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耳なし芳一からの手紙内田康夫角川文庫☆☆☆☆☆ タイトルからも分かる通り、下関が舞台の浅見光彦シリーズ。カドカワノベルズ初版が平成2年。実は、この作中の漫画家志望の若い女性というのが、私が東西冷戦時代だった25年くらい前からファンをしている漫画家さんだいう噂を聞いて、ずっと読んでみたかったのだ。ウィキで確認してみたが、モデルについては多分間違いないと思う。浅見はよく寄稿している「旅と歴史」の編集長に彼女を紹介するが、この雑誌とよく似たタイトルの雑誌をかつて出していた出版社でこの漫画家さんは今も執筆しておられる。さらに作中出てくる女装の男というのも、この漫画家さんの作風と密接に繋がってるし。(そういえば、松本清張も取材した歴史学徒の女性をモデルにして「火の路」を書いたみたいなんだっけ)ちなみに上記の文章で分かる人にはモデルの漫画家さんが分かると思う。 下関の観光スポットのうち、源平の合戦絡みとあとは幕末の七卿都落ち、そして敗戦直後の混乱期の引き上げが主なテーマ。あとはふぐを食べたりと旅情もたっぷりだ。 また、この作品、上記の漫画家志望の女性と彼女と一緒に出てくるヤクザ崩れの高山がイイキャラだし、ちょっと個人的な性癖もあって映像化された姿を見てみたい登場人物もいるので、是非映像化してほしいけどなぁ。と思ってググってみたら、2008年に中村俊介さんの浅見光彦で映像化されてたのか…。観たいなあ。DVD探してみよう。でも漫画化はされているらしい。ちょっと読んでみたい。あと、下関にもいつか行ってみたいな。
June 30, 2010
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風車祭(カジマヤー)価格:2,600円(税込、送料別)池上永一文藝春秋 四六上製 銀座の沖縄専門店で見かけ、(図書館で借りて)読んでみた。530ページ本文2段組の大作。なので、1週間くらいかけて読むつもりでいたら、2日で読んでしまった……。 内容は、軽妙な文章で、石垣島版「いじわるばあさん」に幽霊の美女と島の高校生の話に島を襲う天変地異が混じる。また、マブイだのユタだの、どこまでが現実でどこからが誇張かなーという沖縄の雰囲気が楽しめる。長寿の人が多いので有名な沖縄だが、この石垣島版いじわるばあさん、いやいじわるオバァ仲村渠(なかんだかり)フジは御年95歳。来年には数え97歳の祝い、カジマヤー(風車祭)を祝ってもらうのをず~っと楽しみにしている。このフジオバァの家には50年前に出戻ってきた娘トミ(80歳)についこの間亭主と離婚してきた孫娘ハツ(62歳)と同居している。ちなみにこの孫娘ハツにも娘の美津子(45歳)と彼女の娘優子(20歳)がいて、優子のお腹にも…というという状態だ。このいじわるばあさんの家系が図太く続くと思うとちょっと空恐ろしい。とはいえ、いじわるオバァはフジオバァだけだ。あとはまあ、それなりに普通である。登場人物はそれ以外にも6本足の雌豚ギーギー、医者の娘の睦子と郁子姉妹、島の高校生武志の友達宏行、そして、18歳でお嫁に行くとき、途中で駕籠から降りて用足しをしようとして、そのまま石になり、さらにその3年後、大津波でその石の体がなくなってマブイ(魂)だけになって現代まできてしまった、1750年生まれの娘ピシャーマなどなどである。長いだけに他の登場人物も個性的、さらに季節ごとの島の年中行事なども織り込まれているし、さらに方言も沢山使われていて、読みながらディープな島の観光を楽しんでいる気分になれる。沖縄を舞台にした好みの小説を探していたのだが、やっと見つけられた。
June 28, 2010
