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2020年03月31日
自宅監禁日記(三月廿八日)
昨夜は、疲れから久しぶりの12時前に寝たというのに、起きたら8時まえだった。よく寝たというべきなのだろうけど、それでも眠い、というか頭が重い。寝すぎかもしれない。しばらくPCのモニターをにらんでいると、頭がくらくらし始めるので、今日は一日PCに触るのは最低限にして、回復に務めることにする。
午前中は掃除。掃除機をかけるのが、今週一番の運動である。この運動不足ぶりは体調だけではなく精神にもよくないかもしれない。かといって部屋の中での運動なんかしたくないし……。散歩には出てもいいことになっているのだけど、どうもその気になれない。
オロモウツ地方の感染者数を表示しているページを見たら、オロモウツ地区の数字が減っていた。50を越えていたのが、46になっている。その後夜にはまた増えたから、どうでもいいといえばいいのだけど、現場でも情報が錯綜しているのだろう。こんな数字よりも、病院に入っている人の数の方が気になるんだけどなあ。
今のような旧オクレス、もしくは比較的大きな町とその周囲の自治体を合わせた地区単位ではなく、感染者が多数出ている具体的な、自治体の名前を公表しろという声もあるらしいのだが、それは差別につながるとして厚生省で禁止している。この件ではキリスト教民主同盟のズリーン地方知事のチュネク氏が、最初にそれをやったら文字通り魔女狩りのようなことが起こったと発言しているようだ。ということは今ではズリーン地方でも具体的な自治体ごとの感染者は公開していないということなのだろう。
リトベルとウニチョフを中心とした閉鎖された地区では、検査が重点的に進んでいるはずのわりには、感染者数が増えていない。閉鎖がうまくいっているというべきなのか、当初の推計が大げさだったのか。数があまり増えないのは悪いことではないのだろうが、そろそろ切れるはずの封鎖期間が延長されたら、この地区に住んでいる人たち、精神的にどうなのかな。封鎖地区の外でも外出禁止になっているから、実際の生活には大きな違いはないのかもしれないけど、封鎖されているという事実は軽くない。
厚生省がコロナウイルス感染症の情報を集約して公表しているページが大きく変わった。各地方別の感染者数だけでなく、人口十万人辺りの感染者数も表示されるようになった。それによると、数ではプラハ、中央ボヘミア地方、モラビアシレジア地方についで4番目のオロモウツ地方が、割合で言うとプラハについで二番目になっている。ただ、オロモウツ地方が公表している閉鎖地区だけの割合だと、プラハよりも高くなるから、それ以外のオロモウツ地方の数字はそれほど高くならないはずだ。
さらに、下のほうに感染者の病状が読み取れる表が追加された。これは素直に嬉しい。日付の次が、入院中の患者の数で、退院した患者の分は減るから、日によっては前日より減っている。とはいえ、そんなのは今のところ一日だけしかないけど。その隣は、重症化している人と、集中治療室に入っている人の数の合計。この数すべてが集中治療室に入っているというわけではない。その隣は入院者のうちの重症者の割合。その次は、一度入院して完治、もしくは症状が軽症化したことで退院した人の数と入院者数に対する割合。最後が亡くなった人の数である。
これを見てわかるのは、入院しているのは感染が確認された人の1割以下で、重症化した人はそのうちの2割以下ということである。ということは、検査で感染が確認されても重症まで至るのは2パーセントにも満たないことになる。問題はこの2パーセントの大部分がおそらく高齢者で持病持ちだということである。そして、その高齢者対策が一番難しいのだろう。
夜のニュースで、明日から夏時間だということが報じられて、そう言えばそうだったと改めて憂鬱になった。この時間の切り替わりが健康に悪影響を与えるという説があるのも、夏時間廃止の議論が進んでいる理由のひとつなんだから、コロナウイルス感染症で少しでも免疫、抵抗力を落とすのはまずい今年は、夏時間なしでということになるんじゃないかと期待したのだけど、そんなニュースはなかった。夏時間が原因で症状が重くなる人なんて出ないだろうなあ。
今夜の眠りは、額面上よりも一時間短くなるのだと考えながら、早めに床につくことにする。体調もあんまりよくないし、ちょうどいいや。
2020年3月29日15時。
2020年03月30日
自宅監禁日記(三月廿七日)
普段は金曜日になると、週末を迎える気楽さがあるものだけど、自宅監禁が始まってからは、ってまだ二週目だけど、そんな気持ちは失せてしまった。平日でも休日でもやることが変わらんというのは、一日の中での生活にメリハリがつかない以上に、こちらの精神を蝕む。という言い訳で週末は朝寝をしよう。そういえば先週末も日曜は10時近くまで寝こけてしまったか。
多分、周囲が普通の社会活動をしていれば、自分が自宅に引きこもっていても、あまり気にならないのだと思う。世界で毎日毎日いろいろなできごとが起こっていることがテレビやネット上の報道で理解できるし、毎週末のスポーツなんかも、時間が流れて季節が移り変わりつつあることを示してくれる。それなしに、チェコの暖房の効いた部屋の中に閉じこもっていると、外が暖かいんだか寒いんだかさえわからない。
テレビをつけても、再放送の番組が多いし、ニュースは寝ても覚めてもコロナウイルスの話ばかりで代わり映えがしない。唯一毎日変わるのは、感染者や犠牲者の数字だけ。変わったからといって、増えたからといって、喜べるようなものではないし、単なる数の変化に時の流れを感じられるほど感性豊かではない。なによりも完治者数がなかなか増えないのが最悪である。
チェコ全土の感染者数を表したページとか、オロモウツ地方の細分化された地域別の数字が見られるページはついつい仕事が止まるたびに見てしまうのだが、オロモウツ市とその近辺の数が急増している。すでにリトベルを抜いたぞ。人口比の割合というものも大事だから、これでオロモウツが閉鎖されるなんてことはないと思うけど、楽しくなるような話ではない。
チェコのコロナウイルス対策を指揮している厚生省の伝染病学者のプリムラ氏は、感染者数が増えているのは、事前に予想されていたのだから、それほど重要なことではないと言い、重要なのは重症化して入院が必要な患者数と、さらに集中治療室に入れて人工心肺の使用が必要な患者の数だと主張しているんだから、入院中の人の数と、重症の人の数も公表してくれんもんかね。チェコは軽症者は原則として自宅療養という方針だから、入院患者の数が少ないのを見れば安心すると思うんだけど。
