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コナン・ドイル(深町眞理子訳)『シャーロック・ホームズの事件簿』~創元推理文庫、1991年~(Arthur Conan Doyle, The Case-Book of Sherlock Holmes, 1927) シャーロック・ホームズの短編集第5弾にして最終作。 著作権の関係で、創元推理文庫での阿部知二さんによる翻訳がかなわなかった中、ドイルの没後60年が過ぎ、著作権の問題がクリアされたため、深町さんによる翻訳で刊行された一冊とのこと。 本書には12編の短編が収録されています。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「高名な依頼人」殺人者として名高いが証拠不十分でつかまってはいないグルーナー男爵が、さる令嬢と結婚を進めようとしていた。令嬢は、男爵の不名誉なうわさは事実無根と信じ、周囲の反対に耳を貸さない。結婚を食い止めてほしいと依頼されたホームズがとった手段は。「白面の兵士」アフリカで義勇団の中で友人になった男が消息不明となった。依頼人が男の家を訪ね、一夜を過ごすと、友人の姿を見る。しかし、その詳細を調べようとすると、その父親から猛反対を受け…。なぜ友人は姿を見せないのか。「マザリンの宝石」盗まれた宝石をめぐり、犯人と目される男たちとホームズの戦いが繰り広げられる物語。「三破風館」息子も亡くした未亡人のもとに、彼女が住む家を一切の家財ごと買い取りたいという依頼が舞い込む。提示された金額に承諾しかけた彼女だが、身の回りの品まで何一つ残らずという奇妙な条件から、彼女はホームズに相談を持ち掛ける。「サセックスの吸血鬼」優しかった愛妻が急変し、赤ん坊にかみついて血を吸ったり、子どもに暴力をふるったりした…。後妻の急変に怒りながらも、夫はホームズに相談をする。果たして彼女の急変の原因とは。「ガリデブが三人」ガリデブという珍しい苗字の男性が3人集まれば、広大な土地・財産を分与するという奇妙な遺言が残されたと、弁護士のガリデブから話を持ち掛けられ、科学者気質のガリデブは違和感を抱きホームズに相談する。果たしてこの奇妙な話の裏とは。「ソア橋の怪事件」夫との仲が冷えていた女が、橋のたもとで死んでいた。住み込みの家庭教師の部屋に拳銃があり、また女との仲も険悪だったため、教師に疑いがかかるが…。「這う男」かなり年下の女性に恋をした高名な学者が、ある日を境に様子がおかしくなっていく。まるで這うように歩いたり、記憶が欠落していたり。助手から相談を持ち掛けられたホームズが見抜く真相とは。「ライオンのたてがみ」ライオンのたてがみという奇妙な言葉を残し、受験指導校の教師が死んでいた。みみずばれのような多くの傷を負って死んでいたその男ともめたことのある教師に疑いの目が向けられるが…。「覆面の下宿人」過去にサーカスに所属していた際、ライオンに襲われて顔に傷を負い、ベールをかぶって暮らしている下宿人から、ライオン事件の真相が語られる。「ショスコム・オールド・プレース」多くの借金を負い、次のレースでの自分の馬にすべてを賭けていた男が、納骨堂で掘り返すなど、奇妙な動きを見せ始め…。「引退した絵の具屋」妻とその情夫に、財産を持ち逃げされたとホームズのもとを訪れた元絵の具屋の物語。――― ホームズによる一人称作品(「白面の兵士」「ライオンのたてがみ」)や三人称スタイルの作品(「マザリンの宝石」)もあり、バラエティに富んでいます。これらも含め、シャーロッキアンたちの中で「聖典性」が疑われる(詳細は本書巻末の日暮雅通さんによる解説を参照)物語が収録されています。同じく巻末にエッセイを寄せた有栖川さんも、ある作品を特に「ナンセンス小説」と評していて、たしかにアレは「うーむ」となりましたが、そういう意味でもバラエティに富んだ作品集です。 かつて何かの形で読んだことがあり、「ソア橋の怪事件」の真相は知っていましたが、それでも物語の展開や伏線の妙にうなりました。これはやはり面白いです。 その他、印象的だったのは「ガリデブが三人」。まずタイトルの訳語が秀逸ですし、出発点となる奇妙な遺言も興味深く、面白く読みました。 ようやくシャーロック・ホームズシリーズの全作に目を通すことができて良かったです。(2022.05.05読了)・海外の作家一覧へ
2022.08.27
