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異能者特務機関:TMI 第31話「ラグナロク3」 ―作戦開始から数分後 「セレスティア博士」 ジェットヘリに向かう途中、アリナはセレスティアを呼び止めた。 「どうしましたアリナさん」 「答えられなくても良いのでわたしの目を見てください」 「わかりました」 「セレスティア博士、あなたは念爆者が倒されることを望んでいる」 「……」 「YESですね」 「念爆者に逆らうことが出来ない」 「……」 「YESですね、今ので大体の事情は分かりました」 「全て終わればお話しますよ」 「はい」 ジェットヘリに乗り込んだメンバーはパイロットのナターシャを除く、 終夜アリナ(身体強化) フローレンス・フランシス(生体コントロール) 哿希世美(テレポート) 早乙女ルキナ(エアロキネシス) マイケル・カルーヤ(アポート【転送】) アナスタシア・ヴァシーリエヴナ(フロストキネシス) 美濃・セレスティア・白夜(プラズマキネシス) の7名。 ジェットヘリでまずは太平洋上に待機している護衛艦を目指す。そこから戦闘スーツを着たアリナ、ルキナ、マイケル3名がハリケーン台風に突入する。 護衛艦でアリナ達の戦闘スーツを通じてセレスティアが敵空母の分析。アナスタシアはジェットヘリの護衛、哿とフローレンスは負傷者の為に待機。 日本支部には敵の攻撃に備えてTMIのエージェント10名を配置、リザーバーとして長官ジェームズ、イグネイシャス、ジョリスが待機。作戦時の通信はカテゴリー5のテレパス苗木來美が行う。 「この距離からでもすごい風ね。合衆国でみたどのハリケーンよりも大きいわ」 ルキナは前方に見える超巨大ハリケーン台風を見て感想を述べた。 「護衛艦はこれ以上近づけない、ここから飛ぶわけね」 「何かあったらすぐに退避してください、無理な突入は禁物ですよ」 ジェットヘリの中のセレスティアが言った。 「大丈夫、こういう場面こそあたしの本領が発揮出来るって訳よ!」 「風よ!」と叫んで飛び上がるルキナ。戦闘スーツの飛行機はオフのままエアロキネシスで空中に留まる。 「あのハリケーン台風の風、消してやるわ!」 「駄目です早乙女ルキナ!作戦と違います!」 アリナが叫ぶ。 「上空から侵入ってその方が危ないわ。なるべく離れたところから風操作であのハリケーン台風を消すのがベストよ!」 「どうして!」 「現場に来て風を読んでそう感じたのよ、上は嫌な感じがするの!」 ハリケーン台風に向かって飛ぶルキナ、近づくにつれて天気は荒れ暴風雨と雷が襲い掛かる。ルキナには風も雨も触れることは無い。強風に何ら影響されずに接近していく。 「天気は荒れてるけどこのくらい平気よ……やっぱり予感は的中、ハリケーン台風の上からいっぱい何かが向かって来る!」 黒い円盤型のドローンが大量に上空から降下してくる。ドローンの機体の縁から刃が飛び出し回転鋸となりルキナに襲い掛かって来た。 「これは攻撃型ドローンね。恐らくハリケーン台風上部、いえ下部にも他の迎撃用の武器があると思う。対空砲対地砲とかね」 『それが分かっただけでも十分です、早乙女ルキナさん一旦退いて下さい』 セレスティアの声が戦闘スーツから聞こえる。 「だめよ、あたしが戻ったらこのドローンが護衛艦まで付いてきちゃうでしょ。ここで迎撃するわ!」 ルキナが手をかざすとドローンは制御を失い一か所に吸い込まれるように集まりお互いをぶつけ合い次々と爆発。数百体のドローンはものの数十秒で全滅となった。 「また何か来るわ!」 ハリケーン台風上部から飛び出したのは翼竜を思わせる翼に人型がとりついた者。全身を黒光りさせた鎧で身を包んでいる。 「フン!」 背中からライフル銃を取り出しルキナに向ける。対するルキナは風の壁と光の透過率を変え透明と化した。そしてその状態のまま敵に接近する。 「ヌヌ!?」 敵の背後を取るルキナ、圧縮空気弾を放つ。命中するも敵にダメージを受けた様子は無く僅かに体勢を崩しただけであった。 「そこか!」 ライフルを撃つ敵の男。弾丸はルキナの風の壁で軌道を変えられ後方へと消えていった。 「念爆者の異能兵士ね!」 「その通り!!お前は早乙女ルキナだな!!俺はボレアース、お前を葬り去る者だ」 「わざわざ名乗ってくれてどうも!」 空気圧縮弾を連続で放つルキナ。両腕でガードするボレアース。翼を羽ばたかせ突風で反撃する。 「そんなもの……」 回避するまでも無いと風の壁で反らせるルキナ。わずかに空気の壁から氷の結晶が現れた事に気が付いた。 「(敵もエアロキネシスだろうけどこれは……)」 トンボ返りの後大きく距離を取るルキナ、気温が急低下を戦闘スーツが告げている。 「お前さえ潰せばTMIはアイスクラーピウスを止める手段を失う!ここで死ねい!!」 翼をはためかせながらライフルを連射するボレアース。ルキナは空気防御壁を張りながら急速旋回で回避。更に周囲の気温が下がっていることを戦闘スーツが告げる。 「(マイナス40度!?)」 「ククク……どうした?驚いているようだが?」 「(フロストキネシスの性質も持っている!?そういえば日本支部を襲った異能兵士も普通の異能じゃなかったって言ってた……)」 「スリャアアッ!!」 大きく翼を羽ばたかせるボレアース、ルキナの周囲の気温は益々下がりマイナス60度ににまで下がる。 「ククククク……」 「周囲の温度が下がったくらいで!」 空気弾を連続発射するルキナ、ボレアースは翼でガード、ライフルで反撃する。 「選ばれし戦士の力思い知るがいい!!」 「(異能兵士は北海道の施設のミュータントの完成形と言われている存在……)」 ボレアースが手を上げる。すると空母アイスクラーピウスの上部から円盤ドローンが追加で大量に出てくる。 「あんなものいくら出したってあたしには通じない!」 「だろうな、だが護衛艦はどうかな?連中だけで守り切れるかなァ?」 「!!」 数百もの円盤ドローンが護衛艦に向かう。ロケットめいて追いかけるルキナ、手をかざしてドローンを吸い寄せて1ヶ所に集めて破壊を試みる。 「隙だらけだ!」 ライフルを撃つボレアース、ルキナは空気防御壁で難なく弾丸を反らし振り向きざまに集めたドローンをボレアースに飛ばす。 「何っ!?」 「随分とナメた真似をしてくれるわね!」 大量のドローンを受け爆発するボレアース。黒煙が巻き起こり視界を遮るもルキナは爆即座に払いボレアースの姿を確認する。そこには黒装甲の大半を破損させ青黒い肉体を覗かせたボレアース。 「BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」 両手両腕を広げ咆哮するボレアース。全身が盛り上がり巨大化、顔は変形し爬虫類めいた姿へと変態する。 「もう止められんぞ!この姿になったのだからな!!」 体を限界まで逸らして大きく息を吸うボレアース溜めを作り一気に吐き出す。螺旋状のアイスストームがルキナに向けて放たれた。 対するルキナはアイスストームを正面で散らせながら上空で圧縮していく。 「マイナス100度のアイスストーム……だからそれがなんなの」 ルキナの目が輝く。 「今のあたしには迷いも無ければ油断も無い、ヴォルテックスバースト!」 上空で圧縮した空気のプラズマ弾を放つルキナ、同時に乱気流を発生させボレアースの動きを止める。 「UGAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」 ボレアースの胴体をプラズマ弾が貫く。ルキナは生死を確認せずにすぐに下から竜巻を発生させアイスクラーピウスに向けて吹き飛ばす。「ハリケーン台風と一緒に消えて!!」 ボレアースを追いかけ暴風吹き荒れる中に飛び込むルキナ。風の流れに逆らわずアイスクラーピウスの周囲を飛ぶ。 「この風は……普通じゃない、こんなの……」 風自体が意志を持っているかのようにルキナの制御を逃れ吹きすさぶ。 「ああもう!まるで暴れ牛ね!!でも……制御してみせる!!」 「GUUUUUGAAAAAAAAAAA」 叫ぶボレアース、ハリケーン台風の風の影響で体は捻じれ全身の骨肉が裂ける。徐々に体は千切れ飛び肉塊と化した。 「防御壁がなければこの風の中を飛ぶのは無理ね……そしてこの風は異能、機械的な物じゃないボレアースよりもずっと強力な異能の持ち主がハリケーン台風を発生させている」 数km離れた護衛艦からルキナの様子を戦闘スーツのモニターで眺めているアリナ、フローレンス、哿、マイケル、アナスタシア、セレスティア。 『早乙女ルキナ、わたしとマイケルはまだ突入できませんか?』 「もうちょっと待ちなさいアリナ。風の分析中よ、自力で飛べないアンタたちはまだ近づかない方がいい。いくら博士のスーツの性能が良くてもね」 ハリケーン台風の中で漂いながら風と格闘するルキナ。アイスクラーピウス下部から巨大な何かが海に投下されるのを見た。 「何あれ……海獣?とにかく変なものが海の中に落ちたわ」 『護衛艦も確認したようです』 護衛艦とアイスクラーピウスの間の海面に水柱が次々と上がる。 『護衛艦が迎撃を始めたようです』 魚雷で応戦する護衛艦。水面に大量の泡が上がって来る、そして海獣が海面から飛び上がるその大きさは20m程、蛇を思わせる頭部、背部は甲羅を思わせる硬質の鱗がびっしりと覆い、ヒレには巨大な棘がいくつも生えている。 「GYAOOOOOOOOOOOOOOOONN!!」 海獣から吐き出される5体の人型。護衛艦に向かって飛んでくる。 「アナスタシア」 「言われるまでもないわ」 セレスティアを呼ぶのとほぼ同時に答えるアナスタシア。一瞬で海面に氷山を出現させ5体の人型の進行を止める。人型は頭部を激しく揺さぶりその後爆発、氷山を砕け散らせた。 「……あれは恐らく念爆者に爆弾としてセットされた使い捨ての異能兵士でしょう」 「そんな……」 「喜んでそう志願したのですよ彼らは。あの海獣はバクテリアで変異させた生物に手を入れたサイバネ海獣。潜水艦に代わる兵器の試作機かと」 セレスティアが6人に向けて言った。 アナスタシアの出現させる氷山に突撃を繰り返し砕いて進む海獣。 「このままじゃ……」 哿はフローレンスとマイケルの腕をつかみテレポートの準備をする。 「大丈夫よ」 海獣に冷凍線を浴びせかけ、下から鋭い氷山を出現させ打ち上げるアナスタシア。海獣の表面は凍結始め、連続で出現する氷山に突かれ高度を上げていく。 「氷の女王の力見せつけてやります」 完全凍結した海獣は頭から真っ逆さまに落下。氷塊と化した海面に叩きつけられ全身を砕け散らせた。 「こっちは平気ですルキナ、ハリケーン台風の解析お願いします」 「流石ねアナスタシア最近カテゴリー5になったばかりと聞いたのに」 「どうという事はありませんわ」 出現させた全ての氷を砕き海に流すアナスタシア。 「手が必要なら言ってくれればよろしくてよ」 「ありがとうでも風のことならあたしに任せておいて」 生物のように暴れまわる風を少しずつ支配下に置いていくルキナ。 「??」 アイスクラーピウスの壁面から黒い人影が染み出すように出てくる。暴風をものともせずにゆっくりと真っすぐにルキナに迫る。 「新手の異能兵士!?」 「……」 人影は徐々に色を帯び灰色のローブ姿の男になる。手には捻じれた木製の杖が見えた。 「!!」 通常よりも強化した空気防御壁を展開するルキナ。 続く
Dec 31, 2019
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異能者特務機関:TMI 第30話「ラグナロク2」 転送を終え戻って来るジェームズ。 「ほぼ転送時の感覚は無かっただろう?テレポーターの他はね」 「あの長官ここは?」 哿が質問する。 「日本支部のフロアーごと大阪城近くの地下施設に移動した。移動前の支部は東京に近かったが今度はここだ。ハリケーン台風空母にもここからなら対処しやすい」 「具体的には?」 「格納庫だよ。この国の特殊犯罪対策組織のね。広さ的にもここなら問題無い。電気、水は今まで通り本部から転送されてくるから心配なく。大戦時の縁でね、作戦中なら貸してくれるそうだ」 「地下……ジェットヘリで連絡してある太平洋上の自衛隊の護衛艦まで向かうのですがここからどうやって行くつもりですか?」 「大阪府警の屋上へリポートを貸してもらう。なので準備が整い次第そこに移動する」 「分かりました」 *** ―翌日 アリナは自室で鏡台の前に座り薄目を開けてじっとしていた。後ろに立つフローレンスはほんの少し椿油をしみこませたつげの櫛でアリナの髪を梳いていた。 「アリナ……敵を討った後の事考えてくれた?」 「ええ、少し」 「聞かせて」 「父と同じ警察官を目指そうかと。もしくは医療の道を」 「どちらもきっとアリナにぴったりとあてはまる。じゃあ私は警察医か看護師になる。やっぱり故郷のフランスに戻るのかしら?」 「……フランスは確かに生まれ故郷ですが、過ごした時間は日本の方が多いので迷っています」 「そう、私はどの国でもアリナと一緒なら構わない。