), Bill Evans (p), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (ds)1958年7月3日録音。5.~6.: Thelonious Monk (p), Pee Wee Russell (cl), Charlie Rouse (ts), Butch Warren (b), Frankie Dunlop (ds)1963年7月4日録音。 輸入盤 MILES DAVIS / MILES & MONK AT NEWPORT (MONO)(LTD) [LP]↓こちらはLP盤です↓ 【輸入盤LPレコード】Miles Davis / Miles & Monk At Newport (Mono Vinyl) (Mono)(マイルス・デイウ゛ィス) 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2020年12月09日
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脇役としてもリーダーとしても実力を発揮したベース奏者によるリーダー作 オスカー・ペティフォード(Oscar Pettiford)は、1922年オクラホマ生まれのベース奏者(1960年没)。1940年代に本格的に活動を始め、1950年代を通じて様々な吹き込みを残したジャズ・ベーシストの父とも言えるようなミュージシャンである。バップ時代のサイドマンとして、数々の録音を残したほか、ベース奏者としては、さらに、若くして亡くなったことも勘案すると、それなりの数のリーダー作を残している。 本盤『オスカー・ペティフォードの真髄(Oscar Pettiford Vol. 2)』は、『アナザー・ワン(Another One)』というタイトルでもリリースされた盤で、1955年に吹き込まれた。日本盤の『…真髄』という表題のつけ方、こればかりは、個人的にはどうも好みではない(かつてジャズの世界ではこういう仰々しい言い方がもてはやされたのも確かだった)けれど、確かに彼の本質が表現されていて、絶頂期を示す盤という点については、確かにその通りだと思う。 本盤の収録曲は粒ぞろい。ひとことで言えば、外れのない安定した演奏内容だと言えるだろう。1.「アナザー・ワン」や5.「オスカリプソ」、あるいは9.「カマンズ・アカミン」といった演奏のテンポのよさは印象的で、しかもいつ聴いても心地よい。けれども、本盤の最大の聴きどころはというと、3.「スターダスト」と4.「ボヘミア・アフター・ダーク」ということになるだろうか。後者は、ペティフォードの有名なオリジナル曲で、様々な奏者によって演奏されている(例えばこちらは筆者の大のお気に入りだったりする)が、ペティフォードがニューヨークの“クラブ・ボヘミア”を拠点にしていたことによる。前者の3.「スターダスト」は、有名なスタンダード曲だが、ピアノも入っているとはいえ、ほぼベース・ソロに近い演奏内容。ベース奏者の面目躍如の力のこもった名演と言えるように思う。[収録曲]1. Another One2. Minor Seventh Heaven3. Stardust4. Bohemia After Dark5. Oscalypso6. Scorpio7. Titoro8. Don't Squawk9. Kamman's a-Comin'[パーソネル、録音]Oscar Pettiford (b, cello)Donald Byrd, Ernie Royal (tp: 3.を除く)Bob Brookmeyer (v-tb: 3.を除く) Gigi Gryce (as, cl: 3.を除く)Jerome Richardson (ts, cl, fl: 3.を除く)Don Abney (p)Osie Johnson (ds: 3.を除く) 1955年8月12日録音。 【輸入盤】Classic Albums 1953-1960 [ Oscar Pettiford ] 輸入盤 OSCAR PETTIFORD / 7 CLASSIC ALBUMS (DIGI) [4CD] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年10月05日
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名曲揃いの新クインテットによる好実況演奏盤 マイルス・デイヴィス(Miles Davis)のクインテットは、ジョン・コルトレーン(サックス)のほかレッド・ガーランド(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラムス)の時代に始まり、メンバーの変遷を経ながら、1960年代には、ハービー・ハンコック(ピアノ)、ロン・カーター(ベース)トニー・ウィリアムス(ドラムス)の時代へと移り変わっていく。このうち、後者のメンバーの時期に録音されたライヴ実況盤が、1964年ドイツのベルリンでの演奏を収めた本作『マイルス・イン・ベルリン(Miles in Berlin)』である。 『マイルス・イン・トーキョー』とほぼ同じ時期の録音(東京は1964年7月で、ベルリンは同年9月)だが、メンバーには異動がある。テナー・サックスがサム・リヴァースからウェイン・ショーターに代わっており、その新メンバーでの早速のヨーロッパ公演で録音された音源ということになる。独特の個性があったサム・リヴァースに対し、ウェイン・ショーターはメロディックに流れていくような演奏を意図しているように思える。 本盤の大きな特徴の一つは、その選曲にあるとも言えよう。1.「マイルストーンズ」、2.「枯葉」、3.「ソー・ホワット」、4.「ウォーキン」という曲の並びを見れば一目瞭然だけれど、とにかく代表曲のオンパレードなのである。無論、どの曲にしても、既発表のレコーディングと同じアレンジというわけではなかったり、それぞれ独自性が出されたりしている。とはいえ、これだけ有名曲を並べて、以前とは違うメンバーや異なるアレンジで披露されると、聴く側としては断然盛り上がってしまう。 そんな中でも、個人的に特に注目と思うのは、1.「マイルストーンズ」と3.「ソー・ホワット」。前者は、とにかくマイルスの演奏がスリリング。後者は、マイルスの演奏もさることながら、新加入のウェイン・ショーターがこのメンバーに溶け込んでいく様子がドキュメントのように見えるのが面白い。 余談ながら、当時、本盤はドイツでのみリリースされ、アメリカでは発売されなかった。日本盤も1970年代に入ってから出たとのことである。上述の同じ年の東京でのライヴ(『マイルス・イン・トーキョー』)は1969年にリリースされ、発売のタイミングは違ったわけだけれど、レコーディングのタイミングとしては2か月しか離れておらず、あらためて同じ年のライヴ演奏盤として並べて聴くのもよいのではないだろうか。[収録曲]1. Milestones2. Autumn Leaves3. So What4. Walkin'5. Theme[パーソネル、録音]Miles Davis (tp), Wayne Shorter (ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)1964年9月25日録音。 マイルス・イン・ベルリン +1 [ マイルス・デイビス ] マイルス・イン・ベルリン +1/マイルス・デイビス[Blu-specCD2]【返品種別A】 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年10月02日
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影の薄いピアノ奏者による本領発揮盤 エディ・グリーン(Eddie Green)というピアノ奏者は決して有名ではない。詳しいジャズ・ファンならともかく、広く一般的には“どこかで聞いたことのあるような内容な名前”かもしれない(それもそのはずで、実際、同姓同名の別の音楽家やスポーツ選手もいれば、有名な犯罪者もいる)。このエディ・グリーンは、フィラデルフィアを拠点に活動したピアニストである。派手な活動をしなかったとはいえ、ソニー・クリスやパット・マルティーノなど有名ミュージシャンとの録音も経験している。 1933年生まれで2004年に亡くなった彼が生前にリリースした作品で、通の間で高い評価を受けているとされるのが、本盤『ジス・ワンズ・フォー・ユー(This One's for You)』である。1994年にフィラデルフィアで収録されたもので、その演奏内容は、よき時代のモダン・ジャズの伝統を引きずりながら、実にスウィンギーで、トリオのバランスも選曲のバランスもプロの妙といった作品に仕上がっている。 自前の曲(2.,3.,7.の3曲)とそれ以外のナンバーのバランスもよいが、グリーン自作のものは本当にどれも出来がいい。曲として優れた出来というよりは、何よりも演奏内容に曲がマッチしているという点がいいのである。とくに、表題曲の2.「ジス・ワンズ・フォー・ユー(ディス・ワンズ・フォー・ユー)」はしっとりとピアノを聴かせ、3.「イン・アウト」はスウィング感いっぱいにテンポよく聴かせる。それ以外に特に注目したい曲を少し挙げると、1.「ユニット・セヴン」はこのトリオ演奏の息の合った演奏にリスナーを惹き込むのに相応しい冒頭曲だと思う。また、5.「スプリング・キャン・リアリー・ハング・ユー・アップ・ザ・モースト」はデューク・ピアソンの曲だが、演奏内容を聴けば、なるほどと感心してしまう選曲。 かなり昔から日本ではピアノ・トリオが偏愛される傾向にある。ここ数十年だと、甘ったるい豪華なピアノ音に酔いしれる趣向の盤も多いけれど、本盤のようなものは、ある種“硬派”という言い方をしてもいいのだろうと思う。そして、そうした“硬派”なピアノ・トリオも、もっともっと聴かれてしかるべきだという風に考えてみたりもする。[収録曲]1. Unit Seven 2. This One's For You 3. In'n Out 4. Spring Can Really Hang You Up The Most 5. Jeannine 6. All The Things You Are 7. Skeeter's Kitchen[パーソネル・録音]Eddie Green (p)Tyrone Brown (b)Jim Miller (ds)1994年9月26~27日録音。 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2020年09月26日
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血筋も遍歴も、いかにも“ジプシー”な演奏者による一枚 エレク・バクシク(またはエレック・バクシック、Elek Bacsik)は、1926年ブタペストの生まれで、いわゆるジプシー(ロマ)の家系に生まれた。1910年ベルギー出身の有名ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトの従弟にあたるという。バクシクもまた、従兄と同様にジャズ・ギターを演奏し、さらには、ヴァイオリンも演奏した。1949年にハンガリーを出て、ヨーロッパ各地を経てパリにたどり着き、ジャズ演奏に従事した。やがて1966年にはアメリカへ移住し、1993年にシカゴで亡くなっている。 彼が残した作品の数は少ないようで、これまでのところ、筆者は今回取り上げるこの盤しか有していない。1962年にフォンタナ(オランダのフィリップス系のレーベル)に吹き込んだ最初の作品が、この『ジ・エレクトリック・ギター・オブ・ジ・エクレクティック・エレク・バクシク(The Electric Guitar of the Eclectic Elek Bacsik)』である。 その表題の通り、エレクトリック・ギターによるトリオ演奏であるが、演奏内容はスタンダードなジャズにそんなに近いという感じではなく、むしろロマの伝統の現代的解釈といった趣が強い。そうは言っても、4.「テイク・ファイヴ」や5.「柳よ泣いておくれ」、あるいは、8.「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」や10.「マイルストーンズ」といったジャズの定番曲を彼流に解釈しているところが聴きどころと言えるように思う。 ちなみに、筆者の手元にあるのは、『ヌアージュ(Nuages)』というタイトルでリイシューされた盤である。これは、“Jazz in Paris”というシリーズの1枚として2002年にリリースされたCDである。こちらの盤では、EPとして発表されたボサノヴァ・ナンバー4曲(11.~14.)が併せて収録されている。[収録曲]1. Blue Rondo a la Turk2. Angel Eyes3. Godchild4. Take Five5. Willow Weep for Me6. Opus de Funk7. My Old Flame8. On Green Dolphin Street9. Nuages10. Milestones11. Desafinado12. Recado13. Samba de Uma Nota So14. Stardust[パーソネル、録音]Elek Bacsik (g)Pierre Michelot (b: 1, 4, 5, 7, 8, 10), Michel Gaudry (b: 2, 3, 6, 9)Kenny Clarke (ds: 1, 4, 5, 7, 8, 10), Daniel Humair (ds: 2, 3, 6, 9) The Electric Guitar Of The Eclectic Elek Bacsik 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年07月25日
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ドイツ発のピアノ・トリオ盤 パトリック・トンパート(パトリック・トムパート、Patrick Tompert)というミュージシャンについて、詳しい情報はよくわからないのだけれど、どうやらドイツのピアノ奏者ということらしい。2000年に録音された本盤『モチェ!(moche!)』は、ピアノ・トリオにはまっているとある友人とのやり取りに端を発して見つけた盤なのだけれど、意外と気に入って時々聴いている。 タイトルがどういう意味なのかもいまだに不明なのだが(まさかアンデスのモチェ=モチーカ文化ではないだろう)、ドイツはシュトゥットガルトで吹き込まれたトリオ録音。ドイツのジャズというと、何だか生真面目なイメージがついついしてしまうのだけれど、往年のユタ・ヒップを思い起こさせるかのようなスウインギーで流れるようなピアノ演奏が印象的な盤である。 収められているナンバーを見ると、メンバーの自作曲とスタンダード曲が入り混じっている。冒頭が有名曲の1.「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」というのも好感が持てるし、アルバムの締めくくりが、テンポよく演奏される「朝日のようにさわやかに」というのがなおいい感じを与えてくれる。その一方、メンバーの自作曲でも、優雅にスウィングしながらマイペースでキレのいい演奏が繰り広げられる。例えば、5.「ジャスト・ドント」(トンパート作)や9.「ア・フュー・ワーズ・フォー・ガリレオ」(イタリア系?のペトロッカ作)なんかが筆者としては気に入っている。[収録曲]1 On Green Dolphin Street2 Sam's Blues3 Moche!4 Song for My Parents5 Just Don't6 Cute7 Secret Love8 On the Highway9 A Few Words for Galileo10 Softly as in a Morning Sunrise[パーソネル、録音]Patrick Tompert (p), David Petrocca (b), Werner Braun (ds)2000年8月12~14日録音。 ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひクリックをお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年07月23日
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“これぞ王道”的なジャズ・ピアノ・トリオ盤 ギド・マヌサルディ(Guido Manusardi)は、1935年、北イタリア生まれのジャズ・ピアノ奏者。イタリア出身とはいえ、北部のスイスとの国境に近いキアヴェンナ出身ということもあるせいか、スイス、ドイツ、オランダなどから活動を始めた。アート・ファーマー、デクスター・ゴードン、ジョニー・グリフィン、ブッカー・アーヴィン、ルー・ドナルドソンなどそうそうたるミュージシャンたちとの共演経験を持つ。 本盤『ザ・ニアネス・オブ・ユー(The Nearness of You)』は、2003年にミラノで吹き込まれたトリオ盤であるが、ある意味、実に分かりやすい盤であると思う。このように言うと、“真髄を分かっていない”などと批判されてしまいがちなのは承知の上で、敢えて言えば、“これぞジャズ・ピアノ”然とした盤なのである。録音時のマヌサルディは既に70歳近く、お世辞にも若くはない、というかむしろ老齢である。言い換えれば、その経験の積み重ねをピアノで紡ぎだす、そしてその演奏は、“これぞジャズ・ピアノ”とでも言える内容に仕上がっていると思う次第なのである。 全編を通じて統一感があり、通して聴くのがその雰囲気を感じるにはいちばんだとは思うが、敢えていくつか注目の演奏を挙げてみようと思う。1.「スピーク・ロウ」は、ある種、お手本的演奏であるが、変なタメがあまりない(言い換えると流れるような演奏)というのが個人的には好感の持てる点であったりする。そうした流れのある演奏という意味では、5.「アイ・ネヴァー・ニュー」は外せないように思う。さらに、テンポとキレのよさという点では、7.「ザ・ウェイ・ユー・ルック・トゥナイト」も聴き逃がせない。他の演奏者も少し意識してみると、6.「エヴリタイム・ウィ・セイ・グッバイ」あたりのベースに注目したいところ。他のいくつもの曲でもこのマルコ・ヴァッジというベース奏者の演奏は結構本盤の演奏の鍵になっているように思う。 ありがちなまとめ方で恐縮だが、“これぞジャズ・ピアノ”な演奏という意味では、決して超メジャーな奏者ではないけれども、こういう演奏と最初に出会えるのは結構幸せなんじゃないかと思ってみたりもする。つまりは、初めてジャズを(あるいは、ジャズ・ピアノ盤を)聴く人にも勧められるような、そんな盤ではないかという風に感じる。[収録曲]1. Speak Low 2. The Nearness Of You 3. Time After Time 4. Spartacus 5. I Never Knew 6. Ev'ry Time We Say Goodbye 7. The Way You Look Tonight 8. Everything Happens To Me 9. My Heart Stood Still 10. The Wasted Years 11. If I Should Lose You[パーソネル、録音]Guido Manusardi (p), Marco Vaggi (b), Tony Arco (ds)2003年10月録音。 ギド・マヌサルディ・トリオ / THE NEARNESS OF YOU [CD] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年07月03日
