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書物法廷赤城毅講談社ノベルス☆☆☆☆☆ この小説は広義のミステリになると思う。「書物狩人」シリーズの第三作目。一国の運命を左右し世界を震撼させるような一冊の本を狩る「書物狩人」、その中でも「ル・シャスール」とフランス語で呼ばれる二つ名を持つ男は凄腕。日本人のようで、若く見えるが髪の毛が全て白銀色という男がそのル・シャスールだ。 今回も様々な来歴を持つ本のなかで色々なことが語られる。絶滅してしまった鳥、ある歴史上の有名人の日記や言葉、あるいはあるものが隠された場所…。ル・シャスールが追う書物の中身もこの本を読む上で次はどんな素材が扱われるのか楽しみでもある。また、場面の雰囲気やル・シャスールその人が謎めいた筆致で描写されているのも、読んでいて楽しい。 この作品は今でも連載中らしいし、この巻で宿敵らしきキャラも現れた。今後の展開が楽しみだ。
May 30, 2010
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川に死体のある風景歌野晶午、黒田研二、大倉崇裕、佳多山大地、綾辻行人、有栖川有栖創元推理文庫☆☆☆☆☆◎ かなりツボだった連作短編集。タイトルの通り川に死体がある、というのがお題のミステリ競作集だ。このお題を広義に解釈してというのがテーマ。なので、中には川に死体というより別の場所に死体があるような印象を受ける作品があるが、それはそれで、ミステリ短編としても面白かったし、一作くらいこんなブラックシープが紛れ込んでいるほうが読んでいて面白い。私も自宅のすぐそばに川が流れているので、何となく気になって読んだが面白かった。結構期待したのだが、残念ながら、期待した我が家の近くの川は出てこなかったけど。 成田→ミュンヒェン間の飛行機の中で読み始め、読み終わってしまった。地に足がついていない時にこんな小説を読むのもいいかもしれない。
May 22, 2010
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ウィーンの辻音楽師グリパルツァー作岩波文庫☆☆☆☆◎ ウィーンに旅行に行くことになったので、図書館で見つけて読んでみた。1979年初版の結構古い本だ。表題作の他にゼンドミールの修道院~ある伝承実話にもとづく~を収録。 舞台は19世紀半ばのウィーン。「私」がふと見かけた辻音楽師はヴァイオリンの腕ももう劣化している。が、貧しいのにどこか品があって若い頃は裕福だったのではと思わせる。そして、この辻音楽師の住居を訪ねると、若い頃からの話を聞かせてくれる…。 富裕な家庭に育ったものの、若くして家族を亡くし貧乏になっていく過程がかなり今の状態とあいまってみにつまされた。最後は貧乏の中、洪水にみまわれ、自分の家は無事だったのに、他の人を助けようとして死んでしまい、若い頃結婚しそうになった中年女がダンナを指図して葬式を取り仕切る。にしても縁起わるいかも、この本読んだの。ただ、地名やお祭りの名前が出てきて楽しかったので、あとでガイドの地図と較べてみよう。 またもう一作の「ゼンドミールの修道院」も著者の実体験に基づいたものではないかと訳者の後書きで述べられていたが、舞台は17世紀末のポーランドの修道院。こちらの方がストーリーに起伏があって読みやすかった。しかも夫婦間の姦通と家族の問題なので、私には縁がないし。 このグリパルツァー(1791~1871)という人はこの2作しか短編小説は発表しておらず、生前は有名な劇作家だったそうだ。晩年は自作が批評家にけなされたこともあって、人嫌いになってしまったとか。古い時代の雰囲気は好きだが、気が滅入る本を読んでしまった……
May 19, 2010
