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2011.05.04
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カテゴリ: 経済
「フレンチ・パラドックス」紹介の続きです。

「フレンチ・パラドックス」榊原英資著、文芸春秋社、2010年刊
p118~121

<日本の少子化の原因>
 日本では2003年に「少子化社会対策基本法」が制定され、この法律に基づき翌2004年から毎年、政府が『少子化社会白書』を発表しています。
 そこで少子化の背景として「高学歴化から来る晩婚化」や「結婚・出産に対する価値観の変化」と並んで挙げられるているのが、「仕事と子育てを両立できる環境整備の遅れ」「子育て費用や教育費の負担」「経済的不安定の増大」といった経済的理由です。
 日本では、女性の高学歴化とともに1980年代から特に若い世代の女性の労働力率が上昇してきましたが、一方で女性が仕事と子育てを両立できる環境の整備は遅れており、初めて子供を出産した母親の場合、出産前に仕事を持っていた人のうち67%、三人に二人が、出産後には無職となっています。
 また「父親が仕事優先という傾向にあり、家事や育児にあてる時間が極端に少なく、母親の負担をより重くしている」とも指摘されています。
 日本で働く女性にとっては、出産・育児を選択することは基本的に、「仕事を捨てること」を意味しているのです。
 教育費用の問題も深刻です。
 高学歴化に伴い、日本では子供の教育費用が非常に高くなっており、同白書では「幼稚園から大学までの費用は、公立か私立により変わってくるが、概ね約1400万円から約2000万円かかっている」としています。
 これだけの費用をまかない、かつ出産によって女性は職を失ってしまうわけですから、よほど夫の収入が高くかつ安定していない限り、子供は持てないか、持ててもせいぜい二人まで、となってしまうのは当然でしょう。
(中略)
 結局、日本では近年のライフスタイルの変化に加え、社会格差の広がりによって、一部の富裕層以外は経済的に多くの子供を持てなくなってしまったのです。出生率が下がっているのは、こうした問題に対して政府が十分な対策を講じていないため、ともいえます。 フランスの出生率が高いのは、その日本とは逆の事情があるからです。
 すなわち、「仕事と子育てを両立できる環境」が整備されており、「子育て費用や教育費用の負担」が少なく、「経済的な安定」が確保されている、ということです。
 これは決して自然に達成されたものではなくて、フランス国民が重い負担を覚悟して大きな政府を持ち、高齢世代だけでなく若い子育て世代にも十分な社会保障を行う社会を作り上げたことで、初めて実現された環境なのです。
 社会保障が充実した格差の少ない社会は、子育てにも適した社会なのです。


p149~152

<どんな国をモデルとすべきか>
 先進的な福祉国家といわれたとき、日本ではまず名前が挙がってくるのが、スウェーデン、フィンランドといった北欧のスカンジナビア諸国です。
 北欧諸国は大きな政府で、国民負担率も前述のように高くなっています。福祉先進国であって、教育、雇用、年金、医療などどれも充実している上に、企業活動も活発で、市場における競争力も世界でトップクラスと認められています。
 北欧企業の優れているところは、自国だけではマーケットが小さすぎるので、常に世界に販路を広げる努力をしてきたことでしょう。フィンランドのノキアにしても、スウェーデンのイケアにしても、スカンジナビアから出てEUに、さらにアメリカやアジアも含むインターナショナルな企業になることを目指して成長していったのです。他にもノルウェーのソフトウェア企業が開発するウェブブラウザのオペラや証券取引所OMXなど、多くの国際的な競争力を持った企業が存在します。
 「World Economic Forum」が発表している「The Global Competitiveness Report2009-2010」でも、一位スイス、二位アメリカ、三位シンガポール、四位スウェーデン、五位デンマーク、六位フィンランドと、北欧諸国が軒並み上位に入っています。
 高福祉国家の競争力が社会主義国並みに弱いなどということは、まったくないことがわかります。
 ただスカンジナビア諸国はいずれも国家としての規模が小さくて、それが日本の目指すべきモデルとはいいにくい面があります。
 一番人口の多いスウェーデンで900万人程度で、それ以外ではフィンランドとデンマークで500万人台、ノルウェーは400万人台なのです。
 スウェーデンは人口は日本の十分の一以下なのに、国土面積は45万平方キロと、同37万平方キロの日本よりずっと広いのです。
(中略)
 国民負担率が極端に高い国という形態にしても、小国だからできるという面があります。行政と住民の距離が近く、行政のやっていることに市民の目が行き届くから、市民の側に納得感が出やすいのです。
 北欧諸国は「大きな政府」ではあるけれども、同時に「近い政府」でもあるのです。そこが人口数千万クラスの国との違いでしょう。
 北欧諸国の良さを取り入れるべきところは、地方分権を進めて、行政を市民の身近なものとしていくところでしょう。
 同様にシンガポールやマレーシアのような開発独裁モデルというのも、有効に機能するとしたら、小国でないと無理でしょう。
 シンガポールは、リー・クアン・ユーという先見の明を持った独裁的なリーダーが作り上げた国家ですが、やはり総人口は500万人ほどです。リー・クアン・ユーが独裁者でありながらシンガポール国民の支持を受けたのも、開発独裁を進める一方で、国民一人ひとりに住宅を与えるといった、国民の目に見える形で利益を還元していったからです。
 中国は一時シンガポールのような開発独裁を指向していたのですが、あまり成功はしませんでした。今の中国は大官僚組織になってしまっていて独裁国家からは程遠い現状になっています。
 シンガポールは現在、ポスト製造業の社会に進みつつあって、サービス産業を中心として中でも金融に特化しています。それはそれで一つのモデルなのですが、金融だけで食べていこうというのは、日本の場合には無理があります。
 その意味で、日本の参考になるのはヨーロッパの大国でしょう。
 フランス(6400万人)、ドイツ(8200万人)、イギリス(6100万人)といった国々。
 先の章でも述べましたが、こうした国々は格差の大きくなりやすい統合された市場経済のなかで、所得再配分制度を大きくすることで、格差を縮める努力を行っています。
 そのため、国民負担率もアメリカと比べて比較的重い「大きな政府」を採っている国々です。
 これまでフランスの例を詳細に見てきましたが、私はこれからの日本が採るべき国家のモデルは、このヨーロッパ型にあると考えています。


