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VAMPIREEYE79「二郎と勝田」 自宅に戻った木城二郎。一人で冷凍食品の食事を済ませて携帯電話を弄って時間を潰す。 「(何で俺はあの番号にかけたんだ?勝田博士って?会ったことないはずなのになぜか知ってるぞ……この義手の影響なのか?)」 しばらくすると電話がかかってきた。 『勝田だよ』 「もしもし木城二郎です」 『大変だったよ沖田先生を説得するのは。まぁ僕としては大規模な作戦にはちょっと早過ぎると思ってたから中止になって良かったんだけどね』 「白峰華月の復活の前だからですか?」 『……君ね、なんなの?本当は誰なんだい?』 「俺の義手を調べてください。そうすれば話すよりもよく理解できますから」 『といっても施設の揃っている場所に君を入れたくないんだけどなぁ。どこかに外して置いてくれないかい?』 「それが自分では外せなくて」 『厄介だねもう……ところで土蜘蛛には知られてないんだよね?昼間あの子に携帯奪われたでしょ?』 「見てたのですか?」 『いんや?僕の配置したサイバネロイドが映像を取っててね。そんな事よりどうしようかなぁ……碁盤の目町に君は入ってこれないし僕のアジトに呼ぶわけにはいかないし』 「そうだ、明命館の校舎裏の祠で待ち合わせはどうですか?簡単な装置くらいは持ち出せるのでは?」 『簡単に言ってくれるねぇ。でも沖田先生のテリトリーだし邪魔は入らないかな?あの人人間時代は【陰陽師】だったし結界張ってくれるでしょ』 「沖田先生が元陰陽師!?……ううぅ……」 『どうかしたのかね?』 「何か思い出しかけまして……何でもないです。じゃあ勝田博士いつにしますか?」 『明日も忙しいし今日の夜0時でOK?無理でもなんとか来てよ』 「解りました」 電話を切る二郎。その様子を見つめている思念体達。 『沖田実満が陰陽師だった事を今の今まで忘れていた……確か前の道で吹雪が斬る前にそう聞いたと言っていた』 『沖田実満が生きている道は今回初めてだな』 『陰陽師か、対処しなければならんグレイビーストは道摩法師……陰陽師がいれば対抗できるのでは?』 『どうやってその状況に持っていく?』 『勝田博士が気付けば……』 『少年二郎をどう導く?』 『分からん……重要な3つのフラグを外れなければ下手な事はしない方がいい』 『時折姿を見せ、思わせぶりな言葉を聞かせる程度でいい』 二郎は23時半に自転車で明命館へと向かう。 校舎裏の近くに自転車を止める。裏門に近づくと影から沖田実満が姿を現した。 「木城二郎君、こんな夜遅くに学校に何の用だね?不良生徒を見つけて私は悲しい……」 「沖田先生こんばんは、とても大事な用事があって人と待ち合わせしてるんです」 「冗談だよ木城君、勝田君から事情は聴いてるよ。さぁ来なさい」 沖田の口には鋭い犬歯が見えた。IDカードで裏門を開ける沖田。監視カメラの映像は結界でごまかしている。 「やぁ木城二郎君へっへっへー僕が勝田波留夫だよ。君が来る前に校舎裏の祠周辺を調べてみたんだけど面白いよ。Vエナジーが極微量だけど観測できてねぇ、君のことを信じる気持ちになってきたんだ」 勝田は背負ったランドセル型の機械からアームを何本も展開させている。 「あ、はいじゃあ早速この義手を調べてもらえますか?」 「ほいほい……」 センサーを近づける勝田。 「ムムムムム!?こいつはビックリだ!!まだ設計段階のはずの物がここにあるとはね!詳しく調べてみたいと解んないけど……はうあっ!」 直接義手に触れた勝田の猫背がピンと伸びた。 「これはああああああああああああああああああああっ!!」 満面の笑みを浮かべる勝田。20年先までの記憶が一気に流れたのだ。 「流石僕だ!やればできたんだ!!あの水元なんかよりずっと僕は偉かったんだそりゃそうさ!僕はジーニアスレイジだぞ!!へっへっへー!」 「どうしましたか勝田君?」 「いやあ今まで生きてて一番嬉しい事に出会ったのですよ沖田先生!」 「そうですか……ではあのお方の復活ですぐに一番うれしい事は更新されますね」 「そうだねぇ~沖田先生その事もすぐに実現できそうです」 「あのそれで……」 二郎が待っていると勝田は頷く。 「解ってるよ、すぐに装置と義手の開発をすすめる。そうだねぇ材料がそろえば1カ月もあれば完成できるかな。ま、その辺は谷川先生と木戸社長に頼むかなぁ」 それを聞いて驚く思念体。 『1カ月……グレイビースト襲撃までギリギリか。それにしても谷川か』 『吸血鬼谷川克政……他の道で対決した奴の生存も今回は確保しなければならんのか』 『沖田に谷川の生存……このまま戦闘が無ければ少年二郎の覚醒はどうなる?』 『パワーバランスが吸血鬼側に傾き過ぎて大丈夫か?』 『何か見落としてないか?』 『俺たち思念体の道では全て吸血鬼勢と白峰家が滅んでいた……その原因はさまざまだが考えれば教会の一人勝ちだった』 『そもそも白峰家が力を失い教会に吸収されたことが問題では?』 『今更それはどうにもならない。観測できる過去は二郎が片手を失いVエナジー義手を拾う時までだ。兄蓮也が暴走して二郎が片腕を失わなければ少年二郎はVエナジーとかかわりのない人生を送るはず』 『その道は観測しようがない』 『……この時代の白峰華月の配下になるのはどうか?』 『それだと吹雪と離れることにならないか?もう一つ、親友になるはずの速水恭一との交流はどうなる?』 『教会と敵対することなく白峰家が力を失う事になった原因を徹底的に追及してみればどうか?』 『できるか?10代少年に過ぎないこの時代の二郎に』 『日本の教会トップ、大天狗の長門顕彰、陰陽師の葛野忍。これらは元々白峰家と協力してはずではないか?』 『何かがあったんだ。その強力な二人が教会に属して京都のパワーバランスがおかしくなっていったと考えられる』 『この道の流れが全く読めない……失敗して新たな思念体を生み出す可能性もある』 『枝分かれをむやみに増やすのは賛成できない。収束可能な範囲でやらなければ空間パラドクスの発生が起きてしまう、それだけば避けなければならん』 『慎重に……慎重に二郎を導かなくては』 *** 少年二郎、勝田、沖田が裏門から出るとフードを被りマスクをした集団に囲まれた。 「誰だ!?」 「話を聞きそうにないタイプだね?」 「何だね君たちは?」 フードの集団は突如消音器の付いた拳銃を取り出す。 「危ない!」 勝田のメカニカルアームが広がり傘状になって弾丸を防ぐ。飛び上がっていた沖田は手をかざす。赤い光の帯が伸びフード集団に命中。 「ヌン!」 昏倒していくフードの集団。生命力を吸い取るドレインで気絶させた。 「いきなり撃って来るとは……私は悲しい」 「誰なんだ……」 倒れたフードのマスクを外す二郎。全員が土気色で体が冷たかった。 「沖田先生まさか!」 「やってないよ私は。手加減して1体1体の死なない程度残した。となれば、その者ら状態はここに来た時すでにそうだったという事だよ」 「傀儡か……僕は専門じゃないけど谷川先生なら詳しいのでは?」 「そうですね、この者たちの素性は谷川先生にお任せしましょう。後の処理は近藤警視と斎藤警部にお任せしますか」 「え?え?沖田先生、勝田さん、警察の知り合いが?」 二郎は落ち着かない表情で言った。 「そうだとも」「他にも色々な企業の社長と繋がってる」 「あなたたちは一体……」 「どうしようかな沖田先生。木城二郎君は蓮也君の弟だし我々の協力者に……義手とか色々知りたいこともあるしねぇ」 「戦が始まれば巻き込まれる。