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デウスの棄て児嶽本野ばら小学館 四六上製☆☆☆☆☆ 天草四郎のことを書いた小説。独特の少女趣味を湛える作品の著者にしては異色の小説だと思う。見かけたときからずっと気になっていたのだが、今日、ようやく読むことができた。取り扱うジャンルは異色だが、読んでみると作品の持つ雰囲気は、私が今まで読んだ2作とさほどかけ離れてはいない。 天草四郎の生涯と内面の書き方が意外で、(というかこの著者ならこっちの方向に書くだろうけど)面白く読めた。また作中にちらりと顔を出す、マニアックなキリスト教の薀蓄も魅力的なスパイスになっている。それに、最後まで天草四郎についていく人々と四郎の態度も感動的だった。さほど長い小説ではないが、文章も読みやすく、それでいて雰囲気のある小説だった。
May 18, 2010
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アイルランドの柩エリン・ハートランダムハウス講談社 文庫☆☆☆☆☆ 原題は"Haunted Ground"。正直、この邦題がベストかどうかよく分からないし、本文中も普通名詞に~たちとつけていて、読んでいてなんだかなーと思ってしまった。だが、他は特に訳文に不満があったわけではない。 泥炭堀りをしていた農夫がそこで女性の頭部を発見する。泥炭層からは昔の遺物がほとんど腐敗することなく発見されることがあるのだが、2000年くらい前の人間の不精髭がそのまま保存されていたりするほどらしい。この女性の頭部はいつのものかすらすぐには分からないので、ダブリンから考古学者、コーマックとアメリカ人の解剖学者ノーラが呼ばれる。そして、この発見された女性は若い女性だが、末期に苦悶の表情を浮かべているのだ。しかもこの地域では、2年半ほど前、子連れの女性が失踪している。まもなく、この女性は「赤毛の娘」を意味する「カリーン・ルア」と呼ばれ、17世紀頃の女性と推定される。さらに、この地方の名士の失踪した妻子の行方にも絡んでストーリーは展開する。 ノーラやコーマック、そして捜査にあたっているデヴァニー全員がなんらかのわだかまりのある人々で、作中それが顔をのぞかせる。特にノーラの過去は彼女がこの調査に関わる姿勢に大きな影響を与える。さらに、現在の地域開発と17世紀半ばのオリバー・クロムウェルの征服時代、カトリックが迫害され、プロテスタントの支配を受けていた時代からの様子もストーリーに関わり、それらが絡み合って最後には全ての謎が解決される。 現在の謎と17世紀半ばに生きた「カリーン・ルア」、また荒涼として、古城や崩れかけた塔、修道院跡など、アイルランドの風景が浮かびそうな場面にパブでアイリッシュミュージックを奏でる人々、(コーマックもデヴァニーも、さらにノーラも音楽に参加する場面があるのだ)また口承の古い歌をコーマックが聴きに行く場面もあり、謎解きとともに楽しめた。 作者はエリン(アイルランドの古名)という名のアメリカ人。何度もアイルランドを訪れるうちに、アイリッシュミュージシャンの夫とアイルランドで暮らしているそうだ。全編、私たち外国人が持つアイルランドのイメージが小説の上に現れているような感じがするのも、作者のアイルランドに対する愛着ゆえだろう。映像化しても見ごたえがありそうだ。
May 18, 2010
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ぼくと1ルピーの神様ヴィカス・スワラップランダムハウス講談社 文庫☆☆☆☆☆ アカデミー賞を取った「スラムドッグ・ミリオネア」の原作。貧しくて教養の無いはずの孤児の18歳の少年がどうしてクイズ番組を最後まで勝ち抜けたのか……? ラム・ムハンマド・トーマスというヒンズー教・イスラム教・キリスト教の名前という非常に変わった名前を持った彼は、汚職はびこるインドで当然疑われ、逮捕されてしまう。そこに助けに来た弁護士に、何故自分がクイズ全てに正解することが出来たのかを打ち明ける。そこからストーリーは始まる。 クイズの問題一つ一つに何故答えられたのか…それは、クイズの問題が彼の人生に関わりのあるものばかりだったから。ただ、ラムの場合はそれだけではない。彼は教養が無くて英語も話せないと思われているが、生い立ちの中、彼は英語も話せる。