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白薔薇と鎖ポール・ドハティハヤカワポケットミステリ 1785 185x107 B6判変形?並製 三方色づけあり(黄色)☆☆☆☆☆◎ 図書館で↓の「教会の悪魔」を借りに行って見つけ、一緒に借りてきた。 こちらは16世紀が舞台。きっとイギリスの歴史に詳しい人にはおなじみの、ヘンリー八世やエリザベス一世、シェークスピアなどが名前だけにしろたくさん出てくる。(私はこのあたりのイギリス史が込み入っている、ということしかシラナイ)まあ、どのみち描写は汚いし、臭そうなんだよね、いろいろ…。この本はシリーズの第一作目。90歳を越えたロジャーが若い頃の冒険を口述するという設定で話が進む。 この本は、枢機卿の甥のベンジャミン・ドーンビーとその従者で主人公のロジャー・シャロットが関わった連続殺人事件を推理していく話だ。ベンジャミンが20歳、ロジャーが18歳と二人とも若い。かなりストーリーは入り組んでいて、秘密結社や暗号などもストーリーに関わってくる。多分、ヘンリー八世からエリザベス一世までの英国史裏話みたいなシリーズになっているんじゃないかと思うが、残念ながら邦訳はシリーズ第一作目のこの本だけ。本国では何冊か出ているが、2000年代になって出ていない。だが、この本の原書を読む勇気はない。(読了までに何ヶ月かかることか…) ロジャーは香具師みたいな男で、憎めない小悪党、ベンジャミンは品行方正な優等生タイプだが、内に暗い感情をもっていないわけではない。このコンビのやりとりが読んでいて実に楽しい。口述している90歳のロジャーがもう鬼籍に入っているベンジャミンをけなしつつも「会いたい」とこぼしているのがいい。込み入った時代の話だが、色々な場所に二人が赴き、その風俗描写や、この二人のやりとりに結構救われて、前に読んだ「教会の悪魔」より読みやすく感じた。また、登場人物も実在した人物を上手く利用して、キャラクターに厚みがあるように思う。 こっちのシリーズも邦訳が出て欲しいなあ…。気長にまとう。 この本を読んでいたら、タイトルが「アブない」と言われた。そうかなぁ…?ブックカバーなしで外で随分読んでしまったんだけど。
December 31, 2009
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教会の悪魔ポール・ドハティ 和爾桃子訳ハヤカワポケットミステリ 185x107 B6判変形?並製 三方色づけあり(黄色)☆☆☆☆◎ 13世紀末、中世のイギリス、エドワード一世治下のロンドンが舞台。王座裁判所書記官でかつて王の命を白兵戦中に救ったことのあるヒュー・コーベットは市内の教会で起こった自殺事件の調査を命じられる。この自殺を王に対する謀反の動きの一端ではないかと疑ったエドワード一世本人と大法官ロバート・バーネルの命による。コーベットはすぐに自殺ではなく他殺と見抜くが謀反グループの尻尾を捕まえることができず、結局命まで狙われることになり、ロンドン塔に保護されたりする…。 大好きな中世の話なので喜んで読み始めたのだが、実は当時のイギリス政治史を知らないため、時々前後関係が分からなくなった。また、この時代、王宮ではフランス語が用いられ、庶民は英語だったようだ。最後の方で王が「嫌味なほど達者な」ロンドン訛り(多分後のコックニー)で話しかける場面がある修道士カドフェルの時代よりも確か100年位後であり、カドフェルの作中ちょっと出てくるノルマン人との戦争が終わった時代だと思うがよく分からない…。どちらかというとファンタジックな中世というより不潔で暗黒の中世という場面描写で、やっぱり悪臭の匂いの描写や不潔な家屋の描写は食事中読まなくて良かったという感じだ。 原書はもう何冊も出ているシリーズだそうだが、邦訳はこれだけ。また、この著者は別名義でもたくさん歴史シリーズを出しているだけでなく、学術書も多数らしい。このシリーズも徐々に訳していって欲しいなぁ…。このちょっと影と過去のありそうなコーベットと押し込みと盗みを3度やって絞首刑になるところをコーベットの助手ということで赦免された元死刑囚で女好きのレイナルフのコンビがどうなるのか面白そうだ。