犠牲者の数が三人増えたのは昨日だったかな。三人とも高齢者で重い持病があった人のようだ。問題は、病院に運ばれるときに持病の悪化を疑われて運ばれるため、入院してからの検査で陽性が判明することが多いことだ。そうなると、かかわった医療関係者も、感染の疑いで二週間の自宅待機ということになるわけで、人手不足が進むことになる。
最初の犠牲者が入院していた長期療養者向けの入院病院では、さらに何人かの人が感染していることが確認されたし、この方が入っていたのとは違う老人ホームに入っていた人が二人、病院に運ばれる前に亡くなった。チェスキー・クルムロフでも病気の高齢者向けのサービスの関係者の間に感染が広がるなど、職員が感染して高齢者の間に感染を広めた例がいくつか出ていて、対策の難しさを見せ付けている。
もうひとつの問題は、日本のほうがひどいと思うけど、多少具合が悪くても仕事を続けてしまう人がいることで、最初の国内での感染者とされているプラハのタクシー運転手もそうだった。非常事態宣言で休みを取ることを禁じられている医療関係者の中に、熱があったり咳が出たりしても頑張って仕事を続けていて感染が発覚した人が何人か出ている。他人に迷惑をかけたくないという責任感の強い人ほど、頑張ってしまうなのかもしれない。
これを機に、体調がよくないときには在宅勤務に切り替えたり、医者の証明はなくても熱がでたときには休めたり、できるような社会になればいいと思うのだけど。昔日本であれこれ仕事をしていたころは、正直、残業しなければならないことよりも、体調不良で職場まで出て行かなければならないことのほうがつらかった。電車に乗って職場まで出る間に体調が悪化して、ろくに仕事にならないということもあるんだから、働き方改革というならその辺も改革してほしいところである。
いかん、また日記から逸脱している。昨日は午前中は、ひたすら書類のチェックと修正を行い、午後からはオンラインのビデオ会議の連続だった。それが今日は午前と午後が逆。気分転換にはならない。一日中PCにへばりついて画面をにらんでなければならないことには変わらないのだ。眼鏡の度数も合わなくなりつつあるから、目は疲れるし、頭は痛くなるし、ろくなことはない。
うちのが買い物から帰ってきて曰く。先週より町に人が多かったと。外出禁止令が発せられてから二週間に近づき、どの程度の外出なら許されるのか理解できた人が増えたということだろう。最初は買い物に出るのもはばかられるような雰囲気があったし。みんなお手製のマスクもしているようだし、最近はおしゃれの一環としてマスクに使う布の色や柄を選ぶ人たちも出てきているのかな。オロモウツ地方の知事なんか、住民から差し入れられたマスクをして、感謝の言葉を述べていた。
落ちがつかないけど、これでおしまい。
2020年3月28日8時。
2020年03月29日
自宅監禁日記(三月廿六日)
カテゴリーを立てるかどうかは別にして、新たなシリーズを始めよう。このシリーズは、在宅勤務という美名の下に、自宅から出られなくなり、連日PC上でひたすら仕事を続けなければならなくなった人間が、いかにして心の平安を失い、発狂に至るかを描いたドキュメントである。だから多少過激で不穏当な発言があったとしても、頭がおかしくなりつつあるんだと思ってもらえるとありがたい。
朝食の後久しぶりに外に出た。出たといっても、ゴミを捨てに行っただけなので、ほんの数分で戻ってきた。マスク代わりのマフラーで口と鼻を覆っていたら、眼鏡が曇ってしまったので外してポケットに入れた。この眼鏡も、かれこれ十何年もかけ続けているから、度もあんまりあっていないし、そろそろ新しいのを買おうかと思っていたのだけど、この騒ぎで階にいけなくなってしまった。眼鏡屋は開いているとは思うけれども、出不精が身にしみつつあって、出歩く気にはなれない。
新しいのを買うといえば、携帯も買い換えようと考えていたのだった。ネットで確認したら、今でも売られている昔ながらの携帯があって、そんなに高くなかったから、これなら買ってもいいかと思えたのだけど、携帯屋は今もやっているのかな。政府の命令では例外扱いされている業種のお店でも、店員が確保できないとか、開けても客が来ないとかの理由で閉店しているところも多いから厄介である。郵便局ですら事情で営業をやめているところもある。
買い物で厄介なのは、例の高齢者を守るための対策で、午前8時から10時は、65歳以上の高齢者しか買い物できないことになっているのだが、以前は一律適用だったのが、店舗面積か、売り場面積かが500平方メートル以下のところは例外扱いで、お年寄りタイムを作らなくてもよくなった。数字で500平方メートルというのは簡単だけど、どのお店が対象になるのかわからんとうちのがぶーぶー言っている。機を見て改めるのいいけど、導入も突然だったんだから、改変にはもう少し時間をかけて、またすぐに改変とならないようにしてほしいものだ。
伝え聞く、日本の何でも自粛で政治が責任をとろうとしないのに比べれば、チェコでは政府の決定によって出た損害は、何らかの形で補填すると言っているのが現在の外出禁止令が遵守されている理由のひとつだろう。非常事態宣言中はこれを破ると犯罪になるというのもあるけど、今は外でマスクしてないだけでも罰金取られるし。
税金や社会保険の費用の徴収を一時停止するとか、休業中の社員に払う給料を政府が負担するとか、かなり具体的な形で企業や個人事業主に対する支援策の検討が進んでいる。銀行に対して個人のローンの返済の停止を求めたなんて話もあったかな。今年の予算は、当初の予定からはかけ離れて大きな赤字を出すことになりそうだが、野党もこれは仕方がないと賛成している。いや市民民主党にいたってはもっと大きな支援をしろと主張しているぐらいである。最近露出が減りまくっているから野党も、めだとうと必死になっているようだ。
日本では、自粛に同調しない人たちを、無責任だと批判する連中がいるようだが、無責任なのは政府、政治家たちである。自宅待機にしても、外出禁止にしても、要請とか自粛とかあいまいなもので、どうするか決める責任を国民に押し付けて、その結果に対して政治家は責任をとらないのだからひどい話である。こういう緊急事態に際して、決断を下させるために、国民は税金を払って政治家を飼っているのではないのか。それができない政治家など家畜にも劣る。
