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2011.04.07
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カテゴリ: 経済
引用の続きです。
まだまだ続きます。請うご期待。

「資本主義はなぜ自壊したのか」中谷巌著、集英社文庫、2011年刊

<金融立国の破綻>p103~106
 そもそもアメリカ経済は規模が大きいこともあって輸出依存型ではなく、国内経済だけで自己充足的に動く経済体質を持っていた。1970年代までは、アメリカ産業の中心は製造業であり、国際展開をすると言っても、せいぜい海外に製造拠点を移してそれぞれの国で実績を上げるという形態でとどまっていた。
 しかし、1980年頃までにアメリカ産業の中心であった自動車産業や家電産業など主要な製造業が日本やドイツなどに追いつかれ、競争力を失っていった。このため、日本に対しては通商摩擦が引き起こされ、日本市場は閉鎖的でアンフェアだと断定されることになったが、これは製造業が競争力を失うとアメリカ経済が成り立たないという危機感が強かったからである。
 しかし、1990年頃になって、アメリカ産業の中心はデトロイトなど中西部から東海岸の金融業と西海岸の情報通信産業にシフトしていく。アメリカの戦略としては、東西冷戦が終わり、東側諸国がグローバル経済に参画してくる中で、金融業と情報通信産業に活路を見出したのであった。1990年代に入って飛躍的に発展を始めたグローバル資本主義がアメリカを中心に進んだのは、グローバル化に適した金融と情報通信で競争優位を確立することに成功したからである。
 情報通信については多くの言葉を必要としない。マイクロソフトやインテルなどがデファクト・スタンダードを作り上げ、世界市場を席巻した。今世紀に入ってからはグーグルのようなネット企業が信じられないほどの大成功を収めた。他方、GMやフォードなど、かってのアメリカ経済を支えた巨大製造企業が経営危機に陥っているが、金融や情報通信の分野で圧倒的な優位を築いたアメリカはかってのように通商摩擦を仕掛けることもしなくなった。アメリカの産業構造が製造業中心から、金融と情報通信産業中心に大きくシフトしたからである。
 1990年代後半になると、ニューエコノミー論が台頭した。つまり、アメリカ経済は金融と情報通信産業の産み出す継続的イノベーションの結果、かっての資本主義経済の宿命であった景気循環を克服し、長期にわたる継続的成長が可能になるという学説である。そのニューエコノミー論の一翼を担ったのがアメリカの金融業界、特にゴールドマン・サックス、モルガンスタンレーなどの投資銀行の「レバレッジ経営」ビジネスモデルであった。 結局、レバレッジ経営でわが世の春を謳歌してきたアメリカの投資銀行は、巨大な金融商品のマーケットを作り、巨大な利益を得たが、しかし、肥大化したマーケットを支配していたつもりが最終的にはモンスター化したマーケットに翻弄される結果となった。
 アメリカは、製造業中心の経済から、金融とITに立脚した「金融立国」への脱皮を目指したわけだが、それがついに挫折したのである。バブルに浮かれ、借金を重ねて身の丈以上の消費に走った国民も、今やその被害者となった。アメリカ主導の金融資本主義(グローバル資本主義)は、ついに「破綻」したのである。 



<アメリカ流資本主義の暴力性>p202~203
 今回のサブプライム・ローン問題が引き起こした影響があまりにも巨大なものになったことに世界中の市場関係者はショックを受けた。無制限に国境を越えて資本が移動することがもたらすグローバル資本主義の「負の側面」が、今回の危機で明らかになったからである。
 金融取引は通常の財の取引に比べると振幅が大きい。というのも、近年の金融工学の発達によって、限られた資金であってもそれにレバレッジを利かせることが可能になった。すなわち元金の何倍、何十倍、いや場合によると数百倍もの「賭け金」で、金融取引に参加できるようになったのである。日本でも為替取引の一種であるFXに、主婦や学生までもがのめり込んだのも、元金の100倍以上もの信用取引ができるからである。
 こうした金融取引は、上昇気流に乗っているときにはどんどん相場が上がっていくが、ひとたび下降気流に乗ってしまうと怖い。実体のない「バブル」が崩壊すると、最悪の場合には金融恐慌に至る。そこまで行かなくても、金融相場が振れすぎるために実体経済が大きく影響を受けてしまう。言い換えるならば、今やグローバル資本主義は実体経済に対して一種の「暴力性」を持つようになり、それだけ世界経済の安定性が根本的なところで失われてしまっているということなのである。
 したがって、かりに今回の金融危機がいったんは回避できたとしても、グローバル資本主義を従来どおりに「放任」していれば、いずれ起きるのは間違いない。さすがにアメリカの金融当局、あるいは政府もそこまでは愚かではないと信じたい。
 実際、今回の危機でリーマン・ブラザーズは破綻したし、メリル・リンチはバアンクオブアメリカに吸収合併された。これまで大変な収益を上げてきた証券会社(投資銀行)上位二社、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーも金融持株会社化された。業界の再編成が急ピッチで起きているというわけである。
 しかも、二大証券会社が金融持株会社の傘下に入ったということの意味は大きい。というのも、これによって、これらの証券会社は間接的であれ、米連邦準備制度理事会(FRB)の規制下に入ったからである。つまり、これまでのような野放図ともいえる「自己資本を大幅に上回って資産を膨張させるレバレッジ経営」はできなくなることを意味する。これで権勢を誇ってきたアメリカ系の証券会社はすっかりおとなしくなるはずだ。 



