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2018.03.19
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カテゴリ: アート
図書館で『蒲生邸事件』という本を、手にしたのです。
戦時中の日本へ降り立った時間旅行者ってか・・・この舞台設定が興味深いわけで、借りる決め手になったのです。



宮部

宮部みゆき著、毎日新聞出版、1996年刊

<「BOOK」データベース>より
この国はいちど滅びるのだー長文の遺書を残し、陸軍大将・蒲生憲之が自決を遂げたその日、時の扉は開かれた。雪の降りしきる帝都へ、軍靴の音が響く二・二六事件のただなかへ、ひそかに降り立った時間旅行者。なぜ彼は“この場所”へ現れたのか。歴史を変えることはできるのか。戦争への道を転がり始めた“運命の4日間”を舞台に展開する、極上の宮部ミステリー。

<読む前の大使寸評>
戦時中の日本へ降り立った時間旅行者ってか・・・この舞台設定が興味深いわけで、借りる決め手になったのです。

rakuten 蒲生邸事件



この小説の語り口をちょっとだけ、見てみましょう。定宿にしているホテルに飾られていた写真パネルあたりです。

p8~9
<第一章 その夜まで>
 額の余白の部分に、金釘文字で書き込んである。
「旧蒲生邸 昭和22年4月20日 撮影者小野松吉」

 蒲生邸。ということは、これは個人の邸宅だったのだ。博物館みたいな外観はともかく、それほど大きな建物ではないようなのは、それでうなづける。
 それにしても、なんでこんな洋館の写真がここに?という疑問は、すぐ上の額縁の写真を見上げると解けるようになっていた。

 それは肖像写真だった。肩章のついた軍服の胸に勲章を飾った初老の男性が、カメラに正対している。視線はわずかに上を向き、そのせいか、やや放心したような表情だ。被写体の男性は椅子に腰掛けていて、上半身しか写っていないが、それでも、輪郭のはっきりしたいかつい顔と、がっちりした肩の感じから、いかにも軍人らしい武張った雰囲気が、充分に伝わってきた。

「陸軍大将 蒲生憲之」
 被写体の下に、そう書いてある。写真に並べて、同じ金釘文字の筆跡で綴られた長文の文書も掲げてあった。

「現在当ホテルの建っている場所は、戦前、陸軍大将蒲生憲之氏の屋敷があったところです。
 蒲生大将は、明治9年千葉県佐倉市の農家の次男として生まれました。幼い頃から学業と武芸に優れ、地元の中学を卒業すると陸軍士官学校へと進み、さらに陸士卒業後、陸軍大学在学中に日露戦争が勃発すると、中隊長として前線でめざましい活躍を果たしました。
 日露戦争が終ると陸大学へ戻り、恩賜の軍刀を賜って卒業後は軍務局軍事課に勤務、以降も順調に進級を続け、歩一旅団長、参謀次長などの経歴を経て昭和8年4月に陸軍大将になりました。しかし、翌9年に病を得て予備役に退き、病後の回復がはかばかしくないままに退役。著作と軍務とりわけ補給に関する軍略の研究に打ち込む生活に入りましたが、2年後の昭和11年2月26日、2・26事件勃発当日に、蒲生大将は、長文の遺書を残して自決しました。
(中略)
 大将の遺書は、戦前の我が国の政府・軍部が置かれていた状況と抱えていた問題を鋭く分析した上、起こりうる最悪のケースとしての対米開戦とその敗北まで見通し、軍部の独走を諌めた恐ろしく先見の明に富んだ内容で、現在でも、歴史研究家のあいだで高い評価を受けております。

 なお、当ホテルの創始者小野松吉は、昭和23年に旧蒲生邸を買い取った折、大将の遺書の存在を知り、故蒲生大将の人柄とその慧眼に深い尊敬の念を抱き、創業当時から館内に大将の肖像と経歴を掲げて顕彰して参りました」

 読みにくい筆跡なので、貴史は自然と身を乗り出し目をこらしていた。後ろでエレベーターのドアが閉まる音が聞こえ、はっとして振り返った。ようやく降りてきたエレベーターの箱が、乗り手のないままそこで静止している。





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Last updated  2018.03.19 08:46:05
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