TMIはどうするの?」 「カテゴリー5のわたしは監視下に置かれますが、臨時エージェントとして一般生活を送ることが出来ますからそうしようかと思っています。幻赫を斃した後どのような心境に至るのか想像もできませんし、そのままエージェントを続ける自信もありません」 「今のアリナ、とても穏やか」 「……この前病院で暴走しかけました、あの任務の後思う所がありまして。これまでは敵を追って追い続け怒りを燃やしてきました。でも今は違いますもう敵を追う必要はありません後は斃すだけです。そう考えるとわたしの中で燃えていたものは鉱石のように硬いものへと変化したのです。それから少し気持ち穏やかに過ごせることが増えました」 「ええ、感じる。揺らいでいたアリナの中のものが凝縮されキラキラとし始めている」 「幻赫を斃した後また変化すると思います」 「きっと良い変化よ」 フローレンスはアリナの髪をいつものように後ろで二つにくくる。 「そういえばフランス支部からテレポーターのジョリス・シモンが来るようですね」 「はい」 「ジョリス・シモンはアリナに随分付きまとっていたと聞いていますが」 「フランス支部では同じチームでしたので。それだけです他には何もありません」 アリナは振り返りフローレンスの顔を見つめる。 「フロー、ジョリス・シモンに会うのが嫌なのですか」 「正直に言うとそうですね」 「フローが気に入るタイプではないですね」 髪を整え終わり立ち上がるアリナ、フローレンスと共に会議室に向かう。 そこには既に本部を通じて転送された世界中からTMIのエージェントが集まっていた。 「アリナ!!」 茶髪の男が瞬間移動で飛び出した。 「ひさしぶりですねジョリス・シモン」 「君は相変わらず悲しい目をしているな……こんなにも強く美しいのに!」 「……」 アリナの横にいるフローレンスが一瞬だけジョリスを睨みつけた。 「アリナ、フランスに帰ろう!狂戦士のように戦い傷つき汚れていく君の状態は耐えがたい!フランスで俺と一緒にふさわしいヒーロー活動をしよう!!」 「ジョリス・シモンあなたは……!」 前に出るフローレンスをアリナは止めた。 「ジョリス・シモン、言いたいことはそれだけですか?」 「アリナ、復讐なんてやめるんだ、何も生まない!そんな事したって死んだ人たちは帰ってこない。君が不幸になるのを望んでいるはずがないだろう?」 「以上ですか?」 「まだまだあるさ、Uチームのメンバーは君にふさわしくない!男か女か分からないような奴と、君にべったりの冷血女!健全じゃない!!」 「度し難いですねジョリス・シモン」 「怒ったのか?いいさ怒ればいい、だけど俺の言ってることが正しいって分かるさ!その時君は俺に感謝する、そして幸せを手にする!!」 ジョリス・シモンは両手を広げ大きな声で言い放った。 「アリナ、後ろを向いて」 フローレンスがアリナの肩に手を乗せてささやいた。次の瞬間、フローレンスの平手打ちがジョリス・シモンの頬に命中した。 会議室の集まっていたエージェント達の視線が集まる。 「許さない!これ以上アリナに話しかけないで!!」 「おっと……これはこれは」 ジョリス・シモンがテレポートを行うべく演算をするも目の前にアリナが立ったことに気づき中止する。 「何をするつもりですジョリス・シモン」 「何って?そりゃあ男子の顔を打ったこの無礼な女にお仕置きをね!」 「それなら代わりにわたしにすればいい。それを無視してフローに何かするつもりなら今度はわたしが打つことになりますよ」 「じゃあ君の唇と俺の唇を重ねてもいいかな?お仕置きだよ」 「これ以上わたしを怒らせて良い事など無いと思いますが?」 「ジョリス!ちょっと来てくれないかな?」 後ろの扉の方からイグネイシャスの声がした。後で行くよと返すもすぐに来いと再度イグネイシャスが言うとしぶしぶアリナ達の前から去っていった。 「何なんですかあの男……とても不快です」 「あのジョリス・シモンはわたしを怒らせて自分自身を意識させようとしてるのでしょう。最終的に自分が正しいと証明できる自信があるのです」 「許せない!アリナにあんな言葉を浴びせるなんて」 「大丈夫ですフロー、ジョリス・シモンの言葉は何一つわたしに響いていません。少し苛立ちましたがもう平気です。フローがあの男ことを考える時間はもったいないですよ」 アリナはフローレンスの手を取って言い聞かせる。 「つい手を上げてしまいました……作戦に支障をきたさなければ良いのですが」 「大丈夫ですよフロー、あのような男でも私情とは別に任務は真面目にやります」 「いえその……」 「感謝しますフロー、あの平手打ちわたしがやっていれば加減を間違えてジョリス・シモンの顎を粉砕していた可能性があります、あの場面では口喧嘩を続けるよりも効果的です」 「そんな」 「気持ちの良い一撃でしたよ。貴女は悪くない」 「アリナ……」 手を握り返し額をつけるフローレンス、目を閉じ数秒間そのままの状態でじっとする。 「もう平気ですアリナ、皆さんも見てますし席に着きましょう」 「そうですね」 *** ―空母アイスクラーピウス 「ヘーパイストスが失敗いたしました」 金色の長い髪の女性が頭を下げ幻赫に言った。 「愚か、先走った結果だな。イグネイシャスを孤立させヘーパイストスに始末させるつもりであったが。儂が日本支部を吹っ飛ばしてしまった方が早かったな」 「幻赫さまは抑止力にございます。神に匹敵するそのお力は軽々しく揮うものではありません。どうか我ら『神に選ばれし戦士』にお任せを」 「そうするか。儂は患者を診なくてはならんアイスクラーピウスは世界最高峰の医療施設でもあるからな」 タブレットの電子カルテを開く。そこには各国の政治家や軍関係者、大企業の役員などが記されている。 「新たなる人類史は優れた人間達とアイスクラーピウスから始まる」 ―アイスクラーピウス隔離室 一切の光も無く、音の無い部屋に閉じこめられた電人G。 しかし彼は少しの動揺も無く部屋の中央に微動だにせず銀色の体で座禅を組んでいる 『フォッシーの構築46%』 アリナとの戦闘で脳死状態になったはずの異能ゴリラ、触れた相手の異能を遮断するフォッシーは電人Gの中で電子生命体として再生しようとしていた。 雷帝フョードルを打ち破った力を使えばこの部屋から出ることは可能であったがしなかった。今はただフォッシーの構築に専念している。 電人Gと化し電子の海を漂い膨大な情報を閲覧し、またセキュリティやウィルスと戦い徐々に五所川原振之助としての自分が変わっていくの感じた。