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異能者特務機関:TMI 第38話「決戦」 90%状態のアリナ。その周囲の空間は歪み虹色の光を放ち始める。 80%で杉田幻赫に攻撃が通じた事にアリナは少しだけ安堵した。 アリナはこれまで対幻赫を想定し鍛え続けてきた。想定よりもっと強大、もっと凶悪、もっと最悪な存在と位置付け、自分自身の限界を超え続けてきた。 ――念爆者・杉田幻赫はカテゴリー6。それならそれ相応の力をつけるべき。――80%で届いて良かった。備えてきて良かった。 幻赫に炸裂したアリナの一撃は地球上の生物相手に放つものとしては過剰すぎる破壊力であった。対物においても戦艦を一撃で破壊できるものであり一人で一国の軍事力と対抗しうる力。 「儂の全力と相手できるのは長官のジェームズ・スチュワートとアメリカ支部長ハリー・ハーマンくらいだと考えていたが。まぁどちらも3分持てば良い方か、同時に相手なら10分は持つか。終夜アリナお前はどうかな?」 「……」 アリナは会話を交わさない。この敵を人間として見ない、人間として理解しようともしない。鍛え続けながらそう固く心に決めていた。 生前祖父からも『敵を知ることは重要だが敵の事情を知り共感する必要はない』と言われていた。 「(目の前の敵を斃す。言葉は必要ない。言葉で戦う必要もない)」 ――話術の得意な相手のペースに嵌ってはいけない。 祖父の話には話術に嵌り実力を発揮できずに無残にも嬲り殺された戦士の物もあった。 「(敵が父や母やアリスや祖父の話をしようとも何を見せようとも打ち砕く)」 ――強固な意志を持って攻撃する。他者には決して向けられない過剰すぎるほどの破壊力もこの敵にだけは放つ。 「聞こえておらんのか?つまらんの……では強制的にお前に感じてもらうかな?」 エネルギー球体に包まれ浮いたままの幻赫が手をかざす。アリナはそれに反応し移動、側面に瞬間的に回り込む。 そして右のフックめいた振り打ちから左の下段回し蹴りを放つ。 可視化されたオートエクスプロシブアーマーの球体は大きくゆがんで拳と足は幻赫の体に命中……する寸前、光り輝く腕と足で幻赫はブロックした。 「むん……」 再び海面を滑っていく幻赫、10mのところですぐに停止した。 「お前の打撃を爆発エネルギーにかえ儂の体に留めて耐えた。念爆は爆弾を作る異能などではないのだ。エネルギーを操るもの、応用次第であらゆることが可能になる」 「……」 「そして儂に触れた瞬間お前に情報を流してやった、どうかな?気に入ったか?」 一瞬にしてアリナに流れた来たのは―― 父、母、妹のアリス、祖父の蘇り。 幻赫はそれが可能だと見せつけた。 アイスクラーピウスの施設なら実現できると見せつけた。 「アイスクラーピウスと魔法の力があれば肉体、魂、記憶までも再現できる。死をも超越したのだ。部下共には神々や英雄の名を名乗らせてきた、儂はハーデースとでも名乗るか」 刹那の瞬間アリナに隙が生まれそこをついて幻赫は接近。アリナの破壊力を拳に集中してストレートを放つ。 対するアリナは避けずにその拳を左頬を受け止めながら腕をつかみ左足を跳ね上げ幻赫の後頭部をとらえ、挟み込むように右膝で幻赫の顎を打ち、腕をねじり上げて地面に叩きつけた。 爆発的なエネルギーはアリナの頬から左足、幻赫の頭部、アリナの右膝、そして再び幻赫の頭部、ねじり上げた腕と叩きつけられた首部を通って地面に放たれた。 「ゲボアアアアアアアアアアア……」「……」 火山の噴火めいて上空に打ち上げられる二人。 「終夜アリナ……あの絶技【屠龍】を使いこなしおるか……」 幻赫の頭部、右腕は破壊され再生が始まっている。 「だが、空中では武もどうにもなるまい?」 アリナの周囲に爆発エネルギーを発生させ連続で撥ね飛ばしを仕掛ける。 「ピンボールのようにそのまま撥ね回るがよい、お前の心が折れるまで続けてやろうぞ」 このままなすすべも無く爆発ピンボール状態かと思われたがアリナは高速で回転、爆風を両脚の裏で捉え姿勢を制御、弾丸の如く飛び出し幻赫に肉薄する。 「何っ!?」 アリナは幻赫の左腕をつかむ。脇固めの体勢を取りそのまま地面へと落下。岩盤を砕きながら幻赫の左腕をねじ折った。 「グアアアアアアアアッ!(コイツ……切断や刺し傷よりも粉砕、捻じりに対する再生速度が遅い事に気が付いたのか?)」 両腕を再生中の幻赫は首の力で起き上がり口に溜まった血を爆弾に変えアリナに吹きかける。 アリナは腕を回し受け円の動きで風圧を起こし血爆弾を受け流す。受け流した動作から左手のガントレットのアンカーボルトが伸び幻赫の目を狙う。 幻赫はオートエクスプロシブアーマーを発動、眼球を貫く1㎜手前で後ろに飛んで回避が間に合った。 「(儂が押されているだと!?……いや、認めざるをえん。こやつの攻撃に儂は反応できん、刹那遅れている――それならば)」 懐から小さな箱を取り出す、中には液体の入ったカプセル。 「ここで使う気は無かったのだがそうもいかないようだ。魔法をも取得した儂がアイスクラーピウスの総合AIに開発させた究極進化薬プロスパーストーン!!」 カプセルを飲み干す幻赫。 「異能兵士らで既に効果は実証済みだ。マルチ異能、魔法、天才的頭脳、究極の肉体不老不死!!儂は神の領域へと踏み込む!!これはアメリカのパンデミックを鎮める時のパフォーマンス用にとっておきたかったんだがな」 アリナは半目のまま警戒しつつ静かに間合いを詰めていく。 「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」 幻赫の頭部からは黒々とした髪が生え筋肉は盛り上がり皮膚はダイヤモンドのように輝く。一回り大きくなった体、若々しい顔。20代を思わせる容姿へと変化した。 「ヌウン!」 触手のように腕を伸ばしアリナを攻撃する幻赫、アリナは最小限の動きで躱す。腕は瞬時に元に戻る。 「弾丸を超える速度で放った攻撃を回避するか……ならば」 風上に立つ幻赫は舞い上がる砂埃を爆弾に変えていく。アリナに爆風が襲い掛かる。 アリナの接近を止めたことを確認すると幻赫は腕を上から振り下ろし衝撃波の壁を爆風に変えそれを追うように飛び込む。アリナはブーツのアンカーボルトを岩盤に突き刺して耐え、幻赫の接近に備える。 「カウンターなど出させん!テレパスでお前の五感をシャットダウンし爆風で打ち上げ何もできないまま葬ってやるぞ。なあに安心しろ再生して産む機会として使ってやる」 幻赫の目が虹色に輝いてアリナと目が合う。その瞬間アリナは視覚聴覚嗅覚触覚味覚を封じられた。 「!?なにも感じない……」 並のテレパスならアリナに押し返され意識を失うが幻赫はわずかに押し勝った。 「王手だ!聞こえてはいないだろうがな!!」 五感を封じられたアリナが唯一感じ取れたのは自らの体を流れる虹色のエネルギー。見えないはずの周囲の形。 「――これは……もしかしてテレポーターなどが見ている別次元からの観測状態?」 そう瞬時に理解できたのはほんのわずかな時間であったが異能者共有をフローレンス、哿と試した事があったからである。 その時の時間はわずか5秒程度、しかし体感的には数分にも感じられフローレンス、哿の感覚や思考と混ざりあい別の視点から自分たちを俯瞰しているようであった。 「異能者共有状態!?……いえこれは……わたしの意識だけ。体から離れて見えている」 ひどく遅いスローモーションで幻赫の形をしたエネルギーの塊が何かを仕掛けようとしてるのが感じられる。 「反撃しなければ」 アリナはマリオネットを操るように自分の体を操作して後ろから接近する幻赫へ左裏拳を放った。 アリナの拳が炸裂した幻赫のエネルギー体は変形し長く伸びてゆっくりと後方へと飛んで行く。体を操作して振り返らせて構えを取る。 「…………あれは?」 上空に気配を感じ見上げるアリナの意識。色の無い空に虹色に輝く細長い塔が見えた。 「アレはもしかして……TMIの本部の塔?」 現実世界では観測できないTMI本部の塔。哿のような高位のテレポーターにはテレポートの瞬間にだけ見えるという。 「あれがTMI本部ならこの感じている世界は異次元空間……?」 アリナは無色の空間を見渡す。アイスクラーピウスであろう場所には虹色の他に黒や白、灰色のエネルギーが見えた。 「ああ、フローと哿さんのエネルギーを感じる無事で良かった。こんな状態なのに不思議と落ち着いている。恐怖は無い、焦りも無い。この光景を見ることに違和感はない……『どうしていままで見れなかったんだろう』とさえ考えてしまう」 飛んで行く幻赫を眺めるアリナ。 「追撃する?いえ、この状態を解除しなければ」 『終夜アリナ聞こえてますね?私はTMI本部の管理者です』 「管理者……AIですね」 『いいえ私はAIではありません。あなた達とは違う次元の存在とでも言っておきましょう。今あなたは私とリンクしている状態にあります』 「そうですか」 『あの男、杉田幻赫によってあなたは五感を封じられ偶然にも意識がこの次元に移りました。この機会を見逃す私ではありません、私と対話できたのは過去にジェームズ・スチュワートと一人の女だけです』 「管理者はわたしにどのような用があるのですか?」 『本来であればもう少し先の未来であなたと接触するはずだった。私の予想以上にあなたは成長しあの杉田幻赫を凌駕する存在にまでなった。用と言うのはTMIの次の長官にあなたを任命します』 「それは何故ですか?」 『私にはある程度の未来予測が出来ます。ジェームズは後10年も生きられません。今年の内に起きる地球規模の災厄が原因で彼はダメージを蓄積させていくのです』 「わたしは杉田幻赫を斃せますか?」 『その力はあります。ですが、斃せなかった未来も私は見ています。ジェームズが死ぬ時にあなたが次の長官になる事はほぼ決定しています』 「あなたに聞きたいことは沢山ありますが、元の状態に戻していただけますか」 『それは構いませんが、あなたは今杉田幻赫に五感を封じられている状態です。戻せば何も感じなくなりますよ?』 「大丈夫です、貴女と接触した事によりわたしはこの次元をはっきりと認識することができました」 『私とリンクしなければこの状態はほんの一瞬しか保てませんよ?』 「認識することが出来ればわたしは強化してこの状態を保ちます」 『成程、やはりあなたは次の長官にふさわしい人物のようです。TMIの未来は明るいと言えます。私にできる事と言えば導く事だけです、異能の力を上げたり自由に接触はできませんので』 「十分です、貴女と言う存在があるかぎりTMIは存在し続けると確信し安心しましたから」 『健闘を祈ります終夜アリナ』 アリナの裏拳を受けた幻赫は岩壁を粉砕し地面をえぐりながら無人島を両断する形で吹き飛んだ。オートエクスプロシブアーマー越しでもそのダメージは大きく数秒間意識を失った。 「馬鹿な……あの状態から反撃だと?いや、儂には何も見えんかった。ライフル弾をも見切れるこの状態で……これがあやつの100%なのか?」 アリナのガントレットの破片とアンカーボルトが腹部に突き刺さっていた。 「……仕方が無い認めてやるとするか、この儂をもってしても接近戦ではあやつに及ばないことを。儂は核爆弾と同じ力を持つ存在、その気になれば世界など7日間で滅ぼすことが出来る勝ち方にこだわりさえしなければ負けるわけが無いのだ」 飛び上がる幻赫、アリナの姿を捉える。 「だが、範囲の広い攻撃はするべきではないな、アイスクラーピウスを失いたくはない。ならば超圧縮した爆撃弾で粉砕してくれる。地殻を貫き上部マントルまで到達するであろうこの攻撃、受けるがいい」 アリナの姿が消える。 「なっ!?」 突如背後に現れるアリナ。 「くっ!」 後ろ蹴りを放つ幻赫、空中にも関わらずアリナは瞬間移動し幻赫の側面に。 「テレポートだと!?使えるわけがない!!」 幻赫は気づく、血だらけになっていたアリナの拳がみるみる再生している。 「マルチ異能……ありえん、特別な改造手術を受けた者の他は異能者共有状態でなければ」 再度テレポートするアリナ、踵落としで幻赫を地面に叩きつける。 「「僕たち私たちは今アリナさんの体を異能者共有状態で使っている」」 「その声……フローレンスと哿か……ふふ、離れたところから援護か。だが奴はそれを望んだのか?敵討ちは自分自身の手で行ってこそじゃないのか?」 「「お前の言葉には惑わされない。皆でお前を斃す!」」 「威勢のいいことだが先ほどの打撃、儂を吹き飛ばした拳のものと比べると大したことは無い。マルチ異能を得た代わりに破壊力は失ったようだな。それとも五感を封じられた終夜アリナは自身の異能をコントロールできないのか?」 「「ご心配なく、アリナはもうそろそろ私達を介して体のコントロールを取り戻します。ほんの試運転代わりの攻撃で勘違いされないように」」 「ほう……しかしその状態いつまで持つかな?儂の五感封じはもはや3人の意識の混ざり合ったお前には効かないだろう、だがそれだけだ。付け焼刃でこの究極の存在である儂には及ぶまい」 爆発閃光弾を放つ幻赫しかしそれは手から放たれアリナに衝突はせず、幻赫自身の顔面に炸裂した。 「ぐわばっ!!……なにが起きた!?」 「「テレポートさせたのです。その爆弾?とやらを見切って触れてあなたに返したのです。掌の軽い火傷は再生すればいいだけの事」」 「そんな演算速度……最新の量子コンピューターでも不可能……」 「「異次元に接続し続けているアリナさんと共有しているので可能です」」 「異次元に接続だと……!?プラチナキーを使わずにその状態にいってるだと!?」 幻赫は吹き飛んだ顔の皮膚と肉の一部を再生しながら言った。 「「あなたがアリナの五感を奪った事が引き金になったのです」」 「異次元に接続しようが五感を奪われた状態では何もできるはずがない!TMIの塔のように他者に伝える事が精々……こちらの次元で門を開いた状態で行動を起こさなければな!テレポーターが良い例だ、異次元に意識を飛ばした状態は刹那無防備、意識を戻した時肉体は意識を飛ばしていた異次元を通りこちらの次元の座標に飛んでくる。時間の流れが違うために瞬間移動となりえる。時間の流れが違う異次元と繋がり続け異能者共有を行うなど……」 「「話はもういいでしょうあなたを斃します」」 「そうかなるほど、終夜アリナ自身がプラチナキーであり門でありつづける状態ならばそれも可能か……フフフハハハハハッ!いいぞ!!儂の目指しているものが理想の状態がそれだ!!予定では異次元のどれに接続するかを探り更に安定化をしていくのだが……大幅に手間が省けそうだ!!終夜アリナ!お前はどこまでも儂を楽しませてくれる!!」 「「そこまで理解していて、この状態の私達とアリナに勝てるとでも?」」 「負けたことろでデータは取れる。死にさえしなければどうとでもなるものだ」 「「この期に及んで私達が手加減をするとでも?」」 「やる時はやるだろう、だが死ぬ心配もしていない、儂はあらゆる事に備えているのでな」 ゆっくりと歩いて近づくアリナに対し幻赫は構える。 「小細工なしの真っ向勝負を望むか?それもいいだろう、異能合戦はお前たちに部があろう。だが武術で対抗できる終夜アリナのみ。儂もそれなりに武術には自信があってな」 「「アリナさんが直接体を動かせない状態だけど僕たちは意思を合わせて動きを再現して見せる!伝えてもらって動かすまでの時間ロスは無いに等しいきっとできる!」」 「絆の強さを見せつけるというやつか?いいぞ、若者らしい青臭さだ!!」 ゆっくりと接近するアリナの歩行は先ほど幻赫が見た武の極みを感じさせるものと遜色が無かった。 「ほう、再現しよるか」 対して幻赫は重心をやや落として両手を前に突き出す構え。 「シィイッ!」 爆発で加速させた音速を超える下段蹴りでアリナの左足を狙う。アリナは左足を上げて躱しそのまま前蹴りを放って幻赫の防御の上から押し込む。 「……っ」 一歩踏み込むアリナ、左のしなるような牽制突きから掴みに入り、引き寄せる。そして右膝で幻赫の顎を狙う。 対する幻赫は肘でアリナの膝を迎え撃つ。アリナの右膝が幻赫の肘を粉砕する。のけぞりたたらを踏む幻赫にアリナは右回し蹴りを放つ。オートエクスプロシブアーマーを突き破り幻赫の側頭部に脛が命中。衝撃で爆発めいた閃光が発せられる。幻赫は頭から地面に叩きつけられ岩場を砕いてクレーターを作る。 そのままボールのように跳ね上がった幻赫はダメージを負いながらも反撃をすべくラッシュを仕掛けた。 続く
May 8, 2020
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