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深泥丘奇談綾辻行人メディアファクトリー 四六上製☆☆☆☆☆◎ 連作短編集。ブックデザインも水彩画調でとてもキレイ。見返しにも絵が入っている。というか、著者あとがきが本文と見返しの用紙にわたって印刷され、さらに見返しの部分に著者略歴や初出がイラストとともに印刷されている。こんなことになっている本を他に見た記憶がない。もしかして、土壇場でページ数に何か問題がでたんじゃないだろうか、といううがった想像をしてしまった。 このタイトルをみておや?と思う人も多いと思う。その通りで、この小説、京都を模した都市が舞台である。有名な地名がはっきりと分かり易い変名で登場する。深泥丘もその一つだ。 著者にそっくりな「本格ミステリ作家」が主人公。彼は、検査入院で一日深泥丘病院に入院するのだが、そこで怪異に遭う。そして、その後、ことあるごとにこの病院に通うことになるのだが、その度に怪異に巻き込まれる。しかし、その時の主人公の反応がとても面白い。また、主人公の妻の反応など、彼の住む地域には怪異が日常に溶け込んでいるかのような描写もいい。さらに、深泥丘病院もかなりアヤしい雰囲気が芬芬としているのだ。 著者本人等身大の主人公なので、私小説のようだが、私小説とは全く逆で、まず現実にはありえそうもない事件に遭遇する。なまじ主人公の日常に生活観がにじみ出ているだけに、非現実的な事件とのギャップと、その事件の記憶に対する主人公の反応とあいまって、現実と非現実の間のあいまいさを感じるが、それがいい雰囲気になっている。古代を舞台にした本や翻訳の小説ばかり読んだ後で、現代日本の小説が読みたかったところで、ちょうど好みの小説に出会えたのだ。続巻が出るといいなあ。
June 27, 2010
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鬼を斬る価格:400円(税込、送料別)藤木稟祥伝社文庫☆☆☆☆☆ 何年か前に「中編小説の愉しみ」というシリーズの一環で出た本。別の作品を読んだ記憶がある。そして、この作品、タイトル通りの内容ではない。 明治初期の日本。まだ江戸時代と変わらない生活を送る奈良県吉野の村に架橋を監査する役人として赴いた士族崩れの立花はそこで、幼女誘拐殺人事件に遭遇する。幼女の首を持つ鬼を見たという目撃もあるというのだ。立花は、地元の歴史・伝説を収集している朱雀男爵と知り合う。彼から神武東征に関係する記紀の記述と神道の神との相似点などを聞いて日々を過ごす。さらに、立花に対する村の対応は過分なまでであった。さらに、地元の呆けた老人から不審なことを訊かれたりもする。 この人の代表的なシリーズをちょっとだけ読んだことがあるのだが、そのシリーズの主人公の祖父(だったっけ?)がこの作品に出てくる朱雀男爵だそうだ。神武東征と神道の神に対する朱雀男爵の見解や、廃仏毀釈の影響を受けた廃寺の僧侶の描写は面白かった。
June 26, 2010
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持衰篠埼紘一郁朋社 四六上製☆☆☆☆ 縄文時代・弥生時代・古墳時代の三つの時代に材を採った短編?中編?三作。どれも男女の関係を書いていて、古代小説で恋愛小説ともいえるかも……。表題の持衰(じさい)とは、弥生時代に一族のものが遠い旅に出るとき、過酷な物忌みをして、道中、旅人に降りかかる災いをわが身に引き受け、彼らが帰らなければ殺されてしまうという悲惨な役目のことだ。異母兄がその一行の長になり、若い妹はその無事を祈り…という設定だった。この作品には邪馬台国や他の魏志倭人伝で見た記憶のある地名が出てくる。ちなみにこの当時異母きょうだいの婚姻はOKである。縄文時代を舞台にした「夕日を浴びて」は、狩猟のみで生きる一族の飢え、農耕民である弥生人の集落、その両者の中間にある村の描写や、縄文人と弥生人の容貌の違いなども描写されていて面白い。