オロモウツの旧市街の周囲には、たくさんの木が植えられた公園が広がっている。オロモウツの城壁の直下、ムリーンスキー川との間に川沿いに曲がりくねっているのが、ベズルチ公園で、小川の対岸には植物園や、バラ園などもある。あまり知られていないが、南スラブ兵士の廟があって、第一次世界大戦で命を落とした旧ユーゴスラビアに当たる地域出身の1188人にのぼる兵士たちの遺体が葬られているらしい。ただ神殿風のこの建物は長年にわたって放置されてきたため、崩壊寸前の姿を見せている。
先日たまたまTVモラバで、クロアチアだったかセルビアだったかの外交官が、この廟を訪れたというニュースを見た。第一次世界大戦でなくなった先祖の遺体がこんなところに眠っていることを知っている遺族はいないのではないかと言っていた。改修の計画はあるようだけれども、それがいつから始まるのか、具体的なことはまだ決まっていないようである。
ベズルチ公園から、青空市場とバスの発着所を越えると、スメタナ公園に入る。ビアホールのモリツの近くにも入り口があって、このスメタナ公園を通るのが毎日の通勤路になっている。それが、今週は木曜日と金曜日は通勤に使えなかった。スメタナ公園内にある フローラ という展示会場で、フローラというイベントが日曜日まで行われているため、午前八時から午後六時までは、入場券なしには、公園内に入れなくなってしまっているのだ。
チェコ語で書かれたオロモウツについての文章には、必ずこのフローラについて言及されているので、何だかよくわからないけど、ものすごいイベントなのだろうと考えていた時期がある。実際には、園芸関係の見本市で、チェコの各地から業者が集まってきて商品を展示即売するイベントだった。カレル・チャペックが『園芸家の十二ヶ月』なんて本を書いてしまったことからもわかるように、チェコ人には園芸家が多い。自宅の庭でさまざまな果物を育てたり、花を植えて美しく飾り立てたりすることを趣味にしているのである。共産主義政権は、政権への不満をそらすための政策のひとつとして、都市部に住む住民に、田舎にある庭付きの別荘や、都市郊外に小さな個人用の菜園(ちなみにこれもザフラートカと呼ばれる)を提供していたと言われることからも、チェコ人の園芸好きは察せられる。
だから、このフローラというイベントは、チェコ人にとっては非常に重要で魅力的なイベントなのだろう。チェコ各地からたくさんの人が集まってきて、駐車場が足りないために、会場周囲の道路に路上駐車された車があふれることになる。また、貸切のバスでやってくる団体さんたちもいて、公園の入り口には、オロモウツらしからぬ人だかりができている。チェコスロバキア時代の名残か、国境を越えてスロバキアからやってくる人たちもいるようだ。
では、このイベントが、外国人観光客を引き寄せられるほどに魅力的かというと、首をひねるしかない。メインのパビリオンの中には、その年のテーマに基づいて、花や木などを植えて作り出した絵や何かの像が展示されるのだが、すごいねとしかいえないし、園芸にそれほど興味がなく、植物を植える庭も持たない人間には、買うべきものもない。園芸や庭弄りが趣味という人だったら楽しめるのだろうけど、それが目的で海外旅行しようなんて人はほとんどいるまい。
一番の問題は、クリスマスやイースターのマーケットにも言えることなのだけれど、特にイベントと関係のないものまで売られていることだ。最近は少しはましになったけど、クリスマスのマーケットで、青空マーケットの靴屋や服屋と同じような品揃えの店をいくつも見つけたときには、期待しただけにがっかりしたし、最近はプンチというお酒を出す店の多さに辟易する。もう少し考えて出店させる店を選んでほしいものである。
フローラでも、以前うちのと話の種に出かけたときに買ったのは、なぜかお店が出ていた調味料だけだった。最初は何か鉢植えでも買おうかと言っていたのだが、野菜を材料にした調味料だったから植物関係と言うことだったのかなあ。それはともかく、毎年春だけではなく、夏や秋も含めて何回か行われるこのイベント、オロモウツでは珍しい定期的に客を呼べるものなのである。
4月23日22時。
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