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商品名 グッとくるフィギュアコレクション28 乃木坂春香の秘密 乃木坂春香 完成品フィギュア 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー シーエムズコーポレーション 発売日 10年01月下旬 作品シリーズ名 グッとくるフィギュアコレクション 原作名 乃木坂春香の秘密 コピーライト (C) 五十嵐雄策/アスキー・メディアワークス /『乃木坂春香の秘密』製作委員会 製品仕様 塗装済完成品サイズ:全高 約160mm材質:PVC/ABS 詳細 麗しの学園アイドル『白銀の星屑(ニュイ・エトワーレ)』こと乃木坂春香嬢がグッコレに降臨!容姿端麗で才色兼備、可愛くて清楚なお嬢様なのに誰にも言えない秘密を持つ彼女…その秘密をあなただけにそっと教えます! メーカー希望価格 5250円(税込) 販売価格 3920円 (税込) 25%オフ! 「たなぼた」 「炎帝の紋章」「長編小説「たなぼた」と「炎帝の紋章」をアルファポリスファンタジー小説大賞にエントリー中投票お願い致します
2009年08月31日
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序章 斬った張った、などという血生臭い世界など絶対的に無関係。あまりに関係ない出来事なので、関係あるという仮定すら思ったことも無かった。 だが、そんな思いと現実とを仕切る壁は、あまりに脆く唐突に崩れ去っていく。 後になって思えば――その日は朝からおかしな事が起こっていたのだ。 しかしその前兆に気付く事も無く、優樹航太はいつもと変わらぬはずの日常を送ろうとしていた。 湊夕美は鞄に忍ばせていた二本の脇差を素早く抜くと、振り下ろされた細剣をクロスして受け止めた―― 突然目の前で始まった戦闘に、航太は身動きが出来ない。しかしそんな航太など関係ないとでも言うかのように、夕美と見知らぬ男との戦闘は続いた。 航太の存在はこの二人に無視された事になるのだが、航太はそれで構わなかったし、現在のこの状況をどう受け止めればいいのか分からずオタオタするばかりで、まったくそれどころではなかった。(一体何なんだよ……) 航太は自問してみるが、心の中にいるもう一人の自分は何も答えてはくれない。それどころかそんな自分がいるのかすらわからない。これも混乱がなせる業だ。そして何で自分がこんなところにいるのか? それすら分からなくなってくる。 そしてここにいる事の意味など、この時の航太に理解出来るはずはなかった。 優樹航太という存在は、クラスではこれと言った意味を持たない。そういう少年である。 クラスですらそうなのだから、学校、町と範囲を拡大させても、存在が薄れはすれども、際立つ事などありはしない。そして人の多くはそんな人生を送るモノであり、それ自体が意味を持つことも無い。 そんな意味で言えば、湊夕美という同級生は、航太よりも少しばかり知名度の高い少女であった。 ただし勉強が出来るとか美少女だとかいう事ではなく、不登校気味の病弱な少女として。故に群を抜く知能も、他を逸脱する容姿も“病弱な少女”を形容する言葉にしかならない。 もっとも、そんな事で皆に知れ渡るのと、あまり存在を認めてもらえない事、そのどちらが幸福なのか? そればかりは誰にも答えは出せない。 それを決めるのは本人だけで、本人がそれで納得しているのなら、それはつまり幸福であると結論付ける事が出来よう。 ただし少し前から現在までの航太の状況は、不幸と言っても差し支えないだろう。 ほんの数十分前――突然暗くなった空が轟き、夕立が滝のようにアスファルトに叩きつけられ、雨粒が一足飛びに夜に突入した周囲の風景を混濁させていく。 これでは傘はあっても地面から跳ね返った水滴に足元は濡れそぼリ、わずかな隙を突いて、横殴りの雨滴が上半身をも濡らしてゆく。 しかも少し前に通った車が、地面の水を容赦なく跳ね上げていったので、この時の航太は傘を指し続ける意味を見失いかけていた。 そんな数メートル先も見えないような雨の中、航太は街灯の下に佇む一人の少女の存在を認識していた。身体が弱く欠席がちのクラスメートの湊夕美が、こんな日に傘もささずにいるというのも、おかしな出来事の一つだったのだろう。 しかし特に親しいわけでもないばかりか、喋った事すらない上に、なにやら訳有りそうな格好の男と向き合っているのだ。航太にとって今の彼女の存在は困惑の原因以上のモノではなかった。 声をかけてもいいものか? それとも、かけない方がいいのか?優柔不断に思い悩むうちに、二人はついに斬り合いを始めたのだ。彼女の相手は季節外れのコートに身を包んだ男で、フェンシングの剣のような獲物を手に夕美に対抗していた。 ――そう、ふたりは対抗していたのだ。 夕美は男の攻撃を巧みに受け流し、目にも留まらぬ速さで彼に肉薄する。 だが彼もまた夕美の踏み込みに反応し、間合いを取って彼女の攻撃を避ける。 次手までのわずかな対峙。 彼女の周囲に何か霞みのようなものが掛かり、視界をさらに悪くしていく。(湯……気?) 夕美を包む霞みのようなモノは湯気だった。(湊さん、熱があるんじゃ……) だが助けに入ろうという気は起きない。 いやそれ以前に、航太は突然始まった戦闘を認識するのに、数秒ばかりかの時間を必要とした。 なんで通りかかっただけの男が夕美に細剣を抜いて斬りかかるのか、そしてそれをなんで夕美は事も無げに脇差で受け止めたのか。航太の思考回路は、目の前で起こっている事象の演算に追いつかない。 やっとこの状況が危険なのだと、航太が理解した時――二人は動いた。 男が突いて来た剣を夕美は一歩踏み出すことで右手の脇差で押し返すと、滑らせるように引き抜いた左の脇差を男の首に突き立てた。 そして喉元に突きつけられた刃が、下腹部へと駆け抜ける。 夕美は男を蹴り飛ばすと、軽快なステップで後方に飛びのくと、ぐったりと肩を落とした。 上下に揺れる背中が、彼女の疲労を物語っている。 赤い泥が身体から零れ、雨の雫に混ざり側溝へと流れていく。 ただ呆然とその光景を眺めているしかなかった航太の視線と、刀についた血を振り落とす夕美の視線とが会う。刹那、航太は衝動的に走り出していた。「たなぼた」 「炎帝の紋章」「長編小説「たなぼた」と「炎帝の紋章」をアルファポリスファンタジー小説大賞にエントリー中投票お願い致します
2009年08月31日
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商品名 mobip(モビップ) けいおん! 平沢唯 可動フィギュア 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー アオシマ 発売日 09年10月下旬 作品シリーズ名 mobip 原作名 けいおん! コピーライト (C) かきふらい・芳文社/桜高軽音部 製品仕様 フェイス 全3種類ハンド 全3種類上履き、靴ギター&ストラップマイクスタンド通学用バックドラムパーツ(ハイハット) 詳細 TBS系で放送された大人気TVアニメ『けいおん!』から、「平沢唯」をmobip化しました!担当する楽器はもちろん、学園生活に必須なバックと上履きも付属します。顔・手パーツも3種類用意。いろんなシチュエーションを演出して遊ぶことができます。メンバーたちの登校シーンや部室でのゆるやかな日常をはじめライブ本番やリハーサルの風景などを、あなたの手で再現して楽しんでください!なんと、今後発売予定の「けいおん!田井中 律」に使用するドラムパーツが付属! メーカー希望価格 3150円(税込) →販売価格 2670円 (税込) 15%オフ! 商品名 mobip(モビップ) けいおん! 琴吹紬 可動フィギュア 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー アオシマ 発売日 09年10月下旬 作品シリーズ名 mobip 原作名 けいおん! コピーライト (C) かきふらい・芳文社/桜高軽音部 製品仕様 フェイス 全3種類ハンド 全3種類上履き、靴キーボード&スタンド通学用バックドラムパーツ(タム、スネア) 詳細 TBS系で放送された大人気TVアニメ『けいおん!』から、「琴吹紬」をmobip化しました!担当する楽器はもちろん、学園生活に必須なバックと上履きも付属します。顔・手パーツも3種類用意。いろんなシチュエーションを演出して遊ぶことができます。メンバーたちの登校シーンや部室でのゆるやかな日常をはじめライブ本番やリハーサルの風景などを、あなたの手で再現して楽しんでください!なんと、今後発売予定の「けいおん!田井中 律」に使用するドラムパーツが付属! メーカー希望価格 3150円(税込) →販売価格 2670円 (税込) 15%オフ! あのアオシマが”リトルバスターズ”に続き、ついに”けいおん”に手を出……もとい、mobip化!! アオシマといえば、直管竹槍とかシャコタンツライチ、XXエアロを組んだクラウン、シーマ、グロリア、セドリック……ヤンキー車や(下品な)VIPカーのプラモ専門というイメージ(というか偏見)があるのですが、最近は時代の流れか、キャラクター車(といっても、シャコタンブギとか頭文字Dとかなので実車に近いのですが……)痛車…… そうそうプラモデル フルメタル・パニック 01 1/48 M9 ガーンズバック 相良宗助Ver.[アオシマ]《予約商品09月発売》こんなものまで…… まぁ、ガーンズバックはたぶん買いますが…… で、ついにmobipとしてリトルバスターズに続き、けいおん…… 値段も手頃だし4人(……出ますよね?)揃えても1万3千……万が一、梓まで出たとしても1万6千……アイテムも色々付きそうなので、きっとお買い得! のはず!! ……私も買おうかしら…… 長編小説「たなぼた」と「炎帝の紋章」をアルファポリスファンタジー小説大賞にエントリー中投票お願い致します
2009年08月29日
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商品名 ブラックラグーン レヴィ 完成品フィギュア 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー アルファマックス 発売日 10年01月下旬 原作名 BLACK LAGOON コピーライト (C) 広江礼威・小学館/BLACK LAGOON製作委員会 製品仕様 コールドキャスト製塗装済み完成品(透肌素材使用)【サイズ】全高約26cm木製台座付き 詳細 原型制作:Gill Gill メーカー希望価格 17640円(税込) →販売価格 14080円 (税込) 20%オフ! 商品名 ブラックラグーン バラライカ ソファーにて 完成品フィギュア 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー 回天堂 発売日 09年11月下旬 原作名 BLACK LAGOON コピーライト (C) 広江礼威/小学館 製品仕様 【スケール】1/6スケール【サイズ】全高約217mm【素材】本体:ポリストーン(キャンディレジン)一部PVC ソファー(合皮・MDF) 詳細 原型制作:Gill Gill世界でも恐ろしい女性の第一候補、バラライカの1/6スタチューの登場です。葉巻を手に思いをめぐらせながら空中を仰ぐように視線を泳がしているイメージで造形。コレクションドールで使用されているような合皮を使ったミニソファーを採用しました。体重によるソファーの沈み込みも大変リアルですがまたドール用のストッキングもなまめかしい一品です。 メーカー希望価格 17010円(税込) →販売価格 13550円 (税込) 20%オフ! 商品名 ブラックラグーン バラライカ ソファーにて【宮沢模型限定版】完成品フィギュア 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー 回天堂 発売日 10年02月未定 原作名 BLACK LAGOON コピーライト (C) 広江礼威/小学館 製品仕様 塗装済み完成品フィギュア【スケール】1/6【材質】本体:ポリストーン、一部PVC/ストッキング:ポリエステル/ソファー:合皮、MDF 詳細 原型製作:GILL GILL“バラライカ”スタチューが宮沢模型限定版ネイビーブルーで登場!アニメ版がなければネイビーのイメージもあったのではないでしょうか?ドール用ミニソファーも前作と同じで体重によるソファーの沈み込みもリアルに再現。ドール用のストッキングもなまめかしい一品です!!宮沢模型限定版 メーカー希望価格 17010円(税込) →販売価格 14380円 (税込) 15%オフ!
2009年08月29日
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商品名 CHAOS;HEAD(カオスヘッド) 星来オルジェル 完成品フィギュア 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー オーキッドシード 発売日 09年12月未定 原作名 CHAOS;HEAD コピーライト (C) 2008-2009 5pb./Nitoroplus/RED FLAGSHIP 製品仕様 PVC完成品【スケール】1/7スケール【サイズ】全高約15cm(サムライ☆コンデンサ約22cm) 詳細 原型制作:小川慶一郎2008年PCソフトとしてリリース後、Xbox360への移植やアニメ、小説化等幅広い展開を行った科学アドベンチャーシリーズ第一弾、ニトロプラスと5pbによるコラボレーション作品「カオスヘッド」。その劇中劇『ブラッドチューンTHE ANIMATION』のツンデレヒロイン『星来オルジェル』が遂にリアルブート。細部まで作りこまれた魔法少女的衣装と『べっ別にあんたの為にこんなかっこしてる訳じゃ無いんだからねっ!!』という台詞が聞こえてきそうな悩ましげなポージングの組み合わせが』堪らない!またメインウエポン「サムライ☆コンデンサ」は乙女の柔肌とは対照的に重厚かつ凶悪な質感に拘り造形。衣装は期待通り!?のキャストオフ可能な仕様となっており、まさにリアルブートの恩恵に与れる!「星来は俺の嫁」と公言して憚らないギガロマニアックスな御仁は迷わず予約だ! メーカー希望価格 7800円(税込) →販売価格 5980円 (税込) 23%オフ! キャストオフしても……星で見えないんですが、見えるかどうかが重要……えぇ、重要なのですが、例え見えなくても、そういうギミックがある、というだけで、なんだか嬉しくなります。 まぁ、見ようによっては見えるよりもエッチだし……長編小説「たなぼた」と「炎帝の紋章」をアルファポリスファンタジー小説大賞にエントリー中投票お願い致します
2009年08月29日
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先輩より頂いた、巣組み塗装済みの MG グフカスタム やり過ぎない程度に改造して、再塗装……そしてようやく完成しました。 結局デカールは注文するのも面倒なので諦めました。 しかし、プラモを完成させるのって……久しぶり……長編小説「たなぼた」と「炎帝の紋章」をアルファポリスファンタジー小説大賞にエントリー中投票お願い致します
2009年08月29日
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商品名 超像 クイーンズブレイド コレクションフィギュア Vol.3 BOX 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー メディコス・エンタテインメント 発売日 09年12月下旬 作品シリーズ名 超像 原作名 クイーンズブレイド コピーライト (C) HobbyJAPAN 製品仕様 1BOX8個入り各サイズ:約10~12cm材質:PVC・ABSパッケージ:ブラインドボックス 詳細 種類/1Pカラー3種+2Pカラー3種(6種)シークレット?1P+?2P(各1種)よりメーカー規定の比率に従い封入コレクションフィギュアとは思えないクオリティとボリュームで大好評いただいた『超像 クイーンズブレイド』のVol.3がついに登場!Vol.3は『クイーンズブレイド』でも人気の高いアイリ、ナナエル、メローナの3種を、1Pカラーと2Pカラーの各2色でラインナップ。個性的な服装や表情など、細やかパーツまでしっかりとセクシーに作りこまれています。前作を凌ぐクオリティで作られたVol.3にご期待ください。(種類数は、生産商品全体での総種類数となります。販売商品には、そのうちメーカー規定の比率に従い封入されますので、商品によって全種揃えるために必要な購入数は異なります) メーカー希望価格 10080円(税込) →販売価格 8540円 (税込) 15%オフ! 長編小説「たなぼた」と「炎帝の紋章」をアルファポリスファンタジー小説大賞にエントリー中投票お願い致します
2009年08月29日
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商品名 村田蓮爾PSEコレクション 002 “クリス” 2009サンタバージョン 完成品フィギュア 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー ビーグル 発売日 09年12月未定 作品シリーズ名 村田蓮爾 PSE Collection 製品仕様 1/7スケール 詳細 村田蓮爾 PSE Collectionシリーズサンタバージョン2009年カラーのご案内です。ワニマガジン社から出版されている「快楽天」に書き下ろされたイラストを元に、更に村田蓮爾氏自ら色を変更したオリジナルカラーになります。ベース表面には雪の模様が施され、中にはかわいらしいミニ雪だるまのフィギュアが入っています! メーカー希望価格 8400円(税込) →販売価格 6530円 (税込) 22%オフ! 長編小説「たなぼた」と「炎帝の紋章」をアルファポリスファンタジー小説大賞にエントリー中投票お願い致します
2009年08月28日
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商品名 咲 -Saki- のどっち 完成品フィギュア 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー WAVE 発売日 10年01月下旬 作品シリーズ名 トレジャーフィギュアコレクション 原作名 咲 -Saki- コピーライト (C) 小林 立/スクウェアエニックス・清澄高校麻雀部 製品仕様 PVC(一部ABS)製完成品【スケール】1/10スケール【サイズ】全高約230mm 翼長 約300mm【パッケージ】ウインドウボックス 詳細 原型制作:荒川泰之(アルマイト)話題の超人気作「咲~Saki~」より作品中屈指の人気キャラ・原村和が覚醒したとき、イメージとして現れる「のどっち」が驚きのフィギュア化!! 原型製作は従来より作品のファンだったという実力派原型師、荒川泰之氏が担当。原村和の魅力を余すところなく、こだわって造型したうえで、更に膨大なボリューム感と圧倒的な情報量を誇るのどっちの細部ディテールに至るまで丁寧に再現いたしました。頭部はネックジョイントシステムの〔Hタイプ〕を採用。 メーカー希望価格 7980円(税込) →販売価格 5950円 (税込) 25%オフ! フィギュアとは関係ない話ですが、「咲~Saki~」は一部の人間から、麻雀漫画ではないと言われているそうです。金やら命やら、とにかく大事な物を賭けて、時にはイカサマを行いながら真剣勝負を行う漫画らしいです。 まぁ、イカサマしてる段階で真剣勝負じゃない気がするのは……私が間違っているのでしょうか? そのそも、そういう漫画の影響で、麻雀=賭け事というダークなイメージを植え付け、敷居を上げかつ犯罪行為を増長させていると思うのですが…… 個人的には片山まさゆき氏の麻雀漫画が好きだったのですが、それを麻雀好きの人に話すと「アレは~邪道の麻雀漫画」と言われてしまいました。 しかし物語としてストーリーに惹き込む、緊迫感を与える、という意味では、命やらを賭ける話に行き着くのは必然的な流れでしょうが…… でも、私は「どうせ主人公が勝つんでしょ?」という拗ねた視点で見てしまうので、命が鐘が……云々というより、どういう流れでそうなるのか、という方向に関心が行き、そうなると、過度な盛り上げもいいのですが、時々それが食傷気味になり、「咲」のような基本ほのぼの麻雀漫画で十分…… さて、咲といえば、隠れおっぱい漫画……えぇ……和のおっぱい表現には、陰謀すら覚えるほど……巨大、透ける、ツンツン! とまぁ……他のキャラが控えめ~普通バ仮なので、余計に目立つのなんの…… そして「咲」の特徴としては、正直赤面してしまいそうなイメージ表現…… 破廉恥とかじゃなく「天使って……どうよ?」という、アレな表現が……私に絶えられない……そしてそういうシーンが多いのなんの…… またそれが慣れてくると、面白いのですが…… ~な、和のイメージ表現としての天使ですが……(やっと……) まず目が行くのが、おっぱい……そしてでかい羽…… 羽はまぁ、私にそんな属性ないので、熱く語れません。そう、おっぱいです…… 最近のフィギュアはデカイのが多いですが、そんなフィギュアを見慣れていても、うっかり見入ってしまうほどの大きさです。かといって巨大というわけでもなく、おっぱいに無意味な破壊力があるわけではなさそうです。あまりでかすぎると、バランスが崩れ時には醜くなってしまいます。 という事は、体の他の部位との対照でしょうか? 真っ白な衣装と羽の中央にボンと肌色の部位があれば、当然そこに目が行きます。黄色系の色は膨張して見えるとのことですし、華奢な体型もありおっぱいを何倍にも大きく見せているのではないかと推察できるわけで…… 私自身何を行っているのか分からなくなってきましたが、おっぱいはすごい、という事です。 ……あれ? 何かおかしな結論に……長編小説「たなぼた」と「炎帝の紋章」をアルファポリスファンタジー小説大賞にエントリー中投票お願い致します
2009年08月27日
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商品名 とらドラ! 逢坂大河 ミスコンVer. 完成品フィギュア 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー WAVE 発売日 09年12月下旬 作品シリーズ名 ドリームテック 原作名 とらドラ! コピーライト (C) 竹宮ゆゆこ/アスキー・メディアワークス/「とらドラ!」製作委員会 製品仕様 PVC(一部ABS)製完成品【スケール】1/8スケール【サイズ】全高約190mm【パッケージ】ウインドウボックス 詳細 原型制作:千鶴(鶴の館)作品中でも屈指の人気をほこる逢坂大河を、大橋高校文化祭ミスコンでの愛らしい衣装をまとった姿で製作致しました。原型製作は、イベントキットで水着姿の大河を発表し、既に高評価を得ていた鶴の館・千鶴氏が担当。そして製品では、名エピソードを髣髴させる「憂いの表情」と「悲しげに微笑む表情」を組み替え可能としたほか、更にオマケとして愛らしい「満面の笑顔」のパーツも付属。それぞれボールジョイント接続で3種類の表情を存分に楽しむことが出来るようになっています。 メーカー希望価格 7875円(税込) →販売価格 5880円 (税込) 25%オフ! 大河といえば……士郎の姉代わり……って、それは違う大河……それにしても最近ネットで小説を見ていると「大河」って名前多いですね~ 閑話休題…… とらドラ! の手乗りタイガーといえば、仁王立ちで腕を組んでへの字口というイメージというか偏見があるので、最初見たとき(写真が満面の笑顔ver.)だった為か、「誰? これ?」な状態でした。まぁ、憂いだ顔というのも、ちょっと見慣れないというか、レアな表情なので、違和感があるのですが…… 私の客観はともかく、ミニマムでかわいい衣装……イケナイ部分が蠢いてしまいそうな造型に脱帽です。 なんというのでしょうか? やわらかい感じがするといえばいいのでしょうか? しかしこのすばらしい作品に憂い顔というのはちょっと似つかわしくない……となれば、満面の笑顔? ……どちらで飾るか……長編小説「たなぼた」と「炎帝の紋章」をアルファポリスファンタジー小説大賞にエントリー中投票お願い致します
2009年08月27日
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商品名 メイ トリブレイン・オリジナル ポリストーン塗装済み完成品フィギュア 備考 対象年齢:15歳以上※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー ダイキ工業 発売日 09年11月未定 コピーライト (C) 桜文鳥/TOLIBRAIN 製品仕様 ポリストーン塗装済み完成品スケール:1/6 詳細 原型製作:桜文鳥(トリブレイン)幼い日の思い出、望郷、子ども、孫、幼なじみ、親友、懐古、思慕、郷愁…見る人ぞれぞれに様々な想いを抱かせるノスタルジックで不思議な魅力をもった桜文鳥の造形作品を色彩済み作品としてリリースします。おもちゃ感を抑えるポリストーン素材と淡い色彩が、ただのフィギュアとは言い切れない不思議な魅力を支えます。トイ・フィギュアの枠に収まらず、老若男女にアピールした作品です。 メーカー希望価格 8400円(税込) 販売価格 6680円 (税込) 20%オフ! 長編小説「たなぼた」
2009年08月24日
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商品名 グッとくるフィギュアコレクション26 ふたりはプリキュアMaxHeart キュアホワイト 完成品フィギュア 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー シーエムズコーポレーション 発売日 09年11月未定 作品シリーズ名 グッとくるフィギュアコレクション 原作名 ふたりはプリキュア コピーライト (C) ABC・東映アニメーション 製品仕様 サイズ:全長 約200mm材質:PVC/ABS 詳細 子供から大人まで老若男女問わず今なお大人気のアニメシリーズ「プリキュア」!シリーズ2作目「ふたりはプリキュア・マックスハート」よりキュアホワイトこと雪城ほのかがついにグッコレに登場!キュアブラック(別売)との合わせパーツやメップル&ミップルも付属してボリューム満点!キュアブラックと合わせれば「マーブル・スクリュー・マックス!」も再現可能!!ミップル&メップルが付属!表情パーツは3種類付属!キュアブラック用手首パーツ付属! メーカー希望価格 12000円(税込) 販売価格 8980円 (税込) 25%オフ! 長編小説「たなぼた」
2009年08月24日
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序章 告白「……その、ごめんなさい」 順番を抜かされる事は数知れず……それでも長蛇の列に並び、常に列の最後尾をキープしながら待ち続けた棚加保持(たもつ)十七歳を待っていたのはそんな残酷な言葉だった。 放課後の体育館裏――といえば、人気が無い場所の代名詞であり、必然的に喧嘩かヤキ入れなど、あまり人様に見せるものではない事をするには最適な場所――と相場が決まっている。更に精度を上げるために、三学期の終業日と男女という条件を入れて再検索すれば、おのずと答えは決まってくる。 ――そう、告白だ! しかし、たったこれだけの事を聞く為に数時間かかったのは、相手の州上沙理菜が学年一どころか、学校……いや、日本国民の過半数の投票を得て日本一に当選できるぐらいの美少女だからだが、終業式というメモリアルデーに学校内外から交際希望者が殺到し、長蛇の列を作った事も原因の一つと言えるだろう。だがそんな事はいつもの事だ。晩熟で自分に自信がない保持なら、行動に出る前に自己完結してしまうだろう。それでも今日と言う日に告白しようと決心するのには、それなりの理由がある。 今日が三学期最後の日であることもそうだし、この日が保持の誕生日であり、この日を境に何か生まれ変わるような事をしてみたい、という衝動もあった。だがそれだけではまだ決心に至るには及ばない。保持の背中を押したのは、昨晩から今朝方にかけてのある事に起因していた。『……だったら、告白すればいいと思うよ』 あまりにもあっさりと彼女に言われてしまったので、保持は咄嗟にうろたえてしまった。「え? で、でも……」『ほら、当たって砕けろ! っていうじゃない? まずは行動を起こさないと、運命はころがらないわよ? まぁ、流されるという手もあるけどね』「告白かぁ……」『きっと上手くいくわよ。たー君の話を聞く限り、脈はあると思うのよ。今日は迷わず猪突猛進! それがラッキーワードよ! このアイちゃんの占いを信じなさい! それに今日はたー君の誕生日じゃない。この日を境にたー君の運命は大きく変わると思うのよ。だから、猪突猛進よ!』「ラッキーワードが猪突猛進って……」アイちゃんとの付き合いは物心ついた時から続いている。もっとも、アイちゃんは保持がいつも見る夢の住人で、実際には存在しない架空の人物だ。故にその姿は美少女で、おそらくそれは保持の理想の女の子像なのだろう。そこはかとなく沙理菜に似ているのは……しょうがない事だ。アイちゃんは保持が生み出した人格なのだから、彼女の言動はつまりは保持の心理の影響を受ける。結局は揺らぐ心を自身で叱咤しているだけの事だが、それをアイちゃんという人格を借りる事で、冷静かつ自然にその自己暗示を受け入れることが出来るのだ。そしてアイちゃんの占いという形をとった自戒は、マイナス方向のベクトルを持ちやすい保持をプラス方向に向けさせる事にもなっていた。『とにかく、明日は告白! そうする事で、たーくんの運命はいい方向に動き出すわ。たー君にとっても、みんなにとっても……』「わ、わかったよ……」『そうそう、補足するなら足元注意! そして帰り道は裏道がいいわよ?』 ――と、そんなこんなで保持は沙理菜への告白を決意し――見事に玉砕してしまったのだ。 だが保持に落胆はない。その答えが返ってくることは目に見えていたからだ。ただまだ何も言う前ではあったが、今までの状況を考えれば、当然の推理だし、間違ってもいない。 それでも何かを成し遂げられたという達成感はある。それだけでも保持は自分が変われると思えた。「僕こそゴメン! その、ありがとう!」「あ! 棚加君ッ! あぶ……」 沙理菜の声を背中に聞くはずが、途中から足の裏あたりで聞く羽目になったのは、気恥ずかしさから走り去ろうとした保持が、自分の左足につまずき派手に転倒してしまったからだ。(……足元注意……) 慌てて起き上がり、再び走り去ろうとするものの、慌てすぎた為か順番を間違えて、開きあがりきる前に脚を踏み出してしまい、今度はしりもちをついてしまった。「……だ、大丈夫?」「だ、だいじょうぶれふ!」 見事にかんでしまうと言うおまけまで付けて、保持はどうにかその場を逃げ出す事に成功し、自転車置き場に駐輪してある“タナカ流星号三番機改保持スペシャル verT2.0”に飛び乗ろうとした……が、サドルを盗まれてしまっていた。「あぁ……今日は不幸だ……」 保持でなくても嘆きたくなるだろう。興は誕生日でもあるのだ。しかし保持はすぐに気を持ち直していた。「……まぁ、いつもの事か……」
2009年08月22日
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第一章 人身売買 1「ばかだなぁ、だからやめておけと言ったんだ。あぁいう女はお高くとまっているものさ」 親友の鐘剣九十九にバッサリ切り捨てられ、保持は自分が玉砕した事を痛感した。 しかも何も言う前にふられたのだ。あの列が沙理菜への告白を待つ列であった事や、その他諸々の状況を考えれば、保持が告白するまでも無くきもちは伝わっているわけなのだが、決死の覚悟で特攻したのに敵艦に至らぬまま海に落ちて犬死……という状況は酷すぎる。更には自転車のサドルまで盗まれていては泣きっ面に蜂である。 保持は基本的に運が悪い。要領が悪いというよりも、行動結果が裏目に出る、という特性を持っている。 例えば水溜りを避けようとしたら側溝に足を突っ込むとか、お店で傘を盗まれないように手に持っていると、兄かに引っ掛けて傘を破ってしまう。冷やかしで受けた私立名門校に奇跡的に受かってしまい、行きたかった公立の入試を父親に受けさせてもらえなかったなど、結果的に見れば「何もしない方がマシだったかも」ということが、大小取り混ぜ、毎日のように襲ってくるのだ。 それでもさすがに年齢=経験年数ともなれば、そんな状況にも慣れてくるというものだ。そんなワケで自転車立ち漕ぎオンリーのフルダンシングで帰路を急いだ保持の心理状態としては、比較的安全な寮に早く帰りたい――と言うよりも、さっさと学校から逃げ出したかったのだ。途中でチェーンが外れ派手に転倒している隙に、すぐ先の道路でトレーラーが歩道に乗り上げ電柱を倒す事故が発生し、それによって周辺の道路が閉鎖され、更には負傷者を乗せた救急車にはねられそうになるなどのイベントを着々とこなしながら、保持は何とか学校指定の寮である五木荘への帰還を果たした。 そこで待っていたのは、ボロである事が存在意義であるかのような五木荘には似つかない、似合ってしまってはいけない九十九だったというわけだ。 どうやら九十九はかなりここで待っていたようだが、アポなし訪問なので待たせた保持に落ち度は無い。それでも申し訳ない気分にさせられてしまう。だからなのか九十九に「遅かったな」と言われた返答に、ついつい、しどろもどろになった挙句に沙理菜に告白してきた事を正直に自白してしまったのだ。「おまえには、もっといい子がいるさ。うちの妹とかどうだ?」「確か山の手のお嬢様学校の中等部にいるという噂の? というか、僕、九十九の妹さんのこと全然知らないし……」 何の取り柄も無い保持の親友であることが、学校の七不思議に取り上げられるほどに九十九は保持とは真逆の存在感を持つ。その代表的なものとして顔がいい。だから妹さんの顔もいいことは間違いなく断言出来るだろう。兄妹とはいえ顔のつくりは微妙に違うとしても、同じ両親から産まれたのならば基本構造は同じだろう。中性的な美少年タイプである九十九の女の子版となれば、かなり期待できる。「ただなぁ……紹介しようにも、妹は実家だしなぁ……」「あぁ、遠いんだっけ?」「ん――まぁ、かなりな」「そういえば、九十九は春休みに実家に帰らないの?」「だから言ったろ? かなり遠い、ってさ。下手すれば往復で休みがつぶれちまう」「へぇ、そんなに遠いんだ……」「まぁな。それより保持は帰るのか?」「一応ね」「なんか歯切れが悪いな? 何かあったのか?」「ほら、僕って五木荘だし……」「この学校ってそれがおかしいんだよ! 全寮制をうたっているのに、成績下位の生徒は一般寮を退寮だなんてさ!」「いや、ほら、それがいやなら、勉強しろってことだし。結局は自業自得だし」「何で保持はそうも寛容かな? 五木荘の主とか言われて悔しくないのか? ここにいる限り、下級生にだって見くびられるんだぞ? だいたい、お前が最下位なのは……」「……自業自得、だよ」「……悪い……俺にそれを言う資格なんてなかったな」「気にするなよ。友達だろ?」「ありがとう。やっぱお前っていい奴だな」「いや、あの、照れるから……やめて」 褒められ慣れていない保持には、九十九の賛辞は非常にくすぐったいものだった。「それよりも、何か用事があったんじゃないの?」「あぁ、そうだった。えっと、あのな、もし何かあったら、俺を頼ってくれてもいいんだぞ。立場とか別にして、全力で保持の助けになるから」「う、うん。ありがとう。でもそんなことを言うためにわざわざ?」「いや、まぁ、目的は別にあったんだが、それはもういいんだ……。それよりも、いいか? どんな些細な事でもいいんだ。何かあったらオレに言えよ?」「うん。分かったよ」「マジにだ――ぞ、と、悪い。電話だ」(しかし……九十九が氷室舞衣――アイドル曲の着メロ……意外だ……) 電話に出た九十九は、何かあったのか、保持に背を向け、電話の先の相手と小声で話しこんでいる。邪魔するのも悪いので、保持はさっさと部屋に戻ると、帰郷の為の準備を始めた。(電話が終わったら、勝手に入ってくるだろう) 勝手も何も保持の部屋のドアは鍵などかからない。これで泥棒に入られないのが不思議だが、あからさまに貧乏そうな風貌の建物に、明らかに貧乏そうな学生が住んでいるのである。空き巣に入っても無駄と思われているに違いないし、空き巣に入ってもリスクのほうが大きいだろう。ハイリスクノーリターンというわけだ。 五分ほどしてドアが開き、九十九が顔を覗かせた。「わりぃ。急用が出来ちまったから、ちょいと行くわ。くれぐれもさっきの事、覚えておいてくれよ?」「うん、分かったよ。しつこいなぁ」「保持、どんな事でもいいんだ。むしろ俺からのお願いだ。頼むぞ?」 そう言い残し去ろうとした九十九だったがドアを閉める直前に足を止めた。「――何かを確実に成し遂げる秘訣は何だと思う?」「え? あー……さぁ? 分かんない」「それが成し遂げられるまで、絶対に諦めない事さ。以外に難しいことではあるけどな……」 九十九は少し寂しそうな表情をしたが、直ぐに笑顔に戻ると、保持に念を押した。「じゃぁな。また今晩にでも、お前の家にでも連絡するわ。その頃にはついているだろ?」「あ、うん、そうだね。じゃ、またね。新学期に会おうね」 九十九を玄関先で見送った保持は彼の格言から、九十九らしさを感じていた。(諦めないことか……) もしかして、それは九十九なりのゴーサインだったのだろうか?
