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2013.01.19
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カテゴリ: 読書案内
【浅田次郎/月のしずく】
20130119

◆エンターテインメント性バツグン! ドラマチックなラブ・ストーリー

浅田次郎の作品はどれもしっとりしていて、大地が潤うように瑞々しい。エンターテインメント性に優れ、読者の期待を裏切るような浅はかな結末にしないのも非常に嬉しい。おそらく、終始一貫、計算し尽されており、大衆に受け入れられるテクニックを持っているに違いない。
『月のしずく』は、表題作の他に6編の短編小説が収められていて、どれもドラマチックで読み易い。それは言い換えるなら、非現実的で巧みな作り話の世界でもある。正に、小説が小説としての役割を全うした、プロの仕事だ。

表題作『月のしずく』のストーリーはこうだ。
43歳の佐藤辰夫は、中学を出てからずっとコンビナートの荷役として働いている。稼ぎはだいたい酒代に消える。妻子はいないから自由気ままな一人暮らしだ。とはいえ、寂しさから独り言が増え、想いはいつも「かみさんが欲しい」。辰夫はいつも純愛を信じている。だから、突然現れた美女が、辰夫と一つ屋根の下に寝泊りしようとも、淫らなことはせず、秘かに恋心を寄せるのみ。だが女は身ごもっていて、堕ろしたいがために辰夫を体良く利用しようとする。そんな女の目ろみを知ってか知らずか、辰夫は子どもを産んでくれと言う。辰夫は、その女とささやかな家庭を築きたかったのだ。

女性は本能的に、男というものがいかに容姿やスタイルを気にする動物であるかを知っているがゆえに、着飾ったり化粧したり、少しでも見栄えを良くする。でもそういう行為は、なかなかどうして、女性にとっては手間なのだ。(無論、外見にこだわることを生きがいにしている方もいるが)だから、この小説に登場する辰夫のような人物は、女性にしてみれば、正に理想だ。「ブスでもデブでも何でもいいよ。やらしてくんなくたっていいさ。どんなのだって、かみさんになってくれりゃ、大事にするんだがなぁ」という一言を待っている女性は、多いはず。

現代は女性も殺伐としたビジネス社会に進出する時代だ。
そんな中、男性には純粋な愛情を注いで欲しいと願う女性が圧倒的なのでは? 誰もが安らぎを欲して止まないこのご時世、浅田次郎の作り上げたキャラクターは、王子様というよりキリストだ。
わがままで自分勝手な女をも愛し、またその女の腹に宿る子(たとえそれがよその男の種で)さえ慈しむ。なんという慈悲深さ。
この小説は、年齢性別問わず、癒しを求める全ての方々におすすめしたい。ひと時の平安が与えられること間違いなしだ。


そうそう、浅田次郎の画像を見ても思ったのだが、こういう人相の方、知り合いにいそうなタイプでは? 私は少なくとも3人は知っている。皆、親切で優しい方々ばかりだ。こういうタイプに悪い人はいない(笑)

『月のしずく』浅田次郎・著

浅田次郎原作の映画、
『鉄道員(ぽっぽや)』は コチラ
『壬生義士伝』は コチラ
まで♪

☆次回(読書案内No.36)は有吉佐和子の『香華』を予定しています。

20130124aisatsu


~読書案内~   その他

■No. 1 取り替え子/大江健三郎 伊丹十三の自死の真相を突き止めよ
■No. 2 複雑な彼/三島由紀夫
■No. 3 雁の寺/水上勉 犯人の出自が殺人の動機?!
■No. 4 完璧な病室/小川洋子 本物の孤独は精神世界へ到達する
■No. 5 青春の蹉跌/石川達三
■No. 6 しろばんば/井上靖 一途な愛情が文豪を育てる
■No. 7 白河夜船/吉本ばなな 孤独な闇が人々を癒す
■No. 8 ミステリーの系譜/松本清張 人は気付かぬうちに誰かを傷つけている
■No. 9 女生徒/太宰治 新感覚でヴィヴィッドな小説
■No.10 或る女/有島武郎 国木田独歩の最初の妻がモデル
■No.11 東京奇譚集/村上春樹 どんな形であれ、あなたにもきっと不思議な体験があるはず
■No.12 お目出たき人/武者小路実篤 片思いが片思いでない人
■No.13 レディ・ジョーカー/高村薫 この社会に、本当の平等は存在するのか?
■No.14 山の音/川端康成 戦後日本の中流家庭を描く
■No.15 佐藤春夫/この三つのもの 細君譲渡事件の真相が語られる
■No.16 角田光代/幸福な遊戯 男二人と女一人の奇妙な同居生活を描く
■No.17 室生犀星/杏っ子 愛娘に対する限りない情愛
■No.18 織田作之助/夫婦善哉 大阪を舞台にした男と女の人情話
■No.19 谷崎潤一郎/痴人の愛 この人物の右に出る者なし。日本の誇る最高の文士。
■No.20 車谷長吉/赤目四十八瀧心中未遂 生への執着は、性への執着でもあるのか
■No.21 松尾スズキ/クワイエットルームにようこそ 平成に新しい文学が登場
■No.22 川上弘美/神様 現代における女性版カフカ?!
■No.23 丸谷才一/鈍感な青年 男女の営みは滑稽なもの
■No.24 宮本輝/流転の海 第一部 戦後の混乱期を生きる日本人の底力を見よ!
■No.25 岩井志麻子/ぼっけぇ、きょうてぇ 女郎が寝物語に話す、身の上話
■No.26 柳美里/水辺のゆりかご 包み隠さず書くのは勇気なのか、それとも・・・?
■No.27 宮尾登美子/櫂 妻は黙って亭主に傅くのみ。殴られても蹴られても耐えるべし
■No.28 向田邦子/阿修羅のごとく いくつもの顔を持ち合わせているのが女なのだ
■No.29 樋口一葉/にごりえ 明治の娼妓のコイバナ、そして人情沙汰
■No.30 南木佳士/阿弥陀堂だより 信州の自然美に触れて生き返る
■No.31 東川篤哉/謎解きはディナーのあとで エンターテインメント性重視、ポップでライトなミステリー小説
■No.32 辻仁成/ピアニシモ 25歳ぐらいまでに読んでおきたい青春小説
■No.33 田口ランディ/コンセント 引きこもりをテーマにした社会派小説をねらうも、結果オカルト小説
■No.34 沢木耕太郎/無名 最愛の父を看取るまでを淡々と語る

◆番外篇.1 新潮日本文学アルバム/太宰 治 パンドラの匣を開け走れメロスを見る!
◆番外篇.2 菊池寛、選挙に出る! 読書階級の人は菊池寛氏を選べ
◆番外篇.3 芥川龍之介と菊池寛 唯ぼんやりとした不安、ハナはこちらなり。





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最終更新日  2013.01.24 06:41:11
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