全4件 (4件中 1-4件目)
1
![]()
三上延『ビブリア古書堂の事件手帖II~扉子と空白の時~』~メディアワークス文庫、2020年~ 扉子さんが登場する、シリーズ再始動後の第2作。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。――― 2012年。 3姉妹の長女が亡くなり、彼女の秋世が持っていた一冊の本が盗まれていた。長女の双子の妹、春子と初子はお互いにいがみあっていて、初子が疑いの目を向けられていた。―そのように、初子の娘、井浦清美がビブリア古書堂を訪れ訴える。 盗まれたのは、単行本が刊行されたことがないはずの、横溝正史『雪割草』。存在しないはずの本だが、その家にはあったということで、栞子はどのような本だったのか、推理を進める。同時に、盗みについても調べるが、初子にはアリバイがありそうで…。――― 2012年、完全に解決できなかった事件が、9年後(『雪割草』の原稿が発見されて単行本も発売された後)に解決をみる、という、作中でもありますが、『病院坂の首縊りの家』のような構造で、横溝正史の作品が好きな身としては嬉しい物語でした。 同時に、幕間に語られる、扉子さんと『獄門島』をめぐるエピソードも秀逸にして印象的です。 これは面白かったです。(2022.07.30読了)・ま行の作家一覧へ
2022.11.26
コメント(0)
![]()
~岩波書店、2022年~ 以前紹介した『世界歴史08』に続く時代を扱う1巻。本書でも、「ヨーロッパ」だけでなく、西アジアと一体的に当時を見ていくという立場が貫かれています。 本書の構成は次のとおりです。―――<展望>大黒俊二・林佳世子「中世ヨーロッパ・西アジアの国家形成と文化変容」(コラム)井谷鋼造「セルジューク朝からオスマン朝へ―アナトリアとイスタンブルの刻銘文資料から」<問題群>鶴島博和「中世ブリテンにおける魚眼的グローバル・ヒストリー論」藤井真生「帝国領チェコにみる中世「民族」の形成と変容」(コラム)図師宣忠「史実とフィクションのあわいを探る―歴史解釈としての映画の可能性」五十嵐大介「西アジアの軍人奴隷政権」<焦点>小澤実「異文化の交差点としての北欧」黒田祐我「レコンキスタの実像―征服後の都市空間にみる文化的融合」(コラム)高橋英海「西アジアのキリスト教をめぐる環境の変容―バルヘブラエウスの生涯を例に」三浦徹「宗教寄進のストラテジー―ワクフの比較研究」(コラム)甚野尚志「朝河貫一とグレッチェン・ウォレン」久木田直江「「女性の医学」―西洋中世の身体とジェンダーを読み解く」辻明日香「イスラーム支配下のコプト教会」(コラム)大稔哲也「子を喪ったイスラーム教徒にいかなる慰めがあり得たのか」佐々木博光「中世のユダヤ人―ともに生きるとは」――― 展望論文では、西洋史の立場から大黒先生が西欧各国の11-15世紀を概観しつつ、本書収録の論考をその中に位置づけ、西アジアの立場から林先生が西アジアを二つの時期に分けて通史的に概観したのち、ビザンツ帝国との関連を見ます。展望論文では、冒頭に置かれた「トランスカルチュラルな絡み合い」という概念が重要で、これは「文化はゆるやかな統一体として存在しながら流動と変性を繰り返し、そうした動きはとくに他文化との境において顕著な姿を示すとみる」立場です。この見方には、従来の歴史叙述に見られた「目的論ないし直線的発展」を排する特徴があると指摘されます。 問題群はヨーロッパ関連2本、西アジア関連1本の論考です。 鶴島論文は魚≒漁業に着目し、その周期性が軍事的戦略にも用いられたことや、干潟の領有権をめぐる問題、船の技術や製塩業など様々な側面も含め、ブリテン諸島の「グローバル・ヒストリー」を描きます。 藤井論文はチェコの「民族」意識をめぐる論考。