2009年08月22日
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2バスが家に近付くにつれ、保持は言いようのない違和感を覚えていた。(……なにか、記憶にないものが見える)何年かぶりならともかく、たったの三ヶ月……正確には二ヶ月半とちょっとぶりである。ここが再開発盛んな繁華街というのなら日々の変化もやむをえまい。しかしここは超ド田舎。劇的な変化など滅多に無い。しかもこの短期間に、など有り得ないし、保持は全く何も聞いていない。バスを降り方角的にその原因に向かって歩き出すと、人通りのない近道の公園近くの歩道で、突発的な睡魔に襲われた。(眠っちゃダメだ!) 理由は分からないが、保持はそう強く感じ、必死に耐えた。しかし奇妙な浮遊感まで覚え、やがてはゼリーの中に閉じ込められたかのような、微妙な拘束感と水に浮いているかのような身体の軽さが互いに干渉しあい、船酔いに似た気分になってきた。(まさか歩きながら……眠気を、催す、なん、て……)きっと何か予期せぬ事が起こったのだろうが、意識が途絶え行く最中の保持にそれを理解できるはずはなかった。 ◆ 気が付くと暗闇にいた。(暗い、見えない……夜? あぁ、そうか目隠しされているんだ……なんだ……って、目隠しッ?) パニックに陥ってしまった保持に更なる不運が召還された。目隠しだけではなく椅子に座らされ手足を拘束されていたらしく、混乱による発作で起き上がろうとして、保持は派手に転倒してしまった。「ヘブシッ! イテテテ……」『クスクス、オコシテ、アゲナサイ』 突然の声。それは下手なヴァイオリンのような、甲高くノイズの混じった声だった。明らかに故意的に声色を変えているのだろう。(怪しすぎる。あからさまに怪しい)それに拍車をかけるように、振り子のような足音が聞こえてきた。その音が近付くにつれて保持の心臓も超高速運転になり、いつ何時ハードワークしてもおかしくない状況になってきた。(お、おおおおおお、落ち着け。落ち着くんだ! 棚加保持! こ、こういう時は深呼吸だ! ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……っ、妊婦かい! だ、駄目だ。一人ボケツッコミしている場合じゃない! 落ち着け。落ち着くんだ! こういう時こそ落ち着くんだ! そうだ、先ほどの声を信用するのなら、床に倒れ今が起き上がれずにいる僕を起こしに来たんだ。ただそれだけだ! うん、それだけ……のはず……だよな)しかし目隠しをされた現在の状態では、どんな事も恐怖心を煽るだけだ。そしてついに足音が間近に止まる。(どどど……どうなる? どうなるの僕?) しかし杞憂とはこの事で、その人物の保持に対する扱いは思いのほか丁寧で、静かに優しく起こしてくれたばかりか、服に付いたほこりを払ってくれるという心遣いまで完璧だった。 指示された事を終らせ遠ざかっていく誰かの足跡を隠すように、再びあの甲高い声が聞こえてきた。『ワレワレ ハ、キミ ニ キガイ ヲ、クワエル ツモリ ハ、ナイ。ダカラ、コレカラ ダス シツモン ニ、ハイ カ、イイエ デ、コタエナサイ』「は、はい……」いったいどんなことを聞かれるのだろうか?別に秘密ばかり持っているわけでもないが、人間には答えられないことの一つや二つは存在するものである。『イチ、キミハ、タナカ タモツ ダ』「は、はい」 名前を隠すほど業が深くはないし、隠す必要もない。嘘をつくよりも素直に答えておいたほうがいいに決まっている。 その質問を皮切りに、しばらくは基本的な情報確認の質問が続いた。 本心がどこにあるのか図りかねていると、明らかに趣旨の変わった質問をぶつけてきた。『ハチ、オンナ ノ コ ニハ キョウミ ガ ナイ』「い……いいえ?」『キュウ、キョニュウ ガ スキ ダ』「い! いいえ!」『ジュウ、ヒンニュウ ガ スキ ダ』「いいえ! いいえ!」 さすがに、おかしいと思いはしても、立て続けに質問されるので、答えるのが精一杯で、深く考えることが出来ない。『ジュウイチ、ヨウジョ ニ ハァハァ シチャ ウ』「イ・イ・エ!」『ジュウニ、ジュクジョ ノ イロケ ニ メロメロ ダ』「い、いいえ?」『ジュウサン、フトッタ ジョセイ ニ、オモワズ トキメイテ シマウ』「いいえ」『ジュウヨン、クラス ノ アイドル ヨリ、トシウエ ノ オウジョサマ ガ……』『シレイ、アキラカ ニ シツモン ノ シュシ ガ……』『ア、アァ、ソウネ。コレ デ イチオウ オワリ。ゴキョウリョク アリガトウ』 第三者のツッコミによって質問が終わったのだが、一体何だったのだろうかと考えていると、再び耐え難いほどの眠気を覚えた。「寝た?」 睡魔に負けて身体が動かないものの、ぼんやりとしながらも、どうにか意識を保っていると、女性の声が聞こえた。 だがすでに保持の思考力は皆無に等しい状態だったので、その内容を吟味することはできない。ただ耳の間を通り過ぎていくだけだった。「――なら、なんでサリ――は……」 波に襲われる砂城のように、ボロボロと崩れ落ちてゆく意識のなかで、どこかで聴いたことのある単語を耳にした事は分かっていたが、もはやその名詞を持つ女性の顔を頭に描くことすらできなくなっていた。『……いに――命が――き出した――』そして再び保持が意識を取り戻すと、どうやら電柱によしかかって寝ていたようだ。厳密には倒れていたに近いのだが、本人が寝ていたと解釈したのなら、それは寝ているのである。(……冷静にこの状況を考えると……きっと、立ちくらみか何かでここに倒れ込んでいたに違いない)人気がないのが幸いしたようで、救急車を呼ばれるなどといった、みっともない事態だけは避けられたようだ。(気のせいか最後にアイちゃんの声を聞いたような……) 聞いたことは確かだと思うのだが、内容を明確に覚えないない。(そういえばアイちゃんの記憶があやふやって、初めてだ……) 厳密に言えば、全く覚えていない時があるのかもしれない。しかしいままで0か1かの明確な世界に、どちらでもない中途半端なものが出現したのだ。それはささやかな革命だった。「よし!」 とにかく、今は家に急ごう。家にさえ戻れば、とりあえずはゆっくり休むことができるはず――なのだ。
2009年08月22日
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3「――おかしいなぁ、この壁一体なんだろう?」 自宅までの近道だった農道が、停留所付近から続く壁に遮られ、保持は遠回りを余儀なくされていた。(何の壁だろう? 結構高い壁だよな。ついでに値段も高そうだ……武家屋敷とかの観光地にあるような土壁……だよな? コレ……新手のテーマパーク?) 考えられない事ではないが、そういう施設を作る場合はもっと長期的な計画が組まれるはずだ。少なくともそのテーマパークの中にあるだろう棚加家も移住を余儀なくされるのだから、保持の耳に入らない方がおかしい。(……まさか) その不安は見事に適中した。 やっと見えてきた壁の角を曲がって二百M弱、荘厳というにふさわしい巨大な門には、しっかりと棚加という表札が掲げられていた。「おぉ! 待っていたぞ! 我が息子よ!」 厳しいを通り越してDV半歩手前を地で行く父親羅岩(らがん)の破顔を前に、保持は思わず後ずさりしてしまう。「父さん、この家っていったい……」「保持よ、お前も今日でもう十七だ」 記憶にないような表情を浮かべていたとしても、人の話を全く聞かないところは変わっていない。少なくともニセモノ説の可能性は下がったわけだ。もっとも調べればすぐに分かるような性格だ。真似する事はそう難しくは無いだろうが……「あの、父さん? 確かに僕は十七になったけど、それと家とは関係……」「この馬鹿者がッ! 人の話を聞けッ!」 聞いていないのは父さんの方だろ、という言葉を飲み込む。下手に刺激しては話が予期せぬ方向に流れてしまう。聞けというのなら気の済むまでしゃべらせ、それを聞けばいいのだ。それが羅岩への正しい接し方なのだ。「いいか? お前も十七だ。そろそろ世間の厳しさというもの知らなければならない」「……はぁ」「昔の人は言った。子供は東尋坊から投げ捨てろと! ……いや? 東尋坊で追い詰めろ! だったっけか?」「父さん、それじゃ死んじゃう……というか後のはミステリードラマの定番の展開……獅子は仔を千尋の谷に落とす、とかじゃ……」「うるさい! そんな些細なことはどうでもいいのだ! この馬鹿者がッ!」「……ごめんなさい」「とにかく、そういう事だ!」 はっきり言ってさっぱり分からない。(えっとつまり、子供――僕に何か試練を与えようということかな? でも、何のために? そういえば世間の厳しさがどうのとか言っていたけど……)「……つまり、高校はもう辞めて、働け、と……?」「まぁ、ぶっちゃけ言うと、そういう事だ」(……これも自業自得、か) 最下位の常連ならば、高校に在学していても無意味、と判断されてのだろう。しかし高校を卒業していないとなると、就職の幅は恐ろしく狭まるだろう。「大丈夫だ! 安心しろ! お前を是非に、と言いやがる物好き――じゃない、おっしゃるお方がいらしてな。話はつけておいた。まぁ、俺の――知り合いみたいなものだから、安心しろ!」 羅岩がそういうのなら、もはや何を言っても無駄だ。これは決定事項なのだ。「……で、あの、それって、どういう仕事……」「さぁな?」「え? さぁな、って、どんな所か知らずに話を決めちゃったの?」「おまえなぁ、信じられるか?」「何を?」「何をって、これに決まっているだろ!」 羅岩は豪邸に変化した自宅を指差した。「いや、信じられない……というか、何のことか良く分からないんだけど……」「そうだろ? だからそういう事だ!」「えーっと、だから、話が見えないんだけど……」「だーかーら、コレだ! コレ!」 羅岩は豪邸指差すだけで、保持には全く要領が得られない。「つまり、契約金でこのお家を立てることが出来た、ということよ。保持君」「おぉ! これはこれはネリュート様。ちょうどいい所に!」 羅岩が保持の後頭部を片手でガッチリとホールドし、強引に頭を下げさせた。抵抗すれば首の骨が折れる可能性があるのでそれに従い、その力が緩んだ事で頭を戻した。「そんな……やめてください、おに――いえ、羅岩殿。しかし相変わらずですね」(うわ! 美人さんだ) そこにはハリウッド女優も真っ青なゴージャスなスーツ姿の美女がいた。不意に保持を襲うデジャヴ……この美人さんとはどこかで出会った事があるような気がする。そんな錯覚を覚え、直ぐにデジャヴの正体に気付いた。(この人、どこか州上さんに似ているんだ……) 氷解した疑問が親近感に変わった。ふられた相手に似ていると言うのは、結構ツライものがあるが、彼女が悪いわけではない。非があるとすれば沙理菜を好きになって、みごとにふられた保持が悪いのだ。「この馬鹿者が! ちゃんと挨拶しないか!」「あ! ご、ごめんなさい。棚加保持です」「ネリュート・N・シュガーミよ。よろしくね」 美人に微笑まれてうれしくない男は、そう滅多にいない。それがたとえ社交指令でも、だ。 どことなく沙理菜に似ている事もあってか、思わず見とれた保持だったが、ネリュートの言葉で現実に連れ戻される。「状況が変わりまして、急を要する事になりました。今すぐ連れて行きたいのですが、よろしいですね?」(質問ではなく確認……やっぱり僕には拒否権は無いのね) そして羅岩の答えも、保持には予想できた。「どうぞ! どうぞ!」(あぁ、やっぱり……) この父に今更幻滅したりはしないが、もう少し何か、普通の親子らしい受け答えがあってもいいような気もするのだ。「じゃ、とりあえずの準備を――」「ごめんなさいね。さっきも言ったように、急ぎなの。ちょうど当面の身支度は出来ているようだし、このままいきましょう」「で、でも……」「大丈夫よ。荷物は後から送ってもらうから。後で必要なものを書き出しておくといいわ。何なら部屋ごとでも」 どうやらこの美人さんは羅岩と同様、言い出したら機会ないタイプらしい。もしかしたら余程急ぐ、のっぴきならない理由があるのかもしれない。「保持――」「何? 父さん」「お前はこの羅岩と黄蘭――つまりはワシと母さんの息子だ。だからそれを誇りに、何があっても挫けるな」「あ、うん。がんばるよ」「それと、成し遂げるまで帰ってくるな! というか、逃げ出してきてもワシが家の敷居は跨がせん!」「えっ? えぇッ?」「じゃ、保持君行くわよ~」「あ、いや、父さん、それって、あぁ、ちょっと待って……父さ~ん! 成し遂げるって、何を? 何の事だよ~?」「ほぉぅら~ 保持君、はやく車に乗って!」 とにかくがんばるしかない。とりあえず何かの結果を出せば、家に帰れるという事だ。それはそのとき考えればいい。保持は状況に流されながら、その場任せの人生設計を組み立てた。深刻な事はあまり深く考えないのが保持の長所でもあり短所でもあるのだ。覚悟を決めて保持がネリュートの視線の先を見ると、黒塗りのリムジンがあった。おそらく普通の身分の人間では乗れないような、そういう類の臭いがプンプンしている。(うわッ! 不安になってきた) ネリュートは一体何者なのか……保持がその正体を知るのはもう少し先の話であった。
2009年08月22日
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4「頭がクラクラする……」「あら? 大丈夫? 酔った? 薬飲む? それとも私の胸でパフパフしてあげる?」「あ、いえ、酔ったわけじゃなくて、ちょっと、お話についていけなくて……」 だが話についていけなくても、それを現実と認めるしかない状況にあったのも確かで、だからこそ保持は意識が揺らぐのを自覚せざるを得ない状況になっていたのだ。「そりゃぁ、まぁ、地球人にいきなり私達は地球外人類で~す。って言っても、信じられないわよね」「えぇ、まぁ」「でも事実よ」「信じるしかないじゃないですか……」(車が空を飛んでいるのだから) 保持とネリュート、そしてSP達を乗せたリムジンは、最初は山の方角に走っていたのだが、軽い振動と共に宙に浮いたのだ。 その異常事態を含む、様々な事をネリュートに聞こうとした矢先に、ネリュートの告白があったのだ。「私達は宇宙人なの」と……「でも、まぁ、地球人独特の認識言語よね。宇宙人。宇宙に住む知的生命体を指すのなら、地球人だって宇宙人なのにね」「はぁ、そう言われればそうですね」「こう、差別的というか、俺様はお前とは違うゼ! という感じよね」「ごめんなさい」「何で謝るの? 非難されるべきはそういう認識を作り広めた地球の人間であって、その認識の理の利点を有効活用することは、客観的に見ればあまり好ましくないとはいえ、絶対悪ではないわ。それとも保持君は過去に干渉して、そういう認識を作って地球全土に植えつけたのかな? もしそうなら、今度過去に干渉した時は是非、ネリュート・N・シュガーミは宇宙一の美少女だって認識を受け付けてきて頂戴ね」「は、はぁ……」 この手の冗談は、どう対応していいのか分からず、保持は愛想笑いとともに適当な返事を返すしかなかった。それ以上に「もし真剣だったらどうしよう……」と馬鹿正直に疑ってしまうのだ。「まぁ、冗談はさておき、ま、しょうがないわよねぇ。公式的には未だ地球以外の惑星に生命体が存在しているという事実は発見されてはいない事になっているものね。それに連盟ですら、最近まで地球を軽視していたぐらいだもの」「そうなのですか?」「気を悪くしたらごめんなさいね。この地球はね、連盟の管轄する宙域のかなり辺境にあるの。一時期はそれがウリで注目されかけた時代もあったけど、規制がかかっちゃってね。それ以後は完全に記憶の片隅、ってワケね。それに地球はやっと人が宇宙にいけるようになったばかり。それも選ばれた人だけが、地球の周りをぐるぐる回るだけ。最近では何か色々やっているみたいだけど、まだまだ他の星まで航行できる段階じゃないわ。だから原始惑星とされてきたのよ」「原始……これでもかなり発展していたつもりなのですが……原始……そうですか……」「まぁ、連盟各国も一足飛びで高度文明を手に入れたわけじゃないわ。誰もが通る道よ。ただそれが早いか遅いかの差ね」「あと何年ぐらいで追いつけそうですか?」「あぁ……連盟の計算ではあと三千年は無理ね」「そんなに、ですか?」「心外そうね。技術だけなら、百年単位で追いつくでしょうけど、今の地球人はそれを別のことに使うでしょうから」 ネリュートの曇った表情で、さすがの保持も察しがついた。「――戦争、ですか」「そう、今のままの地球人だと、恒星間航行の技術も、ただの戦争の道具になってしまう……」「……」「でも、まぁ、そう悲観する事ないわ。人なんてどこも同じだから。な~んて偉そうな事言っていても、私達自身が戦争をやっている最中だしね~」「え?」「我がサンクロバ帝国率いる連盟軍は、アルバール共和国とその賛同国で組織される解放軍との慢性的な戦争状態にありま~す」「……」 お気楽な口調で言われても、その重みが変わる事は無い。むしろ不意に突きつけられた分だけ、ショックは大きい。「サンクロバ帝国は連盟最古の文明の流れを組む最後の国家でね、その関係から連盟の盟主国家だったのだけど、連盟憲章や各種連盟条約に異議を唱え、実質的な力がある国が支配するべきと、圧倒的な軍事力を背景にしたアルバールと、その主張に賛同、もしくは脅迫された連盟の約三分の一の離反した国家と連盟に参加していない国家群、別連盟の一部勢力などとの寄せ集め解放軍と戦闘状態に入ったのが七十年程前。そしてその戦いは今も続いているわ……一応ね」「で、でも、僕が、じゃない、僕は……えっと……」「何でわざわざ保持君を連れ出したのか? ってこと?」「は、はい。そうです」「連盟には一定文明レベルに満たない惑星および国家には干渉しないという決まりがあったのだけど、どうやらアルバールが地球のある国家と今でもつながりがあるんじゃないかという疑惑があってね、まぁ内定とかしていたの。二十年程前のことになるけど、サンクロバ本国の方でもちょっと困った事が起きてね……ちょっと切羽詰ってきているのよ。そんな時に連盟管轄のある部門が、君に固執しているみたいということが分かったの。そこでさっきの内定という話につながるのだけど、アルバールもその事を嗅ぎ付けたみたいでね。アルバールに拉致される前に、本人の承諾の上で周囲には明かさない、という特例処置として、こうして今に至るわけ」「僕自身は同意した記憶は無いのですが……」「あらら、結構痛い所付くわね。うん、強引だった事は認めるわ。でもね……アルバールを出し抜くにはこれしかなかったの。あなたの周囲にはアルバールの密偵――なのかどうかは今では疑問だけど――が張り付いていたしね」「そ、そうなのですか?」「そうなのよ」「で、僕が、僕を……えっとそれが僕だという理由は……一体……」「それが現段階では未知数でね、ごめんね。でもひとつ確実に言えることがあるわ」「そ、それは」「私達にはあなたの力が必要って事よ」 保持の心の中に何かが芽生えた。九十九以外の人間に必要とされた事があっただろうか? 小さな希望、喜びが保持の中に芽生える。――と同時に九十九の事を思い出し、しばらく会えないどころか、もしかしたら今生の別れになるかもしれない喪失感を覚え、気持ちが落ち込んでいく。(最後に別れの挨拶ぐらい出来ればよかったのに……)「さ、保持君着いたわよ。アレが私たちの艦。サンクロバ帝国軍第一艦隊旗艦真空迎撃艦メビルス」 彼女の指差す方向には――……何も無かった……
2009年08月22日
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5「ここが更衣室で、このまままっすぐ行った所が浴場ね。そしてその隣が洗濯場。下着なんかはそこに干してあるから」「……あのぅ、案内していただけるのはありがたいのですが、さっきから……その……“そういう”場所ばかりのような……」「え? 必要でしょ?」「必要ないです!」「またまた~」「もういいです。好きなように思ってください!」「あぁ~ん 拗ねちゃイヤイヤ」 ネリュートの容姿からいえば、その手のブリッコはあまり似合っていないと言うしかない。決して見苦しいからではなく、彼女がクール系の美女だからだ。ギャップという面では魅力的ではあるが、ウブな保持には対応に困る。「まぁ、ウチの乗組員はあまり男慣れしていないからね~。愛玩系の保持君で慣らしておかないとね」「はぁ……って愛玩系って何ですか? 愛玩系って……」「そ・れ・は、保持君のことよん。この、この、愛いやつ愛いやつ」「やーめーてください」「保持殿、抵抗すればするだけ、司令の思うつぼですよ」「あら、ナーシャ。どうしたの?」「どうしたのじゃありません! 司令がなかなかいらっしゃらないから……と、これは失礼。お初にお目にかかりますね。私はこの艦の艦長、ナーシャ・ソロヌです。よろしくお願いしますね。保持殿」 今度こそ冷静沈着なクール美女ナーシャが保持に頭を上げた。保持も慌てて頭を何度も下げて答えた。「あ、はい。棚加保持です。よ、よろしくお願いします。って司令?」「ゴメンゴメン。説明してなかったわよね」「まったく、司令は……」「もう、いいじゃない。損些細な事……そんなカリカリしていると、しわが増えるわよ?」「だれが増やしているのか、一度その胸によーくお尋ねになったらどうです?」「あ~ん ナーシャがいじめるぅ~~」 保持に抱きつこうとしたネリュートをナーシャが阻止し、なにやらアイコンタクトで会話を交わしたのか、ネリュートは姿勢を正し「コホン」咳払いをした。「えっと、私がこのメビルスの所属する第一艦隊の司令官さんです。そうだ。お風呂は混浴と男女兼用と選べるけど、どっちがいい?」「それって、どっちも同じじゃ……」保持は話題のすり替えの必要性を痛感し、慌ててネリュートの話の腰を折った。「そ、そういえば、さっきはこの艦見えなくて、びっくりしましたよ」「あぁ、地上から見えないように迷彩かけていたの。待機中の艦の場所さえ分かっていれば、分かったでしょ?」 ネリュートの言う迷彩とは、俗に言う光学迷彩というモノで、何も知らなければ何の変哲も無い空と、そこを流れる雲しか見えなかった。そしてこの船には地球で使うレーダーを完全無効化する装甲を使用しているらしい。そうでなければ、非干渉惑星になど来る事が許されまい。「でもこの迷彩は、移動しながらだと使えないから、完全にじっと隠れる為だけの機能ね」 話は完全に反れた、保持はそう確信した。「で、お風呂は混浴と男女兼用とどっちがいい?」 どうやら話の腰を折るのに失敗したようだ。かくなるうえは――と保持は先手必勝の心で攻勢に出た。「男子専用でお願いします」「そう、しょうがないわね。じゃ、男子専用、女子も可って方向で……」「ご安心下さい保持殿。ちゃんと男子専用女子禁制の浴室を用意してあります」「そんなのつまんなーい! ナーシャのいじわるぅ~」「つまらないとかそういうことじゃなくて、その、は、裸とか見られて恥ずかしくないんですか?」「保持君さ、女の子ってものは、見られるうちが華なわけよ? わかる? それに、見られても減るわけでなし、困るわけでなし」「司令……一応困ったフリぐらいはしてください」「イヤ~ン 保持クンの、ス・ケ・ベ って?」 明らかに逆効果であるばかりか、全く困った様子が伝わってこない。「……まぁ、最初から期待はしていませんが……それに指令は女の子って年じゃ……」「女は何歳になっても女の子なんだい! 何さ私より年取っているくせにさ!」「……そうですね。私は司令よりも三日ほど年長ですね。それが何か?」「……な、何でもありません……」 ナーシャの睨みに臆したのか、ネリュートはシュンと大人しくなった。「形式としては、保持殿は現地徴用された兵士、ということになりますが、異例であるので本国での正式な任命があるまでは、二等客兵という形になります。異論はありませんか?」「異論というわけではないのですが、客兵というのは?」「あぁ、臨時の階級と判断下さい。二等客兵には暫定的に曹長級の権限が与えられます」 といわれても曹長がどこまでに権限があるのかとか、どれくらいの自由があるのかなど、全くといってもいいぐらいに分からない。ただ一つ確かな事は、一番下っ端ではないという事だ。「とりあえず、この部屋を使ってください」 ナーシャが手をかざしドアを開けた部屋は、お世辞にも広いとはいえなかった。二畳半ほどの部屋にベットと机があるだけの質素な部屋だ。 しかし少なくとも、五木荘の部屋よりもはるかに綺麗であるとことは間違いない。「保持ちゃん、右手を貸して」 といいつつ、半ば強引に保持の腕を取ったネリュートは保持に銀色の腕輪をはめ込んだ。「あ、あのこれは……」「私と保持君との結婚腕輪」「え? えぇッ?」「保持殿……司令の悪ふざけです。この腕輪は各種補助機能の端末です」「そそ。部屋の機能もこの端末で制御するから、なくさないでね。だ・か・ら、お風呂に入ったり、更衣室を覗いたりするときも、外さないほうがいいわね」 覗く時になんで外す必要が無いのか謎だが、とりあえず否定しておかないと、絶対何か言われるだろう。「覗きなんかしません!」「なんだつまんな~い。男の子ってホラ、色々悶々とする時ってあるんでしょ? えっと、何て言ったかかしら? ゴハン? ソウザイ……? あぁ、そうそうオカ……」「司令……あえて今まで黙っていましたが、あまり隊の風紀を乱すような言動は控えたほうがよろしいかと」「いいじゃない、いいじゃない! 私は緊張してかたくなっている保持君を……わっ! 硬く緊張だって! いやぁ~ん 何か卑猥ね」「……あまり調子に乗っておられますと、司令の品位が疑われますよ」「え? 保持君私の事を軽蔑した? していないわよね?」「あ、えっと……あの……」「ほら、ナーシャ、保持君は軽蔑していないって。むしろ素敵なお姉様だって」「司令、この場合はふつう逆の意味で捉えるものです。そして素敵なお姉様だなどと、一言も言っていません」「きっと恥ずかしがっていたのよ」「どういう原理でそうなるんですか……」 ネリュートとナーシャの漫才は、まだまだ続きそうだ。「あの、とりあえず、これの使い方を……」 ◆「この腕輪には、自動防衛機構と呼ばれる防御機能もついていますので、無くさないようにしてくださいね」 ネリュートに任せておくと、一向に話が進まない。ナーシャはようやく悟ったのか、上官を無視する形で、保持に指輪の説明を始めた。「我が国はこの手の技術ではアルバールに一歩遅れていますが、戦闘用としても問題はないでしょう」「……そうですか」 保持が落胆したのは“そういう状況になりえる”ということだった。覚悟が決まる前にこの場所に居るので保持は今まであまり実感がなかったのだ。「脈拍や筋肉の僅かな変化もこの腕輪が計測しまして、自動的に防御機能が働きます。ですが、使用できるのは基点、当面はこのメビルスの援護範囲内に限られます。物質転送の応用で守護機械を送り込みますので。それはここの認識灯で確認できます。緑が使用可能状態で、赤が使用不可です」「つまりこういうこと」 保持の視界が白閃した。 ネリュートが懐から懐中電灯のようなものを取り出すと、そこから光の刃が現れそれが保持に放たれたのだ。 しかしそれは保持の直前で受け止められた。 ――そう、受け止められたのだ。 髪をツインテールにし、真っ白のゴスロリを着た同年代の少女――彼女がネリュートの放った光剣を素手で受けとめている。そして保持は彼女を知っていた。「たー君をいじめちゃダメ!」 二人は睨み合ったまま動かない。数秒後ネリュートが刃を収め、二人は緊張を解いて離れた。「おかしいわね……私こんな設定してないんだけど……保持君が設定を変え――られるわけがないし、ナーシャだったらこんな設定にするわけがないわよね」「私なら通常設定の機鋼兵状態にします」「だよね~。だったらなんで?」 ネリュート達にはネリュート達なりの疑問があるようだったが、保持にも保持の疑問がある。「えっと、アイちゃん……? なんで……」「あれ? 保持君のお知り合い? だったら保持君の嗜好を自動的に具現化? いえ、ありえない。そんな技術はまだないわ。でも私が知らないだけ? いいえ、そんなこともあるはずがない。たとえあったとしてもどうやって? 原理は?」 頭を抱える勢いで考え込み始めたネリュートを無視し、アイちゃんは保持にいつものように微笑みかけてきた。「たー君、せっかくこうして直接会えたのだから、深いこと考えちゃダメよ」「で、でも……アイちゃんは僕の夢……」「たー君、世の中……いいえ、この宇宙には、謎が数多く存在するものなの。そしてその不思議を形にするウラワザがあるものなのよ」 遠い目でそうはぐらかされ、保持はこれ以上聞けずにいた。「なるほど。女は謎を抱えていた方が魅力的って事ね」「そうですわ。ネリュート閣下」「えっと、アイちゃんさん?」「アイ・チャンではなく、アイですわ」 ネリュートなりのボケだったのだろうが、アイちゃんは真面目に答えた。しかしそれすらアイちゃんなりのジョークなのかもしれないが、それを推察する余裕など保持には無い。「ではアイさん、あなたは一体何?」「おかしな質問ですね。私は自動防衛機構の擬似人格。失礼ですが、あなたの設定した“ご自分”に良く似た、半裸のエロエロ人格は消去させていただきました。あのようなたー君の精神衛生に悪影響を与えるようなものは許可できません」 アイちゃんの言葉に、ナーシャがネリュートを睨んでいる。「あ、あれ? あれれ? おかしいなぁ? ワタシ ソンナ セッテイ シテナイヨ~」「司令……その事については後から言及させていただきます。アイさんと仰いましたね? あなたは擬似人格で間違いないのですね?」「その通りですわ。ナーシャ艦長」「擬似人格にしてはその人格設定の遊び……擬似人格設定の自由度に不確定要素が多々見受けられます。こんな司令ですが、これでも情報収集にかけてはサンクロバ一、いえ宇宙でも屈指の情報を握っておられます。その司令も知らないというあなたは一体誰ですか?」「ちょっと~“こんな”って何よぉ! ……でも、ナーシャの言う通りなの。あなたは誰? いえ、何?」「ですから、私はアイ。棚加保持君を護る自動防衛機構。……それでは不服ですか?」 沈黙。やがてネリュートが諦めるように肩をすぼませた。「分かったわ」「し、司令っ!」「そこまで宣言するのなら、今は追及しないことにするわ。その代わり……」「えぇ。私の役目はしっかり果させて頂きますわ。じゃ、そういうことなんでね、たー君、よろしくね」
2009年08月22日
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6「保持君、保持君のことをタモリンって呼んでいい」「……あの、もう少し別な、呼び方を……」 さすがにタモリンは恥ずかしい。「じゃ、タモタモ?」 このままでは変なあだ名がついてしまう。かといって「僕の事は**って呼んでくれ」と自分から言うようなキャラじゃない。おそらくそんな事を言うぐらいなら、タモリン呼ばわりを容認するだろう。「う~ん、何かないかしら? アイちゃんが“たー君”じゃない? それに匹敵する愛称を見つけないと!」 どうやら、対抗意識があるようだ。「あ、あー、それより、ご飯を食べに行くんじゃないんですか?」「あぁ、そうね」 保持はネリュートの「私と楽しい事、しにいきましょ?」という謎の言葉で拉致され、食堂に向かっていた。 地球よりも技術が進んだ最新鋭の戦艦ということで、艦内の移動も転移装置によって一瞬で――ということも無く、移動は基本徒歩である。運動の為という意味もあるらしいが、ネリュートの説明では、個体単位の転移には、まだまだ技術的な問題が多いらしい。(でも……確かにご飯を食べるのは基本的に楽しい事だけど、それならそれで別の言い方をしてくれた方が精神安定の為だよな……) 超絶美人なネリュートに妖艶な言葉で迫られれば、変な気持ちになってしまうのはしょうがないのだ。アイちゃんがいればこんな見え透いたネリュートの策謀など看破しただろうが、自動防御機構の宿命である稼働時間の問題から、普段はいざと言う時の為に具現化せず充電しているらしい。「……何か暑くないですか?」「そう? ほら、保持君厚着しているからじゃない?」 確かに厚着をしているといえば、厚着をしているのかもしれない。しかしそれはまだまだ肌寒いこの季節、上にコートなどを着れば外も出歩ける、という程度の厚着であって、着膨れているわけではない。(そうだ。他の星出身のネリュートさんとは感覚が違うのかもしれない) 深く考える必要などない。暑ければ脱げばいい。寒ければ着ればいい。郷に入っては郷に従う。それが一番だ。「ここが食堂よ」「あれ? 何か照明が消えているみたいですが……」「え? あ、あぁ、ちょっと早い時間だからでしょ。いいから入って入って」「でも、電気が消えている早い時間なら、まだ準備中じゃ……」「いいの、いいの。艦隊司令官たる私が許可しているの。問題なんて無いわよ」 俺がルールだ的な自己中な発言ではあったが、艦隊司令官になるほどの人物で戦艦の中という閉鎖された密室空間という条件が揃えば、そういうことも有り得るのかもしれない。 そのネリュートが入れと言っているのだ。従っておくに越した事は無いだろう。 保持が食堂に足を踏み入れた瞬間鳴り響く銃声――それがクラッカーである事に気付いたのは、色とりどりの紙吹雪が完全に床に落ちきってからだった。 しかし冷凍マグロよろしく瞬間冷凍された保持の脳味噌では“ようこそ 棚加保持君(ハート)”という横断幕を見てもまだ、この状況を把握しきれていなかった。「ようこそ~ 保持君~ッ! 私達サンクロバ第一艦隊旗艦メビルスの乗組員一同、大歓迎しちゃいま~す」『しちゃいまぁ~すぅ』 一斉に飛び出してきた水着の女性達に、保持は思わず後退りしてしまう。だが保持の後頭部になにやらひどく気持ちのいい、危険な柔らかさをもった物体に阻まれた。「ほらほら、保持君、みんなが保持君の到着を歓迎してくれているのだから」 ネリュートは胸の谷間に保持の頭を抱いたまま、水着美女軍団の中に突進を始める。 十戒のモーゼよろしく道が開けていくのは壮観だったが、これだけの女性が一箇所にいるという緊張で、保持は頭の中心付近の何かが切れていくのが分かった。そして別の何かも切れた感覚が、眉間の奥あたりに感じられる。「保持君、大丈夫?」「ハイ、ナントカ……」 手で押さえ込んでみても、相手は液体、わずかな隙間を縫って床に零れ落ちて行く。(また、キモイとか言われるのだろうなぁ……) 保持は普段の生活、いや存在がキモイと言われ続けてきた。しかも水着姿に興奮するかのような場面で鼻血だ。慣れているとはいえ、平気なわけではない。だが、これもしょうがないと諦めるしかないのだ。「いやぁ~ん 鼻血を出しているわぁ~ん!」「かわい~い」(か、かわいい?)「あらあら。みんなの水着姿で興奮したのかな? ダメだぞ! そんなんじゃ、お風呂場は覗けないぞ!」「ソンナ、コンナ バショ デ、ジョウダン ハ ヤメテ クダサイ」 保持が慌てて止めたのは、それが火に油、いや核に中性子ぐらいの反応が返ってくるだろうからだ。「じゃ、もっと免疫付けてあげなくちゃいけませんね、ネリュート司令」「そうね。じゃ、みんなで保持君に生でおっぱいを――」「司令?」 ネリュートがなにやらいかがわしい命令を下そうとした刹那、ナーシャの押し殺した声が響いた。「たしか、羽目ははずさないという条件で、水着の着用を許可したはずですが?」「あ、うん。覚えています。ハイ」 まるで蛇に睨まれた蛙のように、ネリュートは竦み上がった。 司令官ということならば、この艦内で最も偉いのがネリュートのはずである。そして階級はナーシャのほうが低いはずである。だというのに、なんでネリュートはナーシャに怯えているのか? 鈍感な保持でもその疑問ぐらいは沸く。「あの二人はね、幼馴染なんだよ」「ハァ……」際どい真っ赤なビキニの短髪の活発そうな女性が保持に説明してくれた。どうやら疑問が顔に出ていたらしい。「あ、イリーアったらずるい!」「こういうのは早い者勝ちだろ? 私はイリーア・コラムス。艦橋で通信技手をやっているんだ。よろしくな」 と、イリーアの自己紹介を皮切りに、ほぼ全員の自己紹介合戦が始まった。 しかしざっと見た所二百人近い女性に一般に名前を告げられても、覚えきれるものではない。 とにかく保持は水着姿というだけでも、許容量オーバーであっぷあっぷ気味だったのだ。とにかく頭に入るわけが無い。 そして女の子たちの自己紹介が一通り終わる頃には、ネリュートもナーシャから開放されていた。「この食堂はちょっと狭いのだけどね。連携の基本は相互理解。そしてその為には食事を一緒にとるのが一番! ということで、これでも他の艦に比べれば、居住性を重視して、広めに作ったのよ?」 確かに机と机の間は、両側に座れば一人通る余裕があるかどうか、という狭さだが致命的に狭いわけではない。「あの、それより……」「ん? なぁに? 胸の大きさを知りたいの? えっとね、胸は……」「あ、いえ、そうじゃなくて……なんで女の人しか居ないんですか? 男の人は……」「え? それは保持君のために、女の子だけで――というのは半分」「はぁ」「残りの半分というのが――ま、暗い話だし、話し出したら長くなるから、また今度ね。今は楽しみましょう!」「司令はいつ何時もお楽しみのようですが?」「保持く~ん、ナーシャがね、ナーシャがね、いじめるんだぉ~」 こうして、保持の波乱に満ちた人生が始まったのだった。
