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続けて、帰国した 中村哲 が見た 「日本」 に対する感想が続けられています。 「諸君、この一年、君たちの協力で、二十数万名の人々が村を捨てず助かり、命をつなぎえたことを感謝します。今私たちは大使館の命令によって当地を一時退避します。すでにお聞きのように、米国による報復で、この町も危険にさらされています。しかし、私たちは帰ってきます。 PMS (ペシャワール会医療サービス)が諸君を見捨てることはないでしょう。 死を恐れてはなりません。 しかし、私たちの死は他の人々のいのちのために意味をもつべきです。緊急時が去った暁には、また、ともに汗して働きましょう。この一週間は休暇とし、家族退避の備えをしてください。九月二十三日に作業を再開します。プロジェクトに絶対に変更はありません。」
長老らしき人が立ち上がり、私たちへの感謝を述べた。
「みなさん。世界には二種類の人間があるだけです。無欲に他人を想う人。そして己の利益を図るのに心がくもった人です。 PMS はいずれかお分かりでしょう。私たちはあなたたち日本人と日本を永久に忘れません。」
これは既に決別の辞であった。
2001 年九月 に、やむなく帰国した 中村哲 は、 十月一日 には、もう、 ペシャワール に戻り、米・英軍が空爆を始めた 十 月 七 日の二日後に アフガニスタン に入国し、空爆難民のための食糧の配給のボランティアを開始しています。 帰国してから、日本中が湧き返る 「米国対タリバン」 という対決の構図が、何だか作為的な気がした。淡々と日常の生を刻む人々の姿が忘れられなかった。昼夜を問わずテレビが未知の国「アフガニスタン」を騒々しく報道する。ブッシュ大統領が「強いアメリカ」を叫んで報復の雄叫びを上げ、米国人が喝采する。湧きだした評論家がアフガニスタン情勢を語る。これが芝居でなければ、皆が何かにつかれているように見えた。私たちの文明は大地から足が浮いてしまったのだ。
全ては砂漠のかなたに揺らめく蜃気楼のごとく、真実とは遠い出来事である。それが無性に哀しかった。アフガニスタン!茶褐色の動かぬ大地、労苦を共にして水を得て喜び合った村人、井戸掘りを手伝うタリバンの兵士たちの人懐っこい顔、憂いを称えて逝った仏像…尽きぬ回顧の中で確かなのは、漠々たる水なし地獄の修羅場にもかかわらず、アフガニスタンが私に動かぬ「人間」を見せてくれたことである。「自由と民主主義」は今、テロ報復で大規模な殺戮戦を展開しようとしている。おそらく、累々たる罪なき人々の屍の山を見たとき、夢見の悪い後悔と痛みを覚えるのは、報復者その人であろう。瀕死の小国に世界中の超大国が束になり、果たして何を守ろうとするのか、私の素朴な疑問である。 2001 ・ 9 ・ 22
追記2019・12・12
「中村哲ってだれ」
・ 「人は愛するに足り、真心は信ずるに足る」
・ 「空爆と『復興』」
はそれぞれここからどうぞ。
「バイス」
・ 「記者たち」
も題名をクリックしてください。
追記2022・09・27
以前、テレビで放送された「荒野に希望の灯をともす」というドキュメンタリーの「劇場版」が、元町映画館で上映されているのを観てきました。生きて、動いている中村哲の姿に、感無量でした。
こんな人がいたという 事実
を見失わないこと、次の世代に伝えること、は、ぼくにもできるかもしれないと思いました。
苦難の続く作業の中で、絶望的な表情を浮かべている仲間に 「ここで生きている人たち一人一人が心に灯をともせば何とかなる。」
とアジッている、いや、説得している姿が心に残りました。出来れば、是非ご覧ください。
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