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筒井康隆『美藝公』 ~文春文庫、1985年~ 筒井康隆さんによる長編小説。 日本が映画産業で大成し、各国に映画を輸出している…そういう世界での物語です。 主人公は、映画脚本家のおれ―里井勝夫さんです。彼は、「全国民のアイドルでありスーパー・スタアであると言われ」る美藝公・穂高小四郎の友人にして、手がけた数々の映画をヒットさせた名脚本家です。 新人作家の作品「炭鉱」を映画にすることに決まり、美藝公をふくめそのブレーンたちで詳細を練っていきながら、国に働きかけ炭鉱業の国営化と強靭化を働きかけ、撮影の準備を進めていきます。 炭鉱事故での美藝公たちの奮闘(撮影に臨み彼らがどれだけ努力していたか)、試写会での関係者の感動、幸せすぎるこの世界に疑問を抱き、もうひとつの世界を空想しブレーンたちと共有する里井さんと、これらのシーンは特に感動でした。 また、里井さんと世界的な女優との恋。これを、(作中の世界はこの現世界とは違うので)マスコミが騒ぎ立てることはありません。また、重要な映画の構想などについても、マスコミたちはきちんと配慮して報道します。一方、里井さんが空想し、ブレーンたちが具体的なイメージを膨らませるもうひとつの世界では、日本は資本主義・平等主義で、スターやアイドルへの尊敬はなく、むしろ人々は彼らを侮辱し、マスコミはスキャンダルを暴きたて、人々の文化的教養も低いレベルになっていきます。今ある世界とは異なる世界について本気で議論し肉付けしていくブレーンたちの教養の高さがすさまじいものを持っています。 これは面白かったです。良い読書体験でした。(2021.12.31読了)・た行の作家一覧へ
2022.02.26
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竹内海南江『冬虫夏草』 ~幻冬舎文庫、1997年~ 「世界ふしぎ発見!」のミステリーハンターとしておなじみの竹内海南江さんによる小説(2作目)です。 第1作品『ムーン』がだいぶ優しいタッチだったのに対して、こちらはなかなか苦しい描写も多いです(ただ、文体は優しいです)。 物語は、僕―幸一郎さんの一人称で進みます。 都会に出てきて9度目の春。ある日、鏡に紫色の瞳を持つ女性―沙羅が現れ、彼は鏡の中に連れていかれます。そこは、僕の心の中の世界。素直に生きていない僕に、沙羅はいらいらしています。 沙羅のことが忘れられなくなった僕ですが、沙羅はなかなか姿を現しません。そこで、沙羅がよこしてくれたのが、昔は神様だったというパンという名の老人でした。またある日、登校拒否の女子高生も交えて話をすることになり、僕はチェルノブイリの問題など、普段意識していない問題に目を向け始めます。 一方、パンが病気になるのをはじめ、沙羅そっくりの悪女が現れて、僕の生活は変わっていきます。 「個性、個性」と言いながら、「マニュアルどおりの光合成をさせられる」ような学校に苦しさを感じている少女、伊織さんの悲痛な叫びに、事なかれ主義で生きてきた僕が動揺するシーンや、僕の心が腐敗してしまうのを必死で食い止めようとするパンの姿など、印象的なシーンがいくつもありました。 2004年頃に本作の感想を記事にしていましたが、あまりにひどいので削除しました(開設からしばらくはひどい記事が多いですが…)。今回久々に再読し、あらためて記事にする次第です。(2021.12.27読了)・た行の作家一覧へ
2022.02.19