それに、波乱に満ちた人生をわずか18歳ながら生き抜いてきただけあって、とても機転の利く頭の回転の速い、そして悪いことに手を染めることもなかったまっとうな性格の少年なのだ。 今のインドの貧困に根ざす様々な問題が彼の人生から垣間見える。虐待、売春、腐敗、汚職……どれも陰惨なものばかりだ。でも、読んでいると、無論彼の優秀さも分かるが、わらしべ長者のような幸運にも恵まれているのだ。それは、彼が人生の選択を迫られる場面で占い師に貰ったコインでコイントスをするのだが、それが全てよい方に出る。でもそのコインも両面に表が刻まれているコインだったということがラストで分かる。確かに彼の人生は幸運だが、自分で切り開いてきたものでもあるのだ。 彼の人生が語られる場面は子供の頃からではなく、クイズの設問に応じて時代が前後するので、時々こんがらがったが、ページをめくるのがやめられず、結局一晩で読んでしまった。買ってからしばらく積読状態だった本だが、面白い本でよかった。そういえば、作中、タージマハルに来た日本人観光客はやっぱり「ビデオカメラ他で完全武装した」っていう描写になってて、なんだかんだとある意味、ラムにカモられてたんだよね。う~ん、やっぱり日本人ってそういうイメージなんだろうな。
May 13, 2010
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長田昌明わらべ書房 A5並製☆☆☆☆☆ 先日の沖縄旅行中に那覇のジュンク堂書店で購入した本。今、楽天とアマゾンで検索してみたが、案の定、ひっかからなかった。多分、取次ぎ通してないんじゃないかな?奈良もそうなのだが、こういう地方出版の本が好きなので、旅先では可能な限り地元の書店をのぞくようにしている。(東京にも専門店があったが、2年半前に閉店してた…) 1960年前後の沖縄の新聞三面記事を集めたような内容。この本の前書きなどを見て、昔懐かしい「ウィークエンダー」的な内容を想像していたのだが、最初4分の1は違った。米軍基地絡みの内容だったのだ。それもか~るく書いてあるが、内容は深刻。ガソリンが広範囲に流出したとか、灯火管制が行われたとか、小学校に米軍機が墜落して死傷者が多数出たとか……。あと車の課税額もYナンバーだったという米軍の軍用車はかな~り安かったそうだ。まだ沖縄返還前(返還は1971年5月15日だ)のことなのだが、こんなことがあったのなら、そりゃ、基地アレルギーにもなるだろうな、という内容。ただし、昭和35年前後の話なので、東京だって映画「Always 3丁目の夕日」の世界なのだが……。この映画のパート2では戦争がらみのネタが挿入されてるし。しばらくは貨幣も違っていて「B円」なるものがあったそうで、その切り替え直後に当時の米ドルで250万ドル詐欺した女性の話は結構凄いが…当時1ドル360円だったはずだ。そうすると大体9億円くらいの話だぞ……。また、沖縄の歴史上の人物の紹介があったのもよかった。沖縄の歴史、本があったら、ちょっと読んでみようかな。 あとは、当初の期待通り、沖縄独特の珍事件の内容が続く。ユタのことや鮫のこと…。ただ、ちょっと困ったのは沖縄の人向けなのか、時々方言がそのまま書かれていて、しばらく考えないと、意味が分からなかったのだ。「石敢当」は知っていたが、「艦砲ぬ喰い残さー」という言葉はショックだった。 旅行したとは行っても、那覇と久高島と斎場御嶽しか行ってないので、地名が出てきてもよく分からなかったが、少しだけ現実味を感じながら読めた。 そういえば、この本と前に読んだ↓の「シリ先生がゆく」なんとなく、時代と気候も近いし、雰囲気が似てるかも。 ちなみに右上のような表紙。だから、ウィークエンダーのような記事を想像したのだが……。
May 11, 2010