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若き日のセッションの記録 シェリー・マン(Shelly Manne)は、1920年生まれのジャズ・ドラマーで、西海岸(ウエスト・コースト)ジャズの代名詞的存在となった人物である。スタン・ケントン楽団で頭角を現し、1950年代には西海岸ジャズを代表する演奏者になっていったわけだけれど、本盤は、1944年の、まだ20歳代前半の若かりし頃のセッションを音源として、1960年代に最初にコンタクトによってリリースされ、後に1970年代にフライング・ダッチマンから再リリースされたものであった。 そんなわけで、録音年代は古く、音質も決してよくはない。加えて、そもそも他人名義で発表されたものなので、シェリー・マンが実際にリーダーだった音源というわけでもない。けれども、彼のドラムスに注目すれば、なるほどと思わされる。後に一世を風靡することになったドラミングの素地はすでに出来上がっていたのである。 演奏自体は確かに全体としては1940年代の香りがするのだけれど、シェリー・マンは着実に演奏を引っ張っている。異なる複数のセッションから採られた音源だが、曲目としては、1.「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」、6.「ティー・フォー・トゥー」、12.「ステップ・ステップス・ダウン」なんかでそうした役割が顕著に見てとられるという風に思う。他にも、3.「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」や7.「ゼム・ゼア・アイズ」、9.「ナイト・アンド・デイ」、11.「ステップ・ステップス・アップ」の演奏なんかで安定感抜群の着実なドラミングを垣間見ることができる。 これがシェリー・マンを代表する盤かと言えば決してそうではない。けれども、彼の真髄を知る上では、案外わかりやすい盤なのではないだろうかとも思う。彼のドラミングの基礎というか基本的な考え方みたいなものが、いくぶん荒い形ではあるけれども実によくわかる、そんな盤だと言えるのかもしれない。[収録曲]1. How High the Moon2. When We're Alone (Penthouse Serenade)3. On the Sunny Side of The Street4. Time on My Hands5. Moonglow6. Tea for Two7. Them There Eyes8. Sarcastic Lady9. Night and Day10. Flamingo11. Step Steps Up12. Step Steps Down[録音・パーソネル]1., 2., 7., 8.(The Eddie Wood and His Orchestra):John Simmons (b), Aaron Sachs (cl), Shelly Manne (ds), Eddie Heywood (p), Don Byas (ts), Ray Nance (tp, vln)1944年5月2日録音。3., 4., 9., 10. (The Eddie Heywood Trio):Johnny Hodges (as), Shelly Manne (ds), Eddie Heywood (p)1944年5月26日録音。5., 6., 11., 12. (Shelly Manne Featured With The Barney Bigard Trio):Barney Bigard (cl), Shelly Manne (ds), Eddie Heywood (p)1944年(日付不明)録音。 シェリー・マン&カンパニー [ シェリー・マン ] 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2020年06月29日
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若い頃のコニッツらしさ満開のライヴ演奏盤 日本では志村けんや岡江久美子といった芸能人が新型コロナウィルスで亡くなり、大きなニュースとなったが、アメリカやその他の世界各国でも有名人の感染や死去が次々に報道された。本年4月15日に92歳で亡くなったジャズ界の巨匠、リー・コニッツ(Lee Konitz)もその一人だった。今回は、リー・コニッツの追悼ということで、まだ本ブログでは取り上げていなかったこの盤について見ていくことにしたい。 本盤『アット・ストーリーヴィル(At Storyville)』の音源が吹き込まれたのは、1954年初頭のボストンでのこと。もともとは放送用の録音だったらしい。その当時には10インチ盤として限られた曲だけがレコード化されたが、現行のものは追加の音源を含み、通常のアルバムの長さ(48分ほど)になっている。 この当時のリー・コニッツの演奏は、齢を重ねてからの吹込みとは違い、端的に言えば、わかり易くはない。彼のアルト・サックスの演奏は、ストレートと言うよりは“くねくね”している。正直、わかり易いコニッツも嫌いではないのだけれど、やっぱりこっちの方が彼の真髄なのかなと思う。 そんな観点から聴くとすると、2.「ハイ・ベック」はある種、本領発揮の演奏である。さらに、5.「サウンド・リー」はこの盤の中で1、2を争う好演奏だと思う。10インチ盤収録のもの以外では、8.「アブリューション」が個人的にはいいと感じる。 リー・コニッツを聴く人の中には“聴きやすい”系の盤しか聴かない(あるいはこれまで聴いていない)と言う人もいるかもしれない。そんな中で、本盤は、もう少し小難しかった頃のコニッツの演奏をたいへんよく体現している盤で、そちらを好みという人にとっては、“全盛期”を体現する作品と言ってもいいように思う。ともあれ、この災禍がなければさらに長生きしたかもしれないリー・コニッツの冥福をお祈りしたい。R.I.P.[収録曲]1. *Introduction by John McLelland 2. Hi Beck3. *If I Had You4. Subconscious Lee5. Sound Lee6. *Foolin' Myself7. *Introduction by John McLelland 8. *Ablution 9. These Foolish Things10. *End Announcement by John McLelland*印はリイシュー時の追加音源。[パーソネル、録音]Lee Konitz (as), Ronnie Ball (p), Percy Heath (b), Al Levitt (ds)1954年1月5日録音。 【国内盤CD】【ネコポス送料無料】リー・コニッツ / アット・ストーリーヴィル 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2020年06月18日
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無国籍的現代ジャズの好作 キム・ハクエイ(Hakuei Kim,金伯英)は、1975年、京都生まれのジャズ・ピアニスト。父は韓国人、母は日韓ハーフという出自で、札幌で育ち、オーストラリアの大学で学んだという。日本・韓国・中国・アメリカと活動の幅を広げたとのことで、筆者はこの人のことをよく知らいないけれど、経歴を見る限り、様々な国において活動を繰り広げているということのようである。 2005年にインディーズでデビューし、2008年の本盤『シャドウ・オブ・タイム(Shadow of Time)』は3作目の作品である。その後は、2011年にユニヴァーサル・レーベルからメジャー・デビューも果たしている。この第3作は、当初からのオーストラリアのミュージシャンとのトリオ盤であるが、スタンダード曲を題材にしている。そうは言っても、ありきたりな“スタンダード曲集”ではなく、ひと捻りした選曲という風に思う。 キム・ハクエイのピアノは、一言で表すなら“美しくてエキサイティング”。タッチがはきはきしていて、音が美しいのだけれど、ただそれだけじゃなく、その上で、わくわくさせるようなプレイが身上なのである。どちらかというと激しいドラムおよびベースとの息も抜群。ものすごく奇抜なことは一切していないのだけれど、スタンダードなことをしてその延長線でこうした“奇抜さ”を感じられるというのは、きっとピアニストとして、またアルバムの制作者としての力量ゆえということだろうか。 収録曲の中で特に注目したいのは、まずは1.「ラウド・ジー」。ピアノが登場するまでに敢えて“タメ”を設け、その後、淡々とピアノを利かせる姿勢に冒頭から好感が生まれる。4.「タイム・オン・マイ・ハンズ」は、妙に余裕のある演奏が聴きどころ。ジャズ・アルバムらしからぬ5.「ドナ・ドナ」はジョーン・バエズで知られるナンバーだが、1975年日本生まれというところにこの選曲は関係しているのだろうか(日本では1960年代にカバーなどもあって知られるようになり、70年代には定番曲となっていた)。T・ダメロン作の7.「レディ・バード」もテクニックとエキサイティングな期待感のバランスが実にいい。ここまで触れなかった曲についても、捨て曲がなく、アルバム1枚通して抑揚があり楽しむことができる。 ひょんなことから、たまたま聴いてみたピアニストだったのだが、これ1枚で他の盤も試してみたいと思わせてくれる好盤であった。キム・ハクエイの他の盤についても、機会があればいずれ取り上げてみたいと思う。[収録曲]1. Loud Zee2. Elsa3. Holy Land4. Time on My Hands5. Dona Dona6. A Hundred Years from Today7. Lady Bird8. In the Wee Small Hours of the Morning[パーソネル、録音]Hakuei Kim (p), Ben Waples (b), Dave Goodman (ds)2007(?)年録音。 【国内盤CD】【ネコポス送料無料】HAKUEI KIM TRIO / SHADOW OF TIME 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2020年04月29日
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トロンボーン入り三管フロントの到達点 1950年代を通してのジャズ音楽の変動を経て1960年に吹き込まれた1枚が、本盤『イメージズ(Images of Curtis Fuller)』である。トロンボーン奏者のカーティス・フラー(Curtis Fuller)をリーダーとするが、彼は1957年にシーンに登場し、プレスティジでの録音を皮切りにブルーノートで次々と作品を残す。1959年からはサヴォイ・レーベルへの吹込みを行うが、そのうちの1枚が本盤ということになる。 全曲がカーティス・フラーの自作曲で、自身のトロンボーン演奏が引き立つ曲かつアレンジだが、本盤にはトランペット(ウィルバー・ハーデンおよびリー・モーガン)、テナー・サックスおよびフルート(ユセフ・ラティーフ)が参加している。つまりは、自作曲でトロンボーン演奏を披露すると同時に、三管フロントでの演奏を意図した作品というわけである。結果、本盤はトロンボーンを含む三管での盤の典型例で、一つの到達点を示す演奏に仕上がっているように思う。 三管といえども、その演奏は“バトル”といったような風情ではない。むしろ、基本的には、異なる楽器が順に登場し、演奏を披露していくといった雰囲気が強い。実際の録音は2日間にわたり、それぞれ少し異なるメンバーで収録されている。何曲か筆者の好みを挙げておきたい。1.「アクシデント」はトロンボーン、テナー、トランペットという三管編成のお手本のような演奏で、純粋に気持ちよく聴ける好曲。4.「ジュディフル」は、『ブルースエット』に含まれてもよかったのではないかという気がするナンバーで、個人的には1.とこの4.が本盤の最大の聴きどころのように思う。あと、5.「ニュー・デイト」は、トロンボーンの演奏がお気に入り。 なお、筆者の手持ちは本来の5曲入りのCDなのだけれど、現行のリイシューCDでは、1.、2.、5.の別テイクも収められている。[収録曲]1. Accident2. Darryl's Minor3. Be Back Ta-Reckla4. Judyful5. New Date[パーソネル、録音]1.および5.:Curtis Fuller (tb), Wilbur Harden (tp), Yusef Lateef (ts), McCoy Tyner (p), Jimmy Garrison (b), Clifford Jarvis (ds) 1960年6月6日録音。2.~4.:Curtis Fuller (tb), Lee Morgan (tp), Yusef Lateef (ts, fl), McCoy Tyner (p), Milt Hinton (b), Bobby Donaldson (ds)1960年6月7日録音。 【中古】 イメージズ /カーティス・フラー 【中古】afb 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2020年04月26日
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ジャケットの出来と演奏内容は比例しない ハンプトン・ホーズ(Hampton Hawes)は、西海岸はロス出身のジャズ・ピアノ奏者。この人の自身の名義による吹き込みの最初期に当たる1955年の3作は、とくに筆者のお気に入りで、きっと広く聴かれるに相応しいと思っていたりする。それら3作の3枚目に当たるのが、本盤『ザ・トリオVol. 3(Everybody Likes Hampton Hawes, Vol. 3: The Trio)』。前2作と同様に、ベースはレッド・ミッチェル、ドラムはチャック・トンプソンというトリオ盤である。 とにかく軽やかでご機嫌な演奏というのが、全体を通してのイメージと言えるだろう。けれども、よくよく考えてみれば、“さらりとしているように聴こえるけれどけど実は芯が通っている”、“テクニカルに聞こえないけれど実はハイレヴェル”というのが、本盤を評するのに適切ではなかろうかと思う。まさしくそういう意味で、本盤は聴けば聴くほど味わいがでてくる、いわばスルメ盤と言えるだろう。 そんな観点からすると、ベストの演奏は6.「恋人よ我に帰れ」。次いで、4.「アイ・リメンバー・ユー」と5.「チュニジアの夜」、さらに続いて、3.「エンブレイサブル・ユー」、9.「ボディ・アンド・ソウル」、10.「クーリン・ザ・ブルース」。聴けば聴くほど味わい深くなると思える盤に出会うと本当に幸せだけれど、本盤は確実にそうした一枚だと思う。 ついでの余談ながら、個人的な趣味からすると、このジャケット(ご機嫌なワニが描かれたイラスト)は何とかならなかったものか…。これを“ワニがご機嫌に音楽を聴いていて…”などという人もいるようだけれど、正直、この盤の内容には合っていないと思う。これがコンテンポラリーのアルバムを作っていた人のセンスと言えば、それまでなのだろうが、せめて第2作のような本人写真なら、たとえいまひとつなカットであっても納得できそうなものなのだけれど(笑)。[収録曲]1. Somebody Loves Me2. The Sermon3. Embraceable You4. I Remember You5. Night in Tunisia6. Lover, Come Back To Me7. Polka Dots and Moonbeams8. Billy Boy9. Body and Soul10. Coolin’ the Blues[パーソネル、録音]Hampton Hawes (p), Red Mitchell (b), Chuck Thompson (ds)1956年1月25日録音。 Everybody Likes Hampton Hawes: Vol. 3, The Trio【中古】 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2020年04月01日
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適度にラテンで歯切れのよいピアノ・トリオ推奨盤 LTCとは、イタリアのピエトロ・ルッス (ピアノ)、ロレンツォ・トゥッチ (ドラムス)、ピエトロ・チアンカリーニ (ベース) によるユニット。これら三者の苗字の頭文字を並べて、L(Lussu)、T(Tucci)、C(Ciancaglini)という訳である。2005年にこのユニットとして最初のアルバムを出し、それに続いて2008年にリリースされたのが、本盤『ア・ディファレント・ヴュー(A Different View)』であった。 とくに日本受けするピアノ・トリオというと、良くも悪くもリリカルな感じの盤に傾きがちだが、本盤は、歯切れがよく打鍵の強さが感じられるのがいい。世にいう“ラテン・ジャズ”というのとはいま一つ違うのだけれど、イタリアのトリオというせいか、このノリのよさは現代米国ジャズや一般的な現代欧州ジャズにはあまり見られない部分という気がする。 本盤に収められたいくつかの曲についてコメントしておきたい。1.「ジャスト・ギヴ・ミー・タイム」の歯切れのよさは、上記のラテンのノリや間合いがうまく生かされた演奏と言える(同じことは、本盤収録曲中では5.「メニーノ・ダス・ラランジャス」にも実に当てはまるように思う)。3.「ザ・ホーリー・ゴースト」は、大きな展開や盛り上がりがあるわけではないが、この安定感が筆者は結構好きだったりする。 7.「アンソニー・アンド・クレオパトラズ・ラヴ」は、日本語に訳すと“アントニウスとクレオパトラの愛”。ローマ皇帝マルクス・アントニヌスとエジプト・プトレマイオス朝のクレオパトラが出てくる美しい曲調のナンバーを含めるというのは、さすがローマ帝国の中心だったイタリアらしいという気がする。8.「シブヤ・クロッシング」は日本ではテレビでも散々目にする、あの東京・渋谷のスクランブル交差点をテーマにしたものの模様。同じく、ボーナス・トラックとして収録されている11.「ジャパニーズ・クラウズ」もどうやら日本からインスピレーションを受けた曲のようである(“クラウド=群衆、人ごみ”と言いながらどこか整然とした感じがするのは、日本の喧騒がそういう印象だったのかと勘繰りたくもなる)。 ちなみに、ピエトロ・ルッス(Pietro Lussu)は、この後に彼自身の名義盤も出しているので、次の機会にはそれも取り上げたいと思っている。[収録曲]1. Just Give Me Time2. A Different View3. The Holy Ghost4. Magic Mirror5. Menino das Laranjas6. Easy Does It7. Antony and Cleopatra's Love8. Shibuya Crossing9. Breakfast with Silvia10. I Wish I Knew How It Would Feel to Be Free11. Japanese Crowd [bonus track][パーソネル、録音]Pietro Lussu (p), Pietro Ciancaglini (b), Lorenzo Tucci (ds)2007年(?)録音、2008年リリース。 A Different View【中古】 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2020年03月25日
