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Carla Casagrande et Silvana Vecchio (traduit par Philippe Baillet), Les péchés de la langue, Paris, Cerf, 1991 西欧における罪のうち、「舌の罪」に着目し、その歴史的過程を描くとともに、個々の罪について論じる一冊。 著者たちは、12世紀末から13世紀半ばまでの70年間を考察の対象とし、またその時代を「舌の罪の時代」ととらえています。 本書の構成は次のとおりです(拙訳)。―――序文(ジャック・ル・ゴフ)序論第1部 舌の罪 第1章 12世紀末司牧的著作における饒舌、舌の罪、罪ある沈黙 第2章 ラウール・アルダンと舌の習慣 第3章 ことばの状況 第4章 ギョーム・ペロー―主悪徳と舌の罪 第5章 大食と雄弁の間の舌―『舌について』 第6章 スコラ学における舌の罪―ヘイルズのアレクサンダーからトマス・アクィナスまで 第7章 不変と新しさの諸要素―13~14世紀の司牧文学第2部 舌の様々な罪 第1章 Blasphemia[冒瀆] 第2章 Murmur[つぶやき] 第3章 Mendacium, Periurium, Falsum testimonium[嘘、偽りの宣誓、偽証] 第4章 Contentio[口論] 第5章 Maledictum[悪口] 第6章 Contumelia, Convicium[侮辱、叫び] 第7章 Detractio[中傷] 第8章 Adulatio[へつらい] 第9章 Iactantia, Ironia[自慢、皮肉] 第10章 Derisio[嘲笑] 第11章 Turpiloquium, Scurrilitas, Stultiloquium[下品、おどけ、たわごと] 第12章 Multiloquium[多弁] 第13章 Verbum otiosum, Vaniloquium[閑話、無駄話] 第14章 Taciturnitas[寡黙]参考文献目録――― 冒頭でも簡単に触れましたが、第1部が「舌の罪」に関する歴史的概観、第2部がその個々の罪に関する議論となっています(なお、私が「ことばの罪」と訳さず「舌の罪」としているのは、第2部では扱われないものの、第1部で若干「大食」などにも触れられるためです)。 特に興味深かった点についてメモ。 第3章の「ことばの状況」は、あまり訳が良くないですが、要はことばが発せられる状況(だれが、だれに、どこで、いつ、どのように)についての議論です。13世紀に、その状況についての考察が活況を呈するといいます。 第6章では、様々な舌の罪(や大罪)と美徳との関係に関する図が掲載されていて、便利です。 全体的にざっと流し読みの部分もありましたが、第2部の個々の罪に関する議論も興味深く、この度通読できて良かったです。(2022.09.18読了)・西洋史関連(洋書)一覧へ
2022.12.31
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平野啓一郎『日蝕』~新潮文庫、2002年~ 平野啓一郎さんのデビュー作にして、芥川賞受賞作です。 1482年、パリで神学を学んだ私―ドミニコ会士ニコラは、非常に興味深い写本の一部を見つけます。後にフィチーノ『ヘルメス選集』と知ることとなるその完本を求め、また関連する書籍を入手するため、彼はリヨンへ向かいます。ところが、当地の司教から、近隣の村で錬金術に造詣の深い人物を紹介され、その村を訪れてから、彼は思いがけない経験をすることになります。 堕落した生活を送る村の司祭。異端審問のためその村を訪れ、村人たちの尊敬を集める、同じドミニコ会士のジャックとの出会い。そして、錬金術師ピエールの博識と、その作業の神々しさ。ピエールに生活必需品を届けるギョーム、その唖の息子……。 ある日、森の奥深くに向かうピエールのあとを追ったニコラが目にする光景、そしてピエールたちに訪れる運命とは。 上の概略では、ピエール、ギョームと表記しましたが、作中ではピエェル、ギョオムと表記されます。パリは巴里など、地名は漢字。そのた多くの言葉が漢字表記で、まるで明治期に翻訳されたかのような体裁です。そのためやや読み進めにくく、神学的な考察など、ニコラの内面の描写も多いですが、洞窟でのある出会いから、物語は一気に進展し、どんどん読み進められました。 かつて、学生時分に同期に勧められて読んで以来ですから、20年ぶりくらいの再読になりますが、興味深く読みました。(2022.09.11読了)・は行の作家一覧へ
2022.12.30
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坂東眞砂子『死国』~角川文庫、1996年~ 映画にもなった有名な長編小説。四国(特に高知県)を舞台とした、「伝奇ロマン」(背表紙より)です。 イラストレーターの比奈子さんは、東京での生活と恋人から逃れるべく、幼少期を過ごした高知県矢狗村を訪れます。仲良しだった莎代里が中学生の頃に亡くなっていたこと、初恋の文也さんが既に離婚していて、村役場でつとめていることなどを知ります。そして、文也さんとの距離が近づいていく中、身に覚えのないイラスト、莎代里の歌声、暴風雨などの怪現象が二人を襲います。 莎代里の母は、彼女をよみがえらせるため、四国88か所の霊場を、莎代里の歳の数だけ逆にめぐり、ついに莎代里が生き返ったといいます。一方、ある村では、男たちが順番に遍路に出るという風習がありました。 莎代里さんへの、そして文也さんへの様々な思いを抱きながら、なんとか前に進もうとする比奈子さんを待ち受けるのは……。 村の風習を守る老女。遍路を続ける男。文也さんの視点。そして、比奈子さんの視点の、主に4つの視点で、物語は進みます。莎代里さんの母の言動など、少し背筋が寒くなるようなシーンもあり、歴史というか民俗を描く要素もあり、久々(20年以上ぶり?)の再読でしたが、面白かったです。(2022.09.03読了)・は行の作家一覧へ
2022.12.29
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夏目漱石『こころ』~新潮文庫、1983年改版~ 人に裏切られ、また人を裏切ることになる一人の人物を描く物語です。 鎌倉で、書生の「私」は先生に出会います。先生は、学があるにもかかわらず、特段の仕事もせず、世間から離れて暮らしていました。そんな先生にどこかひかれた「私」は、何度も先生の家を訪れるようになります。 必ず一人である人物の墓参りに行くこと。決して過去のことを語ろうとしないこと。とつぜん、激するように「私」をさとすこと。どこか暗い影のある先生のこうした言動に、「私」は先生の過去を聞きたいとせがみます。生きた経験から、先生の様々な言葉があるのだろう、と。 しかし、実家の父が病になり、「私」は故郷に戻ります。兄弟に連絡をとり、父の死を待つような状態になる中、先生から手紙が届きます。 そこで先生は、自分の過去を「私」に託します。 過去に一度読んでいましたが、記事が書けていなかったので、このたび再読しました。 もともと新聞に連載されていたようで、一節一節が短いので割と読み進めやすかったです。 高校か中学の教科書か何かで読んだときは、先生の手紙のなかの、先生とK、そしてお嬢さんたちのやり取りが中心で、どうしてもそのイメージがありましたが、そこは本書の第3部。書生の「私」と先生の交流を描く第1部「先生と私」、そして「私」と家族(両親)を描く第2部「両親と私」も、印象的でした。 第1部では、先生が謎の人物のように語られ、何が先生を今のような生き方にしたのか、「私」と同じように関心を持ちます。第2部では、いなか特有の考え方への反感、両親や家族への思い、そして先生の手紙を受けてからの「私」の行動など、印象的なシーンがありました。(2022.08.27読了)・な行の作家一覧へ
2022.12.25
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高田崇史『QED 神鹿の棺』~講談社ノベルス、2022年~ QEDシリーズの長編です。 2006年。 奈々さん、崇さんは、小松崎さんの誘いで、パワースポットとして知られる東国三社を訪れることになります。元々、茨城県のある村の神社から、だいぶ昔の白骨死体が入れられた瓶が見つかり、他にも多くの甕が見つかったことから、知り合いのジャーナリストがその神社を調べている…というのが、発端です。 常陸の名の由来にはじまり、東国三社(香取神宮、鹿島神宮、息栖神社)がつくる二等辺三角形の意味するもの、そしてそれぞれの神々の由来の真相などなど、今回も崇さんの説に興味が尽きません。 一方、事件のほうは、これらの歴史に秘められた謎もからめられた、ある(これは完全にフィクションの)村の風習をモチーフにしています。昔のものの白骨死体と同様、瓶に入れられていた死体が意味するものとは。そして崇さんは、なぜさらなる事件の展開を予知できたのか。こちらも面白いです。 初版限定で、講談社ノベルス創刊40周年記念のショートストーリーが付いているのも嬉しいです。(2022.08.15読了)・た行の作家一覧へ
2022.12.24
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アン・ブレア(住本規子ほか訳)『情報爆発―初期近代ヨーロッパの情報管理術―』~中央公論新社、2018年~(Ann M. Blair, Too Much to Know. Managing Scholarly Information before the Modern Age, New Haven & London, Yale University Press, 2010) 本書は、初期近代におけるレファレンス書(辞書など、「通読することよりも参照することを目的として作られた、大部の文書情報集成物」(394頁序論注1)に着目し、あふれる情報への対応方法、情報管理、ノート作成、レファレンス書作成の動機や、レファレンス書が社会に与えた影響について論じる一冊です。 訳者解題によれば、著者のアン・ブレアはハーヴァード大学で、ユニヴァーシティー・プロフェッサー(複数の学術領域を横断する画期的な研究の創始者と認められる名誉ある地位で、ハーヴァード大学のどの学部でも自由に研究できる特権をともなう。訳者解題執筆時点で26名とのこと)に任じられているそうです。 本書の構成は次のとおりです。―――凡例編集方法序論第1章 比較の観点から見た情報管理第2章 情報管理としてのノート作成第3章 レファレンス書のジャンルと検索装置第4章 編纂者たち、その動機と方法第5章 初期印刷レファレンス書の衝撃エピローグ謝辞訳者解題原注引用文献索引――― 序論は、本書の問題関心と本書の構成を提示します。