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January 8, 2012
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December 9, 2011
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【送料無料】美少女地獄価格:714円(税込、送料別) このレビューはお遊びで書いていますので、あまりまじめに読まないでください(笑) ⇒ 記事はこちら
November 12, 2011
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September 30, 2011
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September 27, 2011
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August 24, 2011
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【送料無料】「甘蜜」下町三人娘価格:750円(税込、送料別) 遊び心で書いた、官能小説レビューの第2弾です。いかに官能小説を上品にレビューするかという芸をご覧ください(笑)⇒本文はこちら
August 18, 2011
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【送料無料】豆腐小僧双六道中ふりだし文庫版価格:940円(税込、送料別) 豆腐小僧の、なんとも脱力系のアイデンティティ探しの旅を通じて語られる、京極夏彦の妖怪論 ⇒ レビューは「本の宇宙」に掲載○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
July 1, 2011
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表紙イラストがかわいすぎる「狼王ロボ」(笑) 記事は、「本の宇宙」に掲載【送料無料】狼王ロボ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
May 19, 2011
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【送料無料】戯史三國志我が糸は誰を操る価格:1,785円(税込、送料別) 曹操を裏切らざるを得なかった軍師 陳宮の苦悩を描いた作品。 ⇒記事は、「本の宇宙」に掲載○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
May 15, 2011
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ジャック・ロンドンによる動物文学の最高峰、「野生の呼び声」 ⇒ 記事は、「本の宇宙」に掲載○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
April 29, 2011
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【送料無料】くノ一の城 表紙イラストの感じがとても良いので、つい買ってしまった。分類は、時代官能小説。つまりは、いわゆるエロ小説ということだ。しかし、官能小説からも、色々と学べることがある(笑)。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○ランキングの順位は? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
April 3, 2011
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【送料無料】赤×ピンク 主人公の3人の女たちは、それそれが、心に大きな隙間を抱えている。その隙間に、すっぽりと入っているのが彼女たちの場合は格闘技と言う訳だ。しかし、どの女たちもとても優しい。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○ランキングの順位は? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
March 17, 2011
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【送料無料】@HOME 「@HOME 我が家の姉は暴君です」(藤原祐:アスキー・メディアワークス)は、シリーズ第1巻に当たり、響が倉須家の養子になったいきさつと、姉となった倉須家の次女・リリィとの絡みが話の中心となっている。 レビューは、「本の宇宙」に掲載。○ランキングの順位は? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)
February 1, 2011
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発表から既に100年以上経っているのに、そう古臭い感じもない。これだけの年月読み継がれているのには、やはりそれなりの理由がある。時には年月と言う荒波をくぐりぬけて来た作品を読んでみるのも良いものだ。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
January 29, 2011
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3人の報われなかった脇役たちを描いた短編集「幽霊記 小説「遠野物語」」(長尾宇迦:新人物往来社)。この本は、「遠野物語」の発刊100周年を記念して出されたようだ。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
January 6, 2011
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二部構成になっており、表題作の第1部は、中学に入ってまもなく登校拒否となった、主人公の加納まいという少女が、祖母の住む田舎で過ごした1か月余りの大切な思い出を描いた物語であり、第2部の「渡りの一日」はその後日談である。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
December 27, 2010
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家族の絆とは何かを考えさせる「ゴーストばあちゃん」(チェ・ミンギョン/梅澤美貴:現文メディア)。家族であるためには、血のつながりよりも、いっしょに心を通わせ合った時間を共有しているということの方が大切なのだろう。そんなことを思わせてくれる作品だった。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
December 9, 2010
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【中古本】 ジェーン・エア (角川文庫クラシックス) 今ならきっと自粛するような言葉もかなり使われているし、言い回しも時代がかっている感じだ。しかし、運命に負けず、最後には自分の愛を貫いたジェーンの心の強さ、聡明さには、読者はきっとひきつけられることだろう。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○DVD ○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
December 7, 2010
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有川浩による、ちょっと変わっているがピュアな恋愛物語「植物図鑑」(角川書店)。 主人公であるOLのさやかは、飲み会帰りに、行き倒れているイツキという名のイケメンを拾ってしまう。さやかの部屋に住みつくことになった彼だが、野草のことにとても詳しく、おまけに野草料理が得意。休日ごとに、彼に付き合って、食べられる野草を集めにいくさやかは、どんどん彼に惹かれていく。さやかが、野草採集をもっと楽しむために、こっそりと植物図鑑を買ったりしているのは、とても微笑ましい。その一方、彼女の心の奥には、いつか彼がいなくなってしまうのではないかという不安が潜んでいる。 二人は、一年近く一緒に暮らし、色々な野草を料理して食べるのだが、身の回りに、これだけ食べられる草があるというのはとても興味深い。出てくる草のカラー写真はついているし、野草料理のレシピもついているしで、いたれりつくせりである。小説を楽しむだけでなく、万が一のときのサバイバルのテキストとしても使えそうである(笑)。大体は、有川さんが作って食べてみたことがあるということなので、味の方もまあ大丈夫だろう(たぶん)。 ところで、この作品で一番重要な役割を果たす植物は、なんと「ヘクソカズラ」。花はとても可憐なのだが、とても臭いにおいを持っているので「屁糞」というすごい名前をつけられている。これが二人の思い出の植物であり、つまり、イツキは、「ヘクソカズラの君」なのである(笑)。 彼氏を拾ったり、その彼が料理の名手だが、何か秘密のようなものを抱えており、やがていなくなってしまうと言うようなところは、北森鴻のメイン・ディッシュを連想してしまった。しかし、「メイン・ディッシュ」の彼は名探偵という設定で話もミステリー仕立てになっているが、この「植物図鑑」のイツキ君の方は、野草専門の好青年で、話の内容も完全なラブ・ストーリーであるというのが大きく異なっている。おっと、もう一つ、彼氏が猫系と犬系という違いもあった。 二人の出会いのきっかけは、かなり変なものだったが、読み進めるにつれて、読者は、どんどんと二人の恋を応援したくなってくるだろう。そんな気持ちにさせてくれる作品である。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
November 13, 2010
