二つの大政党は、この状況を両党で、どちらが第一党になっても、連立はしないが、もう一方の党が野党として政権運営に協力するという協定を結ぶことで解決していた。だからこの時期には、少数与党の内閣が誕生することがままあったのである。この状況の抜本的な改善を求めて制定されたのが、第一党の議席が増えやすい現行の選挙法だったらしい。
ドント方式もこのときに導入されており、仮に2017年の選挙でドント方式ではなく、以前の議席配分方式が使われていたとすると、現在の与党ANOと社会民主党に、閣外協力をしている共産党の議席を合わせても半数に届かず、逆に市民民主党、海賊党以下、反バビシュ政権の野党の議席を合わせても半数に届かないという結果になるらしい。そうなると仮の計算ではどちらにも入れなかったオカムラ党が完全にキャスティングボードを握って今以上に存在感を発揮していたということになるから、ドント方式でよかったと思うんだけどね。
憲法裁判所では、政党の数が増えても5パーセントという最低得票率を変えないように求めているようだが、政治家たちはさすがにそれはまずいと考えているようで、現時点ではスロバキアを真似て、当の数が一つ増えるごとに最低得票率を2パーセント増やすという方向で話し合いがまとまりつつある。つまり2党なら7、3党なら9パーセントで議席が獲得できるようになる見込みである。秋の選挙に向けて共同で候補者を立てる交渉が進んでいるので、この辺は切実なのだろう。
もう一つの問題は、恐らくぎりぎりまで合意に達しないであろう。地方を単位に14の選挙区に分けた上で、ドント方式を採用したことで、得票率の高い大政党への優遇が過ぎるというのだが、これは安定した政権をという前回の法改正の理念を完全に否定することになる。ということは、法改正の理念から話し合いを進める必要があるということで、半年で間に合うとは思えない。もちろん、理念など無視して、制度だけ決めるという手もあるだろうけど、憲法裁判所が求めるものとは違った方向に進む可能性も高い。どの党も自党に最も都合のいいルールを求めるはずだし、合意しない可能性も高いか。
そもそも、海賊党と市長連合、市民民主党とTOP09など、野党を中心にこの秋の選挙に向けて共同で候補者名簿を作成する交渉が進んでいるのは、得票率が高い政党ほど有利になる現行の制度を前提にしている。つまり二つの党がそれぞれ10パーセントずつ獲得した場合よりも、共同で20パーセント獲得した場合のほうが議席数が増え、政権獲得に近づくのである。それが、どちらの場合でも差が出ないような制度になるのであれば、これまでの交渉は無駄になる。いや、協定を結ぶことを嫌う支持者の存在を考えると議席を減らす可能性さえ出てくる。だから、今回の憲法裁判所の決定に不満を持っているのは、ANOだけではないはずだ。喜んでいるのは協力相手がなさそうなオカムラ党、共産党ぐらいじゃないだろうか。
個人的には、国会議員を比例代表制で選出すること自体が受け入れがたいのだが、最低でも比例代表で当選した議員が所属政党を離れる場合には議席を失うぐらいの規定は導入してほしいものである。それから、議席獲得のための条件が全国で5パーセントの得票率というのも、選挙区制を導入しているのと矛盾している。全国での得票率に関らず、それぞれの選挙区での議席獲得の条件が5パーセント以上ということになっていれば、一つの選挙区にしか候補者を立てない地域政党が活躍する余地も出てくる。この二点ぐらいなら半年もあれば、合意できるだろう。
抜本的な選挙法の改正を行うなら、今年の選挙の後から始めて、次の選挙に間に合うように、4年かけて行うほうがましだったのではないかと思う。いや、ほぼ確信を持って、現行の選挙法と大差のないものになると断言しておく。一見大きな改正に見えても、優遇する対象、もしくは優遇のやり方が変わるだけで不公平な点では変わらないものになるに違いない。それがチェコという国の政治というものである。
2021年2月5日24時。
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