あっしに惚れちゃあいけないよ
おすきに家を追い出された政吉と六助は、清水の町をあてもなくさまよっています。六助がまだかけだしの三下であることを聞かされ、またまた がっかりさせられる政吉
。
六助は、親分には恐れ多く頼むことはできないが、姐さんか姐さんの妹のお雪さんにお頼みして、二人で住み込みにしてもらうから、 ちょっと待っていてほしい
、といい走り去って行きます。
残された政吉は、六助が行ったのを確かめると、にやっと笑いを浮かべ、水の流れを見ていると、犬の吠える声がしたかと思うと、「キャーッ」という女の悲鳴が聞こえます。その方を見ると、 若い娘が
「 助けて
」 と
走って来て 政吉にしがみつきます
。
(
この娘が六助がいっていた姐さんの妹のお雪なのです
)
犬は二人の脇を通りいってしまいます。「 もう大丈夫ですよ
」といい、なれなれしくする政吉を振り切り、娘が「ありがとうございました」といい、 去ろうとすると
、
政吉「 おっ
」
と呼び止め、娘が振り返ると次のようなことをいい出すのです。
政吉「おめえさん、 あっしの名前聞かねえのかい
」
お雪「あっ、・・・あんまりびっくりしてしまったもんで・・・あのう、 どなたさ
までいらっしゃいましょう
」
政吉「 ほいきた
」
政吉「 次郎長の身内でねえ
」
お雪「 ええっ
、・・・ 次郎長親分の
」
政吉「 うん
、・・・ 政ってんだ
」
お雪「 ああ
、・・・ 政っ
・・・」
政吉「 ああ
・・・」
政吉「清水港は鬼よりこわい、大政小政の声がするってんだ」
お雪「まあ、あの大政さんですの」
政吉「いや、 ちょっと違うんだ
」
お雪「それじゃ、小政さん」
政吉「 とも違う
、 うぅー
、 中政ってえところさ
」
お雪「そうでしたの・・・ じゃ
、 中政の親分さん
」
政吉「 おう
」
お雪「 どうもありがとうございました
」
といい、行こうとした お雪を引き止める
のです。
政吉「おうおう、 ちょ
、 ちょっ
、・・・念のために聞くが、 あっしに惚れちゃあい
けないよ
」
お雪は「 あーら
、・・・ いやだあ
」と笑いながら、政吉の手をはらい離れます。
政吉「 そうくると思ったね
」
そして、懲りずに続けるのです。
政吉「ああ、 よくあるやつだ
。助けていただいたあの殿、有難い有難いがつのっ
て、 恋しい恋しいってことになる
。・・・ 娘心に思い詰め
、口では言えな
いところから、気鬱がつのって 病の床に就く
。あーあ、 竹庵先生の脈では
わからん
。お医者様でも草津の湯でもってなことに・・・だが、おれは、
・・・あいにく 女はでえきれいだからなあ
」
といい見たお雪は、 うんうんというように首を
縦に振る。
政吉「次郎長親分ご身内の政吉さんと訪ねて来られても、ついつい つれねえ返事
をする
。 (
お雪は少しずつつ政吉から離れていってしまいます。それにきず
かず・・・ )
するてえと、おめえさんが、女の口から恥ずかしいことを言わ
せておいて、 このまま生きてはいられません
。いっそ一思いに死んで・・
・・ そんなことで
、 よっーお
」
川に飛び込む仕草をしていたその時
、戻って来た六助は、政吉が本当に飛び込むと勘違いして、「兄貴、短気起こしたらあかんで」と止めに入りました。
政吉は、いると思った娘がいなくなっているので、 そちらの方が気になって
、六助が、次郎長親分の家に厄介になることになったといっても、政吉は上の空、「あっそうか」といって、いなくなった 娘の方が気になっている
のです。
続きます
。
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