ここまで知ってしまったのならただ放置して死なせるよりも協力してもらう方がよいですかな……右手の義手の力計り知れないものを感じる」 「じゃあ後の処理は近藤さんらに任せて木城二郎君はどうしますか?」 「お、俺は……」 「兄の蓮也君の住処に連れて行ってはどうですかな?あそこならフード集団にも嗅ぎ付けられないでしょう」 「そうしましょうか」 「兄貴に会えるんですか!?行きます!!」 タクシーを呼ぶ勝田、警察を呼ぶ沖田。二郎は到着したタクシーに勝田と乗り込む。 「安心したまえこのタクシーも僕や沖田先生の味方だよ」 「そうですか」 「義手に触れていろ~~~~んなことが知れたよ。だからまぁ僕は君の味方だ。複雑な事情で話せない事もあるけど。ぶっちゃげると僕は表向きは教会の研究員なんだけど本当は違うんだよねぇ」 「え?え?」 「一蓮托生運命共同体ってことで君に話すよ、僕はスパイなのさ。旧白峰家に憧れていたし今も再興して欲しいと願っている。だからスパイとなって活動している」 「は、はい」 「君もスパイになってくれないかね?僕の事をマークしてる奴もいるかもしれないし。君は親が教会の執行人だろう?問題無く所属できるさ」 「急に何が何だか……」 「あの子を白峰吹雪を守りたいだろう?二郎君……」 「え、いやっその……」 「隠さなくてもいいよぉ、一目惚れってのはあるものさ。僕の場合は華月たんだったのだよ……あの尊い存在は人生最萌!」 「……(あれ?さっきまで華月って名前知ってたような?勝田さんに義手触らせてからなんだかその辺の記憶があいまいに……)」 タクシーは改装中のマンションの前で止まった。すぐ隣に小屋がある。 「ここに蓮也君はいるよ。帰ってきてるといいのだけどね」 鍵を開けてフェンスの中に入る二人。懐中電灯をつけて進む。徐々に血生臭い匂いが増していく。 階段から2階に上がると異常なまでに皮膚がボロボロになったサイバネのならず者が何人も倒れていた。 「戦闘があったようだね。このサイバネが何者か知らないけどやったのは蓮也君かな?刀傷から見て」 「……フード集団と何か関係が?」 「何とも言えないねぇ」 廊下を進む二人電子ロックの前に立つと声がした。 「勝田か……それに二郎?なんでお前がここにいる?」 「まぁまぁ蓮也君話は中に入ってしようよ」 「そうだな」 電子ロックが開かれる。部屋は照明がついていない。うっすらとした光を放つライトスタンドが点いているだけであった。そこの傍の椅子に蓮也が刀を横に置いて座っていた。 「兄貴……」 「二郎なんだその義手は……」 蓮也は刀の中から聞こえる華月の声を聞いて警戒する。 「まぁまぁまぁ蓮也君、二郎君落ち着いて。まずはその刀を二郎君に持たせてみてくれないかな?」 「なんだ勝田?お前この前までとなにか様子が違うぞ?」 警戒しながら蓮也は刀を二郎に差し出す。ゆっくりと左手で受け取り、唾をのんで義手で刀の柄に触れる。 「!?」 脳内に声が聞こえてきた。 『白峰華月だ。木城二郎、我の声が聞こえておるな?この義手は何だ、吸血鬼化させた物質だとでもいうのか?』 「(俺にはわかりません……)」 『何でも良い、我の復活に協力せよ。蓮也と共にな』 「(どうしてですか?)」 『何度も同じ説明をするのは面倒なのだか……良いだろう』 白峰華月は自分が滅ぼされて娘の雪名が当主となり教会に言いくるめられ碁盤の目町に封印。それまで目を光らせて人間社会の妖の押さえていたが、教会の都合のいいように処理されるようになったと。そして妖怪連合は表社会進出を考えるようになり人間側との対立は激しくなっていってる事を話した。 『人間と妖には暗黙の了解というものがあるのだ。それを教会は破って破壊した、京は平安時代にも似た混沌とした状況になりつつある』 「何が起きたのです?華月さんはどうして滅ぼされることに?それに平安時代って……」 『これ以上は知る必要はない。好奇心を満たしたいだけか?』 「全然状況とか何が何だか分かってないんですけど……吹雪さんを助けたいし皆に争って欲しくないんです!」 『その為に己の命を賭けられるか?できんだろう?ただの子供が口だけでは何とでも言えよう』 「この義手が何なのか今の俺には分かりませんし何が出来る分からないガキですけど……何もわからずできずに流されて後悔したくないんです!」 『言うではないか、ならば蓮也と共に行動して我の為に血を集めろ』 「人斬りをさせようっていうのですか?」 『そんなものは自分で考えよ。後悔しないようにやれ。完全復活を成し遂げた時に昔話をしてやる』 突如二郎の力が抜けていく。 「う、うううう……」 急激な疲労感と空腹感が二郎を襲う。 『義手の生気を少々貰うぞ?……これで何とか形にはなるか』 二郎の手から刀が離れて蓮也の前に浮く。 『生き血も良いが質の良い生気も良いものだな』 「き、聞こえる!!華月さまの声があああああ!!」 勝田は興奮で思わず叫んだ。 『そこの河童、勝田波留夫よ。黒谷に連絡しろ、木城二郎も仲間に加えるとな』 「よろこんでぇええええええええええ!!」 続く
Aug 29, 2020
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VAMPIREEYE78「リトライプラス」 「やられて……たまるか……」 『おや、立ち上がるのです?それで何か出来るとでも?もはや君には爆裂するまでの時間これまでの人生を振り返る事しかできないというのに。ああ、大事な人との最後の別れですか?いいですよご自由に、私の目的は虐殺ではないのでサヨウナラ』 飛び上がって塀を超える灰色の獣。屋敷を包んでいた火柱は瞬時に消える。 「吹雪……さん……」 激痛と熱さに耐えながら二郎は這うように縁側から屋敷に上がる。 「ぐうう……」 体が千切れ飛びそうな痛みが走り意識を失いそうになる。障子戸を開けて部屋に入ると血痕が続いていた。二郎はそれを辿っていく。 「吹雪さん……」 戸を開けるとうつ伏せに倒れている吹雪の姿。大量の出血により畳は赤く染まっていた。 「そん……な……」 一目見て吹雪が絶望的な事が理解できた。二郎の義手が霧のように散り薄くなっていく。 「あ、ああああああ……」 吹雪の横に膝を落とす二郎、ゆっくりと抱き起こす。全身から爆発するように血液を噴出させて吹雪は絶命していた。 「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」 義手は消滅。それと同時に二郎の全身から血液が噴出し意識が途切れた。 *** 『駄目だったか……』 『今回初めての道(ルート)だったが』 『どこで変わった?』 『分からない……途中までは順調だったはずだ』 複数の声が聞こえる。 『やりなおしか……』 『この道をまた進めるのか?』 『やれる事はなんだってやるべきだ』 『あのグレイビーストとやらの対策を取らねばなるまい』 徐々に声の男たちの姿が見え始める。全員黒ずくめ……何もかもが黒かった。 『白峰華月の復活成功、連合との協力、Vエナジーの覚醒。ここまでは成功した』 『ああ、そこまでの道は確立できた。イレギュラーの波を起こさない限り外れることはないだろう』 『何一つ成し遂げられなかった道では吹雪は1年後まで生き延びれたというのは皮肉なものだな』 『だがどうする?二重スリット実験の謎と同じだ。グレイビーストによる死を観測したことによってまた別のルートができた可能性は大だ』 話す全員が同じ声同じ背丈。 『これまでとやることは同じだ。未来を過去の木城二郎に直接教える事によって起きる量子変化を起こしてはならない。道を示してやる程度に留めなければ』 『だがどうする?グレイビーストに対抗する手段など1カ月そこらで得られるのか?』 