December 26, 2009
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リヴァトン館ケイト・モートンランダムハウス講談社 四六上製☆☆☆☆☆*ネタバレ部分は文字色を背景と同色にしてあります。 書店の店頭で見かけ、あまりに面白そうだったので、これも図書館で借りた。(書店さんごめんなさい) こちらも↓に書いてある本と同様イギリスを舞台とした小説だが、時代は20世紀初頭だ。1998年に98歳で老人福祉施設にいるグレースが若い頃に貴族階級の広大な邸宅でのメイドとしての体験をその邸宅でおこった悲劇的事件を映画化するに当たって語るという設定の小説。グレースは14歳でそのお屋敷リヴァトン館に奉公に出る。娘時代に同じくリヴァトン館でメイドをしていた母の強い薦めによるものだったが、これが後に大きな意味を持ってくる。彼女がそこで体験したのは華やかな舞踏会や社交界デビューといった上流階級の暮らしぶりと厳格で古風な考え方の執事や使用人たちだった。しかし、第一次世界大戦が始まって、彼らの生活や行動の指針、道徳律といったようなものも、根底から覆されていく。 著者はオーストラリア人だそうだが、古きよきイギリスの上流階級の様子が映画を観ているようで面白い。また作中に張られた伏線が、結末になって見事に表面に現れてくる。とにかく、期待をかけていた跡継ぎを戦争で失ったことから始まる凋落していくイギリス貴族の一家の様子が日本人的な感覚でいえば、「もののあはれ」といえるんじゃないだろうか。そして、そのリヴァトン館の現在の姿に文字通り亡霊が現れるラスト付近の描写も好きだ。ちょうど↓のようにジェイン・オースティンを読んだあとで読んだためもあるが、やはりこの小説でもオツムの緩いお嬢様と読書が好きで夢見がちな(ある意味アタマでっかちな)お嬢様が出てくる。他の女性登場人物の厳格な貴族の女性である祖母、やはりオツムの緩いその友人の女性と彼女が世話しているタイタニック号の事故で両親を失った女性、子供にあまり愛情をかけなかった主人公の母、名門でありながら、だからこそその血におびえる女性…。(ここはちょっとネタバレっぽいかも…まあ仄めかされてるのですぐ分かる人も多いだろう。私もすぐ分かったし) 日本でも第二次大戦後に全てが変わったといわれるが、きっとイギリスでもそうだったんだろうなあ…。とにかく、リヴァトン館の凋落の様子がドラマチックで哀感を誘う。ミステリではなく、ゴシック小説とかいう部類らしいが初めて読んだ。また、読者サービスなのか、著者の遊びなのか、作中ちょっとだけアガサ・クリスティがゲスト出演する。読み終わると、1914年から1998年までの壮大な3代にわたるストーリーが見事に完結する。読んでいる途中で気づく方も多いと思うが、最初、リヴァトン館とは何の関係もなさそうな女性が最後になって口にする祖母の名前でこの3代のストーリーは完結するし、メビウスの輪が繋がるように祖母と彼女により同じ歴史が繰り返されたことが読者にも分かるようになっている。あまり長い台詞でもないのだが、印象的な場所だ。実は他にも小さな誤解を解かなかったことが後の悲劇に繋がる箇所があり、この二つの伏線の張り方はかなり見事だ。休日だったこともあり600ページの小説だが一日目に約60ページ、翌日に一気に全部読んでしまった。 ただ、難を一つ上げるとすれば、グレースの孫の事情がもう少し描写されていると良かったかな。これがあればもう少し満足できたかも。訳者のあとがきによると、次作も既に上梓されているらしい。内容も面白そうなので、日本語訳が出たら読んでみたい。
December 26, 2009
