この選挙も、原則として政党、もしくは政治グループ単位で候補者名簿を作って立候補する。田舎の小さい町などの場合には、政党に関係する人が少ないので、考えが近い人たちでグループを作って独自の候補者名簿を作ったり、無所属候補だけの名簿を作成したりするようである。さらに小さいところだと、定員ぎりぎりの候補者しか出ず、統一名簿で実質的に信任投票のようなものになるところもあるし、借金漬けの自治体の中には、候補者が出ずに選挙が成立せず、内務省の派遣する役人が町長代理をするところもあるらしい。そんな町では予算の執行などに問題が発生するとかニュースで言っていたのを思い出す。
人口が少なく候補者も少ない小さな町はともかく、プラハやブルノなどの大都市で初めて市議会選挙に臨む有権者は、投票用紙を見て驚くに違いない。下院の選挙でもすべての党、グループの候補者名簿が渡されたが、あちらが政党別に一枚の紙になっているのに対して、こちらの選挙ではすべての名簿が一枚の紙に印刷されているのである。印刷するのも、それを折りたたんで投票用の封筒に入るサイズにするのにも、かなり手間がかかっていそうである。
一枚の紙に印刷されている理由は簡単で、有権者が政党、グループの枠を超えて投票する相手を選べるからである。市町村議会の選挙は、政党単位で候補者名簿は作成するけれども、政党に投票しなければならないというわけではない。政党に投票することもできるし、個人に投票することもでき、さらにはこの二つの方法を組み合わせることもできるのである。
これだけだとわかりにくいだろうから具体的に説明をすると、投票用紙の一番上には、議員の定数が印刷されている。その下には政党、グループの名称が記され、その前に四角い箱がある。政党に投票したい場合には、この四角に×印を書く。そうすると、政党名の下に並んでいる候補者全員に1票投じたことになるらしい。これが一番簡単な投票のしかたで、これから考えると、名簿に載せる候補者の数は原則として議員定数と同じになっているのだろう。
二つ目の方法は、各政党名の下に並んでいる候補者名簿の中から、政党の枠を超えて投票したい人の名前の前にある四角に×印を入れる方法である。印をつけた人たちに一票ずつ入るようである。ただし、この方法を選んだ場合には、×印の数が投票用紙の上に印された定数を越えないように注意しなければならない。少ない分には有効票になるようだが、一つでも多く印をつけると無効票になるらしい。候補者数も定員も少ない小さな町や村なら簡単だろうが、大きな町だと、数を確認しながら印をつけていくのは大変そうで、無効票が増えそうである。
そこで、なのかどうかはわからないが、三つ目の方法が存在する。それは二つの組み合わせで、まず特に支持したい政党に印をつけた後、他の政党の候補者の中から自分が票を入れたい人を選んで印をつけるというほうほうである。この場合、印をつけた他の政党の候補者の数と、最初に選んだ政党候補者の数が合わせて議員定数になるように、政党の名簿の上から順番に必要人数分票が与えられる。つまり定数が30で、他の政党の候補者14人に印をつけた場合、選んだ政党の名簿の上位16人に票を入れたことになるのである。
これ、有権者の投票も大変だけど、開票と集計はさらに大変なことになりそうである。恐らくは最初の政党を選ぶ投票方式を選ぶ人が多いから何とか成り立っているのではないだろうか。
さらによくわからないのが議席の配分のしかたで、個々の候補者が獲得した票の数に基づいて、順位を付けて上から定数分が当選になるのではないようなのである。どうもまず得票率によって各政党の獲得議席数が配分され、そのあと個々の名簿内で獲得票の多い順に当選という制度になっているようである。いや、この時点で、個人の獲得票数が絶対なのか、名簿の順位が基準で個人票によって順位が上下した後の順位で決まるのかはよくわからない。
今回の選挙で、フセティーン市議会にキリスト教民主同盟の名簿最下位で立候補したらしいチュネク氏は、元市長でこの地域では絶大の人気を誇るのだが、当選できなかったというから、名簿順が優先されるのかなあ。違うかなあ。ちなみにチュネク氏はフセティーンを中心とする選挙区で上院議員選挙にも立候補しており、こちらは一回目の選挙で50パーセントを越える票を獲得して早々と当選を決めている。それに加えてフセティーンが属するズリーン地方の知事も務めているのだから何というかかんというか。
この市町村議会選挙を簡単にまとめると、候補者名簿を使った比例代表式と個人投票方式のよく言えばハイブリッド方式で、有権者は議員定数の数だけ、票を有しており、最大で定数と同じ数まで候補者を選ぶことができる。簡単にもなっていければ、まとまってもいないのは制度がややこしすぎるせいである。チェコテレビでは、すべての市町村議会選挙における票を集計してだした全国の政党別の得票率を出していたけれども、あれなんてどうやって計算するのだろうか。一人=一票になるように、個人になされた投票は、定員数で割った少数にして政党の得票にしているのかなあ。
日本人の目にはややこしいだけで、全くいいところのない選挙のやり方に見えるのだが、返ることなく続けているということはどこかにいいところもあるのだろう。他の選挙においても、実際に投票には使用しないのに候補者や、候補を立てた政党に抽選で番号を割り振る理由とか、チェコの選挙にはよくわからないことが多い。一つ言えるのは、投票用紙に政党名、候補者の名前が印刷されているので、チェコの有権者は投票に際して、文字を書く必要はないということである。チェコの有権者はそこまで配慮しなくてもいいと思うけどねえ。
プラハでは市議会選挙に加えて、区会議員の選挙も同じ方式で行なわれ、一部の地区では上院議員の選挙も行なわれたため、下院の選挙や大統領選挙のときよりも開票作業に時間がかかっていたようで、開票速報では、上院の選挙のプラハの選挙区だけなかなか最初の数字が出てこなかった。一番長くかかったところで午前三時過ぎまでかかったとか言っていたかな。
ということで次は結果の紹介である。
2018年10月10日20時30分。
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