2009年08月22日
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第2章 逃避行 1 保持の歓迎会を終えたメビルスは地球を離れ、補給と人員の補充を兼ねて近くの中継港のある衛星を目指した。「といっても、地球の近くだけどね。でね、あの方角にあるのが、サンクロバの領星のひとつでねー―」 モニターに写った星やら何やらを嬉しそうに説明するネリュートのテンションについていけず、保持は艦橋を呆然と眺めていた。(何で僕はこんな所にいるんだろう……?)保持はネリュートに連れられ艦橋にいた。ネリュートは保持に特別仕事を言い渡さず、「しばらくは私の側で見ていればいいから」と艦内を連れまわし、最終的には艦橋に連れ込むと、すでに保持の席を用意してあったらしく、そこに座らされ、今に至るわけである。「向こうの席は……」 司令官のネリュート席の右隣は保持の席なのだが、その反対側にも同じような席があり、そこは空席のままであった。「ここ? ここはお間抜けな私直属の部下の席よ。いまは別の任務で離れているけど――といっても、みごとに失敗しちゃっているんだけどね。お間抜けよね? 保持君?」「は、はぁ……」 その部下に対するネリュートの態度が少し気になったが、保持はあえて聞くのをやめた。何かの予感が働いたからなのかもしれない。何か聞かない方がいいような気がしたのだ。 しばらくして到着したのが中継港のある惑星――月――の裏側だった。「月……」「正確には月の裏側に固定された人工中継衛星だけどね」「こんなものがあったんですね。知らなかった」「まぁ、保持君のような一般人には情報公開していないからね」「えっと、という事は……」「地球では先進国とされる国家の首脳は知っているわ」「え? うそ……」「ほら、アメリカだっけ? 宇宙人とつながりがある~みたいなことが良く書かれていたじゃない。UMAに」「ユーマ……なんで日本のオカルト雑誌を知っているんですか?」「だって昔から日本と一番親密な関係のある惑星国家ってウチなのよ? 言葉だって普通に通じるでしょ?」「はぁ……」 いくら保持だって「なんで言葉が通じるんだろう?」という疑問は抱いていたが、そこはなにか宇宙的技術の賜物だろうと思っていたのだ。「ま、まさか、普通に通じているとは思わなかった……」「私達が使っているのは古代文明から続く共通語のエイデン語。ちなみに我等が敵国アルバール共和国は独自の言語を未だに使用していて、地球の言葉じゃ、イングリッシュ? 英語っていうんだっけ? なのよ。まぁ国家ごとにそれぞれの言語を使っている所も多いけど、余程の辺境惑星国家じゃない限り通じるはずよ。一応エイデン語が宇宙統一の共通語だからね。まぁ、もしもの場合も腕の端末で自動翻訳されるから不自由はしないはずよ。もちろん端末が壊れたりしたら例外だけど」「はぁ……そう聞くと、これって便利なものなんですね」「そうそう。で、なんで私がUMAを知っているのかと言うと……」「はい……」「地球方面の観察防衛任務を請け負っている第一艦隊の司令官の私が、最低限度の情報を知らないわけが無いじゃない。日本ではゴスロリとかはやっているのよね? 今度着てあげようか? って私じゃ似合わないか。やっぱ、そういうのはサリーに着せて、嫌がる姿を堪能するのがイイのよね~」「……」 まさか……そんな事になっていようとは……注意深く考えれば予想出来たはずなのに、保持にはまったく考え付かなかった。どうしても二つの事象を別々に考えてしまうのだ。「あ、そうそう、なんとなくいい忘れていたけど、アメリカと繋がりがあるのが、アルバールなのよ」「え? でも……日本とアメリカは友好国……」「昔、そうねぇ、百年前からずっとそうだった? 第二次世界大戦っていうのがあったでしょ? ちょうどこっちの戦争が始まったのがその直前なのよね。つまりアメリカと日本は私たちのとばっちりを受けて、戦争になった、とも考えられるわね」「え? え?」「もぅ! 私は難しいお話はキ・ラ・イ。だから、もうこのお話はおしまい。お姉さん疲れちった。保持君揉んで揉んで」「あぁ、肩ですか?」「おっぱ~い 重くて重くて……、ねぇ、揉んでもいいのよ? むしろ揉んで」「じ、自分で揉んでください!」
2009年08月22日
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2 月の裏側の宙域にある中継港に到着したメビルスの一行は、無事に上陸を果たした。「ここは非武装の中立地帯だから、とりあえず安心していいわ」「……はぁ、でも、とりあえず? 何か不安が残るんだけど……」「とりあえずよ。と・り・あ・え・ず。ほら、決まり事は破る為にあるって居直る人がいるじゃない? そういう事よ」「えっと、つまり、ここは中立地帯で武器を持っていてはいけないけど、全員が全員それを守っているとは限らない……と?」「ご名答~パチパチパチ。だから、保持君知らない人について行っちゃダメよ?」「はぁ……」 知らない人といっても、メビルスの乗組員の顔すら把握できていない。知らない人だと思っていたら、メビルスの人だった――ということもあるだろう。 だから、というよりも半ばネリュートに強制的に連れまわされ、保持は女性下着のお店にいた……「保持君、保持君、こっちのスケスケ黒下着とこっちの情熱のスケスケ赤のどっちの下着がグッとクル?」「し、知りません!」「あ、ゴメンゴメン。保持君にはわからないか。じゃお姉さんが着てみてあげるから、比べてみて」「え? え?」「大丈夫よ。本当に着るわけじゃないから。下着だと衛生面とかもあるしね。ほら、これ」 ネリュートが手首の端末を操作すると、ネリュートの3Dデータが映し出された。「――っ! なんで下着しか着てないんですかっ!」「大丈夫よ。周囲には光学壁が展開されているから」 確かにネリュートの範囲1メートルぐらいに、オーロラのようなシールドが出来ている。「でも、そういうことじゃなくてですね……」「分かっているわよ。後で下着の匂いを……」「……いい加減に怒りますよ?」「あん、イヤイヤ、イヤァ~ン 保持君のイケズ~」「や、やめてください」 ネリュートが保持の頬に自分の頬をこすりつけてきたので、何とか逃げ出し距離をとった。「本当はね、地球で言う所の通販みたいに、専用の回線から注文すると、即座に転送されてくるんだけど、転送装置というのが結構大掛かりな上に融通がきかなくてね、移動対象への転送は色々難しいのよ。特にメビルスは戦艦でしょ? 軍事機密とかもあるしね」「な、なるほど……」 保持は良く分からないまま変事を返してから、その内容をかみ締めてみた。しかしどうも表面的なことしか理解できない。「つまりね、動いている先には送れない、そして動いていなくても、送ってもらったら困る場合がある、って事。敵のど真ん中で隠れているのに、通販が届いちゃった、で見つかるのって、とっても馬鹿馬鹿しいじゃない? まぁ、今ならメビルスは港に停泊中で、停止状態だから転送可能だけどね。……でもそれじゃぁ、やっぱり買った気がしないじゃない? そういう理由からもお店という、直接商品を売り買いする施設が必要なわけ。ま、直接商品を買うというも、一種の娯楽でしょ? 実際の商品を前にしないと分からない事もあるし、何って言うのかな? 興奮するでしょ?」「はぁ……とにかく、一つ言える……あ、いや僕が言いたいのは……」「ん? なぁに? もしかしてあっちの紫のスケスケ下着の方がいい?」「……僕は外で待っています」 ◆(さすがに……いろんな人がいるんだなぁ……) 保持は下着店の近くのベンチに座り、ぼうと通りを歩く人々を眺めていた。 個性というものがこの世に存在する限り、同じ人は二人といない。しかし保持の言わんとすることはそういうことではない。色々な人種が存在すると言う事だ。 やはり圧倒的に多いのは保持も見慣れた人間タイプなのだが、他には耳の長いもの、背が極端に低いものなど千差万別だ。しかしそういう人種は圧倒的に少ない。(さしずめ、エルフとかホビットって所か。もしかして、地球に残る伝承とかって、こういう人たちが関係していたりして……) あながち考えられない話でもない。地球に下りた彼らを何も知らない地球の人間が見れば、幻想世界の住民と勘違いしてもおかしくはない。「――いた」 不意に襲われた既視感、それは雑音の中から耳が聞き取ったその言葉からだった。(えっと、誰だっけ?) どこかで聞いた声、それが誰だったかを思い出そうとする前に、保持は自分の目をも疑う事になった。「なんで――州上さんが……」
2009年08月22日
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3「やっと追いついた……」 保持にそういって微笑む限り、彼女は保持もよく知る女性である事は間違いないだろう。「さぁ、帰りましょ」「帰りましょう、って……」「もちろん地球よ。ここは棚加君がいるべき場所じゃないわ」「じゃ、どこならいいわけ? サリナ曹長?」「おか……いえ、司令……」 店から出てきたネリュートが腕を組んで仁王立ちしている。 さすがは司令というべきか、いつものおちゃけた雰囲気はない。キッと厳しい視線で沙理菜をとらえると、それだけで彼女の動きを封じてしまっている。「わ・た・し・の胸の中、って言いたいの? いやぁ~ん、サリナちゃんってば、しばらく見ないうちに大人になってしまったのね~」 感心したのもつかの間、あっという間に保持のよく知るネリュートに戻ってしまった。「な、なにを言っているのですか!」「その慌て様、さては図星だな? このこの~憎いね~」「あの、お二人はお知り合いで?」「え? 保持君聞いていないの。私達は――」「ゴメン。棚加君、私は実はサンクロバの軍人なの。でこちらは私の上官、そういう関係よ」「――あ~、まぁ、それも間違いじゃないけど、さ」「司令、これ以上は機密事項に抵触します」「え~っ、そうだけど、あぁ~ん、保持君~サリンが苛める~」「――ッ! そのあだ名はやめてください!」「え~? かわいいのに。サリナのサでサリンちゃん」「あ、えっと、ネリュート司令、地球には サリンという毒ガスが……」「へぇ、そうなの。ネリュートちゃん、ぜ~んぜん知らなかった~」(この反応は知っていておちょくっているな……) 沙理菜が悔しそうに顔を歪めている。余程悔しいのだろうが、容姿端麗、成績優秀、品行方正、冷静沈着な州上沙理菜のその表情はある意味事件だ。「という事は、もしかして、州上さんは……」 留学という事は考えられないから、何らかの任務であの学校にいたと考えるのが妥当であり、その任務というのはやはり……「そうよ。サリナ曹長は、保持君の監視と有事の際の護衛、そして状況により勧誘の任務を受けていたの。というかその命令を押し付けたのは私だけど」「……ゴメン」 サリナが顔を背けた。保持には意味が分からなかったが、素性や目的を偽っていた事に対するものであることに気付いた。 ――が、保持自身は全く気にしていなかった。「ところが、任務は放棄するわ、命令違反するは……どんな任務も無表情かつ冷酷にこなす鉄仮面サリナ曹長の異名を持つあなたらしくなかったわね?」「その……恥ずかしい名前で呼ばないで下さいッ! 異名も何も、そうやって呼ぶのは司令だけじゃないですかッ!」(やっぱり……) いくら潜入任務とはいえ、彼女の生真面目さは素としか思えない。そんなサリナをネリュートがおちょくり、その反応を楽しんでいる事は想像に容易い。「任務に忠実なあなたが私情を挟む……そ~れは、な~んでかぁ~な?」 茶化し口調のネリュートの質問に、サリナは顔を高潮させ、唇を噛んで耐えている。(うっわ~、怒っている……)「――行きましょう!」 ついに我慢できなくなったのか、サリナは保持の腕を強引につかむと、ネリュートに背を向けた。「集合は1500だからね」「地球に帰らせていただきます!」「帰るって、あなたの故郷は……」「とにかく帰ります!」 聞く耳持たず、という体でサリナが歩き出し、保持はそれに引きずられていくのだった。
2009年08月22日
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4 沙理菜が立ち止まった。しかしそこが終点でない事は明らかだった。「棚加保持だな?」 気付いた時はすでに黒服の集団に囲まれていた。彼らが沙理菜の関係者でない事は彼女の表情でも、保持の名前を出してきた事からでも分かる。何より殺気に似た気配を漂わせている。「そう、ですけど……」「あ、もう……馬鹿……」 うっかり返事をしてしまい、沙理菜の失望を買ってしまった。「ご同行願おうか。そこのお嬢さんも」(つまりは有無を言わずに来い、という事か……。参ったな……州上さんは人質か……僕が逆らえば州上さんに危害を加える――そういうことか) 彼らは保持と沙理菜の両側に回りこみ、一見分からぬように両腕を拘束すると、無言のまま歩くよう促し、背中に何か硬いものが突き付けた。考えるまでもない。こういう場面で突きつけられるものは、決まっている。「ぶ、武器を持ち込んだら駄目なんじゃ……」「そうだな。貴様が逆らえば、困った事になるな。だが貴様さえ逆らわなければ、なんの問題も起きない」「そ、そんな……」「無駄よ。連中は武器を持ち込んだ事など、まるで悪びていないわ。そればかりか、その責任を棚加君に押し付けようっていうのよ。でもこいつらがなんと言おうと、悪いのはこの姑息な連中。棚加君に……」「黙れ! 女!」 男が沙理菜の頬を払った。身動きが出来ず睨み返す沙理菜の顎をつかむと、下種な笑みを漏らした。「よく見ればイイ女じゃないか」「おい、淫魔を抱く気か? 尻の毛まで抜かれるぞ」 沙理菜の表情がますます険しくなっていく。「わ、分かりました。行きます。行きますから」 保持は直感的に彼らに逆らわない方がいいと判断し宣言していた。沙理菜も何の言わないのは、おそらくそうするしかない状況だからなのだろう。 ◆「解放同盟軍アルバール共和国第十五艦隊所属戦艦ウッズを預かるケネス・ロッカード大佐ダ」(重厚な机にふんぞりかえる、カエルはそう言った……かえるにカエル……あまり面白くないか……)彼を形容するのにカエルという単語は非常に便利なのだが、彼がカエルそのものというわけではなく、カエルに酷似しているという意味でだ。(もしかしたら、カエル型なのかもしれないけど……人、と言われれば人にも見えるんだよな……) だが広大な宇宙、そんな曖昧な人類がいてもおかしくはない。「た、棚加保持です」 保持は簡潔に自己紹介を済ましたが、ケネスガエルは何の反応も示さなかった。(……そうか、僕には興味ないんだな……) それでも保持には男として守り通さなければならない矜持がある。「州上さんは無事ですか?」「あぁ、丁重に歓迎させてもらっているヨ。丁重にネ」(嘘だな……苛立つ……でも僕に何が出来る?) 出来たとしても高が知れている。どうやら保持には個人的には何の関心はないようだが、保持の存在は必要としているらしい。(ネリュートさんといい、何で僕なんかを……)「まぁ、君の返答しだい、ということもあるだろいうナ」 ケネス艦長は含み笑いなのか、素の笑いなのか分からない、こもった声で笑うと、机に設置されていた機械か何かの端末に触れた。 保持と艦長の間にディスプレイが起動し、そこに見慣れた美少年が映し出された。「つ、九十九っ!」 沙理菜はついでだったのだ。彼らは最初から九十九を人質にとって保持と交渉……いや、保持に強要しようとしていたのだ。 卑怯者! と睨み付けたケネス艦長の表情に勝ち誇った余裕が見られる。そして……「う、うわあ~あー。た、たすけてえ~え」 九十九の声を聞いた保持は思わずズッコケそうになった。九十九の台詞からは緊張感のかけらも感じられない。大根役者どころか、役者と呼ぶことすらおこがましい。学芸会の幼稚園児の方がまだましな演技をするだろう。「あ~えっと、なになに、あ~保持~たすけて、くれ~え。お前が彼らにきょう……へたくそな字だな。協力? 協力って書いてあるの? コレ? あ? まじめにやれ? あ~はいはい」 九十九はカンペと思われる紙をポケットにしまうと、今度は名優張りの迫力演技で、保持が彼らに協力してくれないと、九十九ばかりか地球にいる家族も危ない状況にあることを、涙ながらにオーバーリアクションで訴えた――が、そこに何の説得力もなかった。 なぜ九十九がそのようなことをしたのか分からないが、沙理菜の事もある。彼らに従うしかない。「わ、分かりました」「あ~、ゴホン! まぁ、なんだ、君は頭が良くて助かるヨ」(心にもないことを……) 彼が額面通りの言葉の数パーセントもそんなことを思っていないことは明らかだ。(ボクの事を家畜か何かのようにしか思っていないくせに……) しかし沙理菜の身の安全には変えられない。 いや、それ以前に保持が従ったからといって、連中が沙理菜を開放するとも思えない。(でもそうしないと、間違いなく州上さんは……だったら道は一つしかないじゃないか……九十九は……大丈夫そうだけど……)「しかし、君は我々に保護されて幸せだヨ。あの淫婦人形どものもとにいたら、何をされていた分からないかネ」(そういえばさっきの兵隊さんも、同じようなこと言っていたっけ……でも、何か嫌だな) 親近感で言えば、やはりネリュート達の方にあるのだが、それは美人さんだとか、接してきた時間だけではない。友達を悪く言われれば、保持だって不機嫌になる。「やれやれ、あんまり、保持に変な知識を与えないでくださいな」 保持が軟禁状態にあった艦長室のドアが開き、聴き慣れた声がした。「つ、九十九……」「な、なんだ貴様ハ! なんでここにいル?」「正しい知識をきちんと教えないと、子供はまっすぐ育ちませんよ? 艦長?」 九十九は「話は後」とでも言うかのように、保持に手で合図を送ると、艦長に忠告じみた言葉を吐いた。「いったい、何の権限があっテ……」「いやいや、貴方の独断専行が、僕の作戦の妨害になっているんですよ。あなたの指示通り、人質役もこなしたんですから、もう従う必要はないでしょう?」「どんな作戦か知らんが、曹長風情がわしに指図するナ!」「先程は他の兵の手前お聞きしませんでしたが、メビルスがこの港に停泊しているのをどうやって知ったのですか?」 一瞬ではあるが、ケネスの表情に反応があった。「私の情報収集能力をなめて貰ってはこまル!」「任務の性格上、不用意に情報が漏れないようにしていたのですが……まぁ、いいでしょう。しかし困りましたね……あまり事を荒立てるつもりはないのですが……艦長、悪の美学にならえば卑怯というのは非常に重要な要素です。が、やりすぎると、ただ醜いだけですよ。貴方の容姿以上に、ね」「貴様ッ!」 ケネス艦長は銃を抜き九十九に構えた。「やれやれ……」 九十九もため息とともに銃を抜くと艦長に対峙した。そして保持はといえば、何も出来ず二人の間であたふたするだけだった。「ふン! 無駄な事ヲ! 我が艦の内部では艦長特権があることを忘れているようだナ。おっと、曹長ごときではそのようなことも知らんカ」「知っていますよ。特権行使圏内、つまりこの艦内では、上官への武力的反抗行為が規制され、また上官からの武力行為においては、守護システムも作動しないのですよね。とりわけあなたは部下の造反を恐れ、それを最大レベルで設定していることも知っていますよ」「ならば虚勢か。若いというのは、無謀だな。そして命を無駄にしがちだ」「まぁ、論より証拠です。撃ってみればいいじゃないですか。大佐殿。あぁ、分かりました。ではアナタが撃ちやすくして差し上げましょう」 九十九はそう言い置いて、息を吸い上げるとケネスに向かって思い切り馬鹿にしたような口調で言い放った。「やぁ~~い! お前のかぁちゃんカエル女~! デブ! ハゲ! 大佐殿、今日の夕食はハエですかぁ~?」「×*¥&#%“д!」 ケネスは声にならない奇声を上げながら、銃を連射し赤いレーザー光が九十九に伸びる。「九十九―ッ!」 しかしそれらの光は九十九の手前で四散した。九十九の正面に出現したメイド服の美少女が、手に持った刀でレーザーをさえぎったのだ。おそらくそれが守護システムというモノなので、そのもの自体は保持も渡された自動防御機構、アイちゃんと同じなのだろう。「ば、馬鹿ナ……ヴァルキリーだト……? い、いヤ、こんな型は……軍でも……まさか、ワルキューレ? ワルキューレは……」「分かっていただけましたか? と、いいますか、最高レベルの権限内でもこの結果になるということの意味を、申し訳ありませんが察していただけませんかね?」「……わ、わかっ……い、いえ、了解しましタッ!」「ついでに言うと、最高機密を見ちゃったからには……分かり、ますよね? 今度僕の邪魔をしたら、容赦なく潰しますから。そのおつもりで」 がっくり膝を突き、蒼白な顔色で項垂れるケネスと優雅に微笑む九十九、その両者を見比べながら、保持はなんと声をかけていいものか悩んでいた。そして導き出した言葉が……「あ、えっと、久しぶり……」
2009年08月22日
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5「じゃ、行くか」 九十九がケネスに何か耳打ちすると、彼は逃げるように去っていったので、九十九は笑みとともに保持に向き直った。「行くって? どこに?」「州上の姫さんを助けにだよ。このままだと危ないだろ?」「あ、ウン。そうだね。行こう」(ひどい目にあっていなければいいけど……)「と、その前にわたしておく物がある。ホラこれ」「っと。……って銃?」「いいか、俺はお前を銃で脅し、言う事を聞かせようとした……が、逆に反抗された挙句に銃を奪われてしまった」「奪われた、って自分で……」 九十九はクスリとわらうと、保持の肩に手を置き、諭すように言った。「いいから最後まで聞いてくれ。不覚にも銃を奪われてしまった俺は、仕方なくお前の指示に従っている。そういう事だ。……分かるか?」「あぁ、そういうことか。ウンわかった」「そういうことだから行くぞ」「あ、うん」 九十九はどうやら関係者のようだから、この戦艦の内部構造に詳しいのだろうか、それとも事前に調べていたのか……九十九は迷う様子もなく沙理菜が捕らわれているという営倉区画にたどり着いていた。「さっき確認した時にはまだ何もなかったはずだ」「……」 保持の脳裏に最悪の状況が浮かぶ。そして保持のそういう予感は、かなりの確立で当たるのだ……「間に合ったか」 ちょうど二人の兵士が営倉の鍵を開け、中に入ろうとしている所だった。保持は全くのノープランだったが、九十九には何か作戦があるようなので、それに頼るしかない。「やめたほうがいいですよ。お二人さん」 中に入ろうとした二人を九十九がありきたりな呼びかけで引き止めた。「なんだ貴様? 軍曹風情が俺達に指図か?」「老婆心で言わせていただければ、彼女は貴方たちの手に負える女性じゃないですよ? とご忠告差し上げているんです。命が惜しければ――」「何だと?」「まったく……不用意に藪をつつくのは止めてもらえませんかね。つついて出てきたのが蛇ならいいのですが、手負いの龍が出てきたらどうするつもりです?」「……そう、あなたが……裏で手を引いていたの?」 偉く低い沙理菜の声、それは保持の知る彼女の声色ではなかった。「待て、説明を聞……」 九十九が言い終わらないうちに、沙理菜が「アイリーンッ!」と叫ぶと同時に轟音と共に営倉の壁がへし曲がった。そして九十九のワルキューレが起動し、壁を破壊して襲い掛かってきた何かと衝突した。「ユ、ユニコーン?」 保持の知る知識を総動員すれば、それはユニコーンと呼ばれる物だった。それが九十九の守護システムと鍔迫り合いを繰り広げている。「ちょっと待て! 俺は無関係だ! 守護獣を収めろ!」「アルバールの狗の言う事など……」「保持! ちょっと、何か言ってやれ!」「え? た、保持……棚加君っ?」「あ、えっと、九十九が助けてくれたんだ」 守護獣というユニコーンが消えるとともに、九十九のワルキューレも消えていく。 なんとなく気まずい空気が流れたが、九十九が直ぐにそれを壊した。「ったく、助けに来たというのに、なんちゅう仕打ちだよ」「ご、ごめん……でも、あの状況じゃ、しょ、しょうがないじゃない!」「ツンデレかよ、まったく。予定が狂わされて、こっちも困っているというのに……」「そういえば、別の作戦がどうのと言っていたよね」「ん、まぁな。でも話は後だ。脅されている俺としては、やむなく連絡艇を奪取してメビルスまで運転しなくちゃいけないだろうから」 つまり話しはその時に、ということだろう。「そ、そういえば、さっきの二人は……」「あぁ、さっきの衝撃で伸びているよ。ホラ、あそこ。姫さんの守護獣とまともに対峙できる可能性があるのは、俺のオルトリンデぐらいだろうからな。一般配備のゴーレムじゃ、役に立たんさ」 それだけ九十九のシステムが優秀であるという事だ。さっきの艦長との事もあるように、九十九はアルバールのなかでは特殊な位置にいるらしい事が窺える。「……あなた、一体……」「姫さん相手とはいえ、俺にも守秘義務があるからね。ま、そのうち分かるさ」「……あの、その“姫さん”っての辞めてくれない?」「王女殿下でよろしいですか? 王女殿下」「茶化さないで。調子が狂うから、いつも通りでいいわよ」「じゃ、サーリンで」「それだけは、ヤ・メ・テ! というかそういう風に呼ばないでしょ!」「まったく、州上は怒りっぽいんだから。もしかして……あ……イエ、ナンデモナイデス。ハイ」「行くわよ! その連絡艇とやらはどこ?」「ア、 ハイ。コチラデス」 こうして三人は連絡艇を奪取し、メビルスに向かった。
2009年08月22日
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第三章 来訪 1「規則は規則。命令違反で禁固刑ね。サリナちゃん」「……はい」 メビルスに戻ったはいいものの、サリナは命令違反で、保持はその誘いに乗ってしまった罰で、自室での謹慎を言い渡された。そして九十九は尋問を受けるために隔離されてしまって、どうなったか保持も分からない。「ごめんなさい。結果的にこんなことになって……」「あ、べつに……いいんだけど」 確かに結果としては悪い方向になってしまったし、怖い思いもいくつもした。しかし保持自身はそれらを含めて楽しかったのだ。それを謝られると逆に謝り返したくなってくる。「じゃ、私こっちだから」「ぼくも、たしかこっち……」「そう……」 その後すぐに二人は知ることになる。保持にあてがわれたはずの部屋が倉庫になっていることを…… それもそこに置かれていたのは、二人を動揺させるには十分なものであった。「なんでなんですか? 何で棚加君の部屋が倉庫になっていのですかッ!」『それはね、思いの外補給物資を買い込みすぎて、倉庫じゃ入らないからよ』「それはそうと、なんで下着類の備品を棚加君の部屋に置くんですかッ? それも、よりにもよって、あんな破廉恥極まりない下着を開封までして……み、見本にまで着せて!」『え~、だって、やっぱり、ねぇ 保持く~ん』「な、なんでしょうか……」『保持君が盗みやすいように、保持君が鍵を持っている場所に置いておく必要があるじゃない?』「あ・り・ま・せ・んッ!」『あ、やっぱり使用済みの方が良かった? って、なんでサリーが怒るのよぅ』「あ、あ、えっと、棚加君の同級生として、棚加君が堕ちて行くのを看過できないからです」『もう同級生じゃないわよ?』「では同僚として、心配だからです」『なんだかサリーって過保護なお母さんみたい』「何か言いましたか? 司令?」『え? いいえ、何にも』 これ以上は時間の無駄と思ったのか、沙理菜は諦めたかのように小さなため息を吐いた。「……状況は、まぁ分かりました。では至急荷物を分配して……」『サリーの部屋で一緒に寝ればいいじゃない』「な」「な、な、な、何てことを言うんですかッ! 司令!」 あまりに突然の爆弾発言で、保持は顔が熱くなるやら、頭が真っ白になるやらで言葉を見失ってしまう。あわわとしているうちに、ネリュートが猫撫で声で首をかしげた。『ダメ~?』「ダメに決まっているじゃないですかッ!」『じゃ、しょうがない。わた……』「もっとダメです!」 薄々言うとは思ったのだが、保持には先手を取ってツッコミを入れるようなスキルはない。(なんだか州上さんって、ネリュートさんと息ぴったりだよな……)『んん? もっと~? ということは、サリーと一緒の部屋というのは、割と反対度低いんだ~。へぇ~、そう。つまりそれは保持君と一緒に寝たい、という意思表示として受け止めてもいいのかな?』「あ、え、あの、それは言葉のあやと言うもので……」 いくら先手を打てようとも、経験値の差とでも言うのか、結局沙理菜はネリュートの掌の上で遊ばれてしまう運命のようだ。あっという間に形勢は逆転してしまう。『二者選択よ! 保持君が私と一緒の部屋になるか、それともあなたの部屋になるか? さぁ! 選びなさいッ!』「くっ……」(別の部屋を用意する、という選択ないの? というか、なんでそれをお二人が決めるの? ……僕には選択権は無い……のだろうなぁ……) 言うだけ無駄でも、言ってみる価値はある――のかもしれないが、その事に触れない方がいいような気がしたので、保持は話題の方が変わるよう努力する事にした。「そ、そんなことより、ですね」 「そんなことって、重要な事でしょ!」 ここで負けてはダメだ! と保持はその場の勢いで言い切った。「九十九はどうなりますか?」『九十九君? あぁ、彼なら亡命が認められたわよ』「え?」「な! なぜですか? 彼はアルバールの下士官ですよ? それも何か特別な――」『詳しい事は機密事項だから、通信じゃ、ちょっとね』「ではそちらに伺います! 棚加君の部屋問題もありますから! これでは落ち着いて謹慎も出来ません!」(わ、忘れてなかったんだ……) しかしそこまで謹慎に執着するのは何故だろう? そんな疑問が保持の脳裏を掠めた。
2009年08月22日
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2 ネリュートは保持と沙理菜を自分の部屋に通すと「本来なら、いち下士官が知るべき内容じゃないのだけど」と前置き、九十九についての説明を始めた。「アルバールとの戦争が七十年以上続いているのは知っているわね?」「あ、はい」 さすがに当事者の一人である沙理菜は知っていて当然なのだろう。しかし保持は簡単に聞かされただけで、詳しくは知らない。「まぁ、ここまで戦争が長引くと、お互い辛いわけ。そこで停戦に向けての折衝が始まってはいるのだけど、ね。でも、正直あまり上手くいっているとは言えないわ。サンクロバにもどれだけ疲弊しようとも徹底抗戦を貫きそうな輩は多いし、アルバールにしてみれば、あと少しで勝利が見えているものね。でもアルバールにも反戦主義の人間は多いわ。それは軍部の中にも」「つまり、彼はその反戦派で、彼らとの連絡要員である……と? しかし―― 沙理菜の深読みにネリュートは満足そうに頷いた。「そういうこと。いくら友好的とはいっても、手の内全てを晒すわけにはいかない。だから誰かつなぎが必要なわけね。それが彼」「まぁ、事情はおおむね理解しましたが、彼を受け入れて、サンクロバ的に影響は無いのですか?」「彼はアルバールの猛将ベルソード元帥の四男だから?」「えぇ。ベルソード提督といえば、アルバールの左翼大隊の要、その息子がサンクロバに亡命したなどあっては……」(九十九も何かあるとは思っていたけど……) どうやら、保持の知らない所で、色々あるようだ。いや、今現在の保持の周囲の状況からして、保持時真意は分からない事だらけなのだ。――それは保持自身の事についても。「う~ん、大丈夫なんじゃない? ほら、四男だし、長男よりははるかに自由に出来るでしょう」「何を根拠に……まぁ、私が関知すべき事柄ではないのでしょうが……」「またまた……王族会議じゃ、アルバールとの和平の人質として、彼との婚約という議題もあがっているんだから」「……誰がです?」「誰って、サリーに決まっているでしょ? 彼女達からしてみれば、あなたは体の良い駒だもの」 これには保持も衝撃を受けた。そんな微妙な立場の沙理菜に告白などして、彼女を困らせてしまった事が恨めしい。「断固お断りします! なんで私が、彼なんかと!」「あら? 顔はいいじゃない? 結構うちの乗組員の間でも人気よ?」「顔とか、そういうことじゃないんです。彼の人柄が問題なんです!」「じゃ、保持君。親友として彼はどう?」「えっと、どうといわれましても……そりゃ、僕なんかと友達になってくれるんだから、悪い人じゃないと思いますけど」 その事については、感謝しきれない――と言うのが保持の正直な感想だった。「棚加君、それが彼の、君を油断させ懐柔する為の手という可能性があったら?」「サリー? それはアナタもでしょ?」「う……」「彼にそういう疑いを向けるのなら、あなたも同じ思惑で保持君に接していた、という疑念にも繋がる事になるのよ?」「私は! そんな……」「そうよね。見事に任務放棄はするわ、作戦妨害はするわ……謹慎までもらってね」「……クッ……」 沙理菜は言い返す言葉が無いのか、そのまま俯いてしまった。「彼もそうでしょう? 彼が保持君を懐柔し、アルバールの益につなげようとするのなら、その機会はいくらでもあったわけでしょ? 保持君との距離を取っていたあなたより、親友という地位を得ていた彼ならね。でもそうしなかった。そして今度はわざわざ脱走まで手伝って……」「……はい……」「わかったら、早速謹慎ね。ちょうどいいわ。あなたはここで謹慎なさい。あなたとは少し難しいお話をしなくちゃいけないしね。保持君の方は、もうじき九十九君が解放されるはずだから、そっちで謹慎ね」「な! それでは――」「慌てないの! そこで保持君、君に極秘任務よ」「は、はい、なんでしょうか?」「九十九君の監視任務。なにか不穏な動きをしたらすぐに通報すること。いいわね?」「は、はい……」「それと、サリーと九十九君の婚約話だけど、あれは私と母上で議題をつぶしておいたから。でもそんな力技で黙る方々じゃないから、たぶん後で直接何か言ってくるとは思うけど、いちいち相手にしない事。いいわね?」「……了解しました」「じゃ、解散。といってもサリーはこのままここで謹慎ね」
