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2023.05.25
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カテゴリ: 気になる本
図書館で『アンゲラ・メルケルの東ドイツ』という本を、手にしたのです。
NHK番組「ロックが壊した冷戦の壁」を観て元ドイツ首相・メルケルを見直していたので、この本を借りたのです。




川越修著、ナカニシヤ出版、2022年刊

<出版社>より
劣化し、崩壊していった東ドイツ社会。
そこで暮らしたメルケルは何を経験したのか。
「劣化する社会」のなかで、自らの信念に従って生きた人びとの思索との対話。

<読む前の大使寸評>
NHK番組「ロックが壊した冷戦の壁」を観て元ドイツ首相・メルケルを見直していたので、この本を借りたのです。

rakuten アンゲラ・メルケルの東ドイツ


東ドイツをわざわざ取りあげた理由が「はじめに」に述べられているので、見てみましょう。キーワードはこの本の表紙にも出ている“「劣化する社会」を生きる人びと”のようです。
p4~9
<なぜ東ドイツか>
 第一の理由は、有名なÈ・H・カーの『歴史とは何か』における表現を借りれば、歴史とは「過去と現在の間の尽きることのない対話」を通じて、現在と未来について考える一つの知的な作業だということに関わっています。でもそれだけでは、それこそ無限に近い事実の集積である歴史のなかから、あえて東ドイツを取りあげる理由としては、漠然としすぎています。

 東ドイツをめぐるこれまでの研究や解説では、過去の遺物となってしまった社会主義国家の負の遺産を清算することが理由とされることが多かったように思います。もちろんそれだけではなく、そうした一党独裁下の社会主義国でも国家の監視の及ばない日常生活の聖域があったこと、そして細々とではあっても強権的な国家に抵抗する多様な動きがあったことを強調する研究も存在しています。
 でも人間が作る社会は、こうした権力と抵抗、あるいは政治と日常生活といった二面を単純に張り合わせただけの薄っぺらなものとしてとらえることができるのでしょうか。

 この疑問はそもそも社会とは何かという問いとつながっています。本書において社会は、メダルやコインが表と裏だけではなくその間に挟まっている厚みの部分からなっているように、この三者が一体となったものとして捉えられています。そして本書では、この厚みの部分を中間領域と呼ぶことにします。ここに本書が東ドイツを取りあげる第二の理由が潜んでいます。
 その中間領域は、抽象的にいえば、人と人の多様なつながりの束だということになりますが、目に見える形としてはさまざまな組織から成り立っています。その組織を本書では中間組織と呼びます。中間組織には、政治的に上から組織されたものから、日常生活におけるインフォーマルな組織まで、多様なバラエティが存在しています。

 では、40年という短命に終わった東ドイツ社会には、こうした中間領域・中間組織は存在したのでしょうか。1990年の統一後急速に進んだ東ドイツ研究においては、西ドイツ社会に比べて中間領域・中間組織の層が薄かったことが東ドイツ社会崩壊の原因の一つであると捉えられているように思われます。しかし東ドイツにも中間領域・中間組織が存在したのであれば、東ドイツの歴史を社会主義国家における政治の失敗の歴史として、あるいはこれに対する抵抗の歴史としてだけではなく、こうした意味での社会とそこにおける中間領域ないし中間組織の織り成す歴史として描くことによって、どのような東ドイツ社会像が浮かび上がってくるのでしょうか。

 こうした関心が、本書において東ドイツを取りあげる第二の理由となっています。
 ただこれだけでもまだ、日本の読者に向けて東ドイツを対象にした本を書く十分な理由にはなりません。第三の理由は、サブタイトルに込められています。それを、例えば「崩壊する社会主義社会」ではなく、「劣化する社会を生きる人びと」とした背景には、資本主義あるいは社会主義体制の下であれ、民主主義体制あるいは独裁制の下であれ、社会は一方向に正常に動き続ける、つまりは「進歩」ないし「発展」し続けるものではなく、一定の時間幅のなかで、「劣化」するという前提があります。

 イメージとしては、このごろはあまり問題になりませんが、水道の蛇口が経年劣化でぽたぽたと「水漏れ」をおこす様子を思い浮かべてください。
 社会の「劣化」は社会主義国家であった東ドイツに固有の問題ではなく、「劣化」の要因や現象は異なっても、いまの日本にも見られます。現在の日本における社会が至るところで「水漏れ」をおこしていることは皆さんも容易に理解できるでしょう。
 社会のどこで、どんな「劣化」が見られるのか、そしてその「劣化」はどんな帰結をもたらすのかは、それぞれの社会で異なり、決して一様ではありません。「劣化」と「発展」の動きが相互にぶつかり合って社会に「改革」の動きをもたらすこともあれば、「劣化」が社会の「崩壊」に直結することもあります。

 東ドイツ社会を「劣化する社会」と捉えるのは、この社会では「劣化」が常態化していたためです。その原因としては、社会主義社会がそもそも資本主義社会より進んだ社会だという暗黙の前提が存在し、その前提に立って社会の「劣化」が表面化することを妨げる強い権力意思が働き、そこに暮らす人びとの方でも「劣化する社会」に慣れて沈黙し、日常生活に埋没するというある種の均衡状態が成立していたことが挙げられます。
 ただ「劣化する社会」においても人人は生き続けており、均衡を破る何らかの要因が発生すれば、「劣化」に抵抗する動きが表出します。ではこの抵抗の動きはどこから生まれ、抵抗にはどのような手段が選択されたのでしょうか。

 このように考えると、「劣化する社会」の実態をなかなか目には見えない社会の中間領域に分け入って明らかにし、そのなかで人びとは「どのように生きていたか」、つまりどんな問題に直面し、それにどのように対応しようとしていたのかを知ること、そしてその「劣化する社会」が何を契機に動揺し、そのなかで人びとはどのような選択をしたか、さらにその選択の帰結は何だったかを問うことは、「劣化」と「発展」のせめぎ合う日本社会に生きるわが身の問題として私たちに跳ね返ってくるといえるのではないでしょうか。





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Last updated  2023.05.25 01:05:10
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