この後に榊原さん独特の国債発行論になりますが、そのまま紹介します。
p155~159

<当面の政策の財源は国債発行で>
 国民の間では、民主党政権が予算を大きく拡大する一方で財源の手当は行わず、国債発行額が44兆円以上にも膨れ上がったことに対して、どうしても不安があります。一部には放漫財政という批判も出ています。
 しかしここで一度立ち止まって考えてみてください。これらの支出を将来の日本の成長を担保するための必要経費と位置づけるのです。たしかに短期的には財政は悪化します。しかし、出生率が回復し、若年層が増え、国内市場が大きくなっていけば、長期的には経済は回復していきます。

 ここで原点に立ち返って、「国債を発行するということは、どういう意味を持っているのか」を考えましょう。
 一章で触れたように現在の日本経済は、一時期の底は脱したものの、構造的なデフレ下の不況にあります。
 不況とは、モノはあるのに売れない、人間はいるのに仕事がないということで、経済学的にいうなら、需要が不足している状態です。
(中略)
 需要が不足しているために不況になっているわけですが、「そうであれば、政府が財政支出を増やすことで需要を底上げする」というのがケインズ経済学の考え方です。
 しかし、財政支出を増やすにしても、そのために税金を増やしてしまったら、人びとの可処分所得は増えません。増税で消費や投資が減って、かえって不況を深刻化させてしまいかねません。
 そこで政府は増税する代わりに国債を発行し、それによって調達した資金を財政支出に振り向けるのです。
 つまり国債発行とは本来、政府が景気を刺激する際に行うものなのです。
 さらにいうなら、現在のように金融危機を伴うような深刻な世界不況の際は、むしろ積極的に国債を発行し、財政を維持するだけでなく拡大し、景気を刺激すべきなのです。 
(中略)
 確かに日本政府の財政状態は良くありません。
 2010年度の場合、新規発行の国債が44兆円以上となるのに加え、これまで発行した国債の返済にあてる借款債が100兆円規模に上るため、年間の国債発行額は140兆円以上にも達し、過去最大を更新する見込みです。
 これでは国民が不安になるのも無理はないかもしれません。
 しかし、一つ押さえておきたいことがあります。
 国際は確かに政府の借金ではあるのですが、それを外国人ではなく、日本人や日本の企業が買っている限りは、国としての日本の借金(対外債務)にはならないということです。
 日本国債を今、誰が買っているかというと、多くは日本国内の機関投資家なのです。日本では、新しく発行される国債の94%は国内の機関投資家などが引き受けています。
 機関投資家とは、銀行や保険会社のことです。彼らは国民の貯蓄を、銀行預金や保険商品を通じて預かっており、これを運用しています。それが買いにまわるということは、間接的に国民の貯蓄が国債の購入にあてられるということです。となると、国民の貯蓄額が国債発行残高を大きく上回っている限りは、市場における国債の消化が困難になるという事態は考えにくいわけです。
 日本刻全体のバランスシートを考えたとき、バランスシートの債務の側には国債、すなわち政府の債務があります。そしてバランスシートのもう一方、債権の側には、国民の貯蓄があります。
 日本の家計の貯蓄残高、つまり、金融資産は、およそ1400兆円から1500兆円の間といわれています。
 一方で国債の残高は、短期の借入金まで入れても860兆円から870兆円です。それ以外では政府系機関の発行する債券について国が保証している部分がありますが、これを加えてもおよそ900兆円とされています。
 ですからバランスシート上ではまだ500兆円ほどの債務超過なのです。
 国全体として債務超過であるということは、官民合わせてそれだけの対外債権を持っている国なのです。
 ここでよく聞かれる批判が「国民の貯金をアテにした国債発行はいかがなものか」というものですが、これまで国債が市場で消化されているということは、市中に国債を買い求める需要があるということです。
 実のところ、継続する不況下で投資先の見当たらない資金が国債のかたちで国に投資されているわけです。 







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Last updated  2011.05.04 11:52:36
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