“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

2010.07.23
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 私は世界のレストランを回って食事をしています。
このことが飲食店の演出家としての引き出しを増やしていることは
言うまでもありません。
レンタカーを運転して数時間かけて、
山の中の三ツ星レストランなどへ行く飲食コンサルは私くらいでしょう。
 本当、いろいろな店や宿に行きました。

 これだけいろいろなレストランやホテルの旅をしながら、
いいものに接することに慣れてくると、
それらをじっくり見る心の余裕が生まれ、


 私の好きな菜根譚の中に「春の花、夏の涼風」という言葉があります。
春の花を見て「美しい」、夏に木陰で吹いた風を「ああ涼しいな」と
感じるくらいの心の余裕は持ちたいものだという例えです。
 忙しいとついつい見過ごしてしまいそうなことですが、
日常生活の身近なところに「いいな」と思うものはいっぱいあるし、
それくらいの心の余裕が人を幸せにするのです。

 しかし、現代社会はとても忙しく、
誰にでもわかるようなわかりやすいものでなくては
ダメな時代になってしまいました。

 しかし、競争の激化と情報の発達で底辺の店のレベルは上がり、
ふつうの店と底辺のレベルの店の運営水準はあまり大きな差がなくなっています。

サービスが悲惨な店は珍しくなったと思いませんか?

 また、世の中がとても便利になった一方で、
現代人はとても忙しく、時間に追われるようにもなりました。
時間がないことを背景に、日常生活では、
「たいした差がないなら少しでも安く済ませたい」という店選びが主流になります。


「それなりの場面だから多少は出費したとしても、
感動に値する商品や店やホテルを選びたい」という店選びなります。
 私は老舗料亭のお手伝いが多いのですが、
お食い初めのような子供の行事にはとてもお金をかけていることを実感します。

 店選びの基準ですが、
前者はそんな商品の良し悪しを吟味している必要がないので、
基本機能(味のインパクト、満腹感)がしっかりしていて安いという意味での
わかりやすさが、
後者の場合は人の評判となるくらいのわかりやすさが重要です。

 さて、多くの人の評判を得るには、
基本的に継続的なおつきあいをお客様がしない以上
時間をかけて教育などしている暇がありませんから、
別の要素が必要となります。

 私は多くの店やホテルを旅して気付いたのが、
わかりやすい「卓越」したものがあることです。
 例えば、ナイアガラの滝は自然の驚異としか言えません。
初めて瀑布をそばで見たら誰でも驚くでしょう。
 店だって同じです。
ニューヨークのブルックリンに リバーカフェ というレストラン&バーがあります。
このレストランはまさに摩天楼の写真そのもの。
卓越した夜景が見ることができます。
だからこそ評判になりお客様が絶えません。

 実は料理を代表する技術も同じことが言えます。
ある一定水準以上の技術となると見るものを魅了し、
なんとも言えない感動を呼び起こします。
 例えば、野球のイチローは代表的です。
イチローのプレーは感動に値しましたよね。
プロゴルファーの石川遼だって同じです。
テレビでゴルフを見ていてなんとも言えない思いがこみ上げることがあります。
 しかし、プロの選手になるだけでも立派ですが、
いくらプロだとして並の選手はこれらの選手のときに感じるような、
なんとも言えない気持ちにはならないと思います。
せいぜい、マラソンのケガでもう走れないくらいなのにふらふらになりながら
ゴールする場面のようなときだけですね。

 実は、誰もが感動するには素人にもわかるある一定水準を超えた技術が必要であり、
並の技術ではだめなのです。
 実は料理人の技術にも同じことが言えます。
私も料理で感動したのは卓越した調理技術のある人でした。
例えば、フランスのオーブラック地方、ライヨールという町に、
ミッシェル・ブラス というレストランがあります。
この店のスペシャリティに野菜のガルグイユというメニューがあります。
たくさんの野菜をその素材に合わせた料理法でそれぞれ調理して、
白い皿をキャンバスに見立てて芸術的に盛り付けた料理です。
この料理がテーブルに並んだ瞬間、「わぉっ!」と叫ばずにはいられないでしょう。
この料理に感動し、
この料理を模して東京でも提供している店がありますが、
ライヨールで食べたミッシェル・ブラスの皿を超える店はありません。
北イタリアのクレモナから1時間ほど走ったところにある
ダル・ペスカトーレの南瓜のトルッテリというパスタも凄かったです。
テーブルに置かれた瞬間に美しさにため息をつきました。
そして、食べみてさらに感動はボルテージに達しました。
過去食べた中でこれだけおいしいパスタはありませんでした。