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派手さはなくとも、安定して聴ける好盤 ジャズ・ギターというと、これをお読みの方はどんな名前が最初に思い浮かぶだろうか。タル・ファーロウやジョニー・スミス、はたまたジミー・レイニー、あるいはケニー・バレルだったりするだろうか。数々のギタリストの中で、このジョー・ピューマ(Joe Puma)という人は、いちばん最初に思い浮かばなくとも、順に挙げていくと忘れるわけにはいかない名前の一つとして思い浮かぶ人物ではなかろうかと思ったりする。 1927年ニューヨーク生まれのジョー・ピューマは1948年頃から活動をはじめ、主に1950年代以降、セッション・ミュージシャンとして活躍した。その一方で、数は多くないものの、リーダー作もいくつか残している。そんな中で代表的な作品とされるのが、ベツレヘムに吹き込まれた本盤『イースト・コースト・ジャズ・シリーズNo.3(East Coast Jazz Series No. 3)』である。 ヴィブラフォン(ドン・エリオット)入りで、ギターの客演(バリー・ガルブレイス)が入るということで、シンプルなギター・トリオではないのだけれど、ジョー・ピューマのギターの魅力は存分に活かされている。その特徴は、柔らかなピッキングにテンポのよさと言えるように思う。一人で圧倒的に聴かせるというよりは、アンサンブルの中で持ち味を発揮しているというのがぴったりくるように感じる。 個人的な好みで何曲か聴きどころと思える曲をピックアップしてみたい。1.「ロリス」は、淡々としながらも、本盤のトーンをよく表している。スタンダード曲の3.「ホワット・イズ・ゼア・トゥ・セイ」は、この曲のベストの演奏という訳ではないかもしれないが、“ああ、なるほど”と納得の演奏。ギターとヴィブラフォンが安定的に調和しているのが、筆者的には好みだったりする。6.「ピューマティック」は、彼の名を冠した自作曲だが、このテンポのよさと丁寧な一音一音が持ち味の本領発揮という気がする。 そのようなわけで、派手な盛り上がりは期待すべきではない盤だと思う。けれども、この安定的なギター演奏に合わせるようにまったりとからむ参加メンバーの演奏は、結果的に全体としての統一感を醸し出している。変に“お洒落なジャズ”を進めるケースもあるが、そういう勧め方をするのならば、こういう盤こそ、そうした1枚に選ばれてもいいのかもしれないなどと考えてみたりりもする。[収録曲]1. Loris2. A Little Rainy3. What Is There to Say4. Hallelujah5. How About You6. Pumatic7. Liza8. Moon Song (That Wasn't for Me)[パーソネル、録音]Joe Puma (g), Barry Galbraith (g), Don Elliott (vib), Vinnie Burke (b), Teddy Sommer (ds)1954年11月30日録音。 【中古】 イースト・コースト・ジャズ・シリーズ Vol.3 /ジョー・ピューマ(g),バリー・ガルブレイス(g),ドン・エリオット(vib),ヴィニー・バーク(b), 【中古】afb 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2020年03月22日
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既存の枠をはみ出る寸前のピアノ・トリオ演奏盤 スティーヴ・キューン(Steve Kuhn)の生まれ年は1938年で、1960年代から半世紀以上にわたって数々のリーダー作(さらにはサイドマンとしての参加盤も)を残している。年齢を重ねた1990年代以降の作品の方が広く聴かれる機会が多いのだろうけれど、若い頃の彼の作品に優れた盤が多い(例えばこちらの盤を参照)と思うのは、きっと筆者だけではないだろう。 本盤『チャイルドフッド・イズ・フォーエバー(Childhood Is Forever)』は、そうした点できっと多くの人の心を掴んできた盤ではないかと思う。1969年なので、キューンがちょうど30歳を超えた頃にパリで録音され(この時期、彼はストックホルムを拠点に活動していた)、初期のスティーヴ・キューンに特徴的な音色のピアノが繰り広げられると同時に、既存のジャズの枠組からはみ出す寸前の演奏を繰り広げている。 “はみ出す寸前”というのは、微妙な言い方だけれど、4ビートの枠組にとどまり続けようとするベクトルと、フリー・ジャズの方に飛んで行ってしまいそうなベクトルが交叉しながら演奏が繰り広げられている。そんな様をこのように言える気がするからである。そうした中で、一本筋が通っているのが、硬質なタッチが印象的なキューンのピアノなのである。 フリーに行きかねない方向性というのは、コルトレーンの演奏(参考過去記事)で知られる1.「夜は千の目を持つ」という選曲にもよく表れている。一方、上記の“硬質なタッチのピアノ演奏”という意味では、5.「オール・ザット・アイ・レフト」、6.「アイ・ウェイテッド・フォー・ユー」あたりがいい味を出しているように思う。[収録曲]1. The Night Has A Thousand Eyes2. Spring Can Really Hang You the Most3. Baubles, Bangles and Beads4. The Meaning of the Blues5. All That's Left6. I Waited for You7. Eiderdown[パーソネル、録音]Steve Kuhn (p), Aldo Romano (ds), Steve Swallow (b)1969年10月13日録音。 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2020年02月25日
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1990年代末、コペンハーゲンでのライヴ録音盤 ジム・ホール(Jim Hall)は1930年生まれのジャズ・ギター奏者で、2013年に83歳で没している。1950年代から活動し、とりわけ1960年代には数多くの盤にサイドマンとしても参加。ビル・エヴァンスと共演の『アンダーカレント』(1962年)や彼自身の名義の『アランフエス協奏曲』(1975年)などが有名盤として知られる。 本盤『ジャズパー・カルテット+4(Jazzpar Quartet + 4)』は、デンマークのジャズパー賞受賞に際してジム・ホールが1998年にコペンハーゲンで行ったライヴ演奏を収めたものである。基本となるメンバー(カルテット編成)は、ジム・ホールのギターに加えて、地元デンマークのベース奏者トーマス・オーヴェセン、フィフス・ディメンションのドラムも務めたカナダ出身のテリー・クラーク、さらには、1971年シカゴ出身のクリス・ポッターが加わっているが、この人はパット・メセニーのユニティ・グループにも参加したテナー奏者である。アルバム表題の“ジャズパー・カルテット”とは、この4人組のことを表している。 冒頭のギターの単独演奏から始まる1.「星影のステラ」に代表されるように、ジム・ホールの相変わらぬ職人芸ともいうべきギター演奏が、何といっても本盤の聴きどころである。それと同時に、2.「チェルシー・ブリッジ」に見られるように、クリス・ポッターのテナーがなかなかいい味を発揮している。アルバム後半に当たる4.~7.には、“ザポルスキー弦楽四重奏”なるクレジットがあり、表題の“+4”というのは、この弦楽四重奏を指している。実際、4.「ゼシス」ではバンドメンバーがいったん退き、雰囲気がぐっと変化する。現代クラシック的な完成度の高い演奏だが、楽曲自体はクラシックの曲ではなく、ジム・ホール自身のペンによるものである。 そして、ストリングスを交えたまま6.「パープル・ヘイズ」が披露される。言わずもがな、ジミ・ヘンドリクスの有名曲。それをプロフェッショナル中のプロフェッショナルであるギター奏者のジム・ホールが演奏するわけだから、ロック・ファンからもジャズ・ファンからも注目の演奏になっていて、本盤の目玉になっていると言えるだろう(余談ながら、ここでもまたクリス・ポッターのサックスが効果的な演奏をしている)。 この録音時、ジム・ホールは既に60歳代後半だったわけだけれど、職人ぶりは健在で、ジミヘン曲を演奏するという冒険心も旺盛であった。ジャズ奏者の中には、歳を重ねていって“昔の名前で”的な演奏をする人もいるけれども、本盤はそれとは一味も二味も違う、耳を傾ける価値が十分にある盤だと言えるように思う。[収録曲]1. Stella By Starlight2. Chelsea Bridge3. Mr. Blues4. Thesis5. Quartet + 46. Purple Haze7. In A Sentimental Mood[パーソネル、録音]Jim Hall (g)Thomas Ovesen (b)Terry Clarke (ds)Zapolski Quartet (strings)Chris Potter (ts, 2.)1998年4月3日・5日録音。 ジャズパー・カルテット +4 [ ジム・ホール ] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓
2020年02月23日
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優雅で安定したピアノ・トリオ盤 ダグ・ホール(Doug Hall)は、1959年テキサス州ダラス出身のピアノ奏者。幼い頃からピアノに熱中し、ジャズに傾倒していったという。そんな彼が1996年に発表した、おそらく最初の名義盤が、この『スリー・ウィッシズ(Three Wishes)』である。その当時からレア盤扱いされていたようで、筆者の手元にあるCDもどこで見かけたのかひょっこり中古盤で入手したように記憶している(現在は2006年のリイシュー版も出回っている模様)。 テキサス出身というイメージにはあまり合致しないかもしれないが、この人のピアノは、繊細なタッチが何よりも印象的である。そのせいでよくビル・エヴァンスが引き合いに出されるのだけれど、時にエヴァンスのピアノが語りかけてくるようであるのに対し、ダグラス・ホールの演奏は、包み込んでくるような安定感のある優雅さが特徴であるように感じる。 概ねどの曲も4~5分程度のコンパクトな演奏時間だが、通して聴いていると流れるように各曲が進んで行く。なので、全体を通して聴くのがよいとは思うものの、いくつか気に入った曲を挙げるなら、1.「スウィート・セヴン」、2.「ザ・リスナー」、4.「オディッセイ」、6.「リメンバー」、10.「スリー・ウィッシズ」といったところだろうか。 なお、ダグ・ホールは2008年の復活祭の日曜日(3月23日)に48歳で亡くなっている。脳腫瘍による闘病の末だったとのことだが、若くしての死去が惜しまれる。[収録曲]1 Suite Seven2 The Listener3 Downside Up4 Odyssey5 The Sprawl6 Remember7 The Star Croosed Lovers8 Lonely Reward9 Off Senter10 Three Wishes[パーソネル、録音]Doug Hall (p), Marc Johnson (b), Bruce Hall (ds)録音年月不明(NYCのThe Power Stationにて録音)。 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年02月21日
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BGM用ジャズっぽいが、それは制作の意図通り? 良い悪いとは別に、正直、個人的に“騙された盤”というイメージが強い一つがこの『ジャズ・フォー・リラクゼーション(Jazz for Relaxation)』である。こういう言い方をすると、最初から印象が悪いかもしれないけれど、特にジャズのアルバム(無論ジャズには限らないけれど)は、勝手な印象でもって、購入者が勝手に思い浮かべた内容を期待するというケースが多いような印象を受ける。いわゆる“ジャケ買い”と呼ばれるのが、その典型例であるが、本盤は、ソファに横たわる全裸女性という、中途半端にエロチックなジャケット写真である。 その上で、ピアノ奏者のマーティ・ペイチ(Marty Paich)を筆頭に、本盤のジャケットには3人の名がプリントされている。筆者はピアノ・トリオ盤だと思って最初に手にしてしまった。ところが、聴き進めると、突如としてヴィブラフォンが響き始める(そのうちにギターも入ってくる)。リラックスしてマーティ・ペイチの本領発揮のピアノ盤かと思いきや、どうやらまったく異なる意図の盤らしいと気づくのにさほど時間はかからなかった。 結論から言えば、意図的に作られた“BGM盤”と言えるように思う。その内容は、西海岸風テイストを存分に活かし、さらりと聴かせるアルバム。収録時間もやたら短く、アルバム全体で20数分という収録時間で、各曲の演奏時間も短いので、通して聴いても“あっという間の体験”となる。 ちなみに、ヴィブラフォンを担当しているのは、ラリー・バンカー(2., 3., 5.)、ギターはハワード・ロバーツ(7., 8.)である。ジャケットには、3人(ピアノのマーティ・ペイチ、ヴィブラフォンのラリー・バンカー、ベースのジョン・モンドラゴン)の名があるが、上記の筆者の思い違いは、ラリー・バンカーをドラムスと思ってしまったことだと判明するには、演奏者のデータにたどり着いてからのことだった(苦笑)。[収録曲]1. Dool's Blues2. Jump for Me3. There'll Never Be Another You4. The Lamp Is Low5. What's New6. Theme from Lighthouse7. Lullaby of the Leaves8. I'll Remember April[パーソネル、録音]Marty Paich (p), Joe Mondragon (b), Frank Capp (ds), Larry Bunker (vib: # 2, 3, 5), Howard Roberts (g: # 7, 8)1956年録音。 【輸入盤】Jazz For Relaxation [ Marty Paich ] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年02月19日
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安心して聴ける演奏 表題の“安心して聴ける”というのは、大西順子というピアニストを評するのにしっくりこない言葉だと思う人も多いかもしれない。前にも書いたように(過去記事はこちら)、そもそも彼女の演奏には“自由奔放”という言葉の方がよく似合うし、よく評されるように(あまり好きな言い回しではないが)“男性的な”力強さや豪快さが彼女のピアノの特徴であるからだ。 けれども、ここで敢えて“安心して聴ける”という見出しをつけてみたのは、そういう彼女のイメージや先入観が既にある、そんな聴き手にとって、“安心して聴ける”という意味においてである。そんなアルバムが1996年の複数のライヴ演奏を収めた本盤『プレイ・ピアノ・プレイ〜大西順子トリオ・イン・ヨーロッパ(Play, Piano, Play: Junko Onishi Trio in Europe)』であると思う。 全編を通じて、力強さ、ドライヴ感、自由奔放さが文字通り全開である。早いテンポの曲もバラード曲も、とにかく“深さ”や“奥行き”、もしくは“立体感”に満ちたピアノ演奏が繰り広げられる。収録曲順で言うと、冒頭の1.がドイツはシュトゥットガルトでの演奏、続く3曲がフィンランドでのジャズ・フェスティバルの演奏、最後の3曲がスイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルでの演奏で、いずれもが同じ月(1996年7月)の録音である。メンバーは純和製トリオで、このトリオとしてヨーロッパの演奏旅行を行った。収録曲のうち1.と2.以外は自作曲である。 全編通して聴くのが断然いいけれど、敢えて気に入った演奏をいくつか挙げておこうと思う。まずは冒頭のエロール・ガーナーの1.「プレイ・ピアノ・プレイ」。原曲の旋律のよさに頼るのではなく、それを生かして自由なプレイというのは、ある種彼女らしさをよく表した演奏に仕上がっている。4.「トリニティ」は、何とも表題もカッコいいのだけれど、早いテンポで進みながら途中でテンポを落としてスイングするところが特にカッコいい。それから、6.「クトゥービアにて」は、圧倒的にたたみかける感じがいい。ともあれ、“自由奔放”である大西順子のピアノを“安心して”聴ける盤、というのが、本盤に対して筆者が抱いているイメージだったりする。[収録曲]1. Play, Piano, Play2. How High The Moon3. Slugs4. Trinity5. Portrait In Blue6. Kutoubia7. The Jungular[パーソネル、録音]大西順子(p), 荒巻茂生(b), 原大力(ds)1996年7月11日(5.~7.)、7月18日(2.~4.)、7月20日(1.)録音。 プレイ・ピアノ・プレイ〜大西順子トリオ・イン・ヨーロッパ/大西順子[SHM-CD]【返品種別A】 下記のランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、バナーをクリックして応援いただけると嬉しいです! ↓ ↓
2020年02月14日
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私的にはパットの代表盤に数えられるべき一枚(後編)(前編からの続き) パット・メセニー(Pat Metheny)の2枚組作品、『80/81』のレコーディングに際し、最初にパットが声をかけようとしたミュージシャンにはソニー・ロリンズ(実際には連絡がつかず実現しなかった)がいたという。その一方で、サックスには、マイケル・ブレッカーに加え、オーネット・コールマンの流れを汲むデューイ・レッドマン(テナー、ジョシュア・レッドマンの父)も起用している。さらに、後々に共演を繰り返すことになるチャーリー・ヘイデン(ベース)と組んだのも本盤が最初である。これらの面々の名前の組み合わせからは、言ってみれば、既存音楽の解体と再構築という意図が感じられる。そして、その結果として出来上がってきた音楽は“フュージョン”という語でラベル付けするよりも、はるかに現代的な意味での“ジャズ”そのものになったと言えるように思う。 収められた楽曲についていくつか見ていきたい。1-1.「トゥー・フォーク・ソングズ」は冒頭のギターが連想させる広大な風景に軽やかなメロディがピタリとはまり、曲が進むにつれて“フリー”な演奏が炸裂する。このバランス感覚が本盤らしさをよく表しているように思う。表題曲の1-2.「80/81」も、ある意味において同様で、軽やかに聴きやすい部分と既存音楽の解体を意図した創造的部分の組み合わせがミソになっているように思う。 他方、“聴きやすさ”あるいは“とっつきやすさ”も大事な要素である。2-2.「プリティ・スキャッタード」や2-3.「エヴリデイ(アイ・サンキュー)」なんかを聴くと、結局は複雑な展開になるにもかかわらず、序盤の入りやすさで聴き手の心を掴むという意味において、うまく作られているのだと思う。 最後に、余談ながら、本盤を最初に手に取った時(要はパット・メセニーをあまりよく知らなかった頃)、“パット・メセニーっていいかも”と思わされた。かなり昔の記憶でそう言っているのだけれど、いま現在、考え直してみると、実はチャーリー・ヘイデンの存在感が大きかったのだろうという気もする。別に、メセニーを貶めるつもりはない。でも、その後の筆者の音楽経験も含めて考えると、“パット・メセニーだからいい”ではなくて、実は本盤は“トータルでよかった”のかなと思ったりもする。[収録曲](Disc 1)1. Two Folk Songs2. 80/813. Bat4. Turnaround(Disc 2)1. Open2. Pretty Scattered3. Every Day (I Thank You)4. Goin' Ahead[パーソネル、録音]Pat Metheny (g), Charlie Haden (b), Jack Dejohnette (ds), Dewey Redman (ts), Mike Brecker (ts)1980年5月26~29日録音。 【送料無料】 Pat Metheny パットメセニー / 80 / 81 (2CD) 輸入盤 【CD】 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2020年02月03日