人間性は失われただのデータとなっていく恐怖でどうにかなりそうだった。自我を保てたのはセレスティアに対する思いであった。 始めは恋愛感情だった。ごく普通に五所川原振之助は男性としてセレスティアを女性と見ていた。セレスティアと話し、共に研究を続け、彼女の事を知るにつれてその思いは変わり彼女の人生に参加する事が目的となっていった。 神名一族に入りたかった。 自分の限界はもう見えている。 セレスティアを支援したい。 夫婦となり家庭を築きたいわけじゃない。 いつしかセレスティアの為に行動することが快感になり他の事は目に入らなくなっていった。熱狂的な信者ともいえる状態で五所川原振之助にとって人生で一番充実している時間だった。 そして五所川原振之助は電人Gへとなった。 『フォッシーの構築50%(フォッシーはセレスティアを支える同士……我々は幻赫の信者共になど負けん。我々のセレスティアは幻赫よりも上だ)』 表向きはセレスティアと敵対。そうしなければ彼女は自由に動けない。だから離れて行動する。言葉を直接交わさなくても、電波を利用しAdele経由で暗号化したメッセージを送ることはできる。自分は世界中のTMIに追われているモンスター、セレスティアを一方的に信奉している存在でなくてはならない。 『(超高速ステルス潜水艦ポセイドン。脳波コントロール飛翔兵器ナポレオン。攻撃衛星ソール・ハンマー)』 数日前に偶然か必然か、会ったセレスティアが口にした言葉。それを聞いた電人Gは分身をそれぞれの兵器に送り込み既に掌握していた。 『(これは幻赫の信者共が所有している兵器……なるほど)』 幻赫はセレスティアを監視しており、TMIの動きを知るためにスパイとして利用していると電人Gは気が付いた。 『何らかの理由でセレスティアは表立って幻赫に敵対できない。ならばワタシのすべきことは……』 自身の90%をアイスクラーピウスに潜入させることに成功した。捕らえられるまでは想定内。電人である自分にはサイコメトリーも催眠も無効。読むことも口を割らせることなどできない。 TMIが幻赫討伐作戦を開始する。セレスティアも動くだろう、その時に最大限の支援が出来るようにする。準備をしておく。 *** ―TMI日本支部(仮) 「ちょっといいですかアナスタシアさん」 セレスティアは作業着のままゴーグルを上げてアナスタシアを呼び止めた。 「……何ですか?」 「破壊された戦闘スーツからパーツを合わせて全部で6体確保できました。会議では5体と言いましたがスタッフの頑張りもあってもう1体用意することが出来ました」 「それで?」 壁に体重を預けたまま答えるアナスタシア。 「私の使用する戦闘スーツの予備を破棄して用意したものなのですが、ぜひアナスタシアさんに使っていただきたく思いまして」 「戦闘スーツなんて着た事ありませんし使い方は分かりませんわ」 「ご心配なく、10分ほどの学習映像を見ていただければ後はスーツ内部のAIがサポートします。元々私のスーツですのでサイズも問題ありません」 セレスティアは笑顔でマニュアルの入ったタブレットを渡す。 「どういう風の吹き回しかしら?セレスティア博士」 「仲直りをしたいのです。言葉だけで信じてもらえるとは思っていませんのでこのスーツを差し上げます。これがあれば今回の作戦で後方支援に回る必要はありません、カテゴリー5へと覚醒した貴女の力を存分に揮うことが出来ます」 「……」 アナスタシアは地面に視線を落とす。 「嘘かどうかは終夜アリナさんを連れてきて私を観察させればよいでしょう」 「どうして?理解できない、他にも活躍できそうなエージェントは居るわ」 「アリナさん、ルキナさん、マイケルさん、長官、イグネイシャスさんの分は当然としてあと一つはテレポーターと普通は考えるでしょう。ですが飛行可能なテレポーターにスーツは必要ありません、酸素マスクがあれば十分です。貴女を選んだ理由は単純に気に入ったからなのです」 「え?」 「氷の女王、貴女の活躍に期待します。なので私は戦闘スーツを用意しました。気に入らなければ返していただいてかまいません、試してみませんか?」 「……まぁ試してあげてもいいですよ。使うかどうかはそれから決めることにします」 「ではこちらに」 作業場に向かう二人。そこにはアリナ、フローレンス、哿、イグネイシャスに長官ジェームズ。そして早乙女ルキナ、カレン・ユン、マイケル・カルーヤ、チームエンジェルのメンバーの姿があった。アメリカでの任務を終え本部から転送されてきたのであった。 「來美ちゃんのテレパシーのお陰で会議は聞いていたから問題ないわよ」 早乙女ルキナは鏡で自分の姿を確認しながら言った。カレンとマイケルも頷いた。 「あら?アナスタシア、あんたも参加するの?」 「一応ね」 ルキナの問いにそう答えるアナスタシア。戦闘スーツを装着しながらマニュアルを見ている。 「終夜アリナ」 「何でしょう早乙女ルキナ」 「あたしの活躍見てなさいよ!」 「もちろんです」 ほんの僅か微笑むアリナ。 「……少し変わったわねあんた」 「そうかもしれません」 「良い意味でってことだからね!」 それぞれ自分の用意された戦闘スーツを装着に掛かる。 「では準備が出来次第作戦開始だ!」 時計を見てジェームズが言った。 続く
Dec 10, 2019
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異能者特務機関:TMI 第29話「ラグナロク」 ―念爆者の世界救済計画まであと4日 TMI日本支部ビルの屋上に着陸したジェットヘリ。物資と共にセレスティアの戦闘スーツが届いた。TMIの作業ロボットとジェットヘリから降りた研究員が運び出す。 「ごきげんようTMIの皆様……この強風、ハリケーン台風の影響が出始めていますね」 ジェットヘリの貨物室から降りてくる戦闘スーツの女性。展開し中からセレスティアが現れた。強風で金髪が揺れている。 「や、どーもセレスティア博士。ハリケーン台風は明日の正午ごろに那覇市に到着するとの事っす。進路予想はそのまま本州を横断するように北西に移動だと発表されていますしかし……」 イグネイシャスは逆立った赤髪をかきながら続ける。 「ハリケーン台風の中身は念爆者の空母っすから天気予想はあてにはならない……それっぽく動いてるだけでいつ進路を変えるかわからないっすね」 「日本の主要都市を全て通るつもりでしょう。