2009年08月22日
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3 前 保持が改めて指示された部屋に向うと、既に九十九が中にいた。そして九十九は保持に深く頭を下げた。「保持、色々迷惑かけたな」「あ、ううん、大丈夫。僕の方こそ、九十九に助けてもらって……」「そんなの俺らが勝手に巻き込んだんだ。それぐらい当然だ」 保持と九十九の間に、なんとも気まずい空気が流れた。 脱出する時は一杯ゝだったのであまり感じなかったのだが、改めて考えると今までの友達という関係でいいのかどうか、その距離感に困ったからだ。 保持自身は九十九を今でも親友だと思っているが、その関係が僅かではあるが揺らぐような出来事があったのだ。それは数時間前、沙理菜を加えた三人でアルバールの戦艦ウッズから逃亡をはかった時にさかのぼる。 ◆ 体面的には救出した沙理菜と二人で、恩人である九十九を脅し救命艇を強奪したまでは良かったのだが、どこに向かえばいいか分からない。闇雲に向かっても燃料を浪費するだけだし、どうやらメビルスは隠密航行を得意と知る戦艦らしいので、普通の手段では居場所を探し出す事は難しい。 まだ月の裏にいる――という可能性もあるが、まさかアルバール軍人であるはずの九十九が救出するとは予想しているはずないので、この付近に潜伏して救出の機会を窺っているはずだ。となれば無論救命艇が射出された事にも気付いているだろうが、それが罠ということもある限り、うかつな接触をするとは考えられない。しかし向こうからコンタクトを取ってくれなければ、こちらからはメビルスの居場所が分からないのでどうすることも出来ない。かといって派手に遭難信号を垂れ流せば、折角逃げ出してきたアルバール軍にまでこちらの状況を知らせることになる。ウッズの方でもこちらの位置を把握しているだろうが、遭難信号を出せば、こちらがメビルスの居場所を知らない事を知らせることになる。それを逆手に取ることも出来るだろうが、メビルスの出方がわからない以上、うかつな方法は取れない。 しかしそういう場合の為に、暗号秘匿通信用のコードが決められているらしく、それを送受信できるように、救命艇にメビルスの認識番号と使用する周波数を打ち込む必要があったのだ。「いやぁ、姫さんがメビルスの認識コード覚えてくれて助かったよ」「……だから姫さんはやめてって。これ以上言うと後で怖いわよ?」「おぉ、こわ。保持もそう思うだろ?」「え? あ、いや……」 保持が返答に困っていると、沙理菜が慌てて自身の言葉をフォローした。「こ、言葉のあやじゃない! 本当にやるわけないでしょ! それよりも、説明してくれるのでしょ?」「説明?」「学校にいた時から、あなたがアルバールの人間だということは分かっていたわ。その辺を含めて説明して頂戴」「あぁ、そういうことね。俺はアルバール宇宙軍諜報部所属、ツクモ・ベルソード軍曹」 そう自己紹介した九十九を沙理菜が冷ややかな目で見据えた。「……言い直すなら今のうちよ?」「ほへ? 何のこと?」「惚けないで! いち軍曹がアイリーンと拮抗する守護を持っているわけないじゃない!」「だったら、州上も同じだろ? アルバール軍の高性能最新鋭AGW-3ワルキューレ型三番機、オルトリンデと拮抗するほどの守護獣と契約しているのはな~んでだ?」「そ、それは……」 沙理菜のアイリーンと、九十九のオルトリンデ、何気なくそんなものだと受け止めていた保持だったが、実際は一筋縄ではいかない代物だったらしい。「お互い、言うに言えない事がある限り、相手を詮索する事はやめようさ」「……正論だけど、主導権がどっちにあるかわかっている?」「どちらかというと俺? 二対一でさ」「た、棚加君はむしろこっち側じゃないの?」「たしかに先に保持を連れ出したのはサンクロバだ。しかし州上は保持を地球に帰そうとしてアルバールに捕まった。そして俺は保持を助けた。ついでに州上も。まぁ、州上はほぼ自力で脱出していたけどな。ま、そんなこんなで、三人でこの船を奪ってメビルスに向かっている。この状況を考えるとどうだ?」(……えっと、どうなるんだろう?) 少なくとも保持には理解できなかったが、沙理菜には何か思うところがあったようだ。「……でも……」「まぁ、この際、軍のしがらみは忘れようじゃないか。そうしたら、俺は保持の親友、州上はただのクラスメート。ほらな。保持は俺側だ!」「そんなことを言ったら……」「言ったら?」「……なんでもない!」 拗ねたように顔を背ける彼女は――やっぱり可愛かった。一度は諦めた恋心が、保持の心の中で再び蠢き出そうとしている。 正直に言ってしまえば、こんなにかわいい娘をそう簡単には諦めきれない。彼女を知れば知るほど、惹かれていく自分にも気付いている。「じゃ、異論はないな……おっと、怖い顔するなよ。話すよ。話しますよ!」「だったら最初からしゃべればいいのに」「まったく……先に言っておくけど、俺はアルバール軍を裏切って脱走しているわけじゃないんだからな。今も正規の任務中だ。その事に関する守秘義務に抵触するような事は言えないぞ」「いいから話しなさいよ」「はいはい。まず、俺が地球にいたのは、誰かさんみたいに保持を自国に引き込む為じゃない」 九十九はそう強く断言してから、態度を少し緩めた。「ん、まぁ……表向きの命令というか、名目はそうなってはいるけどさ……本当は違う。その辺は分かってくれ」「……その誰かさん、って私のこと?」「違うのか?」「……」 余程それが後ろめたいのか、沙理菜はそのまま黙り込んでしまった。「俺が受けた保持がらみの任務は、監視。あ、いや保持の、じゃなく、保持に接触する勢力への監視と情報操作。場合によっては妨害工作、ってところだな」「なんでまた……」 なぜわざわざそんな事をしていたのか? それは保持も疑問に思っていた。しかしそれを問う言葉が浮かばない。「州上、お前は保持の事を聞かされているか? なんで保持なのか? という事を」「……いいえ、ただ何か特別な存在になりえる、という事ぐらいにしか……」「そうか。実際、アルバールもサンクロバも、保持の実態? 保持の存在が一体どういった意味を持っているのか、その辺を掴み切れていないからな」「あの、質問」「はい、保持君」「あ、えっと、だったら、なんで僕が……上手く言えないけど、なんで僕が連れてこられたのか分からないんだったら、そもそもなんで僕が選ばれたの? ネリュートさんに聞いてもなんだかはぐらかされる一方で」「まぁ、しょうがないわな。地球じゃ……」「えぇ、真実を伝えても逆に信用されないでしょうから。むしろ何も言わないほうが説得力あるかも」「だな」 二人には分かっているが、保持にはわからない事が明確に存在している。それが少なからず疎外感となって、保持を不安にさせる。「あの、そういう言い方されると、非常に気になるのですが……」「まぁ、伝えても支障ないだろ。事実だし」「えぇ。その事については、さほど重要じゃないし」 双方合意というこの状況が、保持を少しだけ苛付かせた。なまじ美少年と美少女で絵になるだけに、劣等感を抱える保持には嫉妬を覚えるのだ。「あのな、保持という存在が選び出されたのは」「選び出されたのは?」「占いの結果だ」
2009年08月22日
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3 後「う、占い?」「あぁ、占いだ。おっと、そんな胡散臭い顔するなよ。占い、正確には占術、占学と呼ばれる、立派な学問だ」「で、でも……」「今の地球じゃ占い=詐欺見たいな構図が成り立っているけど、過去多くの国では占いが政冶の中枢に関わっていたって知っているわよね?」「う、うん」 日本では卑弥呼や、陰陽師などが政治の表や裏で活躍した。現代においても閉鎖的な部族などでは、シャーマンがあらゆる権力を握っていたりする。「地球でも未来予測という形で色々研究されて入るようだけど、占学というのは突き詰めれば統計学だ。全宇宙の数千極のあらゆるタイプの人間、数十万の国家、事象などの全てのデータの統計を取って……つまり、簡単に言うと、カエルが鳴いたら雨が降る、ということを裏付けする為の学問ということさ」「……最後のカエル云々がちょっと違うけど……」「ニュアンスは分かるだろ?」「えぇ、まぁ。というか、素朴な質問……極というのが単位だろうって事は分かるけど、どれくらいの単位?」「おいおい、疑問はそこかよ……えっと、極は十の四八乗。億、兆、京、垓(がい)、杼(じょ)、穣(じょう)、溝(こう)、澗(かん)、正(せい)、載(さい)、極(ごく)だ。ちなみにその後には恒河沙(こうがしゃ)、阿僧祇(あそうぎ)、那由多(なゆた)、不可思議(ふかしぎ)、無量大数(むりょうたいすう)な。地球じゃ滅多に使わないし、正直さっぱりだろ?」「う、うん、まぁ。実際、京を越えたあたりから、まるで……」「話が反れているわよ」「おっと、そうだ」「ご、ごめんなさい」 気を取り直し説明が再開された。しかし今ので、保持も考える時間とそれを噛み砕く時間を得られたので、何とか理解できそうに思えた。「えっとな、実際にはカエルというのは両生類だよな。だから雨が降る前に空気が湿ってくると活発になり鳴き始める……らしいんだが……アルバールのカエルは地球のカエルとはちょっと違っていて、水辺では生息できないから湿度はなく……」「話……また反れているわよ?」「おっと! こりゃ失礼。とにかくそういう仕組みを知らなければ、カエルというのは降雨に限定すれば予知能力がある! とか錯覚したりしそうだろ?」「う、うん、確かにそう感じるかも」「それを逆に考えると“こうなったらあぁなる”というデータを沢山集めてまとめれば、ある程度の予測は可能なんじゃないか? ってことさ。最初は馬鹿な事を……と思われていたんだけど、データの蓄積が尋常ではなくなると、そう馬鹿にもできなくなってきた。少なくとも、統計的な指針にはなるからな。そんなこんなで全宇宙の出来事などを一括に蓄積し統括しているんだが、ここ数年の間に何度か保持の名前が出てきた、というわけさ」「なんだか良く分からないけど、だったら、なんで僕なのか、とかも判るものじゃないの?」「せっかくだからカエルの例えを借りれば、カエルは空気の湿気から雨を予見するとしましょう。でも、実際の降雨の規模や時間は分からないわけじゃない? 近いうちに雨が降るだろうという事しか、ね。つまり占学はまだまだ万能じゃないのよ」「追記。例えば、こう」 九十九はそう言って、拳を保持に突きつけた。「俺が保持を殴ろうとした。保持はどうする?」「避ける?」「あぁ、でも俺の拳が早いかもしれない。保持が何かに躓いて避けきれないかもしれない、州上が止めに入るかもしれない。未来というのは、過去と現在の“かもしれない”の一つの結果だ。個人データやその場所や状況などのデータから、ある程度の確立による未来予測は可能だ。でも、絶対、百%なんて事はまずない。何よりそれ自体が、確立によって証明される。そうだろ?」「あ、え、う、うん。なんとなく分かるような気がする。つまり、僕が何らかの形で何かに関わるだろう確率が高いという事は分かっているけど、それが何なのか、良く分からない、と……」「まぁ、その何かに関わる、というのはこの戦争の終結に関わる何か、という事だろうけどな。そもそもその事を占った結果、保持の名前が出てきたんだから」「なるほど。そうか、漠然と占っても、漠然とした答えが返ってこない。だから事前に何について占うかは決めて、それを予測しているわけなんだ……」「そういう事。冴えているなぁ、保持」「いやぁ……エヘヘ」 あまり褒められ慣れていないので、保持はつい反応に困り、苦笑いに似た表情をしてしまう。「でも、全宇宙のデータを集めるって、大変だよね」「あぁ大変さ。でもまぁ、今はもう収集システムは出来上がっているから半自動だけどな」「へぇ」「連盟本部惑星がある絶対中立宙域に占学用演算惑星エインソーフがあるの」「う~んとな、惑星全てがコンピューターって人工惑星だよ。大きさは地球の三倍ぐらい」「正確には2.5倍ぐらいよ」「そんな細かい事はいいんだよ」「あのねぇ…確かに数字的には細かいのかもしれないけど、その差で地球数個分ほどの誤差が出るのよ」「あのさ、それが何の意味がある? 大体これぐらいの大きさという指針であって、別に数学の授業じゃないんだからさ。だいたい最近の日本の教育の現場は、円周率3だぞ! ゆとり教育バンザイッ! ハイル文部科学省ッ! ジーク文部科学大臣ッ!」「……あなたねぇ……で、でも、間違った情報を教えてしまったら後で、棚加君が恥をかくのだから!」(そういえば九十九自身が、似たような事を言っていたような気がする……)「へいへい。ま、そんなわけで、地球の約2.5倍の大きさの人工惑星一杯にコンピューターがあり、その惑星の周囲を制御用の衛星が……えっと、いくつだっけ?」「確か一一八万八千機ほどね」「そう、ソレがまわっているわけだ」「な、なんだか気が遠くなりそうな話だね……」 思わず惑星の周りを所狭しと衛星が飛び交う映像を思い浮かべた保持だったが、その分元となる惑星が巨大である事思い出し、そんなものなのかと納得した。「ま、それだけ凄いって事であり、それだけの設備を持ってしても、厳密な予言に至る事はない。いかに難しいかがわかるだろう?」「でも、地球じゃもっと簡単にやっていると思うけど……ノストラダムスとか……」「あぁ、ノストラダムスね。彼は連盟大学の占学教授だったのよ? 正確には大学の研究班の名称ね。この名称がその教授から付けられたの。あの当時は今ほど地球への干渉が厳しくなかったから、実験場所に選んだらしいわよ?」「え? そうだったの?」「えぇ、それどころか、エインソーフの基礎理論を組み立てのは彼よ」「あの預言書を見たことあるだろ? どうとでも取れるような、実に曖昧な預言書だったろ?」「あ、ゴメン、ノストラダムスの予言書というのは知っているけど、中身は知らないんだ……」「まぁ、私達もそういう感じよ。基礎知識としては知っているけど、専門分野じゃないから、表層的なことしか分からないわ」(それでもゼロよりはマシだと思うけど……) 知らなくて当然はあっても、保持としては少し恥ずかしい気分だった。しかし沙理菜にそんな保持の機微画が伝わるはずは無く、説明を続けていた。「それにね、預言というのは言葉や文字に表すと、ある種の強制力が働くわけ。ほら、よく目標や夢を口にすると叶うっているじゃない? それって迷信とかじゃなく、そうやって他人にもソレが伝わる事で、ソレを実現しようという力が少なからず働くわけ。そうやっていくうちに、それが叶うという未来に繋がる可能性が高まるわけね」「ほら、アレだな。例えば氷室舞衣のファーストアルバムの限定版を探しているとしよう。それを他人に言う事で、もしかしたらその人が覚えていて、どこかでフラリと入った中古屋で見つけるかもしれない。するとソレを買うなり、教えてくれたりして手に入る。アラ不思議! ホ~ラ、叶った! ッてことだな。でもしゃべらなければ、それまでだ。気付くことすらないかもしれない。予言も何月何日に何かが起きるという目標に向かって、ソレを聞いた人間が意識的、もしくは無意識動くことで実現する可能性が生まれる。そんな計算や実証データなんかもエインソーフで管理しているんだ」「ヘェ……」「むずしい話はおしまいだ。俺も頭痛くなってきた」 きっと保持に気を使ったのだろう。九十九という男はそういうやつだ。「でも僕が何に関わってくるのわからないんだったら、別に必要ないんじゃ……」「いいか保持? それが分からなくても、敵側に渡るのならば、確保しておきたいと思うのが人情ってやつさ」 そうそうと、沙理菜も頷いている。だったらそうなのだろう。「それに、そういうことは確保してからゆっくり考えればいいの。全てはその次なのよ」「でもさ、正直言うとアルバールはさほど保持を重要視してないんだよな」「だったらなんで?」「そりゃアレさ。サンクロバが手を出したからそれに感化されて……とりあえず確保しとけ! そんなノリなんだよ。それに、アルバールは体面的にはエインソーフの信憑性を疑いその存在自体認めていない」「占術結果を管理国家群、つまりサンクロバの都合のいいように改変されている可能性があるってやつ?」「そう。まさにそれ! しかしなぁ、結局それを疑うって事は、自分自身がそうする意思がバリバリ全開フルスロットルってことなんだよなぁ」「なるほど……一理あるわね」「さて、そろそろ着くみたいだ」 どうやらしゃべっている間に、二人は色々作業していたようで、連絡艇のディスプレイにメルビスの艦影が小さく映し出されていた。「最後にあなたに確認しておくわ」「ん? なんだ? 彼女なら今のところいないぞ?」「そんな事じゃないわ。というか本当にどうでもいいことでしょソレ……」「ひどいなぁ……」 明らかに演技と分かる動作で落ち込む九十九を一瞥し、沙理菜は真摯な表情で問う。「あなたは棚加君に危害を加えるつもりはないのね?」「あぁ、それは全くない」「確かあなたは現在も任務中と言ったわね? ということは現在もアルバール軍に席を置く下士官という事でいいのかしら?」「あぁ。間違いない。しかし俺の任務はそういう事には縛られないから、当面は、という制限が付くけどな」「なら命令が変わって棚加君を拉致しろという命令がきたらどうする気?」「……」 それは息苦しい沈黙だった。「そう……分かったわ」 九十九は言葉にはしなかった。しかしその沈黙は、命令に従うという意思表示でもあることぐらい、保持にも理解できていた。
2009年08月22日
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4 前「そういうわけで、今から保持君と九十九君の歓迎会を始めま~す」ネリュートに「伝え忘れた事があるから、二人とも来なさい」と真剣な顔で言われれば、謹慎中ではあっても出ないわけには行かない。部屋を出た保持と九十九にネリュートの口から伝えられたのは、先程の表情からは全く予想できない内容だった。「あ、あの、僕のは前に……」「あら、あれは保持君のであって、保持君と九十九君のじゃないでしょ?」「え? あれ? えーと……」「まぁまぁ、あまり深く考えないの」 普通歓迎会は一度しか行わないはずだ。参加メンバーががらりと変わるのならいざ知らず、ほとんど変わらないのでは、今回は九十九の歓迎会でいいはずだ。 なのに何故? 保持は普段使い慣れていない頭をフル回転させその目的を探る。しかし思いつくのは“そっちのほうが面白そうだから”という理由しか浮かばない。「……司令はもう少し深く考えてください……」「あら? サリーご機嫌斜め。もしかして、あの日?」「司令!」「いやぁ~ん、こわ~い。保持君、保持君、サリーがね、怖~いの」 ネリュートが保持に抱きついてきたのを、沙理菜が力任せに引き剥がす。そして沙理菜は保持とネリュートの間に仁王立ちした。「司令、私達は確か謹慎中のはずです! なのに、なんで私がこんな……こんな格好をしなくちゃいけないんですか!」 沙理菜が着せられているのは、非の打ち所の無いバニー服だった。「これも任務よ。サリー!」 いつになく真摯な口調に、沙理菜も口を閉ざした。「といえば、責任感の強いあなたでも我慢できるでしょ?」「司令、あなたって人は!」「いやぁ~ん、こわ~い。保持君、保持君、サリーがね、怒るの~」「そうさせているのはあなたでしょ!」 そんなこんなで準備は進んだようで、再び保持と九十九が食堂に呼ばれた時にはそこは……ある意味、天国と地獄の共存する混沌だった。「じゃ、今回は九十九君の要望で、水着で宴会、そんなのえ~んかい? を開催しま~す」「親父ギャグ……」「失礼ね! この魅惑の肢体! これのどこが親父なの?」 確かにネリュートの、ほとんど裸同然のきわどい水着姿は、ズドド~ン、キュキュキュッ、ズガガ~ン……というようなダイナマイト、いやアトミックボンバーボディといっても過言は無いだろう。「……精神的な意味です」「あらん? 私は未も心も乙女よ?」「……」「あら? 何か言いたそうね?」「はい。でも言わないでおきます」「あら?」「言って欲しいのでしたら別ですが?」「……イイデス。キキタクナイデス……」 シュンと小さくなったネリュートと入れ替わり、ナーシャが司会を引き継ぎ、音頭をとった。「これで司令も少しおとなしくなるでしょう。まぁ、そういう事ですので、皆さん、あまりハメを外しすぎない程度に楽しみましょう」「! ナーシャ艦長まで!」「いいですか、サリナ曹長」 ナーシャは声を低めたので、サリナも小声で「は、はい」と答えていた。「こういう場合、あの人に反抗すればするほど逆効果です。それはお互い重々承知のはずです」「は、はい。それはもう……」「どうせ、押し進められるのなら、暴走する前に事を納めてしまったほうが得策だとは思いませんか?」「う……確かに……このままじゃ、何を言い出すか……」「えぇ……無礼講の混浴大会など始められる前に、水着宴会で手を打とう、そういうことです」「分かりました……」「ん? 悪巧みは終わったの?」「……分かりました。もう、司令の好きなようにしてください」「おろ? なんだ保持、浮かない顔だな?」「つ、九十九は……嬉しそうね……」「この状況で、嬉しくない男がいないかよ」(確かに美人ぞろい……というか全員が美人さんだけど……) だから困るのだ。普段なら保持もそれなりに楽しめたのだろうが、ここにはバニー姿の沙理菜がいるのだ。彼女にフラれた身の上とはいえ、その気持ちの整理が出来ないどころか、ますます強くなっていく現状で、このような形とはいえ一緒の空間にいれば、意識しないわけにはいかない。「保持、あの時、沙理菜の質問には、あのような形で答えたが、俺は任務とか、そういうの無しでお前とは親友だと思っているからな。お前がピンチになれば、任務じゃなくても、任務を無視してでも助ける。そこだけはわかってくれ」「う、うん」「それに、お前をどうにかしろって任務を、俺が受けるはずがないし、来る可能性も今のところない。来ても断るさ。心配するな」「……うん」「だから楽しめよ。見てみろ、保持と俺以外は全員が美女であり、しかも水着姿なんだぞ? 鼻の下を馬並みに伸ばしても誰に文句が言える?」「私が言うわよ。このスケベ」「んま! 沙理菜ちゃ~ん。つれないお言葉ね~」「シナを作るな! 気持ち悪い」九十九が沙理菜のバニー姿を上から下まであからさまに眺め出したので、沙理菜は自分を抱くように胸元を隠すと、九十九に抗議の視線を向けた。。「な、何よ?」「ほら、保持、こういう場合、何か言う事あるだろ?」 と、わき腹を肘でつつかれても、何を言うべきなのか思いつかない。「なんだよ、保持~。案外気が利かないな。こういう場合は、ほら! 鼻の頭とかをポリポリかきながら照れている感じを演出しつつ、ちょっと目線を外して『に、似あうよ』って言ってあげるのが礼儀だろ?」「は、はぁ……そうなの?」「あのね、それ、言われてされても、あまり嬉しくないんだけど……」(まぁ、せっかくやれって言っているし、確かに似合っているとは思うし……)「あ、あの、すごく、似合っている……と思うよ」「え? あ……あ……あの、あり……ありがと……」 さすがに面食らって恥ずかしかったのか、はたまたあまりの恥ずかしい言葉に呆れたのか、沙理菜が顔を真っ赤に染めると「あ、あの……じゃ……また」と、きびすを返しどこかに行ってしまった。「……やっぱり、そういう事かい」「え?」「いんや、こっちの話さ。これでまた一つ、この世から謎が消えた! ッて感じだな」「それって、名探偵ケンシロウの真似?」「そそ」「でも、九十九も見ていたんだ、あのアニメ」「まぁな……しっかし、難儀な奴だよまったく……」 九十九がため息混じりに笑ったので、保持はその意味が気になり、考えようとしたが、背後に気配を感じそれを中断するしかなかった。「ねぇ~ん、こんな魅力的なお姉さん達に囲まれているのに、なぁ~んで男同士で固まっているのよ。もしかして危ない関係? 衆道なの?」 お酒が入っていると思しきグラスを片手に、ショートカットの虎柄ビキニの女性が絡んできた。背後には白いフリルのワンピース姿の清楚な女性もいる。「いやいや、皆さんがあまりに眩し過ぎるから、僕達は隅っこで指を加えて眺めているんですよ」「あらあら、上手い事言っちゃって 保持君、私達の事を覚えている?」「あ、えっと、確か放送係か運転手の……」「保持……おまえなぁ、電車じゃないんだからさ……」「広い意味ではあっているけどね。私が通信技手で、こっちが操舵技手。もっちろん、名前も覚えているわよね?」「あ、いや、あの、その……」「覚えてくれなきゃ、いやんいやん 私がイリーア・コラムスで、こっちがベルーニャ・ハクロシン」「イリーアさんにベルーニャさんですか。お二人の美貌に負けない、素敵なお名前ですね」「いやぁ~ん、九十九君の女たらし!」「……それよりも」 ベルーニャに言われ、イリ―ナが真面目な顔で、保持達に視線を向けた。「そうそう、二人に聞きたいことがあるの」「何ですか?」「イリーナと私、どっちのおっぱいが好き?」「は?」「大きさは私が勝っていると思うのよね」「形は私が」 冷静な感じのイリーナだったが、どうやら既にこれで酔っているらしい。「ハハハ、コレは難しい質問ですね」 どこか楽しげな様子の九十九に対して、困惑するばかりの保持は、何も答えられずにいた。「それは個人の趣味に関係しますし、どちらとはなかなか選べませんね」「それじゃさ、保持君に触ってもら……」「触って、何ですか?」「あ、あ~、お姉さん用事を思い出しちゃった~」 背後からの気迫に負けた二人が退散し、二人を追い払った張本人の沙理菜が再び合流した。「棚加君を変な世界に連れ込むのはやめてよね!」「――って、それって俺の所為かよ?」「大体ね、道を踏み外す最大の原因は友達が悪いからなのよ!」「というか、どちらかというと、彼女達は州上の友達だろうが。おっと、軍の同僚云々という逃げはなしな。それにな、過保護すぎると、もしもという状況で案外脆いぜ? こう、もっと柔軟性をだな」「あなたに任せると、保持君が軟派になりそうなのよ!」「つ・ま・り、サリーとツクモンを足して二で割ったぐらいがちょうどいいということね。だったらこれからは、二人が保持君に……ってもうあなた達はおもしろ三人組認識されているけどね」「し、司令!」「もしかしなくても、ツクモンってのは僕ですか? いや、なかなかいい呼び名ですね」「それでね――」ネリュートが何かを言おうとしたその時、突如警告音が鳴り響いた。今まで聴いたことの無いけたたましい音に、保持は全身を緊張させた。自分の置かれた状況を考えれば、抜き打ちの避難訓練だとか言うことはまずないだろう。「敵艦からの通信を受信しました!」「敵艦の位置は不明! 広角通信で返答を呼びかけています」「索敵! 急いで! 潜航待機状態を解除! 潜航監視状態に!」 食堂が慌しくなり、その場でモニターを起動させ、いくつかの処理を始める者が続いた。どうやら所定の場所に戻らなくても、緊急の対応は出来るようになっていたようだ。「緊急対応が終わった者から、順次持ち場に! ナーシャ、行くわよ!」「こ、このままで、ですか?」「さっさと終わらせて、続きをするのよ? 着替えるのも面倒じゃない。それに着替えている暇も惜しい、そうじゃない?」「しかし、司令――!」「じゃ、命令! 状況が許す限り、着替える手間をかける事を禁じる!」「り、了解です!」ここで対応して事が済むのなら、相応の場所は必要ない。やはり現場での対応が必要になるのだろう。モニターを開かなかった残りの乗組員達は、ネリュートの指示通り、水着のまま各々の部署へと散っていった。「ネリュート司令のなんとなく戦法か……」 九十九が呟いたのを聞いて、保持は思わず「え? 何ソレ?」と聞き返した。しかしそれに答えたのは沙理菜だった。「……あの人は、基本的になんとなくという感じで物事を決める傾向があるの。そしてそれが……」「かなりの確立でいい方向の結果を生む。まぁ、そういう事ってあるだろ? 何かを選択する時、あれこれ悩むよりも、第一印象とかで決めたものが一番良かったり、そういう事だな」「相変わらず理解しにくい例えね。何かを選ぼうとする時、一見適当に思えても、様々な分析を脳が一瞬でしているのよ。でもまぁ、あんな人だから、運任せのネリュート、なんて誹謗するものも多いわ……」「まぁ、運だけでなく、生まれとか色々恵まれている事も確かだけどな。いやそれもある意味運か……誰の子供に生まれたかなんて、本人に選べるはずもないのだからな。それこそ人生最初の運だめしだよ」 どうに引っかかる事がある。聞かぬは一生の恥、という事で保持は思い切って尋ねる事にしたのだ。「ネリュートさんって、貴族とかの生まれなの?」
2009年08月22日
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4 後「? 州上、おまえ教えてなかったのか?」「……いや、あの人がしゃべっているものとばかり……」「確かに、嬉々としてしゃべりそうな気もするが……いや、問題なのは、ここでソレをしゃべっていいのか?」「という事は、もしかして私の事も……?」「え? 何、何のこと?」「知らない可能性が高いな」「……そうね。って! そもそも、なんであなたが知っているの? 一応機密になっているのに! どこまで知っているの?」「州上家の複雑な関係、って事ぐらいかな?」「な、何のこと?」「と、ここまでほのめかしちゃったら、保持にしゃべらない事にはいけないよな?」「……私が言うわ。あの人が故意に内緒にしていたのなら、ソレに反抗するのも面白いわ」「そうそう、人間反逆精神を忘れたらダメだぜ?」「言っていなさい」 沙理菜は一度深呼吸をすると、つぶやくように告白を始めた。「あの人……ネリュート・シュガーミは、代144代サンクロバ女王、セリューナ・シュガーミの第一王女。現段階で王位継承権第一位にいるわ」「え? エェッ? ……あ、えっと、そ、そんな、そんな凄い人だったの?」「もう一つ、いや、もう二つぐらいあるだろ、州上?」「……言えばいいんでしょ、言えば! そしてその王女ネリュートは、私の……私のは……」「お姉さんで~す」『え?』 いきなり割り込んできたネリュートに、驚愕したのは保持だけではなかった。「なによォう! サリーまで驚く事ないじゃない」「し、しかし……」「私はあなたのお姉さん。違う?」「……違いません」「なら問題ないでしょ? ね?」「はい……」(確認というより、強制に見えるのは僕だけだろうか……?)「ちょっと待ってください?」「なぁに? 保持君?」「えっと、州上さんの話では、ネリュートさん、いや、ネリュート様? 殿下?……」「何を畏まっているの? いつものようにネリーって呼んで……」「棚加君はそんな風に呼んでないでしょ!」「いやねぇ、独占欲?」「ち、ち・が・い・ま・すッ!」「怒りっぽいサリーの事は放っておいていいからね。そんな事より、今まで通りでいいのよ。継承権一位の王女って言っても、一人の女なんだから……」「そこは、人間って言うべきではありませんか?」「サリーって、硬いわね。そんなんだと、おっぱいまで硬くなっちゃうゾ!」「な……ッ!」 沙理菜は顔を真っ赤に染め、怒ろうと思っているのだろうが、気持ちばかりが先走るのか、なかなか言葉にする事が出来ないようだった。「そうだ! 硬くならないように、保持君にくんずほぐれつ、モミモミしてもらえばいいのよ」「――ッ!」 沙理菜がついに怒鳴ろうとした時、イリーナの声がそれを阻んだ。「敵艦発見!」 ネリュートの表情が変わり、いままで沙理菜をからかっていた軽薄な顔から、軍人の顔に戻った。「こちらの位置を感付かれた様子は?」「ありません!」「それなら、通信素子を射出!」「了解! 通信素子射出!」 発見の報告から、とんとん拍子に準備が整ってゆく。その様子を見る限り、美女ばかりのメビルスとはいえ、彼女達が容姿だけで選ばれていない事を証明している。「あぁ、そうか、なるほどね」「え? 九十九、何か分かったの?」 といった保持自体、何か分かった所でどうにかなるものでもない。「ローレライはそういう仕掛けだったのか」「あら? ばれちゃった?」「反射性のある素子をいくつか経由させて、艦の位置の特定を困難にしていたんですね。アルバールでも使う戦法ですが……そうか、反射させた際に減衰する信号を増幅する技術の開発……」「一応これも軍事機密なんだから、誰にも言っちゃダメよ?」「あの、そんな重要な事を軽く言われても……」「技術なんていつか公になってしまうものよ。いつまでも秘密を守っておけるはずがないわ」「ご安心下さい。自分はこれでも口が堅いんですよ」「信用しているわよ。じゃ、早速通信つなげて!」 ネリュートの前に大き目のスクリーンが発生し、どこかで見覚えのあるカエル面が映し出された。「あら、嫌だ。どこかの水族館と繋がったみたい」 そう呟いて画面を消そうとしたので、カエル面の戦艦ウッズの艦長、ケネスは慌ててソレを止めた。『おイ! こラ! 切るんじゃなイ! ソレよりなんダ! その破廉恥極まりない格好ハ!』(絶対わざとだ……)「はいはい。私がそんな格好をしていても、あなたに関係ないでしょ? それよりも、近所迷惑だから、広域に毒電波を流すの止めてくれない?」 ケネスは一瞬不機嫌そうな表情をしたが、すぐにソレを飲み込んだようだ。『残念だが、今回貴様に用はなイ。そっちにツクモ・ベルソードがいるナ?』「いたら何?」『身柄の引渡しを……』「嫌。じゃ、交渉は決裂ね。さ、もう用はないでしょ? 切るわよ」『待テ! 話はまだ終わってなイ! 最後まで聞ケ!』「えぇ~? 私の精神衛生の観点上、これ以上あなたとお話することは、全力で拒否したいのですけど」『いいから、ツクモ・べ……』『ツクモ兄様ッ! そこにいらっしゃるのでしょうッ!』 ガマカエルを押しのけて、どう見ても中学生ぐらいの女の子が画面いっぱいに映し出された。「ア、アイク? なんでそんな所に?」『兄様の馬鹿! この恥さらし! 兄様の考えなしの行動で、ベルソードの家が……あぁッ! オジサン邪魔! あっち行っていて! ――私達がどれだけの汚名をかぶったか分かっているのですかッ?』 主導権を取り戻そうと割り込んできたケネスを押しのけ、アイクと呼ばれた少女は画面にかぶりついてきた。「あぁ、そうか。そりゃ申しわけない」『謝ってすむ問題じゃありません! お父様から伝言です!』「おやまぁ、勘当かな?」『ツクモ兄様の今の刀席を除するって! 今ならまだ間に合うかもしれないわ! 私と帰ってお父様に謝りましょう!』「そうか……父上は“今の刀席”と言ったんだな?」