古墳時代の話「常世へ」は一族の長の後とりと奴婢の娘との恋愛話だが、最後に別のカップルの様子も出てくる。 三作品とも時折古代の言葉らしい大和言葉?が挿入されていて、文章が独特だった。専業の小説家の人ではないそうだ。作中では感じないが、あとがきや作品の紹介の仕方がどーもビジネス書というかP●P文庫のようというか…もうすこし感覚的・感情的な描写があるととっつきやすいと思う。邪馬台国卑弥呼の後継者、台与(とよ)を主人公にした長編が代表作のようで、第一回古代ロマン文学大賞受賞作とのことだ。この表題作はその長編のスピンオフ的なところもあるのかな。
June 25, 2010
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子麻呂が奔る黒岩重吾文藝春秋 四六上製☆☆☆☆◎ ↓に書いた「斑鳩宮始末記」の続巻の短編集。実は、「斑鳩宮始末記」の前にこの本を読み始めていたのだが、途中でどうも前作がありそうな気がして、探したら「斑鳩宮~」があったので、両作の各短編の冒頭かその近くに年号と西暦が明記されているので、時系列が明らかに先な「斑鳩宮~」を読み始め先に読み終わってから、途中で中休みにしておいたこの本に戻った。もっとも逆に読んでみてもネタバレはないが、年号・西暦が明記してあるので、この本より前作から読んだ方が、主人公子麻呂の妻子や彼の腹心魚足の家庭の変化がわかって面白い。 こちらの小説の内容の傾向も前作と変わらない。地道な聞き取りを中心に捜査を続ける子麻呂だが、徐々に厩戸皇太子(聖徳太子)の腹心でしかも犯罪捜査の下級ないし中級役人子麻呂も嫌われたり諂われたりと忙しくなってくる。また、子麻呂を通じて描写される厩戸皇太子は理想主義者だが育ちが良すぎて凄惨な奴婢の暮らしなどは理解の外にあるが、公平で英明な名君として描かれているが、この巻では、遣隋使の派遣が失敗に終わり、厭世的になっていく。 ちなみに子麻呂は前巻の冒頭に西暦600年に30歳と記述されている。そして、ウィキによると聖徳太子の生年は574年なので、子麻呂より少々年下だ。今、調べるまでもう少し年上だと思ってた……。この年の近さ、それとなーく作中に書いておいてくれればよかったのに……。そして、面白いのは、子麻呂の長男は優秀な子供に描かれているが、厩戸皇太子の嫡男、山背大兄王は父に較べてイマイチに描かれている。今までは、悲劇の最期を遂げたせいで、割と同情的に優秀そうに描かれていたので、この描かれ方は意外だった。また、時代描写は申し分ないと思うが、子麻呂の女関係はどーでもいいよ…。女に惹かれるたびに捜査の目が狂いそうになったりするんだから…。魚足は気にならないんだけどなあ。
June 24, 2010
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斑鳩宮始末記黒岩重吾文藝春秋 四六上製☆☆☆☆◎ 短編集。タイトルから聖徳太子が探偵役だと思ったら、彼が創設した犯罪捜査専門の下級官吏、調首子麻呂(つきのおびとねまろ)が主人公。彼の上司が秦河勝、腹心の部下が魚足(のちに秦部魚足)。推古八年(西暦600年)が第一話。子麻呂30歳。後、大体一年ごとに一作くらいで小説の中の時間が推移していく。 子麻呂の捜査は関係者に話を聞くことだけで行われる。最初のうちは、慣れぬことで先入観から捜査を進めてしまったりもする。事件は結構男女関係絡みで気持ちの悪い描写も多い。ストーリーが進むにつれて、子麻呂の捜査手法も慣れていく。時折登場する聖徳太子(作中では厩戸皇太子)の論理的に考え、何事も平等・公平に見ようとする姿勢が子麻呂の指針となっている。実際の捜査にあたる子麻呂や魚足よりも厩戸皇太子や秦河勝の方が探偵役のように書かれているかも。 蘇我氏の妨害に合いながらも、旧来の大豪族が血筋のみで高位を独占している状況を打破し、有能な渡来人系の一族を冠位十二階によって登用しようとしたり、憲法十七条で仏教国家としての理想とする律令政治を目指そうとする厩戸皇太子の姿勢が作中にずっと描かれている。とはいえ、庶民の子麻呂にしてみれば雲の上のこと。まるで現代の公務員の捜査刑事をそのまま飛鳥時代にもってきたようで、根麻呂の妻子や魚足の結婚(一夫多妻の当時、2番目の奥さんをもらう記述がある)の様子、また妻問い婚の当時の住宅事情も描かれている。 事件の内容がグロかったり、えげつない男女関係にしているのが少々不満だが、斑鳩を中心とした当時の地形の描写も楽しく、地図を見ながら読んでも面白そうだ。