期限の4日後には東京上空に位置するかと」 「ええ、だから到着する前に全て終わらせるんすよ。とりあえず中にどうぞ、そこで難しい顔してるアナスタシアちゃんも」 「では」 「分かっています!」 アナスタシアはイグネイシャスを睨みつけた。 「訓練生時代の同期だからといって勘違いしないで欲しいわねなれなれしい」 「仲良くして悪いって事はないっしょ?国同士の付き合いでもないし」 「私もそのうちカテゴリー5になって追いつく、いつまでも上からものが言えるなんて思わないことね!」 「ああ、覚えておくよ」イグネイシャスはアナスタシアのすぐ横に歩み寄る「……博士の様子はどうだった?」 「……隠しているわ異能力を。あれはカテゴリー3なんかじゃないわよ、どういう理由なのかは分からないけど」 「そうか……引き続き頼むよ。くれぐれも短気を起こさないようにね」 「そういう言い方が嫌なのよ!」 アナスタシアはイグネイシャスを押しのけてセレスティアに付いていく。 「やれやれ……ん?なんだ??」 ビル屋上に突如出現した無数のドローン。イグネイシャスは一瞬で戦闘態勢に入る。 「ちっ!」 イグネイシャスは両指から炎弾を発射、ドローンを撃墜していく。炎弾の直撃を免れたドローンがレーザーを放ってくる。 「やべぇ!皆伏せろ!!目を守れ!!」 レーザーを放ちながら作業員、コンテナに迫るドローン。 「しまった!!」 取りついたドローンは一斉に自爆、屋上は爆炎に包まれる。作業員は吹き飛び、コンテナの半数は破壊され戦闘スーツの残骸が散らばっている。オートガードで防いだイグネイシャスは煙の中から一人の男が現れたのを見た。 「ヘーパイストス参上!!」 男の足元には灼熱の溶けた物質が溜まっていた。 「何者だっ……と聞くまでもないか、異能兵士の一人だな?」 「神に選ばれし戦士の一人ヘーパイストス!!今日ここでTMI日本支部は壊滅だ!」 ヘーパイストスの足元の灼熱の塊がうねり、蛇のようにイグネイシャスに襲い掛かる。 「おっと……パイロキネシスの俺にその異能は相性悪いんじゃないか?」 苦もなく弾くイグネイシャス。その様子をみたヘーパイストスは笑みを浮かべる。 「いいや!好相性だ!!貴様に対抗するには我こそが最適!!」 数本の灼熱の帯がイグネイシャスの襲い掛かる。今度は弾かずに回避する。 「相性が良いだって?それにしてもお前ひとりで乗り込んできてどうにかなるとでも?」 「フン、我の任務は貴様の始末のみ!他の任務の事など知るか!!」 「(他にもこの日本支部に送り込んでくるって事か。マズイっすな、思ったより敵はこちらの動きに敏感だ)」 騒ぎを聞きつけた警護の人間とアナスタシアが戻ってきた。 「アナスタシア!来るな!!下にいる日本支部の皆に連絡しろ!!あいつは俺が何とかする!!」 「いいえ!ここであなたをサポートする!!またここで後悔したくないの!雷帝兄様に付いて行かなかった事を私はずっと後悔してるの!!」 雪の結晶を纏うアナスタシア。 「だったら警備のアンタ、連絡頼むぜ!」 「ハイ!!」 アサルトライフルをもった警備の男は踵を返しビルの中へ戻っていく。 「イグネイシャス、私に反対しないのね」 「ここで反対するような男じゃあないっすよ俺は!」 灼熱の帯を振り回すヘーパイストス、残っているコンテナの破壊にかかる。だが灼熱の帯は砕け散る。 「させませんわ!」 アナスタシアの出現させた鋭い氷柱によって灼熱帯は下から切断されたのであった。 「フン、火と雪のコンビか」 灼熱の帯を縮め足元に戻す。 「アナスタシア、奴の異能なんだか分かるか」 「操作系かしら……切断した感じでは金属っぽかったわ」 「パイロキネシスの俺に対して有利だと考えてるって事は同じ系統とは考えにくいよな」 ヘーパイストスは体の全面に灼熱の壁を作って突進。避けるイグネイシャスとアナスタシア、すれ違いざまに炎弾と氷片を投げつけた。炎弾はヘーパイストスの帯に吸収され、氷片は突き刺さった後に砕け散る。 「なるほど……」 「??効いて無いじゃない!」 「そうだけど何とかなりそうだ、とりあえず牽制しながら奴の攻撃は慎重に回避するんだ」 アナスタシアは床を凍らせながら鋭い氷刃を走らせる。飛び上がったイグネイシャスはバレーボール大の炎弾を投げつける。 「フン!ハァ!」 灼熱帯を振るい氷刃と炎弾を砕いて吸収する。その後距離を詰めながら二人に攻撃する。イグネイシャスは空中で回避、アナスタシアは氷壁で受け流した。 「さぁもっと攻撃してこい火使い!無駄だと知れ雪使い!!」 「アナスタシア、奴を一瞬で包みこむ氷結をやってくれ」 「ええ!」 両手を前に突き出すアナスタシア、それを見て攻撃を仕掛けるヘーパイストス。イグネイシャスはアナスタシアを抱えて飛び上がる。 「~~っ!」 「集中して!」 雪の結晶がヘーパイストスの周囲に出現、一斉に冷気を放つ。すさまじい水蒸気の白煙が巻き起こる。 「ぐぐ……」 ヘーパイストスの灼熱帯は黒く変色し硬化、完全に動きを停止させている。 「……母様のようなカテゴリー5のフロストキネシスならもっと一瞬でもっと低温で放てるのに」 「十分っすよ」 イグネイシャスは転がっていたコンテナの破片を拾い投げつける。炎の噴射で加速した破片は固まっているヘーパイストスに命中。 「おのれぇ……この程度で我は倒れん!」 のけぞった状態から体を戻すヘーパイストス。手を上げて合図をするとビルの屋上に二人の黒戦闘服ブラックヴァリーが現れた。そして二本の筒をヘーパイストスに投げ渡した。 「!?」 「雪使い、お前の力を侮っていた。だがもうこれで終わりだ」 二つの筒を開けた。2種類の金属の粉末がヘーパイストスの足元で混ざる。 「ちっ!」 炎弾を放つイグネイシャス。一瞬早く金属粉末から火柱が上がりかき消した。硬化していた塊は再び灼熱の帯となり蠢き始める。 「瞬殺させてもらう!」 灼熱の帯がアナスタシアに向けて伸びる。反射的に氷壁を出現させ受け流す。上に逸らされた灼熱の帯は再びアナスタシアを狙う。 「うっ……」 アナスタシアの足に銃弾が命中。消音器拳銃をブラックヴァリーが構えている。 「クソッ!」 火炎放射でブラックヴァリーを焼き払うイグネイシャス。もう一人のブラックヴァリーも炎弾で撃ち抜いた。 「死ねい!」 振り返ると足を撃たれ倒れているアナスタシアに灼熱の帯が振り下ろされようとしている。 足の激痛。 集中を乱される。 ここが限界。 死。 アナスタシアの脳裏を様々な思考が駆け巡る。 今は亡き両親と意識不明の兄の顔が浮かぶ。 ここで終わりたくない。 