『えぇ! ツクモ・ベルソードの持つ現在の刀席を序する。羽織を着たければ誰かに譲ってもらえ! だそうです!』「……まいったな……アイク、悪いが親父様に『マジッスか?』と聞いてきてくれ」 九十九の小馬鹿にした返答に、アイクと呼ばれた少女の顔は真っ赤に染まった。怒りが頂点まで来た、そんな感じだ。『私は伝書鳩じゃないのよ! 自分で言いなさいよ!』「……悪いな。アイク。それは出来ない」『な! 何で? なんでよ兄様!』「理由は言えない。だが、親父には『マジッスか? でもしょうがないッスね』と……おっと、そうだ。『しょうがない』というのは、生姜が無いという意味じゃないからな?」『ツクモ兄様ッ!』「あ、もう、簡単に了解した。と言っておいてくれ」 九十九に戻る意思が無いことを悟ったのか、彼女は溜息を吐くように呟いた。『……分かったわ。実はもう一つ、お父様から言付かっているの』「おや?」『ベルソードの名を汚す輩を野放しには出来ないわ! ツクモ兄様! せめて私の手で……って、ちょっと! オジサン、邪魔だって、キャァァッ! どこ触っているのよ! この変態ッ!』 アイクが懐から剣の柄のようなものを取り出すと、即座に光刃を発生させケネスに振りぬいた。 さすがに守護システムに阻まれたが、その衝撃で散った多大な火花が通信機器に影響したのだろう、そこで通信が途絶えてしまった。「……ツクモンも大変ね……」「えぇ、まぁ……それより実はお話があるのですが」「何?」「ちょっと防音壁を張っていただけますか?」「あぁ、うん、了解」 二人の周囲に半透明の光の壁が発生した。防音壁というだけあって、二人は中で何かをしゃべっているが、全く聞こえない。「ベルソードの刀席、刀番の剥奪……重罪ね」「?」「あぁ、棚加君が知らないのもしょうがないわ。ベルソードというのはね、サンクロバを発祥とする宇宙一の剣術道場、それがベルソード流剣術。彼はそこの跡取り」「あ。俺四男だから。道場は兄貴達の誰かが継ぐだろうから跡取り問題には関係ないから」 ネリュートとの内緒話がすんだのか、九十九が会話に割り込んできた。「で……さっきのが妹のアイクだ。普段はおとなしいのだけど、たまにな」「それはあなたの言動が原因じゃなくて?」「だろうなぁ……兄三人は道場を告ぐべく、稽古ばかりの毎日だったし、一番下のアイクは俺と遊ぶしかなかったから。昔は懐いていたんだけどなぁ……最近じゃ、あの調子さ」「ツクモンって、女心をわかっていそうで、わかっていないのよね~」「はは、これは手厳しい」「宇宙一と名高いベルソード流、正規の門下生は数千人単位」「数千?」「これでも少ない方よ? だって流派に入門するには、厳しい試験があるもの。誰でもは入れるわけじゃないのよ」「へぇ……」「で、貴方の刀番は? あ、刀番というのはね、ベルソードの番付けね。当主の一番を筆頭に、順番がついているの」「ハハハ……四一六八番です」 決してそれは高い番号じゃないことぐらい保持にも分かった。そしてリアクションに困った。(一体どう言えばいいんだろう……?)「それって、本家の人間としてどうなの? アイクちゃんがあぁなるのもわかるわぁ」 保持が言えなかった事を、ネリュートが何の抵抗もなく口にした。「ははは、これは耳に痛い」「でも、厳密に言えば、欠番があるじゃない? 順位はもう少し上なんでしょ?」「欠番? さぁ? 数えたことないので」「ふうぅ~ん。そりゃまぁ、そうよね。四一六八番もあれば、どれだけ開いているかなんてね」「欠番というと、偉い人とか出たからとかですか?」「相変わらずの着目点というか……いや、別に責めているわけじゃなくてだな……野球の背番号じゃないんだ。刀番は頻繁に入れ替わるんだよ。特に後ろの方の番号なんかはな。だから俺みたいな番号だと、あまり執着はないんだな」「その辺がアイクちゃんのお気に召さない点じゃないの?」「ハハハ、でしょうね。当主である父が一の太刀、叔父が二の太刀、一番上の兄から順番に三,五、九の太刀、叔父の所の従兄弟で四、七と上位はほぼウチで占拠していますからね。実質、一桁台はベルソード家の者が受け継ぐのが定例ですから」「六、八番が抜けていたよね?」「お、鋭いな……さっきの欠番にも関係あるんだが、うちの流派は“裏がない”事を精神論として前提にしているわけなんだな。だもんで裏から……あ、ウチの流派の正装は、道着もしくは袴に陣羽織なんだよ。羽織の背中にでかでかと自分の番号の入った、な。それで背中に背負うその数字が裏返しても読める数字は欠番になっているんだ。六とか八は裏からでも読めるだろ?」「あ、漢数字なのね。それじゃ、一、二、三……無理すれば四もそうなんじゃないの?」「一から五……まぁ、実質はその一、二、三、四なんだが、それは例外。そうじゃないと番号つける意味がないだろ? 五番だけど、実際は一番上です。と言うのもあからさまに変だろ? しかし、そんな理由で結構番号は抜けているんだよ。全く誰がそんな面倒な事考えたんだか……」 色々面倒な事があるようだ。しかしそれが古くからの伝統なのだとしたら「ぶっちゃけぇ~ それって、ちょ~面倒なんでぇ~ やめま~す」というわけにもいかない。「あ……敵艦から小型艇が射出されました。形状からして小型連絡艇です」 イリーアがポツリと言った。正にそんな程度の出来事だったのだ。全員が九十九の話に耳を傾けていた事もあるが、この状況で救命艇が発射されるような状況を予測できるはずがない。 しかしその状況が起こってしまえば、おおよその予測を立てることも可能だ。「まぁ、この状況じゃ、キマリよね……」「……あの馬鹿……」 あの小型艇にはさっきの女の子……九十九の妹のアイクが乗っていると考えて間違いないだろう。
2009年08月22日
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5 九十九の目測では、暴走したアイクが小型艇で勝手に飛び出した――と思わせ、実はそう仕向けられた、のだろう、とのことだった。「ベルソード家は王家と繋がりが深いですからね。末妹とはいえ彼女の心象を悪くすれば、王家の覚えも悪くなる。アイクを娘のようにかわいがっている王子もいらっしゃいますから」「あぁ、いるわね」 なぜかネリュートがそう相槌をうつ。おそらく彼女の情報網にかかればそんなことすらすでに把握済みなのだろう。「そんな彼女を危険な目に合わせたとしたらもう終わりでしょう。しかし、当人の意思で危地に飛び込んだのなら、それは不可抗力。まぁ、状況にもよりますが、今回の場合では言い分は通るでしょうね。王家だって一枚岩じゃない。ベルソードを快く思っていない者は多いですから、敵の敵は――ということで快く思わない別王家の後ろ盾ぐらい貰えるでしょうし」「なんで? 宇宙一の剣術道場の家なら戦力になるんじゃ……」「ほら、さっき、ベルソードはサンクロバ発祥って言ったじゃない?」 保持の呟きを聞き逃さず、沙理菜が“教えてさりな先生”といった感じで、ある種独特雰囲気をかもしながら、保持に確認を促す。「あぁ、そういえば……あれ? なんでなんです? なんでサンクロバ発祥の剣術道場一族がアルバールに?」「俺も今しがた、王家は一枚岩じゃない、と言っただろ? サンクロバ王家だってその例外じゃない。王家の中にも血筋縁者による派閥が存在するんだよ。そして彼らは互いにいがみ合っている」「ウチは基本的に世襲制じゃないからね。私の――いえ、私達の母は現在女王で、私は一応第一王位継承権を持っているけど、私が王位を継ぐとは限らない。今はアルバール連合との戦争の真最中だから、直接戦力を束ねる元帥の私が王位継承権一位だけど、戦争が終わり平和になれば、軍事力を背景とする私よりも、政治力の強い、そうね、ローラ辺りにお鉢が回るんじゃないかな? というか、平和になったら私は邪魔だろうから、他の王族総出で暗殺にかかるでしょうね。ま、そんなこんなで、その時その状況により、王位継承順位は変動するの」「そんな物騒な……」 だがネリュートにとっては、既にそれは覚悟の上の事実なのだろう。そういう事情を含めて今のネリュートがあるに違いない。「で、話を戻すと、過去にサンクロバでそんないざこざがあって、王家の一家が直属の臣下をつれてアルバールに亡命したわけだ。その臣下ってのはベルソード一族ってわけだ。で、アルバールに渡ってから今の道場を開いた。ちなみに亡命した王族はアルバールの王家と婚姻を結び、現在は王家の一柱となっている。ちなみに柱は柱でも、細い柱だけど、というオチがつく」「……そうか、今でもベルソード家というのは、その王族直属ってことなんだね」「そういうこと。そしてどんなに強大な勢力を持ち、国益に貢献していようとも、自分達の利益につながる力にならないのなら、基本的には邪魔な勢力でしかない。それが敵に回る可能性があり、懐柔できないのなら、存在意義はないのと同じ、と判断するわけだな」「どこも世知辛いわね……」 なんとなく話がまとまった所で、イリーアが遠慮がちに報告を始めた。「司令、その小型艇から通信が入っています」「出して」「いえ、それが、送信だけで、こちらからの送信を受け付けていません」「あいつらしいな。おそらく間違えて送信したんでしょう……本人は映っているつもりでしょう。あいつは基本的にドジっ娘属性完全装備だからな」「あら? 妹には必須の能力じゃない?」「お! 司令官閣下はわかっていらっしゃる! しかし実の兄からすると、そこが危なっかしくて……」「おぉ! お兄ちゃんしているねぇ~ チミィ~」「いやいや、はっはっは」「この人達って……」 沙理菜が呆れたように……いや、既に呆れながら呟いた。保持も彼らのノリに今ひとつついていけない。「で、通信では何と?」「出します」『兄様! ベルソード一門の端員として逃げ隠れせず、私の前に出てきなさい! 私のこの刀の錆にしてあげるわ!』「ちょっと具体性のない通信ね。どこに出て行けばいいのかしら? それはともかく、どうする? あの子をこのまま放置しておくわけにはいかないわ。航路を見る限り、こっちの位置は分かっていない様子よ? あれは探し回っている飛行よ?」「頭に血が上って飛び出したはいいけど……って所ですね。馬鹿だな。あいつは」「かといって、彼女を招き入れるわけには行かないわ。相手にこちらの位置を伝える事になる。私なら保険として小型艇に工作員を忍ばせるわ。かといってこのままってわけにも……ねぇ」「実に私的なお願いなのは承知していますし、今の自分にそこまで要求する権利は無いことは分かっています。ですが――」「分かっているわよ。あの子を見捨てたりはしないわ。とある王族の誰かさんも悲しむ事でしょうし」「……恐れ入ります。つきましては一隻お貸しいただけませんか?」「反対です!」 沙理菜が猛然と反発した。「彼はアルバールの人間です! その彼を妹さんとはいえ、敵と接触させる事は危険です」「ふむ、一理あるわね」「そもそも、彼女が彼の妹であるという確証もありません! そして彼女がアレに乗っているという確証もありません!」 確かにあの少女が九十九の妹であるという事は、九十九本人の申告だけである。そして小型艇からの通真に映像がないということは、既に録音した何かを流しているとも考えられる。「本当だって。一度俺の家計図みてもらえばわかるって」「彼女は確かにツクモンの妹よ。まぁ、わたしの手元にある情報が間違っていなければ、だけどね。そして今の通信はほぼ直接的な通信だったわ。機械的な干渉の形跡はない」「……」「私個人が持つ情報網とこの艦の偽装処理能力が正確であることは、あなたにもにもわかっているでしょう?」 沙理菜は口を閉ざし、気持ち身体を後退させた。「でもね、ツクモンには悪いけど、今は許可できないわ。どんな形であれ彼女に接触するという事は、敵にこちらの位置を特定させる可能性が高くなる」「でも見捨てないって……」 保持は思わず聞き返していた。九十九の妹とは面識ないとは言え、目の前で見捨てるのはあまりに目覚めが悪い。「見捨てたりはしないわよ。ただ“今は”小型艇を出す事には反対しているという意味」「じゃ……」「さっきツクモンも言っていたでしょ? あの子はベルソード家で某王子のお気に入り。彼女を見捨てることは、あっちの人間にとっては致命的じゃない? たとえ他の王家の賛同を得たとしても、王子は絶対に許さない」「え? まぁ……そうですよね」「だから当然あの艇はトレースされているとみて間違いないわね。言葉は悪いけど、駒としての価値はまだまだあるのだからね」「そう、ですね……」「だから、不用意に彼女に接触する事は危険、ってことなのよ。だから危険じゃなくなって、あの小型艇がまだ浮遊しているようなら、助けに行きましょう、って事でいい?」「……はい……申し訳ありません。失念していました……」「妹さんの事で、周りが見えなくなった? ウンウン、私はそんな青臭いの好きよ。そういうわけなんで、申し訳ないけど、彼女の無事を祈るしかないわね。でも、好都合でもあるわ」「そうですね。司令……」 うまくまとまったかに思えたのだが、ネリュートは表情を曇らせた。「それにしても、どうやってこちらの位置を特定したのかしら?」「それは高周波の通信を送って……」 沙理菜の答えに、ネリュートは首をかしげた。「そうなんだけどね、それだって無限に流せるわけじゃないわ。ある程度の場所の特定をしていないと無意味じゃない?」「そう、ですよね。子供服売り場で迷子になった子供を、紳士服売り場で捜すようなものですからね」「相変わらず、良く分からない例えね……」 九十九の相打ちにため息を吐く沙理菜の言葉で、なんとなくその場は「月からの航路を予測して」ということで収まってしまった。 その後、アイクの乗った連絡小型艇は月の方角に流れて行き、メビルスからの通信で月に駐留しているネリュートの息のかかった工作員によって拿捕された。案の定、小型艇の船内にはアルバールの工作員が潜伏していたらしいが、その工作員が負傷した以外は目立った被害は出なかったらしい。 こうしてアイクは月のサンクロバ軍に無事保護され、その報告を聞いた九十九の安堵感をあらわにした姿が保持には印象的だった。しかし……のんきに他人の無事を祈ってはいられない状況に、この時既に足を踏み入れつつあったのだった……
2009年08月22日
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第四章 始まり 1 前 アイクの保護の報告から三日後、メビルスは危機的状況に陥っていた。「いまだ謹慎中の三人を呼んだのは他でもないわ」 どうせまた、ろくでもないことだろう――そう高をくくっていた保持だったが、ネリュートの口から伝えられたのは、全く予想もしていなかったことだった。「完全包囲されちゃった テヘッ」確かに無意味に慌てふためくのもどうかとは思われるが、バチコ~ンと悠長にウィンクしている場合ではない。呆気にとられていると、沙理菜が何か非難するような表情を示した。しかし沙理菜が口を開く前に、ネリュートが呟いた。「どこかの誰かの独断で、中継衛星港で時間を取っちゃったからかな?」「……申し訳ありませんでした」 一週間の謹慎を終えたばかりとならば、その記憶は風化などしていない。それでも最低限の抵抗とばかりに、沙理菜はひがみっぽく謝罪した。 嫌味を言ったネリュートではあるが、それほど気にしていなかったのか、ただ単に沙理菜をからかいたいだけだったのか、謝罪を軽く受け流すと、表情を引き締め正面に映し出された各艦の配置映像を凝視した。 そこには保持ですら容易に理解できるような、模範解答の包囲が完成していた。「申し訳ありません……アイクさんの一件以降、航路を特定されないように試みていたのですが、こちらの選択肢を予測するかのように全てを潰されてしまいまして……このような結果になるまで報告を怠ったのは、私の責任です」「気にする事は無いわよ。ナーシャ。艦の運行に関する決定権は貴女にあるもの。報告と運行記録を見る限り、落ち度はないと思うわ。私もここで航路を確認していたもの。私も貴女と同じ結果を出したはずよ。今はそんな事よりも、この状況をどうするか、よ」「はい。ありがとうございます。しかし……」 ネリュートに深々と一礼し、ナーシャも悔しそうに画面を睨み付けた。「こうも見事に包囲されてしまうとは……」 ふと気が付けば、ネリュートがこちらを見ている。「なんだか、分からないっていうより、お話についていけないって顔ね、保持君。あのね、今までこのメビルスが完全包囲される状況になった事がないの。あ、でも慢心や油断でこんな事になったのじゃないのよ? ナーシャがいっていた通り、こっちも敵の動きを予測して裏の裏の裏あたりまで考えて、行動していたの。完璧と言うのは傲慢かもしれないけど、今まではこんな事にはならなかったわ。それがメビルスの性能と思ってもらってもいいわ」 ねりゅーとは自己弁護を終わらせると、大きな胸を押し上げるように腕を組むと、小さなため息をついた。「でも、見ての通り完全に包囲されちゃったの。さてどうしてでしょう? というのが今の状況ね」「実際、サンクロバのメビルスといえば、アルバールじゃ非探索可能艦として有名ですからね。実際にその姿を拝めるのは、中継惑星などの港ぐらいでしたから……捕捉されるどころか、包囲までされるとは、驚きですよ」 ネリュートの話を補強したのは九十九だった。まさか彼が密告――というような、保持ですら考え付くような事を、ネリュートが気付いていないはすがない。九十九がそんな事などしていないという確証か裏付けが取れているという事だ。(友達を疑うなんて……) 何よりそんな自分自身が情けなく、恨めしい。「そう、そのメビルスが隠密行動をしていたというのに、敵に先の先の先の先まで読まれていた……有り得ないわけじゃないけど、にわかには考えられないわ」 相変わらず保持がわからないと言う顔をしていたからなのだろう。沙理菜が耳元で細くしてくれた。「あのね棚加君、どうやら敵は小惑星の影などに隠れていたみたい。まるでこの艦がそこを通るのを知っていたかのように……」「で、この艦が近付いたら、こっちは通行止めだ、とばかりに出てくる。そうやって退路を断っていくうちに、メルビスは逃げ場を失い、包囲状態になっていたわけだ」 沙理菜の説明に乗っかかってきた九十九の説明を加え、どうにか状況をなんとなく把握した保持だったが、だからといって事態が好転したわけではない。何も出来ないだけに、言いようのない不安が襲い掛かってくる。「さすがのメビルスとはいえ、この包囲じゃ単艦突破は無理ね」「まさか、あなたがこちらの位置を……」 九十九を疑ったのは保持だけではなかった。しかしこの状況では疑いたくなるというものだ。「おっと、州上、俺じゃないぞ。発信機とか持ち込んでいない事は、十分検査して分かっていますよね。司令官閣下?」「そうね。九十九君が何かを持ち込んだ形跡も無いし、生体調査までしたけど、疑わしい所はなかったわ。それにこの艦は内部からの電波や思念等一切遮断されることは、サリーも知っているでしょ?」「しかし、それでは何故? もしかしたらアルバールが新技術を……」「可能性は無いとはいえないけど、まず無いわ。もしそうなら、私の情報網に引っかからないはずが無いわ」「……司令の情報網は地獄の地引網といわれ、それはもう、手当たりしだいですから……」「ナーシャ? 何か言った?」「いえ、何も……」 打つ手なし――何か考えはあるのだろうが、少なくとも保持には何も考え付かない。そこに発言をしたのが九十九だった。「その事なのですが……あの、すいません。ウチの艦隊の情報とか分かります?」「ちょっとまってね。イリーア分かる?」「お待ち下さい。妨害粒子の影響で……艦影が不鮮明でして……」「分かりました。ありがとうございます。出来れば確証が欲しかったのですが、しょうがありませんね。保持、お前が捕まった艦、どこの艦隊だったか覚えているか?」「あ。えっと……カエルみたいな艦長のいる……五? 確か五の付く艦隊だったような……」「そう、第十五艦隊」「!」 艦橋に緊張が走った。その空気をまとっていないのは、事情を知らない保持と発言元の九十九だけだった。言い換えるなら、みな殺気立っている。「……これが第十五艦隊としたら、旗艦はゴーランド、司令官はビリー・バーバリン少将ね」 ネリュートの声は心なしか震えていた。「バーバリン少将、命令には従順――いや命令は絶対。手堅い作戦を得意とする反面、柔軟さに欠ける老将……」「……なるほど。むしろこれは手土産ってわけだったのね。粋な計らいしてくれるじゃない」 ネリュートの声はまだ震えていたが、不敵に微笑む表情から、それが武者震いである事が伺える。「いやはや、手違いが多くて、当初の予定通りには行きませんでしたが」「十分よ。臆病な穴熊を巣穴から引き出してくれただけでもね」「引き出したまでは良かったのですが……ね。月の中継港でアルバールの動きがどうも妙でしたので、少々調べていたのですが、バーバリン提督は軍上層部から何か特命を受けていたようです。出来れば確証を得ていれば、何かしらの報告出来たのですが……せっかくの贈り物の価値を下げるな、との命を受けていましたので……」 ネリュートは「それじゃしょうがないわね」と呟きながら形のいい顎を指でつまむと、不鮮明な艦影の映し出されたモニターを睨み付けた。「そう、そういう事ね……相手が見えない包囲作戦なんて、穴熊には一番苦手な作戦のはず。奴を引き出す裏工作があったにしろ、奴が選任されるはずは無い。臨機応変な柔軟さではなく、穴熊の盲目的な従順さが必要とされた……それが特命の内容って事ね」「……つまり布陣は、こちらの動きにあわせたものではなく、予定されていたもの……だとしたら、どうでしょうか? 当方の情報工作があったにしろ、現場の判断よりも規定された命令をただ盲目的にこなす、それだけを求められて穴熊があてがわれたとしたら」 九十九の言葉に全員がハッと何かに思い当たったようだ。……保持以外は。「! エインソーフ!」
2009年08月22日
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第四章 始まり 1 中「……でも、エインの個人や国家使用は禁止されているし、接続権限があるわ。アルバールはおろか、ウチの軍にだって無理のはずよ。それこそ、エインにでも見初められ、贔屓されないかぎりは、ね」「……あのな保持、一応説明しておく」 保持は蚊帳の外だったのだが、九十九がそれを見かねたのだろう。「基本的にエインソーフは総合的な解析結果を示すだけで、こちらの質問には答えてくれないんだよ。“お告げ”みたいなもんだな。とはいえ、関係のない事を告げられてもしょうがないから、年に一度、新年を迎えた時に各国家が一年を通した予言の要望を出す。それは前に行ったとおりなのだが、それらの要望は各国代表者で組織されるエインソーフ保護委員会で審査され、そこを通りさえすれば各国が求めるお告げはなされる。だから、こんな戦術的な予言を尋ねることも、告げられる事も無いと考えていい」「へぇ……」「……司令、先ほどから気になっていたのですが、なんでここに部外者がいるんです?」 堪りかねたように、沙理菜が九十九を指差す。常識のある沙理菜のことだ。九十九を指差したのは意識的なことだろう。「あら? 彼は一応サンクロバに亡命したのよ? 部外者じゃないわ」「それなら、彼にはサンクロバの軍籍はないはず」「う~ん、知っていた? 彼はアルバールの情報部にいたのよ? 私たちの知らない情報をたくさん持っている――かもしれないじゃない。その情報を使わないのは、もったいないと思わない? ねぇ、九十九君? 私たちの知らない情報をたくさん持っているのよね?」「彼が情報部の人間だったのは知っています。だからこそ彼が正確な情報を口にするとは限りませんし、彼にこちらの情報を与える事も危険と考えます!」「それを判断するのは私よ、サリー? だけど忠言はどんどんしてくれて結構、というかむしろ一杯してネ」 ネリュートは沙理菜の視点を何かから外そうとしている。ネリュートの言葉の端々から保持はそのことに気付いた。しかし沙理菜も負けていなかった。「では彼を信頼する、その根拠をお教え下さい」「下士官であるあなたが知る必要の無い事よ」「う……」 そう言われてしまっては沙理菜の立場からでは何も言えない。そうなると分かっていてネリュートは言ったのだろう。悔しそうに歪む沙理菜の顔を、ネリュートはニヤニヤしながら観賞していた。「いやはや、ネリュート閣下の度量には感服いたします。ならば、期待に報いないとなれば男の恥! そこで耳寄り……かどうかは知りませんが、ご期待の情報を……」 少し気まずい空気を吹き変えたのは九十九だった。「それって、もったいぶって今まで引っ張った甲斐がある情報?」「おっと! これは耳が痛い……未確認情報で申し訳ないのですが、アレはおそらく、ノストラダムスです」「え?」「あ、いや、保持、お前の考えているのとはちょっと違う。この前説明したのともな。このノストラダムスは、稀代の占学師の名前を冠したアルバールの予報システム。正確にはノストラダムス計画の異端の後継者によって、アルバールの国益の為に再構築された、もう一つのエインソーフ、その骨格と成るもの。それによってこちらの位置を予言しているとしか考えられません」「それは本当のことなの?」「おそらく。そういう計画がある事自体は知っていましたが、軍部に提出されていた報告書では実用化にはまだ時間がかかるとされていましたので……完全に失念していました。ですがこれは本国の方からの確かな情報です。もっとも、信じるかどうかはお任せしますが」「あらあら。そんな物を作っていたの? でも私の持つ情報と合わせると、確実のようね。でもアルバールは確か、エインとその予言を茶番だの胡散臭いだの言っていたのではなくて?」「それはそれ、これはこれですよ。結局を言えば、自国の利益にならない物と他国の利益になる物は全否定する、という国家単位での方針の結果です。融通の利かない偉大なシステムより、ランクは下がっても従順なシステムを必要とし、それを作り出した、ということです。まぁ、まだまだ未完成のようですが……」「なるほどね。でも、自力開発じゃかなりの無駄が出ない?」「あぁ、その辺は本家エインソーフで実証されていますから。あとは猿真似、実際はそこの開発が遅れているので、実用化はまだまだ先と考えられていたのですが……どうやら無理ならちょっと拝借という結論に至ったようです」「呆れた……それって連盟憲章違反じゃないの?」 発言者の沙理菜に、九十九は自信満々に言い返した。「あ、その辺は大丈夫。アルバールは既に銀河連盟を脱退しているし、占術保護規約に同意した覚えはありません。問題なしです!」「幼稚な言い訳ね……でも、エインでもそうだけど、重要なのは情報の蓄積。昨日今日のものじゃ意味はないわ。ということは、実用研究は最近でも、基本研究はかなり前からやっていた訳ね?」 ネリュートは九十九の意味深な表情で何かを悟ったようだ。 「そう……そういう事ね。予め作ってあったのね、エインに穴が」「えぇ。世の中、ある程度の事は金で全て片が付きます。それに人間のやる事、どんなにチェック機構を増やしても、目先に積まれた黄金がまぶしくて、うっかり見落としたりもしますから。それにミスというものは、どんなに注意してもなくならないものです。一切問題ありませんよ」「でも、穴があったとしても、いつか見つかるはずではないの?」 沙理菜の疑問に、九十九は生まれ故郷であるアルバールへの嘲笑を浮かべた。「その辺は抜かりないさ。最低限度必要なものはすでに複製済みと考えたほうがいい。機会さえあれば、アルバールはエインソーフを破壊するだろうから、その場合は証拠は残らない。そもそもアルバール独自の体制を作り上げ、その一切を独占する事ができれば、エインソーフは用事済みだし、邪魔な存在なのだからな」「じゃ、その前に証拠を見つけて訴えればいいんじゃないの?」「お? 保持、いい目の付け所だ。でもな、もし破壊する前に穴がある事が見つかり糾弾されても、だんまりを決め込むか、ミスを主張して貫き通して時間を稼げばいい。どのみち強国アルバールに表立って文句を言える国家は少ないからな。それにエインソーフにあるアルバールの情報を削除すると脅せば、従うしかない」「あらあら、それは大変ね。アルバールは連合を脱退しているとはいえ、戦争の――宇宙の命運を握るアルバールの情報は、今後の予言には必要不可欠。そんな重要なものを消すわけにはいかないわよね。たとえ古い情報を元に各国からの情報提供で補完しているとしてもね」「実はそこにこそ狙いがあったようですよ。アルバールがエインソーフに置いたシステムは、全体で一個となるように設計されている特殊な構造なのです。つまり、例えば“あいうえお”という言葉のデータを細分化して、別々の部分に一文字ずつ保存するようになっているんです。そして一度一つのデータがきえれば二度と復旧できなくなっているのです。五文字程度ならそう問題ありませんが、膨大量の資料ともなれば解析は困難であり、切り替えるには全てを一度に行う必要があるんです」「なるほどねぇ~ 相変わらず悪巧みだけ優秀よね。アルバール共和国は」「まぁ、アルバールの主張で、内容を悪用されない為の予防策として、独自のシステムと機器を導入した――事になっていますから、表立ってそれを非難しにくいですしね。実質は自身がそれを最大限に悪用しているという事は、最初から悪用する気があったということですよ」「でも――」 そんな事が許されるのだろうか? 保持にはどうしても納得がいかず突っかかってしまう。「納得できない保持君の気持ちもわかるけどね、アルバールとその関係ともなれば、地球ぐらいの大きさの規模の設備が必要なのよ。それを誰がお金を出して作り直すの?」「そ、それは……そうですよね……そうですけど……」「気持ちは痛いほどわかるわよ。私も納得はしてないわ。でも、作り直すより少々の問題があっても、アルバールの情報筐体のある区域はそのまま残した方がいいという結論になっちゃうのよ。そもそも各国家の情報筐体は基本的に治外法権。いくら監査の為とはいえ、無断で入る事は出来ないからね」「えぇ、ですからそこを中継地点として、エインソーフの情報を盗み見ているのですよ。もっとも、さすがにメインの方の穴は、エイン本体のシステム変更で塞がれているようですから、こちらからは覗ける内容は選べませんし、かなり限定されるらしいですが」「全く……アルバールには呆れて言葉が出ないわね」 肩をすくめる沙理菜に、ネリュートが苦笑して見せた。「まぁ、清廉潔白な国家なんてこの世に存在しないわ。サリーだって骨身にしみているでしょうけど、サンクロバだって色んな暗部を抱えているもの。それに自国の利益を優先することは、国家しては正しいあり方よ。例えそれが卑怯な事でもね」「……」
2009年08月22日
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第4章 始まり 1 後 所詮、人とはエゴの塊であり、その塊の集合体である国家とは、難しい言葉とシステムで武装しているだけで、中身はどうしようもない幼稚な原理で動いているのかもしれない。保持はそんな風に感じた。(でも、それはちょっと悲しいな……) 例えそれが理想論であっても、国という組織にもっと高尚な何かを求めずにはいられないのだ。「で、話を戻すと、アルバールはその計画の重要な部位を埋めるモノを発明した、というわけなのね」「一度はエインで成功しているとはいえ、研究機関の発足から約七十年近くもかかっての事ですから、そりゃもう色々あったみたいですよ」「あら、七十年というと、戦争が始まった辺り?」「ですね。その辺の関係はよく調べてはいないのですが、なんらかの因果関係ぐらいはあるでしょう。まぁ、今となってはその理由はあまり重要ではないというのが、ウチの上司の見解ですが――具体的に何を開発、発明、発見したのか、そこまでは……ただ、軍内部でもかなりの機密らしく、関知しているのは極一部の幹部と当事者ぐらいでしょうね。計画の中心人物は第一王族のオサリベーント卿ですので、かなり厳重な戒厳令が敷かれています」(で、なんでその情報を九十九が知っているんだろう?)「……他に計画の内容を知っているとすれば、エインソーフですね……」 九十九の言葉に全員が無言になった。真意は分からないが、保持は何か嫌な予感を覚えていた。孫悟空の逸話のように、所詮エインソーフの手のひらの上で踊っているだけなのではないかという……そんな不安だ。「つまり、この状況すら、エインは予見している……でも、確かにそうでしょうね……可能性は高いわね。でも、そうでなくては、エインである意味は無い……か」「しかし、ならば、何故エインソーフはそのことを告げてくれないのでしょう?」 沙理菜の疑問は保持も感じていた。アルバールがエインソーフを脅かそうというのなら、防御行為に出るものではないのか?「その答えはあなたも分かっているだろうし、さっき九十九君も言っていたでしょ? それに……」「それに?」「私達が彼等を打破し逃亡するにしろ、死ぬにしろ、それもエインの意思なのかもしれないわね……」「でも、まだ活路はあります。何で敵――って僕が言うのも不思議な感じですが――アルバールはなんで撃ってこないんでしょう? こちらの位置が分かっているのなら、待ち伏せするより奇襲を仕掛けた方がいいと思いませんか? しかる後に足を止めれば、こんな大規模な捕り物が展開されるはずがない」「つまり、ツクモンのいうようなモノをアルバールが使用していたという前提で考えれば、敵の予報はこちらの位置を割り出しているというより、通過するであろうだいたいの場所の特定に特化した設定になっている、と?」「えぇ、全てを予見できるはずはありません。エインソーフですら現状の理論上では無理なのですから。ですから、何か一つ、それに集中していると考えた方がいいですね」「で、この状況から逆算すれば、メビルスの通り道だと推測できるわけね。なるほど、場所と時間を別々に出して合わせて考えればいいわけね。だから、各分艦隊はわけもわからずその宙域に待機し、時間が来たら前進。それをこちらが勝手に見つかったと逃げ惑う。でも敵はこちらに気付いていないから、何もしない、いえ出来ないというわけね」「少し時間がかかる分、少し先の事がわかる探索機と考えた方がよさそうですね」 沙理菜の捕捉で、どうにか保持にも理解できた。それが保持の為だったのかどうかはわからないが、九十九と沙理菜のフォローがなければ、保持にはちんぷんかんぷんであった事は間違いない。「具体的にどうなのかは、僕も分かりません。とにかくこちらの出方までは予報していないのではないかと思うのです。ですので――」「司令、改めて考えると、彼の言論には誘導的疑惑を感じます。彼の言葉の全てを信用していいものかどうか疑問に感じます」「サリーの言ももっともだけど、それはサリーの偏見じゃないかな? 私は彼が嘘をついていないと思うのよね」 沙理菜が裁判官に異議を唱える弁護士のように進言したが、ネリュートはそれを一蹴し、見とれるような足を優雅に組んだので、保持は思わず視線を外した。保持はネリュートの斜め後ろの席にいるのだが、艦橋の装飾部分に鏡が使用されているので、そこにネリュートの正面の姿が見えるのだ。そしてこちらから見えると言う事は、ネリュートからも見えると言う事で、ネリュートは保持に見えること前提で故意に足を組んだ事は間違いない。なんとなく後ろめたく感じ、保持は沙理菜を盗み見ると、その事には気付いていないようで、少し落胆したように表情を曇らせていた。「……司令がそうおっしゃるのでしたら……最終決定権は司令にあるのですから!」「棘があるわね……まぁいいわ」 ネリュートは席を立つと、艦橋の全員に向けて号を発した。「艦停止! この位置で待機!」「艦停止! この位置で待機!」『了解! 艦停止! この位置で待機!』 ネリュート、ナーシャ、各専任と復唱が繰り返される。「敵がどのような策を練ろうとも、せっかく穴熊ビリーが巣穴を出たのよ! 総員全力で奴の息の根を止めるのよ!」 敵がこちらの通路を予見しているのなら、動かなければこれ以上予見する事は不可能――ではないかもしれないが、時間稼ぎにはなる可能性が高い。「なるほど。アルバールの動向を試す、というわけですね。アルバールがどう動くかによって、どこまで見通されているのかが分かる、と。なるほどなるほど。フムフム」「そういうこと。ツクモンを信用していないわけじゃないんだけど、物的な証拠が欲しいの」「わかりますよ。私自身も具体的にどういったものなのか、見てみたいですから。ノストラダムスの完成度によっては……」「聖典(バイブル)ね……」「――ッ! 突撃艦ですッ! 艦後方、七時、突撃艦ッ!」「クッ! 振り払いなさいッ! いきなり出てくるなんて、こちらの手すらも予言していたと言うことなのッ?」「間に合いませんッ!」 振動が艦を揺らす。衝撃を制御している為なのだろう。保持はエレベーターに乗っているような不快感を覚えた。 そしてメビルスの乗組員の対処も空しく、事態は刻一刻と悪化していく。「進入されました! イ8番区域ですッ!」「総員白兵戦用意! 戦闘員は非戦闘員は食堂に!」「早……敵にイ8番区域を占拠されました! 続いてイ9番区域! 止まりません!」「――ッ! 撤退! 戦線を引き戻して! ロ5番まで誘いこんでたたくのよ!」「間に合いません! ロ1……2……3……5番まで占拠されました!」「非戦闘員を食堂に急いで! みんなは非戦闘員の避難の援護を優先! ナーシャ、後を頼むわよ」「し、司令――司令は」 何食わぬ顔で通路へと向かうネリュートに、最高指揮官がこの状況でどこに行こうというのだろうか? と、ナーシャが問答する。「オイタが過ぎる彼らに、ちょ~っとお灸を据えにね」「お一人では危険です! せめて一個小隊でも護衛に――」「ん~、悪いけど遠慮しておくわ。かわりにツクモンお願いね。お駄賃あげるから」「ならば、喜んでお供いたしましょう」 当然という感じで九十九がネリュートに続く。ナーシャがそれでも必死に止めようとするが、イリーアたちに指示を請われ、渋々ながらネリュートを見送った。「司令ッ! 無茶だけはしないでくださいね! 司令のお体にもし何かあったら……」「はいはい。分かっているわよ。ちょっと撹乱してくるだけだから、心配しないで。すぐ戻るわ。もし傷物になったら、保持君……責任……」「――とりませんッ!」「ん、もう、なんでサリーが返事するのよぉ! ま、いっか。んじゃ、いってくるわ~ん」 ヒラヒラと手を振りながら歩き行くネリュートの背中に、保持は奇妙な既視感を覚えた。「…しかし……そう……そういう……失念……わ」「……先入観……怖……です……」 なにやら小声でしゃべりながら遠ざかっていく二人の背中を見送り、保持はただ呆然としていた。もしかしたら二人を見送っていはいけなかったのではないか? 止めた方が良かったのではないか? 言いようのない不安が保持の頭の中を駆け巡る。「さ、棚加君、食堂に行きましょう」「僕に、僕に何か出来ること無いかな?」「……強いて言うなら食堂に避難する事ね。ここにいたらみんなの邪魔になるわ」 それは遠まわしな拒絶だった。この緊急事態に保持に出来る事などないのだ。そして保持は彼らに怯え安全な所で震えているしかないのだ。 保持は心から悔しいと思った。(力が欲しい――) それはささやかな欲望だった。その小さな流れが、後の世に大きな意味を持つ事になるのだが、今はその時ではない。しかし大河に続く流れは確実に始まっていたのだ。「行きましょう。敵の侵攻速度は尋常じゃないわ。早くしないと身動きが取れなくなるわ」 沙理菜に背中を叩かれ走り出した保持だった。しかし沙理菜の言葉はすぐに予言となった。 食堂への道の途中で敵と遭遇したのだ。
