チェコ語の格変化も、日本語の漢字と同じで、最初の全く知識のない時点よりも、ある程度知識が蓄積されてからのほうが、新しいことを覚えるのが簡単になる。これまで勉強してきたこととの共通点が増えていくため、これはあれと同じとか、あれに似ているとか、すでに覚えたことを基準にして新しいことを覚えて行けるようになるのである。
その点ではこの指示代名詞tenも例に漏れない。三人称の人称代名詞の格変化との共通性が、特に男性形と中性形において顕著で、活用語尾は全く同じである。男性形は、当然4格で、活動体につく場合と不活動体につく場合で形が違う。
1 ten
2 toho
3 tomu
4 toho(活) / ten(不)
5 ten
6 tom
7 tím
中性
1 to
2 toho
3 tomu
4 to
5 to
6 tom
7 tím
2格、3格、6格、7格は、男性名詞も中性名詞も共通の形をとる。4格は男性名詞活動体のみ2格と共通で、不活動体、中性名詞は1格と共通、5格はいずれも1格と共通。この辺りも三人称の人称代名詞の格変化を踏襲している。類似の指示代名詞「tento」「tamten」などは、「ten」の部分だけを格変化させることになるので、これだけ覚えておけば問題なく使える。
女性の場合には、人称代名詞と完全に共通というわけにはいかないが、活用語尾の短母音、長母音の区別は共通する。つまり、語尾の母音は形容詞の女性単数と同じだが、長短の区別は人称代名詞の変化に基づいているのである。
女性
1 ta
2 té
3 té
4 tu
5 ta
6 té
7 tou
御覧の通り、語尾に出てくる母音は、形容詞硬変化の女性形とほぼ同じである。そして、三人称の人称代名詞「ona」の格変化で長母音が出てこず、短母音になっている1格、4格、5格で、形容詞の長母音を短母音に変えてやれば、「ten」の女性形の格変化が出来上がる。ただし、7格の「ou」と4格の「u」を長短の関係だと認識する必要がある。
この認識が正しいかどうかはこの際どうでもいい。このように認識すれば覚えやすくなるというだけの話で、言語学者ならざる語学の徒にとっては、言語学的な正しさよりも、覚えやすさのほうが重要なのである。ってこんなことすでにどこかに書いたような気もする。
複数は、1格と、1格と共通な4格(男性活動体は除く)、5格以外は三性共通である。違うところだけ先にあげると、活動体は1、4、5が「ti」「ty」「ti」の順番、不活動体は3つとも「ty」、女性形も三つとも「ty」で中性は三つとも「ta」ということになる。
複数三格共通部分
2 t?ch
3 t?m
6 t?ch
7 t?mi
末尾の子音は形容詞の複数と同じ。ただ、その前の母音が長母音の「ý」ではなく「?」になるだけである。人称代名詞の複数との共通性も高いので、ここ二つの格変化を覚えていれば、「ten」の格変化はそれほど難しくない。そして、「ten」の格変化を覚えてしまえば、男性単数が「en」で終わるほかの言葉、例えば「všechen(すべて)」「jeden(1)」などの格変化が覚えやすくなる。覚えれば覚えるほど、次を覚えるのが楽になるのである。問題は似ているものを混同してしまうところだけれども、それを問題というのは贅沢というものである。
この「ten」は動詞のあとにくる名詞の格を示すのにも使われるので、できるだけ早めに覚えておいたほうがいい言葉の一つである。そんなのばっかりだと言われればその通りなので、自分なりの優先順位をつける必要はあるだろうけど、「ten」を後回しにして、中途半端に覚えた状態でチェコ語のサマースクールに出て苦労した人間としては、できるだけ早めにねと言うしかない。
次もチェコ語ねたで、数詞かな。
2018年12月18日23時55分。
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