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「猫風船」いかがですか(笑)。原稿用紙3枚くらいの量ですから、写すのも気楽です。写していると 奇想への展開 がよくわかって面白いですが、たとえば 「降ろす」 と 「下ろす」 とか、 「眼」 と 「目」 とかが書き換えられているのはどう違うのだろう?なんていうことに目がいって、まあ、それはそれで面白いんですが、どうでもいいのかもしれませんね。
今年の夏は、梅雨がなかなか明けなかったから涼しいまま終わるのかと思っていたら、急に暑くなった。そのせいで寝つきが悪く、眠りも浅くなった。眠ったと思ったら、悪夢にうなされて目覚める。おかげで日中に眠気が襲ってくる。強い陽射しのなかを歩いていても、頭はボーッとしたままだ。
どこかで休みたい。小公園があった。いくつかベンチはあるが、涼しい木陰の席にはすでに先人がどこも横になっている。陽射しが当たっているベンチさえ、三毛猫が丸くなっている。暑くないのだろうか。近づくと猫は薄目を開け、こちらを見上げた。先住者の権利を主張しているようだが、私はベンチに腰を降ろした。
ベンチの座は陽に照らされている。それでも風が涼しい。腰を下ろし、背にもたれた。猫はベンチの端まで歩いてまた丸くなったが、眼をギラリと光らせてこちらを睨む。どうしてもこのベンチを死守するつもりらしい。そこまで私は占拠するつもりはない。少しでも休めればいい。
それにしても陽射しは激しい。蝉の声が騒がしい。それでもやがて蝉の声も気にならなくなった。たぶん少し眠ったのだろう。
気づけばギャーギャーと猫の声がする。うるさいから眼を開けると、眼の前に三毛猫の大きな顔がある。しきりに声を上げている。なんだって猫はこんなに大きくなったのだろう。きっと暑くて、熱で膨れたに違いない。猫の臭いもする。うるさいから、あっちへ行けと、膨れ上がった猫の顔を手でどけた。
手には抵抗感はなかったのに、猫の顔がフッと消えた。どこへ行ったか。ベンチの下か。いない。またギャーギャー鳴いている。なんだ上か。膨れた猫は宙に浮かんでいた。風が吹く。気持ちがいい。見上げると猫はさらに大きく膨らんで、上空に舞い上がっていく。よく見ると空には、いくつもの猫風船が浮かんでいる。白、黒、ブチ、虎毛、三毛。ギャーギャーと鳴く声も小さくなった。なんだ、真上にギラギラ燃えているのも巨大な猫のめじゃあないか。空はどうやら一杯に膨れ、広がった猫風船におおわれてしまったらしい。猫の目は激しく燃えている。怒っている。暑くてたまらない。
目次
アカンベー 7 ホホエミ食堂 10 ラブレター 14 そっくりな他人 16 ヒトデナシ 23 みんな待っている 26 琉金 29 落書き 33 ゴキブリ 41 ウミ、ドチデスカ 43 球体住居 47 落とし穴 51 素晴らしき伝説 55 猫風船 59 蝉 61 小さなゴジラ 64 とてもセクシー 67 指人形 70 ヒノハナ 73 烏たち 78 筋肉隆々 82 ロボット売ります 86 陽気な三人 94 座敷のイロハニー 98 蟻 101 天使のくせに 104 カレー味の消防団 110 平和ですなあ 112 破れ太鼓 116 大事なもの 119 プチ家出 123 冬眠 125 風邪はひけない 128泣き虫サンタ 134 節分 139 動物園に行こう 141 花見の女 148 ポロポロ落ちる 150 誰もが眠る日 152 新住民 155 万物創生 159
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