『やるしかあるまい。誰か心当たりはないのか?』 『教会は信用できない、協力者は求められん……そうなると連合か?吸血鬼らか?』 『術に詳しい者……もしくは対抗するなにかを制作できる者』 『勝田博士はどうだ?京都にいるはずだろう?』 『装置、義手の制作に協力してくれた天才科学者……河童の博士勝田波留夫……』 『二郎を勝田博士に会わせた所でどうする?他の道の情報は教えられんぞ?他の道で白峰華月の情報を過去の勝田博士に話した時の事を思い出せ』 『完全に違う過去に変わっていったな。黒谷ジークベルトは現れず、木城蓮也は間に合わず白峰霄は殺害され……白峰家と二郎の縁は薄くなり吹雪も死亡した』 『不完全とはいえここに白峰華月を復活させる記憶を持ち帰れたのは大きかったがな。だが量子変化が起きてしまい吹雪生存の道探索はますます困難になった』 『勝田博士はジーニアスレイジの一人だ。情報を与えることによって起きる変化で他の者との繋がりが生まれるかもしれん』 『待てそれなら……義手に勝田博士の意識を乗せて送れないか?未来観測者はあくまで木城二郎一人。修正も容易なはずだ』 『元々この義手の制作にかかわっていた勝田博士なら……いけるか』 『勝田博士の意識を乗せて過去の勝田博士に触らせて理解させる。20年分先の記憶を見せられどうなるか予想もつかないが』 『それで行くか』 『ああ』 『ではまた』 漆黒の男たちは木城二郎に似ていいる。年は30代に見える。 *** ―京都地下碁盤の目町にある研究施設。 「よし、装置は正常に作動した、義手の装着をお願いするよ木城君」 「はい、勝田博士」 ひげを蓄えた中年の木城二郎、横には眼鏡をかけた猫背の河童の勝田波留夫。義手を取り付ける二郎。 「う……」 木城二郎に電流のような衝撃が走る。一瞬にして様々な記憶が入ってきた。 「何か観測できたかね?」 「はい、大丈夫です博士(また駄目だったのか……俺は……)」 「異常はないかね?」 「問題ありません。博士、次の実験に義手に装置に組み込みたいのですが」 「ほう?どんなものかな?」 「人の記憶を書き込む量子チップです」 中年二郎は白衣のポケットから袋を取り出した。 「ほほう……」 「博士の記憶も量子チップに乗せたいのです。どうかお願いします」 「記憶を過去に送る実験。ある意味でのタイムトラベルかフムフム……僕の知り合いが研究していた分野だねぇ興味はあるが大丈夫かね?この義手は君用に開発したものだけど」 「実は……」 中年木城二郎はかいつまんで事情を話した。情報を得るだけでなく過去に干渉し成功してその記憶を保持している事も。 「フムウウウウン!僕の意識を乗せて装置を発動することによって君に新しい記憶が足されると!だがしかしそれだと君の目的は果たせるのかね?過去をいくら変えても今この時代に変化は起きないわけでしょ?この実験はあくまで量子領域から過去の情報を得る手段だしねぇ」 「この実験が成功すれば白峰家は蘇りますそうすればこの世界だって……」 「ムムムムム!?……お、そうか!吹雪ちゃんが生きてる間に過去の僕が早く装置を完成させれば義手に意識を乗せることが出来る!!完成した時点で義手に記憶は上乗せされるからそこからこの時代に意識を持ってこれれば後は華月たん、いやかづたんと同じ方法で吹雪ちゃんは蘇生可能!!」 「はい」 「ようしやろう!君のおかげでかづたんはこの時代に復活できた!過去のような無敵じゃ無い、か弱い存在だけど僕はとても感謝している。恩に報いるよ!!」 膨大なエネルギーを必要とする白峰華月はこの時代ではほとんど活動できず幼児の姿で一日の殆どを寝て過ごしている。 「……実験する前にちょっとした疑問があるのだけど。過去の僕はどうなると思う?君のようにどこかで死亡したら思念体となって統合されるのかな?」 「過去に装置が誕生するので想像もできないような並行世界が生まれる可能性がありますのでなんとも……過去の博士しだいでどうなるか……俺には分かりません」 「それもまぁ面白いかな……この時代の世界は崩壊、地球はめちゃくちゃだ。過去にできる並行世界はせめて平和になって欲しいね」 「そうですね……」 中年二郎は義手を取り外して装置にセットする。量子チップを装置に取りつけた。 「勝田博士お願いします」 「よおし!僕の記憶を量子チップに書き込んじゃうぞー!!どのくらいかかるかな?……8時間か、まぁ寝てる間に完了するか」 「俺は装置のチェックをしています」 「頼むよ、ああそれからかづたんからメールが来たらよろしく頼むよ」 ヘッドギアを装着して横になる勝田博士。中年二郎は量子チップへの書き込みを開始する。 『うまくいくだろうか?』 『いくことを願っている。これまでは装置が完成するまでの20年間、吹雪を守り切るのにずっと失敗している』 『過去で装置が出来たのにも関わらず吹雪を死なせて失敗したら?』 『装置が出来てしまう事によっておそらく誕生する並行世界の俺たち木城二郎も連鎖に苦しむ事になるだろう』 『そうとも限らんぞ?あの時代だからこそできる事もあるはずだ希望はある』 『半吸血鬼化をコントロールできていないあの時代の二郎は義手の力を制御できるのか?』 『吹雪が生きていればそれも心配しなくて良いだろう』 『それもそうだな』 『過去の吹雪を救い今に吹雪を復活させる!』 義手の中の木城二郎思念体たちは決意を改めた。 *** 『よし、少年二郎が校舎からこっちを見ているぞ』 明命館高等学校の校舎裏に続く通路から思念体の一人が姿を現して存在を示す。 『ここ数日この黒い人影が気になっているはずだ必ずここに来る』 教室を抜け出した少年二郎。 「あれ?どこに行った?…そこか」 校舎裏にある古い祠の前に思念体は立つ。そして祠の前の地面を指差しする。ここに現在と同じ装置と義手の座標を入力して置いている。 「そこに何かあるのか?」 うなづく思念体。少年二郎は義手の硬さを活かして地面を掘っていく。30cm程掘ったところで金属の感触があった。 「箱?」 慎重に掘り出す少年二郎、腕一本分の長さの全く錆びていない箱が出てきた。不思議なことに蓋が全く見当たらない。最初から開けることを想定されてない作りかのようだ。 「なんだこりゃ…んん?よく見ると箱に模様が刻まれてるな…」 思念体に目をやると箱を抱えた格好で両端を手のひらで押さえて回す動作をする。少年二郎は男の動作を真似して箱の両端の面を手のひらで押さえて回すようにさする。 「ん!?」 箱に溝が現れた。次はその溝をなぞれと男は動作で示す。二郎はその通りに箱をなぞるすると箱は二つに分かれ中から黒い金属の腕が出てきた。 「これは鎧の腕の部分!?いや、義手か?」 頷く黒い思念体、二郎はその黒い腕を手に取る。 『頼む…』 黒い腕に触れた瞬間、二郎の頭の中に声が聞こえてきた。 「え?何だ?」 『頼む…どうかあの人を守ってやってくれ…』 「この声…お前なのか?」 二郎が男を見ると頷いた。 『私の肉体はもはや存在しない…それを託すことしたできない』 「それ?この義手の事か」 『頼んだぞ…白峰家の未来を…』 「白峰家!?どういうことだよ!おいっ!」 『それを装着すれば解る…………これでようやく眠りにつける…』 黒い男は満足な笑みを浮かべて消えていった。 『これでいいか』 『少し芝居がかりやしてないか?』 『あの年ごろにはこう言うのが効くんだ』 『流石自分の事はよくわかってる』 『さてここからがこれまでと違うぞ?今回は義手には機能説明の他に勝田博士の事も含まれている。装置はバックル剣に姿を変えて肌身外さず持つから心配はないはずだ』 『この後は……速水恭一と出会いそこから吸血鬼沖田と対決か』 『どうなるかな?