“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

2011.01.27
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この記事は日経レストランで人気コラムで長期連載していた非常識の2005年5月に書いたものです。

 それはとある「夢―商通信」の読者さんの電話から始まった・・
「うちの業態替えして半年経った焼鳥居酒屋の売上が急降下しているんです。なんとかなりませんか?」
 急患だ!ともあれ、車を飛ばして診察に出かけてみることにした。

 「やはり・・」
 出かけてみて、売上が下がっているのが明快だった。
 店の売上があがらない理由は、二つしかない。
お客様に店の存在を知ってもらえず、初回来店に至っていない。
もうひとつが、お客様が来店したとしても、二度目の来店にならない場合だ。


 店の存在を知られていないなら、チラシを巻いたり、店前通行量があるなら、視認性をあげる努力をしたりすればよい。
 しかし、それは今の客数が減っていなければの話である。
今回のケースのように、客数が激減したのに集客をかけると、店を破壊する。

 「あなたの特徴が伝わってないからですよ」と軽く言うコンサルタントは多いし、小手先に走るケースが多いが新規客が増えない時代に入ったのだからそれは危険だ。
「今すぐ売上を増やさないといけない」と焦る気持ちはわかるが、大手術をするにしても時間をかけてやらなくてはならない。

 立地が良いとか客席が大きいとか、なんらかの形で利便性がよい場合でないかぎり、店に来なければならない理由や、感動できる何かがないとお客様は店に再び足を運ばない。
 店に初めて来店した時が勝負だ。
 初めて来店したときに、いくつかのアイテムをオーダーし、シェアする店にとってお客様をリピートさせるには、さりげない「おすすめのコースメニュー」が重要だ。
でも、客数が減って、売上が下がっている店に出かけると必ずと言っていいほど、そのコースメニューがお客様を増やすもになっていない。

 診療依頼のあったフランス料理店に行くと、「真鯛のポワレ」に「牛ヒレのグリエ」。
「なんで、コースメニューがこんなつまらないんですか?」とシェフに問うと、コストに見合って、お客様みんなが嫌がらないのがこれらなんです。

みんな喜八さんの料理教室に通い過ぎか、日経レストランレシピの見すぎじゃないのだろうか?

 だから私は言いたい。
「そんなお奨めメニューは辞めなさい」

 あなたの店の客数が下がり、売上が下がるのは、もっと施設的にも恵まれた大手チェーンに行けば良いだけの話だからだ。
 確かにあなたは良心的な価格で販売しているかもしれない。試食を繰り返し、一生懸命がんばった。価格を考えれば、あなたは本当に、良くやっているかも知れない。

別にお客様は、あなたの店へ敢えて行けなくても、思いついた店で、話題に上がった店、偶然雑誌で目にした店で十分なんだ。逆に好奇心がなく、食に執着のない人なら、別に大手チェーンでも十分事足りると、思っているのかも知れない。

 お客様はあなたの店にさりげなく来店する。
あるいは、なんだかわけわからず、宴会の一人として来店しているのかも知れない。
そして、さりげなく良さげなくメニューをオーダーする。
そして、不満なく帰る。
でも、お客様はあなたの店で食べた料理の印象は残らない。
どれだけ、他の店と違ったのかなどわからない。
そんなに、食べ物に注目していない。
不満がないということは、興味も湧いていないと言うことだ。

 右肩上がりの市場成長期、今、来てくれたお客様が仮にまた来店しなかったとしても、新しい別のお客様が来てくれた。
 しかし、今は違う。
お客様にはとって選択肢が無限にあるからなのだ。

 先日、わが事務所で、食事に出かけることにした。日経レストランに取り上げられていた店だ。
しかし、一人が、「その店は行ったよ」と言う言葉を発した途端、「別の店にしよう」ということになった。

 ガイドブックやメディアは非常に便利だ。
そして、店にとっても、お客様に店の存在を知らしめてくれる重要なツールだ。
しかし、その特性を知らないと大変なことになることをこの会話が物語る。
情報の氾濫は、お客様に店の選択肢を無限に感じさせ、よっぽどのことが無い限り、店を一度行けば良いものにしてしまう。