<宗教国家>p216~220
 「予定説」の教義は非キリスト教者にとっては、きわめて難解なものではあるが、そのエッセンスだけを述べれば、カルヴァンの神学は、神とは人間の理解を超越した、全能なる存在であるということが大前提となっている。
 このような全能なる神の前には、人間の信仰などはあまりにも小さな力しか持っていない。したがって、いくら人間が熱心に神に働きかけたところで、神の決断を変えることはできない。救われるか救われないかは、すでに神が予定していて、変更の余地などない-だから、「予定説」なのである。
 日本人のように、一神教に慣れていない人間から見れば「最初から救済されるかどうかが決まっていて、人間にはもはや努力の余地が残されていないというのは、信仰そのものを否定するものではないか」と思えてしまうのだが、カルヴァンの信仰体系を受け入れた人たちはますます篤い信仰を持つことになる。というのも、自分たちがすでに「神に選ばれている」と信じることができるならば、どのような試練も乗り越えられるからである。自分たちがかならず救済されると思っているのだから、怖いものはないし、心配することは何もない。一歩間違えれば狂信にもつながりかねない強さがカルヴァン主義にはあるのである。
 そこで話を戻せば、1630年に新大陸にやってきたウィンスロップたちは、まさしくカルヴァン主義者であった。
(中略)

さて、ウィンスロップたちのようなカルヴァン主義者たちがいて、世界の規範となるべき「理想の国」を作り上げたいという、彼らの強い決意がのちのアメリカ建国につながるということを理解すれば、どうしてアメリカが世界中に民主主義と市場原理を「布教」しなくてはいけないと、まるで強迫観念のように考えているかも理解できるというものであろう。
 彼らにとってみれば、アメリカが理想的国家を作ること、そしてその理想の光を世界中に及ぼすことは「神から与えられた使命」であると同時に、それが達成できなければ、それはアメリカが神の祝福を受けていないことの証明になってしまう-アメリカが外国にアグレッシヴに自己の信念や理想を広めていこうと考えるのは、単なる善意や信念からではない。
 アメリカという国家の存立は、ひとえにアメリカが「理想の国」、聖書に言う「山の上の町」であるかどうかにかかっている。神から与えられた崇高な理念を果たせなければ、それはアメリカ自身が奈落の底に落ちることになる。だからこそ、アメリカはどのような手段を使っても、イラクやアフガンを民主化し、また、世界に市場原理を広めなくてはいけないのである。
 その意味では、今でもアメリカは紛うことなき「宗教国家」なのである。
 ブッシュ大統領がイラク戦争を始めるにあたって「十字軍」という言葉が思わず口をついて出て、世界の顰蹙を買ったのも、おそらくこのような「宗教国家」としての性格がアメリカ人の背骨に深く刻み込まれているためであろう。
 いかにヨーロッパなど諸外国から批判されても、イラク駐留を止められないというのも、この観点から考えれば理解しやすい。それはアメリカにとっての国益保持ももちろん関係はしているが、同時に「ここで後退することは、神から与えられたアメリカの崇高な使命を放棄することになる」という恐怖心も大きく関係するものではないか。アメリカがかってベトナム戦争からなかなか撤退できなかったのも、そうした十字軍的心性が大きく影響していると見れば、なるほど分かりやすいと思うのである。
 ちなみに中西氏の解説によれば、アメリカが時として孤立主義(いわゆるモンロー主義)に陥るのは、こうした「宗教国家」としての性質に矛盾するわけでもないという。 


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Last updated  2011.04.07 08:56:41
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