勝田博士の記憶を持っているんだ大きく変わるはずだ』 少年二郎は校舎裏で速水恭一と喧嘩した後和解、その後戸惑った様子で知っているはずのない番号に電話をかける。 「もしもし、勝田博士ですか?」 『誰だね?この番号と僕の名前を知ってるとは?』 「木城二郎です、あなたと会って話したいことがあります。Vエナジーと量子観測装置についてなのですが……」 『…………適当な事を言ってる訳じゃあなさそうだね。しかし教会の執行人の息子であるだけの君がなぜそこまでの事を?』 「会って話します。その前にすぐに沖田先生の攻撃を中断させてください電波もじきに通じなくなりますので」 『……いいだろう、沖田先生には中止と言っておく。じゃあ後でこっちから連絡するよ』 電話を切る勝田。二郎は小さくため息をついた。 「ちょっと」 声と同時に二郎の携帯が手から離れた。振り向くと奥寺舞子が立って携帯を持っている。 「聞こえたわよ木城君。沖田先生が攻撃?中断?なんでそんな事言ってる訳?」 「返してくれ奥寺!事情は後で話すから!!」 「何必死になってんの?あやしい……」 そこに速水恭一と白峰吹雪が現れた。 「どうしたどうした?」 「土蜘蛛……」 それを見た奥寺舞子はあからさまに嫌な顔をする。 「あんたたちに用はないの、あっち行ってなさいよ」 「なんだなんだ?ツンツンしやがって」 「土蜘蛛おとなしくしてないと……」 「あ~ウッザ!!ほら返すわよ!ふん!」 携帯を投げつけて糸を飛ばして校舎の窓から教室に戻っていく奥寺舞子。 その様子を見ている思念体。 『これは……予想もできない道に入ったか?』 『分からん……しかしこれまで通り白峰華月復活と連合との協力にVエナジー覚醒には導かねば』 続く
Aug 21, 2020
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VAMPIREEYE77「灰色の獣」 「ウラアアアアアアアアッ!」「ウオオオオオオッ!!」 獣人化した恭一が低姿勢タックルで仕掛ける。それに合わせて漆黒の鎧姿の二郎は側面から仕掛ける。 「鬼ハンマー!鬼アッパー!」 恭一のタックルを振り下ろした腕で止め、二郎の義手をアッパーで弾き返す星熊童子。 「まだまだぁ!」 膝をついた状態から前方回転、ヘッドスプリングで飛びながら足の爪で攻撃する恭一。星熊童子の腕を掠める。 「デヤア!」 義手の手刀を振る二郎、弧を描き星熊童子の腕を掠めて煙を発生させた。 「いいぞいいぞ!鬼ラッシュ!!」 連続パンチを繰り出す星熊童子。数発ガードした所で二人は吹き飛ばされて転がる。 「ほう、自ら後ろに飛んで逃げたか。鬼ラッシュは一度クリーンヒットすれば俺が止めるまで殴り続けるコンボなんだ」 「強い……」 「この重さまともに喰らったらヤベェな」 ゆっくりと接近する星熊童子。 「逃げ回って時間を稼ごうとする奴らが多いんだよな……そういう冷める連中はぶっ壊してやったがな。お前らはどうかな?」 「ヘッ!油断禁物だぜ!?」 恭一がステップからのキックコンビネーション。二郎は離れた所で右手に力を溜める。 「いいぞいいぞガキども!必殺技とやらを見せて見ろ!!」 「ウーララララララララララララララッ!」「ウオオオオオオオオオオオオッ!!」 尻尾で体を支え両足を浮かせて足の爪キックコンビネーションを仕掛ける恭一。力を溜めた二郎が助走をつける。 「鬼バズーカー!!GAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONN!!」 星熊童子の口から放たれた波動が二人に襲い掛かる。体を硬直させる二人。 「そしてここからの~鬼バスター!!」 目の前にいる恭一を掴む星熊童子。肩に抱えて飛び上がり180度回転、後頭部を木製の床に叩きつける。衝撃で木製の床は割れ恭一の体は半分突き刺さった状態となった。 「恭一ぃー!!」 力を溜めた義手で突きを繰り出す二郎。十字受けでガードする星熊童子。赤黒い稲妻めいたエネルギーが全身を駆け巡る。 「どうだ!!」 「ぐ……いってぇなオイ……なんだこれはよ」 「クソ……!」 体を捻って二発目を繰り出す二郎。星熊童子はそれに合わせクロスカウンターを撃つ。 「鬼カウンター!!」 「ぐうっ……」 強烈な打撃を顎に受けて意識が飛びそうになる二郎。膝をついて倒れるのを耐えた。 「安心しろとは言わねぇがチーター小僧は壊れてねぇ。気絶はしたようだが」 「ぬあああああっ!」 二郎は義手に意識を集中。更に力を引き出す。 「あん?さらに変身か?」 二郎の漆黒鎧兜が変形していく。肘、膝に棘状の物が生え、兜からは鬼を思わせる角が出現した。 「鬼に対抗するために鬼に変身か!面白れぇな!!」 義手に記憶された闇の住人の力、二郎の頭に浮かんだのは怒りに任せて力を振るう牛鬼の姿。 「ガアアアッ!!」 星熊童子と手を組み合わせる二郎。 「……俺とこの状態の組ができるとはやるじゃねぇか!」「ガアアア!!」 頭突きを仕掛ける二郎。星熊童子も同時に仕掛け頭と頭がぶつかり合う。 「っと……」 星熊童子の額が割れ鮮血が流れる。観客からどよめきの声が上がった。 「盛り上げてくれるじゃねえか!だったら見せてやるよフルパワーをな!鬼バースト!」 星熊童子の肌が白く輝き額からは赤い2本の角。全身に隈取模様が現れ筋肉が盛り上がる。 「ガアアア!」「フン!」 右フックを打つ二郎。即座に撃ち返す星熊童子。 「ガアアアアアアアアアアア!」「鬼ラッシュバースト!!」 打撃の応酬、回転速度で劣る二郎が徐々に舞台の端に追い込まれていく。 「終わりだ!!」 星熊童子のストレートを受けて足を踏み外す二郎。堀に落ちたところで大歓声が響き渡り『勝負あり』の放送の声と太鼓の音が鳴った。 *** 二郎が目を覚ますと目の前には八瀬童子と茨木童子の真柴樹里が見えた。 「俺は一体……」 「試合は大いに盛り上がったぜ!お前は力尽きて控室で気絶したのさ。相棒のワーチーターも治療を受けて隣で寝てるぜ」 八瀬童子がニヤニヤしながら言った。 「仙丈は貴方たちに会うそうです。面会時間は午前0時です」 真柴樹里は冷たい視線のまま言い放った。 「そうですか……良かった」 「このままここで待機でも良いですが一旦戻っていただいても結構ですよ。迎えに行きますので」 「闘技場の試合はまだ残ってる。ゲストはただで観戦できるから好きにしろ」 八瀬童子の言葉を聞いて二郎は恭一のベッドを見る。 「俺は一旦帰りたいぜ。着替えたいしよ……二郎はどうなんだ?」 「俺も吹雪さんらに報告したいし帰るよ」 「承知致しました」 セキュリティの厳しいフロアーを抜けエレベーターで地上に戻る二人。リムジンで白峰家の近くの公園まで送られた。 「では後程お二人の自宅前に車で迎えにいきます」 走り去るリムジンを見送る二郎。後方で大きな爆発音が聞こえた。 「おい二郎!あれ見ろ!!」 「!!」 白峰家の方角に巨大な火柱が上がっていた。気になった二人は全力で駆ける。白峰の屋敷まで後100メートルの所で急に体が重くなった。 「これは……結界!?」 「体に電気が流れてるようだぜ……」 『クークックック!!』 電柱の影から現れたのは教会の服に血に濡れた鎖の鞭を持った大男。目は濁り肌は土気色であった。 「誰だ!!」 『教会のプリースト……源藤高雅……吸血鬼ハンター……』 懐に手を入れてナイフを2本取り出す源藤高雅。空中に浮いたナイフはレーザーの光帯を描きながら二郎たちに襲い掛かる。 「がっ」「うぐっ」 防御する二郎と恭一の腕に突き刺さる。 『クーックック!死ね!!』 「何だアイツ教会の人間なのにこんな……」 「恭一……あの男まともじゃない、生命エネルギーを感じない」 「何!?」 