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パットの代表盤に数えられるべき名作(前編) パット・メセニー(Pat Metheny)は、1954年、ミズーリ州カンザスシティ郊外生まれで、ジャズ/フュージョンを代表するアメリカのミュージシャン。13歳でギターを独学で始め、18歳でバークリー音楽大学の講師を務めたというから驚くべき勢いである。そして、70年代半ばにはレコーディングのキャリアを積み始め、やがてパット・メセニー・グループを結成。このグループやソロ、あるいは他のミュージシャンとの共演で様々な作品を発表してきた。 さて、パット・メセニーという人は、大きく評価が分かれるミュージシャンであると言えそうだ。現代ジャズという枠組みでは、ウィントン・マルサリスなんかと並んで、大絶賛から酷評まで、いろんな風に評価がなされているように思う。筆者はというと、正直なところ、案外嫌いではないといった感じ。メセニーなら何でも崇拝するというほどの熱烈なファンでもないわけだけれど、これを受け入れられないなんてことはまったくなく、むしろいくつかの愛聴盤がある。中でも以前に紹介した『ミズーリの空高く』とともに最高の出来で、彼の代表盤に数えるべき名作と思っているのが、本作『80/81』である。 元来、パット・メセニーの持ち味は、良くも悪くも“軽やかさ”だと思う。そして本盤はその“軽やかさ”が軽薄ではない形でうまく表現されているという点において、実によくできているように感じる。本盤では、本来のパット・メセニー・グループとは別の編成で、ビ・バップに発するジャズと、後のフリー・ジャズの要素を取り込みつつも、それらをただ再現するのではなく、いったん解体して組み合わせた、という点が成功の理由だと言えるように思う。 何だか全体的な話を少し述べただけだけれども、このままだと長くなってしまいそうなので、記事を改めて、後編で本盤の内容について見ていくこととしたい(曲目等のデータは後編に掲載しています)。 【輸入盤】80 / 81 (2CD) [ Pat Metheny ] ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひクリックをお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年02月01日
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テナーを含むカルテット盤、スコット・ラファロも参加 ハンプトン・ホーズ(Hampton Hawes)は、1928年ロサンゼルス生まれのジャズ・ピアニスト。幼い頃からピアノを覚え、10代には西海岸のクラブなどで演奏していたという。1950年代前半には戦後の日本に駐留し、日本のミュージシャンとも接触を持ったようだが、米国に戻って1950年代半ば以降には自己名義の作品を録音していった。途中、逮捕による活動休止があったり、1977年には脳溢血で急死してしまっているものの、比較的多くの吹込みを残している。 ホーズのピアノは、ビ・バップを軸にしたある種“正統派”な演奏なのだが、聴きやすさの中に、跳ねたり粘っこさを見せたりという部分が多分に含まれていて、個人的には特に好みのピアノ奏者の一人だったりする。そんなわけで、取り上げたいアルバム作品は多々あるのだけれど、今回はひとまず1958年録音のカルテット盤、『フォー・リアル!(For Real!)』を取り上げたい。 編成はカルテットで、ハロルド・ランド(Harold Land)のテナー・サックスがフィーチャーされている。このテナーがまた絶好調で、全体として出しゃばり過ぎず、しかし小気味よくという、お手本のような演奏である。ホーズのピアノはやや控えめで、ベースやドラムが前に出る余裕を持たせようとしているようにすら感じられる場面もある。その一方で、当然ながら、ピアノ・ソロの場面では、飄々とした感じでたっぷりプレイしている。それから、おそらく多くのジャズ・ファンの目が向くであろうところとして、夭逝のベーシスト、スコット・ラファロが参加している。 本盤でいちばんの聴きどころと思うのは、表題曲の5.「フォー・リアル」。上で述べたこの盤の特徴がよく出ている。なおかつ、収録曲の中でもっとも尺が長く、聴きごたえもある。他に個人的には、1.「ヒップ」もなかなか好みだったりする。ハンプトン・ホーズのピアノをじっくり楽しみたいという向きには、この作品は必ずしも好適盤というわけではないかもしれない。けれども、ここで述べたような観点から、筆者としては、なかなか楽しめている盤だったりする。[収録曲]1. Hip2. Wrap Your Troubles in Dreams3. Crazeology4. Numbers Game5. For Real6. I Love You[パーソネル、録音]Hampton Hawes(p), Harold Land (ts), Scott LaFaro (b), Frank Butler (ds)1958年3月17日録音。 【輸入盤CD】【ネコポス100円】Hampton Hawes / For Real 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年01月30日
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ケニー・バレルの諸作の中でも個人的に特別な愛聴盤 ケニー・バレル(Kenny Burrell)の最良の盤はと問われると、丸3日間(否、せめて1週間?)は頭を抱えることができそうだが、間違いなくその1枚の候補にするかどうか迷うだろうと思うのが、本盤『ブルージー・バレル(Bluesy Burrell)』である。1962年に録音されたもので、まだまだ伸び盛りの当時30歳過ぎのバレルが、既に大御所だったコールマン・ホーキンス(Coleman Hawkins)と全7曲中4曲で共演しているという作品である。 本盤の特徴と言えそうな点を順に見ていくが、結論から述べてしまうと、全体を通じてダンディでシャレている。それはいろんな要素が交わりつつも、最後は独自色に染まっているというところにあるからと言っていい。まず、一点目の特徴としては、上述の通りの共演盤であるということ。ホーキンスのテナーが聴けるのは4曲だが、それらはいずれもどこか自制的である。バレルはこの録音以前にも優れた共演盤(例えばこちらやこちらやこちら)をいくつも残しているが、相手の良さを消さずに自分の良さも消さない演奏は見事というほかない。このことは本盤にも当てはまり、上の“自制的”というのは決して悪い意味ではなく、ホーキンスもバレルもいい意味で互いを意識しあった結果だったということなのだろう。 二つめに、演奏の精度の高さが挙げられる。ホーキンスとバレルの演奏だけでなく、ピアノのトミー・フラナガン(当時はホーキンスのグループのレギュラー・メンバーだった)をはじめとする面々がとにかく安定している。そして、三つめは、“中途半端な”ラテン風味。コンガのレイ・バレットが4曲に加わっていて、冒頭の1.「トレス・パラブラス」(「キサス・キサス・キサス」でも知られるキューバ人作曲家オスバルド・ファレスの作)も、そういう意味では、典型的な選曲である。ところが、実際に演奏を聴いてみると、“これがボサ・ノヴァ?”という声が聞こえてきそうなぐらいジャジーでブルージーさが温存されている。つまりは、“中途半端な”ラテンのフレーバーというのも、決して悪い意味ではなく、ラテンに化けてしまうことなく、あくまで“ご飯の上のふりかけ”的なちょっとしたフレーバーに止めているところがミソなのだと思う。 それでもなお、この肩の力の抜け具合は真剣なジャズとは言えん!という、至極まっとうな意見もあるかもしれない。けれども、演奏がシャレているというだけでなく、それが一貫したダンディズムに結びつているのは、やっぱり本盤のよさで、何度繰り返して聴いても筆者が心打たれる部分であったりする。[収録曲]1. Tres Palabras2. No More3. Guilty4. Montono Blues5. I Thought About You6. Out of This World7. It's Getting Dark[パーソネル、録音]Kenny Burrell (g), Coleman Hawkins (ts, 1., 4., 5., 7.), Tommy Flanagan (p), Major Holley (b), Eddie Locke (ds), Ray Barretto (conga, 1., 4., 6., 7.)1962年9月14日録音。 デサフィナード+ブルージー・バレル [ コールマン・ホーキンス ] 【輸入盤CD】【ネコポス100円】Kenny Burrell & Coleman Hawkins / Bluesy Burrell (ケニー・バレル) 下記のランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、バナーを“ぽちっと”応援いただけると嬉しいです! ↓ ↓
2020年01月11日
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永遠不滅のピアノ・トリオ盤 ビル・エヴァンス(ビル・エバンス、Bill Evans)の作品のうち、もっともよく聴かれているのは『ワルツ・フォー・デビイ』だろう。これが名盤であり、実際、名盤ガイドなどでも繰り返し紹介される盤であるということは確かなのだけれど、本来最初に推奨すべきはこちらではなかろうかとついつい考えたくなるのが、『ポートレイト・イン・ジャズ(Portrait in Jazz)』という盤である。 その理由はというと、主に二つある。一つはスタジオで録音されたという点。『ワルツ~』の方は実況録音盤であるのに対し、本盤はニューヨークシティでスタジオ録音されている。ジャズの真髄はライヴ演奏にあり、という意見に反対するわけではないけれども、最初にじっくり聴く一枚にするなら、スタジオで録音された盤という意見ももっともではないかと思ったりする。 もう一つは、それでいてスタンダード曲が並んでいる点。この点については、『ワルツ~』もスタンダードを扱ってはいるものの、こちらの盤は1.「降っても晴れても」、2.「枯葉」、7.「恋とは何でしょう」、9.「いつか王子様が」といった具合に、とっつきやすさという点でもどちらかというと本盤の方に分があるように思える。 もちろん、収録曲やスタジオ録音だからというのだけが理由ではない。何よりもそのメンバー構成は大事な点で、ビル・エヴァンス(ピアノ)、スコット・ラファロ(ベース)、ポール・モチアン(ドラム)という、決して多くを残さなかった組み合わせである(上記の『ワルツ~』もこのメンツでの録音で、よく知られているように、『ワルツ~』の収録からわずか10日余りでラファロは事故死してしまう)。リヴァーサイド4部作などと呼ばれるうちのスタジオ録音作2枚のうちの一つがこの盤なのである。さらに、この3人の組み合わせがビル・エヴァンスの充実期となった点である。ラファロを失ったエヴァンスはしばらく活動を停止し、シーンから遠ざかってしまうほどのショックを受けた。そのことはすなわち、この3人での演奏がいかほどうまく行っていたのかも物語っている。 実際、本盤を聴けば、初めての人にもきっと聴きやすく、なおかついろんな聴き方をするリスナーが繰り返し聴いてもスリリングな楽しみを得られると思う。エヴァンスのピアノ演奏そのもの、エヴァンスとラファロのインタープレイ、ラファロのベースそのものの演奏、さらにはそれを支えながらも積極的に絡んでくるモチアンのドラミング…。年明け早々から去年の話というのもなんだけれど、2019年がエヴァンスの生誕90年ということで、昨年は、久しぶりに引っ張り出してきたものも含めて、何枚かのエヴァンス盤を繰り返し聴いたりしていた。そして結論として、やっぱり永遠不滅で今後も繰り返し聴きつづけなければという思いを最も与えてくれたのが、本盤だったというわけである。[収録曲]1. Come Rain or Come Shine2. Autumn Leaves (take 1) 3. Autumn Leaves (take 2)4. Witchcraft5. When I Fall in Love6. Peri's Scope7. What Is This Thing Called Love?8. Spring Is Here9. Someday My Prince Will Come10. Blue in Green (take 3)11. Blue in Green (take 2)[パーソネル、録音]Bill Evans (p), Scott LaFaro (b), Paul Motian (ds)1959年12月28日録音。 ポートレイト・イン・ジャズ +1 [ ビル・エヴァンス ] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年01月08日
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現代ジャズ?いやはや半世紀前のジャズ… エンリコ・イントラ(Enrico Intra)は、1935年ミラノ出身のイタリアのジャズ・ピアニスト。彼の盤と言うと、筆者はそれこそ何枚かは聴いてみているのだけれど、さほど枚数を聴いたわけでもない。けれども、今のところダントツに推奨で、おそらく聴いた盤の数が増えてもそうであり続けるのではないかという予感がしているのが、本盤『ジャズ・イン・ストゥーディオ(Jazz in Studio)』である。 録音がなされたのは1962年のこと。起伏に富み、エモーショナルで、どこか軽快で、既成概念にとらわれない奔放さが好印象の演奏である。エンリコ・イントラのピアノがというよりは、トリオの3人が一体になってそうした空気感を作り上げているという印象である。何でも5か月にわたってリハーサルを繰り返した挙句の演奏とのことで、いい意味で作り込まれた演奏なのだと思う。 筆者の好みとともに聴きどころを挙げると、まずは1.「パーカッション」。ピアノをちゃんと強調した演奏ながら、ベースとドラムスがしっかり効いているというのがいい。3.「ピットゥーラ」は、疾走感を出しながらも実に綿密な演奏をしている。6.「ジョン・ルイス」から7.「クラシック・ジャズ」という2曲は、本盤収録の演奏の中でも特に作り込まれた感じがするが、まったく嫌味な感じがしない。一方、10.「フィオーラ・ブルース(フラワー・ブルース)」は、いくぶんルーズな感じを醸しだしていて、個人的にはなかなか気に入っている。ちなみに、イタリア人トリオということもあって、各曲の冒頭には、短くイタリア語での曲紹介の音声が含まれている。 手元のCDはリイシュー盤で、元々はEPだった別のライヴ演奏(11.~14.の4曲)がボーナス曲として収められている。本編よりも数年前(1957年)のサン・レモのジャズフェスティヴァルでの演奏だが、こちらの方は、どちらかというと、“勢い”がキーワードになりそうである。全体として疾走感のある演奏で、もちろんこの感覚は本編での演奏にも通じているのだけれど、ベーシストが交代しているとはいえ、意図して作り込もうとするとこんなに変わってくるものかと変に驚かされたりもする。 ちなみに、この盤、かつては中古相場でウン十万円とかいう高値がついていたそうだが、筆者はそんなこととはつゆ知らず、2008年のリイシュー後に“何となく”入手した。実を言うと、ジャケットが目に留まり、“現代ピアノ盤”だと思って最初に手に取った。確かに、音がそれなりによくないことを横に置けば、演奏内容はいまだって“現在のジャズです”と言われたら信じる人も多いのではなかろうか。それほどにまで先を見据えた“現代的”演奏を演っていたのだというと、果たして言いすぎであろうか。[収録曲]1. Percussion2. Nardis3. Pittura4. A Foggy Day5. Tra Bop6. John Lewis7. Classic Jazz 8. You Stepped Out Of A Dream9. Tre, Tre, Tre10. Fiora Blues11. Modern In S.Remo12. Blues13. The Classic Jazz14. La Strada Del Petrolio[パーソネル、録音]Enrico Intra (p), Pupo de Luca (ds), Pallino Salonia (b, 1.~10.), Ernesto Villa (b, 11.~14.)1962年10月録音(ただし、ライヴ音源のボーナス・トラック11.~14.は1957年録音)。 【中古】輸入ジャズCD ENRICO INTRA TRIO / JAZZ IN STUDIO[輸入盤] ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひクリックをお願いします。 ↓ ↓ ↓
2020年01月05日
