1月26~31日の東京藝大卒展・修了展を初日にじっくり見たので、今頃ですがレポートします。
<日本画>
川崎麻央
さん (修士、藝大美術館B2F)
「衆生の恩」 が群を抜いていた。巨大なシーラカンス1匹を墨絵にし、地は砂っぽく、まるで壁画のごとく。描画もマチエールも申し分なし。
島田沙菜美
さん (学士、都美術館1F)
「ひどく曖昧であまりにも幸福な」。描かれた女性の顔立ちが ぼく好み。臙脂とベージュ色をうまくつかっている。肌にもうちょっと陰影をつければ完璧。
内藤あゆ
さん (デザイン 修士、藝大美術館3F)
六曲一双屏風 「蒼翳礼讃」 は、藍色の濃淡で描く日本舞踊の姿。
Cyanotype という青焼き写真の技法で、長唄 「官女」 に合わせて踊る倉内真梨子さんがモデル。
<油画>
大熊弘樹
さん (油画技法・材料 修士、絵画棟1F)
女性の写実画。リアルな人物画がこれほど求められていながら、それに応えているのが修了展広しといえど大熊さんだけとは。需要と供給にミスマッチがあるね。
大熊さんには、学士卒のときに注目して作品を分けてもらおうと思い、後日会ってファイルを見せてもらい、ドローイングを購入したことがある。
2年間で腕を上げたが、他の写実画家とはひと味ちがった絵を創りだそうと、もがいている感じだ。
平 俊介
さん (修士、絵画棟6F)
文明批評シュルレアリスム。卒展では、高層ビル建設現場で生物化した巨大クレーンを描いていたが、今回はヒト型のパーツが機械にニョキッと生えた 「四肢クレーン」 や、ありえない増築をかさねた 「つぎはぎ堂」 など。
手を抜かずに丹念に描きこんであるから、見る者をこころよく騙してくれるのがいい。
六本木の Gallery MoMo Projects で2月8日~3月8日に個展 「裏平成都市論」。
<インスタレーション>
加藤朝人
さん (漆藝 学士、都美術館B2F)
壁面にしつらえられた、つややかな漆黒のトルソ “sense form” が うつくしい。
鼻先から乳房までの、女性の魅惑的な曲線が純化されている。
これを木でつくると相当な重量になってしまう。じつは発泡スチロールがベースで、そこに通常の漆藝の技にのっとり布を重ね、漆を重ねた。だから充分に頑丈なのだと。
冨川紗代
さん (先端藝術表現 学士、都美術館LB)
“Same DNA, but” は、熱で熔けて変容しつつある透明な頭蓋骨たち同士が細いチューブでつながり合っている。点滅照明。
これをガラスで作っているとしたら驚異だなぁと見渡すと、作家の冨川さんがいて、聞けば頭蓋骨は壺の形のポリプロピレンをバーナーで加工したもの。細いチューブは、アクリル製。
LIXIL Gallery あたりに、そのまま進出できそうな作品だ。
山田勇魚 (いさな)
さん (デザイン 学士、都美術館LB)
「九十九神 (つくもがみ)
の部屋」 は、昭和30年代の小家屋をしつらえ、家具・道具に妖怪が宿って肉体化・内臓化した姿を見せる。
タイプライターのキーすべてを臼歯にしてしまったオブジェが、欲しくなった。山田勇魚さんが有名になったら、値打ちが出るね。
盛田亜耶
さん (油画 学士、絵画棟5F)
線画を切り絵にしたてた壁面装飾。ファイルのなかのドローイングもセンスよし。
井上俊博
さん (陶藝 学士、都美術館LB)
将棋盤とコマをすべて陶でつくった。将棋盤のなかが空洞なので、将棋を指すとカランと乾いた音がする。
<ドローイング>
野澤 聖 (しょう)
さん (油画 学士、都美術館1F)
「見立ての図像たち ―家族―」 は、コンテによる等身大写実人物画。驚異的な腕前である。
さて、この腕前を生かした本画が、これからどう展開していくのか楽しみ。
<パフォーマンス>
ユゥキユキ
こと
村松由貴
さん (油画 学士、都美術館1F)
「脱力天使☆ユキエル」 (☆のところは、ダビデの星)
はスマホと遊びつつ坐る彼女自身がアクリル板の向こうで見世物になる、なま身のインスタレーション。もちろん着衣です。
眼と目があうと、どぎまぎするほどかわいいです。
この集客力があれば、もう一声、ライブペインティングならぬライブインスタレーションづくりパフォーマンスという手があるかも。
金井萌々 (もも)
さん (デザイン 修士、総合工房棟)
“anima to animal” は、白い布の動物ドレスでペンギンや鳥、駱駝、象になって舞う、たのしいダンスパフォーマンスのビデオ作品。
これを演劇に持ち込むと、新しい展開がありそうだ。
<映像>
牧 雄一郎
さん (デザイン 修士、総合工房棟)
アニメ 「冪乗則」 は、あまたの直方体の無機質な動きがやがて都市をつくり鉄道を走らせる。見飽きないエンドレスアニメ。音の入れ方も絶妙。
<テキスタイル>
藤江いづみ
さん (染織 修士、藝大美術館B2F)
「ひみつ」 は、グラマラスなビキニの女性のボディ部分だけを粗い目で織り込んだ壁掛けパネル5連作。需要に応えるテキスタイル作品だ。
2年前の 平成24年1月の東京藝大卒展・修了展の観覧記
を読んだら、日本画の川崎さん、油画の大熊さん、映像の牧さんのことを取り上げて、こんなふうに書いていた。
(まお)
さん (学部・日本画)
「私の海」 は青のヴァリエーションがうつくしく、顔の描きかたも端正。
◆ 大熊弘樹さん (学部・油画)
これから精進を続ければ、塩谷 亮さんや諏訪 敦さん、石黒賢一郎さん等のあとに続いて、いい写実画を描いてくれそうな作家。人物画が好きなぼくとしては、今回の卒展一の発見。
◆ 牧 雄一郎さん (学部・デザイン)
蟻の群れの動きを飽かず眺めてることって、ありませんかね。
アニメ作品 「街は流転する」 は、レゴブロックの街をレゴブロックが整列してひょこひょこ動いていくような。色の選択も、原色をはずしていながら、中間色っぽさもなく、さすが藝大だねッと思わせる。
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