ここでは、文書管理の4つのS(蓄えることstoring、分類することsorting、選択することselecting、要約することsummarizing)の提示が興味深いです。 第1章では、古代、中世、さらには西欧以外との比較の観点から、ビザンティウム、イスラーム、中国での文書管理の在り方が概観されます。私の問題関心からは、中世のレファレンス書に関する記述が重要なのですが、その他興味深かったのは、、初期刊本(インキュナブラ)の時代(1500年以前)には、「初期印刷本の所有者たちは、専門のルブリケーターに金を払って蔵書に色を入れてもらうこともできた」(65頁)という、ルブリケーターという職業への言及です。しかし彼らは、依頼に応じて手稿本にルブリケーションを施すこともしており、間もなくこの職業は消えたとか。写本では色彩などで見え方の工夫ができましたが、印刷術により、空白のスペースや様々な書体といった、ページを読みやすくするための様々な工夫が生まれていったという指摘も面白いです。 第2章は、ノート作成の歴史を概観した後、記憶の補助・書くことの補助としてのノート作成、またノート管理など、ノート作成にまつわる諸側面について論じます。面白かった点をいくつかメモ。中世のノートでわかりやすいものと取り上げられる写本欄外の書き込みへの言及の際、「職業的な読み手」による書き込みが指摘されていること(87頁)。あまりにも著名な神学者、トマス・アクィナスの筆跡が「あまりに読みにくかった」こと(105頁)。なお、そのため自筆原稿からの清書が間違いだらけだったので、それ以後はじかに口述筆記での執筆になったとのことです。 第3章は、初期近代の様々なレファレンス書(辞典、詞華集、読書録など)、検索装置(典拠一覧、見出し一覧、アルファベット順索引など)、書物についての書物(蔵書目録、文献目録、販売目録など)、そして百科事典についての紹介で、特に興味深く読みました。 第4章以降は、初期近代の特徴的なレファレンス書である『ポリテンテア』と『人生の劇場』という著作に着目し、第4章はその編纂者たちの動機や編纂方法を、第5章はこれらが同時代の(そして後世の)社会に与えた影響を論じます。 二段組で本論300頁以上、さらに膨大な参考文献目録と注が付され、索引も含めると全体で446頁と重厚な一冊。今回は流し読みした部分もありますが、いくつかの研究で言及されるのを見て気になっていたので、この度目を通せてよかったです。(2022.08.11読了)・西洋史関連(邦訳書)一覧へ
2022.12.17
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高田崇史『QED 源氏の神霊』~講談社ノベルス、2021年~ QEDシリーズの長編です。 今回の主な謎は、源頼政はなぜ77歳にして平家打倒のため挙兵したのか、です。 奈々さんの妹、沙織さんの結婚式のため、京都を訪れた奈々さんと崇さんは、翌日、平等院などを巡ります。そこには、誰も問題提起すらしていない謎―頼政挙兵と、なぜその一族がとどめるのでなく彼についていったのかを解く鍵があるといいます。 * 一方、乱暴をはたらくと祟りがあると言われる頼政塚で、首と腹を切られた男性の死体が発見されます。同日、行方不明になっていたその息子も、下関で発見されるのですが、はたしてその事件の真相は……。 今回も興味深く読みました。(2022.08.07読了)・た行の作家一覧へ
2022.12.10
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三上延『ビブリア古書堂の事件手帖III~扉子と虚ろな夢~』~メディアワークス文庫、2022年~ 扉子さん編第3弾の長編です。幕間をはさみながら、大きく3つの本をめぐる物語からなります。 古本屋を継ぐ予定だった男性が亡くなり、元妻は自分の子に相続権があるため、男性の本をすべて子に相続させたい、とビブリア古書堂を訪れます。というのも、亡くなった康明さんの父、正臣さんが、康明さんの蔵書をすべて引き取り、デパートで開催される古本市で売り払おうとしているので、蔵書が売られてしまうのを防ぎたい、というのです。 一方、依頼主の子―正臣さんの孫の恭一郎さんは、正臣さんにお願いされ、古本市の手伝いのアルバイトをします。そこで扉子さんに出会い、本についての話を聞いたり、古本市で起こった奇妙な出来事の解決に立ち会ったりします。 映画パンフレットの袋に書かれたアルファベットが意味するものは。 樋口一葉の数ある本の中から、1冊だけいつの間にか売れてしまった理由は。 夢野久作『ドグラ・マグラ』をめぐる物語とは。 そして、そこまで乱暴な人ではなかったはずの正臣さんは、なぜ亡くなった康明さんの蔵書を相続させず、売り払おうとしているのか…。 これは面白かったです。 後味が良くはありませんが、それでも扉子さんと恭一郎さんのほほえましい交流や、同じく栞子さんと大輔さんの微笑ましいやりとり、古本市で一緒に働く古本屋の人々の人柄など、あたたかい要素も盛りだくさんでした。(2022.07.31)・ま行の作家一覧へ
2022.12.03
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