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老検死官シリ先生がゆくコリン・コッタリルヴィレッジブックス 文庫☆☆☆☆☆◎ 1976年、前年に共産主義国になったラオスが舞台。その国内でただ一人の検死官がシリ先生だ。この設定だけで、好奇心をそそられて読んだ。 ちょうど、同時期に行われていた中国の文化大革命中の雰囲気がある。物資もなく、人材難(インテリはみんな国外に逃げたのだ)、庶民の生活は貧しい。日本だと終戦後しばらくして経済成長が始まる前の雰囲気だ。また、共産化しているだけあって、好ましからざる人物は「セミナー」だのなんだのに送られるし、一般庶民が教育省とやらの命で「喜んで」休日にもドブさらいだのの社会奉仕活動を強いられたりする。 そんな社会状況の中、シリ先生は、72歳。若い頃フランスで教育を受け、愛した妻がいたから共産主義運動に加わったという経歴の持ち主。妻が死んで、引退できると思っていたら、国内たった一人の検死官に任命されてしまうが、助手はタイの芸能誌と漫画ばかり読んでいる看護師とダウン症の青年。だが、先生の人徳かこの二人も役に立つ。 そんなシリ先生のところに共産党幹部の奥さんの遺体が運び込まれてくる。先生は死因に疑問を持つが亭主がとっとと葬ってしまう。さらに立て続けに怪しげな遺体が運び込まれてくる。特にベトナム人の遺体には拷問を受けたような後もあり、調査を始めたシリ先生の身辺がキナ臭くなっていく。 が、ここで、シリ先生には科学的な能力に加え、超自然の能力があることが分かってくる。周囲は誰一人信じないが、そういう能力に恵まれていなければ切り抜けられない危機を切り抜け、先生は協力者達とともに事件を解決に導くのだ。 ないないづくしの検死現場にシリ先生の能力、共産主義政権下で全体主義の社会でありながら、どこかのんびりしているように感じるのはどうしてだろう?連続殺人で陰惨なはずなのに、ところどころ読んでいていて楽しい場面もあり、飽きない。原書は賞も受賞しており、シリーズになっているそうだ。続巻も是非読みたい。
May 11, 2010
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【中古】【古本】七百年の薔薇 上/ルイス・ガネット【中古】【古本】七百年の薔薇 下/ルイス・ガネットルイス・ガネット作 北見隆装幀早川書房 四六上製 別扉あり☆☆☆☆☆ カリフォルニアに住む16歳の少年、トランス・スプーアのもとに、離婚後別に住み、音信不通だった父から手紙が届く。その内容はトランスは700年にわたる歴史のある家の後継者であり、この家系は呪われていて、代々の当主は嫡子をもうけたあと、50歳にならず気が狂って死ぬ……という常軌を逸した内容だった。トランスはその父の住む館にやってくる。そこは崖の上に建つ豪奢な屋敷で、007もかくやというハイテクグッズの数々が仕込まれている。これは全て、父マルコムが息子トランスを観察するためのものだ。さらにこの屋敷には12頭の赤い目の大型犬、薔薇の花もある。父マルコムはそこにマッチョな従僕ピップとともに住んでいるのだ。 これの条件だけでもかなりゴシック小説というか、耽美な雰囲気が漂うが、トランスはゲイ。しかもこの700年にわたるスプーア家の呪いにも呪われてゆがんだ男性同士の愛と執着が底にあるのだから……。本当に、もっと文章が感情的・感覚的なら日本の女性向けかと思うところだ。ただ、恋愛を描写するよりも、700年にわたる呪いとはどんなものであったのかに描写が費やされているので、恋愛小説ではない。それに、色々設定も超能力者が出てきたり、型破りなハイスクールの授業があったりして、新鮮に感じた。ただ終わりかたが結構あっけらかんと片付きすぎたような気がしないでもないかな。 ちなみにこんなブックデザイン。表紙4側カバー絵は上巻・下巻共通だ。この本のカバー絵を撮る時にやっと気づいたのだが、表紙1側のカバー絵は上下巻で一枚の絵を二つに分けて使っていたようだ。このカバーからもこの本の耽美な雰囲気が良く出ていると思う。やっぱりカバー絵は前に今邑彩の作品でいいなと思った北見隆さんだった。
May 7, 2010
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