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高田崇史『千葉千波の怪奇日記 化けて出る』~講談社ノベルス、2011年~ 千葉千波の事件日記シリーズ第5弾(にして番外編?)。5編の短編が収録されています。 ついに大学生になったぴいくんたち(よかった!)ですが、彼らが入学した国際江戸川大学には七不思議があり、様々な事件に巻き込まれます。饗庭慎之介さんと同じ学部の奈良古都里さんと水無月海月さんという新たなメンバーも加わり、にぎやかに物語は進みます。 ――― 「千葉千波の怪奇日記・美術室の怪 油絵が笑う」入学式の日に階段から落ち、「階段落ちくん」や「落っこちくん」というあだ名になってしまうぴいくん。その階段の隣の美術室には、油絵が笑うという噂があった。また、そのころ誘拐事件も起きていて…、 「千葉千波の怪奇日記・体育館の怪 首が転がる」はるか昔、無実の罪でとらえられ首を切られた男の首が転がった場所に、大学の体育館が建てられたという。その男の呪いか、体育館のバスケットコートには怖い噂もあったが、そこで会っていたカップルが、倒れてきたバスケットの支柱で重体になるという事件が起こり…。 「千葉千波の怪奇日記・音楽室の怪 靴が鳴る」誰もいないはずの音楽室で、ピアノから「靴が鳴る」が聞こえるという噂があった。音楽室にまつわる死亡事件も起こっていた。ある日、ピアノの修理で、自動演奏が原因と思われたが、実際に「靴が鳴る」を聞いた学生たちは全く違う雰囲気だったと主張して…。 「千葉千波の怪奇日記・学食の怪 箸が転ぶ」学食で決まった席で一人きりで食べていた男子学生が、突然激高して女子学生を殺害し、自らも死亡するという事件がかつて起きていた。その席で決まって食べていた4人の男女が、順番に命を落としていく。 「立って飲む―「立ち呑みの日」殺人事件―」立ち呑みの日の割引券をもらった慎之介たちは、参加店をはしごしながら楽しんでいたが、その町には幽霊が出るという噂があった。そんな中、実際に殺人事件が起こり…。 ――― と、怪談とミステリが融合したような趣向で、パズル感はかなり薄れています(千波くんも4編では探偵役をつとめますが、あまり登場しません)。千波くんのパズルのかわりに、ぴいくんの面白(?)クイズが出題され、古都里さんにぼろくそに言われてしまいます。 千葉千波の事件日記シリーズは刊行当時読んでいて、ここ最近は再読していましたが、本書は今回が初めてで、ぴいくんたちの学生生活を楽しく読みました。(2021.12.25読了)・た行の作家一覧へ
2022.02.12
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高田崇史『パズル自由自在 千葉千波の事件日記』 ~講談社ノベルス、2005年~ 千葉千波の事件日記シリーズ第4弾。6編の短編が収録されています。 ――― 「桜三月三本道」お花見で場所が近かったおばさんたちと一緒に過ごすことになったぴいくんたち。一人のおばさんとぴいくんの妹のチョコちゃんがトイレに行ったのち、チョコちゃんが迷子になってしまう。鍵を握るのは何度かに一度必ず嘘をつくというおじいさんの証言で…。 「迷路な二人」親戚に頼まれて迷路の案内係を引き受けたぴいくんたち。ところが案内係は被り物を着てしないといけず、また怪しい人物が迷路に逃げ込んで、事態はややこしいことに。 「徒競走協奏曲」チョコちゃんの小学校の運動会に応援にきたぴいくんたち。ところが学校では二日前に校庭で誰かが焚火をするという事件があったり、当日もリレー中に何人かの生徒が逆走してきたりと、波乱だらけの展開に。 「似ているポニーテール」千波くんのコンサートのリハーサルで、参加者のヴァイオリンがなくなってしまうという事件が起きる。さらに、千波くんのフルートまでなくなっていて…。 「ゲーム・イン・ゲーム」2年前、千波くんの家で起きた事件。千波くんたちとゲームで楽しんでいた中、不審者が侵入してきて…。 「直前必勝チャート式誘拐」知り合いが誘拐されてしまうという大事件が発生。しかし、その知り合いはなんとか自力で脱出して無事だった。けれども、誘拐犯の居場所の手掛かりが、近くにはないはずの「動物園」で…。 ――― この中では「徒競走…」と「似ている…」が、シュールなパズル感も少なく好みの物語でした。 久々に本文中にある算数の問題に挑戦してみました。なんとかなってほっとしています。(2021.12.12頃読了)・た行の作家一覧へ
2022.02.06
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