こんな最後認められない。 私が死ねば家は終わり。 「あああああああっ!!」 アナスタシアの全身から夥しい量の氷片が放たれる。直撃を受けたヘーパイストスは床に転げた。ゆっくりと立ち上がるアナスタシア。凍り付いた弾丸が足から排出され傷は氷でふさいでいる。見開かれた目は薄水色に光を放っていた。 「まさか……カテゴリー5への覚醒か」 イグネイシャスがつぶやいた。自分自身がカテゴリー5へと覚醒した時の事を思い出していた。 「フン、この程度の攻撃なんでもない。雪使い、お前の攻撃では今の俺を止めることはできぬぞ」 「黙りなさい!私は雪使いじゃない!!氷の女王よ!!」 アナスタシアの手からレーザーめいた冷気が放たれる。灼熱の帯の一本は瞬間で凍結し黒く変色、動きを止めた。 「何っ!?だが凍る前に……」 「凍る前に何かしら?その体で何をどうすると??」 前に進むヘーパイストスの足は既に凍結し膝から下は無く砕け散っている。アナスタシアはレーザーめいた冷気と同時に足からも冷気を放ち床からの同時攻撃を行っていた。 「な……なん……だ……と」 倒れるヘーパイストス、音を立てて全身が砕け散る。 「アナスタシア……ちゃん」 「……」 目から光が消えその場に座り込むアナスタシア。イグネイシャスは駆け寄って体を支える。 「やっぱりな、覚醒直後は体が慣れてないからこうなるんだよな」 「……だ、だからそういう上からの言い方をやめなさ……い」 *** アリナらが屋上駆けつけた時には既にヘーパイストスは凍結し倒れる寸前であった。周囲を警戒し破壊を免れたコンテナを運び出す。 「無事だった戦闘スーツは3体……ギリギリの数っすね」 イグネイシャスが言った。 「早乙女ルキナ、マイケル・カルーヤ、終夜アリナ3名の分ですね」 戦闘スーツをチェックするセレスティア。 「破壊された物も使えるパーツを組み合わせればあと何体か仕上げられますね。幸い死者は出ませんでしたのでフローレンスさんの力で回復後、作業に戻れるはずです」 「博士と戦闘スーツを本部に運べれば安全なんすがね……」 イグネイシャスは頭をかきながら長官ジェームズを見る。 「本部へは本部のコンピューターが認めた者しか入れない」 「ですよねぇ」 「日本支部の場所が敵に知られた今、移すべきかと」 治療を終え戻ってきたフローレンスが言った。 「……ふむ、一応日本支部の設置場所はもう一か所あるがそちらも安全かどうか。大戦の時からこの2ヶ所は同じ場所だからね」 「新しい場所は設置できないのですか?」 「今から入れる場所か……心当たりはあるにはあるがちょっと待ちたまえ」 ジェームズは携帯端末を取り出し電話をかける。 「私だジェームズだ。……あいさつはいい、急なお願いがあってね……詳しい事は後で話す、とりあえず例の地下施設使わせてもらえないかな?……………今すぐにだよ。20名ほどと物資があるんだ…………三日間だけでいいんだ」 数分の間交渉を続けるジェームズ。 「諸君、なんとか行けそうだ。大阪城からそう遠くない所だ。私は本部にいったん戻り転送の手続きをしてくる」 消えるジェームズ。アリナは自分用に作られた戦闘スーツを眺めている。 「どうですかアリナさん」とセレスティア。 「良い色です」 「アリナさんのガントレットブーツの装甲を参考にしました。気に入っていただけで何よりです。そのスーツは通信機能の他は飛行、潜水に特化しています。余計な武装は貴女には邪魔と判断しました。敵空母に到着後外したら搭載されたAIにその場に待機させておいてください。帰りにまた装着してください」 「作戦は少し変更になりましたねセレスティア博士」 「ええ、ほとんどのドローンと戦闘スーツを失ってしまった今、早乙女ルキナさんの突入にかかっています。成功後マイケル・カルーヤさんのアポートでアリナさんを始め戦闘員を送り込む。場合によっては私も空母に突入します」 「明日到着予定の全世界から応援に駆け付けるTMIのエージェントはハリケーン台風を解除してからでなければ脱出できなくなりましたからセレスティア博士の力は必要になって来ると思います」 「疑問なのですが、マイケル・カルーヤさんの他にはアポート異能者はおられないのですか?」 セレスティアの質問にイグネイシャスが反応する。 「何人かはいるっすね。結構レアな異能なんで少ないのとマイケルより優秀なアポート異能者は居ないんすよ。物資だけとか時間がかかるとか……そういう理由です。マイケルもカテゴリー5候補ではあるんです」 「ではもしマイケルさんに何かあったら?」 「長官が無理してでもやるしかないっすね。それは最後の最後、他の方法も考えてるんで」 「そうですか、いえ私もその時は出来る限りの協力をいたします」 アリナと目を合わせるセレスティア。アリナはセレスティアの目を見た後、イグネイシャスに向けてゆっくりと頷いた。 続く
Dec 8, 2019
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異能者特務機関:TMI 第28話「神名一族」 哿はジェームズから転送されたデータを自分の端末で確認する。 「そしてセレスティア博士の用意した戦闘スーツとも同じだ。まぁ戦闘スーツの種類はそんなにない、こんなこともあるだろうと考えていた。流通ルートを調べるまでは」 続けてデータを送信するジェームズ。 「実体のない会社を通してセレスティア博士は戦闘スーツを取引している。何かの荷物と交換にね。その荷物の中身までは分からなかったが冷凍ボックスだった。この中にバラした戦闘スーツを入れていたのだろう。お互いの顔も素性も知らずに実体のない会社が取引を成立させていた」 「え!?それじゃあ首狩り斬鬼事件に関わったブラックヴァリーは直接じゃないにしてもセレスティア博士から戦闘スーツを買っていたんですか!」 哿は思わず声を上げた。 「そうだ。この架空の会社、KAMINA(神名)グループの下請けを名乗っているがどの場所にもないネットにしか存在しない。まぁそれは置いておこう、KAMINAグループと繋がっている事が気になってねエージェントに調べさせて本部のデータと照合したところ……」 データを送るジェームズ。 「KAMINAグループ関係者の名前……ですか」 「色を付けた名前を見たまえ」 アリナとフローレンスも覗き込む。 「【神名幻赫】【ダスティン神名】」 「神名幻赫は異能者大戦以前の念爆者の名前だ。そしてダスティン神名、これはセレスティア博士の父親の名前だ」 「!!」 