「あの男も気になるけど白峰家が気になる……」 「そう簡単に通してくれそうもないな……俺がひきつけるから二郎は先に行け!」 「無茶だ、星熊童子とのダメージが残ってるんだぞ」 「避けに徹すればやり過ごせるさ、なぁにすぐに追いつく」 恭一は石を源藤高雅に蹴りつける。 「今だ!」 二郎が走り出す。鎖鞭を構える源藤高雅の前に恭一が立ちふさがる。 『ジャッ!』 蛇を思わせる動きで恭一に襲い掛かる鎖鞭。先の分銅をかろうじて避けた恭一であったが空中で軌道を変えた鎖に巻き付かれる。 『オン!』 衝撃が恭一の体に走り全身から血が噴き出す。 「……倒れるものかよ!」 鎖を引きはがして蹴りで攻撃する。対する源藤高雅は取り出した手斧で受け止める。 振り向かずに走る二郎。曲がり角を2回曲がって白峰家に続く道に出るとそこに見えた光景は激しい炎に包まれている白峰家であった。 「一体何が!!……吹雪さんどこに!!」 漆黒の鎧姿に変身する二郎、炎の中に飛び込む。 「……!?」 激しい炎を通り抜けると内部は燃えてなかった。 中庭に使用人の須原と吉良が倒れていた。 『グルグルグルルルルル……』 獣のうめき声を聞いた。二郎は警戒しながら倒れている二人に駆け寄る。 「須原さん!吉良さん!何があったんです……」 「不覚……」 「道摩法師……です。気を付けて木城君、奴はまだ近くに居ます」 「道摩法師?二人ほどの人がやられるなんて……」 「退魔に特化した術を使ってきました……それにあの姿は」 「吉良さん、吹雪さんは?」 「逃げてもらいましたが……」 『ググルルルル……魔力の脈をぐちゃぐちゃにしてやったのにまだ話せるとは。並の化生なら爆裂しているのにね』 「どこだ!」 バックルを剣に変化させて構える二郎。 『ここです!』 屋根の上から飛び降りてきたのは全身を灰色の剛毛に包まれ羊を思わせる角、眼は燃えるように輝き、口は耳まで裂け、肉食獣の牙を生やした人型の獣であった。 「!?」 『そりゃ驚くか、獣の姿をしてるんですからね。この姿は戦闘形態、普段は知的でクールな見た目をしているのだよ?』 「何者だ!吹雪さんをどうした!!」 『質問するのはそっちの勝手だけど私がそれに答えるかどうかは自由なんですよ。だけどまぁ名乗っておくかな?どうせ死んでもらうんですし。私は神名L咲夜、道摩法師です。それともグレイビーストがいいかな?』 「道摩法師?グレイビースト?」 『そ、理解しなくても結構。あ、そうそう白峰吹雪は屋敷の中で死にかけていますよ。爆裂しそうになって地獄の痛みと熱さに耐えてる最中です』 「お前ええええええええええええええっ!!」 バックル剣を八相に構え突進する二郎。鎧は平安武者を思わせる大鎧に変化する。 『獣に殺気バリバリの攻撃なんて当たると思うかい?』 灰色の獣は二郎の袈裟斬りを横に避けると同時に鋭い爪で攻撃する。ヒットの一瞬二郎の漆黒の鎧が消え生身が出現、脇腹の肉を抉る。 「ぐあああっ」 「おや?今の一撃で死なないとは変わった装備をしていますね……んん?こっちの爪が割れちゃってますね、どんな鎧ですそれ?物理的に硬いだけなら私の爪の餌食なんですが」 「火の神流……疾風連撃!!」 二郎は水平に構えた剣の高速切り返しを2回放つ。灰色の獣は腕で受け止める。 『間合いを狂わせる妙な剣技。だけど当たりませんよ』 灰色の獣の体毛が剣に絡みついている。 『今度はこちらの番です』 「くっ……」 『受けて!見なさい!私の!術を!ほら!』 連続蹴りを二郎に入れる灰色の獣。バックル剣を放して弾丸のように吹き飛び庭の大木に激突する。 「ごふっ……体が熱い……」 『君の脈の流れをめちゃくちゃにしながら私の魔力を送り込みました。行き場のない力は暴走しやがて爆裂します。死んだら用済みの源藤高雅のように死人に変えてみましょうか』 「な……に……」 『さぁさぁ君はどれだけ耐えれますかね?ド派手に爆裂して私を楽しませておくれ。ただの人間なら心臓麻痺程度で死ねる私の術、力が強ければ強い、人外であるほど効果は抜群なのです強いものほど苦しむ【弱楽強苦の呪術】』 「ぐぐ……うぐぐぐ……」 『君は異能者じゃあ無いですよね?エスパー相手に試した事が無いので一応確認を』 続く
Aug 13, 2020
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*前回まではこちらVAMPIREEYE76「闘技」 白峰吹雪、奥寺舞子、緋川燿子、野村萌絵、山根妃羅莉を乗せた車が着いたのは多くのテナントが入るビルであった。 「どういう事よ白峰吹雪」 「とにかく中に入って」 「は?」 「お願いだから」 いつもとは違う様子の吹雪に舞子は眉を顰める。 「ほんの少しでも妙な動き見せたら本気でやるからね。みんなもきっとそうよ」 「ええ」「うん」「いやぁんこわーい」 「こっちよ……」 重装備した教会の人間を置いて吹雪は四人を連れてビルの中に入る。階段を上がって3回の会議室には木城二郎とワーチーターの速水恭一が。その横にはモニターが付いていた。 「ここって電波遮断の会議室」 舞子は携帯端末の電波状態を見てつぶやく。 「あのモニターに映ってるのは……白峰雪名!?」 燿子が声を上げた。 「記録映像だけどね。さぁ皆この映像を見て欲しいんです」 二郎が言った。 「全然意味わかんない!木城君なんなの?」 「頼む奥寺、まずは映像を見て欲しいあんまり時間が無いんだ」 真っすぐな目で舞子を見つめて言い放つ二郎。 「そんな真剣に頼まれたら……断れないじゃない!いいわ見るだけよ!人間にしてはまぁいい奴だし」 「(舞子ちょろ……)」「(奥寺さん流石)」「(舞子ちゃんいいわぁ)」 「山根さんも、緋川さんも、野村さんも!」 一人一人の目の前に立って頼む二郎。 「は~い」「はい」「しょうがないなぁ~」 それを見てた恭一は吹雪にだけ聞こえるようにつぶやく。 「正直あのユニット・ヴァルキリーの女ども苦手なんだよなぁ……なんで二郎の奴平気かねぇ」 「正直で真っすぐなのよ二郎君は。妖怪って基本嘘つきが嫌いだから……」 「成程ねぇ……」 再生ボタンを押す二郎。 『皆さまごきげんよう。白峰家当主、白峰雪名です。集まって下さった皆様にお願いがあります。今の京都の状態を一刻も早く何とかしたくこの動画を取りました。妖怪連合、吸血鬼、教会の争いを裏で糸を引ているものがいます。そこでお願いです、連合のトップ酒呑童子に会う機会を作ってもらいたいのです。歩み寄らなくては自体は益々泥沼化するばかり。どうかお願いいたします』 深々と頭を下げる白峰雪名。 「こんなことありえません……白峰家の当主が我々に頭を下げるなんて」 緋川燿子は扇子で口元を隠しながら言った。 「か弱い妖怪ならその名前を聞くだけで震えるような白峰家当主ですよ?先代の時など京都中誰もが恐れたとと聞いてますし」 「……」 燿子の視線を逸らす吹雪。 「で、これがこんな所にわざわざ連れてきた理由?だとしたら話にならないわ」 舞子は髪を触る仕草と当時に糸を複数仕掛けた。 「ウチらのメリット何かありますの?」 燿子が扇子を向けて言った。 「動画で言われてもねー?」 「あんまり連合をナメだら駄目だゾ」 妃羅莉と萌絵が言った。一気に空気が変わる。 「待ってください落ち着いて!よく考えて欲しいんだ。いくら何でもこの1か月で揉め過ぎだと思うんですよ」 「……確かにもめ事多すぎな気がしますね」 燿子の声にうんうんと三人も頷く。 「教会は……雪名さんは引っ掻き回してる奴を見つけ出したいんです。教会のターゲットからあなたたちを外すと言ってます」 「せやけど人任せ、ちゅうのは信用されませんで?