“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

“飲食店の勉強代行業”大久保一彦の勉強録

2013.01.25
XML
テーマ: フレンチ(280)
前半の続き

20130121 (44).jpg

20130121 (47).jpg

20130121 (38).jpg

20130121 (39).jpg

20130121 (43).jpg

今回のメイン料理は2皿になりました。僕も、これを聞いてびっくりしました。肉料理を2皿って、簡単のようで難しい。ただ単にたくさん出せばお客様が喜ぶということはなく、普通なら2度目は飽きてしまうことが多いのです。

ところがどっこい、さすがわが師匠。完全に、お客様も僕もしてやられました。一つの食材でこれだけ多様に、バランスよく、最後の一口まで計算され美味しく食べれる料理があるのかと、僕は脱帽です。

今回使用された食材は、愛媛の雌のウリボウ。ミチノシェフが信頼しているところから運よく手に入れることができたそうです。1頭で20キロほど。ちょうどアニョードレくらいの大きさかな??

さて、一皿目からの紹介。

手前にトリュフがかかっているのが、もも肉の赤ワイン煮込み。赤ワイン煮込みをガストロノミーに仕上げるのはとても難しい。一歩間違えると、ビストロの赤ワイン煮込みになってしまう。何が違うのかって聞かれると、赤ワインの酸味の切れとコク、そしてそれ本来のうまみにフォンドヴォーやフォンブランを足すことにより、より奥行きのある味になります。
こうしてしっかりと酸のある赤ワイン、フォンドヴォー、フォンブランを入れると必然的に原価が上がる。そして最終的に、よりきれいな味の赤ワイン煮込みに仕上げることが、ガストロノミーの赤ワイン煮込みなのです。そんなクラシックな煮込みを、ミチノシェフは実に丁寧に仕上げてきました。

その煮込みの下には、トリュフの香るユリネのピューレ。これまた、やられました。僕は野菜のピューレに、しっかりと煮詰まったフォンブランなどの旨味があるものが大好きです。ただ、一般的なピューレは素材の味を第一に考えるらしく、僕にしては水っぽい。だから自分以外の野菜のピューレでおいしいと思うことがとても少ないです。ところがどっこい、ミチノシェフのユリネのピューレは、うまみがはっきりしている。あまりにもおいしくて、2回3回味見??しているとミチノシェフが

「敬三、その気持ちわかる。味見しだすとうまくて止まらんなるやろ」

その通りです。



このテリーヌの説明の前に、僕がフランス料理をやり続けて18年になります。多いような少ないようなキャリアですが、そのうち12年はフランスで仕事しました。僕の大好きなシャルキュトリーの中で「フロマージュ・ド・テット」という豚の頭で作るテリーヌがあります。いろんなところでいつも食べますが、ミチノシェフが作る「フロマージュ・ド・テット」は後にも先にも、僕の中で一番おいしいものでした。ミチノシェフは、昔から奇抜な組み合わせでいろんな驚きがある料理を作られることで有名ですが、確実に言えることが一つあります。

「フランス料理の基礎が超一流だからこそ、奇抜な組み合わせを、本人の論理の元構成されています」

今回のこのテリーヌも同じです。

一見脂が多いように見えますが、ゼラチン質の部分やお肉の部分を絶妙に混ぜ込み、すべて細かくしないで大きいのがあったり小さいのがあったり。少し味見させていただいたとき、なんでもきれいに均等に仕事しがちなこういうテリーヌを、あえて大きさを変えるだけで、これだけ味、食感が変わるのだと勉強しました。

ミチノシェフは、それをバターで焼いたトーストでサンドイッチ。サンドイッチしたまま、温かい状態まで温めて提供するのです。これにも参りました。

そういえば、僕が高校の時、フロマージュ・ド・テットを少し温めて出していたことを思い出しました。その方が、香り、うまみ、脂やゼラチン質のとろとろ感がさらにうまみを呼んでくれます。

左に緑の野菜があるのは、菜の花の温かいサラダ。トリュフのヴィネグレット和え。

僕なら、絶対考えないし使わない食材でもある菜の花。なんとなく、すぐに日本料理っぽくなってしまい、難しいと思っていました。これも、ところがどっこいです。

お客様にはとても好評で、春らしい菜の花が箸休め的な存在で、あえて食感を残すように茹でられたので、その食感が口の中をリセットしてくれるみたいでした。アツアツの菜の花を置か上げして、そのままトリュフのヴィネグレットを和えると、トリュフの香りがさらに良くなり、

「僕もこういう野菜の使い方ができないといけないな」

って思う瞬間でした。



なんと、3種類ウリボウの料理が並びますが、すべてフランス料理の基礎中の基礎。こういうのって、本当に腕に自信がないとできないことなんです。日本料理でいうお吸い物と、焼き魚と、白いご飯といったところでしょうか?みんなそれなりに作れるし、みんなそれなりに味を知っている。だからこそ、本当においしくないとお客様を喜ばせることができない。