念のために言っておくと、チェコでやっている厳しい封じ込めの政策が絶対に正しいと思っているわけではない。今年でウイルスが消えるというなら、今のやり方で問題ないだろうけど、来年以降も流行が起こったら、今年ほどではないと思うが、同じような騒ぎになりかねない。だから、イギリスが当初目指していた集団免疫を獲得するという方針も、長期的に考えれば、全くなしではないと思う。ただ、イタリアやスペインを中心にあれだけ死者が続出すると、方針の転換もやむなしであろう。
大事なのは、封じ込め政策で感染者をできるだけ出さないこと、別な言い方をすれば国民全体を平等に保護することを目標にするのか、ある程度感染が広がる野はやむなしと考えて、重症化する可能性のたかいグループを重点的に保護することで、死者の数を減らすことを目標にするのか、決めて、それに基づいて対策を打っていくことだろう。どちらを選ぶにしても高齢者や病人の安全を確保することは優先されるべきだとは思うけど、高齢者対策が遅れた国は多い。
ところで、日本は高齢者に対して外出禁止をしたりしているのだろうか。オリンピックの問題で、高齢であり、かつ癌で闘病中だという森元首相が登場してくることから考えると、期待薄である。大会組織委員長だからというのはその通りだとしても、世界各地で高齢者で重い持病を持つ人たちが、次々に亡くなっている中、本人が公共の場に出てくるというリスクを犯す必要はあるのか。辞任したくないと言うなら、コロナウイルス騒ぎが収まるまで代理を立てればいいだけの話である。大会組織委員長がコロナで倒れたらオリンピックどころの騒ぎじゃなくなると思うんだけど。
高齢の老害政治家が軒並みこの病気に倒れてくれれば、政界の浄化が進むなんてのは、冗談半分には言えても、実際にそうなったら大変である。高齢の国会議員は活動を自粛して在宅勤務に切り替えた方がよくないか。ハイテク国家日本なんだから、国会のオンライン会議ぐらいできるだろう。EUですらやってるんだしさ。
マスコミだって、若い人たちの軽率な行動を批判する前に、高齢者の出演を自粛させろよ。いや、テレビなんか、どうせ糞みたいなワイドショーとカ、バラエティ番組しか作っていないんだから、番組の制作を自粛して高齢者が喜びそうな昔の人気番組の再放送をすればいいのだ。自分たちがそれだけの対策を打って初めて、自粛要請という法的にも意味不明なものを拒否した人たちを批判できるというものである。
あれ、何でこんな話を書いているんだろ。これも自宅監禁中の気の迷いということで。本当は朝から何したかにしたという日記もどきになるはずだったんだけどなあ。あっブログのトップページの表示の不具合は修正に成功した。
2020年3月26日23時。
2020年03月28日
引きこもり生活は続く(三月廿五日)
昼食を終えてぼんやりしていたら外から大きな声が聞こえてきた。昼寝をしかけていたうちのが飛び起きて、窓をあけて曰く「ティ・ボレ、オロモウツの市内有線放送でスビェラークの歌が流れるとは思っていなかった」と。音が割れて何を言っているのか、歌っているのかは聞き取れなかったけど、ズデニェク・スビェラークの声だというのはわかった。
ちょっと説明しておくと、チェコの町や村には、街角にスピーカが設置されていて、必要なときには役所などからの放送を流すことができようになっている。オロモウツでは滅多に使われないというか、毎月第一水曜日の正午ごろに消防署が緊急事態を伝えるサイレンのテストを行なうのに使っているのがこれだと思うのだが、それ以外でこのスピーカーから音が流れるのを聞いたことはない。
田舎に行くと、村や町で行なわれるイベントの広報をしたり、今回のような政府からの特別の命令が出たときに住民に知らせるのに使われたりする。うちのの話では、どこかの村でこの件で放送していた村長が、マイク片手に、「高齢者は外出を控えるようにといっているんだよ。聞こえているか。誰それ、あんたのことだぞ」などと名指して外を出歩いている高齢者を指摘していたなんてところもあったらしい。
もともとは、スビェラークが、医療現場で働く人、特に看護師さんたちへの感謝を表明するために、テレビとラジオで同時に放送することになっていたらしい。オロモウツではそれを有線放送でスピーカーに流したわけだ。平日なのでテレビやラジオをつけていない人も多いだろうから、できるだけ多くの人に聞いてもらおうという配慮だったのかな。ただ、最初の感謝の言葉を述べる部分は音質が悪すぎて何を言っているかさっぱりわからなかった。テレビがついていれば聞き取れたのだろうけど、昼食食べて消したばかりだったしなあ。
以前紹介した、オロモウツ地方の地域別感染者数が見られるページだけど、ネタ元に当たるページがあって、それがオロモウツ地方がコロナウイルス関係の情報を集約して住民に伝えるために新たに開設した このページ 。今まで青の感染者数しかなかったのに、緑色の完治者数も表示されるようになっている。
この地方の地域(旧オクレスだと思っていたのだが、それよりも細分化された人口が大目の町を中心とした地域だった)別の感染者数の情報は、リトベルとウニチョフが閉鎖されることが決まった後に公開されるようになったもので、他の地方ではこれから、オロモウツ地方ほど細かくなく、旧オクレス単位で情報の公開が始まるようである。とまれ、リトベルだけで50人を越えているというのは、プラハを除けば国内で一番多い数字ではないだろうか。ウニチョフも増えているし。
気になるのはオロモウツが、急激に増えて、オロモウツの前に急増したプロスチェヨフに追いついてしまったことだ。つい何日か前までは、どちらも1人、2人で推移していたんだけどねえ。プロスチェヨフでは、何日か前に病院関係者何人かの感染が確認されたと言っていたかな。一人は重症化して、重症化した患者を集めて隔離するための病院に指定されたブルノの聖アナ病院にヘリで搬送されたというニュースもあった。現時点ではすべての重症者が指定された病院に集められているわけではないので、このプロスチェヨフの件は試験的に行なわれた可能性もある。
オロモウツのほうは、昨日だったか一昨日だったかに流れたニュースで、パラツキー大学の理学部に留学していた韓国人学生が、この情勢を鑑みて帰国したところ空港でのチェックで要請が確認されたと言っていた。問題なく帰国できたということは、症状が出ていたとしても軽症だったのだろう。大学では対応に大童のようだけど、この学生が入居していた寮の同室の学生を中心に感染者が増えているのかもしれない。一応、二週間ほど前のまだ授業が行われていた時期には、感染していなかったようなので、現在寮に残っている人たちが検査の対象になるのかな。どこから感染したかも問題だけど、現時点では情報はない。
厚生省の特設ページを見たらなくなった方の数がまた増えて6人になっていた。新たに亡くなった三人とも75歳以上の高齢者で、重い病気を抱えていたという。一人は入院すらせずに自宅療養を続けていたというから、おそらく入院させても医者にできることは何もないという判断がなされたのだろう。今後も病院で機械につながれるよりも、自宅で死ぬことを選ぶ人も出てくることが予想される。医療関係者にとっても苦しい決断になりそうである。
東京オリンピックが延期になるなんて話もあったなあ。今年やらないなら中止にしてしまった方がましだと思うけど。すべては開催国、開催都市の意向を無視して決定されるのだから。今回も日本が折れたからおさまったけど、日本が予定通りの開催にこだわっていたら世界中から袋叩きにあっていたに違いない。すでに役割を終えた近代オリンピックはこれを機に廃止に持っていってもいいと思うんだけどなあ。今後も同じような事態が起こるリスクはあるわけだし、そのたびに開催国、開催都市が割を食うのでは、未来はないんだからさ。
新しい記事を投稿する際に、管理ページから、自分のブログを開けてみたら、表示が壊れていた。記事の表示されるスペースの幅が異常に広くなっているのに、最初の記事自体は普段の何分の一かの幅で表示され、左側に並んでいるはずのカレンダーなんかが消えてしまった。最初の記事も最新のものではなく何日か前のものだし、システム障害かな。記事のタイトルを押して、その記事だけの表示にすれば、問題なく表示されるので、そこから最新の記事は読めるのだけど、トップページがいかれているのは、いい気持ちはしない。今日は一日ろくでもないニュースばかりだったなあ。
2020年3月25日24時。
2020年03月27日
よきもあしきも(三月廿四日)
最後に職場に出たのは先週の金曜日だから、かれこれ十日以上も部屋からほとんど出ない生活をしている。その間、一回車で買い物に出たのと、二、三回ゴミ捨てに出ただけだから、我ながら立派に引きこもりぶり、いやチェコ政府の出した外出禁止令の遵守ぶりである。そんな生活をしていても、完全に気のめいることばかりというわけではない。たまには嬉しくて喜びたくなるようなこともあるのだ。大半はうんざりすることばかりだとしても。
それで、いいこともあれば悪いこともあるという意味の言葉を探して、「悲喜こもごも」とか、「禍福はあざなえる縄の如し」とか、「塞翁が馬」なんて言葉が思いついたのだけど、どれもこれもこちらが求めるとは微妙に違っているような気がして、最終的にはこんな微妙な題名になってしまった。バカの考え休むに似たりだったなあと反省している。
それはともかく、うんざりするニュースとしては、チェ国内の感染者の数が順調に増え続けていて、政府が当初今朝の6時で終わるはずだった外出禁止令を四月一日まで十日ほど延長したことが真っ先に上げられる。予想されていたことではあるけれども、実際に決まるとまたうんざりするものである。日本の自粛とか要請というあいまいなものではなく、禁止命令で政府の責任で命令しているところはありがたいかな。
仕事に行くのは外出禁止の例外に当たるから、行ってもいいのだけど、職場のほうでも出てこないで家で仕事してろというから、引きこもり生活はもうしばらく続きそうである。これで仕事がなければ最高なのだが、オンラインで継続ということで、メールで処理するものも増えているし、ビデオ会議なんてものもある。直接職場であって話せば、2、3分で住むようなことでも、やたらと時間がかかってしまう。なんか出勤してたときより仕事しているような気がする。
確かアメリカのジャーナリストが、自宅勤務に切り替わって1週間ぐらいで精神的におかしくなりそうだなんてことを書いていたのを読んだが、気持ちはわかる。こっちはそこまでひどくないけど、仕事の時間と自分の時間という区別がしにくいのが困る。他に手はないから仕方ないとは思うんだけど。
もうひとつの憂鬱なニュースは、チェコで二人目と三人目の犠牲者が出たことだ。ただこの二人も最初の方と同様に、ウイルスに感染する前から闘病を続いていたらしい。一人は50前と、高齢者と呼ぶにはまだ早い年齢だったが末期の癌で、もう一人は高齢者で肺炎も患っていたため最初は持病の肺炎が悪化したものだということで病院に運ばれたようだ。最初の方もそうだが、コロナウイルスの件がなく、単なる持病の悪化で亡くなっていたら、ニュースに取り上げられることもなかっただろう。
ニュースに取り上げられたことが、亡くなった方々にとってよかったのかどうかはともかく、万人に平等に訪れるなんて言われることのある死ですら、その死に関する情報は、実は平等ではないということを今回の騒ぎが暴き立てたのだ。インフルエンザで亡くなっても縁者を除いては無関心なのに、コロナウイルスで亡くなったら、マスコミがお祭り騒ぎを始めてしまう。いやな世の中になったなあなんて不毛なことを考えてしまうのは、たぶん自宅勤務が続いて気分がめいっているからなのだろう。人の死というものは、知らない人のものであっても、知らされると気分が沈むものである。
ちょっと気分を変えるために、いいニュースを思い出そう。いいニュースではないけど、笑ってしまったのが、鳴り物入りで中国から輸入して各地で使用が始まったコロナウイルスの簡易検査キットが、誤作動率が80パーセントを超えるという話だ。言い換えれば、このキットを使って検査した人のうち正しく陽性、陰性が判定されるのは20パーセント以下だということになる。これなら全員まとめて陰性と判断した方がまだ的中率が高い気がする。
簡易検査なのでこの結果だけで感染したと確定させずに、これで陽性の判定が出た人だけ、本来の検査に回してその結果で最終的な判定としているようだが、陽性として回されてきた人の80パーセントが陰性になるのでは、検査する人もやりきれないだろう。全検査数と陽性の人の割合に比べればまだ高いと言えなくもないけど、これがくれば検査が楽になるという期待があっただけに、失望は大きい。さすが中国といっておこうか。
本当にいいニュースはプロスチェヨフからやってきた。以前オロモウツ地方で最初に感染が確認された人が、実は日系企業の日本人社員だったという話は書いた。この方はプロスチェヨフの病院に入院して闘病していたらしいのだが、昨日病気が完治したことが認められて退院した。続報がなくて、どなたかは知らないけれども、心配していただけに一安心である。入院当初は病状が安定せずに心配されていたようだが、それが収まってからは、陰性が確定するのを待つだけになっていたという。
そして、今日はオロモウツ地方で2人目の完治者が出た。こちらについては、細かい情報は知らないが、チェコで7人目と8人目の完治者がオロモウツ地方から出たのである。二人という数字は現時点ではウースティー地方の5人についでチェコで二番目に多い数字である。こんなことで他の地方と競い合ってどうするよというのもあるのだけど、気晴らしの一環である。
その一方で、プラハの日本大使館からは、現地職員の感染が確認されたため、開業時間や受付のしかたを改めるという連絡がきた。大使館に用事がある人は事前に連絡をする必要があるようなので、HPなどで確認することをお勧めする。来期から日本に留学する予定の学生たちがビザの申請をするのは6月か7月だから、それまでには元に戻っているといいのだけど。
最後は、心の底から嬉しいニュースで終わろう。ちょっと前の話になるが、オロモウツの医学部を卒業して日本に帰った知人から、日本の国家医師試験に合格したという連絡が届いた。すでに自宅勤務状態に入って鬱々としていただけに喜びは大きく、即座に、オロモウツに来たら飲みに行こうねというちょっとずれた返事をしてしまった。この喜びで外出禁止を今のところは乗り越えられているようなものである。
とまれ、プロジェクトの開始から十年ちょっとで三人目の合格者である。外国で外国語で医学を勉強するという困難な道に挑み、夢を実現させた方々には賞賛と尊敬の言葉しかない。オロモウツで医学を学ぶ方々が、一人でも多く日本での医師免許まで到達されることを願ってやまない。この騒ぎで授業が休止になって大変だろうけど、日本に一時帰国中の人もいるのかな。
2020年3月25日8時30分。
2020年03月26日
ドイツ幻想(三月廿三日)
何気なく書いたドイツ批判に反応してくれた人がいて、コメントを頂いてしまった。同感と言っていただけるのはありがたいことである。ドイツを批判して、同意してくれるのはドイツ在住者か、ある程度長期的に滞在経験のある人だけで、それ以外の大半には、こちらが大げさに言っているのだなんて思われてしまう。日本人のドイツに対する異常なまでの過大評価は、実は第二次世界大戦で同盟を結んでいたことに起因するのではないかと疑うのだけど、どちらかというと左よりの人たちがドイツを過大評価するのが皮肉である。
1980年代半ばから中学、高校時代を過ごした人間が、繰り返し繰り返し聞かされてそれが真実なのだろうと思い込まされていたのが、日本の戦後補償というものが中途半端で恥知らずな非難されるべきもであるのに対して、ドイツの戦後補償はすばらしく日本も見習うべきだという主張である。いや、よく考えたら、90年代に入ってからの方が強く主張されていたかもしれない。
この真実については、チェコに来てから、特に調べなくても、大嘘というか妄想の類であることがわかったのだけど、日本にいたころは、ドイツを疑う根拠となる事実を知りながら、何となくドイツのほうが日本よりましだと思っていたから、他人のことは批判できない。だからこそ、ことあるごとにドイツの悪口を書いているのだけどね。
最初に、ドイツの戦後補償云々の話が怪しいと思ったのは、漫画の『マスター・キートン』の何巻だったか忘れたけど、東西ドイツの統合後の問題と、少数民族としてのロマ人、いわゆるジプシーの問題を絡めて描いた話を読んだときのことだ。ヒトラーが絶滅させようとしたのはユダヤ人だけではなく、実はロマ人も虐殺の対象となっていて各地の強制収容所に収容されて殺されていたのだが、この事実を知る人は少ない。そして、ドイツ政府は現在に至るまで、ロマ人に対する補償は行っていないのである。
ユダヤ人の強制収容所に関しては、ドイツもお金を出して各地に戦争記念館のような形で保存されているが、ロマ人の収容所の跡地に関しては、チェコでもつい最近まで放置されてきた。ユダヤ人虐殺を否定すれば世界の敵扱いされて外交の面でも経済の面でも国が立ち行かなくなる可能性が高いのに対して、ロマ人に関しては補償しても他国から称賛されるわけでもないし、補償しなくても批判を受けることもない。そんな打算で、補償する、しないを、決めたとしか思えないドイツを見習えなんて悪い冗談にしか聞こえない。
戦勝国、もしくは大戦で被害をこうむった国に対する補償にしても、これはチェコに来てから知ったことだが、少なくとも東側の諸国に対してはまともに行なわれていない。そこにはソ連の思惑があったわけだからドイツだけを批判するわけにはいかないが、ポーランド政府が、ドイツとその意向を受けたEUからの度重なる批判、ポーランドからすると内政干渉的な批判に腹を据えかねて、ドイツに対して第二次世界大戦の賠償を求めると言い出したのも理由がないことではないのだ。ドイツがそれに対して誠実な対応をするわけもなく……。
1938年のミュンヘン協定以降、ドイツがチェコスロバキアの人々に与えた被害について賠償していないのに、戦後チェコスロバキアから追放されたかつてのヘンライン党の末裔たちが、ベネシュの大統領令の廃止とチェコに持っていた資産の返還と追放に対する補償を求めて活動するのを野放しにしてきたのがドイツである。チェコとスロバキアのEU加盟交渉に際しても、この手の集団が妨害に出ていたらしいし、盗人猛々しくも素晴らしい国である。
環境問題では先進国として評価されているようだが、その科学よりも感情に基づいた政策に追随するとろくなことにならないのは、チェコのありさまを見ているとよくわかる。日本は外国に工場を建てることで公害輸出だと批判されていたわけだが、90年代のドイツはゴミをチェコに輸出することで国内のゴミ問題を解決しようとしていたから、どっちもどっちである。
チェコがドイツとの国境を封鎖してからも、買い物のためにチェコに通っていたドイツ人の中には、不法にチェコへの入国を試みる連中が後を絶たないらしい。チェコの方が品質を問わなければ安く変えるものも多いのである。ただでさえ国境の通過点での検問に人を割かれて人員不足の警察では完全に対処することができず、マスクもせずにチェコ国内の営業中の店に現れるらしい。この話を聞いたときには、すでに亡くなったユダヤ系の作家、アルノシュト・ルスティクの伝説的名言、「ドイツ人はブタだ」というのを思い出して、思わず口に出してしまった。そしたら、うちのが「特に東側の連中は」と付け加えた。
ここに書いたことは、ほとんどすべてすでにどこかに書き散らしたことがあるような気もするが、ひとつにはまとめていなかったと思うし、このブログの記事を通読している人なんでいないだろうから、いいことにする。