2009年08月22日
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2 前「こっち!」 沙理菜に手を引かれ、道を一旦戻り、倉庫として使用している部屋に隠れた。ここで敵をやり過ごそうというのだ。 だがそれは苦肉の策に思えた。やり過ごせる可能性は低い。例えやり過ごした所で、このドアの向こうが敵の占領下にあるのなら、逃げ場を失ってしまう。「……」 廊下の方から戦闘の音が聞こえ始めた。どうやら敵は侵攻を一旦止め、倉庫を挟むような布陣で膠着状態となったようだ。これで二人は部屋から出るに出られなくなった。「た、助けは呼べないの?」 艦内連絡用の受話器を操作していた沙理菜に、邪魔になるかもしれないと言うのに、保持は耐え切れず聞いてしまった。「通信妨害されているわ。艦の通信に介入しているみたい……」「無線とか、そういうのは?」「ダメね……敵に傍受される危険があるわ。外が戦闘状態にある限り、この状況じゃ下手に外と連絡や行動を起こすのは危険よ」「そ、そんな……」「大丈夫。ここは無敵艦メビルスよ。初期の混乱さえ収まれば、すぐに敵を押し返すわ」「……そ、そうだね」 保持がそう言って納得しようとしたのは、沙理菜を信用したからではない。そうでも考えないと、自分が押し潰される事を知っていたからだ。 その後、戦闘が断続的に行われ、保持は暗闇の中でその恐怖に怯えるしかなかった。どちらが優勢なのか……それすら把握できない。ここに沙理菜がいなければ、泣き喚いていたかもしれない。だが、それも時間の問題に思えた。保持は自分の息と鼓動が荒くなっていくのを、人事のように感じていた。 どこかで爆発が起こり艦が大きく揺れた。艦の衝撃緩和を超えて、ここまで大きく揺れるということは、余程大きな衝撃か、その緩和装置自体が破壊されたのか……その揺れで保持は投げ出され、壁か床か天井か――とにかく何かにぶつかり意識を失った。 ◆ 敵は突撃艇と突撃部隊の突入で橋頭堡を築き、艦を接岸させて突入用の錨を打ち込み、本隊の突入を始めた。 メルビスの白を基調とした廊下を、濃紺の軍服を着た男達が疾駆する。「突入隊の状況はどうなっている?」「現在、先鋒がこの三つ先のブロックで交戦……中……あ!」「どうした?」「第八突入小隊の通信が――途絶えました。! 一四、三……次々と!」「何? 先発部隊は何をやっているんだ!」 一陣の風が吹き抜けた。 ゴン――とロボットのような姿で具現化した守護システムのガーディアンが崩れ落ち、血飛沫が舞う。そして風の――ネリュートの全身を深紅に染め上げた。「私の艦を……」 ネリュートは刀を返し、最先端にいる兵に向けた。「その穢れた軍靴で踏みにじる事は許さないわ」 突然の事にアルバール兵に混乱に似た動揺が走った。「ガ、ガーディアンを……」一般兵の持つ最低ランクのガーディアンとはいえ、軍用に開発された守護システムであるので対人戦では鉄壁の護りを誇る。本来的のガーディアンを押さえ込むには、同格以上の自動防衛機構をぶつけて相殺するしかない。それを生身の女性が刀で斬り伏せるなど、本来想定されていないのだ。無論そういった訓練も受けていない。その為に彼らはどう動けばいいのか見失ってしまったのだ。しかし隊長の一言で、全員が正気に戻る。「敵は一人だ!」 敵は一人、味方は大勢。その事で兵達に余裕が生まれ、それが連携となって現れた。 アルバール兵は巧みな連携でネリュートを包囲しようとする。実際に包囲は完成された。しかしネリュートの刀が翻る度に、その包囲は見事に崩されていく。 ネリュートが包囲の手薄な部分を的確に狙い、一刀で斬り伏せる。そして二刀目には崩れた包囲の穴を確実に広げてくる。 アルバール兵の群れが割れた。引き波のように兵が後退を始めると、後続部隊が遠距離からの銃撃に切り替え援護射撃を始める。近接戦闘での不利を悟り、間接攻撃へと切り替えたのだが、ネリュートは臆することなく馳突した。自動防衛機構を発動させるまでもない。銃撃全てを避けきりながら、ネリュートは銃兵に肉薄した。 彼らの守護システムなど機能させない。ネリュートの刀はそれすらも両断し、敵を屠る。 兵達の目に恐怖が踊った。異能の妖でも見るかのようなその視線に、ネリュートは恍惚となっていく。 刀が鋼を両断し肉を裂く――その感触に言いようのない快感すら覚える。(でも、深追いは禁物……) それでも冷静さを忘れないネリュートは、頃合を見計らって後退し元の場所に戻った。 アルバールが突入艦の使用でメルビス襲撃の橋頭堡を得たように、ネリュートは自身の突撃で反撃の突破口を開いたのだ。「アレは敵の司令官、ネリュートだ!」 司令官で王女、最大級の手柄を目の前にし、アルバール兵の間に混乱が生じていた。 隣の同僚が命を預ける友から、手柄を競う敵への変化したのだ。ネリュートが単身で突撃したのはそういった狙いもあった。だが最大の理由は、ネリュートこそがメルビスの最強剣士であり、条件すら揃えば、単身で一個艦隊を全滅させる事すら可能だからだ。名誉と出世……そして命その千載一遇の機会と希薄となった連携、そして強烈に植えつけられた恐怖……あらゆる状況が、兵達の判断力を狂わせる。 真っ先に飛び出れば斬殺されるだろう。しかし先に出なければ手柄を奪われる。必然的に動きは受動的となり、彼らはネリュートにとってはただの的と成り果てる。「殺してあげるから、いらっしゃい」 ネリュートの惨殺は続く…… ◆ アルバール軍第十五艦隊突入白兵部隊“ライジングベル”を統括するカリウス・ドンラーフは、斥候件露払いに出した先発部隊との連絡が取れなくなったことにより、状況把握のために部下を引き連れ前線へと足を向けていた。 しかしその彼の行く手を塞ぐ優男がいた。体格から男であることは明白だが、全身を覆うようなゆったりとした服装なので、本当に男なのかどうか確信が持てない。何より顔を白銀の仮面で隠し半歩後ろにメイド姿の女性を連れているので、そちらに意識が集中し、他の特徴を薄くしているのだ。「要請」『マスターの要請申告を受理。現在送信中。送信完了。現在照合中……』 メイド姿の女性が守護システムであり、浪費としか思えない具現したままという奇怪な行動、そして仮面の人物の声色から男であろうという判別を下し、カリウスは一瞥し口の端をつりあげ蔑笑した。「ずいぶんと個性的なお人形さんだな」『しばらくお待ち下さい。現在審査中です』 何を審査中なのかは知らないが、機を逃すほどカリウスは平和ボケしていない。カリウスの合図で、背後前列の二人が仮面の男を狙い抜刀した。銃を使わないのは、趣味丸出しとはいえ、仮にも守護システムを起動したままであるので、実弾を完全防御する可能性が高い事、そして彼ら自身が艦内に偏向粒子を散布し、粒子放射型の銃器の使用を無効化し狙撃対策をしているからだ。 それはライジングベルが刃物による白兵に特化した部隊であり、銃を使うよりも自身の得意な得物のほうが殺傷能力が高いからでもある。しかし仮面の男は、本来彼を護るべき守護システムを庇い、二人の剣を何かで弾き飛ばした。どうやら手元が見えないぐらいに膨らんだ袖の中に、短刀を隠し持っていたようだ。出鼻を挫かれた二人の兵は、一度後退しカリウスの両端に付き再度隙を窺うが、仮面の男は隙だらけのようで、付け入る隙間がない。服が大きすぎて、足先から攻撃の軌道を読むことも、手元の獲物の種類や長さを知る事も出来ない。この仮面の男がさっきと同じ担当を再度使用するという確証もないのだ。先程の事もあるので、不用意に攻め込むのは危険度が高い。 カリウスでさえ、仮面の男と息を合わせられず、攻撃の一手を出せないのでいるのだ。カリウス自身が幾多の隊員候補の中から選別し、鍛え上げたライジングベルの隊員は、その程度もわきまえないぐらい無能ではない。やむなくカリウスは方法を変えた。「おいおい、余程そのお人形がお気に入りのようだな? アレか? 夜のお相手も可能なようにできているのか? ん?」 カリウスの下品な笑いにつられるように配下の者たちも嘲笑する。これで敵が激昂すればよし、しなくても時間稼ぎにはなる。 仮面の男はカリウスの挑発を無視し問うた。「刀番八五、カリウス・ドンラーフ、その他第十五艦隊突入白兵部隊ライジングベルの隊員一同。貴官らの行動は、ベルソードの精神に背く。そのことを理解しているか?」「ん? いっちょ前に説教か? そういうのは自分のお人形さんにしてな」「……もう一度問う。貴官らの行いはベルソードの精神に背く。その事を自認しているのか?」 カリウスはすぐに仮面の男が言わんとしている事に気付いた。それはサンクロバの領星で行われた作戦の事であり、軍内部の勢力からも抗議の対象にされている。「それがどうした? 戦場とは常に混沌が支配する。そして混沌は力によって支配される。力のある者が、無い者を蹂躙して何が悪い?」「……なるほど。ならば、七十年もの時間をかけ、ようやく融和の道を歩み出さんとしたアルバール、サンクロバ両国の関係をを悪化させたサンクロバの惑星サレベルンでの先月未明に行われた作戦……貴官らは部隊の指揮を取り、彼の惑星において虐殺と姦淫、そして強盗を働いた。それに相違ないな?」「虐殺? 姦淫? 強盗? 何の事だか分からないな」「……身に覚えがないと?」「尻尾のない猿をいくら殺し犯そうと、何の問題があるんだ? 連中は猿だ! いやそれ以下の下等生物だ! 身体を遺伝子操作で弄り回したマウスに等しい! そんな奴らが生きている資格なんてあるか? ないだろう? そんな奴らを殺し犯すことに何の罪がある? むしろ俺達はあいつらに女の喜びと人権の尊さってものを教えてやったんだぞ? 感謝こそされ、憎まれる筋合いはない!」 カリウスは言っていて無性に腹が立ってきた。何故あの程度の事を今更蒸し返されなければならない? 何故このようなわけも分からぬ者に、文句を言われなければならない?「いや、感謝されることすらおぞましい!」 相手を怒らせ油断を誘うつもりが、カリウスが激昂しては意味がないが、一度昂ぶった感情を無理に押さえ込む必要性を感じなかったのだ。 ――それはカリウスの慢心と油断であった。 しかし彼のエゴ剥き出しの言葉を、仮面の男は無言で受け止めた。「……なるほど。つまり、あの行為を恥じてもいないし、何の後悔もしていない、ということでよろしいか?」「はぁ? さっきからお前何を言っているんだ?」 「……言いたい事はそれだけか?」「あん?」「言い残すことはそれだけか? もっとも……承認された時点で、言い残す者など存在させないが……」 仮面の男の気迫に、カリウスは一瞬たじろいでしまう。だがすぐにカリウスはそれを払拭すると、すぐに臨戦態勢に入った。この一瞬でカリウスの油断も消え去った。 この優男が真に強敵である事を見抜いたのだ。 この緊張を破ったのは、守護システムの丸っこい声だった。『承認申請を受理しました。マスター鈴鳴を認定。武装を転送します』「んだ? 総機鋼甲冑でも転送するのか? 武装を転送? そのお人形には総機鋼甲冑の機能も無いのか?」「そんなモノ……必要ないからに決まっているでしょう?」 仮面の男に武装が転送された。 ――純白の陣羽織。 それはベルソードの礼装だった。そしてカリウスの脳裏にある光景が過ぎる。――そういえば、新賀の席でベルソードの当主が今の彼のような格好をしていなかったか? と――
2009年08月22日
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2 後だがカリウスはそんなことなど顔に出さず、男を挑発する言葉を吐いた。「なんだよ? よく出来ているじゃないか。そうか、お前、ベルソードの恥さらしか? 本家の血筋に生まれながら、魔女に寝返った、スケベ野郎! そうか。ならばここにいる辻褄が合うな! なんだよ、いまさら命乞いか? 同門のよしみで助けて~ってか?」 仮面の男は陣羽織を脱ぐと、裏返し再び袖を通した。そしてメイドの差し出した一振りの刀を手に取ると抜刀した。リィィィンと心地よい音色があたりに響き渡る。 だがその心地よい音色は、狂わしいまでの殺気の塊でもあった。その気に当てられたのかカリウスの背後で隊員の幾人かが倒れる音がする。 新兵には少々刺激が強すぎたようだ。しかし歴戦の勇士であるカリウスはこれ以上の狂気の中で生き残ってきたのだ。仮面の男が刀を軽く中段に構えた。「な、何だよ? 裏返したから、どうなる……」 ようやくカリウスの目にもソレが入った。漆黒の裏地の胸元に刻まれた白字の刀番を。「十……なんで廃番を貴様が……い、いや! 十? そ、そんな……」 一から五は例外なので、廃番は上から六、八、十という順番になる。つまり黒き陣羽織に刻まれた刀番の意味に気付いたのだ。「何故ベルソードには廃番があると思う? そしてその精神を覆す裏の番号を背負う我等がいるのは何故か? それは貴様の様な、力を振りかざすだけの外道の為。それを闇に屠る血塗られた刃もまたときには必要……」「……埋葬執行者……」 ベルソードの門下生なら、誰もが耳にする噂……埋葬執行者…… しかしそれは禁忌を犯さぬ為のデマだと思っていた。いや、存在するはずがない。いかなる者であろうが、いかなぬ状況であろうが、ベルソードの精神を汚した者を神出鬼没で死刑執行する者など……「さすがに聞いた事はあるようだな。たった今貴様等全員の除籍と埋葬が決定した。そしてこの時点で貴様等の血縁全てへの処分も決定した。鬼となったベルソードは遺恨など残さぬ」 静かな笑み――仮面の下のその表情さえ分かるような……そんな凄惨な雰囲気が辺りに漂っている。「それがベルソードの意向であり、主のご意思。ここで貴様等全員の命を刈る」 堰を切ったように兵達が襲い掛かっていく。彼らは才能こそあれども、まだ新兵を抜け出した程度で未熟なのだ。いつ何時切れるかわからぬ緊張の糸の重圧に耐え切れなくなったに違いない。「ま、待てッ!」 仮面の男は新兵達の一斉の一閃を避けきると刀を無造作に差し出した。兵は自身の猪突の勢いで自らの腹を切り裂かれる結果となった。 ガーディアンが起動しないぐらい、それはあまりに自然な動作だった。 被守護者の脈拍や筋肉の緊張などから、守護するべきか否かを判断するガーディアンは、こういった不覚の攻撃に弱い。しかし、そんな事など万に一つの事象だ。だが同様なことが数回続き、瞬く間に深紅に染め上げられた通路には、腕や足といったパーツが転がっていた。奇襲を仕掛けたにしろ、相手に攻撃を気付かせないのは至難の業である。まして目の前でそれを行いつつ、となれば神業といってもいい。 その手品の仕掛けは、仮面の男の巧みな身のこなしによる部分が大きい。 仮面の男の動作は、特別速いというわけじゃない。むしろ愚鈍な部類に入るだろう。しかし避ける動作と攻撃の動作に無駄がない事、そして全員兵の死角でそれを行う為、誰もが何が起きたのか、何が行われたのか、悟らせていない点だ。 カリウスは戦慄を覚えた。カリウスは外野から観察していたから気付いたのであって、戦闘の最中でそれに気付けただろうか? それの恐怖が戦闘中の兵を後退させる機を潰し、結果的に兵の命を無駄に散せる事になった。 仮面の男は刀に付着した血を振り払い、カリウスに向き直った。「……本当に残念だ。貴様等が素直に罪を認め、四肢を切断されようとも、後悔と懺悔を誓うのなら、貴様等を殺す許可など下りず、貴様等の家族も命を散らすことも無かっただろうに……もはや貴様等に残され道はただ二つ。許しを請い安楽死するか、抵抗し壮絶な死を迎えるか……最後の慈悲としてそれぐらいの選択権を差し上げましょう」しかし仮面の男がどんなに脅そうとも、恐怖を植え付けようとも、カリウスの戦意が消えることはなかった。数の有利もあるが、カリウスはこの仮面の男の力量を見切っていたのだ。「全員! 総機鋼甲冑を使用! 奴を生きて帰すな!」「やれやれ。無駄な足掻きを……いいでしょう。待ちますよ。全員に生存の僅かな機会と希望を差し上げます。私も初めての執行ですので、手加減できるか分かりませんが」「いい気になるなよ? 小僧!」「しかし、実は少々心配していたのですよ」「何がだ?」 カリウスが会話に乗ったのは、兵達が準備を追え配置に付くまでの時間稼ぎだ。総機鋼甲冑とは、ガーディアンを直接着込むことである。本来守護システムに準じるものを攻撃に使用するのは禁止されており、防衛と生命維持に限り、その使用を許されている。総機鋼鉄甲冑はその延長にあるとされ、鉄壁の防御力と動作補助が受けられ、軍事用の総機鉄甲冑にいたっては、全身に堅牢な装甲を覆うので死角がない。そして生身の数十倍の力を発揮できるが、あくまでもそれは自身の生命を守るため、とされているのである。もとはガーディアンなので、装着は一瞬で終わるが、転送地点の不具合などが起きる可能性があり、お互いに距離をとっての転送が必要となる為、隊全体の準備にはそれなりに時間がかかる。男もそれに気付いているはずだが、自身が不利になると分かっていながらそのまま会話を続けた。「あなた方が今頃ベッドの下にもぐりこんでナニでも弄っているんじゃないかとね」「……何が言いたい?」「おや、野蛮人には揶揄が通じませんでしたか? つまり素手の非戦闘員、それも非力な女性しか相手に出来ない、見下げた腰抜け集団だとばかり思っていたので――と言えば通じますか?」 さすがに頭に血が上るが、カリウスは堪えた。それが明確な挑発であると分かっていたからだ。そうこうしているうちに全員が装着し終わり、それを確認した仮面の男も刀を構え終えていた。「――執行開始」 仮面の男は身体を深く沈ませると、床を蹴り先制攻撃の為に間合いを詰めてきた。 それに釣られたのか右にいた兵一人が仮面の男に馳突する。仮面の男は身体を極限まで潜航させ、床に手を着き自らの軌道を変えると、突進してきた兵士の首の装甲の関節、装甲の薄い隙間に刀を合わせた。 床で反射した勢いと、彼自身の突進の力により、刀は見事に首元に食い込み、総機鋼鉄甲冑が解除され兵が床に崩れ落ちた。 総機鋼甲冑が強制解除される状況には、いくつかの原因があるが、最大のかつ簡潔な原因は使用者の生命反応が消えた時だ。「散れ! 囲んで叩き伏せろッ!」 一人を相手に固まっていても良い事などない。カリウスの号令に一斉に全員が散った。しかしそう広くない通路である。散るといっても限度がある。男をはさんだ反対側にまわれない限りは、結局一対一で戦うしかない。 そういう場所を選んだ、という事がすでに仮面の男の策でもあったのだろう。「はぁぁッ!」 鬨の声をあげながら、数人が一斉に切りかかってきたが、二人が一斉に攻撃できる余裕はない。必然的に一人が速度を緩め先発の護衛に付いた。 仮面の男は再び姿勢を崩し身体を低く構えると、突進した先頭の兵をやり過ごし、背後から膝関節を突き刺してから薙いで切断し、その背後で構えたままの兵に対峙した。しかし男の真後ろで膝を抱える同僚に躊躇したのか、剣を振りおろすタイミングがわずかに遅れた。 仮面の男は一旦床ギリギリまで身体を沈ませると、背後にうずくまっていた負傷兵を刀で突き刺し引き寄せて盾にする。兵の刀が味方の甲冑に阻まれ――高に思えたが、仮面の男の突き刺した傷が致命傷となり、刃が肩に食い込む。それが兵に動揺を与え、それが仮面の男への攻撃の呼び水となった。仮面の男が下方から突き出した切っ先が、胸の隙間を突き刺した。刃は心臓にまで至ったのだろう。すぐに甲冑が解除され、改めて仮面の男の刀は兵の胸部を切り裂いていた。「――所詮は亜流か」 ベルソード流には本流と分流、そして亜流が存在する。本流とは当然カリウスも所属するベルソード一族が率いる正等な流派であり、分流はベルソード家に認められた門弟が開いた道場のことである。そして亜流とは、本流や分流などの門下生が、個人的に指南したり、見よう見まねでベルソード流を真似る連中であると同時に、本流や分流の不出来者に対する蔑称でもある。本流のカリウスが率いているライジングベルは隊名に“ベル”を用いている事からも、正規のベルソード流剣士でのみで構成された部隊であり、その事を一種の誇りとしている。必然的に男の侮蔑はカリウスを沸騰させた。「俺がやる!」 この男たった一人に一刀も入れられぬまま、率いてきた兵の半数を失ったのだ。これ以上の侮辱を受ける前に、カリウス自身が相手しカタをつけるしかない。「つまり、貴様を殺せば、問題ないというわけだ」「例え私を殺せた所で、一度埋葬承認された貴様の縁者はすべて処分済み、帰るところも無く貴様等は未来永劫埋葬執行者に追われることになるが……しばらくの猶予は出来るな」「いや、その執行者に廃番を割り当てるって事は、十番は執行者のナンバー3を意味するんだよな? それがこの程度なら、高が知れている」「……言ってくれますね」 カリウスの姿が消え、次の瞬間には仮面の男に肉薄していた。 仮面の男はカリウスの放った斬撃を刀で受けとめる事で精一杯だったようだ。 仮面の男は数歩分後ろに吹き飛ぶと、そのまま動きが止まった。今の攻撃の衝撃で全身が硬直したのだろう。「……さすが、二桁といったところですか……」「この分だと、ベルソード家ってのは、たいしたことないんじゃないのか?」 カリウスの更なる豪撃に、仮面の男の体が浮き、そしてそのまま壁に激突した。 その隙を見逃さず、カリウスが追撃に入る。「弱い! 弱い! この程度か!」 仮面の男は必死にそれらを受け流し、ようやく体制を整えた。それが出来たのも、カリウスが余裕を見せつけ、途中で攻撃を止めたからだ。「……あなたの力量を完全に見余っていました」 仮面の男はそう断ってから、刀を構え直した。しかし動きに精彩がない。外傷は無いように見えるが、内に与えたダメージはかなりのものがある。「強がり言うじゃないか。だからどうした」「八千にも及ぶ門弟の中で、仮にも二桁の刀番を持つ事は、尋常なことではありませんでしたね……そんな単純なことすら失念していましたよ」「今更気付いても遅いがな」 カリウスの切っ先が仮面の男の首を薙ぐ。決まった――と確信したが、どうやらそれをかわしたようで、床を転がるように逃げ回っている。 それを追い、カリウスは連撃を放つが、速度を変えての不規則な回転で逃げ回っているようで、何故かかすりこそすれ、致命打を入れられない。 ベルソードの剣士として、あまりにその攻撃は様にならない。そんな矜持に囚われ、カリウスは攻撃を止め、仮面の男と間合いを取り、彼が起き上がるの待った。 既に勝負は決まったようなものだ。仮面の男はカリウスの予測を超える事は無く、カリウスの実力を持ってすれば、警戒するにも及ばない。 殺るなら、立ち技の一閃――カリウスはその光景を思い浮かべ、一人恍惚となっていた。 しかしカリウスは仮面の男の異様なまでに冷静な態度に、言いようの無い不安も覚えていた。 追い詰められているのに、何故こうも平静でいられるのか?そして追い詰めているはずなのに、なぜこんなにも不安なのか?「……ならば相応の礼節を持ってあなたに対峙いたしましょう。本当は後から色々面倒なので、あまりやりたくはなかったのですが……」 仮面の男――ツクモ・ベルソードは刀を鞘に戻し静かに宣言した。「拘束解除」
2009年08月22日
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3金色の野―― 昔アニメで見たような光景が保持の前に広がっていた。 そのどこかから、女の子がすすり泣く声が聞こえる。『たー君、行ってあげて』 アイちゃんの声が聞こえる。心細さを隠し切れなかった保持は彼女の姿を探した。『私はたー君に会いたいという“彼女”の願いをかなえてあげたいの。でも私はそこには入れないの。どうにか、たー君の腕輪を媒介にして会話だけは出来るけど、それも時間の問題。出力がかなり不安定になっているの』「ここは……」『高貴なる原野――サンクロバに伝わる聖域』「なんで僕はここに……?」『彼女が望んだから。私はその願いをかなえる手助けをしただけ。でもそれが天意だと信じているわ』「彼女……って?」『それは……あ、もうダメ……接続が切れるわ……』「え? エッ? ぼ、僕は、どうすれば……」『行ってあげて! 彼女は――いえ、彼女もまた、あなたに会いたくて泣いているの』「行ってあげればいいんだね?」『そう。彼女はたー君の――』 アイちゃんの声が消えていき、彼女が最後に何を言おうとしたのか、聞き取れなかった。 保持は覚悟を決めて高貴なる原野とやらを声の聞こえる方に進んでいく。 高貴なる原野は五色に光り輝く草花に覆われ、まるで保持を祝福するかのように囁き踊っている。 そして彼女は丘の上の巨木の洞の中にいた。 見たところ4、5歳ぐらいの女の子で、洞の中に敷かれた布団に包まり、嗚咽していた。 洞の中は結構広い空間で、一通り部屋を形成する家具が揃っている。そしてタンスには彼女の服が、本棚には絵本が乱雑に放り込まれていた。「……どうしたの?」 保持が声をかけると、彼女は泣くをやめて顔を上げた。(うッ!) そういう趣味のない保持にさえも、保護欲をかき立てる愛くるしい容姿に、思わず保持は戸惑いを覚える。しかし彼女は少々個性的であった。透き通るような純白の肌に、真珠を思わせる銀髪。そして深い光沢を称えた瞳――たとえその髪の毛一本一本、その瞳までもがダイヤモンドで出来ているといわれても、信用してしまいそうなぐらい、彼女は透き通った神々しいオーラをかもし出していた。 あまりの美しい雰囲気とかわいい容姿に、保持は言葉を無くしてしまった。 そして彼女の顔が綻んだ。笑うともう、最強クラスの可愛さだ。「パパ――ッ!」 ◆ 敵の屍の山が築かれていく。ネリュートはその力の差を存分に見せつけていた。「臆するな! 敵は女一人だ! 一人で相手するな!」 囲んで攻撃する、その方法は正しい。相手がネリュートでなければ、十分な効果を発揮しただろう。 ネリュートは囲まれても、すぐにその包囲を突き崩す。 包囲を形成する誰か一人の懐まで移動し、神速で敵を排除。そして後は開いた穴から包囲の外にでれば済むだけの話だ。だがそれも個人戦闘力に差があればこその荒業ともいえる。 何度も何度も包囲を崩していくうちに、アルバール兵の瞳に絶対的な恐怖が宿り始める。恐怖が身体を硬直させ、的確な反応を鈍らせていく。 戦力差は時間の経過ごとに広がっていくばかりに思えた。しかしその優位性にも陰りが見え始める。敵の総機鋼甲冑を斬るごとに落ちていく刀の切れ味だ。反りは伸びきり、刃こぼれで刀身はノコギリのようになり、もはや刀ではなくたがの金属棒のようになっている。もはや斬り裂くのではなく、挽き斬る状況になっている。 そしてついに心地よい音を立て、刀が事切れた。「今だ! 一気に取り押さえろ!」 そしてアルバールの反撃が始まった…… ◆ 九十九はオルトリンデに申告する。「承認。マスター鈴鳴の拘束レベルを解除いたします」 九十九の身体の各所から電流がスパークする。 久しぶりの開放感、全身に羽が生えたかのような身の軽さに思わず戸惑ってしまうほどに……「ま、まさか、その状態で……」 捕縛用の電圧ネット――九十九はそれを自身に使用し、身体の自由を制限していた。 捕縛用といってもいくつか種類があり、即死レベルのモノから、反抗しようとした時だけ作用するモノまで多種多様ある。九十九が使用していたのは常時身体の一定の自由を奪うものであり、急激な筋肉の動きに反応し拘束レベルが上がるものだ。 そこまで制限して初めて、九十九の身体能力は一般人レベルに補正される。「や、やれ! 一気に畳み掛けろ!」 カリウスは即断した。隙があるとすれば、拘束から開放された直後、身体が状況になれる前しかないことを見抜いていたのだ。 九十九の雰囲気が変化した事に気付き、即座に先制攻撃を放った――はずだったのに、総機鋼甲冑は何の役にも立たなかった。 カリウスの両脇の兵の首が飛び、血飛沫で天井までもが紅く染まる。総機鋼甲冑の首部分はもっとも堅牢に出来ている。それを熱したナイフでバターでも斬るがごとく切断されれば、嫌でも力の差を感じずにはいられないだろう。 その威力に愕然としながらも、カリウスとて八五の刀番を持つ猛者、すぐに戦意を取り戻し九十九に技を仕掛けてきた。「奥義、燕舞――」 空を飛ぶ燕のように、高速の斬撃が九十九を襲う。余談ではあるが、技の命名対象になった燕とは、ベルソード発祥の地サンクロバに生息する燕で、最高速度は音速の二倍を超える。 しかし九十九はまるで攻撃のくる方向が分かっているかのように、鮮やかというしかない歩調でそれを避けきっていく。 それはお互いの息のあった剣舞のように見えたことだろう。「ベルソードの名の由来は、切り裂かれた甲冑が地面に落ちる音を、鐘に例えてのこと。時代は変われど、その極意に変わりはない。ベルソード流剣術とは剛の剣。その剛剣が燕舞のような速度重視の奥義を持つ事に疑問を抱いたことは無いか?」 カリウスの燕舞を一通り避けきり、九十九は最も基本的な中段の構えを取った。「死に際の土産に、ベルソードの真髄、真の奥義である、必殺の一撃というものをお見せしましょう」「なにが真の奥義だ! その構えは初心中の初心の構えではないか! それぐらい分かるぞ!」 九十九はため息と共に嘲笑をもらす。「必殺とは字の通り、必ず殺すということです。小手先の技と、身体に染み付いた基本の技、どちらが必殺に成り得るか――その程度のことも分からないと言うのでしたら、その身で味わってください」 風が起こる。刹那、カリウスの身体が浮き、左腕が肩から消えた。「――ッ!」 カリウスはそのまま後方に吹き飛び、壁に激突して止まった。 そしてカリウスのいた場所に、九十九の姿があった。 九十九の踏み込みで空気が前に押し出され、周囲に逃げるよりも早くそのまま前に、カリウスに向け移動し、それがカリウスに叩きつけられ、彼の身体を浮かせたのだ。一度空中に浮いてしまっては、身体の踏ん張りが利かず、カリウスの機動力と防御力は格段に落ちる。それ以前に完全に虚を突いた結果となったので避けようもなく、そこに肉薄しての一撃が効かないはずがない。「存分に味わっていただきたいので、簡単には殺しませんよ」「ウワァァァァッ!」 激痛と狂乱でカリウスが突進してくる。 九十九が風を起こす度に、カリウスの身体が吹き飛び、どこかしらの部位がはじけ飛んでいく。しかし一般兵より高度な守護システムが即座にそれを機械的にカバーし、カリウスは突進を続け、そのスピードが衰えることはない。 逃げる事は出来ない。もはや万に一つの可能性に賭け、九十九を殺すしか生き残る道はない。もはや帰る家も、愛する妻も、子供もいないのだろうから……ベルソードに生きたカリウスはその事を熟知していた。「さすが――アルバールの守護システム、スプリガン。しかし――」 中のカリウスの身体が持たない。 もはや守護システムの総機鋼甲冑の補助機能がなければ、無様に床を這うしかない、そこまで切り刻まれている。 ここまでやっても九十九に息の乱れはない。あるはずもない。先程までの負傷も、息の乱れも身体の大半の機能が制限されていたからであって、全力を出せる今ならば、かすり傷程度のモノである。そして九十九はとりたて特別の攻撃などしていないのだ。中段に構えた刀を振り上げ、振り下ろす――多少の変化はあるにしろ、その基本中の基本の型をこなしているだけだ。相手の身体を浮かす衝撃波も、攻撃のための鋭い踏み込みの副産物でしかない。毎日の鍛錬で何百回、何千回と繰り返すその基本動作。特別な事などありはしないのだ。 九十九はカリウスばかりでなく、その場から逃げようとする兵も、背後からも厭わず斬り飛ばし、近くにいると言うだけで頭から両断し、気を失っていようとも首を跳ね止めをさした。……この圧倒的な力の差は、もはやそれを虐殺と呼ぶしかない状況を作り上げていた。「……そろそろ、限界でしょう。いい加減に殺していいですか?」 九十九は残された――いやあえて最後まで残したカリウスに宣告する。「ご安心ください。刈り損ねたあなたの部下も家族も、皆すぐに送り届けてあげますから」 埋葬執行者なるもの、一度その任をうけたら、一切の情を捨てなければならない。ベルソードの精神に背けば、絶対的な絶望しかない事を見せしめなければならないのだ。
