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Jan 3, 2012
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カテゴリ: 日本の政治
 インフレがない社会。物価が上がらない社会。いいに決まっている……?
 日本の官僚は優秀だから、昭和60年ごろから物価が上がらない社会を維持してきた。

 インフレがない社会でいちばんトクをするのは、官舎や社宅が充実していて、住宅ローンを組まずに過ごせて、退職金が多い職種である。
 え、それって、公務員や銀行員じゃないか。

 財務省や日本銀行で勤務する人々が、自分たちのご都合でインフレ退治をしすぎておかしくなったのが日本の財政ではないかと、まぁ、これがわたしの偏見なのである。

 住宅ローンをかかえる一般の勤労者は、じつは多少のインフレがあったほうがいい。
 給料の表面金額が増えるため、借金が相対的に目減りしてくれるからだ。

■ 物価も収入も1.8倍になったら ■

 たとえば年3%のインフレが20年間続いたなら、どういうことになるか。
 物価は、1.03の30乗で1.8倍になる。
 単純計算すれば、葉書は90円、手紙を出すのに145円切手が必要な社会になっている。為替レートも1ドル145円あたりのはずだ。

 給料の上がり方は物価上昇に少なくとも1年遅れるから、インフレは常に評判が悪い。
 しかし見方を変えれば、35歳で住宅ローンを組んだひとが55歳になってみると、返済原資となる給料の表面金額がほぼ1.8倍になっているわけだ。

 55歳で年収700万円のひとが、収入の2割の140万円をローン返済に充てているとしよう。年収の表面金額が1.8倍の1,260万円になったとしたら、ローン返済に充てられる額も250万円になる。
 ローンの元本の金額は変わらないから、ローンの返済はしやすくなっている。

■ インフレなら税収の表面金額も自然増 ■

 じつは国家の借金である国債も同じことが言える。

 インフレが続いていれば、税収の表面金額も自然と上増しされる。
 まるで税率を上げたかのように。
 税収金額が増えれば国債の返済もラクだ。国債残高が相対的に目減りしてくれるから。適度にインフレが続く社会なら、いまの日本のように公的債務をGDPのほぼ2倍の900兆円弱にまで膨らますことはなかったろう。

 日本の財政を健全化させるためには、いまや増税だけではとても間に合わない。増税分は、社会保障に関係するカネ回りのために使い切ってしまうだろう。

 消費税や所得税の増税分というフロー (カネの流れ) を国債返済という “砂地” に撒いてしまっては、経済のフローが減って景気が悪くなる。

■ 将来の資産を先食い ■

 国家財政が破綻寸前なのは、20年あまりインフレを極端に排除してきたことが原因なのだから、これからインフレ社会へと舵を切るしかない。

 高齢化社会になればなるほど、インフレ社会へ舵を切るのは政治的に難しくなる。
 ほんとはせめて10年前に調整インフレを発動しておくべきだったのだが、それをどんどん後回しにして 「いまの逸楽」 をむさぼり続けてきたのが日本社会である。

≪民主主義の問題点は、今の生活を良くしようとして負担をきらい、将来の資産を先食いすることにある。≫

≪民主主義、資本主義にかわる新たな理念は、今のところ見つからない。
だとすると、民主主義、資本主義のあり方を改良しながら使っていくしかない。
新年を、資本主義を進化させる年にしたい。≫

≪遅まきながら世代格差を是正しようという考え方が共有されるようになった。≫

(日本経済新聞元旦社説)

 その具体的方法は、いま調整インフレを発動することしかないとわたしは考える。
 しかし、調整インフレについて言及している元旦社説はなかった。

 「デフレのいま、調整インフレを語ってどうする」
ということだろうか。消費税引上げだけで足れりとする日本のメディアの感覚は、危機感がなさすぎる。

■ 国債は日本人が買っているから大丈夫? ■

≪これまで、日本には1,500兆円近くの個人金融資産があり、日本の国債は9割以上が国内の機関投資家や個人投資家に保有されているため、国債の消化を海外に頼る欧米諸国と比べて危険度が比較的小さい、とされてきた。≫

≪しかし、個人金融資産は、住宅ローンなどの債務を差し引いた実体では1,100兆円になる。公的債務との差は200兆円程度だ。
今後、国債発行がこれまでのペースで増える一方、高齢化による貯蓄の取り崩しによって金融資産が目減りすれば、国民の資産だけでは国債を吸収できなくなる。≫

(読売新聞元旦社説)


 昔からある議論に、
「日本の国債は日本人が買っているから、右手が左手から借金するようなもので、いくら国債残高が増えても問題ない」
というのがある。

 いまのような地球規模社会 (グローバル社会) で、
「日本人に買ってもらってれば安心だ」
などとカネの貸し手の国籍を論ずること自体が無意味だと思っているのだが、いずれにせよこの昔からある議論がもはや成り立たなくなりつつある。

■ 消費税は何の財源として使うか ■

≪財政状況が深刻化し、大震災に見舞われながらも、円に対する国際的信認はなお厚い。
日本には欧州並みに消費税率を15~25%に引き上げる 「余地」 があると思われているからだろう。≫

(読売新聞元旦社説)


 一般にそう言われているが、わたしは繰り返し念を押したい。
 消費税の増税によって、積もり積もった国債を解消するという考え方は、間違っている。
 消費というフローから消費税分を切り取って国債返済という砂地に撒いて吸収させてしまうと、フローがガタ減りになって景気が落ち込むだけである。
 消費税は、あくまで社会保障などの目的でカネのフローを生むための原資として使わなければならない。
 消費というフローを社会福祉などのカネのフローに転換し、それがそのまま新たな消費につながるように、カネの循環を促しつづける限り、景気の落ち込みは少ない。

■ 「何十年も先の世代が返済する」? ■

≪財政支出や金融拡大に頼った 「成長の粉飾」 はもうしない。
いま増やした国の借金は何十年も先の世代が返済するが、彼らはまだ生まれてもいない。
決定権のないまま負担だけを背負わされる。民主主義の欠陥である。
この愚をこれ以上繰り返してはならない。≫

≪増税や政府支出のカットはつらい。成長率の押し下げ要因になるが、将来世代のことを考え甘受しなくてはいけない。≫

(朝日新聞元旦社説)


 文章がやや支離滅裂なのは朝日新聞の特徴として甘受しなくてはいけない。
 社説は題して 「すべて将来世代のために」 と言い切っているが、その割には
≪いま増やした国の借金は何十年も先の世代が返済するが、彼らはまだ生まれてもいない≫
と、なんとも悠長な時間感覚である。

 いま増やした国の借金は、いまの今から調整インフレによって目減りさせるしかない。
 その痛みを現世代が分かち合うことで、将来世代へ住みやすい国を引き継ぐのである。
 すべて将来世代のために。



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最終更新日  Jan 3, 2012 06:51:29 PM
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