降り始めたばかりではなく、かなり降り続いたと思しく、周囲の家々の屋根も地面も道路も真っ白い雪に覆われていた。雪は嫌いだけれども、この雪景色は嫌いではない。しんしんと、この魅力的な擬態語もチェコに来て静かに雪の降り積もっていくさまを目にするまでは、その真価を知らなかったのだけど、雪の降る様子は眺めていても飽きない。それに今年は人通りや車の数が少ないおかげで、積もった雪がきれいなままの状態が長く続くような気がする。
そんなことを考えるのは部屋の中から外を眺めているからで、昼過ぎに職場に向かうのは、雪のせいで億劫で仕方がなかった。幸い粉雪で。路面がべちゃべちゃになっているということもなく、一度解けたものが凍結してつるつるすべるということもなかったのだが、歩きにくいことには変わりはない。雪の中を歩くことを考えて引っ張り出したごつい冬靴を、今年初めて履いたのも歩きにくさに拍車をかけていた。
日本にいた頃は季節によって靴を替えようなんて発想はなかったのだが、こちらで夏に履くような軽い靴を履いたら、冬場は足がとんでもないことになりそうである。靴底も雪や氷で滑りにくくなっているはずだし、それでも滑るけど、雪が降り始めると冬靴は生活に欠かせないものになる。ちょっと重いのが玉に瑕で、一日履いていると足が疲れてしまう。かと言って、夏場と違って職場で仕事靴と称して裸足にサンダルというわけにもいかないしなあ。
気温が下がって雪が降っているということは、服装も真冬仕様に変えるということである。気温が下がった火曜日から、厚手の上着を引っ張り出して着始めた。うちを出たときは暖かくていいのだけど、マスクをしているせいもあって、歩くことで体内に発生した熱が、うまく発散できなくて、職場につく頃には汗びっしょりになってしまう。前を開けて冷たい空気を入れるなどの対策はするのだけどなかなかうまくいかない。
夏場のくそ暑さで汗をかいてしまって着替えが必要というのはまだ納得できるのだけど、寒さに震える冬に汗をかいて、職場に出て最初にすることが着替えというのは納得いかないものがある。放置すると風邪を引きかねないからなあ。チェコで冬場に着るものを選ぶのは難しいのである。だからこそ、選択がうまくいって、寒いと感じることもなく、汗をかくこともなかったときの喜びは大きいのだが、そんなことで喜べるなんて我ながら安っぽい人間だとは思う。
着用が義務付けられて久しいマスクも悩みの種で、職場に付く頃には濡れて冷たくなっている。今後気温がさらに下がったら、冷たいどころか凍り付いてシャリシャリになってしまうに違いない。その不快感を考えたら、多くの人が自主的な規制緩和を始めてマスクの着用を辞めてしまった気持ちもよくわかる。
まだ年も明けず、初雪が降ったばかりだというのに、春が待ち遠しくて仕方がない。何か毎年同じような愚痴めいた話を書いているような気もするけど、初冬の風物詩だということにしておこう。来年も同じようなことを書くなら、できればマスクなしで書きたいものである。
2020年12月4日21時。
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