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サンディトンジェイン・オースティン鷹書房弓プレス 四六上製☆☆☆☆☆◎ 未完の短編を含む短編集。表題作「サンディトン」も未完だ。 ↓に書いたレジナルド・ヒルの「死は万病を癒す薬」には、どうもこの作品のパロディ的な要素があるように思い、図書館で検索したところ読めるようだったので、読んでみた。 ヒルの「死は~」の第一部の書き出しはまんまこのジェイン・オースティンの未完の絶筆(?)の冒頭と同じ。が、ヒルの作品では登場人物の描写がヒル流かつ現代的になっている。また、各章の冒頭にはこの「サンディトン」からの一文が引用されている。が、この本の訳文とはちょ~っと違っていたけれど…。 前置きが長くなったが、以前オースティンの代表作「高慢と偏見」のストーリー紹介を読んでつまんないな~とか思っていたが、聞くところによると英語圏では「ジェイン・オースティン・ブッククラブ」なるものもあったりなんかするようだし、人気があるらしい。この理由が分からなかった。が、このサンディトンはじめ、この本に掲載の「イヴリン」、「キャサリンあるいは東屋」(未完)、「ある小説の構想」(これはネタ書きみたいな感じ)、「ワトソン家の人々」(未完)などを読んでみて、理由が分かった。彼女の生没年は1775-1817。(日本では、種馬的業績(?)で「オットセイ将軍」とか言われる11代将軍徳川家斉の生年が1773年)今からおよそ200年前に作品が発表されていることになる。彼女は非常に早熟で10代の頃から作品を身内の人に読ませていたようで、今回私が読んだ未完の小説の幾つかはその頃のもののようだが、どのみちその描写はとても日本の江戸時代に書かれた小説という感じがしない。イギリスの中流階級の女性の生態の描写がシンプルな文章の中に巧みに描写されていて、ストーリーはつまらなく感じるが、登場人物の描写が非常に面白く読んでいて飽きない。まだ代表作を読んでいないのでなんともいえないが、お稽古事だけ真面目にやってあまり物事を考えない「アタマの緩い」女と読書などが好きできちんと教育を受けている比較的思慮深い女の対比が面白いが、後者も所詮若い娘のことで、若い好みのタイプの男が絡むと思慮深さも?という感じがした。(ヒルの作品ではそれが時代の違いとともにもっと顕著にあらわれている。そして読んでいるときは気づかなかったが、彼女は「姉」に詳細なメールを書くという設定にしてるのもオースティンが主に姉にあてて作品を見せていたことを連想させる)当時女性の地位は低く、結婚できなければ一生父か兄弟の世話になるか、相手の好みはさておいて婿探しにインドにIターンするか、上流家庭の子女の子守女になるか、くらいしか生活の糧を得る方法がなかった時代だ。作中でもそうした不幸な状況にある友人を思いやる女性の描写とその不幸な女性に不幸な進路においやった上流階級の無情な人々に憧れる娘とが出てくる。(キャサリンあるいは東屋)まあ、某巨大匿名掲示板的な表現を借りれば18世紀末から19世紀初頭のイギリス中産階級のリア充と喪女の生態の克明な描写が面白い、というところ。 著者が偶然にか意図的にか時代的な要素を作品から一切排し、自宅の周囲のことだけを作品にしているため、読んでいて人物描写の精細さが逆に際立ち、それだけで読ませてしまう。ストーリーなどある意味どうでもいいので、未完でも読める。代表作である長編も読んでいきたいと思う。
December 26, 2009