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コナン・ドイル(阿部知二訳)『シャーロック・ホームズの最後のあいさつ』~創元推理文庫、1960年(2022年71版)~(Arthur Conan Doyle, His Last Bow, 1917) シャーロック・ホームズシリーズ第4短編集です。8編の短編が収録されています。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。―――「藤(ウィスタリア)荘」社交好きなことから知り合ったガルシアに誘われ、その「藤荘」を訪れたエクルズが、奇妙な体験をしたとホームズのもとを訪れる。その夜、主人のガルシアはある手紙を読んで、ますますおかしな様子を見せたが、翌朝、「藤荘」にはガルシアも召使もいなくなっていたという。一方、ホームズのもとを訪れた警察から、ガルシアが殺されたと報告がなされる。「ボール箱」人付き合いのほとんどない女性のもとに、切断された人の耳が2つ入った段ボール箱が届けられるという猟奇的な事件。「赤輪党」初日にあいさつしてから、一切姿を見せない下宿人に不安をおぼえたおかみさんが、ホームズのもとを訪れる。食事も廊下に置いておくという徹底ぶりで…。「ブルース=パーティントン設計書」ホームズの兄マイクロフトからの依頼が舞い込む。国家機密級の設計図が紛失し、奪ったと思われる男は死亡、地下鉄にひかれた状態で発見された。一部の設計図は死亡した男が持っていたが、最も重要なものは紛失していて…。「瀕死の探偵」ホームズが重病で、何日も何も食べず、奇妙な言動をする…と、ホームズを心配したハドスンさんがワトスンのもとを訪れる。ぜひホームズの様子を見てほしいというのだが、訪れた先でホームズは、決して自分に近づくなと告げる。この難病を治せるのはある人物だけで、その人物を連れてほしいとワトスンに頼むのだが…。「フランシス・カーファクス姫の失踪」伯家の令嬢フランシス姫が失踪した。その足取りを追うために、スイスをはじめ、各地を訪ねるワトスンだが、「野蛮な男」も彼女の行方を追っていることを知り…。「悪魔の足」コーンウォルに休養に訪れたホームズとワトスンだが、そこでも怪事件の知らせが入る。牧師のもとに身を寄せる男が兄弟の家で過ごし、帰宅した翌朝、妹は恐怖にゆがんだ顔で死亡、その二人の兄弟は発狂したように笑っていたという。「最後のあいさつ」第一次世界大戦の最中、ドイツのスパイ、フォン・ボルクはイギリスで成果を上げていた。あるアメリカ人が様々な情報をリークしてくれていたのだが…。――― 子どもの頃にシャーロック・ホームズの短編はいろいろ読んだつもりですが、おそらくこの短編集は未読だったので(収録作品のタイトルに覚えがない)、新しい気持ちで楽しめました。「藤荘」の、宿泊した邸宅で翌日に主人以下全員がいなくなっていた、という奇妙な状況や、「赤輪党」の姿を見せない下宿人など、興味深い謎が盛りだくさんで好みでした。「最後のあいさつ」はいつもとは異なる描写で物語が進みます。なんとなく話は見えますが、第一世界大戦とからんだ興味深い物語でした。(2022.04.28読了)・海外の作家一覧へ
2022.08.20
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Franco Morenzoni, Des écoles aux paroisses. Thomas de Chobam et la promotion de la prédication au début du XIIIe siècle, Paris, Institut dÉtudes Augustiniennes, 1995 本書は、イングランドのソールズベリーで活躍した聖職者チョバムのトマス(1233/36没)をとりあげ、彼の主著『説教術大全』(Summa de arte praedicandi)と説教集を主要な史料として、13世紀初期の説教活動の実態と、トマスの意義を論じる一冊です。 我が国で説教術書史料について精力的に研究されている赤江雄一先生の最新の論文、赤江雄一「西洋中世における説教術書の伝統生成―説教術書は制度的ジャンルか―」赤江雄一/岩波敦子(編)『中世ヨーロッパの「伝統」―テクストの生成と運動―』慶應義塾大学言語文化研究所、2022年、3-20頁(6頁)でも、本書の著者モレンツォーニが説教術書研究において「特に優れた成果を上げている」研究者として紹介されています。 本書の構成は次のとおりです(拙訳)。―――謝辞序論第1章 チョバムのトマス第2章 12世紀から13世紀への転換期における説教活動のイメージと説教師の人物。あいまいな議論か?第3章 ペトルス・カントル。司牧のための学校第4章 『説教術大全』からみる説教活動の内容第5章 13世紀前半イングランドにおける司牧文学とその読者[聴衆]第6章 「説教術書」による説教技術第7章 説教師としてのチョバムのトマス結論――― 序論では、13世紀前半に誕生した托鉢修道会についての研究が主流となる中、低評価されてきた在俗聖職者の見直しを目的とすることが示されます。 第1章は、チョバムのトマスの略歴と著作の概要を提示します。 第2章は、トマスや同時代の説教師たちが説教活動をどのようにとらえたか(定義したか)、また聴衆や説教師に求められる資質などの問題についての議論です。 第3章はトマスの師にあたるペトルス・カントルに着目し、「講読」、「討論」を経て「説教活動」に至る訓練の流れについて、それぞれの過程の意義を論じるほか、悔悛の重要性や聖職者への批判など、ペトルスの著作に見られるいくつかのテーマについて論じます。 