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「時をかける少女」、「魔法少女」、「文学少女」のように、「少女」と言う言葉が付くタイトルを見ると、どこか心ときめくような思いのする殿方は多いのではないか。もっとも、「地獄少女」とか「壊れた少女」となると、少し微妙かもしれないが。こういった場合の少女とは、たいてい「美少女」を指しており、美少女が、一生懸命何かをやっている姿というのは、おじさんたちには(いやおにいさんたちにも)非常に好ましく映るのであろう。 もちろん、こんな物語がつくれるのも、少女が活躍できるという社会が前提になっているからであり、「○○少女」というタイトルは、現代社会特有のものかと思っていた。ところが、封建社会である江戸時代にもそんな本があったことを知って少し驚いた。「算法少女」である。ここで紹介する「算法少女」(遠藤寛子:筑摩書房)は、その江戸時代に著された同名の本をモチーフに、作者が豊かな想像力を使って、和算好きな少女のお話として織り上げたものだ。 主人公のあきは、町医者である父の千葉桃三から上方流の算法を習っている、利発な少女である。ある日、神社の算額の間違いを指摘して、それが、久留米藩主の耳に届き、姫の算法指南役にという話がもちあがるのだが、江戸の算法の権威で関流の宗統である藤田貞資から横槍が入る。 江戸時代は、多くの分野で家元制度があった。実力の差がよく分からない、最後は見解の相違で終わらせることが可能な芸事と違って、実力がはっきりと分かる将棋などにも、家元制度があったというのは、今の感覚からは不思議なことである。ましてや数学の世界など、家元制度とは一番遠いと思うのだが、この作品の舞台である安永年間では、関流から分かれた諸流派を中心にして、勢力争いをしていたようだ。作品中にも、円周率の計算方法などが、まるで流派の秘伝のような扱いで描かれており、苦笑してしまう。 政治学者の故丸山 眞男氏によれば、日本はタコつぼ文化だそうだ。この時代は、算法もまた各流派が自分のタコつぼに閉じこもっていたのだろう。それは、上方流算法を学んだあきの父親も例外ではなかった。父親の算法に関する考え方に納得がいかなかったあきだが、関流を学びながら和洋の算法を広い視野でく研究している本多利明と出会うことにより、自分の本当の生き方を見出す。この作品は、江戸時代の「算法少女」成立までの話だけではなく、あきの成長の物語でもあるのだ。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。) 楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう
October 31, 2010
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韓国人気童話シリーズの第15弾、「太ってたってぼくはぼく」(イ・ミエ/チェ・チョルミン/吉田昌喜:現文メディア)。 この物語の主人公であるドンピンは、かなり太めの男の子。ドンピンの一家派4人家族なのだが、全員重量級で外を歩いていると、「カバの部隊」と噂されることもあるようだ。彼が困っているのは、母親が、自分に合うサイズがなくて服を買いそびれると、思い出したようにダイエットを始め、家族も巻き込まれることだ。しかし、どうせ長続きはしないので、ドンピンは、いつも面倒くさく思っている。 彼がいちばん仲の良い友達はスホ。ドンピンと真反対で、ちびっ子だが、正義感が強く、なにかといじめられるドンピンをかばってくれる。ドンピンがいやなやつと思っていたのが、やせっぽちで背の高いソンヒョンという男の子。女の子には人気があるのだが、その分男の子からは無視されている。どこにでも割り込んでくるのが、偉そうな感じで、憎たらしいのだ。しかし、ある日、ドンピンは、家から離れた銭湯でソンヒョンと出会って、自分が誤解をしており、誰だってどこかに悩みを持っていることを知る。 金子みすずの「わたしと小鳥とすずと」という詩に、「みんなちがって、みんないい。 」という有名な一節があるが、人は誰だって、人と違う強み弱み、得意なこと、悩んでいることなどを持っているものである。みんなと同じでなければいけないというのは、集団主義者の幻想にすぎない。人は、みんなちがっているからこそ面白いのだ。ドンピンは、そのことに気づき、自分の意思でダイエットを成功させ自信をつける。 「太ってたって、ぼくはぼくだ。太ってたってぼくはぼくだ。それからぼくはもうデブから卒業するぞ。」(p155) ドンピンの自信に満ちた叫びは、なんともすがすがしい。 ところで、この作品中には、いくつか現代韓国の面白い風習などがでてきて興味深い。まず、韓国にはポッキーデーという日本のバレンタインデーのような日があるようだ。女の子が、気になる男の子にポッキーを渡す。なぜポッキーなのかは不明だが、義理チョコならぬ、義理ポッキーもあるようだ(笑)。 もうひとつ、韓国には、「肥満児手帳」なるものがあるようだ。やせなさいと保健の先生が、ドンピンにくれたのだが、何とも、ストレートなネーミングだ。ドンピンでなくても、もらうのはいやだろうなと思う(笑)。 なお、この書籍は、「現文メディア」様より献本いただいたものです。お礼申し上げます。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。)
August 31, 2010
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鉄道旅行記かと勘違いして買った「鉄バカ日記」(安彦薫:アスキー・メディアワークス)。実際には、鉄道をモチーフにしたコメディ小説だった。○「鉄バカ日記」(安彦薫:アスキー・メディアワークス) 主人公の鉄郎は24歳の美容師。不仲だった父親の遺産として、大宮のマンションの一室がころがりこんできたのだが、喜びもつかの間。そのマンションには、見知らぬ鉄オタのおっさんが居座っていたのだ。照彦というそのおっさんも、鉄郎と同じように弁護士からマンションが遺されたとの手紙を受け取っていた。鉄郎は、事態の真相を明らかにしようと、遺言状をあずかっているかもしれない、北海道の新十津川に住んでいるという父の友人を訪ねる。ところが、北海道は猛吹雪で飛行機は軒並み欠航。明日は仕事なので東京まで帰らなければならない。鉄郎と照彦の凸凹コンビに、途中で知り合った謎の美女も加わり、東京を目指した珍道中が始まる。 この作品は、タイトルの示す通り、本質は鉄オタ小説である。鉄オタの照彦が、鉄道の知識を駆使して、いかに明日までに東京に辿りつくことができるのかというのが一つの読みどころだ。 そして、もう一つこの小説に織り込まれているのは、兄弟や母子の絆である。実は、鉄郎と照彦の二人は母親違いの兄弟だったのだが、旅の中で次第に兄弟の絆を感じていくようになる。そして、謎の美女は、一人息子を残して夫と離婚を考えていたのだが、照彦の粋な計らいにより、もう一度夫と話し合うことを決意する。 最初は、ただのナンセンス小説かと思っていたら、だんだんと、いい話に変わっていく。最後のオチもなかなか面白かった。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
August 12, 2010
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ドラッカーの『マネジメント』を高校野球部に応用したらという意外性が受けたためか、90万部を超える(2010.7現在)大ヒットを更新中の「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(岩崎夏海:ダイヤモンド社 )。○「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(岩崎夏海:ダイヤモンド社 ) 主人公の川島みなみは、都立高校に通う女子高生だ。ある事情で、野球部のマネージャーをやることになったが、マネージャーの意味すら分からない。マネージャーとは何かを勉強するために買ったのが、なんと、経営書として有名なドラッカーの「マネジメント」。もちろん、ドラッカーと言えば、経営学の神様のような存在であり、普通のビジネスマンなら知らない人は少ないだろう。しかし、普通の女子高生であるみなみは、「マネジメント」が経営学の本だということは知らない。ただ、マネージャーという言葉だけで、ほとんど勘違いで選んだようなものだ。 しかし、マネジメントとは組織を扱うもの。みなみは、「マネジメント」を読んでいくうちに、それが、野球部の活動にも応用できることに気がつく。ほとんど部活としての態を擁していなかった野球部だが、「マネジメント」の考え方で、みなみは次々に改革を行い、甲子園の道を走っていく。 ドラッカーの「マネジメント」をモチーフにしていても、この作品は、やはりビジネス書というよりは小説だろう。 実は、私は高校野球には全く興味がない。特にあの丸刈りや精神主義が生理的に受け付けられないのだ。送りバントなどのパターン化された攻撃なども旧態依然としたものを感じる。しかし、そんな世界に、ドラッカーの精神を持ちこみ、イノベーションを引き起こしていくと言うのは、なかなか痛快ではある。おそらく、本当に野球部にドラッカーを応用してみてもこれほどうまくはいかないだろうが、ifの世界を楽しむものとしてはよくできているのではないだろうか。 イラストのゆきうさぎ氏の「萌え絵」が作品にとてもよく合っているが、数が少ないのがちょっと残念だ。おそらくこのイラストがだいぶ売れ行きに影響しているのではないかと思う。しかし、気になるのは、いったいどんな読者層がこの本を買っているのかというところだ。さすがに、ある程度年齢以上のビジネスマンの守備範囲からは外れているだろうし、若者がドラッカーといっても、多くの者は、「それ誰?」という感じだろう。やはり、萌え絵つきの小説として、多くの者は、ライトノベル感覚で読んでいるのだろうか? ところで、ドラッカー、高校野球だけでなく、不祥事続きの相撲界にも適用してみたら面白いのではないかと思う。タイトルは、「もし相撲部屋の女将さんがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」だ。誰かに書いて欲しいものである。「どすこい!」○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
July 21, 2010
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「韓国人気童話シリーズ」の第14巻に当たる、「ぼくらのスーパー大戦争」(ユンスチョン/イヒョンミ /吉田昌喜:現文メディア)。家族の絆というものを描いた作品である。○ぼくらのスーパー大戦争(ユンスチョン/イヒョンミ /吉田昌喜:現文メディア) この作品の主人公ドンホは、小学生の男の子。家は「夜明けを売る店」というスーパーをやっている。もっともスーパーと言っても、イラストや文脈から判断すると、個人商店のようなもののようで、日本のスーパーとはちょっとイメージが異なるようだ。「夜明けを売る店」というのは、夜明けに一番早く店を開けることから名づけたらしい。ドンホは、店の手伝いが大好きで、朝早くから起きて手伝っている。ドンホには、兄と姉がいるが、兄は勉強が大変よくできるが朝寝坊である。姉は足が不自由なため、ずっと家にいるが絵が得意だ。 この家はとにかく温かい。父親は誠実な人柄で、足首を痛めていても注文が入ると、足を引きずりながら、配達に出かける。店の手伝いには見向きもしなかった兄も、そんな父の姿を見て、自ら手伝うことはないかと店に出てくるようになった。ドンホにしても、川辺で砂のお城を作ってみたいという姉のために、川でバッグ一杯の砂を集めてきたりする。 そんなドンホの一番の悩みは同級生のアラのこと。本人同士は仲が良いのだが、アラの家は、ドンホの店の隣で「21世紀スーパー」という店をやており、いわばライバル同士なのである。どちらかと言えば、アラの両親の方が、競争意識を持っているようなのだが、アラを好きなドンホにとっては、何とも悩ましいことである。 ところが、そんな2軒のスーパーの近所に、大型スーパーができることになる。このままでは、2軒とも、壊滅的な打撃を受けることになるため、ドンホのお父さんはある英断をする。ラストは、正に災い転じて福となすような終わり方だ。日本では希薄になっているかのような家族の絆や、ドンホとアラの未来への希望と言ったようなものを感じさせてくれる作品である。 なお、本書は、現文メディアさまより献本いただいたものです。ありがとうございました。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
June 26, 2010
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「韓国人気童話シリーズ」の第13巻に当たる、「成績があがる魔法のチョコ」(チョン・ソンラン/イ・テホ/高橋宣壽:現文メディア)。どこにでもいそうな、勉強の苦手な男子小学生のお話だ。○成績があがる魔法のチョコ(チョン・ソンラン/イ・テホ/高橋宣壽:現文メディア) 主人公のヒョンジェは、あまり成績が良くないようだ。英語の塾のクラスでもう4カ月もCクラスに滞留している。母親は、いつも友達のヨンギュと比べて小言を言う。おかげで、ヒョンジェはストレスでいっぱい。ところが、夏休みに母親の田舎で、不思議な体験をする。 川遊びをしたときにトイレに行きたくなったヒョンジェだが、用を済ませて出て来た彼の前に、入った時と全く違う風景が広がっていたのだ。 そこにあるのは、ヘンな店ばかり。表題の「成績があがる魔法のチョコ」もそんな店の一つで売られているのだが、これには、オチがあって、実際のところは、そんな都合のよいものなんてあるわけはないのである。また、ジュースをおかわりしてしまうと、ウェーターにされてしまうような店もあり、ヒョンジェは、結局その店で働くことになってしまう。そしてて、インラインスケート・ウェーターとして評判になったり、インラインスケートの大会に出たりするのである。 もっとも、こんな変な店があるわけはなく、どうもヒョンジェの夢だったようだが、この物語を読むと、色々と興味深いことに気づく。 この物語で、一番言いたかったことは、人の才能はそれぞれと言うことだろう。ヒョンジェには、勉強の才能は無いかもしれないが、運動神経は良く、インラインスケートの才能はすばらしいようだ。金子みすずの「私と小鳥と鈴と」という詩に、「みんなちがって、みんないい。」という一節があるが、持っている才能は人によって違うのだ。このシリーズの他の作品でも感じるのだが、韓国では、日本以上に勉強の競争が激しいようだ。そして、これは我が国でも多いと思うのだが、塾に入れておけば安心とばかりに、たとえ勉強がその子に向いていなくとも、小さいころからお勉強に勤しませる。そんな風潮を、やんわりと批判しているのだろうか。 なお、本書は、現文メディアさまより献本いただいたものです。ありがとうございました。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
June 1, 2010
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アーネスト・ヘミングウェーと言えば、名前を知らない人はあまりいないと思うが、アメリカのロストジェネレーションの文学を代表する作家であり、ノーベル文学賞(1954年)の受賞作家でもある。彼の生前、最後に発表され、その高い評価により、ノーベル賞の受賞にも繋がったと言われるのが、有名な「老人と海」( アーネスト・ヘミングウェー/福田恒存:新潮社)である。○「老人と海」( アーネスト・ヘミングウェー/福田恒存:新潮社) あらすじの方もよく知られていると思うが、主人公の老漁師サンチャゴと巨大カジキとの壮絶な戦いを描いた物語である。サンチャゴは、84日間も獲物が一匹も釣れない日が続いていたが、ついに彼の船よりも大きな巨大なカジキが針にかかる。4日間も死闘を繰り広げた末に、やっと獲物を手に入れたのだが、帰り道にサメに襲われて、カジキは骨だけになってしまう。 作者はこの物語で、何を言いたかったのだろうか。死闘の末に、素晴らしい獲物を得たとしても、それは一時の喜びに過ぎず、何も変わらない。結局は、カジキとの死闘は、何の価値もなかったというニヒリズムなのであろうか。 彼は、「ライオンの夢」を見る。それは、彼が若いころに、アフリカで見たという風景だ。この「ライオンの夢」の話が、物語を通じて、何回も出てくる。ライオンは、明らかに力の象徴である。それは、老いた自分を振り返って、若いころへの郷愁だろうか。 彼は、昔はライオンだった。作中に出てくる、若いころ腕相撲で大男を負かした話などはそれを彷彿させるエピソードだ。彼は再びライオンにもどりたかったのかもしれない。そして、カジキと戦っている時は、確かに彼はライオンに戻っていた。だから、戦いの最中は、夢にライオンは現れなかったのだ。 この作品は、最後にサンチャゴが「ライオンの夢」を見ているところで終っている。しかし、この時の夢は、もはや過ぎ去った過去への郷愁ではないだろう。カジキとの戦いで、彼は再びライオンだった。そんな満足感があるような気がしてならない。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。)
May 21, 2010
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現文メディアさまより献本いただきました「ジャージャー麺がのびちゃうよ」(イヒョン/ユンジョンジュ:現文メディア)。まずは、お礼申し上げます。 この「ジャージャー麺がのびちゃうよ」は、「韓国人気童話シリーズ」の第12巻に当たるが、このシリーズには珍しく短編集となっている。○ジャージャー麺がのびちゃうよ(イヒョン/ユンジョンジュ:現文メディア) 収録されているのは、5編の短編。各短編の間には、特に繋がりはなく、それぞれ独立した作品として読むことができ、内容も、恋愛ものからSFものまで幅広い。以下簡単に、各話の概要と感想を述べてみよう。○二人の動く城 主人公は、ハン・ヒョンギョンという小学校六年の女の子。小学校一年生の時に席が隣同士だったサンウは、二年生のときに、ソウルに転向して行ったが、五年生になって、再びヒョンギョンの通う小学校に戻ってきた。それも、見違えるほど、イケメンの男の子になって。ある日、サンウからヒョンギョンに、「好きだ、つき合おう」というメールが届く。 昔、「小さな恋のメロディ」という映画があったが、ちょっとあれを連想させるような小さな恋の始まりの物語だ。二人は、小学六年生なので、つき合うといっても、たわいもなく微笑ましいものだ。サンウがいやらしい写真を見ていたとして、クラスの女の子たちから変態扱いされる事件があったが、これは彼に少し気の毒だった。この年頃の男の子は、普通にそんなものに、興味を持つものである。ところで、二人は、小学生のくせに、もう普通に携帯を持っている。さすが、携帯の世界シェアがトップクラスであるサムスン電子のある国だと、変なところで感心してしまった。○三日間 ユンソ、ヨンソン、ヒジュは、小学校六年の仲良し三人組だった。ユンソの家は裕福だったが、後の二人はそうではなく、特に、ヒジュは両親が離婚し、今は祖母と叔父家族と暮らしているという境遇である。ユンソの両親のケンカか、ユンソの家出騒動に繋がり、原因はヒジュがそそのかしたためとされてしまう。 周りの大人たちの、ヒジュに対する偏見が痛々しい。特に彼女たちの教師は酷い。ユンソが家出をしたときには、ヒジュを正座させたうえに、棒で殴って、ユンソの家場所を白状させようとしたのである。犯罪者でも拷問は禁止されている筈だ。自分の生徒にこんな真似をする教師は許し難い。我が国なら、即逮捕ものだろう。○ジャージャー麺がのびちゃうよ ヨンテは、13歳なのに、16歳と偽って、中華料理屋でバイトを始める。仕事を習うことになった先輩ギサムは、黄色い髪に、田舎くさいTシャツ、あちこち破れたジーパンと、ヨンテの意表を突くような人物だった。 このギサムがなかなかユニークな人物で、彼の語る「出前哲学」が何とも言えず面白い。彼曰く、勉強のできる人が選択できる職業は、医者、法律家、博士の3つしかないそうだ。「勉強ができなければ選択できる職業はすごく多い」という彼の言葉はなかなか深い(かもしれない(笑))。○春なのに白熊は寒い 主人公は、チャン・ドンミンという小学五年生の男の子。母親が大叔母の食堂を手伝うために別居しているので、父親と二人暮らしである。前はバスの運転手をしていたが、飲酒運転で免許を取り消され、今は引っ越しセンターで仕事をしている。なれない仕事で、体中はシップだらけ、おまけにろくに休みも取れないようだ。ある夜、目を覚ましたドンミンは、父親が、まるで白熊のような姿で、泣きながら焼酎を飲んでいるところを目撃する。 男は、辛い時、黙って酒を飲み、一人泣くしかないのだろうか。正に、「男は辛いよ」である。もっとも私など、酒が飲めないので、この方法は取れないのだが。○地球は大丈夫? 少年ミンギュは宇宙船に乗って旅していた。最初の宇宙都市建設団として、第二の地球エデンを目指している。ところが、船内の様子がどうもおかしい。毎日が、同じ日の繰り返しのようなのだ。実は、宇宙船の搭乗者は、毎日記憶をリセットされていたのである。 他の話とは、だいぶ趣の違うSF仕立ての話である。乗組員たちは、毎日機械にその日の記憶を奪われるのだが、インドのヨガの行者が精神力でそれに耐えることができたというのが面白い。 全体を通して感じられたのは、韓国では、日本以上に、親が子供の試験の結果を気にかけており、塾通いなどに熱心な社会だということ。また、まだまだ、格差も大きいようだ。童話と銘打ってはあるが、韓国社会の様子がうかがえ、なかなか興味深い。しかし、「三日間」や「春なのに白熊は寒い」は、大人が読むのならともかく、子供に読ますには、少し重いのではないかと思う。表題の「ジャージャー麺がのびちゃうよ」は、なかなか愉快で楽しかったのだが。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
May 4, 2010
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「お父さんみたいになりたいな ― 韓国人気童話シリーズ11 ―」(イ・ブン/イ・ウンギ/榊原咲月: 現文メディア)を現文メディアさんより献本いただきました。まずはお礼申し上げます。○「お父さんみたいになりたいな」(イ・ブン/イ・ウンギ/榊原咲月: 現文メディア) この物語の主人公は、プルムという小学4年生の女の子。同級生にハンナという女の子とミョンスという男の子がいる。この3人の父親たちも、その昔同級生であり、「大月三銃士」と名乗る位に仲が良かった。ところが、ハンナの父は会社社長、ミョンスの父は銀行員とそれぞれに裕福である。しかし、プルムの父は、靴屋をやっているが、裕福とは程遠い生活だ。プルム自身も、母親から、勉強のできるハンナやミョンスと比較されて、何かと面白くない。おまけに、父が、ハンナの父の事業の保証人になっていたため、せっかく手に入れた家を手放し、ビルの屋上部屋へ引っ越す羽目になってしまった。そんなハンナの心には、もくらたたきのもぐらのように、不平不満が次から次に、ひょこひょこと顔を出してくるのである。 しかし、たまたま、銭湯の4階で塾を開いている「空海先生」と出会い、父親の昔の日記を読みだしてからは、不満だらけの父親に対する感情が次第に変化をしてくる。そして、「大月三銃士」たちが、「反射活動」という人助けをしていることを知り、父親みたいになりたいと思うのである。 この「反射活動」というのは、「日差しを受けた時、同じ方向に反射するのではなく、少し角度を変えて、また違う人に反射する」という意味だということだ。なかなかいい言葉だと思う。みんなが、色々な方面で、こういった活動をしていけば、世の中のすべての場所が光であふれるだろう。 ところで、このプルム、勉強はできないことになっているが、なかなか賢いようだ。なにしろ、自分の内が裕福でないことを嘆くときに、わざわざ自由帳に3つの家庭の比較表をつくっている。なかなか10歳の子供にできることではないだろう。それにしても、「お父さんみたいになりたいな」と言う子供は、日本ではほとんど絶滅危惧種といってもいいだろう。まだまだ、父親が尊敬されている韓国が少し羨ましくなってくる。○ランキング今何位? ○関連過去記事・ぼくの名前はへんてこりん○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら) (本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
February 15, 2010
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「イン・ザ・プール」や「空中ブランコ」などの伊良部先生シリーズで有名な奥田英朗の短編集「マドンナ」(講談社)。先般、公害防止管理者試験を受験した際に、半分あきらめ気分で、試験の間の待ち時間の暇つぶしとして買った1冊。○「マドンナ」(奥田英朗:講談社) 表紙に描かれているイラストと表題から、若い美女が主人公の小説だと思ってしまうかもしれない。しかし、そこは奥田英朗の作品である。収録されているのは、「マドンナ」、「ダンス」、「総務は女房」、「ボス」、「パティオ」の5編だが、いずれも主人公は課長職の40代中年男性サラリーマンなのだ。 課長と言えば中間管理職である。一般には、上からも下からも責められるなかなか辛い立場だ。ノルマに追われ、厳しいビジネス環境の中、部下を指揮して業績を上げる。課長さんの仕事はなかなか大変なのだ。しかし、そんな課長さんたちにも様々な日常がある。ある課長は、部下に、好みのタイプの女性が来れば、密かに恋をし、またある課長は、上司となった有能な女性部長のこれまでとはがらりと変わる仕事のやり方に反発する。大人げない部長からパワハラまがいのことを押しつけられ、最後は大げんかをしてしまう課長もいる。この本は、そんなしみじみとしたペーソスを感じさせる課長たちの日常を、ユーモラスな文体で描いた短編集である。 伊良部先生シリーズのような戦艦級の破壊力はないが、駆逐艦級の面白さはあるなかなか笑える一冊である。○面白かったらポチっと1票! 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
October 15, 2009
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「オリオンよ、愛する人を導け。帰り道を見失わないように。」 オリオンはギリシア神話の海神ポセイドンの子である。オリオン座と言えば、冬の星座の代表であるが、真夏の夜にオリオンが輝けば、それはこの上ない吉兆であると船乗りの間で伝えられているという。 「真夏のオリオン」(飯田健三郎/福井晴敏:小学館)は、アメリカから64年の時を超えて送られてきた「真夏のオリオン」と題名の一枚の楽譜に秘められた、第二次世界大戦中の、生と死をめぐる壮絶なドラマを描いた作品だ。同名の映画をノベライズしたものである。○「真夏のオリオン」(飯田健三郎/福井晴敏:小学館) 第二次世界大戦の最末期、米軍の本土上陸を防ぐために出撃した潜水艦イー77号の艦長倉本孝之と米国駆逐艦パーシバルの艦長パーシバルは知略を尽くした壮絶な戦いを繰り広げていた。 国のために死ねと教えて来た時代、国の上層部は、無意味な戦いに多くの若者たちを繰り出した。ただ死ぬためだけのために。しかし、人間は機械とは違う。それぞれが胸に人としての思いを抱きながら生きているのだ。例えば横山秀夫の描く「出口のない海」」の主人公である回天乗組員並木浩二のように。 しかし、潜水艦イー77号の艦長倉本は、決して死ぬためには戦わなかった。4基の回天を搭載しながらも、遂に出撃をさせようとはしなかったのである。倉本は、最後まであきらめず、生きるため、部下を生かすために戦ったのだ。 外界から孤絶した、海中の鉄の塊の中という、究極の非定常の中では、通常の世界以上に指揮官としての資質や指導力が問われる。あの時代、本当にこんな指揮官がいたのかどうかは知らない。しかし、最後まであきらめないことの大切さや、真の指揮官はどのようにあるべきかを教えてくれる作品であろう。○面白かったらポチっと1票! 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら(本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。)
September 14, 2009
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韓国の女子高生の等身大の日常を描いた「おり姫の日記帳」(チョンアリ/花井道男:現文メディア)、これは面白かった。作者のチョンアリは、小学生のころから童話を書き始め、多くの賞を総なめにしてきたということだ。本作も、韓国で最高の賞金額を誇る「世界青少年文学賞」を受賞している。○「おり姫の日記帳」(チョンアリ/花井道男:現文メディア) 主人公のチンニョはおちこぼれの女子高生だ。チンニョとは「おり姫」という意味だそうだが、実態はそんな優雅なものではない。日本で言えば「スケ番」といったところである。もっともヨーヨーを武器にしたりはしていないし、やっていることもまだまだかわいいものだが。いつもいっしょにいるのが、ミンジョンとヨンジュの二人。ミンジョンはクラスでも成績が良く3人の中の参謀役といったところだ。ただし切れたら怖い。ヨンジュは実行部隊で、成績はチンニョより更に悪い。小学校にころはチンニョにいじめられていたが、今は仲良くスケ番グループを構成している。この作品は、そんなチンニョの日常を、ユーモラスでちょっぴりシニカルな語り口で日記風に綴ったものである。 出てくるエピソードが何とも愉快だ。極め付けをひとつ紹介しよう。チンニョたちが小学生のころ、「ウンコズボン」、「足がついた練炭」といったようなあだ名をつけていじめていた元同級生のチョン・キョンジャが、国民的美少女アイドルのチョン・ソナとして彼女たちの前に現れる。チョン・キョンジャの出演する番組に招かれた、チンニョとヨンジュだが、そこで、散々過去の行いを面白おかしく暴かれたあげく、チンニョはニワトリの鳴き声のモノマネまで披露させられてしまう。放映後、「チョン・ソラ、同窓生、ニワトリの鳴き声」と言う検索語でインターネット検索順位の上位にあがったというくだりには、思わず噴き出してしまった。 しかし、これでチンニョはなかなか義侠心に厚い面もある。バイト先のピザ屋で同僚にセクハラをして開き直っているマネージャーに、ボールペンでカンチョー攻撃を仕掛けて、店を首になったりしている。 その他の出てくる人々もとてもユニークで面白い。ミンジョンの父親は、彼女が問題を起こした時、叱りつける代りに二時間以上も娘の前で「父の青春」というポンチャック(韓国演歌)を歌い続けた。チンニョの父は、リストラされることになって、家族旅行に行った先でなぜかバンジージャンプに挑む。チンニョの兄もだいぶ変わっている。大学で瞑想サークルに入ったり、「オナラ島を探しに行く」といった置手紙を残して、どこかに消えたりといった具合だ。 とにかくハチャメチャなエピソードで溢れているのだが、そんなハチャメチャさの中にもちょっとしたほろ苦さや少女たちのたくましさなどが感じられ、読み進むにつれてどんどんチンニョの世界に引き込まれていく。ちょっと異色だが、感じるところの多い青春文学といったところであろうか。 なお、この本は、現文メディアさんより献本いただいたものです。とても面白い本を献本いただき、ありがとうございました。○面白かったらポチっと1票! ※本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
August 14, 2009
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「ぼくの名前はへんてこりん」(キム・ヒャンイ/キム・ジョンド/吉田昌喜:現文メディア)という、なかなかユニークなタイトルの本を現文メディアさんから献本していただいた。まずはお礼申し上げます。 わが国にも、色々ユニークな名前があるが、主人公の名前が本当に「へんてこりん」という名前なのかとびっくりしたが、違っていた。主人公は、「ナ・ダプケ」という男の子。この「ナ・ダプケ」とは、別に「へんてこりん」という意味ではない。韓国語で「自分らしく」という意味だそうだ。父親が「自分らしく生きてほしい」と思ってつけた名前である。韓国語としてのニュアンスはよく分からないのだが、「自分らしく」とはとてもいい名前だと思う。 ナ・ダプケは4歳の時母親を亡くしている。父親の運転する車が事故を起こし、同乗していた母親が亡くなったのだ。しかし、・ダプケには、まったく暗さは見られない。祖父は少し頑固なようだが、優しい祖母や父親の愛情に囲まれて暮らしている。それでも母親は恋しいようで、給食当番に祖母の代わりに来てくれた伯母が本当の母親だったらいいのにと思ったり、祖母に対して、「うちのお父さんも早くお嫁に行けばいいな」なんて言っている。そんなダプケがなんともいじらしい。 心に残ったのは、ナ・ダプケが悪いことをしたときのこと。彼の祖母は、ダプケに、「自分の教育が悪かったのだから」祖母のふくらはぎを鞭打てと言う。おばあちゃん子のダプケにはそんなことはできない。自分で自分のふくらはぎを鞭打つ祖母に泣いて謝るダプケ。最後は祖母がダプケを抱きしめて泣きながら諭すシーンは感動的だ。○面白かったらポチっと1票! 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
April 11, 2009
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言動はとんでもない迷医だが、実はものすごい名医(かもしれない)ドクター伊良部がまたまた大活躍。先日東京駅の中の書店で見かけて買った「町長選挙」(奥田英朗:文藝春秋)、前作の「空中ブランコ」から2年、ドクター伊良部シリーズ第三弾の待望の文庫化である。○「町長選挙」(奥田英朗:文藝春秋) 収録されているのは以下の4編。・オーナー・アンポンマン・カリスマ稼業・町長選挙 最初の3作品は、これまでの作品の流れを汲み、色々な悩みを抱えた人が、ドクター伊良部に遊ばれているうちにいつのまにか悩みが解決しているというもの。伊良部の犠牲者いや患者となるのは、それぞれ、パニック障害の新聞社会長でプロ野球球団のオーナー、ひらがなを忘れてしまうという若きIT長者そして美容のこととなると我を忘れて変な行動をとってしまうカリスマ女優だ。それぞれ、誰がモデルかすぐ分かってしまうので、クレームは来なかったのかとちょっと気になったが、モデルにされた人たちにとっては、これも有名税ということだろうか。 最後の町長選挙は、これまでの伊良部シリーズとはちょっと趣の違う作品だ。二ヶ月間の任期で離島に派遣された伊良部だが、街は町長選挙で2人の候補者が熾烈な争いをしていた。なにしろ負けた方は、最低でも次の選挙までの4年間冷や飯を食わされてしまうのである。一人でも多く自分の陣営に取り込もうと大変な騒ぎだ。ここでは、伊良部センセイ、老人キラーぶりを発揮し、敬老会の支持を得て町のキーマンになってしまう。両陣営、伊良部を取り込もうと必死だが、伊良部流の解決方法は、なんと棒倒し。 いずれも、抱腹絶倒と言った感じだ。帰りの新幹線の中で読んでいたのだが、他の乗客から変な人と思われないように、笑いをこらえるのに困った。 この作品の面白さは、ドクター伊良部のまるで子供のような度を越した無邪気さぶりと精神科医といういかにも知的な職業とのギャップの大きさにあるのだろう。伊良部を訪ねた患者たちは、最初は呆れたり怒ったりするが、伊良部に遊ばれているうちに、症状が軽減してくる。伊良部は、<・・・神経科はいい加減でいいの。理屈に合わない病気の治療をしているんだから>と言っているが、彼の<いい加減>な治療は、患者たちの肩の力を抜き、心の中の固まったものを解きほぐしてくれる。伊良部の本質を、町長選挙の舞台である離島の敬老会のオババたちがよく言い表している。<あほうはしょうがないのう>・・・<・・・でもみんな伊良部先生のことは好いちょるよ。あほうは可愛い。気が楽でいい。><・・・わしらは構って欲しいんじゃ。伊良部先生は相手になってくれる。>尊敬しなくて済み、子供のように無邪気に患者の相手をしてくれる。ドクター伊良部は、ある意味天才なのかもしれない。でも、私は伊良部センセーに診てもらうのはやっぱりいやだな。すぐ注射するし・・・。○面白かったらポチっと1票!(どちらもお願いします) おかげさまで、日本ブログ村ランキング(右側)の本ブログ全体でベスト10入り、「読書日記」部門では2位にに入りました。また人気ブログランキング(左側)では、本・読書部門で11位とあと一歩でベスト10入りです。(本日7時現在) 引き続き応援のほどよろしくお願いします。○「イン・ザ・プール 」の記事はこちら○「空中ブランコ」の記事はこちら風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
March 23, 2009
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幼い王様の涙 ― 韓国人気童話シリーズ 9 - 童話と言えば、心温まる結末のお話が多いが、この「幼い王様の涙」(イ・ギュヒ/イ・ジョンギュ/榊原咲月:現文メディア)は、だいぶ様子が違う。○「幼い王様の涙」(イ・ギュヒ/イ・ジョンギュ/榊原咲月:現文メディア) この物語の端宗(タンジョン)は李氏朝鮮の第6代王である。わずかに11歳で即位したが、叔父の首陽(スヤン)に次第に権力を握られ、王位を追われて、最後は悲運の死を遂げている。ウィキペディアによると15世紀の中頃の話のようだ。 端的に言えばお家騒動である。我が国の時代劇でも、よく悪家老がお家乗っ取りを企んでいたりするが、大抵は水戸黄門なり桃太郎侍といった正義の味方が阻止してくれる。しかし、これは、史実に基づいたお話だ。端宗には助けはこなかった。端宗に心を寄せるものは、次々に首を刎ねられたり流罪にされてしまう。端宗の姉(首陽の実の姪にあたる)も、夫を流罪にされたあげく、自分も官の下人にされた。 近親憎悪と言う言葉もあるが、実の叔父が、血の繋がった甥や姪に対してどうしてここまで残酷な仕打ちができるのであろう。童話というには、あまりにも残酷で悲しい話だ。しかし、そんな過酷な運命を懸命に生きる端宗の姿は胸を打つ。 なお、この本は、「現文メディア」さんより献本していただいたものである。あらためてお礼申し上げたい。○他の人の読書ブログがたくさんあります。 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
March 15, 2009
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韓国には、「ソッテ」というものがあるようだ。長い竿の先につけられた、鳥を象ったもので、天と人の間の橋渡しをして願いをかなえてくれると信じられている。調べて見ると、似たようなものは、アジア各地に広く見られるらしい。考えてみれば、我が国の神社にも「鳥居」というものがあるし、日本武尊(やまとたけるのみこと)も死後その魂は白鳥になったと言われており、昔の人は、空を飛ぶ鳥は、この世と別世界をつなぐものと考えていたのだろう。 「願いをかなえる贈りもの」(キム・ソンヒ/イ・サングォン/吉田昌喜:現文メディア)の主人公ミンジェは、小学3年生の男の子である。未熟児で病弱な弟のタソムが生まれたため、親が弟にかかりきりでかまってもらえず、学校の成績が悪いのも家族のせいにして、この歳でもう不満だらけの人生だ。○「願いをかなえる贈りもの」(キム・ソンヒ/イ・サングォン/吉田昌喜:現文メディア) ミンジェは、同級生の女の子ヒョナから、願いをかなえてくれるというソッテというものがあることを教えてもらう。ヒョナは、ミンジェの住んでいるアパートの地下で部屋におばあさんと二人暮らしをしている。ある日、二人は、ソッテを探しに、それぞれの願いを胸に、ネックレス山に出かける。ヒョナの願いは父親に関係したことのようだが、ミンジェの願いは、なんと自分がみじめになっている原因となっている弟のタソムがいなくなることだった。しかし、ネックレス山にはソッテはなく、ミンジェは自分の願いに対する後ろめたさから、かえってほっとする。 その日以来、ヒョナの様子がおかしくなった。教室で会っても話もせず、いつも満点だった算数の成績も下がってきたのだ。ミンジェは、自分に対する後ろめたさから、ヒョナに謝ろうと考えるが、実際にヒョナの顔を見ると、かえってひどい言葉を言ってしまう。その時ヒョナの目に突然涙があふれる。男の子が女の子の涙に弱いというのは、どこの国でも同じのようで、ミンジェはヒュナを喜ばせようと願いをかなえるソッテを作りはじめるのだ。 これはこの本の帯に書いてあることだが「自分の願いでなく人の願いをかなえること」の方が心は幸せになるものだ。ミンジェは、ソッテをつくることにより、その幸せを実感し、弟のタソムに対しても優しい気持ちを持つようになれた。彼は、きっとこれからも、人のためにソッテを作り続けていくことだろう。 なお、この本は、「現文メディア」さんより献本していただいたものである。あらためてお礼申し上げたい。○他の人の読書ブログがたくさんあります。 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
January 26, 2009
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「 ライ麦畑でつかまえて」(ジェローム・デーヴィド・サリンジャー/野崎孝 :白水社)、とても分かりにくい本であるとともにすごい本である。この小説がサリンジャーによって発表されたのは1951年。その後の累積発行部数がなんと全世界で6000万部。近年でも全世界で毎年25万部が売れているという、大ベストセラーでロングセラーなのである。○「 ライ麦畑でつかまえて」(ジェローム・デーヴィド・サリンジャー/野崎孝 :白水社) 内容は、大人の目から見ればなんということはない。主人公は、ホールデン・コールフィールドという大人になりかけのハイスクールの生徒。通っていた学校を、成績不振で退学になった彼が、寮を飛び出して家に帰るまでの数日間をニューヨークで彷徨うという物語である。彼の眼に映った大人の世界に蔓延する欺瞞や疑問も持たずに大人になっていく生徒たちへの揶揄を、いかにも若者言葉といったシニカルで誇張的な語り口で描いている。たぶん、大人から見れば、子どもが、うだうだ、ぐじぐじと言っているだけとしか思えないような内容なのだが、ジョン・レノンを射殺した犯人や、レーガン元大統領を狙撃した犯人も愛読していたと言われており、当時の若者たちに与えた影響は計り知れない。 原題は、「The Catcher in the Rye」、この他にいくつか翻訳があり、「ライ麦畑の捕手」や「キャッチャー・イン・ザ・ライ」といった邦題が付けられている。この原題は、妹のフィービーに、何になりたいのかと尋ねられた時に、「たくさんの子供たちが遊んでいる広いライ麦畑で、あぶない崖のふちに立って、子どもたちが落ちそうになったら、それを捕まえる者になりたい。」という意味のことを答えたことからきている。ホールデンが、こんなことを思いついたのは、子どもが歌っているのを聞いた「ライ麦畑で会うならば」を「ライ麦畑でつかまえて」と思い違っていたことによるようだ。なお、「ライ麦畑で会うならば」はロバート・バーンズの詩に曲をつけたもので、曲の方は「故郷の空」と言う題でも有名である。あの「だれかさんとだれかさんが麦畑」と歌われている曲と言えば分かると思う。彼が、なぜ「ライ麦畑で子供を捕まえる者」になりたいのか、その理由は明記されていないが、大人になって、欺瞞の世界に飛び込むことに対する反発が言わせたことなのかも知れない。○他の人の読書ブログがたくさんあります。 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
January 2, 2009
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またまた、現文メディアさんより献本いただいた。「北からやって来た女の子 - 韓国人気童話シリーズ7 -」(ウォン・ユスン/チェ・ジョンイン/榊原咲月:現文メディア)である。○「北からやって来た女の子 - 韓国人気童話シリーズ7 -」(ウォン・ユスン/チェ・ジョンイン/榊原咲月:現文メディア) 「北からやってきた」というと、つい「北の国から」の舞台の北海道富良野のイメージや、東北地方からの夜行列車(まだあるのかな?)が上野駅に着いたシーンなんかをつい思い浮かべてしまうのだが、韓国で「北」と言えば、北朝鮮のことである。この物語は、アトピー性皮膚炎に悩まされて、「鳥肌」というあだ名をつけられている小学3年生の少年ヒムチャンと、彼のクラスに転校してきた脱北少女ミョンオクの心の交流の物語だ。 ミョンオクの一家は、脱北し、韓国に来るまでは、中国に隠れていた。そのため、勉強することができなかったミョンオクは、本来は5年生なのに、3年生のヒムチャンたちのクラスに編入してきたのだ。ヒムチャンの隣の席になったミョンオクは、最初は、なかなかクラスになじむことができず、一言もしゃべらない。ヒムチャンが、ミョンオクに親切にしようとしても拒絶してしまう。 だが、ヒムチャンが、アトピー性皮膚炎で、好きな食べ物を食べることができないことをきっかけに、ふたりは打ち解けていく。実は、ミョンオクは脱北の際に、一番仲の良かった弟を亡くしていたのだ。その弟も、ひどいジンマシンで、食べ物に制約があったのだ。ミョンオクとヒムチャンが打ち解けていく過程は、なかなか感動的である。 この作品はあくまで童話である。それにもかかわらず、そこに使われている題材は、いかにも童話らしくない「脱北」というものだ。もしかすると、これは、韓国での、ごく日常の出来事を反映しているだけなのだろうか。韓国事情に疎い私にとっては、少し驚きであった。○応援クリックお願いします。 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
December 29, 2008
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韓国人気童話シリーズの6巻目にあたる「世界で一番小さないもうと 」、これも現文メディアさんより献本いただいたものだ。お礼申し上げます。前作が「お兄ちゃん」の話で、今度は「妹」と兄弟・姉妹ものが連続しているが、こちらもかなり泣かせる話だ。○「世界で一番小さないもうと」(コ・スザンナ/イ・ジンウ/榊原咲月 :現文メディア/理論社) この物語の主人公スアは小学4年生の女の子だ。そのスアの一家に、待望の妹が生まれた。しかし、スヨンと名付けられたその妹は、僅か体重830グラムの超極小、低体重の未熟児だった。通常、赤ちゃんは、生まれた時には3キロちょっとくらいだから、いかに小さかったかわかるであろう。もちろん、保育器の中でしか生きられない。 待望の妹が生まれたというのに、そこからスア一家の苦労が始まる。韓国では、まだまだ福祉制度が未熟なようで、父親は、スヨンの医療費を稼ぐために、昼の仕事に加え、夜も運転代行のアルバイトを始めたが、疲れて交通事故に遭ってしまう(幸いにも軽症で済んだが)。母親も、なかなか育たない、スヨンが心配で、沈み込んでいることが多い。父方の祖母も、母親に、心無い言葉を投げつける。 しかし、そんな一家の支えとなったのが、スアであった。スアは、スヨンの心の声が聞こえるのだ。一生懸命生きようとしているスヨンの声をスアが伝えることにより、両親や、父方の祖母にいい影響を与えていく。しゃべるはずのない保育器の中のちいさな妹。その声が聞こえるというのは、もしかすれば、小さな少女特有の空想力のなせる技だという解釈もあるかもしれない。しかし、私は、スアの優しい心が生み出した、軌跡であると信じたい。 この物語は、スヨンが退院できるところまでは続いてない。その後どうなったかは書いてないが、優しいスヨンを中心に、きっと家族4人で仲よく暮らしていることだろう。○応援クリックお願いします。 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
December 25, 2008
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韓国人気童話シリーズの5巻目にあたる「ぼくのすてきなお兄ちゃん 」、これも現文メディアさんより献本いただいたものだ。お礼申し上げます。内容はかなり泣かせる話である。○「ぼくのすてきなお兄ちゃん」(コジョンウク/宋珍憲 :現文メディア/理論社) この物語のジョンミンは、韓国の小学3年生の男の子である。ある時、両親が、親戚のおばあさんの葬式から帰ってきて、急に兄のジョンシクを紹介される。しかも、その兄は、脳性マヒで車椅子生活を余議なくされていたのだ。驚くジョンミン。何しろ、それまでは、両親からまったく兄のことを全く知らされていなかったのである。ジョンシクが、離れて生活していたのは、彼が障害を持っていることを嘆き悲しんでいた両親に、元修道女だった親戚のおばあさんが、手を差し伸べてくれて、自分の下で育てようと言ってくれたからである。さすがに、弟に兄のことをまったく知らせていないというのは、普通はちょっと考えにくい設定だろうと思うが、韓国の福祉事情や障害のある人に対する理解度などがなせることなのであろうか。このあたりは、お国事情も違うと思うので何とも言えない。 ジョンミンは、急に現れた兄に対し戸惑い、自分に内緒で何度も兄に会いに行っていた両親に反発し、とうとう家出までしてしまう。しかし、兄のジョンシクは、どこまでもやさしい。無事に家に帰ってきたジョンミンにジョンシクは自分の気持ちを書いた手紙を渡し、これがきっかけで、兄弟は次第に打ち解けていく。 兄弟の絆は取り戻したものの、ジョンシクを取り巻く世間は、必ずしも居心地の良いものではなかった。ジョンミンがジョンシクの車椅子を押して散歩していると、物乞いと間違われたり、障害者専用駐車場でトラブルが起こったり、果てはチャットで知り合ったガールフレンドに心を傷つけられたりするのである。だが、ジョンシクは優しさだけでなく強さも併せ持っている少年だ。パソコンを武器に、素晴らしい文章を書いたり、障害のある人に役に立つようなプログラムをつくったりして、たくましく前を向いて生きている。おまけに、自分と同じような障害を持った人たちのために、無償でそのプログラムを提供するという。このジョンシクの優しさを併せ持った強さが読者の胸を打つ。 このお話の最後で、ジョンミンは、兄を助けようとして大ケガをし、入院してしまう。しかし、退院してみるとジョンシクは弟のケガに責任を感じて、自らの意思で施設で暮らしていた。ジョンミンが両親と兄を迎えに行くシーンは、ただ感涙。同じような障害を持つ人やその家族に、力を与えてくれるような作品である。○応援クリックお願いします。 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
December 5, 2008
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「人工透析」という言葉を聞かれた方は多いと思う。腎臓に病気があったりしてうまく機能しないような場合には、尿毒症になるのを防止するために、機械により、人工的に血液の老廃物を取り除くという医療行為である。慢性の腎不全では、継続して周期的に行わなければならないので、患者への負担は非常に大きい。今日紹介する 「星と話す少年」(ぺ・イクチョン/チェ・チョルミン :現文メディア/理論社)は、腎臓病を患い透析を受けている少年が、星と心を通わせながら、病気に立ち向かっていく姿とイェビョル一家の家族愛を描いたお話である。○ 「星と話す少年」(ぺ・イクチョン/チェ・チョルミン :現文メディア/理論社) イェビョルは、10歳の男の子である。7歳の時から、腎臓病を患い、2日に1回近くの病院で透析を受けなければならない。イェビョルの「ビョル」は、韓国語で「星」という意味だそうで、星好きの父親が名づけたということだ。10歳の誕生日に、父はイェビョルに、夜光塗料で光る星を贈る。星の数は10個。北斗七星の7個とイェビョルの家族3人を表す星3個で、10個となっている。その星は、イェビョルのベッドのある部屋の天井に張られており、蛍光灯を消すと、蛍のような光を放つのである。ところが、10個あるはずの星が見当たらない。実は、その行方不明となっていた星は、自由に動き回り、言葉もしゃべるのである。ダニーという名前も持っているのだ。イェビョルは、ダニーから、同じ病気に苦しんでおり、名前にやpっぱり「星(ビョル)」とい字が入っているハンビョルという少女のことを聞く。自分の病気にもかかわらず、ハンビョルのことを気に掛けるイェビョルの優しさが心に温かさを誘う。 ところで、イェビョルの父親がプレゼントした星のうちの7つが北斗七星を表しているということに、ちょっと不安があった。なぜなら、中国では、北斗七星を神格化した北斗星君は、「死」を司どる神なのだから。これは、もしかして、とても悲しい結末を暗示しているのではと心配したのだが、まったくの杞憂だったようで、最後はハッピーエンドとなっていて安心した。もしかすると、韓国では、北斗七星には別の伝説があるのかな。いずれにしても、読む際に深読みしすぎたようだ。○応援クリックお願いします。 ○「帰ってきた珍島犬ペック - 韓国人気童話シリーズ 3 -」の記事はこちら○「心に刺さったガラスの破片 - 韓国人気童話シリーズ 2 -」の記事はこちら○「チャリンコ・ヒコーキ・ジャージャー麺 - 韓国人気童話シリーズ 1 -」の記事はこちら風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
November 3, 2008
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韓国の珍島(チンド)という島には、珍島犬という固有の犬種がいるという。珍島は、朝鮮半島の西南端部に、本土とわずか300mの鳴梁海峡で隔てられているが、珍島大橋という橋によって連絡されているようだ。珍島犬は、日本でいえば、秋田犬や紀州犬のようなものだ。中型犬なので、大きさからは、紀州犬の方がより近いかもしれない。 今日は、その珍島犬を主人公とした「帰ってきた珍島犬ペック」 (宋在賛/宋珍憲:現文メディア/理論社)という本の紹介である。「韓国人気童話シリーズ」の3巻目にあたり、実際にあった話をもとに童話化したものである。なお、この本も、出版元の現文メディアさんから献本いただいたものであり、この場を借りてお礼申し上げます。○ 「帰ってきた珍島犬ペック」(宋在賛/宋珍憲:現文メディア/理論社) このお話の主人公は題名から分かる通りペックという珍島犬である。珍島で、飼い主のおばあさんとその孫娘のソヨンといっしょに仲良く暮らしてたが、おばあさんの息子夫婦の経済状態が悪くなり、300kmも離れた大田(テジョン)に売られてしまう。新しい飼い主にもかわいがられたが、最初の飼い主が忘れられず、飢えやオオカミ、悪意のある人間といった苦難を乗り越え、おばあさんのもとに帰ってくるのである。もちろん、ペックが実際にどんな冒険の果てに、おばあさんとソヨンの許にたどり着いたかは、当のペックのみぞ知るといったところだが、作者は、想像の翼を大きく広げ、うまく童話として感動的な話にまとめあげている。 遠く離れた主人の許に、はるばる帰り着いた犬の話は、我が国でも聞いたことがある。犬の帰巣本能といってしまえば、それまでだが、どの犬でもできるようなものではない。合法的に売られていった以上、法律的には、ペックの飼い主は、大田に住むテボム一家のはずである。しかし、それはあくまで人間側の都合である。ぼろぼろになりながらも、自分が決めた主人の許をひたすら目指すペックの姿は私たちの胸をうつ。 また、この作品は、当ブログに目をとめていただき、現文メディアさんの本を献本していただくきっかけを作っていただいた榊原咲月さんが翻訳しておられるが、翻訳ということを感じさせないきれいな日本語で、違和感なく読むことができることも付け加えておこう。 最後に、私の方針というよりは、礼儀として、献本いただいたものは、原則レビューを、なるべく早く、当ブログに掲載することにしているが、多忙にまぎれ、遅れ気味となっているものがあることをお詫び申し上げたい。○応援クリックお願いします。 ○「心に刺さったガラスの破片 - 韓国人気童話シリーズ 2 -」の記事はこちら○「チャリンコ・ヒコーキ・ジャージャー麺 - 韓国人気童話シリーズ1 - 」の記事はこちら風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら***** 追伸 *****にゃんこ好きの方には、「図書館ねこ デューイ」という本のレビューを「本の宇宙(そら)」の方に掲載しています。 ⇒ こちら
October 26, 2008
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現文メディアさんから、「朴セリ誕生物語 奇跡の韓国ゴルフ界」(パク・シンシク/吉田昌喜:現文メディア)という本を献本いただいた。お礼申し上げます。実は、私は、ゴルフに興味が無いので、朴セリさんの名前は、この本で初めて知ったような次第である。たまには、普段は首を突っ込むことのないような世界の話に関することを読んでみるのも面白いのではないかと思い、ページをめくってみた。●「朴セリ誕生物語 奇跡の韓国ゴルフ界」(パク・シンシク/吉田昌喜:現文メディア)&ゴルフクラブ 朴セリさんは、世界のメジャー大会で輝かしい成績を残している女子プロ選手だということだ。新人としてのアメリカでのメジャー2連勝を手始めに、ついには名誉の殿堂に名前を連ねている。この本は、そんな朴選手がどのようにして、ゴルフを始め、世界のトッププレーヤーとなっていったかを描いたものである。 朴セリさんのゴルフの才能を見出したのは、父親のパク・ジュンチョル氏である。娘の才能を信じ、貧しい生活の中で、すべてを賭けて、娘を鍛えていく。このあたりは、まるで昔流行った「巨人の星」の世界を彷彿させる。 この本は、ゴルフに限らず、何事においても大切なことを色々と教えてくれる。例えば次のようなことだ。 ・何をやるにしても、体力と精神力が基礎になる。 ・目標を明確にし、自分を信じて、目標に向かって進むことが大切。 ・誰にでもスランプに襲われることはある。克服のためには、ストレス解消法を持つことが大切。 ゴルフをやる人もやらない人も、読めば、何か得るところがあるだろう。○応援クリックお願いします。 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
September 16, 2008
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今回紹介する「心に刺さったガラスの破片」( ファンソンミ/キムユデ:現文メディア/理論社)も、ちょっと前に、現文メディアさんから献本していただいた本の中の一つである。「韓国人気童話シリーズ」の2巻目だ。シリーズ1巻に当たる「チャリンコ・ヒコーキ・ジャージャー麺」は、両親を亡くして、貧しい暮らしながらも、前を向いて強く生きる3人兄妹の姿を描いたものだが、今回の舞台は、ごく一般の家庭のようである。 この作品の主人公ウンギョルは、両親と、兄のハンギョルとの4人家族だ。両親とも働いており、兄とはあまり仲が良くない。持ち物はいつも兄のおさがりばかり。そんなウンギョルは、寂しさからか、母の財布からお金を抜いて、友達にものをおごったりするようになる。そんなある日、いつものようにお金を財布から抜こうとして、コップを割ってしまい、その破片をふんづけてしまう。ガラスの破片で、ウンギョルはに足の痛みが、どんどんひどくなっていく。まるで、ウンギョルの心に刺さったかのように。 ところで、ハンギョルがテコンドーの試合に負けた時、父親が、出勤もしたくないくらいがっかりしていたシーンは、国民性の違いが出ているようで、少し興味深かった。家族の会話も、国民性の違いが出ており、韓国の普通の家族の生活をうかがい知ることができるようだ。 終りの方で、兄弟が激しく言い争っていたが、最後には、父が歯周病の手術をすることになったことから、兄弟の絆をとりもどしたようで、ちょっと安心した。 ○応援クリックお願いします。 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら
August 10, 2008
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これも、現文メディアさんから献本していただいた本である。心に残る本を送っていただいてありがとうございます。 今日紹介する「チャリンコ・ヒコーキ・ジャージャー麺」(イサンベ/ペクミョンシク :現文メディア/理論社 )は、「韓国人気童話シリーズ」の第1巻にあたる。 私も、韓国の事情には詳しくないが、著者による前書きを読むと、あちらには「少年少女家長制度」というものがあるようだ。これは、両親が死亡等で子供たちの面倒を見られなくなった場合に、満20歳以下の少年少女が、家事の実質的な責任を持って生活することを法的に許可する制度のことらしい。すなわち、子どもたちだけが残っても、いちばん上の子供が家長になれば、兄弟姉妹が施設などでばらばらに生活しなくてもよくなるのである。現在、韓国には、6千人もの少年少女家長がいるとのことだ。●チャリンコ(自転車) このお話の主人公であるトンスはまだ小学6年生の少年である。両親を亡くしたため、家長として、バラックで、弟のトンベ、妹のパンウルの面倒を見ながら暮らしている。彼らの生活は貧しい。しかし、貧しくても卑屈になったりはしない。それぞれが夢を持ち、なんともたくましく生きている。●ヒコーキ こういったお話には、意地悪な人が出てくることが多いが、この作品に出てくる人はみんな親切だ。どうも悲しい話は苦手なのだが、今回は安心して読むことができた。例えば、トンスが新聞配達で行く団地の管理人である「空軍おじさん」は、洗車のアルバイトを紹介してくれたうえ、自分の取り分を減らしてトンスに多めに報酬を渡してくれたり、トンスが欲しがっていた自転車を持ち主に安く売るように働きかけたりしてくれた。クラスメートのヘジュは、小児麻痺で片足が不自由だが、明るく積極的な少女で、トンスと仲が良い。そのヘジュの誕生日会に招かれた際には、ヘジュのお母さんが、誕生日のお餅のおすそ分けを装い、ごちそうの包みをもたせてくれた。こういった善意に囲まれて、トンス達は、貧しくとも前を向いて生きている。●ジャージャー麺 唯一はらはらしたのは、トンスが自転車を買うために貯めていたお金を、ゲーム中毒のトンベが根こそぎ使い込んでしまったことである。しかし、トンスは父親のことを思い出して、弟を許した。トンベも、模型飛行機という熱中できるものが見つかり、立ち直ったようだ。 最後は、トンベが模型飛行機大会で優勝したお祝いに中華料理屋でジャージャー麺を食べる場面で終わっているが、この兄弟は、これからも夢に向かってたくましく生きていくことを予感させる。○応援クリックお願いします。 風と雲の郷 別館「文理両道」(gooブログ)はこちら
July 30, 2008
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本屋に行くと、集英社文庫で、かっての名作を、カバーイラストに有名漫画家を使いリニューアルしたものが並んでいた。 これは、結構有名。○「人間失格」(太宰治) こんなのもあった。○「地獄変」(芥川龍之介) こんなのも・・・○「こころ」(夏目漱石) なんやこれは! 荒木飛呂彦好きだけど、なんか違う! ○「伊豆の踊子」(川端康成 / 集英社 )○応援クリックお願いします。 風と雲の郷 別館「文理両道」(gooブログ)はこちら
July 24, 2008
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「そして、人間というものが、決して意思どおりになるものでなく、むしろどうにもならぬ必然によって動かされるものだということを、おそらく彼らは知っていたのだろう。イギリスやフランスでは、彼はいわば丸い穴に差し込まれた四角な木釘だった。ところが、ここでは、穴はどんな形にでもなるのであり、したがって、どんな木釘でも合わないということはない。」(「月と6ペンス」(モーム/中野訳より引用)) 最近は、ミステリーを読むことが多いが、その昔大学に入ったころは、外国の色々な作家の作品もよく読んでいた。そんな作品のひとつに、「月と六ペンス」 (ウィリアム・サマセット・モーム/中野好夫:新潮社) がある。学生時代に買った本は、既にどこかに行ってしまったが、先日古書店で見つけたので、懐かしさもあり、購入して読み返してみた。 作者のウィリアム・サマセット・モーム(William Somerset Maugham:1874 - 1965)は、有名なイギリスの作家である。第一次世界大戦中は、007で有名な「MI6」で諜報部員をやったこともあるという変わり種で、私は読んだことはないが、スパイ小説なども書いているようだ。多くの名作を残しているが、「月と六ペンス」は、画家ポール・ゴーギャン(Eugene Henri Paul Gauguin:1848 - 1903)の伝記に触発されて書かれたもので、モームの小説の中ではもっとも知られているものの一つである。○ 原作 「The Moon and Sixpence 」( W. Somerset Maugham/Robert Calder:PENGUIN CLASSICS U.S )と行方昭夫訳による岩波文庫版 この作品での、ゴーギャンをモデルとした主人公は、ストリックランドという男である。妻と二人の子を持つ、平凡でまるで面白みのない一介の株式仲介人というのが、この男の前半生だ。それが、40歳を過ぎてから、突然妻子を捨てて、住み慣れたロンドンから、画家を目指してパリに渡る。ここから、ストリックランドは、平凡な人生を送っていた男から、強烈で個性的な人物に変わる。とにかく極め付きの変人と言ってもよいキャラクターだ。周りの人がどう思おうが、全く斟酌せず、自分の思うように生きて、ただ絵を描き続ける。パリでは、彼を天才と見抜いた、唯一の理解者の妻を寝取ってしまう。そして、ついにはその妻を自殺に追いやり、タヒチに渡る。故国やフランスにいたときは、蛇蝎のように嫌われていた彼だが、タヒチに渡ってからは、深い同情さえ受けていた。彼はひたすら絵を描き続ける。業病による死が彼の筆を停めるその一瞬まで。 ところで、「月と6ペンス」とは、極めて象徴的な表題であり、一見何を意味するのかよく分からない。ネットでの意見なども参考にしながら考えてみた。月は夜空に美しく輝いているが、西洋では昔から狂気の象徴でもある。そして、6ペンスとは世俗的なものを表すらしい。さらに、6ペンス銀貨は、月の象徴でもあるという意見もあった。そうすると、世俗的な株式仲介人であったストリックランドが、芸術という狂気に取りつかれ遥かなる高みを目指したが、それは、結局は人間という不条理なコインの表裏に過ぎなかったということであろうか。 世俗のしがらみに囚われず、ひたすら自分の狂気に従って生きたストリックランド。私は、そんな彼に、嫌悪感を抱きながらも、興味を持たずにはいられないのである。○応援クリックお願いします。(両方押してね) 風と雲の郷 別館「文理両道」(gooブログ)はこちら
June 7, 2008
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いつも、ミステリーばかり読んでいるので、たまには名作と言われる物にも手を出そうと、「死海のほとり」(遠藤周作:新潮社)を 読んでみた。作者の故遠藤周作氏は、一般には、ユーモアあふれるエッセイを多く書いていた狐狸庵先生としての方が有名かも知れないが、キリスト教をテーマにした作品群は欧米でも評価が高く、ノーベル文学賞の候補にも挙がったことがあったということだ。 死海とは、もちろん、イスラエルとヨルダンの間に位置する、あの塩分濃度が異常に高い湖のことである。○死海の塩 小説家の「私」は、エルサレムで聖書学者をしている学生時代の友人の戸田を訪ねる。戦時中をキリスト教系の学校ですごした「私」は、イエスのことが心に引っかかっており、その足跡を訪ねてみようとしたのだ。「私」がイエスの足跡を訪ねるのと平行して、作品中に流れていくイエスの物語。ここで描かれるイエスは、決して華々しく奇跡など起こさない。ただ、多くの人の悲しみを、洗い流そうとし、苦しんでいる人の側で、一緒になって苦しみを分かち合うのだ。ただ愛のためだけに生き、それゆえに十字架に掛けられる。 「私」は、イエスの足跡を訪ねているうちに、学生時代に大学にいた「ねずみ」という仇名の修道士のことが次第に気にかかってくる。その修道士は、「ねずみ」という仇名がつけられるくらいだから、小ずるくて、学生たちから軽蔑されており、最後は、ナチの収容所で死んでいる。いつのまにか、「私」はイエスの足跡を訪ねているのか「ねずみ」の足跡を訪ねているかが分からなくなってくる。 「私」に「ねずみ」の最後を教えてくれた人は、「ねずみ」が、尿を垂れ流しながら、最後の場に連れて行かれるとき、その側に、彼と同じように囚人服で尿を垂れ流して歩く男の姿を一瞬ながら目撃したと言う。 イエスは、時代を超えて、「ねずみ」とも苦しみを分かち合おうとしたのであろうか。 たまには、普段読んでいるものから、目先を変えて、こんな小説を読んでみるのも良いものだ。○応援クリックお願いします。 風と雲の郷 別館「文理両道」(gooブログ)はこちら
May 25, 2008
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行政書士とは何かを知らなくとも、街で「行政書士事務所」の看板を目にした方は多いと思う。行政書士と言うのは、官公署に提出する許認可申請書類等だとか契約書や遺言書などの「権利義務、事実証明に関する書類」の作成などが仕事として(すなわちお金をもらって)行える、行政書士法という法律に基づいた、国家資格の一つなのである。実は、私も、かなり前に、この試験に合格している。昔はそうでもなかったと思うが、最近は、合格率も低く、結構難関の試験になっているようだ。 この行政書士を開業しているキャバクラ嬢が、身近に起きたトラブルを、その法律知識でうまく治めていくというのが、「「キャバクラ嬢」行政書士の事件簿(1)」である。キャバクラ嬢で行政書士という意外な取り合わせが面白い。表紙の著者紹介によると、作者の杉沢氏は、行政書士資格を持った、キャバクラ嬢ならぬバーのママでとのことなので、もしかすると、主人公に自分が投影されているのかなとも思ったりする。 さて、この作品、「事件簿」と銘打っているものの、別に殺人事件などは出てこない。お店で調子に乗ったお笑い芸人を懲らしめたり、債務整理を手伝ったり、遺言状を書いたりといった、法律が関係したエピソードを描いたものである。 法律についての知識が身につくだけでなく、キャバクラについても用語集がついており色々参考になるのではと思う(どんな点がと聞かれると、私も困るが(汗))。内容は、結構、明るく楽しく読めて面白かった。○応援クリックお願いします。 「「キャバクラ嬢」行政書士の事件簿(1)」(杉沢志乃/浅野幸惠:ゴマブックス) ) 風と雲の郷 別館「文理両道」(gooブログ)はこちら
April 22, 2008
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ちょっと変わった小説を読んだ。恩田陸の小説としても珍しいが、通常の小説としても異色である。「ドミノ」(恩田陸:角川書店)という作品だ。なんと主役級の登場人物が27人と1匹も出てくるのだから。ちなみに1匹とはある登場人物のペットである。 この27人と1匹の登場人物に関するお話が次々に切り替わりながら、全体としての物語が進んでいくようになっている。題名をドミノとは良く付けたもので、まるで、ドミノ倒しのように、物語のピースが次々と倒れていき、最初は無関係に思えたそれぞれの人物に関する話が、しだいに互いに関連を持ちだし、やがて、一つの大きな事件に収束していく。 恩田陸というと、どうしてもミステリーやホラー風味の作品を思い浮かべてしまう。最初に珍しいと言ったのは、この作品が、どたばた風味のコメディタッチで書かれているということである。出てくる人物は、8000CCで500kgはあるバイクのバファロー号を操る、元暴走族のピザ屋の店長、彼が姉さんと慕う元レディスの保険会社OL、ミステリーファンの大学生たち、ホラー映画の監督、神社の神官の娘で「気」を操る映画配給会社のOLなど、個性的な連中が目白押しである。 それにしても、「・・ほんの少し前まで、腸や胃袋が裏返って肛門から出てきてしまうのではないかと思ったくらい断続的な激しい下痢に襲われて・・・」なんて表現、他の恩田作品には出ないだろうな。 ○応援クリックお願いします。 「ドミノ」(恩田陸:角川書店) 風と雲の郷 別館「文理両道」(gooブログ)はこちら
April 15, 2008
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