そして、この料理も期待を裏切らないものでした。ばら肉は、フォンドヴォーなどと一緒に柔らかく煮こまれ、トリュフ風味のジャガイモのピューレ。僕ならロブションのようなバターたっぷりで作ってしまうところですが、ミチノシェフは作りながら

「敬三の重い料理食べた後のジャガイモやから、ここはオリーブオイルやな」

なんと、真っ向勝負に挑んでいる僕に気を遣う余裕。これまた、すごくおいしい。

まだ、一皿目の紹介ですが、何か僕たち若い料理人にメッセージを残すような料理です。



別に戦っているわけではありませんが、この一皿で僕の料理はきっとお客様の心から消えるほどの素晴らしい一皿でした。完敗です。この後、さらにすごい料理が出ます。

イノシシ料理に合わせたワインは、

1997年、コント・ラフォンのヴォルネイ・サントノー・デュ・ミリューのマグナム

1998年、アルマンルソーのシャンベルタン・クロ・ド・ベーズ

両方のワイン、本人から直接いただきました。個人用のストックでパーセルの一番いい畑のものです。去年まで、ドメーヌで熟成していましたから、状態は最高。


背肉のローストとエスプレッソコーヒーのソース、タンポポコーヒーの泡を添えて。

まず、この猪が素晴らしい。どんな素晴らしい料理人でも納得のいかない食材では美味しい料理が作れません。この猪は、素材そのものがまず素晴らしかった。

そして、ミチノシェフの魔法のような技術により、最高の料理に仕上がりました。

まずキュイッソン。あくまでも基本に忠実といいましょうか、でも仕事が当たり前のように進むので、すごく簡単そうに見えます。まずここがポイントですね。

一生懸命料理する方がいらっしゃいますが、それはまだプロになりきれていない。ミチノシェフくらいになると、すべての難しいと言われる仕事がいとも簡単に行われ、見ている側は「僕にもできそう」って思ってしまうほど、肩に力が全く入っていない身のこなし。

息切らしながら頑張っていますと言わんばかりの仕事を、本当にまるでその仕事を遊んでいるかのように、進んでいきます。これぞ、本物のプロフェッショナルと思いました。

ローストは、アセゾネしてセジールして、オーブンへ。たまに、思い出したかのように、状態を見て、いつの間にか外に出ていて、気付くとおいていた場所が変わったりします。ルポゼというお肉を休ませるとき、場所によって寒すぎたり暑すぎたりすると、最終的なキュイッソンに影響が出ます。そういうことも、僕とたわいもない会話をしながらも、いつもお肉のキュイッソンの状態は頭にあるのですね。すごいです。

骨のついたキャレとセルといわれる鞍下肉の2種類を、時間差でローストです。

ソースはエスプレッソのソース。蜂蜜とシェリービネガーでガストリック。本来胃液という意味ですが、糖分をキャラメリゼしてそこにヴィネガーを入れるクラシックな技法のひとつ。そこに、イノシシのジュ。(すでに仕込んでありましたので、詳しく説明できませんが、少し味を見ると、まるでイノシシを食べてる気持ちになりました)最後にエスプレッソコーヒーで仕上げます。

奥の鞍下肉のローストの上には、タンポポコーヒーの泡。
タンポポコーヒーとは、ノンカフェインで昔からフランスでは有名な飲み物。それを、泡にして香りを演出。

きっと詳しい理由があると思いますので、それはミチノシェフにお任せしましょう。

この料理も、試食させていただきました。感想は「美味しい」どう思いますかって聞かれると、「非常にクオリティーの高いフランス料理を頂くことができました」

ぼくは、フランス料理が大好きで、食べた瞬間にフランスを感じる料理が大好きです。ただ、最近少ない気がします。フランス料理の基本は、酸、塩、油脂、うまみの要素が必要だと思います。ミチノシェフの料理にはそれがありました。

そして、ソースの重要性も教えていただいた気がします。僕も、いろんなお客様、ジャーナリストにもう一度ソースを見直しましょう。ブイヨンを見直しましょうって訴えていますが、ミチノシェフの料理は、本当にそれを物語っていました。

今回のフェアで、ミチノシェフの一つ一つの細かな技術の中に、やっぱりすごいシェフという実感があったのと、やっぱりミチノシェフみたいな文化性が高い料理人がもっともっとフランス料理文化を伝え、伝承していくべきだと思いました。

現代フランス料理や、キュイジーヌ・モリキュレールもいいと思います。でも、日本の江戸前寿司のように、決して華やかでない盛り付けの中に本当の技術や文化が盛り込まれていると思います。そういう継承という仕事をミチノシェフにはまだまだ続けてもらいたいです。