第4章は、「説教活動に必要な知識の獲得」を目的に執筆されたというトマスの『説教術大全』を主要史料として、最後の審判、美徳と悪徳などのテーマについてみていきます。 第5章は「聴罪手引き」や教会会議の決議などをとりあげます。 第6章は12世紀初頭から13世紀後半までの主要な「説教術書」を概観し、その中にトマスの『説教術大全』も含めることで、「説教術書」の扱う内容や要点の概観をつかめると同時に、トマスの著作の位置づけをとらえることができ、本書の中で最も興味深く読みました。 第7章は、トマスの説教史料を主要史料として、その説教の構造や説教の内容を分析します。 ジャック・ル・ゴフが『中世の高利貸』(邦訳書の刊行は1989年)の中で、トマスのチョバムの『聴罪大全』を主要な史料としているものの、トマスについては日本ではあまり研究が進んでいないように思われます。本書はトマスについて研究する上では出発点となる文献でしょう。 多くの中世説教に関する文献で本書が取り上げられていることから、この度手に取ってみました。ざっと読んだ部分も多いですが、説教術書の概観や位置づけ、説教の構造や内容などについて史料に基づく綿密な議論がなされていて、有用な一冊と思いました。ただ、「聴罪手引き」についてはあまりページが割かれていないため、ほかの文献でもっと勉強しなければと再認識した次第です。(2022.04.27読了)・西洋史関連(洋書)一覧へ
2022.08.14
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遠山茂樹『ロビン・フッドの森―中世イギリス森林史への誘い―』~刀水書房、2022年~ 刀水書房の「世界史の鏡」シリーズの1冊。同シリーズで、本書と同じく「E 環境」のテーマの書籍として、次の2冊が既刊です(いずれも本ブログで紹介)。・池上俊一『森と川―歴史を潤す自然の恵み―』刀水書房、2010年・石弘之『歴史を変えた火山噴火―自然災害の環境史―』刀水書房、2012年 著者の遠山先生は、東北公益文科大学名誉教授。『東北公益文科大学総合研究論集』に多くの論文や書評を発表されていて、機関リポジトリから無料で読むことができます(CiNiiからリンクあり)。 さて本書は、ロビン・フッドに代表される森のアウトローの観点を中心に、主に中世イングランドの森林史について、すでに発表された論文を踏まえながらも平易に語る一冊です。 本書の構成は次のとおりです。―――まえがき第1章 ロビン・フッド物語第2章 ガメリン物語第3章 森と兎第4章 ニューフォレストのミステリ第5章 「森の町」ウッドストック第6章 マグナ・カルタと御料林憲章第7章 グロウヴリィの森あとがき参考文献図版出典付録1 イングランド王家の系図付録2 中世イングランドの御料林――― 第1章は、ロビン・フッド物語の中でも最も鮮やかにそのアウトローの原像を描いているといわれる『ロビン・フッドの武勲』に着目し、主にその成立年代をめぐる研究史を整理します。同時代の他の史料に現れるロビン・フッドの名や制度など、先行研究が根拠とする史料にも目配りしながら、様々な説を紹介します。 第2章は、ロビン・フッド物語に影響を与えたガメリン物語を取り上げ、その概要をたどりながら、レスリングや裁判制度など、物語に描かれるテーマについて、同時代の状況も解説します。 第3章は、御料林制度や、森で狩りの対象となった主要な動物である鹿や兎について、その狩猟方法などを概観します。御料林に指定された地域では、「住民の生活よりも鹿のそれが優先され、村人の一部が追放された」(81頁)ような事例もあるようです。 第4章は、狩りの最中に矢を受けて亡くなったウィリアム2世(ルーファス=赤顔王)の死をめぐる研究史の整理です。邪悪なイメージが持たれたルーファスの死は天罰だったという史料の叙述や、事故死説、さらには同時代の様々な背景から、綿密に計画された殺人だったという説など、タイトルに「ミステリ」とあるように興味深い説が紹介されます。 第5章は、パーク(中世では主に鹿狩りを行うための猟園を意味)の概観や、最古の御料林法とされるウッドストック法の内容についての議論です。 第6章は有名なマグナ・カルタの中の御料林関連規定と、その派生物といえる御料林憲章の内容に概要や関連するテーマについての議論です。ここでは、悪事をはたらいていた御料林の長官の事例が興味深かったです。 第7章は、グロウヴリィの森を取り上げ、中世において森林伐採などで「持続可能な」仕組みがなされていたという興味深い指摘や、王の御料林であったその森が伯に移譲されたのち、もともとの権利をはく奪されたと近隣住民が抗議し、またその権利に関する祭が現在も行われているという事例を紹介します。 以上、ごく簡単なメモとなりましたが、語り口も平易で、興味深く読んだ一冊です。(2022.07.20読了)・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2022.08.06
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