2020年3月24日16時。
タグ: ドイツ批判
2020年03月25日
最初の犠牲者?(三月廿二日)
チェコのコロナウイルス感染者数が1000人を越えたのは昨日土曜日のことだった。そして今日の夜になって、感染者の中から最初の犠牲者が出たことが明らかになった。ただし、厚生大臣など関係者の話によれば、コロナウイルスに感染していたのは確かだが、この方の死の原因は感染症から来る肺炎ではなく、複数の内臓器官の機能不全によるもので、コロナウイルス感染症で亡くなったとは言い切れないという。
亡くなったのはプラハのブロフカの病院に18日の水曜日から入院していた95歳の男性で、普段は老人ホームに暮らしていたようだが、いくつもの持病を抱え、ひんぱんに入退院を繰り返していたという。その中でも一番重かったのが心臓の病気で、ペースメーカーを入れていたらしい。今回コロナウイルスの感染が発覚してブロフカに入院したわけだが、集中治療室での治療に体が耐えられないだろうという判断で、隔離された病棟の一般の病室に入院していたようだ。
一番の問題は、老人ホームに入っていたこの方が、どういう経路で感染したかということになる。老人ホームにしても、この方がしばしば入院していたという長期療養者向けの入院病院にしても、高齢者や持病もちの人が集まるところだけに、しっかり対応しないと大変なことになりそうである。厚生大臣はすでに調査が始まっていて、老人ホームのほうは問題なさそうだと語っていた。いずれにしてもお年寄りの間でこの感染が広がらないことを願っておく。
さて、このチェコ最初の犠牲者のニュースで、個人的に知りたいと思っていた情報が手に入った。それは感染者のうちの入院している人の数だが、現時点で70人ほどというから、全感染者の7パーセントほどということになる。最初のころの感染者達は、10人目ぐらいまでは軽症でも病院に収容されて隔離していたから、入院が必要なところまで病状が悪化した人は60人超ということになるか。
ちなみにイタリアから旅行できていて感染が発覚して入院した二人の留学生のうち、一人は検査で陰性が続いて完治したことが認められた。この人、確かエクアドルかどこかの出身なのだけど、これからどうするのだろうか。イタリアの留学先には戻れないだろうし、南米の国の中にはチェコ以上に強硬な鎖国政策を取っているところもあるというし、乗り継ぎするだろうアメリカ行きの便は全面運休だし、帰国するのも難しそうだ。もう一人のアメリカ人はかなり前に症状は完全に治まったというニュースはあったが、完治には至っていない。こちらも退院後どうするのかが心配である。
話を戻そう。入院している人のうち、重症化して集中治療室に入れられている人の数は12人。検査で発覚した感染者のかずの1パーセントほどか。今後も検査数が増えて感染者の数も増えていくことを考えるとこの数字は下がっていくことだろう。このレベルで収まっているということは、チェコの医療システムの優秀さを示しているといってかまわないのだろう。バビシュ首相の突然の無理な要求にも大抵は対応しているし。
そんな医療関係者が、断固として拒否しているのが、誰でも彼でも検査するという対策で、チェコ各地に増えた検査のための検体を採取する特別室(大抵は病院の普通の入り口とは離れたところに設置されたコンテナやテント)に来た人に対して、受付はするけれども熱があるなどの感染を疑うに十分な根拠のない人に関しては、そのままお帰りを願っているという。その一方で、開業医や保健所から依頼のあった患者予備軍に関しては、必ず検査をしているようである。
一時は、誰でも彼でも検査するという対策を声高に叫んでいたような気がするバビシュ首相も、現場や厚生省内部の専門家たちの説得を受けたのか、最近はそこまで強硬な主張はしていないけど、現場の主張と微妙に齟齬があるような気がする。チェコテレビでも病院関係者に、誰でも検査を受けられるのかという質問をしつこく繰り返しているが、これも不安に駆られて安心のために検査を受けたいと考える人が増えつつあることを反映しているのだろう。
いずれにしても、われわれ外国人にできるのは、政府の決定を守って外出を控えることと、医療機関に負担をかけないように、無駄な検査を求めないことぐらいである。とにかく対策の第一線でがんばっている医療関係者、警察、軍、消防署の方々から、犠牲者が出ないことを祈るしかない。バビシュ首相は、待ちに待った中国から緊急輸入した医療用品が届いたことが自慢なのか、最高品質の医療用マスクを着用して記者会見に臨んでいたけれども、そんなのは政治家ではなくて現場で苦労している人たちに回すべきだろうに。
2020年3月23日9時。
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2020年03月24日
冷戦期のチェコSF 『世界SF全集』(三月廿一日)
この希代の全集に関しては、チャペクのSF作品を紹介したときにも取り上げた。栗栖継訳の『山椒魚戦争』の初出がこの全集の第9巻(1970年刊)だったのである。この全集の刊行の始まりは1968年だというから、版元の早川書房が1959年に「SFマガジン」の刊行を開始して、日本のSF作家だけでなく、読者の育成が始まってから10年経っていないことを考えると、なかなか大胆な企画である。
ただ、日本人の読者はと言うべきなのか、出版社はというべきなのかわからないけれども、全集が好きだったのだ。戦前の戯曲全集や、プロレタリア文学系の全集にチャペクの作品が収録されたことはすでに紹介したが、戦後もさまざまな文学全集が刊行されて、図書館に入れられたのはもちろん、一般の家庭でも意外なほど購入していたようである。古本屋で買った本の蔵書印から労働組合で購入したなんてものもあったなあ。かくいう我が家にも、両親はどちらも文学なんてベストセラーを読むぐらいで、あまり感心のない人だったが、集英社かどこかの刊行した世界文学全集があった。読んだ形跡のない巻がほとんどで、いつの間にか押入れにしまいこまれていたかな。
不思議なのは、あくまで個人的な印象だが、全集好きとは言っても、世界文学全集はよく見かけるのに、日本文学全集は、古典を除くとほとんど見かけないことと、一般の人で日本の文学全集を個人で購入したのを見かけたことがないことである。1970年代というのは、出版社にいた知人によると、この手の大部の叢書を所有していることが一種のステータスになっていたから、文学全集だけでなく、日本の歴史やら世界の歴史なんかの、いわば歴史を全集的に扱った叢書も、今からは考えられないほど売れていたらしい。