神聖ローマ帝国との関係性や、フス派運動をチェコ人固有の信仰・思想とする従来の見方への批判などが興味深いです。『世界歴史08』所収の三佐川亮宏「ヨーロッパにおける帝国観念と民族意識―中世ドイツ人のアイデンティティ問題」もあわせて読むと、中世の「民族」意識に関する議論への理解がさらに深まるように思われました。 五十嵐論文は、マムルークと呼ばれる奴隷出身軍人が将軍であった王朝・マムルーク朝の位置づけを論じます。その王朝名から、奴隷出身軍人が将軍をつとめたと考えられますが、実際には非マムルークの人物が一部家系の中から将軍が輩出される時期もあり、後期に「マムルーク化」していったことが指摘されます。 焦点として6本の論考が収録されています。 小澤論文は「辺境」とされた北欧の人々が、大陸などに積極的にかかわっており(ヴァイキングの侵攻が有名ですがそれだけでなく交易も含めて)、辺境としての見方への修正を促します。 黒田論文はレコンキスタ期に、モスクが教会として転用された事例に着目し、それは必ずしも従来言われたような「寛容」ではなく、キリスト教の勝利と優位を示す側面があったことを強調します。 三浦論文は、ワクフと呼ばれる主にマドラサ(学院)などへの寄付(寄進)行為について論じます。本稿で最も興味深いのは、比較研究として、ヨーロッパ、中東・イスラーム、中国、日本の寄付(寄進)の在り方が比較・整理されている点です。 久木田論文は「女性の医学」として、中世ヨーロッパにおける女性の身体や産科の位置づけに着目し、ジェンダー論的な観点から論じます。 辻論文はエジプトでのコプト教会とイスラームとのかかわりを論じます。興味深い事例として、1301年、イスラーム側からキリスト教徒は青色の、ユダヤ教徒は黄色のターバンの着用を義務付けられますが、やがて14世紀後半にはこれらの色のターバンはキリスト教徒などである証として誇りをもって受け入れられるようになり、14世紀後半の聖人伝では再改宗を望む元キリスト教徒たちが青色のターバンを再び着用する描写がみられる、とのことです(253-254頁)。 佐々木論文は、「寛容」「不寛容」、「迫害」「共生」の2項対立的な観点から論じられてきたユダヤ人の在り方について、説教史料と聖史劇を主要史料とした分析により、たしかに共生はあった、しかしそれは差別的なまなざしも同時にあったものだったとして、より多角的な、慎重な見方を提唱します。 以上、興味深い諸論考の収録された1冊です。(2022.10.12読了)・西洋史関連(邦語文献)一覧へ
2022.11.19
コメント(2)
![]()
麻耶雄嵩『メルカトル悪人狩り』~講談社ノベルス、2021年~ 悪徳銘探偵・メルカトル鮎が活躍する短編集です。6編の短編+2編のショートショートが収録されています。 それでは、それ簡単にそれぞれの内容紹介と感想を。―――「愛護精神」美袋の大家の犬が死に、近所の学生が埋めていた。大家である、悪い噂も多い未亡人は、犬は殺されたと主張し、メルカトルの捜査を依頼するのだが…。「水曜日と金曜日が嫌い」道に迷った美袋は大邸宅にたどり着く。高名な博士が住んでいたその邸宅には、博士が育てていた孤児4人が、博士の冥福を祈り集まっていた。そんな中、博士を思わせる謎の人物が現れ、その人物が向かった小屋には、多くの血が飛び散っていたが、死体は見つからなかった。さらに、4人の中の一人も殺されて…。「不要不急」ショートショート。「名探偵の自筆調書」同じく。味わい深いです。「囁くもの」知り合いのワンマン社長からの依頼でその邸宅を訪れたメルカトルと美袋だが、肝心の社長は急用で帰宅できず、秘書や家族と過ごすことになる。その夜、賊が侵入したかのような状況で、殺人事件が起こる。