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2017年09月17日

如何に名詞の性を誤認せしか、或は男性名詞活動体落穂拾い1(九月十四日)




 ポーランド語にあるという男性名詞人間形が、チェコ語の男性名詞活動体とどう違うのかも気になったけれども、「ひなどりと伯爵」という文章に、それがあったかと思わず声を挙げそうになってしまった。ここまで男性名詞活動体についてあれこれ書いてこれ以上書くことはないと思い込んでいたのだが、伯爵が残っていたことに気づかされたのである。伯爵だけじゃなくて侯爵もだけどさ。

 チェコ語で爵位を持つ人を表す言葉は、公爵が「vévoda」、シュバルツェンベルク氏を呼ぶのに使われる侯爵が「kní?e」、伯爵が「hrab?」、男爵が「baron」で、子爵は知らん。すべて男性名詞活動体で、公爵と男爵については、問題ないはずである。しかし、侯爵と伯爵については、「e」で終わるからと言って、「soudce」と同じ格変化にはならないのである。

 ここで中性名詞の格変化表を紹介しても意味がないので、「hrab?」の格変化を紹介すると、以下のようになる。

1格 hrab-?
2格 hrab-?te
3格 hrab-?ti
4格 hrab-?te
5格 hrab-?
6格 hrab-?ti
7格 hrab-?tem

 厄介なことにどこからかTが出てきてそれに語尾を付けることになるのである。男性名詞の活動体でありながら3格と6格の語尾に「-ovi」が出てこないのは注意が必要である。中性名詞の「ku?e」との違いは4格で、中性名詞は必ず1格と同じになるが、男性名詞の活動体なので2格と同じ形をとる。
 さらに厄介なのは、単数では男性名詞活動体であるが、複数になると中性名詞扱いとなり、格変化だけでなく前につく形容詞なども中性名詞につくときの形にしなければならないことである。単数と複数で姓が変わるものとしては、単数では中性で「ku?e」と同じ変化をする「dít?(=子供)」が複数では女性名詞になることを知っている人もいるだろうが、伯爵は男性から中性に変わるのである。
 幸いなのは伯爵型の男性名詞活動体がほとんど存在しないことである。いや、固有名詞を除けば伯爵と侯爵の二つしかないはずだし、こんな時代錯誤な言葉は滅多に使うものではないので、覚えていなくても仕方がないのだと、失念していたことを自己弁護しておく。

 ただし、伯爵もそうだが、中性名詞の「ku?e」型の変化をする言葉が、特に動物の子供をさすものが多いのだけど、姓として使われていることがある。もちろん男性を指すのでその場合には、「ku?e」ではなく、伯爵と同じように格変化させなければならない。女性の名字について言えば、男性の「Dít?」さんが女性の「Dít?tová」さんになり、「Hrab?」さんが「Hrab?tová」さんになるというように、名字の女性形を作る際にもTが出てくるのである。これについては例外もあるらしいけれども。
 こんなの覚えたくないという人は、この手の名字の人とは知り合いにならないか、名字を拒否して名前で呼び続けるしかない。

 こんなことを考えていたら、男性名詞活動体にはさらにとんでもないものがあるのを思い出した。それはギリシャ神話に出てくる神様ゼウスの格変化である。男神なので男性名詞活動体なのは問題ないのだが、1格から2格以降の変化が全く想像もできないのである。2格以降は普通の男性名詞活動体と同じだからそれはいいのだけど、ゼウスが格変化したものだとは思えない。複数が存在しないのをこれほど喜びたくなる名詞は他にはあるまい。

1格 Zeus
2格 Di-a
3格 Di-ovi
4格 Di-a
5格 Di-e
6格 Di-ovi
7格 Di-em

いかがだろうか。母音に格変化の語尾の母音が直結しているあたりも気持ち悪いと感じる人がいるかもしれない。それは多分チェコ語の格変化になじんできた証拠である。こんな気持ちの悪い母音の連続は原則として外来語にしか発生しない例外なのだから。
 ゼウスなんて言葉は、チェコ語でギリシャ神話について読んだり話したりしない限りは必要のない言葉である。チェコ人でも知らない人もいるだろうから、嫌がらせに質問してみるのも楽しい。

 このゼウスの格変化を確認するために使ったのが
https://studentmag.topzine.cz/11-slov-ktera-spousta-lidi-sklonuje-spatne-nechybujete-v-nich-i-vy/
で、これを見ていて、自分の勘違いに気づくことになるのだが、これについては稿を改めることにする。
9月15日17時。





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