さすがにこれはちょっとまずかろうということで、運動不足も感じ始めていたし、たまったプラスチックゴミを捨てに行くついでに、残り少なくなったコーヒーを買いにコドーまで足を伸ばすことにした。買い物に行くのでレスピレーターは必須である。ただ直接つけると不快感があるので、先ず布のマスクをつけてその上にレスピレーターを重ねた。このつけ方が禁止されている可能性もなくはないけど、外から見ただけではわからないから、警察に止められることもあるまい。
テレジア門の近くの横断歩道を渡って旧市街に入ったのだが、入り口となる通りのところにパトカーが止まっていて、街に入る人がマスクをしているかどうかチェックしているようだった。街を歩いている人の数は、先週と比べるとずっと減ったような印象で、マスクをしている人の割合も高かったように思う。この一週間の警察の仕事の成果といっていいのだろうか。人出が減ったのは職場での検査のわずらわしさに、在宅勤務に移行した人が多いからに違いない。
コドーの前に薬屋によって歯磨き粉を購入。意外なことにこちらが店に入るまで客は一人もいなかった。暇そうにしていた店員がどの歯磨き粉がいいかの説明までしてくれた。支払いの際に仕事の話になって、オンラインになって云々と言ったら、それでも仕事が続けられるだけましだよと返された。小売業界では廃業や、従業員の解雇が進んでいるから、他人事ではないのだろう。
コドーに向かう通りでも、開店して一年ほどにしかならないペット用品のお店が廃業したのか、店内が空っぽになっていたし、靴屋だったところが、改装中かと思ったら、中身がマスク屋に変わっていた。まだ営業は開始されたいないけど、外から箱入りのレスピレーターが山積みになっているのが見える。確認していないけれども、最近国内の生産量が、台湾から贈られた全自動のマスク生産機械のおかげもあって急激に増えているらしいから、一時品薄になっていたチェコ製のものが買える可能性はある。
去年の春は何とか生き延びたお店も、流石に一年も営業禁止が続くと体力が持たずに倒産廃業となるところが多いのだろう。去年の初めに夢が叶ってようやく開業にこぎつけて喜んでいた人が、すぐに営業禁止を命じられて絶望的な状態に陥ったなんて話も聞くし、政府の規制のせいで仕事を失い貧困に堕ちていく人は少なくない。そして最初の約束とは裏腹に政府からの支援は不十分なものに終わっている。
この感染対策に関しても、もう少し全体的な視点から語れる人がいるといいのだけど、大半は、疫学者が医療崩壊を防ぎ死者を減らすためには全てを閉鎖しなければならないというか、経済の専門家がこのままでは経済が死ぬと主張するかである。社会が支払うべきコストとして、学校で勉強できない生徒、学生たちの未来と、感染しなかった場合に伸びていたはずの人々の寿命、中小企業の寿命、国が抱える赤字の山、どれが最もふさわしいのか、誰か具体的に計算して説明してくれないものかね。
その意味で、フランス政府が学校の閉鎖だけは頑として拒否しているのは、見識のある政策だと感心する。子供たちの教育を至上のものとして、一見反論の仕様のない、命以上に大切なものはないという考えに、屈さないだけの強さがある。命が大切だというのはそのとおりだとしても、誰の命なのかというのをはっきりさせないと意味はないと思うのだけどね。現状では、感染症で亡くなる人の命の重さと、それ以外の死因で亡くなる人の命の重さに違いがありすぎる。政府の仕事は、ピンポイントで現在の特定の病気の死者を減らすことではなくて、総計での死者を減らすことだと思うのだけど。できれば現在だけではなく将来も見通した上でさ。なんてことを、街を歩きながら考えた。
2021年3月17日24時。
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