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安定した演奏を楽しめるオランダ系ピアノ奏者の代表盤 アーヴィン・ロクリン(Irvin Rochlin)は、オランダ系米国人のジャズ・ピアノ奏者。詳しい情報がまったくなくてよくわからないのだけれど、1926年頃に米国で生まれ、1970年頃にヨーロッパへ移住したという。その後、アムステルダムを拠点として長らく活躍したが、2013年には再び米国へ戻ったとのことである(それ以上情報がなく、存命中かどうかも不明)。 そんなロクリンの残した演奏のうち、今のところ筆者が唯一聴いているのが、この『キリーヌ(Quirine)』という盤である。オランダのライムツリーというレーベルへの吹き込みで、移住からおよそ10年経った1980年に録音されたものである。ジャケットからして印象的で、天使のような愛らしい子供の写真がシンプルな白地にあしらわれている。演奏はほぼ全編がピアノ・トリオで、ハリー・エメリー(ベース)、エリック・イネケ(ドラム)は共に現地オランダの奏者である。 ロクリンのピアノ演奏はクリアで時にリリカルである。透明感がありながら、変に情緒ばかり前面に押すのではなく、基本的には心地よくスウィングしており、情感込めて聴かせる場面ではじっくり聴かせるといったところだろうか。ベースとドラムもそれを心得てか派手になり過ぎぬ程度に小気味よく盛り立てていく。音源はライヴ演奏であるため、その場の客に聴かせることを意識したような構成の部分もあり、MCも挟まる。 全曲とはいかないが、ざっと演奏内容を通観しておきたい。1.「ペピートス・リブ」はこの後繰り広げられる演奏の導入とも言える短い演奏であるが、軽いジャブといった感じで、まずは聴き手の耳を惹きつけるものに仕上がっている。2.「イントロダクション」となっているMCを経て、表題曲の3.「キリーヌ」は透明感のあるピアノにテンポ感を失わないベースとドラムで、本盤を代表する演奏と言えそう。リリカルな方向性を持った演奏としては、4.「ゴースト・オブ・ア・チャンス」とピアノ・ソロの8.「ア・プラン・フォー・ザ・フューチャー」に代表される。上でスウィングと述べたが、安定したノリに支えられた方向性の演奏としては、7.「ローラ」や9.「フォー・オン・シックス」がいい。これら2つの方向性は、どちらか1つに偏ってしまうと退屈になったり、凡庸に聞こえてしまう可能性がある。けれどもそれらをバランスよく演奏しているというのも、本盤が聴き手の心を奪う大事な理由になっているように思う。[収録曲]1. Pepito's Rib2. Introduction 3. Quirine4. Ghost of A Chance5. Only Ludwig Knows 6. Little B's Poem7. Laura 8. A Plan for The Future 9. Four on Six [パーソネル、録音]Irvin Rochlin (p), Harry Emmery (b), Eric Ineke (ds)1980年5月3日録音。 キリーヌ [ アーヴィン・ロクリン・トリオ ] ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひクリックをお願いします。 ↓ ↓ ↓
2019年12月09日
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多彩なギターとパーカッション ジャック・マーシャル(Jack Marshall)は、1921年カンザス生まれの作曲家・編曲家、プロデューサーそしてギタリスト(1973年没)。どちらかというと裏方的な役割が多かったためか、彼名義のアルバム作品は決して多くない。そんな彼が1966年にドラマーのシェリー・マン(Shelly Manne)と共演したのが本作『サウンズ!(Sounds!)』である。シェリー・マンは1920年生まれ(1984年没)だから、同世代の2人ということになる。 内容は、ドラムのみならずヴォイス・パーカッションまでをも使って多彩な伴奏を繰り広げるシェリー・マンに、メロディアスで多彩なテクニックのジャック・マーシャルのギターが絡むというデュオ演奏になっている。取り上げている楽曲には、スタンダード曲のほか、いわば当時の“流行りもの”も含まれ、1.「アラビアのロレンスのテーマ」や11.「カーニヴァルの朝~オルフェのサンバ」なんかが収められている。その意味では、一見すると収録曲に一貫性がないように思われるかもしれないが、聴いてみると、意外にそうでもない。“お洒落に聴かせられる曲”というのがおそらくは選曲基準ではなかったかと思わせるような統一性があるように感じる。 全編通して聴くことがベストではあるものの、気になる曲をいくつか挙げておきたい。3.「オール・ザ・シングス・ユー・アー」や8.「スポージン」は本盤の特徴をよく表す演奏になっているように思う。既存の曲をそういうものとして演奏するのではなく、このデュオでしかできない形(8.の口でのパーカッションも含め)で提示しようという意気込みがはっきりしている。そういう意味では、1.「アラビアのロレンス」のほか、スペイン絡みの2曲(6.「スペインの雨」と7.「スペイン舞曲 第5番 アンダルーサ」)も、ブラジル系の選曲(4.「ショーロス」、10.「サン・パウロの少女」、11.「黒いオルフェ~オルフェのサンバ」)も、その意図に沿った題材の選択だったのかなと思わされる。 実は、本作品には同じ2人による先行するデュオ盤がある。1962年に吹き込まれた『サウンド・アンハード・オフ』という盤である。以前から気になっていながらも筆者は未聴であるが、同盤をいつか手にした時には、時系列では逆になるけれども、本記事の続編を書きたいと思っていたりする。[収録曲]1. Theme from "Lawrence of Arabia"2. Sweet Sue, Just You3. All the Things You Are4. Choros5. Am I Blue?6. The Rain in Spain7. Spanish Dance No. 58. S'posin'9. Yesterdays10. The Girls of Sao Paulo11. A Day in Brazil Medley: Manha de Carnaval/Sweet Happy Life (Samba de Orfeu)[パーソネル・録音]Jack Marshall (g), Shelly Manne (perc)1965年録音。 【中古】 Shelly Manne/Jack Marshall / Sounds! 【CD】 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2019年12月06日
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爆発的かどうかはともかく、渋く粘っこい味わいを楽しめる好盤 ハーマン・フォスター(Herman Foster)は、ルー・ドナルドソンのレギュラー・ピアニストとして知られるが、いくつかの自己名義作も残している。1961年録音の『ジ・エクスプローシヴ・ピアノ・オブ・ハーマン・フォスター(The Explosive Piano of Herman Foster)』は、先に取り上げている『ハヴ・ユー・ハード』と並んで彼の代表的な作品(と言ってもこの人のリーダー作は決して多くないのだけれど)と言えるように思う。 “爆発的(explosive)”という表題が目を引くのだけれども、一般論としては、あまりここに拘らない方がいいと個人的には思っている。というのも、聴き手によっては、“どこが爆発的なのか”という疑問の声が出てきそうな感じがするからだ。ブロックコード(レッド・ガーランドなんかのそれとはまったく違って、ピアノを箱ごと鳴らしたような豪快な音)が爆発的と言えば確かにそうかもしれないのだけれども、音の豪快さだけでなく、黒っぽくて粘り気のあるプレイも同じように特徴になっている。むしろ、個人的には、こっちの部分がこの盤の最大の特徴かつ聴きどころになっているという気がする。 おすすめの演奏をいくつか挙げておきたい。1.「イエスタデイズ」は、テンポよく演奏が進む中、だんだんと粘っこさが増していき、聴き手はハーマン・フォスター節に引き込まれていくという演奏で、本盤の特質をよく表している1曲だと思う。4.「ダンシング・イン・ザ・ダーク」も筆者の好みの演奏で、盛り上がりのある演奏の中でフォスターのピアノをしっかり堪能できる。さらに、この人のピアノは静かな曲調だったり、ゆっくりとしたテンポの演奏であったりしても、独特の粘り気は消えないし、時に鍵盤を打楽器的に叩いて盛り上げてくれる。そういった側面が垣間見られる演奏としては、2.「ライク・サムワン・イン・ラヴ」や5.「グッドバイ」なんかが個人的には気に入っている。あと、ついでながら、自作曲の3.「キャロル」も、何だか聴いた後しばらくは耳から離れなく曲で、さりげなくいい。[収録曲]1. Yesterdays2. Like Someone in Love 3. Carol 4. Dancing in The Dark 5. Goodbye6. Dream[パーソネル、録音]Herman Foster (p), Grassella Oliphant (ds), Earl May (b)1961年5月9日録音。 Explosive Piano of Herman Foster/Have You Heard【中古】 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2019年12月02日
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400万アクセス記念~いま聴きたいあの曲(その27) 400万アクセス記念ということで、30回にわたって“いま聴きたい曲”を取り上げていますが、ジャズ・ナンバーがなぜだかまったく出てきていない(この間、聴いていないという訳ではないのですが…)ので、一つぐらいこの辺りで取り上げてみたいと思います。 気がつくと秋が深まってきて、寒いと感じる日も増えてきました。そろそろ冬の訪れを感じる時期になりつつあります。そんなこともあって、今回の曲は「ニューヨークの秋(Autumn in New York)」です。それこそ多くの歌手や演奏者がこの曲を取り上げてきていますが、今回は、その中からお気に入りの演奏2つをお聴きいただこうかと思います。 まずは、ケニー・バレル(Kenny Burrell)です。ジャズ・ギタリストとして、というよりも、ジャズ奏者として、個人的には彼のファンなのですが、1958年の『ブルー・ライツ』(Vol. 1とVol. 2がありますが、収録曲に異動があったり、現在では1と2を合わせたものが販売されていたりします)に収められたものです。冬へと向かっていく秋の情景が思い浮かぶような情緒あふれる演奏をどうぞ。 続いては、トランぺッターによる「ニューヨークの秋」です。ケニー・ドーハム(Kenny Dorham)のライヴ盤『カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム』に収められた演奏です。この盤にはケニー・バレルも参加していますがこの曲には加わっていません。ワン・ホーンでこれまた情緒感いっぱいのケニー・ドーハムの演奏をどうぞ。 ジャズの世界でのこの曲の演奏はたくさん存在し、まだまだ取り上げたいものもあります。また来年以降も、秋になってきたら「ニューヨークの秋」というのをやりたいな、と思っていたりします。[収録アルバム]Kenny Burrell / Blue Lights Vol 1(1958年)←Vol. 2と銘打った方に収録されているエディションもある模様。Kenny Dorham / 'Round About Midnight At The Cafe Bohemia(1956年) カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム +4 [ ケニー・ドーハム ] 【輸入盤CD】【ネコポス送料無料】Kenny Burrell / Blue Lights 【K2016/5/20発売】(ケニー・バレル) 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2019年11月11日
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現代ジャズの到達点 保守的な人の中には“もはや××など存在しない”と口にする人もいる。時に懐古的に、“もはやロックは死んだ”や“マイルスと共にジャズは死んだ”などと言う人もいる。ジャズに限って話を進めると、そうはいえども、現代的ジャズの行きつく先というのは確かにあってしかるべきだと思う。いかなる音楽も、時の流れにともなって姿や形を変えていく部分はあると考える方が自然だろう。保守的な人がそれをそういうもの(つまりは、従来のジャズやロックなどといった括りに含まれるもの)と受け止めるかどうかは別にして。 マイケル・ブレッカーのリーダー作『テイルズ・フロム・ザ・ハドソン(Tales from the Hudson)』を聴くと、いま述べた“ジャズの行く末”あるいは“ジャズの到達点”という話を想起せずにはいられない。“ジャズとは○○なものである”と型にはめたがる観点からすると、いろいろ批評したくなる人もいることだろう。でも、リリースから四半世紀近く経った現在、上のような見方に立てば、この作品は、現代ジャズの一つの到達点を如実に示していたと言えるのではないだろうか。 演奏面では、リーダーのブレッカー以外で特に注目したいのは、ドラムスのジャック・ディジョネット、そして3.と5.に参加しているピアノのマッコイ・タイナーである。前者の激しいドラミングは全体の雰囲気や演奏の流れを決めているともいえそう。後者のピアノ演奏は安定感があり、3.「ソング・フォー・ビルバオ」では流れるようなプレイがとりわけ印象に残る。それから、忘れてはならないのは、パット・メセニーのギター。筆者の好みでは、1.「スリングス・アンド・アローズ」でのプレイが特に印象的。 でもって、最後にブレッカー自身のサックスについても触れないわけにはいかないのだが、その演奏内容は多彩かつ融合的と表現できるように思う。一人で背負って立つというよりは、中心にいつづけながら他とのバランスを意識した演奏である。ブレッカー自身はこれ以前にエレクトリックな試みなどもやったわけだけれど、本盤の演奏には純粋にテナーのみで臨み、おそらくはそれだからこそ多彩な演奏の幅や起伏を意識したプレイに専念しているように感じる。[収録曲]1. Slings and Arrows2. Midnight Voyage3. Song for Bilbao4. Beau Rivage5. African Skies6. Introduction to Naked Soul7. Naked Soul8. Willie T.9. Cabin Fever[パーソネル、録音]Michael Brecker (ts)Pat Metheny (g; synth-g: 3.)Jack DeJohnette (ds)Dave Holland (b)Joey Calderazzo (p)McCoy Tyner (p: 3.と5.)Don Alias (perc: 3.と5.)1996年録音。 テイルズ・フロム・ザ・ハドソン [ マイケル・ブレッカー ] 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2019年10月05日
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BNでの初リーダー作となった晩年作 ブッカー・アーヴィン(Booker Ervin,1930年生、1970年没)は、とにかく“自分流”を貫いた人だったように思う。迎合して時流に乗るのではなく、自分自信のスタイルを通し、それを磨いていくといった姿勢だったと言えるだろう。その意味で、1960年代を通じて録音された彼のリーダー作は、ハードバップとして確立された音楽がそのまま存在し続け難い時代の産物とも言えるのかもしれない。 そんな中でも1968年作の本盤『ジ・イン・ビトゥイーン(The In Between)』は、新たな流れが生じる中で、彼なりの応答だったようにも思える。フリー・ジャズが既成の様々な観念を崩そうとしていった中、それと同じことをなぜ彼がしなかったのか、あるいはできなかったのか。彼が出した答えは、自身のスタイルから出発して“やりたいようにやった”ということだったのだろう。3.「モア―」や5.「ラルゴ」といった再演曲が新しいアレンジで披露されている点、本盤の演奏曲の全てが自作曲で占められている点がそうした彼の姿勢を反映しているようにも思える。 他の共演者たちも、この姿勢に呼応して奔放に演奏しているように見受けられる。フリーやオープン・フォームといった潮流への反応という面では、トランペットのリチャード・ウィリアムスの演奏が耳につく。たぶんブッカー・アーヴィンと同じ方向を向いて我が道を突っ走ろうとしていたのがその理由なのだろうという気がする。 ちなみに本盤はブッカー・アーヴィンが39歳という早すぎる人生を閉じる2年前、結果的には晩年の作となった。ブルーノートでの吹き込みはホレス・パーラン名義の『アップ・アンド・ダウン』(1961年)にさかのぼるけれども、ブルーノートにおけるリーダー作としてはこれが最初でありながら、晩年作ということになった。[収録曲]1. The In Between2. The Muse3. Mour4. Sweet Pea5. Largo6. Tyra[パーソネル、録音]Richard Williams (tp)Booker Ervin (ts)Bobby Few Jr.(p)Cevera Jeffries Jr.(b)Lenny McBrowne (ds)1968年1月12日録音。 【中古】 ジ・イン・ビトウィーン(生産限定盤)(SHM−CD) /ブッカー・アーヴィン,リチャード・ウィリアムズ(tp),ボビー・フュー(p),シーヴィラ・ジェフリ 【中古】afb 下記のブログランキングに参加しています。応援くださる方は、 バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2019年09月13日
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晩年のライヴ3部作の1枚にして白熱盤 ドロシー・ドネガン(Dorothy Donegan)という女性ピアニストは、筆者にとっては“熱い人”という先入観ができあがってしまっている。1922年生まれで、1940年代には既にレコーディング活動をしており、1998年に76歳で亡くなっているが、エンターテイメント性に溢れ、強烈な個性(参考過去記事)を持った彼女の活動は、晩年においても変わらなかった。 彼女の個性である“熱さ”というのは、“濃さ”と言い換えてもいいかもしれない。少々聞こえはよくないかもしれないが、“アクの強さ”と言い換えることもできる。要するに、“あっさり”というよりは“粘っこい”、“美しい”というよりは“泥臭い”(もちろんどちらもいい意味で)、そんな演奏者なのである。 本盤『ライヴ・ウィズ・ディジー・ガレスピー(The Incredible Dorothy Donegan Trio Live at 1991 Floating Jazz Festival)』は、1990年代、原題にあるように船上でのジャズ・フェスティバルでの演奏を収めたものである。日本語の表題は、いくぶん羊頭狗肉で、ディジー・ガレスピーがトランペットで参加しているのは3.「スウィート・ロレイン」のみである(もちろん、ガレスピーのミュート演奏の客演はそれはそれとして楽しめる)。つまり、ほとんどはピアノ・トリオ演奏なのだが、このトランペット参加曲のほか、5.のようなヴォーカル・ナンバーも収められているし、随所でMCも楽しませてくれる。 演奏そのものと同時に、曲の進行にもドネガンらしい自由度の高さがうかがえる。メドレー形式の1.「ワルシャワ・コンチェルト~ラヴァ―」と2.「イージー・リヴィング~ハッピー・ゴー・ラッキー・ローカル」だけでも十分楽しめるのだけれど、アルバム末尾の9.「セント・ルイス・ブルース」に至っては、「アメージング・グレイス」が入ったかと思えば、いきなり賛美歌も挿入されるといった破天荒ぶりで、文字通り“何が出るかはお楽しみ”といったエンターテイメント性に富んでいる。 ちなみにこのキアロスクロというレーベルからは本盤の前年にトリオ盤、翌年にクラーク・テリーを客演に迎えた盤が発表されている。いずれも年度の異なる同じ洋上ライヴとのことだが、筆者はまだ本盤しか聴けておらず、いつか残る2作も聴いてみたいと楽しみにしている次第である。[収録曲]1. Warsaw Concerto / Lover Medley2. Easy Living / Happy Go Lucky Local Medley3. Sweet Lorraine4. Remarks By Dizzy Gillespie5. Time After Time6. Things Ain't What They Used To Be7. Tea For Two8. Bumble Bee Boogie9. St. Louis Blues[パーソネル、録音]Dorothy Donegan (p), Jon Burr (b), Ray Mosca (ds)特別ゲスト:Dizzy Gillespie (tp, 3.)1991年録音。 ライヴ・ウィズ・ディジー・ガレスピー [ ドロシー・ドネガン・トリオ ] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2019年09月10日