「ミチノシェフ、年に一回毎年しましょうね。今年は惨敗に終わりましたが、来年さらにオタクになり、シェフのキャリアに負けない料理を作ります。短い時間一緒に仕事出来て本当に楽しかったです。また、よろしくお願いします」

20130121 (41).jpg

20130121 (50).jpg

20130121 (51).jpg

Restaurant La FinS
東京都港区新橋4-9-1
電話 03-6721-5484





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2018.02.12 18:00:27


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Freepage List

Profile

四方よし通信

四方よし通信

Calendar

Keyword Search

▼キーワード検索

Favorite Blog

【お台場】そじ坊で… New! TOMITさん

プロのつぶやき1267… 丁寧な暮らしさかもとこーひーさん

寿司ネタ♪ てくてく7281さん

超高効率作物とは! 食の匠のお助けまんさん

食べ歩き紀 ByeByeさん
竹田陽一ランチェス… ★竹田陽一ランチェスター 東京・西村のNo.1経営・裏のブログさん
釣って満腹! ~ボ… 秀龍さん
うまい営業・へたな… なにわの進藤さん
●Hokkaido & Travel … wind0625さん
HACCPコンサルと美味… HACCP加藤さん

Category

大久保一彦のひとこと情報

(1839)

ワイン会、フードなど大久保の教室

(141)

大久保一彦おすすめのおいしい店の情報

(214)

大久保一彦の商人のための情報

(171)

おいしい料理情報

(84)

食を考える

(73)

雑誌などメディア出演

(27)

大久保一彦が見たエンターテイメント

(34)

愛犬日記

(51)

(162)

よっしー

(97)

よっしーパート2

(112)

よっしーパート3

(179)

よっしーパート4(2010年3月17日以降)

(375)

よっち&こーちゃん

(369)

海外視察

(102)

カリフォルニアクイジーヌ

(5)

フランスの店

(30)

ジェームズオオクボセレクション【怪人のいる店】

(9)

世界のベストレストラン&ホテル100

(78)

世界のベストレストラン更新前の記事

(229)

大久保一彦の二つ星と三つ星の間

(279)

大久保一彦的二つ星のレストラン&ホテル

(222)

大久保一彦の二つ星西日本

(233)

大久保一彦の二つ星ワールド

(22)

大久保一彦の一つ星の店、ホテル

(267)

大久保の一つ星(愛知より西)

(241)

大久保一彦の一つ星の店、ホテル(海外編)

(22)

北海道のうまい店

(72)

東北のうまい店

(41)

関東のうまい店

(133)

東京のうまい店

(269)

目白・雑司が谷界隈の店

(27)

甲信越と東海地方のうまい店

(140)

北陸のうまい店

(77)

関西のおすすめ

(159)

四国と山陰、中国地方のうまい店

(75)

九州のうまい店

(101)

沖縄のうまい店

(28)

スイーツ研究所

(231)

Cafe研究所

(84)

カレー・スパイスの研究所

(4)

すし協同研究所

(38)

すし協同研究所・現地勉強会

(121)

会員向け日本料理研究会

(21)

魚アカデミー

(278)

鮨行天

(56)

『ラ・フィネス』『ミチノ・ル・トゥールビヨン』勉強会議事録

(32)

フランス料理店経営研究室

(33)

蕎麦店開業協同研究所

(70)

料理の技法や食の知識

(2)

ジェームズオオクボ的視点で選んだ心に残るあの店のあの料理(名物料理百選)

(19)

各地名産品及び各地名物料理

(176)

大久保一彦の野草のワークショップ

(30)

産地・生産者訪問

(127)

今日の大久保一彦のしごと

(1100)

経営者のための連続コラム

(1657)

飲食店は人づくり

(4)

修行について コーチの予備軍の方へ

(8)

これから開業の方向けコラム

(290)

飲食店開業講座

(65)

子供たちのためにコラム

(42)

偉人の言葉、今日の親父からの言葉

(28)

“経営思想家”大久保一彦の次の世代への哲学

(51)

補足◆【いつも予約でいっぱいの「評価の高い飲食店」は何をしているのか】補足◆解説

(11)

残念ながらブログ掲載後閉店してしまったお店

(158)

ジェームズオオクボのホテル&お宿見聞録

(276)

長山一夫器美術館(解説付き)

(107)

会員・塾生訪問

(122)

何でも食材ランキング(ブログ掘り下げ編)

(2)

ジェームズ昆虫記&ジェームズ植物記

(471)

中国料理研究

(61)

BAR研究

(1)

外食調査録

(78)

業態研究

(80)

ジェームズオオクボ書店

(12)

惣菜・弁当・食品売場研究

(362)

寿司盛り合せ研究

(66)

商品研究・料理研究

(820)

素材・材料開発研究

(38)

焼肉店訪問

(8)

ラーメン研究

(2)

スパイスカレー店・インド料理店・ネパール料理店研究

(29)

別冊四方よし通信

(7)

© Rakuten Group, Inc.

Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: