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柿沼陽平『古代中国の24時間―秦漢時代の衣食住から性愛まで―』 ~中公新書、2021年~ 著者の柿沼先生は早稲田大学文学学術院教授。貨幣制度の研究が専門ですが、「偉そうに政治や経済を語るくせに当時の給料や食べ物について知らないのはまずい」(山陽新聞2022年2月6日11面「著者の肖像」から引用)とのことで、膨大な史料を読み込み、古代中国の日常生活を浮かび上がらせたのが本書です。 本書の構成は次のとおりです。 ――― プロローグ―冒険の書を開く 序章 古代中国を歩く前に 第1章 夜明けの風景―午前4~5時頃 第2章 口をすすぎ、髪をととのえる―午前6時頃 第3章 身支度をととのえる―午前7時頃 第4章 朝食をとる―午前8時頃 第5章 ムラや都市を歩く―午前9時頃 第6章 役所にゆく―午前10時頃 第7章 市場で買い物を楽しむ―午前11時頃から正午すぎまで 第8章 農作業の風景―午後1時頃第9章 恋愛、結婚、そして子育て―午後2時頃から午後4時頃まで 第10章 宴会で酔っ払う―午後4時頃 第11章 歓楽街の悲喜こもごも―午後5時頃 第12章 身近な人びとのつながりとイザコザ―午後6時頃 第13章 寝る準備―午後7時頃 エピローグ―1日24時間史への道 あとがき 注記 ――― 古代中国にタイムスリップし、ある日の一日を過ごしてみるというロールプレイングのような体裁で記されますが、本文には膨大な注が付され、史料や研究書(論文)の典拠が明示されているので、新書という出版形式であり文体も読みやすいのと同時に検証可能性も極めて高い稀有な1冊と思います。 序章では、人名について、名づけ方、呼び方(失礼のない呼び方)が紹介された後、そしてロールプレイングの舞台となる古代中国の地理的状況(郡県郷里とムラ、人口規模など)が概観されます。冒頭の人名のところから引き込まれました(西洋中世の人名について、最近の著作では岡地稔『あだ名で読む中世史―ヨーロッパ王侯貴族の名づけと家門意識をさかのぼる―』八坂書房、2018年を参照)。 第1章以降は詳細には書きませんが、たとえば多くの人が目覚める合図となるニワトリの鳴き声について、ニワトリが鳴くタイミングについて日本人研究者による英語論文を典拠としていたり(第1章)、郵便事情、虫歯や髪型について紹介していたり(第2章)と、興味深い記述が満載です。 エピローグは、ロールプレイング風に記述された本書の歴史学上の位置づけで、アナール学派の業績などにも言及しながら「日常史」や「民衆」の歴史の重要性を説くとともに、あらゆる資料を用いる意義を強調します。こちらも興味深く読みました。 私は西洋中世を専門に勉強しているので、古代中国史はほとんど縁のない領域ですが、先に引用した新聞記事があまりに面白く、本書を手に取った次第でした。結果、大正解でした。(2022.03.15読了)・その他教養一覧へ
2022.03.26
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菊地暁『民俗学入門』~岩波新書、2022年~ 著者の菊地先生は京都大学人文科学研究所助教。本書は、先生による民俗学講義をもとにした入門書です。 本書の構成は次のとおりです。―――はじめに―「せつなさ」と「しょうもなさ」を解きほぐす序章 民俗学というガクモンが伝えたいこと第1章 暮らしのアナトミー きる【衣】 たべる【食】 すむ【住】第2章 なりわいのストラテジー はたらく【生産・生業】 はこぶ【交通・運輸】 とりかえる【交換・交易】第3章 つながりのデザイン つどう1 血縁 つどう2 地縁 つどう3 社縁終章 私(たち)が資料である―民俗学の目的と方法あとがき―「墓穴」としての入門書、あるいは、本書を書いてしまった理由図版出典一覧――― 構成には省略しましたが、各章の末尾にはコラムも掲載されています。 各章は3節からなり、それぞれテーマの概論、前近代の状況、近代の状況、現代の状況を順に論じたのち、講義の中で学生さんから寄せられたコメントと節に関する主要な文献案内を紹介する、という構成になっています。 「はじめに」と序章は、民俗学がどのようなガクモン(ここではあえてカタカナにされています)かを概観します(より学問的な説明は終章に譲られます)。 第1章から第3章までで民俗学の具体的な実践をテーマをしぼって論じるのですが、いわゆる民俗学でよくある(という印象の)戦前戦後くらいのムラの暮らしや習俗の紹介とは全く異なり、「はたらく」では著者自身の学生時代の皿洗いのアルバイトが取り上げられたり、「とりかえる」ではオンラインショップも題材にされたりと、「日々の暮らしがなぜ現在の姿に至ったのか、その来歴を解明する」(231頁)という民俗学の実践が身近な事例で紹介されます。 語り口も平易で、各論も抜群に面白いのですが、ここでは印象に残った点を簡単にメモしておきます。 「社会そして歴史の本体は、「普通の人々」の「日々の暮らし」の無限の連なりであり、その本体を軽視して社会や歴史が理解できるはずがない」(3-4頁)という言葉は、心性史や日常生活史に関心を持っている私にはあらためて心強い言葉でした。 事実・用語としては、・「社会的事実」=フランスの社会学者エミール・デュルケム(1858-1917)が提唱した概念(31-32頁)・スローフードの提唱者=カルロ・ペトリーニ(1949-)(51頁)・「身体技法」=マルセル・モース(1872-1950)が提唱した概念。技能獲得における「他者」の重要性(98頁)・4つの原理的な交換パターン=「贈与」「分配」「再分配」「市場」(130-132頁)・家族が必要とされる普遍的理由=「社会」と「個人」、「自然」と「文化」の媒介(155-156頁)・賃金がなく不可視化される家事=「シャドウワーク」…オーストリアの思想家イヴァン・イリイチ(1926-2002)による命名(162頁)・「棲み分け」=生態学者・今西錦司(1902-1992)が、カゲロウが流速の異なる水域に分かれて生息していることを確認したことから命名(174頁)・「サードプレイス」=アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグがその役割を重視する、自宅でも職場でもない居場所(210頁) などなど、基本的事項について勉強になります。「棲み分け」など当たり前にイメージできる言葉ですが、上に紹介したような背景があったことは大変勉強になりました。 民俗学の文献は過去に何冊か読みましたが、このようなわかりやすい入門書が刊行されたことに感謝です。 良い読書体験でした。(2022.02.26読了)・その他教養一覧へ
2022.03.19
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池上俊一『ヨーロッパ史入門―市民革命から現代へ―』 ~岩波ジュニア新書、2022年~ 前回紹介した『ヨーロッパ史入門―原形から近代への胎動―』の続編。2冊でギリシャ・ローマから現代までのヨーロッパ史をたどります。 18世紀から現代までを扱う本書の構成は次のとおりです。 ――― まえがき 第1章 啓蒙主義から市民革命へ―近代市民社会への道程(18世紀) 第2章 近代世界システム―国家・帝国・資本主義(19世紀) 第3章 二つの世界大戦―悪夢の世紀(20世紀) 第4章 ヨーロッパはどこへ―解体か再生か(21世紀) 文献案内 あとがき ヨーロッパ史年表/事項・人名索引 ――― 前著同様、概説書なので印象に残った点などをメモ。 第1章は1715年(ルイ14世没年)~1789年(フランス革命)までの「短い18世紀」を扱い、第2章は1789年から1914年(第一次世界大戦)までの「長い19世紀」(ホブズボームの言葉)を扱います。第2章の標題は著名なウォーラーステインの研究の名ですが、ウォーラーステインには言及がなく、その主要概念である中心・周縁・辺境という語にもふれられていなかったように思います。 第2章で興味深かったのは、「移民の時代」と題された節。今でこそ、「移民」といえばEU域外(アフリカやアジアなど)からEU諸国への移民がクローズアップされますが、19世紀にはむしろヨーロッパから世界への移民が盛んだった、ということです(もちろん植民地化とからめて)。 第3章は二つの世界大戦についての概観と戦後の世界を描きます。冷戦後も「ロシアとの対立はなかなか抜き難く」(172頁)とありますが、ついに先日、ロシアはウクライナに侵攻してしまいました。 第4章は21世紀のヨーロッパを見据えます。池上先生は、ヨーロッパの最大の特徴はその「多様化」とし、いかに「多様化」を大切にするかを重視しています。 以上、2冊をあわせてヨーロッパ史を概観できる良書だと思います。(2022.02.21読了)・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2022.03.12
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池上俊一『ヨーロッパ史入門―原形から近代への胎動―』 ~岩波ジュニア新書、2021年~ 池上俊一先生によるジュニア新書第6弾。「たどる」シリーズ5巻が完結し、今回はヨーロッパ史の通史前半です。 本書の構成は次のとおりです。 ――― まえがき―ヨーロッパとは何だろうか 第1章 ヨーロッパの誕生―古代ギリシャ・ローマの遺産(古代) 第2章 ロマネスク世界とヨーロッパの確立―中世前半 第3章 統合と集中―後期中世の教会・都市・王国(中世後半) 第4章 近代への胎動 文献案内 あとがき ヨーロッパ史年表/事項・人名索引 ――― 基本的に通史なので、章ごとの紹介は省略しますが、印象に残った部分をメモしておきます。 まえがきではヨーロッパの位置づけが示されます。「ヨーロッパとは(中略)各時代において、それ以前の時代から遺贈された諸要素を使って、その都度創られていく現在進行形の構成体であり統一体です」(vii頁)。また、本書では各国史の併記ではなく、大きな流れを描きながら、そのテーマ(「辺境」「教皇、皇帝、国王・諸侯」など)に沿って、各国の様子をながめていきます。教科書的といえば教科書的ですが、中世ではフェーデ(私戦)や異端など、教科書ではあまり触れられないテーマも扱われています。 イスラームやビザンツとの関係にも適宜目が配られていて、バランスよい構成です。 ジュニア新書ということで、ルビも多く読みやすいですが、「雄勁」(書画などに張りと力がみなぎっている様子)など、(不勉強な私には)耳慣れない言葉も出てくるので、語彙力も鍛えられます。(2022.02.13読了)・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2022.03.05
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