June 24, 2010
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遠き面影(上)遠き面影(下)ロバート・ゴダード講談社文庫☆☆☆☆☆ 前から気になっていた著者だが、上下巻が多く読み終わるのに時間がかかりそうなので何となく敬遠していた。今回はじめて読んでみた。 期待して読み始めたせいか、最初は少々退屈に感じなくもなかった。大体、自分の仕事先で友人でもある社長の奥さん(この女、ジコチュウリア充のなれの果てで結構ウザいかも)と付き合っていて、それが後ろめたいからと、この社長の依頼で、彼の叔父が所有する18世紀の指輪を社長の兄を助けて競り落としにイギリスに行き、そこで知り合った美女(らしい)と…というのがあんまり好みじゃなかった。主人公ハーディングが巻き込まれた事件が大きく動き始める上巻の最後の方から面白くなってきて、(上記の女二人の出番も減ったな、そういえば…)最後は14世紀にまで話が及ぶ。また、この18世紀にある船の難破事件も13世紀の事件も実際に起こった事件だったり、実際に語り継がれている出来事のようだ。著者のプロフィールによるとゴダードはケンブリッジで歴史を勉強した人だったんだ…。現代の事件・18世紀の難破(史実)・14世紀の伝説の三つが見事に絡まったストーリーで読み応えはある。さらに、ミステリの謎解きに超自然的なネタを隠し味的に加えていて、イギリス史に詳しい人ならかなり面白い内容ではなかろうか。ただし、作中扱われている難破事件と14世紀の伝説(背景になった社会状況はかなり有名というか常識に入りかねないので、日本人でも欧州史に詳しい人なら14世紀と聞いてピンと来ると思う)がイギリスでどの程度の知名度なのかは知らないが。個人的な好みだとこの作品の14世紀に由来する「隠し味」がもう少し味わえるともっと好みだった。 また、知らずに読んだのだが、イギリスの小説だが、舞台はモナコ、イギリス、イギリスの島、ミュンヒェンなどあちこちに飛ぶ。そして、偶然一月前にミュンヒェンに行ったことがあるため、空港からアウトバーンをタクシーで、とか、地元の人が来ないから、ホフブロイハウスで…などと書いてあって、モロ、私が通ったり、行ったりした場所である。でもホフブロイハウスはかなり騒々しいから密談には不向きだと思うけど。 歴史ネタに伝説や現代の事件を絡めた日本の小説も好きで結構読むが、外国の歴史や伝説であってもやっぱり興味深い。この著者、こんな作風なら他の小説も読んでみたいが、登場人物の設定があんまり好みじゃないかもなあ…
June 23, 2010
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【中古】afb【古本】忌品 戦慄ホラー小説集/太田忠司太田忠司徳間ノベルズ☆☆☆☆☆ 死者の遺した「遺品」にまつわる短編集。眼鏡、口紅、靴、ホームページ、携帯電話、スケッチブック、万華鏡、手紙の9編で、最後の手紙のみ書き下ろし。どれもなかなか凝ったストーリーでなおかつヒヤッとする内容なのだが、最後の手紙がいい演出効果を出していて、完成度が高い短編集になっている。ただし、怪談じみた小説ではない。設定そのほかでいかにもフィクションな雰囲気があるので、読んでいてもはっきりホラー小説だとアタマで認識しながら読んでいける。それでも怖いときは怖いが。この著者の作品は以前「月読」を読んだことがあるが、この作品のほうが好みだ。