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コペンハーゲン録音の秀逸盤 デューク・ジョーダン(Duke Jordan, 本名アーヴィン・シドニー・ジョーダン)は、1922年ニューヨーク出身のジャズ・ピアニスト。1940年代からチャーリー・パーカーのクインテットなどで演奏し、1950年代以降はリーダーとしての録音も多く残したが、山あり谷ありの人生だったようで、1960年代にはタクシー運転手で食い扶持をつないでいたこともあるという。1978年にはデンマークに移住して活動の舞台をヨーロッパに移し、2006年に84歳でコペンハーゲンで亡くなっている。 デンマークへの移住に先立って、同地で1973年に吹き込みが行われた。ジョーダンの“復帰”となる時期にこの録音を行ったのは、ちょうどその前年にコペンハーゲンで立ち上げられたスティープルチェイスだった。4回のセッションでの演奏は複数のアルバム作品に収められたが、その第1弾となったのが、本盤『フライト・トゥ・デンマーク(Flight to Denmark)』であった。トリオ演奏で、ベースはデンマーク出身のマッズ・ビンディング、ドラムスは、この吹込みの後まもなくデンマークへ移住することになるエド・シグペンである。 収録曲は、自作のものを中心にしつつスタンダード・ナンバーが織り込まれている。冒頭の1.「危険な関係のブルース(ノー・プロブレム)」は、映画の曲として知られているが、そもそもデューク・ジョーダンの作。同じく自作の表題曲10.「フライト・トゥ・デンマーク」もいい。全編を通じてデューク・ジョーダンのピアノの品のよさが伝わってくる。奇をてらった演奏や、インスピレーションで突っ走るような演奏はしない人だが、退屈ということはない。私的にいちばんの聴きどころなのは、7.「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」。あっさりしっとりした感じでありながら、テーマの展開に意外性があり、なかなか気に入っている。また、2.「ヒアズ・ザット・レイニー・デイ」の途中でいきなり「ジングル・ベル」が聞こえてくるのも、そうした飽きさせない要素の一つなのかもしれない(録音が11月末~12月初めなので、クリスマスという着想もあったのだろう)。あと、ついでながらCD追加曲として、クリフォード・ブラウンで有名な12.「ジョルドゥ」も収録されているが、この曲も実はデューク・ジョーダンの作曲による。ともあれ、1970年代のピアノ・トリオの名盤にして、デューク・ジョーダンの作品の中でも代表格と言うに相応しい盤だと思う。[収録曲]1. No Problem2. Here's That Rainy Day3. Everything Happens To Me4. Glad I Met Pat -Take 3- *5. Glad I Met Pat -Take 4-6. How Deep Is the Ocean?7. Green Dolphin Street8. If I Did - Would You? -Take 1-9. If I Did - Would You? -Take 2- *10. Flight to Denmark11. No Problem *12. Jordu **印はCD追加曲。[パーソネル、録音]Duke Jordan (p), Mads Vinding (b), Ed Thigpen (ds) 1973年11月25日、12月2日録音。 フライト・トゥ・デンマーク [ デューク・ジョーダン・トリオ ] 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2019年09月08日
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熱い演奏+フリューゲルホルンの美しい音色 アート・ファーマー(Art Farmer)は、1928年に生まれ、1999年に71歳でその生涯を閉じた。当初はトランペット奏者としてジャズの世界に登場し、やがて60年代に入る頃からはフリューゲルホルンの演奏に傾いていき、晩年はフランペット(トランペットとフリューゲルホルンの特徴を併せた新楽器)の演奏を中心とした。生真面目な人物だったと言われるアート・ファーマーであるが、時代が流れ、楽器を持ち替えても、持ちうる限りのベストの美しさを作品に表すという姿勢は多くの作品に一貫して残されたと言えるだろう。 本盤『ブルースをそっと歌って(Sing Me Softly of the Blues)』は、アーゴ、マーキュリーといったレーベルを経てアトランティックに在籍していた1965年録音の作品で、ピアノ・トリオと組んでフリューゲルホルンを全面的に演奏している。アルバムのジャケットでは想像がつきづらいが、新主流派的な演奏と言っていいだろう。1960年代をよく映し出す内容でありながら、激しさや熱さが内包された盤である。 その熱さの元になっているのは、ピアノ・トリオの面々の演奏。とりわけ、ピート・ラロカの緩急激しいドラミングとスティーヴ・キューンの硬質感のあるピアノ演奏が印象に残る。ピート・ラロカは、ベース奏者のスティーヴ・スワロウと共に、本作のおよそ1年前にアート・ファーマーと共演し、『スウェーデンに愛をこめて』を吹き込んでいる。なお、この際はギター奏者のジム・ホールが演奏者に名を連ねていたが、このジム・ホールに入れ替わって本盤ではピアノ奏者のスティーヴ・キューンが加わっている。 注目の演奏としては、まずは表題曲の1.「ブルースをそっと歌って」。フリューゲルホルンの音色とブルース感覚の出し方が絶妙の演奏に仕上がっている。静かに始まりつつ次第に盛り上がっていく展開で、ピート・ラロカのドラミングが特にいい。あと3.「プチ・ベル」は、少し変わり種で、カリブの民謡をアレンジしたボサ風の曲調。アート・ファーマーの演奏だけでなく、ピアノのスティーヴ・キューンの演奏も聴き逃がせない(本盤中の他の曲でも彼のピアノはなかなかの存在感があるように思う)。あと、熱さが全開の2.「アド・インフィニタム」や、個人的に好みのタイプの曲でラロカ作である6.「ワン・フォー・マジッド」も忘れてはいけない。 ちなみに、このメンバーでのカルテットはこの時だけだったらしく、同じメンツの他の録音はないようである。けれども、アート・ファーマーを除いた3人は、この翌年、今度はスティーヴ・キューンのリーダー作(『スリー・ウェイヴズ』)でもピアノ・トリオとして秀逸な演奏を残している。[収録曲]1. Sing Me Softly of the Blues2. Ad Infinitum3. Petite Belle4. Tears5. I Waited for You6. One for Majid[パーソネル、録音]Art Farmer (fh), Steve Kuhn (p), Steve Swallow (b), Pete LaRoca (ds)1965年3月12日(6.)・16日(1.,2.,4.,5.)・20日(3.)録音。 【中古】 ブルースをそっと歌って/CD/AMCY-1201 / アート・ファーマー / Atlantic [CD]【メール便送料無料】【あす楽対応】 下記のランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、バナーを“ぽちっと”応援いただけると嬉しいです! ↓ ↓
2019年09月01日
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“通好みの名盤”なのか? デューク・エリントンに因んで“デューク”のあだ名を与えられたデューク・ピアソン(Duke Pearson, 本名コロンバス・カルヴィン・ピアソン・ジュニア)は、1932年アトランタ生まれのピアノ奏者で、1980年に47歳の若さで亡くなっている。 そんな彼が参加した盤(特にブルーノートの諸作)には有名で評価の高い盤が多い(例えばこちらの盤)が、彼自身のリーダー作として代表盤に挙げられるものとして、本盤『テンダー・フィーリンズ(Tender Feelin’s)』がある。 本盤は“通好みの名盤”なんて評されることがあるが、個人的にはどうもこうした表現に違和感がある。むしろ“万人に聴きやすい盤”と言った方がいいのではないかと思ってしまう。“通好み”なんて言われてしまうと、何か想像を絶するもの凄いものが弾け出るかのような意外性を期待してしまいそうなものだが、実のところ、本盤は、平常心のまま淡々と聴いて楽しめる作品、とでも言えば、そのニュアンスが多少は通じるであろうか。おそらくどこか地味な部分(よく聴けばそうとも言えないという意見も、もちろんもっともではあるのだけれど)から“通好み”という話になるのだろうけれど、むしろもっと気軽に日常の中で聴いて、その機微を楽しんでいい盤のように思うのである。 そんな感覚がつかみやすいナンバーをちょっと挙げてみると、まずは、1.「ブルーバード・オブ・ハピネス」。右手のシングル・トーンがしっかりしていて、その積み重ねが落ち着いた雰囲気ながらも独特のノリにつながっている。同じ観点から注目したい曲をもう一つ挙げるとすると、6.「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」がある。ジャズ界では言わずと知れたスタンダード曲だが、変に急がず、でも独自の緩急をつけながら“まったり”かつ“小気味よい”(この表現が通じるかどうか不安だけれど)演奏が展開されていく。あと、3.「アイ・ラヴ・ユー」も個人的には同じ志向性からは聴き逃がせない演奏だったりする。 上で述べたように、本盤はデューク・ピアソンの代表盤として挙げられることも多い。決して長くはない生涯を突っ走った人物だったけれど、確かに本盤は持ち味がよく表現されているという意味で代表盤なのだと思う。リーダー作としては早い段階(2作目)の盤だったが、十分にアーティストとして完成されている。彼のリーダー作を初めて聴くなら、断然、本盤からという意見に、筆者は一票を投じたい。[収録曲]1. Bluebird of Happiness2. I'm a Fool to Want You3. I Love You4. When Sonny Gets Blue5. The Golden Striker6. On Green Dolphin Street7. 3 A.M.[パーソネル、録音]Duke Pearson (p), Gene Taylor (b), Lex Humphies (ds)1959年12月16日(6.及び7.)、12月19日(1.~5.)録音。 テンダー・フィーリンズ [ デューク・ピアソン ] ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひクリックをお願いします。 ↓ ↓ ↓
2019年08月31日
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ファンクさを感じるクロスオーバー盤 フュージョンやクロスオーバーといった流れは、1960年代後半から1970年代にかけて展開していった。少なくともジャズの側から見れば、電気楽器が導入され、他ジャンルの音楽が取り入れられていくことで、新たな音楽が生み出された一方、“耳障りがよい”あるいは“大衆迎合的な”音楽として批判も受ける。 確かに、猫も杓子もクロスオーバーみたいな時代があった。けれども、その中には、それに飛びついたアーティストもいればそうではないアーティストもいた。1960年代から80年代にかけてとりわけ数多くの吹込みを残しているラムゼイ・ルイス(Ramsey Lewis)は、後者の部類で、彼がやろうとしていたことに時代が追い付いていったタイプだったのではないかと思う。 分類するならば“ジャズ・ピアニスト”ということになるのだろうけれど、当初からR&B色あるいはファンク色の強いピアノ奏者だった。1960年代後半、モーリス・ホワイト(後のアース・ウィンド・アンド・ファイアーのリーダー)をドラマーとして活動しており、1970年代に入ると今度はモーリス・ホワイトがラムゼイ・ルイスのアルバムをプロデュースしたりということがあった。こうしたことからも、ジャンルで切り分けがたい行き来があったことがよくわかる。 本盤のプロデュースは、EW&Fのメンバーだったラリー・ダンが担当している。耳障りがよく、お洒落なBGMにも最適な1枚といった仕上がりになっているが、随所でなるほどファンクにきまっている。そのファンクな部分というのは、上述の通り、“付け焼刃”ではなくて、ラムゼイ・ルイス自身がずっと維持してきたノリでありグルーヴなのだろう。言い換えると、彼が時代に適合していったというよりは、時代が彼に追いついてこういう作品が生まれることになったのだろうという気がする。筆者はこういう傾向の音楽はあまり得意ではなく、たまにしか聴かないし、ラムゼイ・ルイスの多作な作品群もその一部しか知らない。でも、この人の作品を聴くにつけ、うわべだけではないプロフェッショナルぶりと、それがプロデュースも含めうまく作品に昇華されたことの絶妙さを感じる。筆者の中では、本盤はそうした感覚を与えてくれる1枚だったりする。[収録曲]1. Tequila Mockingbird2. Wandering Rose3. Skippin'4. My Angel's Smile5. Camino El Bueno6. Caring For You7. Intimacy8. That Ole Bach Magic1977年リリース。[パーソネル]Ramsey Lewis (p, elp, harpsichord, syn)Ron Harris (b, 2, 4, 5, 6, 7)Verdin White (b, 1, 3, 8)Keith Howard (ds, 2, 4, 5, 6, 7)Leon Ndugu Chancler (ds, timbales, 1; ds, perc, 8)Fred White (ds, 3)Byron Gregory (g, 2, 4, 5, 6, 7)Al McKay (g, 1, 3, 8)Johnny Graham (g, 8)Derf Reklaw Raheem (perc, 2, 4, 5, 6, 7)Philip Bailey (perc, 1; conga, 3, 8)Victor Feldman (elp, perc, 3)Eddie Del Barrio (elp, 8)Larry Dunn (syn prog, key, 1, 8)Ronnie Laws (ss, 1)Ernie Watts, George Bohannon, Oscar Brashear (horns, 1, 3, 8) Eddie Del Barrio, Larry Dunn (horn arr,1, 3, 8)Bert DeCoteaux, Ramsey Lewis (rhythm arr, 2, 4, 5, 6, 7)Bert DeCoteaux (strings & horn arr, 2, 4, 5, 6, 7)George Del Barrio (strings arr, conductor, 1, 3, 8) [期間限定][限定盤]テキーラ・モッキンバード/ラムゼイ・ルイス[CD]【返品種別A】 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方は、“ぽちっと”応援お願いいたします! ↓ ↓
2019年07月26日
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若きキューンの二重丸推奨盤 スティーヴ・キューン(Steve Kuhn)はニューヨーク市出身のピアニストで、1938年生まれだから御年81歳である。ジョン・コルトレーンのカルテットなどで活躍したほか、ストックホルムへの移住、1990年代以降はヴィーナスへの吹込みなど日本でもなじみのピアノ奏者であろう。そんな彼の初リーダー作(ただしサイドマンとしての吹き込みはそれ以前にもある)とされるのが、1966年録音の『スリー・ウェイブズ(Three Waves)』である。 キューンについては、“エヴァンス派”などといった表現で、ビル・エヴァンスの影響や彼に似たスタイルがしばしば引き合いに出される。でも、キューンの愛好者からすると、おそらくこれは不本意で、違うところがもっと耳についていいという意見が出てくるのではないか。そんなことを考えた場合、初期のキューンは“無骨”という言い方がよくなされたりもする。確かに、硬質な感じのピアノのタッチと響きは本盤では特に印象的である。この点は、エヴァンスとも、彼自身の後の録音(ヴィーナスへの吹込みなど)からイメージされがちなキューン像とも違っていて、個人的には、これがよかったりする。 そんなわけで、本盤は私的名盤に数えたくなる一つなのだが、強いて物足りない点を挙げるならば、各曲の演奏があまり長くない点(最も長尺なのは3.の6分弱と6.の7分弱の2曲で、他の曲の中には2分台の演奏曲も多い)であろうか。個人的に聴きどころとして挙げたいのは、反復的なフレーズがやたらと耳に残る1.「アイダ・ルピノ」、とにかくピアノに注目の6.「スリー・ウエィブス」、アグレッシヴな勢いが感じられる8.「ビッツ・アンド・ピーセズ」。目立つものを挙げるとなると、文字通り目立った演奏を挙げてしまうことになるのだけれど、緩急のめりはりがついているのも本盤の優れた点だと思う。[収録曲]1. Ida Lupino2. Ah, Moore3. Today I Am A Man4. Memory5. Why Did I Choose You?6. Three Waves7. Never Let Me Go8. Bits and Pieces9. Kodpiece[パーソネル、録音]Steve Kuhn (p), Steve Swallow (b), Pete La Roca (ds)1966年録音。 【輸入盤】Three Waves [ Steve Kuhn ] ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひ“ぽちっと”お願いします。 ↓ ↓ ↓
2019年07月23日
