天下第一の剣を保つ苦しい道を歩むために生まれて来たので
す
お鯉の方様達が席に着くと、 各流派の第一席の者達が入場
し、挨拶をするために並びました。新吾の目が、 お鯉の方をじっと見据えます
。お鯉の方も、新吾に呼びかけるように体を乗り出したとき、「御なり」の声が響き、吉宗が入って来ます。
吉宗の視線も正面で頭を下げている新吾に向けられています。新吾は少し頭を上げ、吉宗と新吾はじっと見つめ合います。吉宗の表情には初めて会う我が子新吾への思いが・・・それを じっと見つめている新吾にも伝わっているでしょう
。
御前試合が挙行されます。
武田一真は佐々内蔵介を倒し、 新吾は高井田勇蔵を倒し
、試合は進んでいきます。
御前試合決勝は、 柳生流武田一真と自源流葵新吾の対決
になりました。
二人は静かに向かい合います
。
二人の木刀が触れ音をたてると同時に、 新吾と一真の体も素早く動きます
。が、そのあと、二 人は微動だにしません
。
相手を見、それぞれに心の中で思っています。
一真「 できる
、この前とは格段の差だ」
新吾「 強い
、以前とはまた強くなっている」
じっと動かなかった一真が木刀を少しずつ回し始めます。
新吾「 一真の誘いにのらぬことだ
・・・自分の力をそのまま出し切る・・・ ただそ
れだけだ
」
一真「このままでは、いかん、新吾に、 乱れを与えねば
」
新吾「 動くまい
、・・・ 勝負は
、 一真の動いた時に決まる
」
一真の木刀が動きだします
。そして、持ち替えると正面でかまえ、一真の形相が変わり、 新吾に向かって木刀を振りかざしました
。足を払いにきましたが、 新吾は宙に飛んでかわし
、 降りると同時に一真をうち
、礼をすると 勝者の名乗りを受けず
にいなくなります。
よかったと安堵するお鯉の方、吉宗は讃岐守に対面の支度をするよう命じます。讃岐守が控えの部屋へ行くと新吾の姿がありません。「しまった」と讃岐守が、その通り、新吾はその場から素早く姿を消し厩舎に急ぎ、馬で出て行こうとしているところに由紀姫と清水主馬がかけつけます。お待ちくださいませ、お待ちくださいませと言いながら、主馬は馬に乗った新吾の前に立ちはだかり
主馬「 おとどまりください
。先生、折角のご対面を、・・・それに、姫のお気持
ち、・・・ 先生も大好きだとおっしゃったではありませんか
」
険しい表情をしている新吾、主馬が云った言葉に 由紀姫の方に新吾が視線を向ける
と、由紀姫が「新吾様」と言ってくるが、新吾は由紀姫には答えず、
新吾「半十郎、 俺が求めたのは多加女だ
。多加女はもうこの世にはいないのだ」
そう言うと、「さらばじゃ」と言い 馬を飛ばし江戸城を出て行きます
。
新吾「 天下第一の剣を保つことは
、 そ
れを望む以上に苦しいことかもしれませ
ん
。・・・だが新吾は、その苦しい道を歩むために生まれて来たのです。
ゆかねばなりません。・・・ 父上
、 母上
、 お許しください
」
江戸を遠くに見て、父母への思いを断ち切る涙で頬を濡らし、自問自答し、剣士としての苦しい道を歩んでいく決心をかためた新吾の行く新たな道に何が待っているのでしょう。 (終)
新吾十番勝負・完結篇・・・(9) 2022年10月29日
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