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2017年07月06日

ホドニーンHodonín(七月三日)





 思い出してみると、初めてホドニーンの町に入ったのは、スロバキアからだった。友人に誘われて、うちのと三人で、ストラージュニツェから自転車で、国境を越えスロバキアに入って、チェコに戻ってくるというサイクリングを敢行したのだ。チェコに戻ってきたところがホドニーンだったのである。あの時は、通過しただけでホドニーンで何をしたというわけでもないのだけど。
 当時はまだシェンゲンに入っていないころでパスポートコントロールを受けるたびに、パスポートに入国スタンプが押され、入国の方法によって日付のスタンプが違っていた。空港の場合には飛行機、鉄道の場合には機関車が、日付の周囲にあしらわれていた。そこで考えたわけだ。自動車で入国したら自動車だろう。では自転車で出入りしたららどうなるんだろうと。


 チェコ語ができる外国人の役割の一つ、つまりは言葉がしゃべれる珍獣の役を大過なくこなして、戻ってきたパスポートを見たら、日付の周りにあったのは、自転車ではなく自動車だった。当時は今ほどジョギングとかサイクリングとかはブームになっていなかったので、自転車で国境を超える人なんて地元の人を除けば、ほとんどいなかったのだろう。友人が何で自転車じゃないんだよと抗議したら、来るか来ないかわからない自転車のために別のスタンプを準備するなんてできないとか何とか答が返ってきた。

 その後、スロバキア側のスカリツァとホリーチを通って、観光するようなところもなかったから、せいぜいお昼ご飯を食べたぐらいだと思うけど、モラバ川を越えてホドニーンに入ったのである。こちらは幹線道路で、交通量も多く、パスポートコントロールの窓口もいくつもあって、普通の自動車とトラックは別になっていたのかな。よくわからない中、車の間をすり抜けるようにしてパスポートの提出をしたら、あっさりと通過の許可が出た。忙しくて日本人なんかにはかまっていられないというところだったのだろう。問題があったらどうしようとか、出国してその日に入国だしさ、考えていたのにちょっと拍子抜けだった。

 そうやって戻ってきたホドニーンという町は、チェコ、チェコスロバキアにとって非常に重要な町である。第一次世界大戦後のチェコスロバキアの独立に大きな貢献をし、初代大統領に選ばれたトマーシュ・ガリク・マサリクの出身地なのである。マサリク大統領は、ドイツ人の農場で働いていたスロバキア人の父とチェコ人の母の間に、チェコとスロバキアの国境(当時はオーストリアとハンガリーの国境)近くに生まれるというチェコスロバキアを代表するにふさわしい出生の人物だといえる。当時はこの辺りもドイツ化がかなり進み、マサリク大統領もドイツ語環境で育ったため、チェコ語は学校で学んで身につけたという話を聞いた覚えがある。
 ビロード革命の後、共産主義的な通りや広場の名前の改称が行なわれ、各地にマサリク広場が誕生したわけだが、ホドニーンの中心の広場がマサリク広場と呼ばれているのには、ちゃんとした理由があるのだ。マサリク大統領を記念した博物館も置かれているし。

 二度目にホドニーンに出かけたのは、サマースクールで知り合った後輩が、大学卒業と就職を前に再度チェコ旅行だと言ってやってきたときのことだった。日本語ぺらぺらの畏友に紹介すべく出身地のホドニーンに出かけたのだ。あの時はマサリク広場の近くの自家製ビールを飲ませる飲み屋で夕食をとったのは覚えているのだけど、ホドニーンで何をしたかは全く覚えていない。

 ホドニーン近郊では、共産主義の時代から原油の採掘が行われており、使用されなくなった油井が何の処置もなく放置されていて、原油が染み出してきて環境汚染の問題になっているとか、中国資本が、ドナウ川とモラバ川を使った船舶の輸送能力の拡充のために貨物の集積場を建設すると言い出したとか、サッカー協会と教育省を舞台にした補助金スキャンダルで問題にされた補助金が向かったのがホドニーンのサッカークラブだったとか、あんまりいいニュースを聞いた覚えがない。
 そう言えば、ホドニーンに正体不明の(いや知ってるけど)日本人DJが出没するらしい。以前はチェコでは日本語ではこんなところには書けない名前で活動していて、将来は日本でチェコ語でこんなところには書けない名前で活動したいと言っていたのだけど、今でも同じ名前で続けているのだろうか。本拠地は北モラビアのはずなのに、いつの間にか南モラビアのホドニーンにまで進出していたのである。モラビアを制覇して、ボヘミア進出の日も近いかも。これがホドニーンに関するいいニュースと言えるのかな。
7月4日23時。






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