言ってみれば、この早川書房の『世界SF全集』は、日本のSFが誕生し拡大していく時期と、文学全集が売れていた時期が、うまく重なったことで実現した企画だったといってよさそうだ。どのぐらい売れたのかは知らないが、これで早川が経営危機に陥ったという話も聞かないから、それなりの成功を収めたのではなかろうか。
念のために大体の内容を説明しておくと、1巻から26巻までは海外SFの長編作品が収められているが、一人一巻ではなく、二人以上で一巻となっている巻もある。チャペクの9巻もエレンベルクと一緒だし。その後、27巻は安部公房の作品集で、28巻から30巻までが日本のSF作家の長編を収めたもの。小松左京と星新一だけが一人一巻で、30巻は筒井康隆、眉村卓、光瀬龍の三人の作品が収められる。
31巻以降は短編集で、3冊目の33巻に、ソ連東欧篇ということで、チェコスロバキアの作家の作品も収録されているのである。ただし当時の東欧諸国の作品がすべてあるわけではなく、ソ連が力関係から言っても当然で圧倒的に多く10篇、続いてポーランドが5篇、チェコスロバキアが4篇。最後にルーマニアとブルガリアが1篇ずつという構成になっている。ハンガリーとユーゴスラビアはどこに行ったんだ? 東ドイツもないか。
とまれ、この『世界SF全集』の第33巻に収録されたチェコの作家の作品は、原典が確認できなかったチャペクの「飛ぶことのできた男」と、前回紹介したネスバドバの「クセーミュンデの精薄児」の2篇に加えて以下の二つ。
?@バーツラフ・カイドシュ/栗栖継訳「ヴォラフカのセロリ」
訳者名は日本語版のウィキペディア、以下の作者の説明はチェコ語版による。カイドシュもネスバドバと同様、本業は医師だったようだ。生まれは第一共和国時代の1922年、ビロード革命直後の1990年に亡くなっている。翻訳者としても活躍し、ラヴクラフトの作品もいくつか翻訳している。
この作品の原題は「Volavkovy celery」で、1970年刊行された『Invaze z vesmíru(宇宙からの侵略)』に収録されている。ボラフカというと囮を意味する言葉が思い浮かぶのだが、所有形容詞が使われていることを考えると人名なのかもしれない。
カイドシュの作品は、もうひとつ翻訳されていて、同じ『Invaze z vesmíru』から「Drak」が深見弾の訳で「ドラゴン」と題して、『東欧SF傑作集』下(東京創元社、1980)に収録されている。
?Aイバン・フォウストカ/深見弾訳「炎の大陸」
作者のフォウストカは、本業はジャーナリストで、ムラダー・フロンタ紙などで活躍したらしい。その一方で俳優としても活動していたというが、劇場中心の活動だったのか、出演作品を見たことはない。生まれたのは1928年で亡くなったのは1994年のこと。
作品の原題は「Plamenný kontinent」で、1964年刊行の『Planeta p?elud?(幻影の惑星)』。子供向けのSF作品で、この作品も含めて4篇の短編が収められているようだ。子供向けで、しかもSFなら読めるかもということで、本屋で探してみようと思う。
2020年3月22日22時。
2020年03月23日
高齢者を守れ(三月廿日)
今回のコルナウイルスの流行に関して、高齢者がもっとも重症化しやすく死亡率も圧倒的に高いということは、わりと最初のほうから言われていた。それなのに日本も含めて、どこの国でもこれといった高齢者の感染を防ぐような対策をとっていなかったのは不思議でならない。子供たちから学びの場である学校を奪うぐらいなら、一時的に高齢者の行動の自由に制限をかけるほうが、社会に与える害は少ないはずだ。
それに、マスコミだって、普段から老害、老害と、高齢者が長々と組織のトップに居座って、組織が硬直していることを批判しているのだから、老害指導者を健康のために一時的に隔離しようなんてキャンペーンでもやれば見直したものを。まあマスコミの世界でも老害化は進んでいるから、組織から高齢者を排除しようなんて主張はできないのだろう。記事書いている人たちが、高齢者に片足踏み込んでいる可能性もあるし。こっちも人のことはいえないのだけど。
中止になった選抜高校野球に関しては、新聞社の商売の種になっている高校野球にはまったく興味はないから、この大会が中止になったことを悲しむつもりはない。ただ高校野球ですら中止になったということは、スポーツの大会を開催するためのハードルが限りなく上がったことを意味する。それを防ぐためにも、出場校や大会の運営組織、出場校の宿泊先の従業員、観客まで、高齢者にかかわらせない形で開催することはできなかったのかなあ。実現していればオリンピックも、IOCやJOC、大会組織委員会の老害どもを排除して開催する目も出たと思うんだけど。スポーツ選手の祭典のはずなのに、選手たちよりも年寄り役員たちのほうが威張っているのは真っ当とはいえまい。
それはともかく、チェコも高齢者を守る対策にはあまり積極的ではなく、個々の老人ホームが、お見舞いの禁止を決定したぐらいだった。それが今週に入って、イギリスが70歳以上の高齢者に自宅待機命令を出したのと同じころ、チェコでも65歳以上の高齢者に対して、買い物などの例外を除いて外出を禁止する命令がでた。同時に老人ホームの入居者に対しては、施設の外に出ることを禁止したんだったかな。
同時に、一部の自治体では、高齢者に対して買い物代行のサービスを始めた。詳しいことはわからないけれども、電話で必要なものを伝えると、配達して玄関のドアの前においておいてくれるようだ。民間企業で買い物代行をしている会社は、このコロナウイルス騒ぎで申し込んでもすぐには対応できなくなっているようだから、自治体が動く必要があったのだろう。高齢者の多い田舎の自治体だと、民間サービス自体が存在しないというのもあるか。
一方政府は、高齢者がある程度安心して買い物に出られるように、高齢者以外は店に入れない時間の設定を検討し始め、最初は午前10時から12時を指定して、食料品を販売する店と、薬局に関して65歳以上の高齢者以外は店に入れないように指示を出した。たしか郵便局も自主的にその規定に倣って制限をかけたはずである。初日は客側に通達が徹底されていなかったので、一部若い客も入れたという例もあったようである。
それが、この時間設定が、昼食のための買い物に出る、高齢者以外の人たちだけでなく、朝一番に開店直後に買い物に行くことに慣れた高齢者にも不評で、政府はすぐに時間設定の変更を余儀なくされた。一日で時間を変えるというのは、臨機応変といえば言葉はきれいだけど、最初に決めるときにもっと考えて決めろよといいたくなる。
