つかの間の幸せに向かって
次郎吉「 おらか
、おらあ、 おめえ
、 ほれ
、天 井裏でよう
、 がさがさがさが
さ
・・・」
桝安 「あっ、・・鼠」
といい十手を向けますと、次郎吉は
次郎吉「 そうよ
!
」
というと、屋根へ飛び乗り、 スガメを外すと
、
次郎吉「その鼠小僧 次郎吉だい
」
子分達が騒ぎ出したのを見て次郎吉は、
次郎吉「おおおおっ、 そうびっくりすんねい
」
というと、着ていたボロ着を脱ぎ、 屋根に座り込み
話しだします。
次郎吉「友達に金を持たしてやったが、虫が報せ一足遅れに来てみりゃこのざま
だ。・・・おい桝安、女二人 友達一人
、この鼠小僧の捕物に何の関わり
もねえ人々だ。確かに俺が逃がしてやった、 文句あるけいっ
」
「なんだとう」水をかけようとしたり、竹の六尺棒を持ち騒ぐ子分達を見降ろし、「 やかましいやい
」と言い放ち、「 もう一つだ
」と続けます。
次郎吉「てめえみてえな、きてねえ野郎に、鼠小僧、死んでも 御用弁にはならねえ
よ
」
屋根に上って来た子分達や梯子を使って上って来る子 分達を払いのけ
、 人殺しはでえきれいだ
、・・・とすて台詞を残すと、屋根づたいに走り部屋へ下りるや大乱闘になります。
皆が次郎吉にかかっている間に、権達は桝安の家から逃げることが出来ました。
次郎吉の 大立廻り
が続きます。そして、桝安親分を切ると逃げていきます。
林の中で先に逃げた三人が次郎吉の来るのを待っています。
暗闇に疲れきった次郎吉の姿を見るや、おたかが、「兄やん」とかけより、次郎吉も「おたか」と、二人は涙を流し抱き合います。
次郎吉「 おたか
、 勘弁してくれ
・・・」
その様子を複雑な気持ちで見ていた 文字春に気が付いた次郎吉
が
次郎吉「師匠、 おめえにおれは
、 何と言ったら
・・・」
文字春「次郎さん、 およしよ
、 今さら
」
といい、次郎吉が固く握っている長脇差を手から離そうとしますが無理、権が手伝いやっと次郎吉の手から離すことが出来ました。
次郎吉が、「おたか、師匠、権三」と言うと、
次郎吉「 三人とも
、 今日限り
、 俺と他人になってくれ
。・・・俺は天下のお尋ね
者、今は人まで殺めた 凶状持ちだい
。・・・なあ、おたか、俺のことは
きっぱり忘れ、権三や師匠と一緒に、おめえだけの幸せを掴んでくれ、
それがせめてもの俺の
・・」
すると、おたかが「 違う
、兄やん、違う・・・これを見て・・」と言い、懐から次郎吉が買ってくれた 簪を見せるのです
。
あの時の楽しい思い出が、嬉しいことがあったと思えるだけで、今日まで死なずに生きて来られのに、兄やんを忘れろっていうのは死ねということと同じだ、とおたかが泣きながら次郎吉に訴えます。
黙って聞いていた文字春がおたかの気持ちを考え動きます。
文字春「次郎さん、 少しは女心が分かったかい
。・・分かったらお前さんが年貢を
納めるその日まで、三年、三月、例え三日でもいいやね、おたかさんの思
いを遂げさしておやり。次郎さん、 それでこそ男だよ
・・・」
文字春にいわれ、次郎吉は考えを改め
次郎吉「よし、 分かった
」
というと、おたかの顔も明るくなり、次郎吉にも笑顔が見えます。
文字春と権に見送られ
て、二人は つかの間の幸せに向かって
行くのでした。 (終)
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