“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

2010.07.22
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テーマ: 旅先にて(468)
 最近は、よく二極化の時代と言われます。

成立しないと言うことです。
 その理由は、今の時代がメディアを通じて次々と新しい店が紹介される
情報氾濫の時代であり、店に行くこと自体が目的化してしまっていることにあります。
 その結果、初めて訪れる店を選ぶ場合も、
あるいはその店に再来店するかどうかも、
ちょっとした印象で決まってしまいます。
印象ですから、じっくり見て、つきあって判断するのではなく、

結果的に、お客様の再来店率が極めて低くなります。

 私の事務所には、
そこそこおいしい料理を良心的に提供している職人の店が経営難に陥り、
「なんとかしてやってくれないか?」というサポートの紹介がよくあります。
 そんな店を訪れて共通して思うのが、
「真面目にお客様のことを思って良心的に商売をしている店は厳しいことが多いな……」
と、いうことです。
 その店の経営者が、チェーン店のセントラルキッチンで作った料理よりも
手作りで心のこもった料理を食べて欲しいと思っていることも伝わります。
しかし、その思いが私に伝わってくるのは、ひとつだけ但し書きがあっての話です。

 その但し書きとは私が専門家であるということです。

その料理がメーカーのできあいなのか、手作りなのかがわかります。

 たとえば、薬味のネギにしても、
職人が手で切れば辛くならないので水にさらすことなく使えます。
機械で切れば辛くなるので水にさらさなければなりません。
水にさらせばネギ本来持っているおいしさも抜けてしまいます。



 家庭でも同様の話が進んでいます。
野菜や肉などの材料を買わずに
惣菜で毎日の食事を済ませる家が増えてくると、
「家族のために手作りで心をこめて食事を作る専門家」である主婦は
どんどん減っていきます。
 ちょっと前のバブル崩壊くらいまでの時代であれば、
スーパーの惣菜などは“できあい”など言って嫌がられましたが、
今はそんなことはありません。

 つまり、今は「心をこめて作るプロ」、
そしてそれが「わかるプロ」は激減してしまったのです。
確かに商品自体おいしくなって消費者のニーズに見合うものに
進化したのは事実ですが、
手作りであることをわかる人が減ったという見えない事実があるわけです。

 実は、店の使命とは、お客様にこのような違いをわかるように教育し、
食の楽しさを伝えたり、もっと面白いことを教えたりすることにあります。
 しかし、成長期の飲食店は市場の拡大を優先し、
お客様に一歩前に進めてあげることよりも、
わかりやすいことを優先し満足を売ってきました。

 かくゆう私もそれに気づいたのはそんなに前のことでありません。
「新宿さぼてん」の荻窪店で店長をしていたときに常連さんが
やたらソースをつけて食べることに疑問を感じました。

「何であんなにソースをドボっとつけるんだろう。
あれじゃ肉の味がわからなくなってしまうじゃないか?」
こんな疑問が浮かびました。

 そのお客様だけでなく常連さんの多くはそのような状態でした。
しかし、あるとき、次の結論に至りました!

「そうかソースが命ってやつだ!
お客様は肉を食べているのではなくソースを食べているんだ!」

 つまり、お客様にとっては肉のおいしさよりも、
ソースの味のほうが重要だったのです。
しかし、逆に我々店側の人間は商品の試食をするときソースもつけずに
「うーん、これいいね」のように肉の味を評価します。
これが論理的な理屈と現実のギャップです。

 この気付きがあった後、回転寿司などのいろいろな大衆店を回りました。
お客さんの多くは、回転寿司では寿司を醤油ドボ漬けにしていましたし、
サラダではドレッシングをたっぷりぶっかけて食べていました。
 そして、B級グルメでよく“秘伝のタレ”と言っている意味も
よくわかってきました。

 普段の何気なく食事をしているときには、
素材ではなくタレが大切。
なぜならタレはわかりやすいからです。
素材の味よりも、
ソース、ケチャップ、マヨネーズ、ドレッシング、塩ダレのほうが、
それまでの経験が要らずわかりやすいんですね。

 私は、どんなにいい素材でも、
タレでドボ漬けにして提供する必要があることを認識しました。
逆に言えば、大衆の食はタレをドボ漬けにしても、
負けない味が大切であることに気付きました。
 マグロで赤身でなくトロがうけるのも、
牛肉でオーストラリア産より和牛の霜降りがうけるのも、
ドレッシングが売れるのもすべてタレが大切であることに気付いたのです。

 しかし、料理人はちょっと勉強してしまったためにプロになってしまい、
いい素材を使ってしまいます。
究極の食材なら誰でもわかりますが、
ちょっといい素材ではほとんどのお客様にはわかりません。
飲食店はブラインドテイスティングする場所ではありません。
食事をしながら会話したり、いろいろなことをしたりしています。
 それに、ランチならちょっとした味の違いであれば予算が優先されるでしょう。
あるいはお腹いっぱいが重要です。

 このような環境を打ち消してでも、少しでもいい素材をわかってもらうには、
お客様を継続的に教育するノウハウが必要なのです。
ある程度教育されれば、知識をつけたお客様はそのものを見る目が養われ、
ふつうのものでも「すばらしい」としみじみと思うわけです。
これが日本人の美的感覚の侘びであり、風流なのです。

 例えば、私はスキーをしますが、
はじめてパラレルターンができたときの感動は忘れられません。
しかし、スキーでもいきなり急斜面でこぶがいっぱいのところに連れて行かれ、
「あとは、気合だ」「根性だ」などと言われても困りますし、
なんの役に立ちませんね。
それよりは緩斜面のボーゲンのようなどんな滑り方でも
思うように滑って、「スキーって面白い」と思うことのほうが重要なのです。

 つまり、その人のレベル、
店で言えばお客様の目線にあわせてわかりやすいところから
スタートして楽しんでもらう必要があるのです。
どんな滑りかたでも結構、まずは楽しいと思ってもらい、
理想論的な論屈と実際のギャップをどう埋めて、
それからが本番と考える。
次第に本来の良さがわかるようになり、最終的感動につながればいいのです。


大久保一彦の本もよろしゅう


アンケートの作り方・活かし方





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Last updated  2010.08.04 12:09:03


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