木城さんがなんぼ言うても代理にすぎひんですしねぇ」 「今すぐあってどうこうじゃあなくてもいいんです!まずは連合のトップの人に雪名さんのメッセージを届けてくれれば」 「へぇ……まぁ木城さんがそう言うなら考えてもええんですけど。そちらの白峰家の人間には何も聞かされてませんねぇ」 四人の視線が吹雪に注がれる。 「わたしがいうべき事だった……それは分かってる……」 「緋川さん、吹雪さんが好きに行動できない事は解るでしょう?だから俺が」 「それでも、です。男に言わせてダンマリはええ感じしませんの。意地悪しようなんて気はほんの少しだけありますけどやっぱり声に出していただかないと納得できひんです」 「(燿子こわ……)」 舞子は知らんふりして髪を弄る。 「お願い……します。皆さんの力を貸してください」 深々と頭を下げる吹雪。 「……」 「(燿子いいぞいいぞ)」「(超怖い!燿子さん)」「(やっぱり燿子ちゃんがリーダー)」 「ほならマネージャーに言うときますね。トップに話しできるんは幹部だけですんで」 扇子を広げて表情を和らげる燿子。二郎は大きく息を吐いて汗をぬぐった。 「急に言うてもアカンし明日また連絡します。木城さんの携帯にね」 「はい、待ってます!」 「皆帰りましょか」 「そうね」「おなかすいたー」「またねぇ~」 出ていく四人。 「はぁ~~~~~~~~マジ勘弁して欲しいぜあの空気。バチバチの喧嘩の方がましだ」 恭一は座った椅子からずり落ちて言った。 「俺も胃が痛かったよ……」 「ごめんなさい二人とも。わたしがふがいないばかりに……」 「吹雪ちゃんの所為じゃねえよーあの女どもが悪いんだ」 「ヴァルキリーの皆きいてくれてくれてよかったよ……駄目だったらどうしようかと」 ―翌日 白峰の屋敷の前にリムジンが止まった。緋川燿子から連絡を受けて既に待機していた二郎と恭一が乗り込む。中には運転手と女性が乗っていた。 「真柴樹里です。ヴァルキリーのマネージャーをしています。話は緋川達から聞いております。代表の仙丈隼磨は仕事を浮ければ会うと言っております」 茨木童子である真柴樹里は鋭い目つきで言った。 「仕事ですか、それをすれば会ってくれのならやりますが。ところで吹雪さんは来なくていいとの事でしたが……なんで俺たちだけなんです?」 「二人組である必要ともう一つはやってもらう仕事内容が白峰吹雪に向かないからです」 「俺たちに何をやらせようっていうんだい?」 「バトルですよ。裏社会の人間どもが熱狂している場所でやってもらいます」 「裏社会……おい二郎こいつはかなりヤバそうな感じだぜ」 「ああ……」 「殺し合いをするわけではないです。事故で死ぬかもしれませんがね」 獲物を見据えるような目でみる真柴樹里。 リムジンが止まったのは京都タワーの裏にあるビルだった。 「こちらへどうぞ」 真柴樹里についていく二郎と恭一。細い路地を通り電子ロックの先にある2重扉の大層な扉を抜けると空港さながらの検査ゲートが待っていた。壁際には戦闘機に搭載されてるような機関銃のタレットが見える。持ち物検査を受けてからゲートをくぐり生体IDを登録する二人。エレベーターで地下に降りていく。 「控室に着いたらフロアマネージャーの指示に従ってください。私は試合の後にまた来ますので」 「お、おい……」「やるしかないのか……」 エレベーターを降りると目の前には全身をサイバネ化した少年が立っていた。 「茨木童子から聞いてるぜ。お前たちがゲスト挑戦者だな、オレについてこい」 「後はお願いします八瀬童子」 「ああ、酒呑童子によろしくな」 八瀬童子と呼ばれた少年についていく二郎と恭一。 「ここが控室だ。正面のモニターに移っているのがお前たちが戦う闘技場だ。シンプルだろ?木製の舞台にそれを囲む堀、特殊ガラス越しに選ばれた客共が賭けてる訳だ」 「俺たちはどうすればいい?」 「この闘技場の現チャンピオンを1R5分、1対2の変則マッチに出てもらう。お前たちはコスチュームが無い、とりあえずゲスト用のパンツスーツを履け。ファウルカップやグローブは自由、銃火器は禁止。自身の能力によるものは何でも使っていいが。そこのツンツン頭の小僧、サイバネは体の一部として認められてるから安心しな」 「ルールは?」二郎が聞く。 「基本的に何でもありだ。気絶などの戦闘不能状態、堀に落ちるなどで勝敗は決まる。ハンデによりお前たちの片方でも5分間残っていれば勝ちだ」 「ところで何で床は木製なんだ?」恭一が聞く。 「派手に壊れるからそっちの方が受けがイイんだよ。チャンピオンは派手に叩きつける技が好きだからな」 「トップの酒呑童子は俺たちが戦う姿を見て話しに応じるかどうか決めるんだよな?必ずしも勝ちが条件では無い?」 「さぁな、だがしょっぱい試合をした相手と酒呑童子が会うとは思えん。勝つにしても負けるにしても酒呑と客が喜ぶような戦いをする方が良いだろう」 「で、チャンピオンはどんな戦いをするんだ?俺たちは何も知らないんだ」 「ワーチーターの小僧の言う通りだな。そっちの端末で過去の試合が見られるからそれでイメトレしときな。じゃあ30分後に呼びに来るからそれまでに準備をしておけ」 八瀬童子が出ていく。残された二郎と恭一は着替え始める。二郎は藍色、恭一は山吹色のコスチュームを履き。用意された防具を全て付ける。 「二郎は漆黒義手の右腕だけ剥き出しか。俺は裸足でいく、爪が出せなきゃだめだ」 着替え終わった二人はチャンピオンの動画を確認する。 「星熊童子……か、やっぱり鬼が相手なんだな」 「プロレスっぽい戦闘スタイルだな。殴ってよし掴んでよし極めてよしか、かなりタフそうだぜ二郎」 「恭一、このチャンピオンは秒殺とかしないっぽいからそこに付け入る隙がありそうだな」 「ああ、そんでもってKOするよりも堀に落とす事を考えた方がいいかもな。最悪一人が道連れで一緒に掘に落ちれば勝てる。それも厳しそうなら5分間耐える」 「その作戦で行こう」 「俺はスピードでかき回す。二郎は隙を見てチャンピオンの体勢を崩してくれ」 「分かった」 時間に成ると八瀬童子が迎えに来る。 「案外落ち着いてるな。泣きわめいて逃げ出そうとする奴もたまにいるんだがな」 「俺も二郎も修羅場を潜り抜けてきてるからな!」 「そうか、試合は盛り上がりそうで安心した。ついてこい」 八瀬童子についていく二人。徐々に歓声が聞こえてくる。 『ゲスト挑戦者の入場です!今回は特殊能力を持ったサイバネ少年とワーチーターの少年です!!』 ゲートを抜けて闘技舞台に続く一本橋を渡る二郎と恭一。見渡すと正面の豪華な囲いのある席に茨木童子と金髪の大柄な男性が見えた。 「おい二郎、あの金髪のおっさんが連合のトップ酒呑童子じゃねえか?」 「それっぽいな……」 『続いてチャンピオン星熊童子の入場です!』 ひときわ大きな歓声が響き渡る。反対側のゲートが開きそこから長髪で筋肉質、赤いスウェットパンツを履いた男が出てきた。 「オイオイオイ!賭けが成立してねぇんじゃないか?試合時間3分に縮めてやろう」 『チャンピオンの提案により試合時間を1R3分一本勝負に変更します。会場の皆様今からベットを開始します。ご準備を』 不敵な笑みを浮かべ睨みつけてくる星熊童子。 「こっちとしてはかなり有利になったな」 「3分なら逃げに徹しても行けそうだぜ」 『ベット終了です。それでは選手の皆さん開始位置に』 一本橋が上げられる。舞台のやや中央に引かれた白線の前に立つ星熊童子、向かい合って二郎と恭一。 『それでは開始します!』 大きな太鼓の音が鳴る。 「オオオオラアアアアッ!!ダブル鬼ラリアットー!!」 叫び声をあげながら両腕を振り上げ突進する星熊童子。二郎と恭一はとっさに防御の姿勢をとった。 