June 16, 2010
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なぜ絵版師に頼まなかったのか北森鴻光文社 四六並製☆☆☆☆☆◎ 短編集。最初、この「お助けガイジン」で、明治時代のお雇い外国人の誰かが探偵役だと思っていたら、彼(ら)はどちらかというと黒幕。実際の調査には、お雇い外国人で東大の医学部主任教授エルウィン・フォン・ベルツ(黒幕)の書生葛城冬馬とアヤしげな新聞記者だの扇子屋だの僧侶だのと転職している市川喜三郎(一番最初の親につけられた名前、その後作中で変転する)。 まだ不安定な社会をバックに、熱烈な日本贔屓であるベルツ他のお雇い外国人(作中実際に登場するのはナウマン、モース)他(外科医のユリウス・スクリバも黒幕補として登場、風刺画家のビゴーも出てくる)のキャラも面白いし、市川喜三郎のキャラもいい。また時々明治の元勲の名前が怪しげにささやかれる。明治元年生まれで作中少年から青年へと変わっていく冬馬とベルツ他の大人とのやり取りがコメディータッチで面白い。
June 11, 2010
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修道女フィデルマの叡智ピーター・トレメイン創元推理文庫☆☆☆☆☆◎ 短編集。最初は近代~現代物かと思って中身を拾い読みしたら、なんと、7世紀のアイルランドの法廷弁護士(ドーリィ)が活躍するミステリだった。日本だと大化の改新が645年。平城京遷都より前の話である。実は、この時代の北西ヨーロッパなんて、蛮族の国だと思っていたのだが、アイルランドのブレホン法は実践から発展した複雑な法制度で5世紀には成文化され、イギリス統治になっても17世紀まで存続していていたそうな。また、この作品当時のアイルランドは男女同権が認められている。(ちなみに同性愛もブレホン的にはオッケーだそーな) もっともミステリとしてはとても典型的なフーダニット、ホワイダニットの作品。死体を囲む人々との面談をもとに、とても論理的に検証が進められていく。普通は短編集の方が読みやすいと思うのだが、この作品の場合、短編集であるがゆえに、7世紀アイルランドという、歴史物大好きの私好みの舞台がじっくり描写されているわけではない。それが少々残念だが、立ち並ぶ古代の王たちの陵墓の様子やこの時代のキリスト教会、神学論争などもかなり興味深い。この短編集の他にもう一つの短編集が近刊となっており、3つの長編の邦訳が出版されているようなので探してみよう。これも続刊が楽しみなシリーズだ。
June 10, 2010
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鳥辺野にて加門七海光文社文庫☆☆☆☆◎ 江戸時代から大正時代ぐらいまでの時代色の強いホラー・怪談系の短編・掌編集。短編が8、掌編が4だ。どの作品も「牡丹灯篭」みたいな怖さがある。幸か不幸か夜中に1人で読めないほどではないけれど。だがこういう感じの怪談は好きだ。 表題作の「鳥辺野にて」と掌編の「阿房宮にて」は結構グロテスクかも。私はこの加減好きだけど。割合先が読めるものから、登場人物が語られる物語の当事者なのかわざと曖昧であったり、語り手がこちら側だと思っていたらあちら側にいたり、とちょっとした意外性があるのもただの怪談と違うところだろう。読み終わってから寒気がしたり、重厚な読み応えは長編ホラーに譲るとして、短編の淡々とした怪談小説集もいい。
June 9, 2010
