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2017年03月19日

カタカナの罪(三月十六日)




 このブログにも散々書き散らしているチェコ語の発音の難しいところ、文法的に理解できないところに対する憤懣を、思いつく先から口に出していたら予定の時間が過ぎていたという感じである。なんだかんだで90分近くくっちゃべったかな。それでも、まだまだ言いそびれてしまったことはいくつもあるのだ。チェコ語ってものも業が深いねえ。

 さて、今までチェコ語の発音自体の難しさについて、ルールの難解さについては書いてきたけれども、これは日本人に限った問題ではない。日本人独特の問題があるとすれば、それはカタカナ表記である。チェコ語に限らず語学の教科書には必ずと言っていいほど、アルファベットの上にカタカナ表記で読み方が書かれている。一見便利なそのカタカナでの発音表記が、日本人が外国語の発音があまりうまくならない原因の一つになっている。


 Vだって、最近は日本語の文章中に氾濫しているせいで、ヴァヴィヴヴェヴォと書かれていても、ほとんど自動的にBで読んでしまうことが多いのではなかろうか。日本語で書かれた文章でヴァをバで読んでしまえば、語学のテキストを使っているときでも、気を抜くとヴァがバになってしまうのは仕方がない気がする。
 中学時代に初めて使った英語の教科書には、単語の後に発音記号が付けられていた。あれのおかげで発音が正しくできるようになったとは言わないが、カタカナで書くと同じになる音でも、発音記号の違いで別な音であることが意識できていたような気がする。そのおかげで、正しいかどうかはともかく、カタカナでは書けない発音をしていたんじゃなかったか。それとも、役に立ったのは、テストの発音の問題だけだったかな。耳で聞いてもわからなくても、発音記号を覚えていれば点は取れたのだ。

 チェコ語でカタカナのせいで発音が、ちょっと変になっているものとしては、tiとdiが第一に挙げられる。チェコ語関係者が、tiはティではなくチだと必要以上に喧伝してしまったために、本来ティでもチでもないtiをチで発音してしまう日本人のチェコ語学習者は多い。しかも、かつてはティという音すら、直音化させてチと表記してきた日本人である。ティさえもチで発音してしまう人もいかねないのである。
 diのほうも事情は同じでジと発音してしまう人が多い。中にはヂと表記して区別しようとする人もいるが、カタカナではヂ、ヅは使わないのが原則だし、ダ行で書いても発音がジ、ズになってしまうのは言うまでもない。むしろ問題は、チェコ人の耳には、日本人の発音するジがチェコ語のジとは微妙に違って聞こえるらしいことだ。正直説明されても聞き取れないのだが、ジの前にD音を発音しているように聞こえるのだという。その場合、そのジの音がチェコ語のdiの音に近づくのか、遠のくのかはわからない。
 外国語の学習をするときに、発音のカタカナ表記が付いているのは一見便利なのだけど、カタカナ発音が一度定着してしまうと、なかなか矯正は難しい。

 だから自分では、チェコ語でVの音を発音するときに、意識して発音しているときはともかく、疲れたり酔っ払ったりしていい加減に発音しているときは、適当にBで代用しているものだと思っていた。そんなことを、日本人はみんなそうなんだよと、自分のことを例にあげて説明をしたら、怪訝な顔をされてしまった。どうも自分ではVと発音できていないと思っているのに、実際には発音できているらしい。うーん、どういうこっちゃ。自分でもわからん。
 だからと言って、V発音に問題がないわけではない。意識的にであれ、無意識にであれ正しく発音できるのは、つづりをしっかり覚えている言葉だけなのだ。自分の発音すら正確に聞き取れない人間が、正しい、いや類似した音を区別して発音するためには、それぞれの言葉のつづりを覚えるしかないのである。いつまでもカタカナ表記に頼っていると、カタカナでは言えるけれどもつづりは書けないということになりかねない。さて、それに気づいてチェコ語で話すときにはカタカナを忘れるようにしはじめたのは、いつだったのだろうか。やはりこちらに来てからということになりそうだ。
 十年以上のときを経て、Vの発音ができるようになっていたのは嬉しい。しかし、耳がいつまでたっても聞き取れるようにならないのは悔しい。悔しいけれどもこれはもうしかたがないと諦めている。口や舌の動きは、チェコ語に合わせて何とか訓練できても、耳はいつまでたっても日本語耳のままである。
3月18日11時。


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