「グッ!」「ウグッ!」 腕を叩きつけられた二人は体勢を崩して舞台を転げる。星熊童子は追撃はせずに両腕を振り回して歯を剥いて笑みを浮かべている。 「さぁ来いガキども!精々試合を盛り上げてくれや!!」 「舐めやがって!」 飛び起きた恭一、足の爪を利用してジグザグにダッシュ。フェイントからローキックを打つ。対する星熊童子は軽く足を上げてカット。恭一に掴みかかる。 「軽すぎるぜチーター小僧。そんなんじゃオレにダメージは入らんぜ?」 「だったらこれはどうだ!」 足の爪をむき出しにして逆サマーソルトキックを放つ恭一。星熊童子はわずかに身を反らして回避。胸に5本傷が現れた。 「そうこなくっちゃな!」 裏拳で背後を攻撃する星熊童子。後ろに回り込んでいた二郎に襲い掛かる。義手でガードした二郎はよろめいた。 星熊童子はそのまま回転、後ろ回し蹴りを恭一に向ける。 「鬼スピンキック!!」 星熊童子の蹴りを恭一は衝突の瞬間後ろに飛んで衝撃をやわらげて後方回転で着地する。 「ほう……二人ともオレの打撃を耐えるか。これは楽しめそうだ」 「(義手じゃなければ完全に骨を折られてる……)」「(ガードした腕が痺れてやがるぜ)」 星熊童子が舞台中央、二人は距離を取って円の動きで様子をみる。二郎は義手の力を解放しゆっくりと漆黒の姿へ、恭一も獣人状態へと変身する。 「いいねいいねぇ~それがお前たちの本気の状態か」 続く
Aug 9, 2020
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異能者特務機関:TMI 第44話「これから」 『君たちの迅速な行動見事だったよ。おかげで私は魚人の回収に専念できた』 モニターの向こうのジェームズは葉巻に火をつけながら言った。 「長官の資料によればもうこの魚人たちは現れないという事ですが」 『ああ、専門家たちが奔走してくれたおかげでね。君たちが被害を食い止めてくれて助かったと彼女らも言っていたよ』 「穴井さんも魚人が消えてからは元通りの生活に戻れたようですし良かったです」 「わたしたち三人が事務所の人にスカウトされた時はどうしようかと思いましたが」 『ははは、君たちは容姿が良いからね。望むのならそっち方面の道の専門家を紹介するがどうかね?』 「結構です長官」 アリナは即答した。 『そっち方面のパイプはあまり太くないからね、誰か芸能関係で活躍してくれるとTMIとしては助かるのだけどねぇ。哿くんとか特に』 「お断りします……」 『そうか残念だ。まぁルキナくんがアメリカでそっち方面の道で成功したいと思ってるからバックアップはするつもりだがね。モンスターパンデミック騒動が終わった後でね。話は代わるが今後の事だが……しばらくは日常を過ごしてくれたまえ。任務が無い時は普通の年頃の人として生活して欲しい。君たちUチームは過酷な任務に関わることが多すぎたからね』 「平気ですよ長官。異能のコントロールは万全ではありませんがすぐに取り戻して見せます。カテゴリー5のわたしが働かないなどありえません」 『……アリナくんは特に休んで欲しいのだ。君はもうカテゴリー5のエージェントではない。管理者に認められカテゴリー7の領域にまで達した者だ。これからは任務だけでなく日常を過ごして視野を広げてもらいたいのだ。哿くんとフローレンスくんも同意見だ』 「どうすればよいのか、わたしには分かりません」 『君は年頃の普通の人として過ごし多くを学んで欲しい。それだけだよ、幻赫を斃した後の人生を抜け殻で過ごして欲しくない』 「……そうですか」 『難しく考える必要なんてない。学校に通い同世代の人と触れ合い日常を過ごして欲しい。多くの者が経験するものを君も体験して欲しい。成人になった時君がどういう心境に至ろうとも私達は反対しないよ』 「長官……」 『異能者大戦で多くを失った。今度の幻赫との戦いでまた失った。私は常に後悔しているのだ。それでも前に進めるのは君たち次世代の者が居るからだよ』 「感謝します。わたしはTMIに、フローに、哿さんに巡り合えてよかったです」 『そう言ってもらえると嬉しいね』 通信を終えると三人は外出の準備を始める。アリナとフローレンスは夏休み明けから通う学校の制服ができたので取りに、哿は二人を送った後、穴井千種の様子を見に。 「そういえばアリナ、昨日メッセージ交換した子と予定してたりするの?」 カバンの荷物をチェックしながらフローレンスが聞いた。 「晴凛の事ですね。彼女とは夏休みに京都に行く約束をしました。フローと哿さんも一緒にどうですか?」 「任務外で京都に行くのは初めてなので是非」「僕も昔1度行ったきりなので」 「ではメッセージでそう伝えますね」 *** ―前日 巨大魚人を斃した次の日、アリナたちは買い物に出かけていた。 アリナはすぐに買い物を済ませてしまい哿とフローレンスとの待ち合わせ時間まで間食をすることにした。 ショッピングセンターの道を挟んで向かいにある創作料理の店を見つけたアリナはそこにかかれた看板に目を奪われた。 「特盛20倍ミートパスタ時間内に食べ切れば無料……」 無料で食事したいと気持ちよりも、食欲をそそるミートパスタを20倍の量を食べても良いという事実に興奮した。 アリナは早速店のドアを開けて店員に挑戦を告げる。 「お嬢さんごめんねぇ、このメニュー2人前用なんだ……一人で挑戦したいならまずは二人で食べ切ってからにしてよね」 「そうですか……」 肩を落として店の外に出るアリナ。看板を見て諦めて普通のメニューを頼むか別の店に行くか迷い始めた。 「どうしたんです?何か困ってます?日本語解ります?」 声をかけてきたのはごく普通のアリナと同じくらいの少女であった。 「大丈夫です、日本語は話せますよ」 「何かあったのですか?飴がのどに詰まったとか?」 「実は……」 アリナは特盛20倍ミートパスタを注文したいが一人では断られてどうしようかと思案していたことを少女に話した。 「このくらいなら食べ切る自信があるのでどうか一緒に店に入ってもらえませんか?支払いはわたしがしますしあなたは座っているだけでも良いですから」 「ええ~どうしようかな……って!チョモランマ食べていた人じゃないですか!?」 少女はアリナがラーメン屋台でチョモランマを食べていた時に隣にいたと説明した。 「なるほど……確かにあなたならこのミートパスタもいけそうな気がしますね!あ、私は晴凛。本郷晴凛といいます」 「終夜アリナです、よろしくお願いします」 「アリナさんね、私の事は晴凛と呼んで。苗字はなんか強そうで苦手なんだー」 「解りました晴凛さん、では行きましょう」 アリナと晴凛は席についてミートパスタを食べながらすぐに打ち解けていった。 「……で、和美がね~チキナーで食べようとしたの!あははははっ」 「それは愉快ですね晴凛さん」 「でしょう~……ねぇ、私の事晴凛でいいよ。さん付けなしで同い年だしね。アリナって呼んでいい?」 「はい、晴凛」 二人の目の前にあった20人前のミートパスタはもう僅かになっている。 「もうないよパスタ!おしゃべりしながらなのにアリナ速過ぎ~!!」 「この店のミートパスタは美味しいですね。また来たいです」 「見てて気持ちいいよ、食べ方超きれいだし」 「祖父が厳しかったですから身に着いたのですよ」 「へぇ~……おっと、時間大丈夫アリナ?お店出た後はまだ時間ある?」 「確認します…………フローと哿さんは後30分ほどかかるとの事です大丈夫です」 「そっか、じゃあ近くの公園でお話しよ?」 「ええ」 *** ―現在 学校に向かうワゴン車。アリナが空を見上げるとほうきに乗った人影が一瞬見えた。 「……?」 