 卓越した技術を活かすにはもうひとつ重要なものがあります。
ステージです。イチローや遼くんが多摩川の河川敷でプレーしていても
おそらく感動しないと思います。
プロの集まる最高の場面でプレーしているから光るのです。
 料理人も同様です。
料理人が輝くためには空間が必要です。
空間も、内装だけでなくわざわざその店のために行くようなロケーションなど
卓越したものが必要です。
雑居ビルでは難しいでしょう。

 私は「パリの三ツ星が何か足りないなぁ……」と常々思っていましたが、
それが空間なのです。しかし、多くの店はこのような空間がありません。

 最後に素材があります。多くの店は「高級食材を使っている」と言います。
しかし、実際は卓越した素材も使えません。
卓越するために卓越した素材を使わないといけません。
二番では卓越できません。しかし、多くの店は卓越した素材を使えません。

 卓越した素材の店を紹介しましょう。
 東京都世田谷区の奥沢に 入船寿司 というマグロの有名店があります。
この店のオーナーの本多さんは最高のマグロしか使いません。
入船寿司は一年中近海の本まぐろ尽くしが1万5000円です。
この価格を高いと思うでしょうが、多くの人は「安い」と言います。
 ちょっとエピソードを話しましょう。
この店で食にかかわる人20人と勉強会を開いたことがあります。
オヤジさんは青森三厩のマグロをそのために仕入れていました。
とても美しいためにみんなが写真をとっていたそのマグロですが、
実は一塊、450万円もしたそうです


 その中に和食の料理長がいました。
彼は思わず私に「どうやったら(マグロ尽くしを)この価格で出せるのか?」と
聞いてきました。
 このカラクリは後ほどお教えするとして、
その料理人もこのようなマグロを扱うことはないわけで、
その素晴らしさに魅了されていました。
 「私はマグロの寿司を握るのが趣味ですから、
その日の一番だったものしか使ったことしかありません。
仮に高かったとしても最高のものに代用品はありません」
と、オヤジさんは言います。

 実はどこでも最高の素材だと主張しますが、
卓越した素材などめったにありません。
私はホームページ制作をよくサポートしますが、
「そんなことよく言うな」と思うことがあり、多くの場合、
「それはまずいですよ」と誇大広告にならないようにしています。
つまり、簡単そうで難しい、卓越した素材を使う条件がいくつかあり、
この条件のなかに感動の原資が潜んでいます。
ひとつは継続です。どんなに必要がなくても買い続け、使い続けなければなりません。
 新橋に名人長山一夫さんがやっている 第三春美寿司 がありますが、
この店の車えびは天然しか使いません。
天然の車えびの割合は0.0000……%と言われています。
したがってこのエビは驚くくらいの仕入れ値段です。
この車えびを仕入れるには、
まず、廃業などで買い続けられない人が出たときに、そこに割り込み、
そこに割り込んだら買い続けないとなりません。
最高の素材は、自分の都合の良いときだけ手に入れられるというわけではないのです。

 千葉の佐倉市に年商4億円を誇る山田直喜さんがやっている
レストランテ カステッロ という店があります。
この店も千葉産の赤座エビを買い続けています。
千葉の最高の食材を東京に流出させないためです。
 これらの店には共通の特徴があります。
それがオーナーシェフの店ということです。
これが食材で卓越する条件の2番目です。
 なぜ卓越するにはオーナーシェフの店である必要があるのでしょうか?
オーナーが別であったり上場企業であったりすると、
何をするにも数値目標を決め管理をするということが発生します。
また、新しくお金のかかることをする場合は稟議にかけなければなりません。
このしくみ自体は悪いことではないのですが、
こと卓越する食材を使うとなるとブレーキのような機能として働いてしまいます。
 オーナーシェフの店であれば、
最終的なジャッジを管理数字にとらわれず、
オーナー自身が決定できる、これが今の時代の強みとなるのです。
つまり、食材の高騰なんていうのは一日、二日の話です。
せいぜい続いてもワンシーズン。商売が代々続くことを考えれば一瞬にすぎません。
オーナーの店に限らず、短期的な利益が優先されない体勢が重要です。
 三つ目は、何年も店を継続していていることです。
何年も経営していると背負っている借金が少なく、
新しい店に比べると少ないという強みがあります。
さらに、自社物件ならなお背負うものが少なくなります。
この背負うものが少なければ損益分岐点も低く、
より常にお客様との人間関係を優先した判断ができます。
 このような状況が重なるとダイナミックな仕入れができます。
リーマンショック後に東京の一等地にある
資本と経営が分離した投資目的の多くのレストランが
閉店を余儀なくされているにもかかわらず、
素材で卓越して比較にならない魅力があり不景気もなんのその
という店の差になるのです。



大久保一彦の本もよろしゅう


アンケートの作り方・活かし方





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Last updated  2010.08.04 12:06:38


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