やはり、まずは情報が必要だと言うことで、インフォメーションセンターに向かうことにする。案内の表示にしたがって上っていたら、一番下の広場、マサリク広場に面した家の壁に、コメンスキーのレリーフがついていた。コメンスキーが生まれたと言われる家の一つらしい。他にも近くのニブニツェと、コメンスキーの名字の基になったと言われるコムニャにも生家と言われる家があるようだ。ウヘルスキー・ブロトのこの家は、生家ではないとしても、ここで幼年時代を過ごしたのは確かだという。
インフォメーションセンターは真ん中のマリア広場の上面の、劇場の現代的な建物に入っていた。街の地図をもらって、街の写真とコメンスキーの絵があしらわれた小さなお土産を買った後、気になっていたものについて質問した。どこのインフォメーションセンターでも、名刺サイズの紙に観光名所の写真と簡単な説明が印刷された「トゥリスティツカー・ビジトカ」という「名所の名刺」と訳したくなるものが売られていて、買っている人がいたのだ。
こんなの集めてどうするんだろうと思って質問したら、専用のノートがあって購入した名刺を貼り付けられるようになっていると言って見せてくれた。名刺を貼るスペースの横には罫線が引かれていて、あれこれコメントを書き込んで、簡単に写真付き旅日記のようなものが作れるようになっているようだ。こういう文章を書いている以上、旅日記もどきには興味はないが、専用のノートに収集したものを貼り付けるというのには、コレクター魂に火をつけかねないものがあって、初日に質問しなくてよかった。
コメンスキーの博物館は、旧市街の一番奥、坂を上り詰めた先にある。その前の広場は「フラドニー」と名づけられているから、かつてはこの場所に城砦があったのだろう。現在のコメンスキー博物館が入っている建物は、セズナムの地図ではザーメクと書かれていたはずだから、城砦が城館に改築されたのかと考えて、博物館の人に聞いたら、「ザーメク」とは言うけど、完全な城館が存在したことはないと言う答えが返ってきた。
ウヘルスキー・ブロトの領主だったコウニツェ家(=カウニッツ家)が城館を建設しようとしたのは確かだけど、最初の部分、現存する大広間を建設しただけところで工事が中断して再開されることはなかったのだと言う。博物館は、その大広間と周囲の街を囲む城壁、出入り口となっていた城門の建物などをつなげて利用しているらしい。コウニツェ家の城館もすでに存在する城壁などを再利用して建設しようとしていたのかもしれない。
ここでコウニツェ家の名前が出てきたので、「ブルノの近くのドルニー・コウニツェの?」と聞いたら城館を建てようとしたのは、コウニツェはコウニツェでもボヘミア流のコウニツェ家だったと思うという答えが返ってきた。記憶を掘り返して、ウヘルスキー・ブロトをコウニツェ家が購入したというのと、モラビア流のコウニツェ家が断絶したあと、その所領はボヘミア流のコウニツェ家が相続したというのを、このブログでコウニツェ家を取り上げたときに書いたのを思い出した。
そして、博物館を出て街を歩いていたら、とある建物に、「この家でコウニツェ家の最後の一人、バーツラフが亡くなった」というようなことが書かれたレリーフが設置されているのを発見して、すべてがつながったような気がした。ドルニー・コウニツェで誕生したこの貴族家は、ボヘミアを経てモラビアに戻り、ブルノで高等教育の発展に貢献した後、ここウヘルスキー・ブロトで終焉を迎えたのである。コメンスキーを目当てに出かけたウヘルスキー・ブロトでコウニツェ家の最期の地を見つけるとは、予想もしていなかった。
さて、目当てのコメンスキー関係の展示については、具体的なことを書いても仕方があるまい。ただ透明のアクリル板に文字が記されているのに、その後から光が当てられて読むのが辛いところが多かったという苦情は記しておかなければなるまい。もう一つは、いろいろな国の言葉に訳されたコメンスキーの著作を集めた図書室に日本語の本が二冊あったこと。一冊がハードカバーの『世界図絵』だったのはいいにしても、もう一冊が幼児教育関係の本だったのはどういうことなのだろう。著者がコメンスキーの研究者だったのだろうか。
ウヘルスキー・ブロトの歴史についても簡単に紹介されていて、もともとプシェミスル家がハンガリー(当時ウヘルと呼ばれた)に対する防御のために建設した砦から発展したのがこの街で、国王都市だったのだが、借金のために王の手を離れて領主のものになったとか何とか書かれていた。王の借金だったのか、街の借金だったのかはわからないが、王妃の都市となったフラデツやポリチカといい都市の歴史というものもなかなかややこしいものである。
2019年8月7日22時45分。
タグ: コメンスキー
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