果たしてメルカトルの推理法は。「メルカトル・ナイト」トランプのカードがKから順番にカウントダウンするように送られてくる。何かの予告ではないか…。そう依頼を持ち掛けた有名作家の依頼で、彼女の泊まるホテルに一泊することになったメルカトルたちだが。「天女五衰」天女伝説の残る地の別荘地に滞在していたメルカトルたちだが、メンバーの一人が殺される。それまでの行動からメルカトルがたどり着く真相は。「メルカトル式捜査法」体調を崩したメルカトルは、過去に知り合った人物の誘いで別荘地を訪れ保養する…はずだったが、そこでもまた殺人事件が発生。居眠りをするなど、いつもらしくないメルカトルが発揮する捜査法とは。――― 久々のメルカトル鮎シリーズの短編集です。あらためて、メルカトルってこんな悪い人なんですよね…。そして美袋さんはとある企画で最下位となってショックを受けたりと、面白いコンビです。 印象的だったのは、「水曜日と金曜日が嫌い」。血まみれの小屋には被害者がいないなど、いわゆる不可解状況のインパクトの強い作品です。「囁くもの」も解決方法というかメルカトルさんの語り(騙り?)が印象的です。そんなことあるんですね…。 どれも読みやすく面白かったです。(2022.06.23読了)・ま行の作家一覧へ
2022.11.12
コメント(0)
![]()
池上嘉彦『ふしぎなことば ことばのふしぎ』~筑摩書房、2022年~ 筑摩書房ホームページの新刊案内で気になったので手に取った一冊。 著者の池上先生は東京大学名誉教授で、言語学者。『意味論』『記号論への招待』『ことばの詩学』など、著書多数のようです。 本書の初出は1987年。おおもとは、ラボ教育センターから刊行されていた月刊誌『ことばの宇宙』に、1984年から2年間連載されたものとのことで、ことばについて子どもたちに向けて書かれたやさしいエッセイという趣です。 本書の構成は次のとおりです。―――はじめに1 ことばの始まり2 擬声語と擬態語3 絵文字と文字4 同音語5 「音」と「色」6 なぜ「辞書」は「ひく」のか7 新しい世界を創ることば8 「ひゆ」―たとえるということ9 おかしなことば、おかしな言いまわし10 「よい」意味のことば、「悪い」意味のことば11 おさるのおしりはなぜ赤い12 「かえ歌」と「パロディ」13 「なまえ」と「あだな」14 身振りとことば15 動物の「ことば」16 人間の「ことば」おわりに 伝えることばと創り出すことば次に読んでほしい本――― 全体で125頁ほどで、字も大きく、ですます体で読みやすく書かれているので、読み終えるのは早かったですが、内容も面白いです。 前提として、言語学の初歩を教えてくれたり、ことばのふしぎについての知識を与えてくれる、という性格ではありません。もちろん、構成にあるように、「擬声語」や「ひゆ」などについての基本的事項は教えてくれますが、本書が目指すのは、ことばのふしぎについて、一緒に考えよう、というスタンスと感じました。(たとえば、いろんなクイズも出されますが、答えは示されません。) そして、7章と「おわりに」に、「創る」という言葉があるように、本書では、ことばが新しい世界を創り出す力を持っている、という点を強調しています。上に、池上先生の著作に『ことばの詩学』があると紹介しましたが、本書でも、詩から多くの例が引かれています。様々なことば遊びも紹介されます。ことばには、伝えるだけでなく、「あそび」によって新しい世界を創り出す力があるんだよ、いろんな言葉について少し立ち止まって考えてみよう。そういうメッセージを届けてくれるように思います。 良い読書体験でした。(2022.10.01読了)・その他教養一覧へ
2022.11.05
コメント(0)
全4件 (4件中 1-4件目)
1