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松本清張光文社 カッパノベルズ 新書判並製☆☆☆☆☆ネタバレと思しき部分は背景と同色にしてありますが、他の部分についても、人によってはネタバレになってしまうかもしれません。 初版昭和37年。(読んだ本は昭和55年発行の89刷)「点と線」で活躍した本庁の三原警部補と福岡署の鳥飼刑事が活躍する。「点と線」から4年後の話だ。門司で2月の真夜中に行われる和布刈(めかり)神事の写真を撮っていた男が神奈川の相模湖畔での殺人事件の容疑者として疑われるが、この神事の写真が絶対的なアリバイになる…というアリバイ崩し。 前作で批判された飛行機の利用がこの作品では最初から出てきて思わず笑ってしまった。また、どーも容疑者が被害者を殺すに至る動機が作中ではっきりと説明されておらず、(私は仄めかされているだけのように感じた)更に警官二人もちょっと見込み捜査っぽくみえなくもない。刑事コロンボ式の犯人指摘法と言えなくもないけれど。だが、アリバイ崩しとトリックは結構面白い。ただしアリバイ崩しの決定打は今となってはもう不可能である。私も昭和37年頃、カラーフィルムは町のDP屋で現像できないなんて知らなかった…それに、定期券が身分証明になってたなんてことも。ただ、コレ、本当に可能かなぁ?というところはある。著者が書きたかったのはデュープしたということじゃないかと思うのだが、作中にはっきりそう書いてないので分かりにくいのだ。 それに、昭和37年当時にゲイバーなんてあったんだ。動機が仄めかされているだけのように感じるのは、やっぱり差別だと受け取られるのを避けたのだろうか。それとも、私のいつもの偏向フィルターのせいかな?実はこの作品、特に最後の方になってから意外と私の偏向腐ィルターが働いていたのだまた、作中のカメラの描写も面白かった。今のデジタルとは違い、現像にもブローニー並の日数がかかっている。というより、今の感覚だとブローニーか110の感じだ。 もう少し被害者・加害者の人物描写が多いほうが面白かったのではないかと思うが、三原や鳥飼と一緒に行動する刑事達の描写は細かかった。私は「点と線」よりこっちの方が好きだ。ついでに言うと、現代なら加害者・被害者の方をメインキャラにして、色っぽいシーンも入れて作品化した方が面白いだろうなあ… そして、神社・遺跡好きとしては、和布刈神事や容疑者が行ったとされる大宰府の都府楼址などの描写もよかった。しかも、この新書判では古い本なのでもう判別しにくくなっているものの、写真も挿入されていた。だが、不思議なことにこの作品にはあまり30年代を感じなかった。読んでいると、都電に乗ったり、神保町の経師屋さんなんかが出てくるので、やっぱり今とは隔世の感がないわけではないのだが、逆にこういった描写が出てこなければあまり時代色を感じなかったのだ。
December 16, 2009
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死は万病を癒す薬レジナルド・ヒル早川書房 ポケットミステリ1830 183x107(B6変形?)並製 本文着色あり(黄色)☆☆☆☆☆ 来年40周年を迎える人気シリーズの最新刊。 前作で爆弾テロのため意識不明になったダルジール中部ヨークシャー警察警視は、療養のためお金のかかる保養施設にいる。そしてそこで、ショッキングな殺人が相次いで起こる。死んだと思っていた人物も再登場し、相変わらずの重厚なストーリーが展開される。 しかし、今回、ダルジールの独白が、彼が「ミルドレッド」と名づけたICレコーダー(多分)に録音されたという設定の箇所と、心理学を学ぶ若い女性がアフリカにいる看護師の姉に送ったという設定のメールでストーリーが語られるページが長く感じる。特にこの女性のメールはちょっと鬱陶しい。頭がよくて、観察力があるが小ざかしいし、若いせいで、サカリがついてんのかよ、という文章もある。ただ、彼女のメールががある意味老獪な警官であるパスコーに、彼女の意思に反していいように利用されるのはちょっと胸がすっとした。ただし、第一章は登場人物の解説に当てられており、警察のいつもの面々、パスコー、ウィールディ他のメンバーは出てこない。ここがまた、面白いことは面白いが、彼らが出てこないのでさびしい。 