歩道を歩く四人組の少女たちと目が合う。自分と同じ年頃で【普通ではない者】とすぐに認識できた。 「わたしの知っていた世界はまだまだ狭かったのですね」 「どうしたのアリナ?」 「いえ、長官のおっしゃってた事が少し解った気がしたので」 「そう」 優しく微笑むフローレンス。アリナの体に少しだけ虹のオーラが見えた気がした。 *** ―歩道を歩いていた四人組の少女 「……」 「どしたの舞子?」 「ちょっとね……」 「ふうん」 「妃羅莉は何も感じなかったの?」 「何が?」 「……そうよね」 ダークブラウンのセミロングにまつ毛の長い勝気な表情の舞子と呼ばれた少女と、大柄で丸顔ツインテールの少女妃羅莉。 その後ろには、金髪ポニーテールで切れ長の目のスレンダー女性と、黒髪ロングで三白眼で胸の大きな女性が歩いている。 「燿子と萌絵は?」 「ビビっときましたね」「なんかぁ~ザワ付く感じ?」 金髪切れ長目の燿子、黒髪三白眼の萌絵が答えた。 「さっきのが【魔女】だと思う?」 舞子の問いに三人は首をかしげる。 「ネズミちゃんたちが何も感じなかったし違うんじゃない?」 「魔女というものに会うたことないしなぁ……まぁでもアレはちゃうと思いますよ」 「殺気とか感じなかったし~魔力と言うか別な力?的な?雰囲気だったからねぇ」 「うん~……でも隙はなかったでしょ?あれ普通じゃないって」 四人はワゴン車の通り過ぎた方向を眺めている。 「舞子ちゃん敏感すぎぃ~!あんまりピリピリしてたらもたないゾ☆」 「萌絵はスイッチ入る前はそんなんだから羨ましい。妃羅莉は油断しすぎだし燿子は絶対関係ない事考えてるでしょ」 「オンオフの切り替えがうまいんだゾ」「(いや、極端すぎるでしょ萌絵は)」 「ショッピングセンターでサッカー用品見たいんだけど」「(だから緊張感!妃羅莉!!)」 「魔女……魔男……間男……間女……」「(しっかりしてリーダー!燿子!!)」 心の中で叫ぶ舞子の顔を見つめる三人。 「どうしたの?」「トイレ行きたいの?」「あほ毛今日は多めですなぁ」 「ツッコマないわ……ツッコミキャラじゃないんだから!」 フン!と回れ右をして歩き出す舞子。後ろの三人はニヤニヤと笑顔を浮かべている。 「かわいい!」「よくわかんないけど楽しいね」「綺麗なターンでしたねぇ」 その時四人の携帯端末に一斉にメッセージが入った。 「マネージャーからね……そろそろ現場に戻れ、かぁ」 「え~……もう?」 「自由時間短すぎ~」 「歩いて戻るんも面倒やさかいタクシー拾いましょ」 *** ―TMI日本支部 ジェームズは甥のミカエル・パウマンに手紙を渡した。 「叔父上、これを魔女レヴィに届けるのは良いのですがG.D.Ⅲにも内密とはこれいかに?」 「姉に頼むわけにもいかないからね。あと魔女と言うのは中々アポを取れないんだよ。向こうからは突然来るくせにね。魔女レヴィはそんな事は無いんだが居場所がハッキリしない。異能者では彼女を追うのは難しいからね」 「はぁ……しかしそれとこれとは」 「魔女レヴィは私の姉なんかとは絶対に会わないって事だよ。過去にあの二人の間で何がったのか知らないがね。まぁそういう訳だ、私は魔女レヴィと一緒に仕事をしたことがあるから面識はあるんだ。ミカエル、頼む」 「解りましたアメリカを、世界を救うためですから協力しましょう。母上に知られても私は責任を負いませんからね叔父上」 「なんとかならんのかね?副総統だろ君は」 「なりませんね恐らく。その時の事を考えておいた方が良いかと」 「頭が痛いね……それにしても君たちG.D.Ⅲが日本に集結してるとはどうしてかね?」 「詳細は言えませんが、この国の独特な気質と言いますか取り入れる精神といいますかとにかく動きやすいのです。それに……」 「それに?」 直立で手を後ろに回しているミカエル、ジェームズはゆっくりと椅子に腰かけた。 「幻赫が消えたことで勢力のバランスが崩れ始めました。灰色達(グレイマンズ)の活動が活発化し始めています。この国は潜伏に適していましたからね」 「こうなることはある程度予想していたのだがね。幻赫が異能者だけでなく様々な分野の者たちを取り込んでいたからな。TMIで対処できる所は全力でやっているんだよ、手紙もそうだ」 「G.D.Ⅲの見解としてはあそこで終夜アリナに幻赫を討たせるべきでは無かった。静かに詰めていくべきでしたよ。TMIは何事においても性急に過ぎる。管理者の演算能力が関係しているのでしょうが」 「そうか、TMIは逆だね。あの場面で幻赫を討てからこそ犠牲は少なくて済んだ。膨大な処理すべき事柄が残ったのは確かだが大勢の命を救えたことは皆満足している」 「仕方ありませんね。G.D.ⅢとTMIでは活動理念が違う」 「TMIは他所の組織の方針に口出しするつもりは無いよ。だからどうか君たちもTMIの人間にちょっかいはかけないでくれよ」 「叔父上、ちょっかいと言い方はいささか適切ではありませんね。G.D.Ⅲが動くべきと判断した時は動きますそれだけです」 「グレイストームの存在を知っていたからG.D.Ⅲの君は幻赫討伐作戦に協力してくれたのかね?彼も灰色達(グレイマンズ)だろう?」 「半分正解です。そうでなければ叔父上に協力はできませんでした。この体はG.D.Ⅲの物。私の本体は既に無く魂はデータ化しG.D.Ⅲに記録されてますので」 「そうだったね……すまない。君が来てくれて本当に助かった、TMIの皆も同じ気持ちだ」 「いえ、私こそTMIのやり方に意を唱えてすみませんでした。話はかわりますが私の活動期間はあと二日で終わります。その後は別のMagus(メイガス)が担当となりますので何かあればその者にご連絡ください。いつも通りエメラルドタブレットで」 「そうか解ったその者の名前は?」 「G.D.ⅢのS.Mメイガス、『ミレーヌ・ジンデル』です」*** 制服を受け取ったアリナとフローレンス。校門を出ると両手両足を改造したサイバネの男性に絡まれた。所謂『サイバネもの』と忌み嫌われている反社会的存在である。 「ちょっと一緒に来いよ。楽しくさせてやるぜ一生忘れられない体験できるぞ?」 「カネならいっぱい持ってるゼ!」 「来ないとは言わねえよな?俺たちは悪性腫瘍を患って仕方なくサイバネ化したかわいそうな存在なんだサベツしねぇよな?あ?」 つかみかかるサイバネ者、だが目標を誤り何もない空を掴んで派手に転げた。 「ギャハハハだせぇ!なにやってんだよポコリン!!」 「……」 ポコリンと呼ばれたサイバネ者は意識を失っていた。 「てめぇこのアバズレなにやっ……」 モヒカンのサイバネ者が倒れる。 サイバネ者たちが見えない速度でアリナの拳が顎を掠めていた。 「アリナ、警察に連絡しておきましょうか?それとも救急?」 「救急で良いのでは?それよりもフロー、この前晴凛と行った創作料理のお店に行きたいのです、今週はデカ盛りパエリアやっているので。あ、前回で挑戦権は得たのでフローは普通に何か食べたいものを注文してください」 「良い店を見つけましたねアリナ。あなたが遠慮なく食べれる店は中々ないですし」 その後毎週通う事になるアリナ。創作料理店は打倒アリナに燃え様々なメニューで挑むことになり、これをきっかけに大繁盛店になっていく。 「フードファイターという職業があると最近知りました」 「……適職ではあると思いますが」 「冗談ですフロー、言ってみただけです」 「そんな冗談を言うなんて珍しい。でもうれしいですよ」 ほんの少しだけ柔らかくなったアリナを見てフローレンスは笑顔になった。 終
Aug 1, 2020
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