有声音、無声音というと、何だかわかりにくいが、日本語の五十音表で、カ行やサ行などの濁点をつけることができる音が無声音で、ガ行やザ行などの濁点がついているものが有声音だと考えれば、大きな間違いではない。ただ問題になるのがハ行で、パ行が無声音、バ行が有声音の組み合わせになり、濁点も半濁点もないハ行は浮いてしまうのである。この有声音と無声音の組み合わせに関する発音の困難さもチェコ語にはあるのだが、それについては稿を改める。
例によって日本語の発音から考えてみよう。日本語のハ行の子音は、実は一つではなく三つある。ハ・ヘ・ホの音と、ヒの音と、フの音を発音するときの舌の位置、息の使い方が違うのはわかるだろう。あとはこの中からチェコ語のHとChに近いものを選んで、意識的に発音する練習をするだけだ。まず、日本語のフの発音は、チェコ語を使うときには忘れてしまおう。HでもChでもないのは、もちろんFの音でもないのだから。とは言え、無意識にやってしまうのだけど。
ハ・ヘ・ホを発音するときの舌の位置を確認すると、下のほうにあって、口の中には大きな空間があるはずだ。これがチェコ語のHの音に近いので、舌をこの位置においたまま、ヒとフと発音する練習をして、できるようになったらハヒフヘホを日本語のヒとフが出てこないように発音する練習をする。Hの子音だけの発音は、チェコ語の特質上、語末で子音Hだけを発音することはないので、単独ではなく、hradなどの別の子音の前に来る単語で練習したほうがいい。hradは日本語で書かれた教科書で最初に勉強する男性名詞不活動体硬変化の例として使われる言葉だし、Rの練習にもなるしちょうどいい。
ヒを発音するときには下の先端は下に下がるが、中間は上に盛り上がって、口の中の空間は、ハと発音するときよりも、狭くなっているだろう。この音が、チェコ語のChに近い。日本語ができるチェコ人の「ヒ」の発音が、ときどき母音が消えてChだけになってしまうこともあるので、ほとんど同じだと言ってもいいのかも知れない。
とまれ、このヒと言うときの舌の位置で、ハヒフヘホという練習をするのだが、注意するのはヒャヒヒュヒェヒョと拗音化しないようにすること。拗音化しても、Hとの違いは出せるので、そんなに気にしなくてもいいような気もする。こちらはHと違って語末などでも使われる音なので、子音だけを単独で練習してもいいけど、子音だけを発音するのは難しいから、形容詞の複数の二格など、活用語尾によく出てくる「ých」で練習するのがいいだろう。息を吐きながら「イー」と長く発音し、舌の先端を上に曲げて息の流れを止めてフと言う練習である。
舌の位置なんか意識して発音できないと言う場合には、Hを発音するときには、口の中の奥のほうで音を作ることを意識して、Chは前のほうで音を作る意識をして発音するといい。この説明だと却ってわかりにくいかもしれないなあ。とまれ、Chを発音するときに、あまりに前で音を作ると日本語のフの音になってしまうので注意が必要である。
以上のようなことを考えながら、発音をし分けているのだが、完全に正しい発音をしているかどうかは、チェコ人のみぞ知るである。そしてRとLの場合と同じく、自分の発音を耳で聞いて、聞き分ける自信はまったくない。普段話すときに問題なく使えている言葉であっても、つづりを覚えていないと、どう書くのかわからず、メールなんかで使うたびに辞書を引くなんてこともある。当然チェコ人の発音を聞いても、区別はできない。
それにHとChは有声音と無声音のペアをなしているので、理論上は、HをChで、ChをHで発音しなければならない場合も出てくる。そもそも、日本語のハの音とヒの音の関係が、カとガ、サとザなんかの関係と同じだと認識すること自体が、不可能に近い。その分、RとLの問題よりも厄介なのだ。
さらに日本人にとって厄介なのは、カタカナ表記をどうするかという問題である。ハ行に関る音の中でFの音は、まったく同じにはならないがフで、母音が付く場合にはファフィフフェフォで書き表せばいい。HとChの音をどう表記するかが問題である。
個人的には、日本語のカタカナ表記は子音だけを音写するときにはウ段のカタカナで書くという原則があるので、どちらもフで書いて、母音が付いたものもハヒフヘホで書き表すようにしている。ただHの子音をハやホで書く人もいるし、Chをヒで書く人もいる。自己流の表記法でも、カタカナのフは、いくつもの音に対応させることになるので、カタカナ表記からチェコ語の表記に戻すのが大変である。ルビつきの教科書を使っていると、チェコ語の単語をアルファベットではなくカタカナで覚えていることもあるし。カタカナ表記というものは、便利なものではあるのだけど、厄介な部分もあるのだ。
8月10日10時。
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