レギュラーの登場人物のほか、今回だけの人物、お久しぶりの人物の造形も非常に細かく書かれているが、やけにゲイの男性の描写が女性うけするように書いてあるのはどうしてだろう?さらに、みんなの嫌われ者の女帝のようなおばあちゃんの書き方が実に楽しそうだ。あと、レギュラーの警官を翻弄する「彼」の描写も。そして鑑識チームを「CSI」と呼ぶようになったなど、現在の世相を反映していて面白い。 結末はヒルによくある運命的な終わり方をするが、あの人物も再登場したし、これからどうなっていくのだろうか…?次作ではいよいよダルジールが犯罪捜査部に復帰してということになるそうだ。原書は一度読んでかなりてこずったので、早く翻訳でないかなぁ…。
December 14, 2009
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澪つくし明野照葉 (解説高橋克彦)文春文庫☆☆☆☆☆ 短編集。ゾクゾクしたり、夜眠れなくなるような怖い小説ではないが、ひや~っとするような怖さがある。ちょうど、新耳袋のようなちょっと怖い怪談を読むような感じだろうか。そして、その怖さには、コテコテではなく、あっさりとしかしピリリとフォークロアの題材が織り込まれている。だが、一番怖いのは実在するはずもない伝説や言い伝えの怪異やタタリ(?)ではなく人間の心という描かれ方だ。河童や家族墓、橋の伝説といった内容も読者を冷やしはするが、それが決め手の怖さではない。また、解説の高橋克彦さんも書いておられるが、著者の文章の巧みさもいい。私は古代の共同墓地である横穴式集合古墳(って名前だったっけかな?)の跡地に建ったかつてのニュータウンを描写した「石室」が好きだ。ただ、上に夜眠れなくなるほどではないと書いたが、住んでいるところの近くにこの作品に出てくるのとよく似た伝説なんかあったら、ちょっと怖いかな。ちなみに、現実の地名として鎌倉と東京の中野と日野の多摩川の近くの土地が出てくる。中野は私もよく行くカメラ屋がある場所で、「神様のすべり台」とかいう訳の分からない施設のある近く。この本を読んで思ったが、込み入った路地に雑居ビルが立ち並び、夜はちょっと得体の知れない雰囲気なっているかもしれない場所だ。 やはりかつての伝説や言い伝えの類にしろ、人知れぬ土地で受け継がれる因習にしろ、遺跡にしろ、昔の人々の積み重ねた生活の地層の上に現在の生活が続いていることを感じさせてくれる作品。私はこんな雰囲気の土地が好きだが(だから奈良が好きなのだ)小説で読むのもいい。
December 8, 2009
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火の路(上)新装版火の路(下)新装版松本清張文春文庫☆☆☆☆◎ これ結末読むまでは☆☆☆☆☆◎でも良かったんだけどね…。 上下巻の長編で、初出は1973年の朝日新聞に一年以上に渡って連載された新聞小説。奈良県の飛鳥地方の酒船石や他の用途が謎の石造物について、拝火教との繋がりを推理した歴史の謎に挑みつつ、現実の贋作疑惑や象牙の塔内部のイザコザなどにも触れた小説。 とはいえ、全体の半分以上が論文に費やされているといっても過言ではないほど、内容が学問的。巻末解説によると、この小説が発表された当時は高松塚古墳の発掘で考古学ブームだったというが、この内容で新聞連載小説…?と思っていたら、やっぱり「内容が難しすぎる」という抗議が随分あったそうだ。だろうね。だが著者は「この作品は論文が主人公」と言っているそうだから、確信犯だろうなあ。 もっとも歴史ミステリー、特に古代史は大好きなので、私は楽しく読めた。(論文部分にはかなりてこずったけど)しかも、冒頭はず~っと飛鳥・奈良市の風物の描写だ。それも観光地だけではなく、ちょっとわき道に入ったような描写も細かくて読んでいて堪えられないほど楽しかった。更に、重要人物の一人にカメラマンがいるため、装備の重さやレンズの焦点距離などの描写も良かった。この小説が気に入った理由にこのカメラマン板根要助の登場を楽しみに読めたことがある。