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2019年05月18日

文化大臣辞任(五月十六日)




 このスタニェク氏、じつはオロモウツの出身で、パラツキー大学の教育学部の先生から、政界に進出してつい最近までオロモウツ市長を務めていた人物である。だから、主義主張はともかく、応援しなければならないような気がしていたのだが、今回の件で、オロモウツの政治家とは言え、市民民主党のラングル氏と同じカテゴリーに入れることにした。

 スタニェク氏が、辞任を求めるデモを起こされるところまで批判されることになった原因は、二つの出来事である。一つはオロモウツの美術館の館長ソウクプ氏を解任したことで、もう一つはプラハの国立美術館の館長ファイト氏を解任したことである。とくに後者に関しては、チェコ国内の芸術関係者からだけでなく、世界中の協力関係にある美術館からも、解任を撤回しなければ協力関係を解消するという抗議を受けていた。
 オロモウツの美術館の館長の解任に関しては、詳しい事情はよくわからないのだけど、個人的な復讐だという批判も聞こえてきたから、オロモウツ市長時代にいさかいがあったのかもしれない。もしくは、文化大臣としての仕事を批判されたのが解任の原因だったのだろうか。オロモウツの美術館の前の案内の掲示板には、文化大臣解任を求めるコンサートのポスターが掲示してあった。芸術関係者だけでなく、いわゆる芸能界の人たちの間にも、反スタニェクの動きは広まっているようだ。

 ファイト氏の解任については、横領の疑いがあってのことらしい。こちらは、刑事告発までしているから、ある程度の根拠、少なくとも刑事事件として告訴して勝訴できそうなレベルの証拠は握っていたのだろう。一度社会民主党内部で事情聴取みたいなことをされたときには、他の議員たちの理解を得られて解任されなかったのも、そのことを裏付ける。
 ファイト氏自身は、館長としての勤務時間外にやった、美術館のための仕事について、美術館から謝礼としてもらっただけだと主張しているのだけど、これっていいのか? 管理職の給与には時間外に行う仕事の分も含まれているから、高額になっているんじゃなかったのか。省庁も含めたチェコの役所では、お手盛りのボーナスが多くて人件費をかさ上げしているという批判が毎年なされるのだけれども、さすがに大臣が自分で自分に出したという話は聞かない。

 このファイト氏に関しては、以前も金銭関係で問題になった記憶もあるから、いや前任の館長だったかもしれないけど、芸術家的なルーズさが悪いほうに出ていると言ってもよさそうだ。他の美術館の館長や、芸術関係者がファイト氏を支持しているのも、芸術家の世界の常識と一般の世界の常識が乖離していることを示唆しているようにも思われる。ファイト氏の業績とは別にそこは批判されるべきなのだろうが、現時点では罪のないファイト氏を、理由もなく解任したスタニェク氏という構図で批判が広がっている。
 オロモウツの美術館に関してはともかく、このファイト氏の件に関しては、どっちもどっちというか、一方的にスタニェク氏が悪いとは言いきれないという印象を持つ。ただ、まともな大臣であれば、この件を違った形で収めることができたのではないかという点では、スタニェク氏は批判されるべきだし、辞任に追い込まれたのも当然だと言える。文化大臣になったときに、子飼いの部下としてかつて金銭問題で市長だったか市会議員だったかを辞めさせられた人物を、次官に据えたことも批判の対象になっているし、目くそ鼻くその争いなのである。

 文化関係のことを何もわかっていないとまで酷評されるような人物が、何故に文化大臣に就任したかというと、党内政治の結果である。日本とは違って、議員を何期務めると大臣候補になるとかいう不文律はないが、いろいろな取引の結果、大臣になったり党の主要ポストについたりする例は、旧来の政党の場合にはよく見かけられる。
 今回も、恐らく、バビシュ政権に参加するかどうかで社会民主党が割れたときに、政権参加を主張した党首のハマーチェク氏をスタニェク氏が支持したのと引きかえに、大臣の座を提供されたのではないかと見る。その際に、ANOとの取引で社会民主党が担当することになった省のなかでは、最も重要度が低い文化省が割り当てられたのだろう。

 社会民主党の文化大臣というと、パベル・ドルタールという長期にわたって文化大臣を務めた名物大臣がいたのだけど、この人がオロモウツ出身だから、オロモウツ出身のスタニェク氏に与えるポストとしてはちょうどいいなんてことを考えたのだろうか。ドスタール氏が、映画、演劇の世界から政治に転身して文化大臣として成功したからか、以後の文化大臣も、その世界の人が就任することが多かった。
 いずれにしても、オロモウツ出身であれ、映画、演劇界出身であれ、ドスタール氏ほど成功した文化大臣はいない。何せ、就任以来七年にわたって、首相が交替しても大臣をつとめ続けたのである。亡くなるまで文化大臣であり続けたドスタール氏を越える文化大臣は、今後も出現することはなかろう。オロモウツではその功績をたたえて、かつて活動していた劇場のあった建物にレリーフが設置されている。ちなみに、カレル・クリルのレリーフが設置されたのと同じ軍の建物である。

 とまれ、オロモウツの市長時代の業績に関しても、酷評されることの多いスタニェク氏が、世論の圧力を受けて辞任を表明した。これは健全な民主主義の発露と考えてよかろう。ただ、同時にこの辞任が、選挙対策であったことも忘れてはならない。五月末に行われるEU議会の選挙に向けて、支持率を落とさないように、社会民主党の指導部が因果を含めて、辞任を申し出させた可能性は高い。選挙のためには人気取りが必要だからね。もちろん辞任、解任を求めていた政党も選挙を意識していたことは間違いない。
2019年5月17日15時30分。












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