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勢いのある初リーダー作 コンテ・カンドリ(Conte Candoli,1927-2001年)は、いわゆる西海岸(ウェスト・コースト)ジャズを象徴するトランペット奏者で、ウディ・ハーマン楽団やスタン・ケントン楽団などでも活躍した。彼にとって初のリーダー名義の作品となったのは、1954年録音の本盤『シンシアリー・コンテ(Sincerely, Conti)』だった。ちなみに、本名はセコンド・カンドリ(Secondo Candoli)で、“コンテ”というのは愛称なわけだけれど、本盤の時点では、“コンティ(Conti)”となっていて、まだ芸名が定まっていなかった。 初リーダー作ということが大きいのか、全編にわたって、とにかく勢いよく、“パワーハウス”(発電所)という形容そのままのトランペット演奏を繰り広げている。収録曲は主にスタンダード曲で、全曲を合わせた収録時間も25分に満たない。けれども、テンポの速い曲を勢いよく吹き鳴らし、テンポを抑えた曲では、余裕を見せながら悠々とトランペットを奏でる。このある種の“爽やかさ”こそ、本盤のいちばんの特徴であり、聴き手が楽しむべきポイントだと思う。 そんな観点を念頭に入れつつ、筆者的に勧めたい曲を少し挙げてみたい。まずは、冒頭の1.「ファイン・アンド・ダンディ」。流れるような、かつ勢いに満ちたトランペットに圧倒されてみるのも悪くない。2.「ナイト・フライト」も同じ流れで聴けて、一聴すれば頭から離れなくなりそうなリフ、さらには一気に畳みかけるフレーズが病みつきになる。その一方、4.「オン・ジ・アラモ」や6.「ゼイ・キャント・テイク・ザット・アウェイ・フロム・ミー」に代表されるような、楽しげな余裕に満ちた、かつ流れるような演奏も印象に残る。最後に収められている有名曲の8.「四月の思い出」は、これら2つの特徴が集約された演奏といえるだろう。勢いがとにかく凄いのだけれど、よくよく聴くと、やっぱり“流れるような演奏”という特徴がちゃんと踏まえられている。初リーダー作だから気合が入り、勢いよくという気持ちはあったのだろうけれど、実のところ、余裕いっぱいに流れるような演奏もできたのだろう。だからこそ、ただ勢いで押すだけではない、ここで聴かれるような演奏内容に仕上がったのだろうと思ってみたりする。[収録曲]1. Fine & Dandy2. Night Flight3. I Can't Get Started With You4. On The Alamo5. Tune For Tex6. They Can't Take That Away From Me7. Everything Happens To Me 8. I'll Remember April[パーソネル・録音]Conte Candoli (tp), Claude Williamson (p), Max Bennett (b), Stan Levey (ds)1954年11月20日録音。 シンシアリー・コンテ [ コンテ・カンドリ ] 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2019年07月06日
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ジャズ奏者にとっての“ブルース感覚”とは レイ・ブライアント(Ray Bryant)は、1931年フィラデルフィア出身のジャズ・ピアニストで、2011年に79歳で亡くなっている。この人の作品としては、『レイ・ブライアント・トリオ』のような有名盤(かつ名盤)や『レイ・ブライアント・プレイズ』といった秀逸な盤がある。けれども、今回取り上げる『ライヴ・アット・ベイズン・ストリート・イースト』はもう少し気軽な盤で、必ずしも世間での評価はそれほど高くはないかもしれない。 よく言われるように、レイ・ブライアントには、ブルースやゴスペルに根差した独特のフィーリングがある。ジャズの世界では“やっぱりブルース感覚なんだよな”なんて声が聞こえてくる一方で、本盤のようなどこか肩の力が抜けていて、かつ大衆迎合的な要素を含む盤には否定的評価が下される傾向にある。本盤『ライヴ・アット・ベイズン・ストリート・イースト(Live at Basin Street East)』は、R&B系のスー(Sue)・レーベルの録音ということもあるせいか、いっそうそういう判断を下されがちな盤だと思う。 1.「恋とは何でしょう」や2.「C・ジャム・ブルース」、5.「ラヴ・フォー・セール」のようにジャズの王道のスタンダードもあるかと思えば、ボブ・ディランの6.「風に吹かれて」のように、いかにも流行りなナンバーも含まれている。同時に3.「シスター・スージー」、10.「オール・ザ・ヤング・レディーズ」といった自作曲も配されている。この点では、コアなジャズ愛好家から“何でもありなのか”という疑問が呈されかねない内容なのは事実である。 けれども、ブルース、ゴスペルといったルーツ音楽に根差した感覚が支配しているのは、本盤を一度聴けばすぐにわかる。つまるところ、それをどういう風に表現する(とはいっても、無理に表現するということではなく、自然と滲み出させる)かの問題であるように思う。本盤は、1963年のその時にベイズン・ストリート・イーストに集まった聴衆を楽しませることに主眼があり、その演奏者(つまりはレイ・ブライアント)の背後には、そうした音楽的ルーツが避けようもなく存在していた。結果、高尚な音楽に仕上がったと言えるかどうかはわからないものの、演奏者のバックグラウンドに根差した聴衆を楽しませる音楽が演奏された。新たな試みや実験がなされるのもジャズであれば、こういう演奏もまたジャズなのだということを再確認させられる、本盤はそういうアルバムなのなのだろうと思う。[収録曲]1. What Is This Thing Called Love?2. C Jam Blues3. Sister Suzie4. This Is All I Ask5. Love for Sale6. Blowin' in the Wind7. Satin Doll8. Days of Wine and Roses9. Blue Azurte10. All the Young Ladies[パーソネル、録音]Ray Bryant (p), Jimmy Rowser (b), Ben Riley (ds)1963年録音。 【メール便送料無料】RAY BRYANT / LIVE AT BASIN STREET EAST (輸入盤CD) 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 クリックで応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2019年07月03日
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名脇役によるリーダー盤 ハーマン・フォスター(Herman Foster)は、1928年フィラデルフィア生まれで、1999年に亡くなった盲目のジャズ・ピアニスト。彼の初期のキャリアは、ルー・ドナルドソンと切っても切り離せない。1950年代後半、ドナルドソンの複数の吹込みに参加し、その名を世に知らしめることになった。 本盤『ハヴ・ユー・ハード(Have You Heard Herman Foster)』は、1960年に吹き込まれた彼のリーダー作となるトリオ演奏盤である。ルー・ドナルドソンの作品には複数登場するのだが、よく知られた盤で言うと、『ブルース・ウォーク』が1958年、もう少し後だと『グレイヴィー・トレイン』が1961年だから、1960年録音の本盤はこれらに挟まれた時期に録音されていたということになる。つまりは、ルー・ドナルドソン名義の作品制作が続く中、自身のトリオ作も吹き込んでいったわけである。 ハーマン・フォスターが単なる脇役でないというイメージがある人は、ドナルドソン作品のファンにも多いことだろう。その特徴は枠に収まらない点といってもいいかもしれない。フォスターは好きなピアニストにエロール・ガーナーなんかを挙げていたそうだけれど、型にはまらないという点ではなるほどと思える。粘っこく、個性的というのが彼の形容としてしっくりくる。よく言えば、玄人好みで不当にその名が知られていない人物、あるいは別な言い方をすると、正統的な感じではない隠れたB級的な掘り出し盤といったところだろうか。 最後に、個人的に気に入っている演奏をいくつか挙げておきたい。1.「ハーマンのブルース」は本盤収録曲中で唯一の自作曲。彼のピアノの特徴を表す曲はどれかと言われれば、たぶん筆者はこの曲を推すことだと思う。2.「ボラーレ(ヴォラーレ)」は、イタリア人シンガーのドメニコ・モドゥーニョ(1958年)やジプシー・キングス(1989年)などで知られる有名曲。あと、4.「恋に落ちるとき(ホエン・アイ・フォール・イン・ラヴ)」は、ナット・キング・コール(1957年)やセリーヌ・ディオン(クライヴ・グリフィンとのデュエット、1993年)で知られるナンバー。これら2曲の演奏を聴いていると、ハーマン・フォスターという人の“料理の仕方”がよく伝わってくる。ジャズの世界でいう“クッキング”である。原曲そのままではもちろんどうしようもない。だからと言って何でもかんでもその人の世界に引き込まれてしまっては、きっと退屈になる。原曲を意識しつつも、その奏者にしかできない伝え方(しかもその人の色に染まっている)という意味では、これら2曲の演奏はなかなか気に入っていたりする。[収録曲]1. Herman's Blues2. Volare3. Lover Man4. When I Fall In Love5. Strange6. Angel Eyes[パーソネル・録音]Herman Foster (p), Frank Dunlop (ds), Earl May (ds)1960年9月19日録音。 [期間限定][限定盤]ハヴ・ユー・ハード/ハーマン・フォスター[CD]【返品種別A】 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2019年07月01日
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“らしさ”が生かされた好演 バラードとブルースとは、何とも基本的であり、ジャズの世界では“鉄板”のテーマであると言えることだろう。この組み合わせを表題にした作品というと、マッコイ・タイナーの『バラードとブルースの夜』を思い浮かべる人も多いかもしれない。同盤は1963年の録音であるが、それに先立つ時期にミルト・ジャクソン(Milt Jackson)がこのテーマで吹込みを残している。 録音がなされたのは1956年初頭のこと。ミルト・ジャクソンにとって、本盤『バラッズ&ブルース(Ballads & Blues)』は、ちょうどプレスティッジからアトランティックへ移籍しての第1弾作品となった。吹込みには注目すべきミュージシャンが何人も参加している。まずは、ラッキー・トンプソンである。ジャクソンの出身地デトロイトを拠点とし、コルトレーンよりも早くソプラノ・サックスをジャズ演奏に持ち込んだテナー奏者で、本盤では3曲の演奏に加わっている。次にMJQの当初のドラマーだったケニー・クラークが収録の9曲中6曲でドラミングを披露している。このクラークと組んで同じ6曲で最高のリズム・セクションを作り上げているのが、オスカー・ペティフォードである。エリントン楽団やガレスピーのバンドでの活躍のほか、キャノンボール・アダレイを発掘した人物としても知られるベース奏者である。MJQの同志であるピアノ奏者、ジョン・ルイスは上記6曲、ベース奏者のパーシー・ヒースはそれ以外の3曲で登場する。他には、ポール・ウィナーズでも知られるバーニー・ケッセルが3曲でギター演奏を担当しているのも目につく。 思えば、ヴァイブの音の美しさを生かしたバラード演奏はミルト・ジャクソンの得意とするところである。さらに、ブルース・フィーリングは彼の演奏の髄である。つまり、本盤のテーマはいずれもミルト・ジャクソンの特徴をある意味、象徴するもので、その中に上述のミュージシャンたちのよさがうまく織り込まれていると言えるように思う。どの演奏も見事だけれど、特に注目したい点は、冒頭のバラード3連発。コール・ポーター曲の1.「ソー・イン・ラヴ」からヴァイブ演奏は全開で、2.「ディーズ・フーリッシュ・シングス」はバーニー・ケッセルのギターが効いている。3.「ソリチュード」はジャクソンの歌心が最高潮に達する。さらに聴きどころとしては、6.「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」。MJQの演奏(『ピラミッド』に収録)でも知られるが、とにかく編曲がいい。静かに始まり、テンポよく盛り上がり、いいところでラッキー・トンプソンがソロを披露し、ピアノ・ソロを経て終わるのだが、短いながらも締めのヴァイブの情感を残すところも最高である。ちなみに、このラッキー・トンプソンのテナーが気に入ったなら、8.と9.も聴き逃がせない。[収録曲]1. So in Love2. These Foolish Things3. Solitude4. The Song is Ended5. They Didn't Believe Me6. How High the Moon7. Gerry's Blues8. Hello9. Bright Blues[パーソネル・録音]Milt Jackson (vb)Lucky Thompson (ts: 6, 8, 9)John Lewis (p: 1, 3, 5, 6, 8, 9)Barry Galbraith (g: 1, 3, 5), Barney Kessel (g: 2, 4, 7), Skeeter Best (g: 6, 8, 9)Oscar Pettiford (b: 1, 3, 5, 6, 8, 9), Percy Heath (b: 2, 4, 7)Kenny Clarke (ds: 1, 3, 5, 6, 8, 9), Lawrence Marable (ds: 2, 4, 7)1956年1月17日(6, 8, 9)、1月21日(1, 3, 5)、2月14日(2, 4, 7)録音。バラッズ&ブルース [ ミルト・ジャクソン ] 下記のランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、バナーを“ぽちっと”応援いただけると嬉しいです! ↓ ↓
2019年03月22日
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小気味よいフリューゲルホーン+モンクの客演 カウント・ベイシーやデューク・エリントンの楽団でトランぺッターとして名を馳せたクラーク・テリー(Clark Terry, 1920-2015)が、かのセロニアス・モンク(Thelonious Monk, 1917-1982)と組んでレコーディングしたのが、『イン・オービット(In Orbit)』という盤である。後年、C・テリーはフリューゲルホーンの先駆者としてこの楽器の演奏をしていくことになるが、1958年録音の本盤でもこの楽器を演奏している。 異色の組み合わせとはいえ、C・テリーもT・モンクもこのリバーサイド・レーベルに所属していた。にもかかわらず、どこか共通性の見えない組み合わせというのは、当時の録音のことを考えると思い切った感じがするし、はるか後の現在となっては、よくもこういった組み合わせの録音が残されたものだと思う。やり方としては、あくまでC・テリーがリーダーという体裁を保ったことが、一つの成功要因だったのかもしれない。C・テリーのナンバーが5曲(CDボーナス曲も入れると6曲)に対し、T・モンクのナンバーは1曲のみである。つまりは、モンクの独自性が出過ぎないよううまくコントロールし、あくまでサイドマンとしての立場にとどめたのは、本盤の演奏の一つの軸になったのかもしれないと思う。 結果、2人(そしてベースのサム・ジョーンズとドラムのフィリー・ジョー・ジョーンズ)の組み合わせは、意外なほどスムーズな演奏を生み出した。もちろん、そこには、C・テリーがトランペットではなく、フリューゲルホーンを全面的に演奏するという英断もあった。 演奏は、全体として、小気味よいC・テリーらしさが前面に出ている。上述の通り、T・モンクの個性的な面はある程度抑えられているので、それを期待する向きにはいくぶん不満なことだろう。むしろ、A・ファーマーらによってより叙情的な演奏のイメージへと進化していったフリューゲルホーンが、C・テリー節で小気味よく演奏されていく(そしてその立役者としてT・モンクがしっかり存在している)、というのが本盤の楽しみどころなのであろう。 余談ながら、この盤はセロニアス・モンクとフィリー・ジョー・ジョーンズが共演している数少ない盤の一つである。それと同時に、T・モンクがサイドマンを務めたのもこれが最後で、C・テリーの希望ゆえだったという。[収録曲]1. In Orbit2. One Foot in the Gutter3. Trust in Me4. Let's Cool One5. Pea-Eye6. Argentia7. Moonlight Fiesta8. Buck's Business9. Very Near Blue10. Flugelin' the Blues *CDボーナス曲[パーソネル、録音]Clark Terry (flh), Thelonious Monk (p), Sam Jones (b), Philly Joe Jones (ds)1958年5月7日・12日録音。↓ジャケットイメージの参考です(リンク先はLP盤)↓ Clark Terry / Thelonious Monk / In Orbit 【LP】 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2019年03月19日
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フライング・ダッチマンに残された代表作 ガトー・バルビエリ(ガート・バルビエリ,Gato Barbieri)は、アルゼンチン出身のテナー奏者。ローマ移住を経てニューヨークへ拠点を移し、1970年代を中心に作品を残した。キャリアの中で、当初はフリー・ジャズに傾倒、やがてルーツ(南米)音楽に向かい、さらにはロックやポップスにも歩み寄っていくなど時代とともに音楽スタイルも変遷していった。 1970年代前半、フライング・ダッチマンというレーベルに所属時の、ちょうどアヴァンギャルドな音楽性から南米音楽への回帰を見せた時期の1971年に吹き込まれ、1973年に発表されたのが、本盤『アンダー・ファイアー(Under Fire)』である。レコーディングからリリースまで間が空いているが、この狭間の1972年には映画『ラスト・タンゴ・イン・パリ』のサウンドトラック(作曲ガトー・バルビエリ、編曲オリヴァー・ネルソン)を録音し、本盤のリリースと同じ1973年にヒットさせ、グラミー賞にも輝いている。 そうしたわけなので、純粋なジャズを期待して聴くものではない。アルゼンチン出身の、チャーリー・パーカーに触発されたミュージシャンが遍歴を重ね、南米音楽のルーツに回帰し、次なるインパルスでの録音に向かっていく前段階の生の姿を捉えたものだと言える。 ステレオタイプと言われてしまうかもしれないが、南米的“熱さ”と言えば、1.「エル・パラナ」と5.「エル・セルタオ」が何と言ってもいい。また、起伏のある曲の構成に仕上げられた4.「マリア・ドミンガス」も“熱さ”が存分に感じられる。特にこれら3曲はいずれも尺が長め(8~9分程度)で、聴きごたえも十分にある。なお、少し変わったところでは、同じアルゼンチン出身のアタワルパ・ユパンキの楽曲(2.)を取り上げている。本盤では、2.「月に歌う(Yo le canto a la luna)」となっているが、これは「トゥクマンの月(Luna tucumana)」)と同じ曲で、ガトー自身のヴォーカル・パートも含まれている。[収録曲]1. El Parana2. Yo le Canto a La Luna3. Antonico4. Maria Domingas5. El Sertao[パーソネル、録音]Gato Barbieri (ts, vo), Stanley Clarke (b), Roy Haynes (ds), Airto Moreira (perc, ds), John Abercrombie (g, elg), James Mtume (conga), Moulay Ali Hafid (perc), Lonnie Liston Smith (p, elp)1971年録音。 Gato Barbieri ガトーバルビエリ / Under Fire 【CD】 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2019年03月13日