 前回アメリカに行った時に、視察に参加された会員さんがザガット・サーベイを持っていた。
そして、蛍光ペンで店に印がついていた。
「その印、おいしい店なんですか?」と私が問うと、「行った店だよ」と応えた。
そう、この会員さんにとっては、一度店を訪れることが目的なのである。
一度来店したら、よっぽどのことがないかぎりそれで十分なのだ。

 店を知って、店を覚えてもらおうという思惑で飲食店が利用するメディア、実はこれこそがお客様を固定客にしないツールだったとは・・・

 なのにである。私の読者の焼鳥居酒屋のオーナーはこのことがわかっていなかった。

 もし、「お客様はおいしいものを出していればリピートする」という前提を覆し、「お客様が一度来店したら、二度と来ない」と思ったなら、このようなお奨めメニューは即刻破り捨てるだろう!

 前回の記事でフランス料理界の大御所ポール・ボキューズ氏の話をした。
彼の提供した料理は、今日、フランス料理店でみんなが取り入れたため、クラシックでオーソドックスな料理であった。
しかし、その料理はポール・ボキューズ氏の料理以外何者でもなかった。
私の記憶にポール・ボキューズ氏の料理として記憶にずっと留めている。一ヶ月以上たった今でも、ジャガイモの食感と甘酸っぱいベシャメルの味が口に残っている。
 なぜか、そこには哲学があるからだ。
哲学があれば、あなたの個性は必ず伝わる。

 「あなたは哲学があってどこにでもある料理を、すなわち、その規定演技の料理を提供しているのか?」

 そうではないはずだ。
「売上を上げよう」としている。
いや、「売上を失いたくない」からどこでもやっていることをしているのだ。

 第二次大戦の戦勝国で日本よりいち早く高度成長期が訪れたフランスのレストランは、選択の時代も早く訪れている。
選択の時代の飲食店において大切なこと、それはその食事を食べたら忘れられない体験にその食事をすることだ。
お客様の気まぐれで、何を食べてお帰りになるようでは、飲食店の先行きは確固たるものではない。
それでは、祈って待つに等しい。あるいは、占い師のようにデータを眺めて断末魔を予想するのか?

 そんなフランスで生まれたもの、それが日本の懐石料理の要素を取り入れて、料理人の哲学を織り込み、料理人のこれまでの人生のエッセンスを体験できる「ムニュ・レギュスタシオン」である。
懐石風になったオリジナリティのあるコースメニューということができるだろう。
 例えば、「きのこの魔術師」のレジス・マルコン氏には「きのこのコース」、野菜の魔術師のミッシェル・ブラ氏には「自然発見コース」。
 これらのコースのパターンは決まっている。スタンダードな料理や食材に料理人の哲学というフィルターを通して創意工夫して、驚きと感動をを与える。
あなたならどんな題目で魅了するだろうか?

 不思議と繁盛店には、また「食べに来てしまう」コースメニューがある。
焼肉屋だってそうだ。
ふつうの料理に哲学が加わっているのだ。

 先にも述べた通り、右肩上がりの市場普及の時代、より多くのお客様に受け入れてもらうために万人受けのする不満の少ないコースを作り、宴会を裁き、高利益の体質を確保した。
しかし、お客様がいつでも好きな店を選べると時代・・

 もう気づいただろう。
ふつうのありきたりの、どこでもあるコースを始めて食べたら、あるいは、同時に食べ比べないとwからない料理だったら、お客様は二度と来店しないんだ。
ましてや、品揃えとしておいているどうしもうないふつうのアラカルトメニューを食べたら終わる!

 あなたが、雑誌のために考えた、多くのお客様が来店するメニュー、実は、あなたの寿命を縮めているのである。

 あなたがやらなくてはならないこと。
それは、「あなたの店でなければだめだ」とお客様に思わせること。
多くのお客様に受けて売上を上げることでなく、少ないお客様が頷き、食べた人なら、また思わず来店してしまうメニュー。
あるいは、友達や家族に、その不思議な体験を思わず話さずにはいられないメニューなんだ。

 チャンスは一度しかないなら、あれこれ、選ぶ余地を与えず、「これっきゃない」と言うべきなんだ。
「まず最初にあなたの十八番を演じなさい!」
もう、あなたの前にいるお客様は二度会うこともないんだから!



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Last updated  2011.01.27 09:31:51


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