「博士の元々の名前は神名セレスティア白夜。神名家の一族なのだよ。念爆者には兄妹が7人、奴の腹違い子供だけで10人、孫に至っては40人を超える。他の兄妹の子供孫も合わせると100人は超える。その中の一人がセレスティア博士なのだ」 「!!」 「世界中の医学会、金融、貿易、軍用機開発など多岐にわたって神名一族は活躍している。多目的スーツも開発していてね、そのパーツと戦闘スーツは基本パーツが同じなのだよ」 「長官、セレスティア博士が神名家の、念爆者と血縁者であることが分かったのですが何が問題なのですか?わたしはセレスティア博士と直接会って話しましたが信じられると思いましたが」 アリナはジェームズを見据えて言った。 「ふむ……五感強化状態のアリナくんが会って話して引っかかるところが無いというのならセレスティア博士は悪ではないと信用してもよさそうだが……それはそれで問題でもあるかと私は考える」 ジェームズは茶をすすって言った。 「セレスティア博士が邪悪な思考無く純粋な気持ちで行動していたとしてもそれがTMIの為かどうか全世界の平和に結びつくかは分からないのだよアリナくん」 「セレスティア博士はわたしに『…………邪魔はしません。むしろ協力してあげたいくらいですよ』『終夜アリナさん、私はあなたが羨ましい。そんな風に突き進めればどんなに良かったか』と言いました、念爆者の討伐に協力的なのは確かです」 アリナはジェームズから目をそらさない。 「ふむ、流石だねアリナくん。もし自分が間違っていたら、なんて考えて臆してしまわないのは若さと精神力の強さだね。君の言う事が正しくてもTMIとしてはセレスティア博士の監視を続けるよ、それは組織の長として譲れない」 「……はい」 「気になるのはセレスティア博士個人だけではない、あの電人Gだ。フョードル君を始め多数の死傷者を出したミュータント。セレスティア博士との関係は浅くない」 完全に潜伏した電人GをTMIは追跡できないでいる。 「奴の動きは全く不明。セレスティア博士に聞いても同じだった。電人Gがセレスティア博士とやり取りしている様子もない。先日の事件で奴が起こしたのはネットワークを介して騒ぎを起こしただけだ、目的は不明」 「騒ぎを起こしただけ……ですか」 電人Gの行動に少し引っかかる所を感じるアリナ。それが何かまでは分からない。 「試運転のような感じでしょうか?」 哿が言った。 「報告書と撮影された映像を見て思ったのですが……テロが目的なら電人Gはその気になれば雷帝フョードルさんのような広範囲攻撃ができたはず。なのにわざわざ機械を操ったりフョードルさんを迎え撃ったりして自らの性能を試しているような気がしました」 「ふむ……本部でも哿くんと同じ意見はあったね。他には奴自身がセレスティア博士に評価されたいと考え何か大きな事をする前触れではないかという意見もある」 「大きな事ですか?」 「それは?」 哿とアリナがジェームズに視線を向けて言った。 「先ほどの話に戻るが神名一族の事だ。彼らは皆『世界を変える』をモットーに動いている。電人Gはセレスティア博士が神名一族と知り好意もあって認めてもらいたいと考えているのではないかという意見だ。『世界を変える』とは広い意味を持つからね。ある神名家の一人は自分の世界、すなわち会社を変える為に動き、あるものは政界を変えるために動き、あるものは世界の秩序を変えるために動いている。非常に優秀ではあるが自らの信じた道を突き進む性質がある」 「長官は神名一族について随分とお詳しいのですね」 アリナはタブレットのデータを眺めながら言った。 「異能者大戦の時に大切な人を亡くした時、念爆者の事と一緒に調べたからね」 アリナ、フローレンス、哿、イグネイシャス、ナターシャの全員が沈黙。 「……それはそれとしてだ、セレスティア博士から目を離せない理由は皆分かってくれたと思う。電人Gについては本部で対策チームを再編成中だ。今は念爆者討伐に全力を傾ける」 ジェームズはそう言うとタブレットを操作して壁にデータを映し出す。 「6時間後に早乙女ルキナくんらチームエンジェルを本部に呼び寄せその後日本支部に転送する。本部のスタッフも日本支部に、そしてTMI最強のテレパス苗木來美くんを配置する」 「來美ちゃんを本部から連れてくるんすか長官!」 「ああ、今回の作戦は最新型の通信機を使ったとしても電波の状態や個々の状況によって伝えられない時があると想定する。苗木來美くんの異能を使って私が皆の動きを把握する」 【苗木來美(なえぎくみ)カテゴリー5】5歳。テレパス。離れた人間の思考を読み取り送ることができる。ある程度思考を操ることができる。20時間睡眠を必要とし、寝るときは自身の能力を抑えるヘルメットをかぶる。本部から出ることは滅多にない。 「……質問があります、長官の異能とは?テレパスとは聞いていますが」 「ここまできて教えないわけにはいかないね。私の異能はテレパス系で【リンク】だよ。他の異能者とリンクしてその異能を使える。そしてそれを3つまでストックできる」 「リンク……」 「異能の演算は自身の1つだけでも非常に難度が高いものですそれを制御……」 アリナのすぐ横に立っているフローレンスが言った。 「長官はそれで大丈夫なのですか?」 「作戦中の間なら問題ない、制御して見せるよ。中々苦労したよこのリンクを使いこなせるようになるまでに……異能者大戦の時にはここまで使いこなせてなかった、その事は今でも悔やんでいるよ。まぁそんな事より、作戦の説明に戻ろう」 ジェームズは壁に映し出された画像をレーザーポインタで指す。 「早乙女ルキナくん、カレン・ユンくん、マイケル・カルーヤ君のチームエンジェルをサポートしながら敵空母に接近、彼女らにはハリケーン台風を超え空母の正体を突き止めてもらう。敵の防衛装置を突破後マイケルくんのアポートでイグネイシャス君らとアリナくんらUチームを空母に送り込む。サポートは全世界の支部から応援に駆け付けるエージェントが行う」 *** ―奄美群島付近 つやを消した黒の塗装を施された巨大な船。アイスクラーピウスと名付けられた超巨大空母は海面から1㎞上昇しハリケーン台風を纏いながらゆっくりと日本本土に進んでいた。 「さて、そろそろTMIも動き出すか」 念爆者杉田幻赫はゆっくりと立ち上がった。部屋の壁にもたれかかっているのはブラックヴァリーを実質率いている不動了痲。 「幻赫さんよぉ、TMIにわざわざメッセージまで送って何がしてえんだ?」 リボルバーを弄びながら不動了痲は言った。 