(実は最近ハマった毒ガス映画の主人公の一人に「背は高くないががっちり体型でヒゲあり」という描写が重なり、その俳優さんの声で台詞が聞こえたせいもあったりして…)今まで3作くらい清張作品を読んだが、どれも登場人物に感情移入できなかったのだが、この小説は板根と主人公の高洲通子にも割合感情移入しやすかったので、読みやすかった。また、学界を追放されたが学識深い海津信六がご意見番みたいな感じで登場するのだが、この高洲通子、板根要助(あと通子のアルバイト先の高校の教師糸原もちょっと含み)、海津信六の三人の関係は、とある民俗学ミステリーの登場人物設定に似てるといえなくもない。特に通子と海津の設定は。また、これは個人的な推測だが、通子より少し年下で30歳、それなりに名前も知られているカメラマンで、仕事の時の耳学問としつつ、結構博識な設定になっている板根に、著者は自分を少し重ねているんじゃないかと思う。板根はMary Sue ならぬGary Stuなんじゃないかな。また通子も史学専攻の女子学生に実際に取材し、その学生の様子をそのまま写しているそうだ。モデルになった学生さんを気に入られたんだろう。全体を通してこの小説の登場人物の描写は、今まで私が読んだ作品に較べて「キャラが立っている」ように感じる。 話は戻るが、場所の描写も奈良だけでなく、海津の家は大阪の堺や羽曳野の近くらしく、昨年古墳めぐりをした私には描写が懐かしかった。さらに、通子が調査旅行の赴くイランの拝火教遺跡の描写や町の描写、現地の人々の描写も興味深い。著者が実際に経験したこともエピソードに含まれているそうだ。そして、肝心の拝火教の影響と石造物に関する論考は現代の研究で否定されたところもあるそうだが、斉明天皇への考察などは示唆に富んでいるように感じた。でも難しかったんでよく分からん…。ただ、神戸にも巨石の遺構があるそうなので、見に行ってみたいな。ついでにルミナリエの写真撮るとかね…。以下はネタバレになるので、背景色と同色になっています。 かなり楽しく読んでいたのだが、以下の点がクリアになっていれば小説としてももっと面白かったんだけどなあ…ちょっと尻すぼみの感がぬぐえないのだ。1. 海津と普茶料理店店主との関係と実際に行っていたこと、行われたこと2. 二つ目に「姪」と名乗っていた倶子(ともこ)の自殺の真の原因3. 増田亮子と海津、倶子の関係、及び海津が学界を追放され学問も捨てた理由4. 通子、糸原、板根の三人の関係のその後 (糸原と板根はどーも通子に気があったっぽい) 以上の4つがはっきり小説中で説明されていれば、読了後、「読み終わった~」という実感が強くなるのだが、これらが仄めかしや登場人物の推測を書いただけの書き逃げ(失礼!)という状態で終わっているのだ。まあこれ書いたら、あと100ページくらい増えそうだけど…。もしかしたら2巻じゃなくて3巻になったかもしれないけど、それでもいいからハッキリ書いて欲しかった。 そして、この1973年頃という時代背景、皆が海外旅行に手が届きそうになって「機会があれば自分も」という感じで書かれているのだが、この年あたりは日本史の教科書によると第四時中東戦争とオイルショックがあった。が作中にその描写はなく、更に隔世の感を感じたのは、革命前のイランが平和な国として描かれ、街の通りの名に「パーレビ通り」と書いてあったとか「王妃がいらした」という一文がさらりと書いてある上、ガイドの現地女子学生はチャドルも着ずに欧米風のいでたちという描写、さらに気軽に「イランに調査旅行に行ったら?」みたいな台詞があることだ。今、学術調査のためとはいえ女性一人旅になりそうと分かっていて、気軽に「イランに行ったら?」などと言える時代ではない… まあ、とにかく、読み応えある大作だった。途中で飽きもこず、集中して読めたと思う。
December 7, 2009
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