吟遊映人 【創作室 Y】

吟遊映人 【創作室 Y】

PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

吟遊映人

吟遊映人

カレンダー

2013.01.05
XML
カテゴリ: 読書案内
【東川篤哉/謎解きはディナーのあとで】
20130105

◆エンターテインメント性重視、ポップでライトなミステリー小説

最近までこの本は書店の店頭に山積みされていた。
それだけに私は気になって仕方のない小説だった。幸いなことに、学生時代の友人が貸してくれたので、年末を利用して読了した。
まずはこの場をお借りして友人にお礼を申し上げたい。ありがとう。

『謎解きはディナーのあとで』は、全国の書店から支持され、栄えある本屋大賞第1位を受賞している。テレビでもドラマ化され、ユーモア・ミステリーとして人気を博した。
一体この小説の何が受けたのだろう?
答えは意外に簡単かもしれない。とにかく読み易いのだ。徹頭徹尾マンガチックにまとめられていて、エンターテインメント性を重視している。
だから、真面目に推理小説として向かうと肩透かしを食らう。だがこの世知辛い世の中、どれだけシリアス系の社会派サスペンスが受け入れられるだろうか? 若い人たちの本離れを阻止するためにも、このぐらいユーモア色に包まれていないと、ミステリー小説が生き残るには厳しいのだ。

作品は六話から成る、一話ごとの完結型形式を取っていて、正にテレビ放映に持って来いのタイプだ。見出しもお洒落で、“殺人現場では靴をお脱ぎください”とか“殺しのワインはいかがでしょう”とか“綺麗な薔薇には殺意がございます”だの、なかなか練られた文言だと思った。
たいていの推理小説というのは、怪しげな登場人物が何人か出て来て殺人事件が起こり、主人公であるベテラン刑事があれやこれやと捜査し、アリバイを崩して最終的に犯人を捕まえるというパターンだ。そしてそれは長編で、なかなか結末が見えない。(途中で犯人が誰なのか分かってしまうものもあるけれど)

正直な話、この作品においてリアリティは追求できそうもない。
真面目な方なら「ありえない!」と言って、途中で読むのを辞めてしまうかもしれない。だが冷静に考えてみよう。これだけありとあらゆる手法で小説が大量生産される中、常に新しいものを求める現代人には、このぐらい型破りな推理小説の方が受けるに違いない。
明るくポップな刑事と、ライトな事件は食い合わせが良く、消化不良に陥ることもない。後味スッキリ、のど越しの良い風味だ。

蛇足ながら、社会派ミステリー等本格的な推理小説の好きな方は控えた方が無難。この軽さは読者を選ぶかもしれない。

『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉・著


☆次回(読書案内No.32)は辻仁成の『ピアニシモ』を予定しています。

~読書案内~   その他

■No. 1 取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ
■No. 2 複雑な彼/三島由紀夫 正統派、青春恋愛小説!
雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!
■No. 4 完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する
■No. 5 青春の蹉跌/石川達三 他人は皆敵だ、人生の勝利者になるのだ
しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる
■No. 7 白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す
■No. 8 ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている
■No. 9 女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説
■No.10 或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル
■No.11 東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず
■No.12 お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人
■No.13 レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?
■No.14 山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く
■No.15 佐藤春夫/この三つのもの 細君譲渡事件の真相が語られる
■No.16 角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く
■No.17 室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛
■No.18 織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話
■No.19 谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。
■No.20 車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか
■No.21 松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場
■No.22 川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!
■No.23 丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの
■No.24 宮本輝/流転の海 第一部 戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!
■No.25 岩井志麻子/ぼっけぇ、きょうてぇ 女郎が寝物語に話す、身の上話
■No.26 柳美里/水辺のゆりかご 包み隠さず書くのは勇気なのか、それとも・・・?
■No.27 宮尾登美子/櫂 妻は黙って亭主に傅くのみ。殴られても蹴られても耐えるべし
■No.28 向田邦子/阿修羅のごとく いくつもの顔を持ち合わせているのが女なのだ
■No.29 樋口一葉/にごりえ 明治の娼妓のコイバナ、そして人情沙汰
■No.30 南木佳士/阿弥陀堂だより 信州の自然美に触れて生き返る

◆番外篇.1 新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
◆番外篇.2 菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
◆番外篇.3 芥川龍之介と菊池寛 唯ぼんやりとした不安、ハナはこちらなり。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2013.01.05 06:28:28
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: