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VAMPIREEYE89「侵入作戦」 ―明命館学園 吹雪はいつものように自転車では無く使用人・須原登流の車で送られて通学していた。それに気が付いた二郎は渡り廊下で声をかける。 「おはよう白峰さん、今の人は?」 「おはよう木城くん。あの人は白峰家で雇っている須原登流よ。しばらくは彼がわたしの送り迎えをする」 二人は渡り廊下の横にある自販機コーナーに移動する、人影はない。 「家の人が送り迎えかぁ、じゃあ任務はどうなるの?」 「……後で田口堂に確かめてみる。任務は受けないようにしようと思ってるけど」 吹雪は小さくため息をついた。 「??」 「何が起こっているのか分からないの……」 「……(やっぱり華月さんの事を言った方が……でも霄さんが話すと言ってたし)」 「木城くんどうかした?」 「ん?いや、昨日の事考えててね。母さんの知り合いに会いにいったら変な連中に襲われたんだ。あの嵐山公園で会った連中に似ていた」 「え!?」 「まぁ何とかなったから大丈夫だよ」 「場所は?」 「大北山松鴎山町のお寺」 「そう……今日そこに行ってみる。任務と関係なくても気になるから」 「行くの?じゃあ俺と速水も一緒に行くよ。何かあった時人数多い方がいい、それにお寺の人は俺の知り合いだし」 「そうね、それじゃ三人でお寺に行きましょう」 吹雪はそのまま校舎に、二郎はパックのヨーグルトドリンクを買う。 「木城君」 上から声をかけてきたのは奥寺舞子だった。音も無く見えない糸で下降して着地した。 「事務所のマネージャーから話聞いたんだけど……厄介な事に首突っ込んでるのね」 「ん?奥寺……さん、急になんだい?」 「知ってるのよ、昨日大北山松鴎山町に行ったでしょ?吸血鬼の男と一緒に。で、私の所属する芸能事務所は妖怪連合。これで通じる?」 「ああ……」 「私も昨日まで大熊我們が熊童子で関係者だなんて知らなかったんだけどね……」 「そっか、用事はその事?」 「忠告しにきたの。お寺には行かない方がいいわ、あの白峰吹雪は行きたがってるけど。どうしても行くというのなら目立たないように隠れてる事ね」 「忠告ありがとう……」 「はぁ……本当に感謝してるんでしょうけど絶対行く気でしょ?あのね、今日その場所で血みどろの殺し合いが恐らく行われるわ。綺麗ごとで済まされないし止められないの」 「そんな……」 「木城君やあの白峰吹雪は知らないでしょうけど、連合はこの街で好き勝手する妖は見過ごさないし他所から来た連中も監視する。人間の都合だけで対応してきた教会とは違うの。妖にも都合があるって事」 「昔の白峰家のように?」 「ん?白峰吹雪から昔の京都の話聞いたの?……私があの白峰吹雪を気に入らないのは態度とかだけじゃなくて現状の立場の事もあるのよ」 「奥寺さん君はまだ生まれてなかったのに色々知ってるってのか?」 「妖は基本自分勝手だけど周りで起きる事には敏感なの。だから調べて知ってる、この街の裏の歴史の事もね。よほどの莫迦じゃない限り大体皆知ってる」 「……そっかだから白峰家関連の妖のみんなは碁盤の目町に住まわされて……」 「そういう事。周りの妖からすればいいように人間の都合でやられておとなしくしてる変な闇の住人なのよ今の白峰家は」 「もし……白峰家が何かアクション起こしてその……敵とかに立ち向かうとしたら周りの妖としてはどういう風に思う?」 「さあ?皆色々な考えもってるし知らないしどうでもいい。私個人としては……まあちょっとだけ見直すかな?教会から離れればもっといいけど、でも今更無理でしょそんなの」 「うーん……」 「とにかく、大北山松鴎山町には行かない方がいいから。血迷って首突っ込んでも後悔するだけだしね?私は助けないわよ」 「うん、教えてくれただけでも助かるよ。ありがとう」 二郎の真っすぐな視線に思わず目を反らす奥寺舞子。 「はぁ……そう思ってるのなら今度おごりなさいよ。あと私はあくまで妖側だからそれを忘れないようにね」 奥寺舞子は壁を駆けあがって窓から校舎に戻っていった。 ―昼休み 校長室に二郎は呼び出されていた。 「来たな二郎」 日に日に成長している華月が目の前にいた。沖田は横に立っているが校長の姿は見えない。 「あの、校長先生は?」 「ああ、この椅子の中で悶えておる。視界に入れるのが不愉快なのでな、本人は大喜びで何度も絶頂しておるが」 「そ、そうですか」 華月が足を組みなおして体勢を変えると「あひぃ」と小さな声が聞こえた。 「校長、静かに。貴方の今日の仕事は椅子です、不用意な発言は控えて頂きたいですね」 沖田が低い声で言うと椅子の中の校長は息を荒らげながら「はい」と返事をした。 「あの華月さん話とは?エネルギーの受け渡しは放課後では?」 「放課後お前は用事があるのだろう?吹雪に怪しまれぬように今呼んでやったのだ」 「学校の事知ってるのですね華月さんは」 「この学校で起きている事は全て把握している。あの土蜘蛛の事もな。向こうも我の存在には気が付いているだろう、我が白峰華月とまでは分かってないようだが」 「じゃあ昨日の事も?」 「勿論。お前が木城凪子の名前を使い熊童子大熊我們と会ったことも、灰色の軍勢【グレイズ】と名乗る連中の襲撃に合ったこともな」 「河上さんから話を聞いたのですね」 「……二郎、大北山松鴎山町にまた灰色の軍勢【グレイズ】は来るだろう。そして連合側もそれを迎え撃つ戦力を揃えてくるはずだ。だが加勢など考えるなよ?」 「どうしてです?」 「連合側を怒らせたくないのならそうしろ。あ奴らの都合もあるのだ。お前は今、中途半端な立場なのだ、下手に動くと誰の為にもならんぞ?」 「華月さんらと連合は歩み寄れないのですか?河上さんから話を聞いたのでしょう?」 「歩み寄る?そんな事はお互い考えてもいない。先の事を考えているのだ灰色や教会をこの街から追い出したとのことをな」 「わかりません……今はお互い協力する時なんだと思ってます」 「二郎、お前にも考えはあるだろう。だがお互いの立場もあるのだ。そう簡単なものではない。連合の代表と黒谷は話し合いに応じる、まずはそこまでだ。今日例の寺で戦が起きてもそれとこれは別なのだ」 「……そうなんですか」 「もし仮にだ、例の寺ではなく我々の隠れ家の一つに灰色の軍勢が襲撃してきたとして連合の妖が加勢しに来ると思うか?」 「それは……来ないと思います」 「万が一通りがかりの連合の者が加勢してくれたとしてもそれを疑う者もいるのだ。『仕組まれている』とな。だから自分らの縄張りで起きる事は自分らで解決しなければならない。お互い助力を求めていない時にはむやみに行動するべきではないのだ」 「何があっても黙って見ていろと言うのですか?」 「そうだ、静観の構えだ。我は例の寺周辺に配置した佐久間の動物からの映像を見る」 「もし俺が加勢すればどうなりますか」 「もう今後一切お前を助けてやれんな」 「……」 その様子を眺めている思念体たちは動揺している。 『マズいぞ……華月の機嫌を損ねてはいけない』 『寺に行っては駄目だ』 『吹雪は行く気だぞ』 『灰色の軍勢の襲撃で吹雪が命を落とす可能性もある』 『考えろ……吹雪は何をしようとしているか』 『教会への不信感が芽生えている、色々確認したいのだろう』 『碁盤の目町にいる白峰雪名に会うのはどうか?この道の二郎はまだ会ってない』 『入る方法は吹雪か勝田に頼むしかないな』 『華月に相談させろ、勝手な行動はさせてはならん』 『碁盤の目町に入る動機はなんだ?華月に下手な嘘は通じないぞ』 『会って話がしてみたい、それだけで十分なのでは?』 『なるほど、今の華月は動けない。碁盤の目町の現状は知りたいだろう雪名の事も』 『それでいくか』『了解』『そうしよう』 二郎の頭の中に『碁盤の目町、白峰雪名』の声が響く。 「どうした二郎?」 「ちょっと考え事を……あの華月さん、それなら俺碁盤の目町に行きたいのですが」 「ほう?何故だ?」 「今の俺が出来るのは教会の繋がりを利用して色々情報を集める事だと思うんです。勝田さんにはできない事も何か出来るのではないかって。吹雪さんと一緒に雪名さんに会って話をするとか……」 「……ふむ。だが二郎、今碁盤の目町は封鎖されているぞ?勝田も入れない。専用サーバーで繋がってはいるが応答は無いとのことだ」 「そんな……どうして……」 「我が考えるに……教会の思い通りに事が進まなくなったのではないかと。憶測だが教会は源藤高雅を使い霄を殺害し白峰雪名を挑発、連合の仕業にすれば良かったのだろう。霄が殺されれば今まで黙っていた連中も騒ぎ出す、飼い殺しにされている碁盤の目町の白峰家配下の者共もな。後は外に放てばいい、止まらない。教会としてはそれで暴動鎮圧として邪魔者はすべて一掃という訳だ。この計画が頓挫したために別の計画に変えたのだろう。その為に碁盤の目町を封鎖したのだ」 「でもこのままじゃ……」 「そうだこのまま手を拱いていれば、我の完全復活の前に奴らに先手を取られることになる。教会を詰める為にも碁盤の目町に侵入し雪名を解放させなければならない。当初の黒谷の計画では我の復活に合わせて勝田が雪名を解放させるつもりだったのだ。そしてこの計画は碁盤の目町の封鎖により変更をせざるを得なくなった、今は侵入方法を考えさせている」 華月は椅子から立ち上がり沖田に目で合図する。沖田は本棚をスライドさせて隠し金庫の扉を開ける。中から取り出したのは漆塗りの小箱であった。中には煌びやかな櫛が入っていた。 「これは?」 「前に雪名に渡そうと思っておった品だ。あれが出てきた時にこれを渡すつもりなのだ」 「とてもきれいです」 その言葉に華月は嬉しそうに口角を上げた。 「二郎、我らは碁盤の目町に入る方法を探さなければならない。その櫛を持って勝田の所に行け、吹雪と一緒にな。寺には行くなよ、吹雪が聞き分けがないのであれば櫛を見せろ」 「でもこれなんで持ってたかと聞かれたら……」 「機転の利かん奴だな。木城家で預かっていたとでも言え」 「は、はい」 二郎と華月のやり取りを眺めている思念体。 『乗り切ったな……』 『過剰なご機嫌取りも嘘も華月は好まない。真摯に向きあわなければいけないのだ』 『目標は決まったな。碁盤の目町侵入だ』 『簡単ではないがこれで吹雪と行動を共にできる』 思念体たちはほっと胸をなでおろした。 「ここも安全では無くなる可能性が高い。二郎、校内だからといって油断するなよ?」 「はい……」 ―放課後 「お寺に行かないの?どうして?」 吹雪は首を傾げた。 「色々考えてたんだけど、教会の一員として一度碁盤の目町の支部に行ってちゃんと話を聞いてみたいなって」 「そう……確かに案内しないといけないわでも今は……」 「どうかしたの?」 「入れないの。理由はわたしにも分からない……困っているんだけど」 その時吹雪の携帯に着信があった。 「技術部の勝田氏から?」 吹雪は思いがけない相手からの着信に驚きながら取る。 『もしもし~?白峰吹雪ちゃんだね?』 「はいそうです。どうしましたか?」 『碁盤の目町封鎖の事は知ってるよね?僕も何とかしたいんだけど一人じゃどうしようもなくてね、水元氏と相談もしたんだけど反りが合わなくていつものように口論になってしまってね、間に立ってほしいというか……まぁとりあえずこっちに来てよ。タクシーをそっちに向かわせたから君のチーム三人で。人手は多い方が良いからさ』 「……わかりました」 勝田は華月の手配で電話をかけてきた。 「木城くん、これから技術部の勝田氏に会いに行くことになったから」 「うん」 「速水くんも一緒に碁盤の目町の今の状態を聞きに行きましょう」 華月の計らいで説得の必要が無くった事に安堵する二郎。 吹雪、二郎、恭一は学校に到着した佐久間タクシーに乗り込む。吹雪は迎えに来るはずの須原にタクシーに付いてくるように電話で伝えた。 30分ほどで高いコンクリートの塀に囲まれた30階建てビルの前に到着する。 「ここは……都メタル?」 「そうよ木城くん。勝田氏は教会の技術部だけど都メタルと契約して働いているの」 都メタルは全世界で7万人を超える社員を抱える企業。社長は木戸剛照。華月の配下の吸血鬼である。 「確か金属部品、半導体、通信機器にバッテリー、医療製品の開発にも関わっているんだよな?」 速水恭一がつぶやいた。 「詳しいな?」 「スポーツ推薦で大学に入って卒業後ここに就職する予定だからな!一応調べてんだよ」 「そうか……」 そうこうしているうちにゲート横の守衛室の金属扉から勝田が出てきた。 続く
Dec 6, 2020
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