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ルーン文字ポール・ジョンソン著創元社 173x148(mm)上製カバー箔押しあり☆☆☆☆◎ 古代ケルト・北欧の文字。どちらかというと異教のお呪いのイメージが強かったのだが、様々な意匠が凝らされたせいかもしれない。そうした魔術文字としての用途もないわけではないが物事を書き留める文字としてもちゃんと機能していたのだ。それがキリスト教の普及とともに現代のアルファベットに置き換わったらしい。全60ページの小さな本でしかも、図版多数であるため、ルーン文字29文字それぞれの象徴とルーン文字の記された遺物のイラストがほとんどで、詳細な歴史や用法がかかれてはいない。 ただ、私もそんなにマニアックな情報が欲しかったわけではないので、この本くらいの情報量と図版の多さが読んでいて楽しかった。29文字を頭文字にして各文字の意味を表した詩もあるそうだ。表意文字・表音文字両方として機能していたらしい。また、3と9の数を神聖視して、垂直な3本・右上から左下斜めの3本・左上から右下斜めの3本からなる格子に29文字全てのルーンが収まる、というのは面白い。 ルーン文字のお守りが日本でも売られているが、それの意味をちょっと確認するのに、この本はいいと思う。そういえば、アイスランドのお土産にバックルがルーン文字のベルト買ったんだっけ。ちょっと探してみよう。
June 8, 2010
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【中古】afb【古本】マルヴェッツィ館の殺人 上/ケイト・ロス【中古】afb【古本】マルヴェッツィ館の殺人 下/ケイト・ロスケイト・ロス講談社文庫☆☆☆☆☆◎ネタバレ部分は背景色と同色にしてありますが、未読でこれを読むと、本当に興ざめになりますので、ご注意ください。 19世紀初頭、イギリス貴族のジュリアン・ケストレルを主人公としたミステリシリーズの最終巻、というか遺作。著者はこの本を書いてから41歳の若さで癌のため亡くなっている。 最初から解説を読んでいたので、この作品で最後というのは分かっているが残念。この作品がシリーズ中でも一番読み応えがあった。まあ、長いってものあるけれど。 これまでとは変わって、ジュリアンは従僕のディッパー、親友(になっている)の医師マクレガーを伴って、イタリア旅行中。4年半前、急死した名門貴族の当主ロドヴィゴ・マルヴェッツィ侯爵が実は殺人だったと知り、その解決を買って出る。事件は侯爵が殺された夜に姿を消した、テノール歌手、通称オルフェオが犯人との色が濃いが、オルフェオはそれ以来消息不明。殺された侯爵は唯我独尊の傲慢なオヤジ。その弟は自由主義者、そして若い後妻、無能でプライドばかり高く、父親にはまるでアタマの上がらない唯一の息子、その妻はカストラートに入れあげて、こっそりお付き合いしていればいいものの、彼の元に走ってしまう…。といういかにも込み入ったお家騒動の渦中だった。 華やかなイタリア貴族の生活ぶりに加え、著者が好きだったオペラが随所に織り込まれ、前の作品では少なかったハラハラする場面もあって、読んでいて飽きない。しかも、ストーリーは二転三転する。結局最後は最初読んでいるときには思いもかけぬ人物が犯人だ。そして、オルフェオの正体も実はケストレルだったという…。まあ、なんとな~く察しがついてしまうのだが…更に、カストラート、ヴァレリアーノの父親もロドヴィゴ侯爵だったという…社交界の伊達男も登場し、映画にしたら、見ごたえがありそうだ。いかにも女性作家だなと思うのは、テノール歌手とカストラートがおいしい役であるところ。特にヴァレリアーノは主人公のジュリアン以上にかっこよく書いてある。で、最後はギリシャ喜劇なみ(?)の大団円。でも端役の貴族ではない人々が誰もいい味だして書き込んである。むしろ貴族連中の方がテンプレな描写かも。また、父ー息子、母ー娘といった親子関係がストーリーに大きな役割を果たすのは前に作も含め、この著者の特徴かもしれない。 上下巻で長い小説なのだが、あっという間に読んでしまった。結構ページターナーだと思う。