2009年08月22日
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4 ネリュートの手にあるのは光剣のみ。光剣では総機鋼甲冑に干渉制御され、存分な働きはしない。実剣なればこそ、総機鋼甲冑に対抗できたのだ。「ネリュート・シュガーミの名と血、その契約により汝の顕現を請う。風塵と伴に舞い降り、その烈風、彼の愚者達に示し給え! 風香!」 ネリュートを中心に風が舞う。結果的にその風は敵の歩みを止め、やがて一つの形となる。「あら、姐様。お久しゅう」 銀髪を結い着物に似た衣服を着崩した美女、それがネリュートの傍らに立っていた。 この状況で防御の為とは考えにくい。それならば総機鋼甲冑のように、全身に装着する状態で召還するはずだ。ならば条約違反を犯し攻撃に使用するか、逃亡する際の囮とする為、敵はそう解釈したようだ。「守護システム、か――しかしこの状況で、どう……」「あらあら、無粋な機械人形と一緒にされるなんて、心外の極みですわ」 動き出した彼らを再び風が押し戻した。「しかし、姐様ともあろうお方が、私を召還なさるなんて珍しい……いいえ、初めての事ですわね。私としては姐様に頼りにされて大変うれしゅうございますが、どういった風の吹き回しですか? フフフ、風の吹き回し、といっても、別に“風香”にかけているわけじゃないですわよ」 風香が片手間といわんばかりに敵に風を起こしながら楚々と笑った。「この私と刀一本で対等に渡り合う姉様が」 風が彼らの抵抗力と拮抗し敵の動きが完全に止まった。 それはこの現象を理解しきれていないからでもあるのだろうが、彼らが目の当たりにしている風香が何者で、その風がどういった性質の物なのか、それを知るはずもない。「あー、これ、この通り」 ネリュートは折れた刀を風香に振って見せた。「あら、刀が……ご自慢の鈴鳴はどうなされたんです? あぁ、主様のご意向で後継者にお渡しになられたのでしたわね。なるほど。一級品程度の刀では、姐様の気を受け切れませんでしたか」「そういう事ね。私もまだまだ未熟ね」「フフフフ。一国の王女として生まれ、元帥として第一艦隊を率い、私と互角の剣術を振るい……これ以上強くなられてどうなさるんです?」「大切なものを護る為――って、まとめておこうかな」「あらあら、それは重大な理由ですわね。それでは私は微力を尽くしてそのお手伝いをいたしましょう。姐様の護るべき御仁の中には、私の護るべき主様もおられるのですから」「ありがとうね。でもここメビルスの中だから、控えめにネ」「ウフフ。了解ですわ姐様。早く終わらせて、お茶にでもいたしましょう」 風の質が変わる。今までただ強烈に吹いていただけの風が、斬るような鋭さを持って彼らを襲う。「そ、総機鋼兵を前に! 盾で壁を作り前進!」「り、了解ッ!」 風が甲冑にはじかれる。さすがにこれは風香にも予想外だったようだ。「あらあら、最近の機械人形さんは結構丈夫ですのね。ならば、これなどどうでしょう?」 風が再び変わる。薙ぐ風から突く風に変わり、威力の全てを一点に集中させたそれは、まるで高射砲の一撃のように、防御力に秀でているはずの彼等を貫いた。「ごめんなさいね。本当は立場的にはあなた方の味方をしなくてはならないのですけど」 風香の二撃目が再びアルバール兵の壁を穿つ。「私達の契約は国ではなく個人に対して行われるものですから。それに主様はあなた方を嫌っておられる様子ですし。許してくださいましね」 三撃目、四撃目……荒波が砂山を削っていくように、アルバール兵の壁が消失していく。 最後の一撃――というその時、艦が大きく揺れる。「風香――ッ! どこか変な所に当てちゃった?」「いいえ。そんなことはありませんよ」「じゃ、この揺れは何?」 次の瞬間、向かい風が吹いた。 そして警報が鳴り響く。「空気流出警報?」
2009年08月22日
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第五章 決別 1「気がついた?」「あ……」「あの後大変だったのよ? 棚加君は気を失うし、何か凄い衝撃がまた来たりして……」「え? エッ!」 保持はようやく自分が沙理菜の膝の上に頭を乗せている事に気がついた。「ゴ、ゴメン!」 慌てて頭を起こそうとして、強烈な眩暈を覚える。沙理菜はそんな保持の頭を捕獲すると再び自分の膝の上に誘った。「も、もう少し、このままの方がいいわ。棚加君は……ほら、頭を打ったみたいだし」「……そういえば頭がズキズキする……」「軽い脳震盪ね。詳しくは調べてみないと分からないけど、ちょっとぶつけて血が出ているだけみたい」「血……」「ママ、パパだいじょーぶ?」「大丈夫よ」「マ、ママ? って、あれ? この子は……」「私も気付いたらここにいたの。密航……のはずないわよね。サンクロバの誇る最新鋭艦にこんな子供が忍び込むなんて無理な話しだし……」「……」 沙理菜をママと呼んだ女の子は、間違いなく保持が金色の野――サンクロバの聖域という、高貴なる原野で出会った少女だった。保持はこの子を夢で見たことを言うべきか迷った。しかし根拠のない話であるし、それをしゃべったらアイちゃんの事にまで話が及ぶ。(変な奴だと思われたらいやだな……説明も面倒だろうし、言わないでおこう)「パパ、パ~パ~」「グホッ!」 女の子が保持の腹の上に飛び込み、保持は息を詰まらせた。小柄とはいえ、かなりの衝撃がある。「こ、こら、棚加君は怪我しているんだから、ダメでしょ」「タナカ? パパはパパじゃないの?」「あのね、棚加君はあなたのパパじゃないでしょ? 私もあなたのママじゃないの」「パパはパパだよ? だからママはママ」「……もしかして、棚加君ッ!」「ち、違う……」 保持の年でこの年齢の子供がいるということがおかしい。常識的にもありえないし、保持がそんな人間ではない事に思い至ったのだろう。そもそも沙理菜も「ママ」と呼ばれているのだ。おそらく沙理菜にも身に覚えはないのだろうから、お互い様なのだということに気付いたのかもしれない。「まぁ、いいわ。当面の問題は、ここがどこかって事なのよ」「え? ここはさっきの倉庫じゃ……」「そう、そうなんだけど……ここは私たちが逃げ込んだ倉庫の中、それは間違いないわ。でもメビルスの信号も消えているの……そして端末の情報からは、ここがメルビスではない事を示している。ほら、全機能が切断状態で、単独起動になっているもの」 沙理菜が腕輪を示したので、保持も確認してみると、腕輪の自動防衛装置の信号が青から赤に変わっている。「そ、それって、どういうこと?」「……考えられるとすれば、私達が知らないうちに、別の所に転送された……この倉庫ごとね……床が少し斜めになっているでしょ? つまりこの区画ごと、別の場所に置かれている、ということが考えられるわね。棚加君、体とか精神とか、どこかおかしな所が無いか確かめてみて……重要な事なの」 ◆「どういうこと?」 ひときわ巨大な振動に続く空気流出の警報と隔壁閉鎖、そしてそれに連動するかのように始まったアルバール軍の一斉撤退をうけ、ネリュートは艦橋に戻ったのだが、そこで驚愕の報告を受けることになった。「保持さんと沙理菜軍曹は。艦の一部ごと、どこかに転送されてしまいました」「な……で、二人は? 二人は生きているのッ?」「そ、そこまでは……」「最優先で調べなさいッ!」「閣下。オルトリンデでアルバールの通信の一部を傍受しましたが、どうやら何かが“成功”したようですので、二人は生きていると考えられます。ただ殺すだけなら、こんなおかしな事をする必要はないのですから」「……そう。そうね。ゴメン、取り乱したわ」 ネリュートは取り合えず身体の力を抜き、席に腰を落とした。「……中範囲強制転送……アルバールがペトレクルース禁止条約を守るとは思っていなかったけど、移動物体に対する諸問題を克服するのはもう少し先と予測していたのに……ノストラダムスといい、アルバールもなかなかやるわね」 移動物体に対して転送を行う事は、技術が進んだ現在でも非常に危険なことである。だから艦単位での転送も完全停止してから行われる。また生物への影響も大きい為、転送ミスなどを引き起こす可能性が高く、人格の入れ替わりや精神異常を引き起こす場合がある。その為艦の転送時には防御壁などで魂体を保護する必要があるのだ。それら魂体防御と乱用の禁止・抑制などをまとめたのがペトレクルース条約である。 それをアルバールは移動中に、人体へのシールドもなしに行ったのだ。「完全に出し抜かれました。まさか、こちらまで極秘裏に実用化していたとは……いや、もしかしたらこれが実用試験だったのかもしれません」「ツクモンも知らなかったの? ってことはあの人も?」「知っていればそれなりの対策はします。ましてペトレクルース条約にアルバールは賛同していないとはいえ、非人道行為に違いありません。それに今回は……」「……でしょうね。イリーア、被害の状況は?」「はい。切り取られた直径は三十メートル強、中心となった資材庫とその周辺、および外に流出した物資、非常用食料が五千食、支給用衣服、治療用薬品など……空気の流出が艦全体の四割を越しています。そして――」「……保持君とサリーの信号も消えた……」「……はい。転移中心となったと思われる資材庫で、消失直前まで確認されていました」「二人は食堂に向かっていたはずよね。だったら、何か予定外の事、例えばすぐそばで交戦状態にでもなりそこに逃げ込んだのでしょうけど……」(食堂で大勢の乗組員も一緒に、という状況よりはマシだけど……) 不幸中の幸いというには、ネリュートにとっての不幸のふり幅が大きすぎる。 一瞬風香と九十九を率いて近くの艦から順番に捜索しようかという衝動にも駆られる。しかしネリュートは自分の立場を思い出しそれを飲み込んだ。「……これは保持君を狙った、と考えていいわね」「でしょうが、やり方が強引ですね。まだ保持の利用目的も確定していないのに、不安定な新技術まで使って……」「私には保持君の存在理由がちゃんとあるけど、それはアルバールでは無意味……保持君を狙ったのはついで、といった感じね。でもサリーが一緒となると、ちょっと事情が変わってくるわね」「最悪、ウチの上司が全力で保護するでしょうが、あの方がこの事に気付かれるまでに、保持と姫さんが無事ならいいのですが……」「連絡はつかないの?」「……この状況では時間がかかりすぎます。最短で連絡が付いて明日……といった所でしょうか……」「そう……転移先の予測は?」「切り取った空間をそのまま格納できるとなると……大型の輸送艦って所でしょうか……たしか十五艦隊には超大型輸送艦のヴァルファールが一隻配備されていましたから、おそらくそれかと」「転移先を精密に固定するのは、現技術でも困難だモノね、超大型輸送艦とはいえ、針に糸を通すような精密作業……それを移動物体に対して行うのは特にね。兵器利用を抑制させておいて良かったわ」「転送兵器抑止条約ですね。しかしアルバールはおそらく今回の成功をふまえて、来期の国会でその条約脱退を決議しますよ?」「……あら、そう。まぁ予想はしていたけど。それよりもヴァルファールの現在位置の特定はできた?」「もう少々お待ち下さい――」「わるいけど、ツクモン、行ってくれるわね? 私はここを動けないし、唯一アレと接続できるのはツクモンのオルトリンデだけだから」「はい。それが自分が受けた任務ですから」「――出ました! 敵の輸送艦発見!」
2009年08月22日
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2 とりあえず心身ともに異常がなく、その心配の原因の説明を受けた保持は、珍しく幸運に恵まれたことに感謝した。普段の保持なら間違いなく最悪の結果を招き寄せていたはずだ。 そして最重要な危機を脱した後は、二人をパパとママ呼ばわりする少女へと関心が戻っていった。「ねぇ、お名前は? なんていうの」 保持の子供でない事をやっと理解した沙理菜が、女の子に名前を尋ねた。どちらにしてもこの状況から抜け出すまでは、見知らぬとはいえこの子を放っておくわけにはいかない。 そうなるとまず必要になるのは名前だ。「コモエのなまえ? コモエはコモエだよ?」「コモエちゃんね。いい名前ね。それじゃコモエちゃんは何でここにいるのかな?」「えっとね、えっとね。パパとママにあいにきたの」「そう、偉いね。でもコモエちゃん一人で来たの?」「ウン! ベニオママといっしょにいたんだけどね、いなくなったの。でもパパがいるからへいきだよ」「ずいぶんと無責任ね……じゃ、そのベニオさんがコモエちゃんのママ?」「ママはママだよ? ベニオママはベニオママ」 沙理菜が頭を抱えている。(気持ちは分かるよ……) 保持もコモエの言っている意味が理解しきれず、頭を抱えたい気分だ。「とりあえず、この子の素性は置いておきましょう。問題はこの後どうするか、よ」「えっと、どうすればいいんでしょう?」「とりあえず状況の説明ね。私たちはここに閉じ込められているの。空間転移された、という前提で話を進めれば、動力源の供給が絶たれているから、扉はおそらく開かないわ。そしてどこか歪んでいるのでしょうね。びくともしないわ」「そうですか……」「問題その2。自動防御機構が作動しないわ。メビルスとの接続が切れているからね。それと私のアイリーンもダメだったわ。おそらく精神波妨害されている」「アイリーンというと、あのユニコーン? ということはつまり……」「攻撃を受けたら身を護る術はないってことね」 その後、保持は沙理菜から状況の説明と、今後の方針を大まかに説明されていると、外で物音がした。 沙理菜に緊張が走る。ドアを無理やりこじ開けようとしている。沙理菜から説明された状況から考えると、味方である可能性は低い。もし味方ならドア越しでも中の様子を聞いてくるはずだ。 そして案の定というべきか、押し入ってきたのは三名のアルバール兵だった。「出ろ! おとなしくしないと、痛い目にあうぞ!」 銃を突きつけられていては、その指示に従うしかない。沙理菜もそうしたので、保持もそれに習った。「なんだ? このガキは? こんなガキ、報告にはなかったぞ?」「いいから連れて行け!」 兵に連れられいどうすると、沙理菜の推測どおり、巨大な空間に丸く切り取られた巨大なガラクタが転がっていた。「……無茶するわね……」 ポツリ呟いた沙理菜の言葉から、この方法はあまり一般的ではないことを保持は理解した。(一般的じゃないって事は、何か問題があるって事だよな……普通に考えると) 保持達は乱暴に残骸から少し離れた場所へと連行されると、手首に新たにブレスレットのようなモノをはめられた。 そしてそこから全身に電流が走り、痺れて動けない。「司令にご報告しろ」 本当は痺れていて動けないのだが、強引にモニター見るように強制され、保持は兵士の助けを借りて、そのモニターを凝視していた。 そこに写っているのは白髪白髭の老人で、髪はオールバック、髭は短く刈り込まれている。 横目にはいった沙理菜の表情が変わる。 沙理菜にも同じ物がはめられ、身動きできないはずだが、保持よりも多少の自由が利くようだ。(精神力の差……僕は根性無しだからか……それよりも、この男が、第十五艦隊の司令官……名前は……穴熊のバリー……何か違うな……) ビリー・バーバリンは両腕を組んで保持を観察すると、蔑んだ表情で一笑した。(何でこんな頼りない男の為に自分が――とか考えている顔だな……)『貴様が棚加保持だな』「――」『返事はするな! 猿の奇声など聞く気はない。時間の無駄だ!』 ビリーは言い放つ。もっとも、返事する事も出来ないぐらい痺れていたのだが……『しかしとんだ手土産が出来たものだな。雑魚を釣りに来たら、とんだ大物が針にかかった。サンクロバ王家の娘、交渉材料としての人質としては最高だな』 沙理菜は相変わらずビリーを睨み付けている。『聞けば我が艦隊のケネス大佐が一度は捕獲していたというのに……無能者が……オスは檻にでも入れて倉庫の片隅に放置して置け! メスは犯せ! 孕ませるんだ。人工の淫魔に遠慮はいらぬ。孕むまで順番に犯し続けろ!』 カッと保持の中に憎悪が生まれた。沙理菜を侮辱するばかりか、損案ひどいことを兵器で言い放つ。そしてこれからそれは行われるのだろう。絶望にも似た感情を攻撃欲求に変え、保持は画面の先のこの男を嬲り殺したい――そんな激情に駆られていた。『そのメスを各艦に輸送しろ! 慰安婦としては最低、動物による代替品だが、無いよりはマシだろう。抗体を――ん? なんだ?』 保持の怒りが上限知らずで高まっていく中、モニターの向こうのビリーも、補佐官の報告に顔色を変えていた。『ん? “聖典”に? 不確定要素? 未来視に波? 確立が著しく低下だとッ? 馬鹿者ッ! 早く何とかしろ! “ア? それをするのが貴様らの仕事だろうが!』 突然モニターにノイズが走り、ビリーの姿が消えてしまった。何がおきたのか――それを推察するよりも早く、コツーンと何かが床に落ちる音がした。「今の音は何だ? おい! 誰か調べろ!」「今のは探索素子……」「え?」「……未確定の場所に転移しようとする時に、先に転送し周囲の状況を強制送信する、端末機械よ。画面が消えたのは多分、送信の影響よ。あれは強力な電波を発生させるから」「ということは……」「どこか――この状況だと、おそらくメルビスから何かが転送されるって事ね……」「何が転送されるの?」「一般的に考えると、無人兵器、もしくは爆雷……」「えぇっ!」「何をこそこそしゃべっている! 早く来い!」「痛い! 痛いよ」「パパをいじめないで!」 背中を銃で強く小突かれうっかり口にした事で、コモエが兵に突っかかった。保持は慌てて平静を装い、コモエを引き止めると「大丈夫、苛められていないよ」と笑って見せた。しかし内心は肝を冷やす思いだった。今までアルバール兵と何度か接してきた経験から、いくらコモエが幼かろうが、手加減するはずがない気がするのだ。(確かに九十九は僕にも優しいけど、あれは例外……だよな。それにコモエちゃんが小さくて可愛いからこその危険、と言うものあるよな) 不用意に問題は起こせない。アルバール兵の目に付くような行動は控えなければならない。保持が静かに決心を固めている直後、何かが爆ぜる音がした。「二人とも伏せて!」 バチィーンと拍子手のような爆音がし、何か小さな黒い物体が空間の中央部に現れた。
2009年08月22日
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3 前「武器になるような物は……あるはずないわね……自動防御機構も遮断されているし、アイリーン……もやっぱりダメ……それにコモエちゃんを連れていては、逃亡は難しいわね……」 何かが転送され、アルバール兵達はそちらの対応に追われ、保持達に構っている暇がなくなったのだろう。保持達は強引に連行され、そのままどこかの部屋に放り込まれた。せめてもの救いは沙理菜と一緒だということだろうが、ただ単に別々の場所に分ける事も出来ないぐらい切羽詰っていたのだろう。「……まだ戦うつもりなんだ……」「もちろんよ。最後まで諦めない、それが私の信条だもの」 しかし既に万策尽きたのか、沙理菜は壁際に座り込んでいた保持の隣に座ると、丸くなって眠っていたコモエの頭をそっと自分の膝に乗せた。(もしかして、州上さんって、膝枕をするのが好き……なのかな?)「でも、ここまでアルバールの注意を集めるものって、何を転送してきたのかしら?」「あ、えっと、さぁ……?」「無人兵器の類じゃないし、機雷でもない……と思う。爆発音とかもしないし」 沙理菜は保持が的確な答えを出すとは期待していなかったのだろう。何事もなかったように推理を始めてしまった。しかし彼女の予想すら超える事態になっているという、その緊迫感が保持の背筋を寒くした。(一体外は何が起こっているのだろう……)「……静かだよね……」「銃声とか、地球みたいに派手じゃないからね。すぐ外の通路を走る足音がするから、何かが進行中なのは確かよ」 さすが軍人と言うべきか、沙理菜の気丈さは正直保持には心強く思えた。しかしそれが同時に保持を苦しめてもいた。自分の無力さを痛感せずにはいられないからだ。「僕達どうなるんだろう……」「どうにかするわよ。今はどうすることも出来ないけれど、混乱が進めば多分隙が出来るわ」(でも、混乱が進まなかったら……) 気持ちはどんどん弱気に向かう。さっきまでがんばろうと思っていたのに、その決意すら薄れ、気を抜けば忘れてしまいそうなぐらいに、意識が沈んでいく。その気持ちの重さが保持自身も気付かないうちに、張り詰めていた糸を切断していた。「今は休みましょう。いざという時に動けなくなるわよ」「分からない、分からないよ。州上さんは戦う事が怖くないの?」 溢れ出した感情の波は保持を押し流し、その矛先を沙理菜に向けてしまう。「……怖いわよ。怖くないわけないじゃない」「だったら、なんで戦うの?」「……私が軍人だから。軍人として、王家の一員として、私には護るべきものがあるの。それを護らないと、私は一生後悔するわ。だから戦う」「それは僕には関――」「棚加君! ゴメン、勝手な――多分私のわがままなんだろうけど、聞きたくない。棚加君の口からそんな事聞きたくない」「……ゴメン」 言ってはいけない事があることぐらい保持にはわかっていた。しかし時にそれを見失い、口にしてから気付き、後悔してしまう。そして未熟な自分に落胆するのだ。「うにゅ……パパ? ママとケンカしてるの?」「おこしちゃったわね。違うのよ、コモエちゃん。パパはねちょっと不安になっているだけ」 沙理菜の説明で納得したのか、コモエは再び安心しきった顔で再び寝息を吐いた。「……こんな状況で、眠っていられるなんて、この子は大物ね」 気まずい沈黙が流れる。それを破ったのは沙理菜だった。「あのね……」「え?」「やっぱり、棚加君には言っておいた方がいいと思うの。いいえ知っていて欲しいの。私の護りたいモノ。それを……」「うん……」 それはかなりの決心を必要とする無いようだろう、その事に思い至り、保持は気を引き締め、聞く体制と心構えを固めた。「メビルスの乗組員、全員が女性っておかしいとは思わなかった?」「え? まぁ、うん」「そうよね。でも……しょうがないの」 沙理菜は一瞬言いにくそうに、言葉を呑んだ。「……今のサンクロバには女性しかいないの。厳密には男性もいないこともないんだけど、総人口の約0.05%程度、いないに等しい状況なの」「え? もしかして戦争でみんな……」「……ある意味戦争で――という事には間違いないと思うわ。でも、現実問題として男性だけが死ぬなんてことはありえないことだわ。そしてそれなら十数年で一定の割合には戻るはずよ。でも私達が抱えている問題はもっと深刻なの」 沙理菜は何かを決意するように深呼吸した。これからがもっと深刻な内容であろう事は容易に予想できる。「――私達は男の子を産めないの」「なんで……前はいたんでしょ? だったら……」「二十年ほど前に、サンクロバ本星で遺伝子操作されたと思われる病原菌が蔓延したの。いえ、厳密に言えば今現在もまだその菌、後天性自壊誘発菌は蔓延しているの。当初それは主に男性に作用するものと思われていて、それが原因で主星の男性の九割近くが死滅したわ。その後、他の領星に伝染……一ヶ月も待たずサンクロバの総人口は半数以下に激減したわ。そしてそれに伴う戦力低下により、アルバールの攻勢を抑えきれなかった……伝染の方法は不明。空気感染や直接接触によるものでもない……気がついたら体内に菌があって……何年か後になってそれが二次的感染によるものと判明したわ」「えっと……それって?」「サンクロバの大部分の惑星で、本星から移植された黒燕松と雪桜の花粉が体内に入ることにより、花粉同士が体温で融合を起こし別の物質となるらしいの。それが男性特有の遺伝子に反応し、体内の常在菌のいくつかの爆発的な変質を促しているらしいの」「そんな……えっと、ワクチンとかは作れなかったの?」「もちろん最優先で研究されたわ、でも、単純に考えても研究員の半数は男性なのよ? 解析に予想以上に時間がかかったわ。それどころかこの菌は進化を繰り返し、逐次対処方法を無効化するばかりか、人の遺伝子とも結合し、菌が死滅すると人体にも影響が出るように、自身の遺伝子をも変革させたの。その後どうにか血清は作ったのだけど、もう何もかもが手遅れだった……今のサンクロバは全滅を待つだけ……」「どうして……って、あ……そうか、男がいなくちゃ、赤ちゃんが生まれない……だったら他の星の――」(もしかして僕はその為に……) 沙理菜が弱々しく首を振った。「ダメなのよ。そもそも女性がすでに男の子を生めなくなっているもの」「でも、性質が変わるなら……また男の子が生まれるようになるかも……」 それは神に助けを請うようなものだ。可能性があまりに低く、望みにすらなりえない。 沙理菜は寂しそうに笑うと、諦めたかのように首を振った。「その後の研究で感染その後の研究で菌の爆発的な変質を遅らせる薬の開発に成功したけど、完全に止めているわけじゃないの。おそらくいつかそれも効かなくなるわ。だから今は研究施設で変異の動向を見守っている状態ね。でも、アルバールでは予防薬を開発したっていうわ」「だったら、九十九に頼んで――」「予防薬は、って言ったでしょ? 菌保有者には何の効果も無いわ」「そっか、そうだね……」 ぬか喜びしてしまった自分を恥じながら、保持は自身の考えがうまくかたまらないことに苛立ちを覚えていた。「……正直私の専門分野じゃないから、詳しい事は分からないし、専門家は否定しているけど、もしかしたら女性も死ぬようになる、という可能性も……当面は大丈夫と信じたけどね」 悲しそうに笑う沙理菜が、保持の心を痛くする。何とかしてあげたいのに、どうすることも出来ない。保持は何事においても無力なのだ。その事で胸が張り裂けそうになる。「さすがに赤ちゃんが生まれないと、国としての機能しなくなるわ。この最中もアルバールと戦争中だもの。そこで冷凍保存された精子があったから、当面は問題ないはずだった。でもこの病原体は女性の遺伝子情報を書き換え、男性を埋めない体にしていたの。正確には男性の遺伝子を持った精子と卵子が結合しても細胞分裂が起きないらしいの。せっかく男の人が死なないようになったのにね……」「じゃ、今はサンクロバには男の人はいないの?」「さっきも言ったけど、全くというわけじゃないわ。でも今は他国からの亡命者や移住者しか男性はいないの。いくら対処法が見つかったとはいえ、わざわざ危険を冒して住んでくれるような人は少ないのが実情よ。だから……司令も私も保持君が怖がると思って、今まで騙すような感じで……秘密にしていたの。そういう意味では、そんな事情を知っていて亡命してきた鐘剣君は奇特な存在だわ」 沙理菜は自嘲し顔を俯かせたが、直ぐに慌てた感じで顔を上げた。「あ、もちろん棚加君には感染しないようになっているし、感染していない事は確認済みよ。大丈夫!」「あ、いや、別にそこは気にしていないけど……でもいつの間に……」「地球にいた時から……あの学校、実はサンクロバの息がかかった学校なの……ゴメンね……」「あ、そうだったんだ……」 会話が途切れると、言葉が出てこない。元々饒舌な方でないとはいえ、この沈黙はいつもに増して苦しものだった。 即効性ではないがジワリジワリと、まるで真綿で絞めるようにサンクロバという国の死滅の未来が近付いているのだ。その重い実情に、保持はなんと言葉を紡げばいいのか、分かるはずも無い。
2009年08月22日
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3 後「人って、馬鹿よね……」 沈黙を破り呟いた沙理菜の言葉に、保持は内心救われながら、更なる実情を突きつけられるのであろう予感に、気を重くしていた。「……そんな事になっても……いえ、そんな事になったからこそなのかしら……サンクロバでは、この緊急時となってもなお、人工授精に使う冷凍精子の提供者別に、妙な派閥を作ってお互いに争いを始めたわ」「派閥って……なんでそんな事に?」「一般の方の精子も冷凍保存されていたのだけど、王家の男子の精子がより多く残されていたの。もちろん現存四王家のものは厳重に規制されて流出しなかったのだけど、没落したり途絶えたりした王家のものが市場に流れたの。女性の多くは大金を積んででも王家直系の精子を望み、そうやって生まれた子供達を要する者達が互いに結束し、新たに七つの新王家が生まれたの。そして彼女達は野心を抱くようになったのだけど、従来の王家との力の差は明確。その差を数で埋めようと冷凍精子の乱用が横行し、サンクロバは正真正銘の危機に晒されたわ……本来百年単位で使用する予定だった精子を十年弱で使用したのよ。そして十年前に苦渋の選択をしたの」 沙理菜は一気にそこまで言い切ると、何かを吹っ切るように深呼吸を始めた。「サンクロバは生体改造による延命処置を認可したの。個人の寿命を延ばすことで、世代交代を遅らせ、精子の乱用を抑制するとともに使用を規制したの。その結果アルバールに人体改造反対、連中は人権を冒涜する魔女だ、っていう大義名分を与え、戦況は更に不利になった……私は王家の一員として、一軍人として国のみんなの命と名誉を護らなければならない。ここで負けてしまえば、全てはアルバールの思惑通りになってしまうわ。遺伝子が変化するような危険な病原菌が、二次的要因とはいえ突然自然発生するものではないわ。確かに黒燕松と雪桜の開花時期は違う。花粉の飛来次期も異なる。普通に考えれば、それが原因と考えがちだけど、サンクロバの歴史の中で、異常気象が起こりこの二つの植物の開花時期が重なった、という記録はあるのに、こんな大惨事が起きたという記録はない。そして他の星にまで伝播した理由は? 同時期に生態系の違う複数の惑星で同様の現象が起きた原因は何? そこに何か作為があると考えるが普通よ」 沙理菜の告白は保持には重すぎた。重すぎて抱えきれず、思考が違う方向のベクトルを持ってしまったのは、保持の困惑の表れだったのかもしれない。「……だったら……なんで最初に死んだのが男なんだろう? どうせならいっそ女性もなら……ゴメン……変な事言っちゃった……」「……そうね。一千億殺すのも二千億殺すのも大差ないわ。大量虐殺という結果が残るのなら些細な差よ」「そんな……」「男性が狙われた理由と女性がそこから外された理由だけど、サンクロバが対外的に力を誇っていた理由は軍事大国であるからなのだけど、その最大の理由は、守護獣を召還できることに由来するわ。保持君も見たでしょ私のアイリーンを」「あ、あのユニコーン?」「そう。それを真似たのがアルバールの守護システムってワケね。私達はこの召還を占有する事で力を保っていられたの。そして直系の王族男子にのみが契約できる龍の存在が大きいわ。アルバールに亡命した王家を加え、古来より伝わる王家五家、それぞれを守護する青赤黒白黄の龍は敵の大隊を一瞬で殲滅するほどの力があったらしいわ。そしてサンクロバ王国の開祖、サンクロバ初代王だけは神龍と呼ばれる、真珠のように光り輝く龍と契約した……と伝えられているわ」「……だから男だけ? でもそれじゃ女性を死なせない理由はないじゃない」「……そんな強力な戦力、欲しくない?」「僕は、別に要らないけど……」「棚加君が、じゃなくて一般的に。見逃すには惜しいのは確かよ。一匹で艦隊級の戦力……喉から手が出るほど欲しい国は沢山あるでしょうね。でも何故か契約には厳重な規制があるの。サンクロバの王家の直系男子のみ、というね……」「……」 保持も気付いた。(――だったら、王家の女性に男の子を生ませれば良い……いやでも、サンクロバの女の人は男の子を……) 保持が行き着いた疑問、当然ではあるが、沙理菜もそこに気付いていたようだ。「……推論の域を出ないけど、もしその効果を無効化出来る血清があるとしたら? 菌を作った張本人なら、それを持っていてもおかしくはないわ。病原菌本体を開発したのなら、同時に血清を作るのが常識だもの」 でもそれは被害者の一方的な思い込みという事も考えられる。推理小説でも定番だが、あまりに都合のいい証拠ばかりが揃うと、目先の誤った推理をしてしまう。そしてそれが真相を覆う遮光カーテンになってしまう。 だが当事者となれば、何かにすがらないと、生きてゆけないのかもしれない。それがアルバールへの憎悪、生きる事を拒否された沙理菜たちサンクロバの女性には、その感情だけが、生きる糧なのだ。「……この二十年、王家の血を引いていたり、王家の精子で生まれた女性が何人も行方不明になっているわ。もちろんそれがアルバールの犯行だとは断言できないけど……」(――だから、さっきあいつらは州上さんを――)「私達が屈すれば、世界のバランスが崩れてしまう。おかしな事だけど、サンクロバとアルバールという大国がお互いに対立しているからこそ、お互いの正義が護られていたのよ。でもサンクロバが倒れれば、アルバールに対抗できる勢力はなくなる。そうなれば、アルバールの暴走を止める力もなくなる……サレベルンのような蛮行が再び繰り返されてしまうわ。虐殺行為が平和を維持する為の英雄行為になってしまう。私達はあの虐殺をそうさせない為に、アルバールに負けてはいけないの。私達が負ければあの虐殺が歴史から消えてしまう……」「……そんな……虐殺は虐殺じゃ……」「……地球では第二次大戦でアメリカ軍はハーグ空戦規約を違反し、東京を空爆し約十万人、その後の空爆で五十万人以上の人間を無差別に殺したわ。そして最終的には広島と長崎に原爆を投下した」「でも、それは戦争を早く終わらせる為に……」「そうね。そうよ。結果的にもその行為によって戦争が早期終結した、という見方も出来るわね。当時日本は義勇兵役法を公布して、国民義勇戦闘隊統率令が制定されていたの。それによって本土の国民のほとんどが義勇戦闘隊員として軍の統率下に組み入れられていた。広島長崎については義勇兵役法を適用すれば、当時そこに住んでいた国民は全て兵士扱いとすれば、原爆で都市ごと焼き払っても、民間人を殺した事にはならないかもしれないわね。でも、東京の大空襲があったのが三月、義勇兵役法が出来たのが六月。でも少なくとも三月からの空爆という行為は、ハーグ空戦規約を無視し民間人を虐殺した行為よ。戦争を早く終わらせる為なら、何をしてもいいの? それなら敵国の国民を皆殺しにすればすぐに終わるわ。国土を焼き尽くし、国民を惨殺し、折角生き残った人にまで多大な後遺症を残して、それもなお誇らしげに言うの? この戦争を早期終結させるには必要な行為だった、と? それでもそれが――」 沙理菜は自分の激情に気付き言葉を呑んだ。「ゴメン……感情的になりすぎたわ。私達サンクロバの人間は、どうしても日本に感情移入してしまうの……昔から関係が深いこともあるし、境遇も似ている部分が多いし……勝てば官軍って言う言葉が日本にはあるじゃない。そういうことなのよ。戦争に勝てば、勝ちさえすれば、戦争で犯した罪も正当化されるわ。今のアメリカがあるのは、アメリカが正しかったかじゃない、アメリカが第二次世界大戦という戦争に勝ち、あらゆる行為を正当化し、他国に有無を言わせないだけの軍事力を確立したから、ただそれに尽きるわ。ベトナムで森を焼き払い、毒薬を空中散布し、享楽の為に人を殺し、犯し、蹂躙し、それでもなお「ひどい戦争だった」と被害者面をしていられるのも、どの国も表立って真っ向から非難できないからじゃない? 軍事も経済もすべてアメリカが握っているもの。そして彼らの背後にアルバールがいる可能性が高い以上、思考回路は同じ可能性が高い」「……つまり、州上さんはアルバールの行った行為を許せないから、それを正当化されないために、勝たなければならない、と……」「違うわ。勝ってしまっては、逆にサンクロバの行為が正当化されてしまうわ。サンクロバにはサンクロバの強欲がある……サンクロバの王族会議でも、アルバール本星などへの無差別攻撃が幾度も議題に上っているわ。隠密性に優れたメビルスは本来そのために建造された戦艦だもの。お祖母様やお母様が必死に食い止めているけど……いつまでせき止めていられるか……」 沙理菜は辛そうに顔を手で覆うと、深いと息を吐いた。「私も……もう、どうすればいいのか分からない。でも、負けるわけにはかない……少なくとも、このままではサンクロバの敗戦は濃厚だけれどね……」 どうする事も出来ない、力や技術ばかりじゃない。自分の行き先が見えない不安は、誰よりも保持が良く分かっている。この世の栄華を全て手に入れているような沙理菜でも、自分と同じ悩みを持っている。このことを少し嬉しく感じ、保持は自分の小さな器量に呆れてしまう。そして思うのだった。(もっと、大きな人間にならなくてはいけない……) 父羅岩に耳がタコになるまで言われた人生訓。保持は今ほどそれを心に強く誓った事はなかった。