今日からは新たに多くのお店の開店時間である朝7時から9時までが、高齢者専用のお買い物時間になったのだが、この設定にも、出勤途中で昼食用のパンやら何やらを買っていくという人には不評なようである。不幸中の幸いは、政府の予定以上に休業を余儀なくされた企業が増えていて、毎日職場に出勤して仕事をする人が減っているから、被害を被っている人の数が少ないことか。
これだけ配慮してなお、夜のニュースには、こんな時間に買い物するなんてと不平を漏らす高齢者が登場していた。お年寄りというものは、政治家やテレビに出てくる連中を見ていればよくわかるとおり、えてしてわがままなもので、わがままなお年よりは世界中のどこにでもいるということなのだろう。自分が感染したら危険なグループに入っているということがわかったら、自主的に自宅待機に入ってもいいと思うんだけど。自分は特別だから大丈夫という意味不明な自信を持ちやすいという点では、中高生あたりと高齢者は双璧ということか。
以上の文章は、学校を奪われた子供たちが外で遊んでいるのにクレームをつける高齢者が、テレビのコメンテーターも含めて大量にいるという話に頭にきて、怒りにまかせて書いたものである。読んで不快感を覚えた方にはお詫びする。言い訳すれば、初稿はさらに過激で、さすがにまずかろうということで改稿はしたのだけど……。
2020年3月21日24時。
2020年03月22日
チェコのコロナウイルス感染症情報(三月十九日)
運動不足によるお疲れモードで、今日は、今日も? ちょっと手抜きモードである。最初の感染者が出てしばらくして、チェコの厚生省では、情報を集約して随時更新していくページを公開している。それが、 ここ 。
一番上に、今回のウイルス感染症に関する基本的な情報が簡潔に記され、その下に、左側に検査を受けた人の数、真ん中に感染者の数、右側に完治した人の数が置かれている。最初は感染者の数だけだったのだが、何日か前につかされた。バビシュ首相の検査を増やすという方針を受けて、これだけたくさん検査をしていますよという広報の必要が出てきたのだろう。
現場では悲鳴を上げていて、感染症が疑われる人以外は検査しない、というよりは、できないと宣言しているのだけど。検査、検査とうるさい人は、政治家の中にも多い。感染者に関しては、完治したことを確認するために、何度も検査をすることになるわけだし、検査できる機関が増えても、検体を採取する病院の負担は減らないわけだから、病院が意味のない検査を拒否するのは当然である。9割以上は陰性で、陰性であることが感染してないことを完全に否定するわけでもないという話だし。
完治した人の数も、最初のさ3人が完治するまでは存在しなかった。症状自体はかなり前に消えていたようだが、検査で陰性の判定が連続2回出ないと完治と認められないらしいから、時間がかかったようだ。とまれ、病気から回復する人が出始めたことはいい傾向である。これが毎日増えていくようだといいのだけど、3で止まっている。
この部分で不満なのは、重症者の数がどれぐらいなのか、どのぐらいの数の人が集中治療室に入っているのかという情報がないこと。重症者の数はここしばらくずっと二人と言われているけれども、そのうちの一人が別の人に代わったような気もするし、重症者になった人の総計と、現時点で重症の人のデータが必要か。できれば入院している人と、自宅療養の人の数もあると、病気に対するパニックも収まると思うのだけど、ここで軽症者ばかりで入院すら不要の人が大部分であるなんて数字が出ると、現在の政府の強硬な対策に対する反対が巻き起こるかもしれない。
その下から始まるセクツェ1は日ごとの感染者数の変遷が概観できるようになっている。毎日朝と夕方の二回定期的にデータが更新されている、はずなのだけど、更新の時間がずれることも多いし、昼ごろみたら朝とは数字が違っていることもある。感染者数は赤で示されていて、検査した人の数は青で示されている。
セクツェ2は、各地方の保健所が集計したデータを地方別に表示したものだが、国全体の統計と数字が合わないのはなんでだろう。感染した場所もグラフになっていて、当初はチェコ国内はほとんどなかったのが、国内感染者の割合が日に日に高くなっていった。国外での感染地は、当然イタリアが圧倒的に多いが、当初はあまりいなかったオーストリアでの感染者が増えているのが気になる。
この部分で一番興味深いのは、地方別の感染者数のグラフで、当初はプラハとウースティー地方が圧倒的に多かったのが、プラハが圧倒的なのは変わらないものの、リトベルなどが閉鎖された直後にはオロモウツ地方が一気に数を増やして2番目になったりと日に日に状況が変わっている。最近増えているのは中央ボヘミア地方である。
ここもなあ、地方別の重症者数とか、完治者数とか出してほしいよなあと思う。それから、オロモウツ地方の感染者数を町ごとに一覧にした このページ のデータと微妙に合っていないことがある。町とはいっても、周辺も含んだ、かつてのオクレスと呼ばれた行政単位別の集計である。リトベルとウニチョフが圧倒的に多いのがわかる。
このセクツェの一番下は、男女別、年齢別の感染者数のグラフ。以前は地方別の自宅待機者数の数のグラフもあったのだが、外出禁止令でほとんど全員自宅待機状態に近くなったことで不要な情報として削除されたようだ。自動車工場などの大工場でも従業員の不足や、組合の要求から操業停止を決めるところも出始めていて、政府の職場への往復は外出禁止の対象にならないと言うのも有名無実に近づきつつある。
最後のセクツェ3は最近追加された部分で、バビシュ政権が最近繰り返し入手のあてがあることを自画自賛している、マスクなどの医療関係者が感染防止のために身につける装備を、どれだけの数、各地方に配分するかという表である。この手の物資の大半は、ゼマン大統領が中国に出かけて、中国政府と交渉して確保することに成功したものだというが、当然無料でもなく、通常価格でもなく、品薄になっている現状にあわせた価格での購入で国庫に大きな負担をかけることになる。
何週間か前には、世界中が病禍に見舞われた中国に対して、大量の救援物資を、当然無料で送ったわけだが、中国はその恩も忘れて病気をねたに世界中を相手に商売をしているわけである。下手をすればこのコロナウイルス騒動で、火事場泥棒的に儲けた中国だけが、経済危機が軽く済むなんてことになりかねない。
2020年3月20日24時。
タグ: コロナウイルス