June 7, 2010
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教皇の手文庫価格:2,000円(税込、送料別)中村正軌文藝春秋 四六上製☆☆☆☆ まずは第二次大戦中のバチカンだの秘密結社だのが出てきたので、謎めいた雰囲気につられ読んでみた。実は小説の舞台自体もこの時代のヨーロッパだと思っていたら、実は現代の南米だった。 第二次大戦中にバチカンがドイツやイタリアと近かったのはこの本で始めて知った。そして、アメリカ側からの要請でバチカンに情報機関ができたり、ドイツやイタリアの敗戦に伴い、両国に協力したカトリック教徒を南米に逃がすためのネットワーク…とそれだけで面白かったのだが、しばらくして時代は現代に飛ぶ。スペイン人の子孫とインディオの子孫でいまだに貧富の格差があり、なおかつ現代では敬虔なカトリック国となっている南米の国々についてのないようになる。第二次世界大戦中に「ある財源」がつくられ、スイスの銀行にある、その財源は現在では金塊で貯蓄されていたため、莫大な金額になっている。そして、それを使って南米の人々のために大聖堂を作る…というのが大体のストーリー。ただ、その中にハイジャックとかコカの木を枯らすための薬による薬害などが絡まる。 CIAだのバチカンの情報収集機関だのが出てくるし、薬害も出てくるしで、陰惨なハードボイルドなのかと思っていたら、むしろ、最後は現代の御伽噺みたいな感じだった。どうでもいいけど、カバーの絵はマヤか何かの壁画だと思ったが、これストーリーに関係あるかなぁ…?あるっていえばあるけど…直接の関係はないぞ。
June 6, 2010
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【中古】afb【古本】フォークランド館の殺人/ケイト・ロスケイト・ロス講談社文庫☆☆☆☆☆ 19世紀初頭のイギリスを舞台に、ジュリアン・ケストレルが活躍するミステリの第二作目。が、原書だとこの前にあと一作ありそうな感じだが、きっともう日本語になることはないだろうな…。 社交界の人気者が自宅での大きなパーティーの真っ最中に暖炉の火掻き棒で殴られて殺されるという事件が発生。古典学者で弁護士でもある教養豊かな父親から調査を頼まれたケストレルは早速乗り出すが、彼は周囲が天地逆になっているような、とんでもない事実の数々を掘り起こしていく。このとんでもない事実の重なりがいささか出来すぎの気がしなくもないが、前作の微妙に後味の悪い終わり方と違って、全てが丸く収まるに近い結末なので、読後感はすっきりしている。この作品と「ベルガード館の殺人」の前にどうも一作あるようなのだ。でも原書を読む勇気はないなぁ…。
June 5, 2010
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【中古】afb【古本】ベルガード館の殺人/ケイト・ロスケイト・ロス講談社文庫☆☆☆☆☆ 時は1820年代のロンドン。大英帝国は最盛期で、ロンドンの社交界は華やかりし古きよき時代。ロンドン社交界で伊達男として名を馳せるジュリアン・ケストレルはカジノで窮地を救ってやった初対面の紅顔の21歳の名門貴族の子息、ヒュー・フォントクレアから、結婚式で花婿の介添えを頼まれる。しかも彼の結婚は多分にキナ臭い。ジュリアンは色男は金はなし、という通例(?)通り、請求書から逃げ出して、広大なフォントクレア家の邸宅、ベルガード館に向かうが、到着早々、ジュリアンのベッドに見ず知らずの若い綺麗な女性の死体が寝かされて…というとんでもない事態に遭遇するのだ。 由緒正しき英国名門貴族というのは、やっぱりアメリカ人には憧れなんだろうか、これもイギリス人の著者ではなくアメリカの法廷弁護士が作者。