2009年08月22日
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4 前 外で誰かの悲鳴が上がった。それを皮切りに時折戦闘が行われているのであろう物音がはじまった。しかしそれは銃声などではなく破壊された何かが崩れる音や、悲鳴などといったものが聞こえてきたのだ。そしてそれが徐々に近付いてきている。 どれぐらいの時間が流れたか……保持は神経をすり減らし今にも切れそうなほどに消耗していた。 まだ銃声が聞こえればよかったのだ。そうすればここが戦場である事を実感できただろう。叫び散して恐怖を紛らわせる事が出来たかもしれない。しかしここが戦場である実感が薄いままだというのに、意識は戦場である事理解している。そのアンバランスな状態が保持をより追い詰め、沈黙の恐怖が保持の精神を蝕んでいく。「メビルスは何か――いえ、誰かを送り込んできたみたいだけど……それも一歩間違えれば条約違反じゃない……お互いに無茶するわ」 この沈黙に耐えられなかったのは沙理菜も同じか、それとも保持を気遣っての事か、彼女の言葉がささくれ立った保持の心に、一時の恵みを降らせた。「もしかして僕を……」「もちろんじゃない。棚加君を助けに来たのよ」「でも州上さんは王女様でしょ? 州上さんを助けにきたんじゃ……」「わたしは王族である前に、軍人よ。軍人としての覚悟は出来ているわ」「そんな……」 だが恵みに思えた沙理菜の言葉が、ただでさえ追い詰められていた精神状態の保持を、断崖絶壁の縁に押しやった。「なんでそんな事を言うんだよ! 州上さんだって、ううん、州上さんこそ助けられるべきだよ! 僕なんかの為にこんな事おかしいよ! だったら僕がアルバールに行けば全部丸く収まるんでしょう? だったら――」「棚加君! もしそうなったら、私は貴方を助けに行くわよ。例え貴方が望まなくても、私は行くわ」「どうして? 僕なんかの為に……」「棚加君、私は貴方がどんな役割を持っているのか知らない。知りたいとは思うけど、それを知らなくてもいいと思っているわ。私が――いえ、私達が棚加君を護ろうと思うのは、違う次元の事だから」「なんで僕なんかの為に!」「自分を“なんか”なんて言わないで! 棚加君はすばらしい人よ!」「僕なんかは“なんか”で十分なんだ! 馬鹿だし、間抜けだし、運動音痴だし、背も低いし、顔も悪いし、空気も読めないし……生きている意味だってきっと無いんだ!」 沙理菜の手が保持の顔をつかんだ。 突然の事に保持の身体が強張る。 そして沙理菜の顔が保持の顔一杯にせまり、何か柔らかいものが保持の唇を塞いだ。「棚加君が生きていていけない意味なんてこの世には無い。ううん、私が棚加君に生きていて欲しい。そばにいて欲しい。それじゃ……ダメ?」「……あ……ダ、ダメ……じゃないけど……」「――良かった」 柔らかく微笑む沙理菜に保持は見とれていた。「そ、それとね、わ、私の始めての……あげたんだから、自信を持ちなさいよ!」「――!」 沙理菜の告白に保持は自分が赤面していくのを感じた。 その時、艦が激しく揺れ、警報が鳴り響いた。 ◆ アルバールのシステムに最高レベルの権限で介入できるワルキューレ三番機オルトリンデで転送システムに介入し、輸送艦の艦内に強制転移した九十九だったが、すばやい対応の迎撃を受け、メビルスの残骸に足止めされていた。「全く……鼻息荒く特攻してみれば、この有様とは……情けない」 艦全体に守護システムを無効化するシールドが張られているのだろう。オルトリンデの実体化が出来ない。むろんそれはアルバール兵にも言えた事で、彼らも総機鋼甲冑をまとわず生身で応戦している。 こうなってくると、近接戦闘が主体の刀を得意とする九十九には打つ手が無い。この人数で包囲されればさすがの九十九も抵抗しきれないからだ。「この体たらく……」 九十九は自嘲しながら、背後に回りこんできた特務兵を両断し、潜伏場所を変えるべく移動を始める。 しかし殺した兵が落とした銃が床にぶつかり誤動作を起し、無数の銃弾が周囲に巻き散らかされ、壁や天井を切り裂いた。――そして大きな振動と爆発が九十九を襲った。 ◆「今の揺れは……ちょっと! ここを出しなさいよ!」 沙理菜がドアを叩くが、外はそれどころじゃないようだ。人々が混乱する声が聞こえる。 警報が鳴り止まないという事は、さっきの振動が関わる異常がまだ続いているということだ。そして二度目の振動。照明が消え薄暗い非常照明に切り替わった。「艦がヤバイのかも……」「え?」「出しなさい! ちょっと! 誰かッ!」「誰かここを開けてください!」 非常事態をやっと理解し、保持もなりふり構わず叫んだ。 ドアを叩き、大声を上げ、どうにか自分達の存在を外に伝えようとする。しかし誰も足を止めるものはいない。やがて外の混乱も引いてゆく。それは外に誰もいなくなった事を意味していた。「どうしよう……」「諦めたらダメよ」 沙理菜がそう励ましてくれるが、その声に覇気を感じないのは、諦めるしかないような状態にある裏返しなのかもしれない。だが不意にドアが開いた。まだ年端も行かぬ、保持達と同年代の少年兵が銃を構えながら入ってきたのだ。「もうだめだ……俺はここで死ぬんだ」 少年兵の尋常ならざる様子に虚を突かれ、タックルを仕掛けてきた少年兵に沙理菜はあっさり組み敷かれた。「ちょ、ちょっと! どきなさい!」「死ぬんなら、最後に……最後に……誰も文句は言わない……」「私が言うわよ! どきなさいって!」「ち、ちょっと!」 保持もさすがにこの兵を引き剥がそうと手を伸ばした。「邪魔するな!」 保持は腹部に焼けるような痛みを自覚する。それを皮切りに全身に激痛が伝播する。 撃たれたのだと気付いた時には、後方に吹き飛ばされ、床に身体をぶつけていた。「棚加君ッ!」「しゃべるな!」 少年兵が沙理菜をなぐる。「パパとママをいじめるな!」 コモエが勇敢に少年兵に向かっていくが、少年兵は躊躇なくコモエにも発砲した。幸いそれは反れたようで、コモエにはあたらなかったようだ。「ッ! コモエちゃん! どこかに隠れて! 目と耳を塞いでじっとしていなさい! 絶対に見ちゃダメ!」「う……うん!」「今すぐこんな事をやめなさい! この恥知らず! アルバールの兵士は素手の子供すら怖いの? この臆病者!」「俺に指図するな! この魔女が!」 必死に暴れて自由を得ようする沙理菜を無理に押し付けようと、少年兵は幾度も沙理菜を殴った。「黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ!」「す、州上さん……」 保持は必死に助けようとするが、身体が動かない。太股に大きな穴がいているばかりか、逆方向を向いていて今にも千切れそうになっている。斜め前方に千切れた腕が見える。身体を動かそうとする度に、想像を絶する激痛が全身に走る。それでも保持は沙理菜に近付き、彼女を護ろうとした。(守るんだ! 州上さんを! 守るんだ! 守るんだ!) 身体が動かない。前に進みたいのに、進みきれない。頭がキリキリ軋む。全身が焼けるように痛い。「ヤメロッ! ヤメロッ!」 やがて沙理菜の身体が動かなくなる。少年兵は自分の行いに気付いたのか、沙理菜を殴るのをやめた。「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」 だが、ついに錯乱した少年兵は、沙理菜に銃を構えると、その気近距離から撃った。「やめ……ろ……ヤメロッ!」 保持の声は届かない。少年兵は何かに取り付かれたかのように、沙理菜に向けて銃を撃ち続けた。 紅い水溜りに降り注ぐ豪雨……血飛沫が舞い、肉片が飛び散る。「ヤメロ! ヤメロ! ヤメロォォォォォッッ!」「――ハァ、ハァ、ハァ……俺は……悪くない……この女が抵抗するから……この女が抵抗するからだ! 俺は悪くないッ!」「悪いのはテメェだ。クズが」 ドアの向こうから聞き覚えのある声がする。「つく……も……州上さんが……」「保持……州上も……」 保持は九十九がいつもの彼ではない事を本能的な直感で気付いていた。「クズが――」 九十九が手にしていた刀を揺らした時には、少年兵の身体は吹き飛び、壁にぶつかって四散した。
2009年08月22日
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4 後 保持は九十九に応急処置を施してもらい、彼の手を借りて沙理菜に擦り寄ると、彼女を抱き起こそうとした。「保持……」九十九が保持の肩に手を置き、首を振って止めた。「州上さん……州上さんっ!」 紅い雫が零れ落ちていく。保持自身も重症であるが、沙理菜ほど致命的ではない。沙理菜は奇跡的に致死状態ではなったが、原型をとどめない程にまでつぶされた顔や応急処置すら意味を成さないほどの胸部に広がった傷を見る限り、何もかもが手遅れである事は間違いない。「……守護獣が、護っていてくれたのかもな。そうじゃなきゃ……」 沙理菜はかろうじて息はある、という状態だった。それえも彼女が晒されていた暴力は想像を絶するものだったのだ。息がある事が奇跡である。沙理菜は目を薄く開けると、保持の頬に手を伸ばした。 保持はその震える手を握り締めた。「わた……なか……の……とす……き……よ……」「州上さん、しゃべらないで! 今助けるから!」「ご……めん……」「なんで謝るんだよ……州上さん! 州上さん!」 やがて沙理菜の身体から力が抜けた。「……ママ……?」 死というものを理解できていないのか、コモエは沙理菜の頬をペチペチとなでる。「州上さんは……州上さんはね……」「なんでママ……ママ! ママ、ママ、ママーッ!」 悲しみが込みあがる。心がねじれてしまうような痛みを覚える。(なんで、なんで……) 保持は自分の心に明確で確固たる強い感情が芽生えたことを理解していた。「九十九……憎い……僕は憎いよ……」「保持……ゴメン……俺が……」「違うんだ。確かに州上さんをこんな目に合わせたあいつが、あいつが所属するアルバール軍が憎い。でもそれ以上に僕は州上さんを護れなかった僕自身が憎い! なんで僕はッ! 僕はッ!」「……」 保持は床を何度も殴り、行き場のない怒りを自身に刻み付ける。「なんで僕は……こんな大切な時に無力なんだ……教えてくれ……この心に空いたこの隙間を生める方法を……僕は……僕はどうすればいいんだ……」「……俺にも……すまん……わからない。だが、俺は決めたよ。アルバールを潰す。この代償はアルバールのクズどもの血で抗わせる」「……」「アルバールに血の雨が降り海が紅く染まろうとも、世界の理を変えてみせる」 九十九は強く宣言してから、顔を伏せ保持に背中を向けた。「脱出経路を確認してくる。すぐに戻るから、ここにいてくれ」 九十九が出ていってからも、保持は悲しみに暮れていた。「州上さん……」 力だ…… もし保持に力があれば、沙理菜は死なずに済んだかもしれない。 もし保持が力を知っていれば、沙理菜を助ける事が出来たかもしれない。 保持に足りないのは何らかの力と、その使い方の知識だ。 今まで保持は全てから逃げてきた。自分をこんなものと決めつけ、それ以上を望まなかった。 何よりそれが一番楽だったからだ。誰に何を言われても、思われても、どうせ自分は――と唱えれば、しょうがないで納得できた。傷付くのは自分。その自分さえ守れればよかった。いや、傷付く事にさえ気付かずにいればよかったのだ。 だがそれが沙理菜を死に至らしめた。自分が何を出来るのかを知っていれば、違う選択が出来た。 沙理菜が懸命に脱出しようとしている時に、勝手に諦めていないで協力していれば…… あの少年兵が突進してきた時に、躊躇せずに沙理菜をかばう事が出来れば…… 今でも保持には、具体的に自分に何が足りないかわからない。 だからこそ願わずにはいられない。 力を…… それを行使する方法を…… 不意に保持は背中に気配を感じた。九十九だろうと振り返ると、見知らぬ人物が仁王立ちしていた。「誰だよ。勝手に俺を呼ぶのはよ~」 場違いな声の主は紅の髪の毛を短く刈り上げ、一見美少年のようではあるが、自己主張にも程があるその胸が、彼女が女性である事を証明していた。「ベニオママッ! ママが! ママが!」「んな……小萌? なんで……勝手に出たのか? あれだけ勝手に出たらダメだって……」「……ごめんなさい。でもねコモエ、パパとだから、いいとおもったの」「パパ?」ベニオの視線が保持を捕らえる。そして何か得心したように頷いた。「あなたが、棚加保持殿……あの方の息子……それより……この惨状は……」「ママが……」 コモエの視線を追ったベニオが沙理菜の姿を捉えた。そして表情を曇らせる。「その娘は……ネリュート姐の……サリナ……なんて事だ……そうか。そういう事なのか……」 ベニオの反応を見て、保持は改めて沙理菜が死んでしまった事を思い知らされてしまった。 保持に出来る事は、ただ沙理菜の死を悲しむ事しかできないのだと気付いた。 もう手遅れなのだ。 力を得ようとも、その方法を知ろうとも、そこに助けたい、守りたい沙理菜はいない。 もう何もやりたくない。何も出来ない。保持の世界の光は消え、闇に覆われる。生きる事にすら意味を見出せない。「棚加保持殿! しっかりしろ! 気を確かに持て! 貴方がそんな調子でどうするんだ!」 ベニオの言葉はもう保持には届かない。(もうどうでもいい
2009年08月22日
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5「アルバールの増援艦隊の反応! 数五十!」「このままじゃ、ただの的ね」 この状況での増援は死亡宣告であった。 突入部隊による被害と条約違反の強制転送で、メビルスは艦体に深刻な傷を負っているので隠密行動は出来ない。砲撃訓練の愚鈍な仮想敵艦のほうがまだ機動性があるはずだ。「戦うしかないわね。攻撃できる?」「従来の半分ぐらいしか出力が出ません」「無いよりはまし、って感じね。仕方ないわね。砲撃状態を狙撃に設定。威力を捨てて一撃必中で各個撃破。それしかないわね」「了解です。司令」(風香にもあの人にも立場があるから頼めないしね……)「? 何か追加がございますが」「ううん、何でも……いえ輸送艦には当てちゃダメよ!」(九十九君……沙理菜と保持君を護って……未来のサンクロバの……いえ宇宙の為にも……) 軍人と言う職業を選び、戦場に出た瞬間から、死ぬ覚悟は出来ている。そして今から死地に向かう決意も固めた。(最後にあの人をもう一度抱きしめたかった――)ネリュートはそんな小娘のような願いを頭から拭い去ると、最後の司令を下した。「攻撃用意!」「司令、それは私の仕事……!」 最後の戦いが始まるー―そう決心して見つめた先には――『!』 ネリュートばかりでなく、その場にいた全員が、そこに信じられない存在を視認していた…… ◆ ベニオは息絶えた沙理菜の頬をそっと撫で、何かを呟いた。「まだ……ない」「え?」「まだ間に合うかもしれない。保持殿、もしサリナを生き返らせることが出来る方法があるなら、どうしたい?」「え? それって……」「今は時間がない。詳しくは説明していられないが、その方法があるとしたらサリナを生き返らせたいか?」 こくりと肯く。そんな方法があるのなら、保持はどんな犠牲を払ってでも実行するだろう。 彼女が何者かなど関係ない。救いはそこにしかないのだ。それが何であろうと、保持はそれにすがるしかない。「しかしこの方法は多大な犠牲を必要とする。それでも良いというのなら、俺はサリナの命の炎を再びこの身体に灯そう」「出来るのですか? 本当に!」「あぁ。しかし人の命はそう安い代価では買えぬ。命の対価は命――つまり保持殿の命と引き換えということだ」 しかしその代価は、保持にも予測できていた。「いや、全部とは言わぬ。そうだな、残せて最長一年。保持殿の寿命はあと一年弱ということになろう。そして生き返った瞬間、サリナにも障害が出る可能性があるだろう」「それは……」「あぁ、脳に――記憶障害が残る程度だ。人の身体は脆く、特に脳は繊細だ。死してなお失った記憶の連鎖をつなぐ事は出来ぬ。だがこの場合はサリナにとってはそのほうがいいのかも知れぬな。そして保持殿は、いつ訪れるか知れぬ死の恐怖に怯えながら、保持殿を忘れたサリナと向き合わなくてはならぬ地獄の日々をくることになる。それでもいいか?」 保持は再び頷いた。迷うはずがない。自分の命でサリナが助かり、記憶を失うことで保持が死ぬ原因を知られずに済むのなら、むしろ願ってもないことだ。「お願いします。僕の命でいいのなら、州上さんの為に……」「……まったく……貴方はあのお方にそっくりだよ……」 ベニオが感慨深そうに呟いた。その目は保持を通したどこか遠くに向かっていた。「しかしコレも運命――か」「え?」「いや、なんでもない。じゃ、覚悟が出来ているうちに済ませちまおう。早いに越した事はないからな――」 ベニオが保持の額と沙理菜の額を両手で繋いだ。そして「行くぞ」という確認の声と伴に術を施行した。 全身から力が抜ける。力が入らないのではない。最初から力などなかったかのように、ちからのいれかたすら判らなくなる。 倒れこみそうになる保持の額を鷲掴みにして、ベニオは保持から命を吸い続けた。 そして彼女が手を離し、保持はそのまま床に倒れこんでしまった。「しばらくすれば、サリナも目を覚ますだろう。あと、俺とこの事は内密に……サリナは何故か奇跡的に助かった。それが王家に秘められた力――そういう事にしておいたほうがいい。では、いずれまたどこかで……残り少ない貴殿の人生が、最大の喜びで満たされますよう……」 ベニオの声が遠のいてゆく。「最後に――我等が私怨――かなえ――う――し――が、――に――され――ば――の――も――う……」
2009年08月22日
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6「ア、アルバール艦隊中央部に何かが出現――こ、この信号は――紅緒!」「な……紅緒は先代アルト殿下と伴に……まさか、ご存命なの?」 契約は一対一。契約者が死ねば、新たな契約者が現れるまで、彼女が姿を現すことは無い。そして紅緒と契約できるのはライングラス王家の直系男子のみ――「――司令ですか?」「え? なんで?」「司令は女性には召還不能の龍を呼び出すことが出来たはずですよね」「……確かに私は彼女達の協力を取り付けたわ。でも、私が召還、いえ、友達として来てくれるようにお願いできるのは風香だけ。それもお互いの立場上、内々という制約付きでね」「ですが……あの紅龍はまちがいなく紅緒……」「この状況で紅緒が来てくれたことは助かるけど、下手をすれば状況の悪化、アルバールによる強行探索を誘発する可能性が高いわ」「惑星サレベルンの再来……」「えぇ。それにアルバールとの内通者の介入による、艦隊の解散ということもありえるわ」「それは……確かに避けたいですね」「黄蘭というのなら分からないでもないのよ……でも紅緒がいる理由が私にも分からないのよ。私以外に呼び出せるとすれば……沙理菜……いえ、あの子にも紅緒との接点がない。とすれば……」「棚加さん、ですか」「そうか、黄蘭……そういう事なのね兄様……」 可笑しそうに笑い出すネリュートに艦橋全員の視線が向けられる。「総員攻撃用意! 雑魚は紅緒に押し付けて、穴熊の息の根は私達の手で! ライングラス王家を守護し紅龍になどに手柄を横取りされるんじゃないわよ!」 メビルスの決死の総攻撃が始まる。しかしすぐに新たな事態が発生した。「し、司令! 敵艦から強制転移! この反応は棚加さんと沙理菜軍曹……それともう一人、未承認の――この反応の状況からいって、五歳前後の女の子です!」「まさか二人の隠し子とか……」「隠し子がいたのは司令では……」「な~にか言ったかな?」「いえ……それより……二人とも健康状態に異常が認められます! かなり危険な状態です!」「それを早く言いなさい! 衛生兵の準備を! 今すぐ医務室に! それと九十九軍曹は? 事情を聞きたいわ」「あ! ありません! こちらへの転送直後、再度敵艦に転送した様です。あ! お、女の子の反応も在りません! 突如消えました!」「……という事は……九十九君はけじめをつけに行った、って所かしら……じゃ、その女の子は? どこに転送したかわかる?」「い、いえ、転送の反応はありません。消えた……としか……」「いないのなら、その子の詮索は後回しにしましょう! 今はそれどころじゃないわよ! 衛生兵を二人の回収に向かわせて! そして私達は敵の旗艦を沈めることだけ考えましょう」「しかし敵艦には九十九軍曹が……」「あの子はこれぐらいで死ぬようなタマじゃないわ。それに出力不足のこの艦の砲撃に巻き込まれて死ぬのなら、あの子もその程度って事よ」「了解しました。全砲門狙撃状態で開口! 照準敵旗艦ゴーランド!」「了解!」 そして「サンクロバの一矢」と呼ばれる、歴史に名を残すその後のサンクロバによる反撃の楔となる戦いが始まった。 ◆ あまりにも突然に始まった紅龍の襲撃により、増援艦隊を生贄にして旗艦ゴーランドを中心とする一隊を後退させたものの、ビリーは状況をまだ把握できずにいた。「な、何事だ? 何が起きたんだ!」「龍――サンクロバの龍です!」「そんなことは分かっている! なぜあれがここにいる? 馬鹿な! あれを召還できる者は全員始末したはずだ! 確認を急げ! ノストラダムスの言葉は?」「回答を拒み撤退を進言しています。イレギュラーが発生し、過去の予測が全て無意味になった、とのことです。そしてこの予測の中心にある重要因子が不安定要素を多大に含む為、予測は一切不能との事です。今出来る最低限の予測は、不安定な重要因子の影響を受けない宙域への全力後退だけのようです」「そんなモノは予測でもなんでもない! クソッ! さっきまでは全軍進軍をほざきながら……役に立たん機械だ! 最初から、胡散臭いと思っていたのだ! それより我艦隊を襲うあれは本当に――」「いまさら確認しなくても、結果はもう見えているでしょう? あと一つ訂正させてください。一応ウチの主人も召還できるの知っています? 風の白龍を――」「……面汚しの小倅か。どうやってここに?」「おやおや偉大なる穴熊提督が、私のような若輩を後存知とは光栄ですね。しかし、別に貴方の顔にドロを塗って記憶はありませんし、面汚しも何も、父は全て承知の上ですよ。貴方が先月サレベルンで虐殺を行った事と同じですよ。そしてどうやって、との事ですが、それは最重要軍事機密です。貴方ごときが知る権限はありません」「忠義の果て、とでもいいたいのか? ふざけるな! 貴様の薄っぺらい信念と我忠誠心を一緒にするな!」「一緒にされてはこちらが迷惑ですよ。我ベルソードはゲルド王家にのみ忠誠を誓う。主がそれを望むなら、ベルソードは喜んで汚名をかぶりますし、命すら差し出します。見方艦の乗員を皆殺しにするなど、造作も無い命令ですよ」「捕らえろ!」「そして主が貴方を許さないと申しているのです。貴方が蛮行を働いたサレベルンはかつて主の血筋が収めし領土。遠き過去の事とはいえ、主はひどく心を痛めています。そして貴方は主の心を更に傷つける一言、そして結果を導き出したのですよ」 九十九の背後にまで完全武装した兵士が回りこんだ。「艦隊の皆さんには申し訳ありませんが、この艦隊に配属されてしまった事を恨んでください。先程勅命が下りました。貴様ら全員を嬲り殺せ、とね。今頃別働隊があなた方の家族の所にも向かっている頃ですよ」 次の瞬間には九十九の姿は消えていた。 そして兵士の一人が吹き飛び身体が四散する。 九十九は包囲を一蹴で抜けると、その一角の兵を切り殺したのだ。ただ衝撃が強すぎ身体が爆発したように霧散してしまう。ただそれだけの事だ。 銃撃を集中する頃にはその場に九十九の影すらなく、彼の姿は別の兵士の懐にあり、また一人兵士の姿が消える。 兵法の基本、各個撃破、それを確実駆る迅速に繰り返し、九十九は敵の戦力を殺いでいく。「なんで総機鋼甲冑兵をこうも簡単に――」 焦れば焦るほど射撃は散漫となり、同僚が減っていく恐怖感で、無駄弾が多くなり弾切れという最悪の事態を招く。そうなれば後は九十九に殺されるだけである。 機鋼兵を全員始末し終えると、九十九はビリーに向き直った。 彼をガードする兵士達が一斉に射撃を始める。しかしそれを九十九は左右に身体を振って避ける。「何故だ! 何故当たらん! この下手糞どもめが!」 ビリーの真横で血飛沫を残し兵士が消失した。風と同じ速度で間合いを詰めた九十九が右側にいた兵士を頭から真っ二つに両断し、すぐさま反対側の兵士の首を刎ね落とたのだ。 最後にビリーを残すのみ――という状況で、九十九は引いた。「最後の選択件を貴方にお譲りしましょう」 九十九はそう言い残し、メビルスに自身を転送させた。 ◆「おい! 誰か! サムランド! グルドファーン! 誰かいないのか!」 廊下に出て目にしたのは、血に彩られた艦内だった。むせ返るような血の臭い。それがここであった殺戮の内容を示していた。 ビリーは回線を開き、生存者を確認する。しかし数値は一……既に彼しか生きているものはいない、ということだ。「ば、化け物……」艦橋の人間に気付かれる暇も与えず、それ以外を皆殺しにしていたと考えるしかない。それは絶望的な脅威だった。 ビリーはすぐに決断した。このまま艦内に残るっていても意味がない。一人で戦艦を動かす事は難しい。となれば早く逃げ出さなければ危険だ。 ビリーは司令特権の短距離転送で救命艇に乗り込むと、すぐさま艦を離れた。 早くこの宙域を抜け出しアルバールの制宙圏に逃げこみ本国に帰還しなければならない。 背後でゴーランドが爆発した。どうやら敵の砲撃を受けての轟沈のようだ。「――まったく、使えん奴ら……」 ビリーの目の前に巨大な光がよぎる。 光り輝く紅玉の光―― それが紅緒の攻撃なのだと気付く暇もなく、ビリーの意識と身体は消し飛んだ。 当然ビリーが気付くはずもない。実は九十九の情報操作により、ビリーが逃げ出した段階では、ゴーランドの乗組員はまだ大勢生き残っていたのだ。どんなに九十九が化け物じみていても、短時間に全員を殺す事は難しい。その結果ビリーは艦隊を見捨て一人で逃亡した臆病者、という烙印を押され、生前に築いた全ての地位を失うことになるのだった。
2009年08月22日
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終章 新たな始まり 沙理菜と保持の治療と艦の修理の為に保持達は一度月まで引き返した。そして沙理菜と保持は医療機関で高度再生治療を受ける事になった。 沙理菜は命そのものは何事も無く戻ったものの、自然治癒能力が著しく低下しており、保持よりも長い入院時間を必要とした。 何より女の子の身体と顔に無残な傷跡を残すわけにはいかないと、繊細な再生治療がなされた事もある。 二週間後、再生治療槽から出され一般病室に移動した沙理菜の意識が戻った。「傷の治療は完璧に終わったみたい。だけど……」 沙理菜を心配して集まった乗組員達に向かって、一通りの状況を説明していたネリュートの表情が曇った。「脳に障害が……残ったらしいの」(記憶が――) 保持はあの時紅緒の行った言葉を思い出していた。 保持の生命を使い沙理菜を助ける。それによって保持の命は残り一年となり、沙理菜も記憶を無くす。それは判っていた事だ。代償のない取引など存在しない。命の代償は命、実に分かりやすい取引だった。沙理菜の記憶喪失はその利子のようなものだが、命と天秤にかければ些細な事だろう。だが保持は最近思うのだ。沙理菜の命を救った事が、独りよがりな事だったのではないか? と、自分のエゴで沙理菜を再び戦禍に巻き込んだ事も確かなのだ。たとえ多大な犠牲を払ったとしても、それは欺瞞であり自己政党でしかないのではないかと……(今度こそ守ってみせる……) どこまで出来るかわからないが、戦争を終わらせ、沙理菜に命の危険が及ばないように尽力する、それこそが保持が許された贖罪なのだ。自分が払った犠牲など、贖罪でも何でもなく、ただの自己満足なのだから…… そしてその代償は「残り一年」という寿命以外にも、保持に明確な形となって現れていた。 全身の筋肉の細胞崩壊…… それが保持が受けた代償のもう一つの形でもあった。 再生治療も受け付けず、保持の身体は身動きできないまでに衰弱していた。どうやら筋肉細胞にのみ反応する、後天性自壊誘発菌の突然変異体に感染してしまったらしい。運良く従来の薬でその進行を抑える事ができ、自動防衛機構としてのアイちゃんの、総機鋼甲冑の技術を応用した機械的な補助を受け、どうにか日常の生活程度には支障がないぐらいには動けるようにはなっていた。しかしそれには通常以上の動力源を必要とするため、フル充電状態でも二分が限度であり、普段の生活では節約の為に全自動車椅子のお世話になる事を余儀なくされ、もっぱら九十九がその介護に当たってくれている。「記憶喪失、ですか?」 ナーシャがそう言ったのは、保持の思考を読んだのではなく、脳に障害となれば、それが一般的な考えだからだ。「いいえ……いえ、ある意味そうかもしれないわね」 ネリュートの答えは曖昧なものだった。「記憶はあるみたい。思考状態も通常らしいわ。……その辺の記憶には異常はないの。ただ、ある特定の記憶だけが……」「特定の記憶?」「……会えば分かるわ……」 ネリュートに促され病室に入る。白を基調とした清潔な部屋の壁には、草原の映像が映し出されていた。そして髪を短く切った沙理菜が映像から視線をそらしこちらを向いた。「皆さん……申し訳ありません。ご心配をおかけしました」 そこには髪を短くした以外は、いつもと変わらぬ沙理菜の姿があった。 みんなと談笑する沙理菜からは、記憶の欠如は感じられない。ちゃんと全員を認識しており、過去の記憶もあるようだ。(紅緒さんの言っていたことは嘘だったのか?) 保持が少し安心していると、沙理菜の視線が自分を向いた事に気付いた。「あ」 沙理菜は小さく声を上げ、改めて姿勢を正すと保持に頭を下げた。「始めまして。以前写真でお顔とお名前をお伺いしました。棚加保持さんですね。私はサリナ・N・シュガーミです。以後お見知りおきを」「……どうも、保持君の記憶だけが……何故か抜けているみたいなの」 ネリュートが保持にそう耳打ちした。(――) 正直言えば気持ちが折れるほどこたえた。今すぐにも心臓が止まってしまうほどの衝撃を受けた。 保持の事だけでなく、全ての事を忘れてしまっていたのなら……保持はここまで ダメージを受けなかっただろう。「よ……よろ、しく……」 どうにか声をひねり出し、保持は顔を伏せた。「あ、あの……何か私、気に触る事でも……」 保持は流れ落ちる涙をぬぐう事も出来ない。(僕は――州上さんが好き……です……) もう二度と口にする事は無いだろう言葉……沙理菜との思い出が保持の心の中だけとなった今、沙理菜が何も覚えていない事が、保持と沙理菜を繋ぐ唯一の絆なのだ…… 後に宇宙最大の王権国家建国の礎を築いたとされる稀代の英雄、棚加保持――その名が歴史に登場するのは……まだ先の事である…… 了
2009年08月22日
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過去(~2008)はこちらにあります。 全く更新していませんでしたが、スローペースで書いてます……一応… Mの部屋 ここの「Mの部屋」バナーでも行けます。 ↓
2009年08月22日
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商品名 東方プロジェクト 霧雨魔理沙 完成品フィギュア 備考 ※画像は試作品を撮影したものです。実際の商品と異なる場合があります。 メーカー T’s system.発売日 09年11月上旬 原作名 東方Project コピーライト (C) 上海アリス幻樂団 製品仕様 PVC完成品フィギュア メーカー希望価格 7350円(税込) 販売価格 6600円 (税込) 10%オフ!
2009年08月22日
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商品名 TFC Cross Days クロスデイズ 桂言葉(かつらことのは) 完成品フィギュア メーカー タキ・コーポレーション 発売日 09年10月未定 作品シリーズ名 TFC 原作名 Cross Days コピーライト (C) STACK 製品仕様 スケール:1/8 詳細 原型制作:株式会社エム・アート(株式会社松田モデル)PCソフト「クロスデイズ」より、桂言葉を立体化!作品中No,1のグラマラスボディを完全再現!もちろんキャストオフ仕様です!わがままボディをご堪能下さい! メーカー希望価格 9429円(税込) 販売価格 6980円 (税込) 25%オフ! タキ・コーポレーションといえばキャストオフ…… 私の中では既にこの関係が固まってきています…… えぇ、するそうです。胸はもちろん……服やパンツの方は定かではありませんが…… パンツの方はしそうな気がします。 しっかし大きいですね……こんなにおおきかったでしたっけ?
2009年08月21日
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