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2011.06.05
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カテゴリ: 気になる本
インターネットを通じて「国際共通語としての英語」を認めるに至った大使であっても・・・・
反米のスタンスには“ぶれ”はないのである。

「日本語は亡びない」を著した金谷さんは、アメリカも英語も嫌いな様子であるが・・・・
この反米スタンスは、日頃からカナダでフランス語を話している関係で培われたものと思われます。
(もっとも、いまどきアメリカが好きという人は少ないのかも)

いずれにしても「日本語は亡びない」は、攘夷、開国と派閥を問わず、英語が嫌いな人にお奨めの本です。

「日本語は亡びない」金谷武洋著、ちくま新書、2010年刊

<水村美苗『日本語が亡びるとき』を読む>p12~14
 作家の水村美苗氏が評論『日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で』を上梓した。
バイリンガルの作家として、英語の公用語化を推進する意図はない。インターネットを追い風に、強まる英語の覇権から「日本語をいかに護るか」を訴えた、憂国の書だと語る。(読売新聞、2008年11月7日付)

 尾崎真理子の書評の冒頭である。「英語の覇権」「憂国の書」などの言葉に作家水村の危機意識が明らかに窺える。その心情は共感できるものの、カナダの仏語圏ケベック州に住む私にはやはり腑に落ちないのである。本書評の中で、水村美苗はこう応えている。
 中途半端な国民総バイリンガル化を求めるより、少数精鋭の二重言語者を育て、翻訳出版の伝統を維持する。作文を書かせるより、古典をたっぷり読ませる教育を積む。それが日本語の生命を保つ現実的な方策。もちろん小説家は密度の高い文体を全力で築く。さもなければ日本語はやがて亡びてゆく。私たちは分かれ道に立っています。


 英語公用語論などに辟易していた私には、この引用文の前半は大いに賛同できる。英語を公用語にするなどは、まさに亡国の思想だ。さらに言えば、英語を小学校から始めることも私はまるで賛成できない。もっともっと日本語を、そして漢字を教えるべきであることを私は思う。
 しかし後半に関しては、ちょっと待ってください、と言いたい。日本語はそれほど存亡の危機にあるのだろうか。実は国際交流基金が5年ごとに行っている「海外日本語教育機関調査」の2006年の統計によれば、話はおよそ逆方向で、少なくとも外国語として学習される日本語は未曾有の大ブームを迎えているのである。
 手元にある2006年度調査結果によれば、日本国外における外国語としての日本語学習者は133ヶ国・地域で297万9820人にのぼっている。もちろん過去最大である。1979年から2006年の間に、機関数は11.9倍、教師数は10.8倍、学習者数は23.4倍に増加している。この調査は主に学校教育を対象としていて、テレビやインターネットでの学習者や、日本国内の学習者を含んでいない。それらをすべて合計すれば大変な数となるだろう。もはや日本語は日本列島で日本人にしか話されない「閉ざされた言葉」ではいられなくなった。
 私の奉職するモントリオール大学もその通りで、学生数は毎年増加する一方だ。教え始めた22年前には25人ほどだった1年生が、今では軽く100人を超える。日本語は、間違いなく重要な国際語の一つとなっており、日本国外の日本語文法に関する国際会議などでも、かっての学習者同士が立派な日本語で高度な質疑応答を展開する光景などは当たり前の時代となった。
『日本語が亡びるとき』は、外国語としての日本語を問題にしているのではないと言われるのであれば、先に引用した尾崎の書評にある「インタ-ネットを追い風に、強まる英語の覇権」と矛盾する。ご存知のように、インターネットで使われる英語の多くの部分が外国語としての英語によるものだからだ。



<「神の視点」の怖さ>p78~80
 スペイン語やイタリア語では今でも主語が義務的ではない。人間中心に変わったのは英仏語など西洋語の方であり、日本語をふくむ世界中の大半の言葉はいまだに自然中心の構造をしていることはもっと知られていい事実だろう。ことに現代英語は西洋語の中でも突出しており、構造そのものが唯我独尊としか思えない言語となってしまった。こういう言語を世界の標準にされるのは平和共存を目指すべき地球の将来にとって大変困ったことである。自分の言葉だけでちゃんと生活できる日本で、英語を第二公用語にしようとする議論など唖然とするばかりだ。