とはいえ、誇り高き貴族の当主、若くして跡継ぎとしての責任感を持ったその息子、気位だけ高くてオツム空っぽの貴婦人、一方で品位にあふれる貴婦人、領主一族に忠実な使用人やその領地の人々…。これってまあ定番の設定だろう。しかも、この小説、結構最初から描写の雰囲気から犯人の見当がついたりするのだ。それでも面白かったのは、ジュリアンと彼の従僕ディッパー、そして地元の医者マクレガーとのやり取りが楽しかったせいだ。ディッパーは主のジュリアンには忠実だが、結構ワル。音楽に造詣の深いジュリアンは鍵盤楽器が得意で、ピアノを弾いたりするが、マクレガーの自宅で奥さんの遺したハープシコードを弾く場面がいい。マクレガーがそのハープシコードの音色を家のどこにいても扉を開けて聴いているというのだ。また、ヒュー・フォントクレアと初対面でプロポーズを受けたモードとの恋模様もジェーン・オースティンの小説のようで面白かった。更に殺された女性の身元はしばらく分からないし、しかも最後にどんでん返しもある。何だかんだと結構厚い文庫なのだが一晩で読んでしまった。そして続巻も図書館で借りてある。こちらになると、このベルガード館の関係者も顔を出して、一層面白くなっている。
June 4, 2010
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セリヌンティウスの舟石持浅海光文社文庫☆☆☆〇 セリヌンティウスとは、太宰治の小説「走れメロス」でメロスが妹の婚礼に行って帰ってくるまでの間、人質としてディオニス王に捕らわれていた彼の親友の名前。この小説は、ダイビングで遭難しかけ、その時に強い連帯感を持った6人の男女のうちの1人が彼らが集まっている最中に自殺する、というところから始まる。49日を過ぎて、残った仲間達は彼女が死んだ理由を考えようと、彼女が死んだ、つまりいつも彼らが飲み会をやっていたメンバーの1人の自宅に集まる。そして、彼女が死んだときの写真を見ていて、その写真に残されたある一点で警察が自殺として片付けたことに疑問を持ち、それを考えはじめるのだ。 正直、こんなに他人の、それも死んだ人の内面を外から慮ってなんになる?というのが感想。それも長々とやっているのだ。堂々巡りで、途中で投げ出したくなった。そのために、敢えて結束の強い仲間達まで疑うのである。結論まで読んだが、なんだかやることは他にあるような気がしないでもないんだけど…というのが読後感である。どんなにつよい結束の友情であろうと壊れるときは壊れるもんだ。大体、永続する関係の存在なんて宗教の世界じゃなかろうか。私にはこの小説がピンとこなかった理由はそのへんだろうか。このテの友情を扱った小説は合わないような気がしてきた。つか理解できないかも。 …とにかく私には合わない。おとなしく名探偵が活躍する派手なトリックの本格の方が性に合う。
June 3, 2010
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金田一耕助の帰還横溝正史出版芸術社 四六上製☆☆☆☆☆ 図書館で借りた上製本。最後に巻末の解説を読みながら、この中に収録されている短編が後に中編や長編に改作されていることが分かった。また、作者が金田一耕助像を作り上げるまでの経緯や、アイヌ研究で有名な同姓の金田一博士がこの金田一耕助をどう思っていたか気にしていたようなことも載っていて興味深い。それに、長編になってからの姿を知らないで読んだのだが、この短編だけでも、さすがの完成度だと思う。また、作品で書かれた年代が昭和25年~35年あたりなので、登場人物の言葉遣いが今と少し違っていて、それも昔の白黒映画の俳優さん達の喋り方を聞いているような感じがした。 もう一つ同じようなコンセプトの短編集があるので、そちらも読んでみたい。
June 3, 2010
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