「誘い込むのだよTMI自慢の異能者を」 「で?それを俺がぶっ殺せばいいってか?」 「ああ、いつも通り脳は無傷で頼むよ。君には到底及ばないが儂の私兵の異能兵士の実験にも使う。先の大戦での敗北は力だけでねじ伏せようとしたのが原因だからね慎重に慎重に罠を張らせてもらうよ」 「ま、そういうのはアンタに任せるぜ。俺はドンと撃って終わらせるだけさ」 「カテゴリー5の肉体、異能バクテリア、プラチナキーこれらがそろった時世界は変わる。異能者に術者にミュータントにモンスター……そして異次元の存在。それらの立ち位置は代わる。この世界のあり方は別のものになる」 「ふ~ん……まぁ面白くなるって話だし俺は楽しみにしてるぜ」 「TMIを迎え撃つにあたって一つ君に言っておきたいことがある」 「あん?なんだい?」 「儂の異能兵士がTMIと戦闘に入った場合手出しはしないで欲しい」 「いいぜ、終わった後なら構わねえよな?」 「もちろんだとも」 幻赫の眺めるモニターには空母アイスクラーピウス内にある施設の培養層に浮かぶ複数人の男女。 「アトラースがああも容易く終夜アリナに敗北するとは想定外だったがおかげでデータを取ることが出来た。奴を捕らえ最高の研究素材にする」 「ブラックヴァリーを使って調べたがよ、あの女尋常じゃねえ復讐心だ、アンタをぶっ殺すそれだけの為に生きてるかのような奴だよ」 「それが素晴らしい。たかが身体強化の異能でここまでの力を復讐心で高めたのだからな、人間の感情というのは侮れない」 「アンタにわざわざいうことじゃあねえが、ああいうのはまともに相手にしない方がいいぜ。思わぬところで足をすくわれかねない。俺ならターゲットの環境そのものを破壊し精神的に追い詰めた後に暗殺する、純粋な怒りに燃える復讐者は周りも巻き込むんだよ。狂人になり果てた奴なら扱いも楽なんだがな」 「その道のプロの貴重な意見感謝するよ不動了痲君」 「ところで電人Gとやらはどうするんだ?」 不動了痲は弄んでいた2丁のマグナムをホルスターに収めて言った。 「先ほど捕らえたあの電子生命体か。もちろん活かすとも、TMIの雷帝を破ったほどの力を持つものだ無駄にはしない。ネットワーク、電子機器から完全に隔離された絶縁性の壁と扉に囲まれた部屋だ逃げられはしない。君がいなければ捕らえることは難しかった」 「やけにあっさりだったのが若干気になるが……」 「アイスクラーピウスを乗っ取るつもりで来たのだろうが君の力を知らなかったゆえに油断したのだろう」 「だといいがな」 「今日の君はやけに心配するな?どうしたのだね」 「わかんねぇ……こういうピリピリした感覚ってのは初めてじゃあない。気合を入れなおしておいたほうがいいって経験上思ったんだ」 「なるほど、そういった感覚は歳と共に鈍くなるからな。異能兵士の調整を急ぎ電人Gの監視を強化するとしよう」 *** ―北海道TMI研究所 『塗装完了ですマスター』 「ご苦労様Adele」 セレスティアは真紅に塗装された戦闘スーツを眺め体内に搭載したAIのAdeleに答える。 「良い色に仕上がったわ」 セレスティアは空母突入作戦の為にTMIのメンバーの戦闘スーツを用意していた。最後に塗装していたのは終夜アリナ専用の戦闘スーツ。 「流石は博士、素晴らしい出来ですね」 ガラス越しに見ていた女性が入ってくる。TMIから派遣されセレスティアの監視をしているロシア支部のアナスタシア。彼女は意識不明の重体である雷帝フョードルの妹。 「ところで電人Gはどこに行ったのでしょうね?」 「さぁ?」 セレスティアは何の関心も示さない口調で言った。 「博士は気にならないのですか?」 「気にしたところで仕方のない事。私は今できることを全力でやるだけです」 「神名一族の人間がそのような……」 氷のような視線をセレスティアに浴びせるアナスタシア。 「博士貴女の目的は何なのです?あんな電人Gなどというモンスターを生み出して……」 「それは違いますね。電人Gは五所川原振之助が自身で成ったもの」 「なにを言うのです、アレは貴女に好意を持ち認められたくて電人Gと成ったのでしょう!?何も関係ない無関係とは言わせませんよ!」 「アナスタシアさん、あなたは私がそう仕向けたと言いたいのですね」 「そうです。この研究所の事故もバクテリアも電人Gもこの前のテロもすべて貴女に関係あると私は考えていますよ」 「言いたいことはそれだけですか?」 「!!」 セレスティアはモニターに視線を戻す。それを見たアナスタシアはセレスティアの肩につかみかかる。 「……っ!」 弾ける音がした。アナスタシアの手に痛みが走り一瞬で手を引っ込めた。 「失礼、護身の為にオートガードでプラズマを発動させてます」 「~~~~~ッ!」 「作業に戻ります」 「ねぇ、ちょっとこの部屋暖房効きすぎではありません?」 アナスタシアは痺れた右手を振る。彼女の周囲には雪の結晶が現れ始めていた。 「あなたはカテゴリー4フロストキネシスですね。それでどうしようというのです?」 「どうすると思います?涼しくしようと思っているだけですが」 「やめておいた方がいいかと。あなたの任務はあくまで私の監視、私に何かあれば空母突入作戦にも支障をきたしますよ」 「セレスティア博士は突然裏切る可能性もあります。その場合逃走を阻止するためにやむを得ず凍結させてしまうかもしれません、手が滑ってそのまま粉砕なんてことも無いとはいいきれませんね」 アナスタシアの周囲の雪の結晶が増えていく。 「裏切る?何を?TMIをですか??動機がありませんね、このタイミングでそんなことをするとでも?」 「貴女は神名一族!!念爆者の血縁者!!あり得る話です!!」 「アナスタシアさん……黙って見ておくことです。私のやることを」 セレスティアはほんの少しだけ声を荒らげて目に緑光を宿して言い放った。 『心拍数上昇、高いコルチゾールの分泌を確認しました。マスター、エンドルフィンを分泌しますか?』 「(ええ、お願いAdele)」 セレスティアの表情はみるみる元に戻っていく。 「な、なに!異能を使う気かしら!!言っておきますが私の雪の結晶自動防御は鉄板を貫くレーザーも防げるのですよ」 「失礼、何でもありませんよアナスタシアさん。どうか静かに監視をお願いします」 「言われなくても!」 雪の結晶を引っ込めるアナスタシア。セレスティアは再び作業へと戻る。 続く
Dec 1, 2019
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