 英語話者の視点が今や地上を離れて上空高く舞い上がり、不動の「神の視点」を持つに至ったのも、実はその結果である。かくて、今や英語の基本構文は他動詞構文SVOとなった。先で述べたように、日本語なら「好きだよ・愛しているよ」で十分なところを「I love you」と全要素を言わないと文になれないのは、英語の構文がそこまで硬直してしまったからである。日本語の話者の視点は、いまだに地上に留まっているにもかかわらず。
 状況を高みから見下ろす「神の視点」が特に恐いのは、他動詞構文の型が、英語話者の発想や行動に影響を与えると思われるからである。他の要素との関係で自分を捉えるのではなく、状況から切り離した絶対的な「私」を考える傾向が英語話者に強いのもこのためであろう。『バカの壁(養老孟司)』がベストセラーになったが、英語話者の前に立ちはだかる「バカの壁」がもしあるとするなら、それは何よりも基本構文のSVOであると思う。
(中略)
 かって泉井久之助が『ヨーロッパの言語』で喝破したように、現代英語を標準にして西洋の言語世界を考えることすらがすでに大きな誤りであるのに、いわんや日本語という東アジアの言語を「主語」などという現代英語文法で記述する試みは、京都の苔むした庭園の真中にディズニーランドの噴水を作るような悲劇的な愚行であろう。明治維新以来、「主語」の呪縛から自由になれない学校文法は「第二英文法」(三上章『現代語法序説』1972)のままである。
 かって亀井孝はこう述べた「シンタックス(構文)こそ、意識下の思想の鋳型である」。我々は、今、この亀井の言葉を噛み締めなくてはいけない。 



<主語という幻想へ反論する>p89~91
 かって橋本萬太郎という言語学者が指摘したように、日本語は一般言語学に大いに寄与できる言葉なのだ。一つだけ例を挙げれば、私の専門でもある言語類型論分野では、他動詞構文の語順から、英語はSVO言語、日本語はSOV言語であるとされている。
 だが、日本語や韓国・朝鮮語の文法家はこれに断固反論すべきである。日本語には明らかに主語がいらないのだから、SOV言語などとはとても言えない。補語をCで表してCV言語とするならばまだしも、英語を中心とする現在の言語学が「普遍文法」としてS(主語)を語るならば、われわれは日本語という具体例を挙げて大いに反論すべきで、そうした努力こそが、「世界語への寄与」(三上章)となるのだ。
 日本の言語学者の多くはそれとは逆の方向で、「普遍文法」という美名の下にチョムスキーが提唱する生成文法などでせっせと日本語を記述しようとしているが、誠に寒心に堪えない。生成文法はせいぜい英語学、しかも「現代」英語学にすぎないものだ。そもそも古英語の時代にはSOVが基本語順だったし、さらに遡れば主語などなかったのである。
 例えばシェークスピアに、文末を「meseems」という動詞で閉じる文が見られる。これは現代英語ならば非人称主語(It)をわざわざつけて「It seems to me」となる構文だ。それがさらに進んで、今では「I seem to catch a cold(風邪を引いたみたいだ)」のように「私」を主語とするSVO化が見られる。しかし、「meseems」で終わる文には本来、主語はなかった。主語が普遍的であると言うためには、「いつでもどこでも」それが言語記述に不可欠でなくてはいけない。少なくとも日本語や韓国・朝鮮語に不要なばかりか、肝心の英語にさえ昔はなかったという状況では、主語の「普遍性」など笑い話である。
 地球上には数千の言語があると言われる。だがパルムターという学者によれば、主語がないと文が作れない(主語強要)言語はたったの八つしかないのだ。英語、フランス語、ドイツ語、オランダ語、デンマーク語、スウェーデン語、ノルウェー語、ロマンシュ語だが、最後のロマンシュ語はやがて亡びるだろう。そうなると「主語言語」はたったの七つとなる。フランス語を除くと残りはすべてゲルマン語族の言葉である。人口で言えばこれら八言語を母語にする人たちは地球全体の10%しかいないのである。
(中略)
 日本語など多くの言語にとって「主語」という文法概念は幻想であり、呪縛であると言ってよい。



<日本語は閉ざされた言語でいられない>p104~105
 日本語の事実をまったく反映しない学校文法。その不備は日本の生徒に「国語嫌い」を生む程度で実質的被害を生む事がなく、それが明治期に(アメリカのウェブスター辞典に記載された英文法を日本語に適用した)大槻文法を経て、現行の学校文法である橋本文法へと学校文法の100年にわたる長寿を保つ原因ともなった。橋本文法というのは、「何が何だ」「何がどうする」「何がどうだ」という基本文において、「何が」にあたるのが主語だというものだ。それでいて、「田中さんは医者です」などという例文を出すものだから、「ハとガの違い」は何か、という擬似問題を必然的に生んでしまうのである。もうそろそろ分かりそうなものだが、日本では学校文法は一向に変わらないようだ。日本語に主語はいらない、と私は声を大にして叫びたい。
 日本語を外国語として学習する者がこれだけ増え、いわゆる日本語の国際化時代が到来した現在、もはや日本語は「閉ざされた言語」ではおれないのである。同じ日本語を扱っていながら、外国人向けの「日本語文法」と日本人向けの「国語/学校文法」の内容が隔絶しているのはどう考えても尋常なことではない。明治期に、特に文学者により「言文一致」がなされたが、21世紀初頭の今は、日本語/国語一致運動を推進したいものだ。そのためにも学校文法を一日でも早く「100年の誤謬」から解き放つ必要がある。






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Last updated  2011.06.05 15:23:17
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