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南アフリカ発、ロンドン経由のジャズ・ピアノの個性 ベキ・ムセレク(Bheki Mseleku)は、1955年生まれのジャズ・ピアニスト。生まれは南アフリカであるが、英国経由でシーンに登場した。アシッド・ジャズのブームを経て、英国のジャズ・シーンが独自の存在感を持つに至った1990年代にこの人物は現れた。活動時期が1990年代にほぼ限られるため、残した作品数はさほど多くない。本盤『セレブレーション(Celebration)』は、1991年末から1992年初頭に録音され、同年に発表された最初のリーダー作である。 何よりも本盤で興味深い特徴は、いい意味で一つの伝統に特化していない点だと思う。先記のとおり、英国のジャズ・シーンから売り出されたわけだけれど、その演奏スタイルは、本人も認めていたように、マッコイ・ターナーをはじめとした米国のジャズ・ピアニストの影響下にある。つまりは、演奏の手法的には米国の伝統ジャズ的なのだけれども、面白いのは、妙にアフリカンな雰囲気の曲を演奏している点だったりする。表題曲の1.「セレブレーション」は、本人によるヴォーカル部分も含めてアフリカンなテイストがいっぱいである。他にも、4.「ブルース・フォー・アフリカ」のように、明らかに出身地のアフリカを意識した曲が収められている。 もう一つの特徴としては、マッコイ・タイナーっぽい部分が随所で見える一方で、なるほど英国経由かと思わせる演奏も披露している点が挙げられる。その典型例は、3.「アンゴラ」であろう。このリラックス感と疾走感の同居は、なるほど英国からの発信だというイメージに合致しているように思う。ついでながら、収録曲のうち、6.「ザ・メッセンジャー」はバド・パウエル、8.「シュープリーム・ラヴ」はジョン・コルトレーンに捧げられており、ここにもアメリカン・ジャズの伝統に基づく姿勢が示されている。 残念なことに、ベキ・ムセレクは2008年に52歳でその生涯を閉じた。複数の伝統や流れに基づいて形成されたこのオリジナリティは、きっと現在のジャズ界でも活かされたであろうという気がしてならない。その意味では、60歳、70歳になったベキ・ムセレクの個性を見てみたかったという、叶わぬ希望が個人的にはずっと心の片隅に残ってしまっている。[収録曲]1. Celebration2. One For All - All For One3. Angola4. Blues For Afrika5. The Age Of Inner Knowing6. The Messenger (dedicated To Bud Powell)7. Joy8. Supreme Love (dedicated To John Coltrane)9. Cycle10. Closer To The Source[パーソネル・録音]Bheki Mseleku (p, ts, v, arr)Michael Bowie (b)Marvin ‘Smitty’ Smith (ds)Eddie Parker (fl: 3. & 7.)Courtney Pine (ss: 10.)Jean Toussaint (ts: 5.)Steve Williamson (ss: 4.)Thebe Lipere (perc: 10.)1991年12月(1.から9.)、1992年1月(10.のみ)録音。 【中古】 セレブレーション /ベキ・ムセレク 【中古】afb 次のブログのランキングサイトに参加しています。 お時間の許す方は、“ぽちっと”クリックで応援をよろしくお願いします! ↓ ↓
2019年03月09日
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ラテンのイメージとは全く異なる演奏 クレア・フィッシャー(Clare Fischer)は1928年、ミシガン出身のミュージシャンで、2012年に83歳で死去している。1950年代にザ・ハイローズ(アメリカのコーラス・グループ、最近の日本のバンドではないので念のため)のピアノとアレンジを担当し、その後はボサノヴァなどを手掛けた。ラテン・ジャズのスタンダードである「モーニング」や「ペンサティーバ」の作者として知られる。 しかし、そんなイメージとは異なり、ピアノ・トリオでジャズ・ミュージシャンとしての本分(?)を追求している1枚が『サージング・アヘッド(Surging Ahead)』という盤である。1960年代前半にパシフィックに吹き込んだ初期リーダー作の一つであるが、ラテンなどの真新しさではなく、スタンダードをじっくりどう料理するか、に主眼がある盤だと言える。 でもって、“非ラテン”なクレア・フィッシャーはというと、これがまた個人的には実に好みのプレイなのである。世間が言うビル・エヴァンスの影響は本人が否定しているが、その代わりに影響を受けたのはリー・コニッツだとも述べている。なるほど、一聴するときれいに収まっているように思えるものの、実は端々ではじけたり、意表をつくトーンが出てくるあたりは、リー・コニッツ的と言われると確かにそうなのかもと思えてくる。 1960年代前半の彼のリーダー盤はほかにもある。筆者はまだ全部は聴けていないが、いつか一通り聴いてみたいし、すでに聴いた中にもいい盤があるので、今後も取り上げたいと思う。[収録曲]1. Billie's Bounce2. Way Down East3. Satin Doll4. This Can't Be Love5. Strayhorn6. Things Ain't What They Used to Be7. Davenport Blues8. Without a Song[パーソネル、録音]1.~4.: Clare Fischer (p), Albert Stinson (b), Colin Bailey (ds) 1963年3月13日録音5.~7.: Clare Fischer (p), Ralph Pena (b), Larry Bunker (ds) 1963年2月6日録音8.: Clare Fischer (p), Gary Peacock (b), Gene Stone (ds) 1963年4月録音 下記ランキングに参加しています。 お時間のある方、応援くださる方は、“ぽちっと”よろしくお願いいたします! ↓ ↓
2019年03月03日
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NYの6つの顔 ドン・フリードマン(Don Friedman)は、1935年サンフランシスコ生まれのピアニストで、2016年に81歳で亡くなっている。彼は、1958年にニューヨークへ移り住み、1960年代になるとリーダー名義の録音を残していく。その中でも名盤として有名なのが『サークル・ワルツ』であるが、同盤と併せて忘れてはならないと思うのが、その前年(1961年)に吹き込まれた最初の作品にあたる『ア・デイ・イン・ザ・シティ(A Day in the City:Six Jazz Variations on a Theme)』という盤である。 アルバムのジャケット写真、6つの“ヴァリエーション”の表題からもわかるように、ニューヨークという街の1日の6つの時間帯を主題にした演奏で、1.「夜明け」から6.「夜」まで、途中に3.「ラッシュ・アワー」があるのも大都会らしいといえばそうなのかもしれない。一方、これらの“ヴァリエーション”が生まれたのは、プライベート・レッスンで曲作りの練習のために古い民謡(「ザ・ミニストレル・ボーイ」)を展開させたことに端を発するという。 ドン・フリードマンのピアノは、しばしばビル・エヴァンスが引き合いに出される。確かに、知的で繊細なタッチといった点では重なり合うのかもしれないし、スコット・ラファロとの関係(もともとこのベース奏者はフリードマンと演奏していた)なんかからもその連想がなされるのだろう。けれども、見事なテクニックに基づいたパッショネートなプレイと硬質なピアノの音色、空間をイメージさせる音の組み立てといった要素は“エヴァンス派”で括ってしまっては掴みにくい要素になるのではないかと思う。 編成はピアノトリオであるが、特にチャック・イスラエルスのベースおよび彼とフリードマンの掛け合いや絶妙の間が心地よいという場面が多く見られる(このベース奏者は次の『サークル・ワルツ』にも名を連ねている)。1961年という録音時期を考えながら、21世紀の現在にこの作品を聴くと、ドン・フリードマンがかなり“モダン”だったことがわかるように思う。ここ20年ほどの間にいろんなピアノトリオが実践してきた感性を、実は先取りしていたところが多分にあったんじゃないかという気さえする。[収録曲]1. Dawn2. Midday3. Rush Hour4. Sunset5. Early Evening6. Night[パーソネル、録音]Don Friedman (p), Chuck Israels (b), Joe Hunt (ds)1961年6月12日録音。 【輸入盤】Day In The City-six Jazz / Variations On A Theme And Circle Walt [ Don Friedman ] 下記のブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2019年02月15日
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完成度の高さが際立つトランぺッターの推奨盤 ルイ・スミス(Louis Smith)は1931年テネシー出身で、2016年に85歳で没していて、ブッカー・リトルのいとこにあたるトランペット奏者である。1990年代以降に10枚ほどのリーダー作は残しているものの、教師を本業としたこともあって、それ以前の作品数は少なく、1950年代に2枚、1970年代に2枚のリーダー盤を吹き込んでいるに過ぎない。 1950年代に吹き込まれた2枚とは、『ヒア・カムズ・ルイ・スミス』と、今回取り上げる『スミスヴィル(Smithville)』で、いずれもブルーノートからリリースされた。とはいえ、前者は厳密にはブルーノートで制作された作品ではない。トランジションというレーベルの音源をアルフレド・ライオンが買い取ってリリースされたものだった。そのようなわけで、真の意味でルイ・スミスのブルーノート盤はというと、後者の『スミスヴィル』だけしかないということになる(ただし、非リーダー作としては、ケニー・バレルの『ブルー・ライツ(Vol. 1 & Vol. 2)』などにも参加している)。 『ヒア・カムズ~』の完成度も高いが、本盤『スミスヴィル』はさらに輪をかけて完成度の高さが印象的である。サックスはチャーリー・ラウズで、2.「ウェトゥ」や5.「レイター」に見られるように、スミスのトランペットとの絡みは、なかなか迫力がある。こうしたナンバーにおいても、もう少し落ち着いた曲調の演奏においても、完成度の高さの大きな要因は他のメンバー抜きには成立しなかっただろう。前作にも参加したアート・テイラー(ドラム)に加え、ソニー・クラーク(ピアノ)、ポール・チェンバース(ベース)という鉄壁のリズム隊がこの演奏を支えている。 ちなみに、筆者の好みを言うなら、ナンバー1は表題曲の1.「スミスヴィル」。味のある、あるいはカッコいい演奏を一つ決めて“さあどうだ”という演奏も悪くはないけれど、10分以上もびしっと決め続けられると、聴き手としてはそのまま惹き込まれていくしかない。滋味豊かなトランペットに全体としての見事な演奏ということなのだけど、“見事”なんていうのもおこがましい気がしてしまう。そして、目を閉じてじっと集中すると、このトランペットの抜け具合が実に心地よかったりする。[収録曲]1. Smithville2. Wetu3. Embraceable You4. There Will Never Be Another You5. Later[パーソネル・録音]Louis Smith (tp), Charlie Rouse (ts), Sonny Clark (p), Paul Chambers (b), Art Taylor (ds)1958年3月30日録音。Blue Note 1594 ↓本文中で触れた2枚のカップリングです↓ 【輸入盤】Legendary 1957-59 Studio Sessions (2CD) [ Louis Smith ] ブログランキングに参加しています。 応援くださる方は、ぜひ“ぽちっと”お願いします。 ↓ ↓ ↓
2019年02月13日
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聴かずに死ねない名演の表題曲 オスカー・ピーターソン(Oscar Peterson)は、1925年、カナダはモントリオール出身のジャズ・ピアニストで、2007年に82歳で没している。一般に、この人は“超絶技巧”がクローズアップされる。つまるところ、“技で魅せる”ピアニストで、おそらくはそれが理由で、ジャズの発展史的にはあまり触れられない人物ということになるのだろう。 とか何とか言って、筆者はそれほど熱心にオスカー・ピーターソンを聴いている訳ではない。一応、徐々にいろんな作品を聴いてみたいとは思ってはいるものの、あくまで素人的に幾枚か聴いたことがある程度にすぎない。とはいえ、この『オスカー・ピーターソンの新しい世界(Tristeza on Piano)』(後に邦盤でも『トリステーザ・オン・ピアノ』のタイトルになった模様)は、聴いた瞬間に圧倒された盤の一つである。 何と言っても圧巻なのが、冒頭に収められた表題曲の1.「トリステーザ」。ブラジリアンな、つまりはラテン・ジャズ的になりそうなはずのナンバーであるけれども、演奏内容は、そんなことを思い出させる間もないほどに、息つく間もない疾走感いっぱいのプレイだったりする。最初に聴いたときに受けた、超絶技巧にノックアウトされたかのような感覚は、何度聴いても忘れられない。そんな個人的体験からも、“聴かずに死ねない盤”の一つだと思っている。 他に聴きどころとなる演奏としては、4.「トリステ」。アントニオ・カルロス・ジョビンの曲で、ボサ・ノヴァのナンバーだけれども、これまた曲の演奏が進むにつれ、ピーターソンのピアノ・テクニックの世界に引きずり込まれる感じがいい。さらには、本盤の中では最も長い演奏時間(9分弱)の7.「ダウン・ヒア・オン・ザ・グラウンド」も忘れてはならない。ゆったりとした中で、テクニックはもちろん十分で、細かに配慮されたと思しき演奏は次第に盛り上がりを見せていく。ただ技巧で押しまくるだけでなく、こういう“押したり引いたり”が巧妙なところが、盤全体を通して聴いても飽きさせない要素になっているのかなと思う。[収録曲]1. Tristeza2. Nightingale3. Porgy4. Triste5. You Stepped Out of a Dream6. Watch What Happens7. Down Here on the Ground8. Fly Me to the Moon[パーソネル・録音]Oscar Peterson (p), Sam Jones (b), Bobby Durham (ds)1970年録音。 Oscar Peterson オスカーピーターソン / Tristeza On Piano 【CD】 トリステーザ・オン・ピアノ [ オスカー・ピーターソン ] 以下のブログランキングに参加しています。お時間の許す方は、 “ぽち”応援よろしくお願いします。 ↓ ↓ ↓
2019年01月24日
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アグレッシヴでファンキーな、ある意味ではキャノンボールの代表盤 キャノンボール・アダレイ(Cannonball Adderley)の代表盤としてよく名前の挙げられる『マーシー・マーシー・マーシー(Mercy, Mercy, Mercy!)』。ジャケットは激しくサックスをブロウしているキャノンボール・アダレイの写真だが、その左下部にLive at “The Club”と記されていることからも分かるように、シカゴの“ザ・クラブ”での1966年のライヴ演奏を収めたものである。 この写真の熱気そのままに、本盤の特徴は、“ファンキー・ジャズ”などと称される演奏にある。これまで、いくつかの記事にも記したことなのだけれど、こういう側面だけがキャノンボール・アダレイの真価というわけではない。けれども、ファンキーかつアグレッシヴで、しばしばスピード感にあふれた演奏は、彼の特徴あるいはよさの一つであることもまた確かである。 キャノンボールのバンドに弟のナット・アダレイが参加していたことはよく知られるが、本盤の冒頭の2曲(1.「ファン」と2.「ゲイムズ」)では、ナットの作曲が独特のファンキー感にいかに寄与していたかがよくわかる。続くジョー・ザヴィヌルによる表題曲の3.「マーシー・マーシー・マーシー」で、ザヴィヌルがエレクトリック・ピアノを演奏しているのも、明らかにこの全体としてのファンキー感を意図してのことなのだろう。そして、本盤の盛り上がりが最高潮に達するのが、キャノンボール作の4.「スティックス」ではないだろうか。その後も“ファンキー・ジャズ道”を突っ走ったまま本盤は終了する。 結局のところ、キャノンボールの音楽がファンキーか、という問いは無意味な気がしてしまう。ファンキーもまた彼の音楽であったというのがきっと正解なのだろう。ファンキー一辺倒でもそれがすべてでもないが、ファンキー・ジャズは彼の重要な一側面を示している。そんなわけで、本盤はそのファンキーな部分がクローズアップされた盤であり、それは良くも悪くも彼の特徴を示しているがすべてを表しているわけでもないということになるのだろう。[収録曲]1. Fun2. Games3. Mercy, Mercy, Mercy4. Sticks5. Hippodelphia6. Sack O' Woe[パーソネル、録音]Cannonball Adderley (as)Nat Adderley (cor)Joe Zawinul (p, elp)Victor Gaskin (b)Roy McCurdy (ds)1966年7月録音。 マーシー・マーシー・マーシー/キャノンボール・アダレイ[SHM-CD]【返品種別A】 下記のブログランキングに参加しています。応援くださる方は、 バナーをクリックお願いします! ↓ ↓
2019年01月04日
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